散髪について語るときに僕の語ること

散髪について語るときに僕の語ること

あした髪をきる。三日目に予約をしてから,ずっと憂鬱だった。今日は前日だから,特に憂鬱で,朝起きた瞬間からずっと頭の奥で,「あした髪をきるんだ…」という思いがちらちらとしていた。 俺は髪をきるのがとても苦手なのである。 第一に,人に髪を触られるのが不快である。顔と顔の距離が近くてこわい。顔の近くでハサミをちょきちょきやられるのもおそろしい。 第二に,俺のような人間と美容師のような人種との会話がはずむわけがない。向こうも商売であるから,なんとか会話の花をさかせ客を楽しませようと話をふってくるのだけど,俺は期待にこたえることが一切できないので,美容師のこの涙ぐましい試みが実を結ぶことはまずない。すな…