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猫丸邸騒動記 https://nekonumanekomaru.hatenablog.jp/

異感覚小説「流れ島流離譚」連載中!猫丸による 小説、イラスト、コラム、書くこと読むこと周辺のブログ

「流れ島流離譚」(ながれじま・りゅうりたん) 突然島流しにされ ついた島にはあやしい猫影が!? 知らない感覚を得てゆく不思議さをファンタジー的世界で書いた小説です

猫沼猫丸
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2015/03/27

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  • 流れ島流離譚 11

    自分の住む世界のすべてを客観的に見通したければ高いところへのぼればいい。町外れの丘、町で一番高い塔。そんなものがなければ、飛行機に乗るなり、翼をつけてジャンプするなりどうにかして。 確かそんなことを鼻侯爵が言っていた。「ジャンプするっていうのは、無理があるな」 思わず口に出せば、「ほほう、飛び降りますか、ここから」 と、とんちんかんな答えをくれるのはもちろんシマナガシで、約束通りお茶を入れてもらい、いつしか語り合っている。 窓の外は笑ってしまうような景色である。「絵葉書のような」という表現があるが、絵葉書の絶景を真似て子供が7色くらいのクレヨンで描いたような、異様に鮮やかな景色がここにある。青…

  • 焼いて食う

    「いっそのことあいつ、焼いて食ってやろうと思うんだ。腹立つから」「何の話」「だからあいつだって、シノブ」 人をバーベキューに誘うなり、冬実は物騒なことを言う。「さすがに丸ごと焼くと気味が悪いし、だいたいみんなにバレちゃうでしょ。まずはバラバラにしないとな。ねえ、手伝ってよ」「いやだよ」 夏に生まれたのに冬実とは、両親が冬の情緒を愛してつけた名前なのだろうが、やはり生まれた季節は体を表すのか。その名との、しみじみするほどの違和感が、長く付き合っても毎度抜けないのがこの冬実という人だ。午睡の後にわざわざ熱いお茶を飲むような、気だるい夏が似合う。海へ行こう、水着になろう、ビールがうまい、という夏では…

  • 流れ島流離譚 10

    先導してくれるのかと思いきや、ふかふかした腕をしきりに上下に動かし、「どうぞ、どうぞ」と梯子の上を指す。 シマナガシのことだ、半分くらい登ったところで梯子がぐらぐらゆれるだの、上から蛇のおもちゃが落ちてくるだの、幼稚なからくりを仕込んでいるかもしれない。疑いを込めて湿った目つきでじっと見ていると、「いやだなあ、変ないたずらなんかしませんよ」 妙に大きく明晰に言い切るのだからますます怪しいが、終いには諦めたらしく、「しょうがないなあ」と梯子を登り始めた。 ぱたん、ぱたん、と長い尻尾を左右に揺らしながらシマナガシの後ろ姿が滑らかに上昇してゆくのも妙な眺めで、普通の猫ならば梯子など登りもしないだろう…

  • 流れ島流離譚 9

    長い階段だった。 最初は気づかないほどの兆候だった。 それが、一段一段踏みしめるうちに、何かに足を取られる感覚が、いよいよ強くなる。 階段がやわらかな素材に変化したような、地面がゆっくりと揺れているような。 そのうちに、前を歩くシマナガシの後ろ姿が、自分自身の背中に思えてくる。そしてもう一人の自分が後ろからついてくる。私の背中を見つめるそのもう一人の自分も、後ろから誰かに、また別の自分に見つめられている。暗く、長い道である。後ろにもう一人、さらに後ろにもう一人、列を辿ればいつの間にか先頭の私に至る、そんな円環を思わせるほどに。 「胎内めぐりのようでしょう」 振り向かぬまま低く発せられたシマナガ…

  • 流れ島流離譚 8

    様々の蔦の葉で彩られた門をくぐるなり、シマナガシが振り向くと、右手を胸のあたりに当て、両膝を軽く曲げながら言った。 「ようこそ」 溢れんばかりの既視感に包まれる。そのバレエの王子か道化者のようなポーズといい、その台詞といい。 「次の世界へ、ですか?」 いよいよこいつも鼻侯爵と同じ「ある種の装置」に違いないぞという確信に武者震いまでしながら尋ねると、シマナガシはぽかんとしている。 「また変なこと言って。ようこそ、ときたら、私の家へ、に決まってるじゃないですか」そしてむやみに何度も深く頷き、「どうも、じっくりお話を聞く必要がありそうですね。ハナチャンとやらについて」と、にやにやする。 ここがシマナ…

