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大橋むつおのブログ
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2015/01/11

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  • 鳴かぬなら 信長転生記 84『絶体絶命 茶姫と共に』

    鳴かぬなら信長転生記84『絶体絶命茶姫と共に』信長三国志を出ることだ。それしか馬を疾駆させている理由は無い。曹素が勅命を読み上げて呉の討滅を命じてしまった現在、茶姫のとる道は勅命通りに呉を奇襲する以外には、拒絶の意思を自死をもって伝えるしかない。勅命に反したとあっては、たとえ魏王曹操の妹であっても命は無いのだ。曹操は残虐非道の王だ、骸になった茶姫をそのままにはしない。首を切って洛陽の城門に晒すだろう。バラバラにされた体は城壁に吊るされて、カラスや獣たちが喰らいつくすままにする。三国志における裏切り者の末路は惨い。であるから、茶姫を強奪するようにして馬を走らせる。そのことを承知しているから、妹のシイ、いや、もう市でよいだろう。市も戦国の世に翻弄されて、この転生の世界にやってきた女なんだからな。茶姫を救った時...鳴かぬなら信長転生記84『絶体絶命茶姫と共に』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・072『利根4号機・1』

    漆黒のブリュンヒルデQ072『利根4号機・1』波しぶき……え?意識がクリアーになると船の上だと言うことが分かった。振り仰ぐと、頭上に電柱のようなものが二本のびている。振り返ると、軍艦の大砲だと分かる。わたしは、軍艦の前甲板の砲塔の前に立っている。波浪がきつく、大きな軍艦のようだけど結構揺れる。無意識に足腰で揺れをいなしているのは、数多くの戦場で馬を乗りこなしてきたからだろう。右舷に向かって数歩出ると、同じ15サンチの砲塔が背負式に二基……いや、二番砲塔の後ろにさらに二基。その後ろに小振りな艦橋が精悍な騎士のヘルムのように座っている。艦橋の後ろには演奏直前の指揮者が伸ばした腕のようにマストのヤードが張りだし、その後ろには蹲ったような煙突が真後ろに煙を吐き出し、煙の合間に後部マストに翻る旭日旗が窺える。艦橋や...漆黒のブリュンヒルデQ・072『利根4号機・1』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・20『ブツを探しながら……』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)20『ブツを探しながら……』三つの茶封筒を回収した俺は、部屋に戻って中身を点検する。茶封筒は、三つとも手触りからDVDとかのパッケージが複数入っているのは確か!一つ目を開けて「これだ!」と思った。パッケージの絵がいかにもアニメってかラノベの表紙っぽく見えたからだ。シグマは、偽装のためブツをアニメのパッケージに入れている。勢いのまま開けようとしたらセロファンのラッピングがされたままで、どう見ても新品だ。ん……『ご注文はウナギですか?』ラノベっぽいタイトルの下にウナギを追いかける男女のキャラ。その下に小さく《東京私立大学連合》と書かれている。ウ:うまい進路の見つけ方ナ:なんでもチャレンジが道を開くギ:ギブアンドテイクの学生生活どうも、東京私立大学連合というところが高校生...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・20『ブツを探しながら……』

  • 銀河太平記・121『』

    銀河太平記・121『メアリ・アン・アルルカン』心子内親王小型機は、いわゆるシャトルという機種で、衛星軌道まで上がると母船に収容される旧式タイプ。『あれ?』「どうかしたの、サンパチさん?」『母船の反応が消滅でござる』「え?」『扶桑の貨物船が待機していて、それに乗り込む算段になっておったのでござるが……その反応が消えてしまってござる』「そんな……」『目視確認するでござる』キャノピーのシャッターを開けて目を細めるサンパチさん。光学視力は人間の二十倍はあるから、貨物船ほどの大きさだと千キロ離れていても視認できるはず。「見えた?」『見えぬでござる、半径1000キロ以内に10センチ以上の物はデブリすらござらぬ……』ガクン追突されたような衝撃があって、シャトルは前方二時の方角に引っ張られていく。「な、なに!?」『牽引ビ...銀河太平記・121『』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・071『駅前の時計屋』

