読むと聞く
かれこれ三十数年前になるだろうか。小林秀雄の講演が次々とカセットになって売り出された。そのうちの5巻が学生達との質疑応答だった。足掛け十余年にわたる記録である。僕はひと通り発売とともに買い興味をもって聞いたものだ。学生がどの様な質問をしているのか、それに対し如何なる答えをするのか。全部で何人の学生が発言したのか数えてはいないが、質問する学生の声が大変不安定で失望したのである。ものを知らないのは一向に構わない。己に自信がないのも当然である。ただ、質問自体がいかにも無理やり捻り出したとでも言おうか、その人の心の底からの疑問になっていないのが声から判る。声は嘘をつけないものだと痛感したものだ。その中でたったひとり声のトーンに無理がなく、大学での授業に対する疑念をぶつけている人がいた。今はもう80歳を超えているだ...読むと聞く
2022/08/03 20:17