  • ベリホで上から通信

    「新居は階段を千段上る」 Fからの新しいメールにはそう書いてあった。 引っ越すことになりそうだとは聞いていたが、千段というのは普通じゃない。もっとも、普通のメールなんか、来ないのはわかっているのだけれど。 「見晴らしがとてもいいので送ろう」 見晴らしがいいというのか、何というのか。送られてきたのは、画面いっぱい、青い絵の具で塗ったような空が切り取られた写真だった。 私は神社で拾ったそれをベリホと呼んでいる。名づけたのは、友達の弥生だ。スマートフォンよりももっと小さくてスマート、ベリースマートフォンだから、ベリホ、というのが命名の理由で、なるほどとても小さい。学生証くらいのサイズで、もっと薄い。…

  • 「流れ島流離譚」もくじ

    「流れ島流離譚」の話数が増えてちょっと読みにくくなってきたので目次を作りました。 タイトルをクリックすると新しいウィンドウが開きます。別のタイトルをクリックすると、最初に開いたウィンドウの中身が切り替わります。 流れ島流離譚について 流れ島流離譚 1 流れ島流離譚 2 流れ島流離譚 3 流れ島流離譚 4 流れ島流離譚 5 流れ島流離譚 6 流れ島流離譚 7 流れ島流離譚 8 流れ島流離譚 9 流れ島流離譚 10 流れ島流離譚 11

  • カスタードプリンのかなしみ

    ここが嫌いなわけじゃない。 ただ、決定的に欠けているものがひとつだけある。それは、命と同じくらい大事なものなんだ。 少年はそう言ってうつむいた。 「花粉症っていうけどさ、私あれ、違うと思うんだ」「花粉が原因じゃないとかそういうこと?」「違う、違う。花粉症が辛いっていうけど、ほんとに辛いのはお前じゃないだろうって話よ」「ええ〜?何言ってんの、だってめちゃくちゃ辛いでしょ。一日中ムズムズするし頭ぼんやりするし、もう春なんか来なくていいって思うくらいだよ。それにさ」「落ち着け、わかるよ。私だって花粉症だ」「あ、そうだよね」「花粉症、って世の中で呼ばれているやつ、ってことだけどね、あくまでも」「あーは…

  • 流れ島流離譚 7

    坂の勾配を感じなくなってきていた。 実際に平らな道なのか、感覚が麻痺してきたのかには確信が持てない。 見たことのない木ばかりで構成された森が続く。せり出してくる枝をシマナガシが時々器用に避け、時々片手でぽきりと折りながら足早に先を行く。どうにかついてゆくあいだにも、しばしば大きな葉の端が顔や腕を撫でたり、引っ掻いたりする。それがいかにも野放図で遠慮のない熱帯植物らしい流儀に感じられるのは決して不快なばかりではないが、不慣れな私はその度にちょっとした疎外感で縮こまって自分を小さくする。 「ここからは秘密の場所なんですよ」 不意にシマナガシが歩みを止め、振り返って言う。 「ここからも何も」 改めて…

  • 流れ島流離譚 6

    鼻侯爵に会った頃、私は毎日、仕事からの帰路を誰かにつけられていた。 その時は、家も間近な、しかし最も暗い道にさしかかっていた。びくびくしながら、ポケットの中の防犯ブザーに手をかけ、早足で道を急いでいたところ、行く手を大きな影が塞いだ。つけてくる気配を背後に感じていたのだから、ワープか、挟み撃ちか、と恐怖も倍増するというものだ。だが、やはり声などは出なかった。 だいたい、現れたものが想定の外の外、大きな猫だったのだ。頭に毛糸で編んだベレー帽をかぶっていた。帽子の真ん中のへそのような部分、つまり頭頂部からは、茎が伸びていて、その先に花が咲いていた。花の種類はよくわからないが、コスモスやガーベラのよ…

  • 流れ島流離譚 5

    猫の顔が近くまで迫ってくる。巨大猫に食べられる最期、というのはまあ悪くもないが、とりあえず今は避けたい展開だ。 考えろ、ここは奇妙奇天烈な世界なりに、何かしらの法則には従っているはずだ。 生えている植物だってふつうだし。 いや、よく見るとふつうじゃないのか?見たことのない木や草ばかりだ。でも、南の島なんかに来たことないのだから植生を知らないのは当たり前か。動物はどうだ。そうか、この変な猫しかいないんだった、今のところ。 鼻侯爵が現れたときはどうだっただろう。私のことを随分よく知っているみたいだったが。 「食べられるの?美味しいの?ねえねえ」 戦略を練ろうというのに、変な猫が邪魔をする。時間切れ…

  • 流れ島流離譚 4

    本当に驚いた時には声など出ないというが、その時の私は、声のかたまりが喉に詰まって息ができないのに近かった。 目の前の木の幹に浮かんだ猫の顔が消えたかと思うと、今度は隣、そのまた隣の木に。そして、『ふしぎの国のアリス』のチェシャ猫のように、笑いながら消えてゆく。といっても、猫の表情までつぶさに見えたとは考えにくい。笑った気がしただけかもしれない。 この後、どんなことが起こるのだろうか。島流しにありそうな災厄として、海に落ちるだの、穴に落ちるだのの他に、蛇に噛まれる、食べ物がない、あたりまでは想像できたが、そういう種類のことではないのかもしれない。やはり、とんでもないところへ来てしまったようだ。 …