    漆黒のブリュンヒルデQ071『駅前の時計屋』立ち眩みがして脚を踏ん張った!目の前が階段なのだ、わずか三段だけど踏み外せば危ない。危うくステンレスの手すりに掴まって体勢を立て直す。えと……クロノスを探して……斜め上の時空へ……向かったはず……ここは豪徳寺の駅前?改札を出て、真っ直ぐ行けば段差もなく道路に出られたのに、わたしってば、わざわざ右に寄ってわずか三段の階段に向かったんだ。振り返ると改札横のサンマルコカフェ……え?わたしってばサンマルコカフェに入ってたの?そう言えば、口の中に390円均一のパフェの風味が残ってる、ショーウィンドウの上段には15種類のパフェがエレクトリカルパレードの山車のように並んでいる。これって、制覇してみたくなるわよね。わたしの食べたパフェってどれだったかな……チョコバナナ?チョコイ...漆黒のブリュンヒルデQ・071『駅前の時計屋』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・19『神楽坂高校の茶封筒』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)19『神楽坂高校の茶封筒』今の俺は二つ問題を抱えている。一つは、妹の小菊がこともあろうに、俺の高校を受験したこと。当たり前の兄妹なら妹が同じ学校に進学したって、たいした問題じゃない。――え、おまえと同じ苗字の子、おまえの妹か?――学年はじめに、ちょっと噂になってお終いだろう。俺んちの妻鹿という苗字はめったにない。苗字が同じなら兄妹と思われるのが自然だろうからな。ちょっとハズイけど、血を分けた妹の為なら、そのくらいのことは辛抱してやる。普通人間を目指す俺は、世間一般の兄貴がしてやることや我慢することについてはノープロブレムだ。小菊は、俺に対して口を利かない限り、ミテクレは可愛いし素行も悪くない。いや、同世代の女の子としては様子のいい方だ。俺んちは、ひい祖父ちゃんの代ま...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・19『神楽坂高校の茶封筒』

  • 魔法少女マヂカ・285『八丈島沖空中戦・1』

    魔法少女マヂカ・285『八丈島沖空中戦・1』語り手:マヂカ北斗(特務師団高機動車)は欠員のまま大塚台公園の基地を飛び立った。さすがに、位相変換もせずに飛びたったわけではないが、機関士(友里)、機関助手(ノンコ)、砲雷手(清美)の三人を欠いていては実力を発揮できない。ブシューー!「こら、ベント早すぎ!」「手順に間違いはない!きちんとテイクオフの5秒後だ!」安倍隊長の注意に文句で返すブリンダ。「位相閉鎖が完全じゃない、漏れた蒸気がリアル空蝉橋にかかってる!」「下はJRだから、誤魔化せるだろが」「今どき都内でSLなんか走らん!サム、パルス砲試射」「アイ、マム!」ズビーーーン!!!「フルパワーで打ってどうする!」「ソーリー、仕様が第七艦隊とちがうもんで」ズゥイーーーーーン「ブースト、第二戦速、進路八丈島。ブースト...魔法少女マヂカ・285『八丈島沖空中戦・1』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・070『ゼウスとポセイドン』

    漆黒のブリュンヒルデQ070『ゼウスとポセイドン』白い虚空と言うのはやっかいなもので、上下左右があやふやだ。堕ちていると思ったら、瞬間で上昇したり左右への方向移動になったり、でたらめな軸を中心に回転したり、あるいは、その複合運動であったり、人間なら耐えられない動きをしている。例えるなら全自動洗濯機のドラムに入れられ、そのドラムごとナイアガラの滝から落とされたような按配だ。何十秒か何時間か、判然としない時間が過ぎると急速に落ち着いて来て、足の裏が地面に付いている感じになって静止した。ここが次の異世界か……?――すまん、ちょっと立ち寄ってもらった――脳みそに直接語り掛けてくる声がした。振り返ると懐かしい顔が二つ、第一印象は――老けたなあ――だ。「ゼウス……そっちはポセイドンか?」二人は遠縁にあたるギリシアの主...漆黒のブリュンヒルデQ・070『ゼウスとポセイドン』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・18『メガトン級』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)18『メガトン級』ロシアが戦争を始めた時と近所の幼なじみが宝くじの一等を当てた時はメガトン級にぶったまげた。でも、それは、あくまでも俺の外側で起きたメガトン級で、俺の生活が脅かされるようなことではない。ま、世界はワンダーランドなんだと、池上彰さんの特番やら近所の噂で面白がっていればいい。しかし、とうとう俺の平穏な日常を根底から覆すメガトン級が起こってしまったんだ!話は昨日のことだ。「あ、お弁当忘れてる!」朝の食卓でお袋が叫んだ。「学食とか開いてないのかぁ?」新聞から目も離さないで、親父が呑気に言う。「入試の日に食堂なんか開いてないわよ。お父さん、出勤の途中で届けてやってくれない?」「だめだよ、仕事に遅れる」お袋は無意識に松ネエの席に目をやった。松ネエは、大学入学のな...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・18『メガトン級』

  • くノ一その一今のうち・15『社長室を盗み聞き』

    くノ一その一今のうち15『社長室を盗み聞き』『吠えよ剣!』の仕事から帰って来ると、金持ちさんがオイデオイデをしている。「なんですか?」開き直ってツアー旅行の色々をググっているのかと思った。モニターの画面にはそういうのが並んでいたからね。「あ、もう一個次だった」Escをクリックすると、社長室が映し出される。社長室には、百地社長と、テーブルを挟んで割腹のいいタヌキじじい。こっちに後頭部を向けているけど、忍冬堂のおばちゃん。「これ付けて」渡されたイヤホンを付けると、オッサン二人の話声。おばちゃんは秘書みたいに静かに聞いている感じ。社長:「もう少し、うちで鍛えてからと思ったんですが」タヌキじじい:「あの方ご自身が気に入っておられる、専属にして問題はないと思うんだが」社長:「代役や身辺警護なら、今のままでも十分だと...くノ一その一今のうち・15『社長室を盗み聞き』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・069『蚕食』

    漆黒のブリュンヒルデQ069『蚕食』無数にある異世界の中で軸になっているのが、儂の世界とヒルデが飛ばされた世界だ。父、オーディンが広げた両手の先を異世界の両極に例える。「この両の手の平の間に、数多の異世界があって、両極が不動であることによって全体が安定する」「今は、その両極が不安定ということなのか?」「分かっているだろう、おまえが戦死者を選ばないものだからラグナロク(最終戦争)の予定が立たん」「あらかじめ戦死する者を選ぶなんて、わたしにはできない」「今はまだいい、ヴァルハラ一つなら、しばらくは儂一人でなんとかする。ヴァルハラ以上に厳しいのが、おまえが居る世界だ」「ああ、まだ名前を取り戻してやらなければならない妖が無数にいる。他に訳の分からない魔物とかも出始めているしな」「そんなヒルデには酷な話なんだが、周...漆黒のブリュンヒルデQ・069『蚕食』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・17『クリアの朝』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)17『クリアの朝』気が付いたら朝になっている。カーテン越しでも朝の日差しは暴力的だ。夕べの……明け方近くまでの感動をサラサラと蒸発させてしまう。着替えを抱えて風呂場に直行。風呂場の人工的な光りと温もりなら感動は余韻となって頭や体にわだかまってくれる。風呂場の鏡が湯気で雲ってシットリと、あたしの裸を映す。普段、自分に関しては裸の体はもちろん、顔だって見ない。信じられないかもしれないけど、鏡の自分を見なくても顔を洗えるし歯も磨ける。三月に一度いく美容院でも鏡の自分は見ないんだ。電車に乗っていて、不意にトンネルに入った時なんかに、ガラスが鏡のようになって、暴力的に自分の顔が迫ってくることがある。空気が圧縮されて――ドン――というエフェクトまで付いて、本当に不意打ちの攻撃。...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・17『クリアの朝』