  • 百年の読書

    百年という名の書店に行った。 吉祥寺にある古書店であるが、久々の古書店の雰囲気がとても心地よかった。 本がたくさんあるのは嬉しい。本が大好きだ。世の中にこんなにもたくさんの本がまだあるかと思うとぞくぞくしてくる。そんな感覚が、実に久しぶりだった。 というのも、うちの近所では古書店が続々と閉店しているし、新刊書店は、「すごく売れている本」に割くスペースばかりが年々増えていく印象だ。 売れているからだめなどとは思わない。多くの人が求めているからにはその本に何かしら特別さがあるのだろう、と手に取ったりもする。ぱらぱらと読んでみて、自分なりにその「特別さ」を見つけ出してみる。それは面白い体験だ。 そう…

  • 流れ島流離譚 3

    とにかく、鼻侯爵を追うことにする。 肩を組んで見下ろす巨人たちのような崖は、さすがによじ登るには厳しそうで、とかげや虫なら楽々と登るだろうなあ、とあまり役にも立たない想像をする。正確には、人間であっても身が軽ければ登れる高さだろうが、私の運動神経では絶望する他ない。 ふと思い至り、周囲をきょろきょろ見回す。 では、とかげにしてくれようか、という声が聞こえてきはしないかと気になったからで、まだこの世界への信頼とでもいうものに圧倒的に欠けているのだった。立っていて爪先がむずむずと落ち着かないのも、足元の何の変哲もない土にさえ欺かれている気がするからだろうか。しかしこの座りの悪さには覚えがある。船上…

  • 流れ島流離譚 2

    あたたかく湿り気のある風が頬にかかり、助かった、南の島だ、という安堵で、知らず知らずのうちに緊張で固まっていたらしい体がふっとゆるむ。 何しろ寒がりである。氷に閉ざされた極域の島になど送られたらどうするつもりだったのか、今さら自分の向こう見ずに呆れるばかりだ。 目の前が青一色である。海だろうか、いや、空の色だ。壁に寄りかかって上を向いていたことに気づく。よく見れば人工の壁ではなく、そう高くはない崖だった。足元には流木だの海藻だのがごちゃごちゃと積み上がっており、漂流物の吹きだまりのような場所らしい。私も漂流物のひとつというわけだろう。 次第に周囲が明瞭に見えてくる。砂浜の上、入り江のように低い…

  • 流れ島流離譚について

    こんにちは。猫丸です。 人知れずひっそりとおかしな話を書きはじめました。昨日かおとといあたりに、どこかの世界で本当にあった物語。それが「流れ島流離譚」です。しばらく続きます。 今これを読んでいる方は、奇跡的に低い確率でこちらへ漂着されたはずです。奇遇に感謝いたします。さらに、何だろう読んでみようかなと思った方、ありがとうございます。よろしくおつきあい下さいませ。

  • 流れ島流離譚 1

    島流しにしてくれよう、それが言うので望むところだと私も応じた。 早まったかとすぐ後に思ったが、すぐだろうが三日後だろうが後にまわっては手遅れであるし、島というものが好きなのだからどうもあまりひどい目に遭う気がしない。 ふふふふふ、と不気味な笑い声が聞こえてきてあたりが暗くなった。 気づけば知らない風景が広がっていた、というのを正直、予測していたのだが、実際には暗闇がずいぶんと長く続いた。時々、あれの笑い声が聞こえる気がしたが、空耳なのかどうなのか、もはやわかりはしない。仕方がないので来し方を振り返ることにした。いったいどういうわけでこんなことになったのか。 どう考えても不可解な存在に遭遇したの…

  • 秋分の日

    今週のお題「秋の気配」 明日、いや日付変わったので今日は秋分の日です。 家にいる時は素足で、ビーチサンダルのような鼻緒のついたスリッパをはいていましたが、そろそろ寒くなって、靴下をはかないと足が冷えてきます。靴下がないよりあった方が暖かいのはもう絶対確実ではあるのですが、靴下をはくことが寒さのはじまりと結びつきすぎて、靴下の中に秋の涼気がつまっているように思えてしまう。半年ぶりのたくさんの涼気や寒気がたんすにつまってます。

  • 猫道ことはじめ

    猫沼猫丸邸へようこそ。 私の名前は、地上最も美しいと思われる、あの生物からもらいました。 猫なんぞ長く人間に飼いならされてきた家畜に過ぎまいなどと言うなかれ、自分のルーツや生まれつき、境遇に何か意味を持たせようなどとせせこましく考えやしないのが猫の素晴らしいところ。 私も地上につながれながら、しかし地上に蒔かれた種の一粒としてだけでなく、想像や妄想の翼で少しの間飛ぶことのできる有翼の猫になってやりたいものです。

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