  • ピボット高校アーカイ部・19『貫川(つらぬきがわ)から』

    ピボット高校アーカイ部19『貫川(つらぬきがわ)から』要の街を南北に貫く一級河川を、その意味の通り貫川(つらぬきがわ)という。あんまり当たり前すぎでそのままの名前なので、要でなくとも日本人の半分はイメージしながら読めるだろう。貫川には幾本も東西への支流が繋がり、その支流も支流ごとに南北に伸びる水路によって結ばれて、要の街が水運によって開けた街であることが偲ばれる。その支流の一つにかかっているブリキ橋、そのたもとに螺子先輩と立っている。プッペでメンテが終わった時に約束したツアーだ。とりあえず、今週いっぱいはやるぞと先輩は意気込む。「『螺子を裸にするツアー』の一番は、やっぱりここだ!」「あ、ただのツアーでいいですから(^_^;)」「そうか、じゃあ『螺子のヌードツアー』だ」「変わってませんから(-_-;)」「じ...ピボット高校アーカイ部・19『貫川(つらぬきがわ)から』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・068『武笠の家が無い!?』

    漆黒のブリュンヒルデQ068『武笠の家が無い!?』食われてたまるか!間一髪のところでショコラモナカを避ける。不意を突いたわりにはショコラモナカにスピードは無い。チョコの飛沫がピピっと頬にかかる。そうか、焼きすぎて中身のチョコまで溶かしてしまったのか。祖母がタイマーを掛け間違ったか……しかし、それが油断だった。避けたところを、もう一つのショコラモナカが迫って来る!グワーーーッ!!両腕を顔の前でクロスして目を庇う。まともに溶けたアイスやチョコを被っては目をやられる、目さえ開いていれば的確な反撃ができる。左へ飛びながら体を二回転させて着地、感覚的には開いているサッシから飛び出て庭に着地するはずだ。ズサ!確かに土の上に着地した。よし!振り返ると……家がない。え………………………………………………………………………...漆黒のブリュンヒルデQ・068『武笠の家が無い!?』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・16『キレた小菊』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)15『キレた小菊』バン!!食卓の上のあらゆるものが跳び上がった。祖父ちゃんも親父もお袋も松ネエも俺も、その衝撃に固まってしまった。「ごちそうさま」蚊の鳴くような震え声で言うと、小菊は二階の自分の部屋に駆けあがっていく。タタタタタ「あいつ!」俺は、小菊の無礼にブチギレて階段を駆け上がる。ダダダダダバタン!あと一段のところで、菊乃の部屋のドアが乱暴に閉まる。静かに三つ数えてから残り一段を上って菊乃の部屋のドアの前に立つ。ノックしかけた右手のグーが停まってしまう。泣き声と共に呪いに似た絞り出すような声が聞こえてきたからだ。――どーせ、どーせ、小菊はなんにもできないよ、なんにもできないダメな子だよおおお!――俺は右手のグーを下ろして、そのまま一階にもどった。「しばらくそっと...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・16『キレた小菊』

  • せやさかい・324『初めてのお寺』

    せやさかい・324『初めてのお寺』古閑巡里お寺に足を踏み入れるのははじめて。遠足で、いくつかのお寺には行ったけど、感覚的には観光地。はっきり覚えているのは、鎌倉と奈良の大仏。そう、大仏なんだ。ちょっとイケメンと思ったのが鎌倉の大仏。デッカイと思ったのが奈良の大仏。両方とも大仏には感心したけど、お寺の名前は憶えてない。他のお寺とか神社は、ほとんど憶えていない。うん、普通の高校生なら、お寺って、そういうものだと思う。「え、畳敷きなの?」さくらの説明を聞いて、ちょっとビックリ。奈良の大仏も鎌倉の大仏も、忘れた他のお寺も床は石葺きだったり板張りだったり。本堂が畳敷き、ちょっと新鮮。――食材として生まれてきた命は無い――門の横の掲示板に格言が貼ってある。な、なるほど……ちょっとたじろいでしまう。自分の家に門があるだ...せやさかい・324『初めてのお寺』

  • やくもあやかし物語・150『チカコを捜す・大奥』

    やくもあやかし物語・150『チカコを捜す・大奥』玄関を上がると和風のラビリンス。板敷や畳敷きの廊下が稲妻のように巡っていて、ゲームの迷宮ダンジョンに差し掛かると投げ出してしまうわたしは、早くも顎が出てしまう。「大丈夫です」アカミコさんは、いくつもある分岐は完全に無視して黙々とわたしを先導していく。「……人が居ないねえ」「チカコさんを探すための捜索モードですから、捜索対象以外は見えない仕様にしています。見えるようにします?」「あ、ちょっとだけ」昔のわたしなら、必要のない人には、なるべく会わないようにする。でも、あやかしとの関りが増えたせいか、ちょっとぐらいなら、この目で見てみたいって思ったりするんだよ。「承知しました」アカミコさんが応えると、廊下の向こうから、袴姿のお侍さん……なんでか、お坊さんまで歩いてく...やくもあやかし物語・150『チカコを捜す・大奥』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・067『牙をむくショコラモナカ!』

    漆黒のブリュンヒルデQ067『牙をむくショコラモナカ!』バグっちょるみたいじゃ!玉代が立ち止まる。恐れているというのではなく、下手に立ち入ってバグをひどくさせるのを警戒しているのだ。我が家は処理おち寸前のようにカクカクして、家を取り囲む空間はヂヂっとノイズが走っている。「ここで待っていて、わたし一人で入る」「でじょうぶ?加勢ならどしこでもすっじゃ」「外がバグッているぶん、中は意外に平穏なような気がする……とんでもない悪意を感じるんだけど、こちらから仕掛けるのは得策じゃないような気がする」幾たびも戦場を駆け巡った漆黒の姫騎士の勘だ。敵が策略を巡らしている時は、乾坤一擲の打開面が見えるまでは気づかぬふりがいいのだ。「じゃっどん、危なかて思うたや声あげて」そう言って玉代が肩を押してくれたのをきっかけに、門扉を開...漆黒のブリュンヒルデQ・067『牙をむくショコラモナカ!』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・15『俺とツインテールのメイドは同時に驚いた』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)15『俺とツインテールのメイドは同時に驚いた』グラスに半分になった酒をどう表現するだろうか?ノンアルコールでも構わない、質問を受けたキミの好みでいい。A:もう半分しかないB:まだ半分あるこの二つに分かれるだろう。Aは、半分しかないからヤバイと思うネガティブ人間。Bは、まだ半分残っていると思うポジティブ人間。俺はω口のお気楽な奴で、Bと思われがちだがどちらかというとAだ。基本はBのお気楽人間のはずなんだけど、こと定期考査などには、残ってる半分、気を抜いちゃだめだ。と、ひねって思う方なんだ。前半は失敗せずにやれたけど、後半はヤバイんじゃねえかと心配する。まあ、バクチとか賭け事にはのめり込まない性質だ。ちょっと屈折しているのかもしれない。でも、ガチガチの思い込み人間じゃな...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・15『俺とツインテールのメイドは同時に驚いた』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 83『曹素の汚い計略』

    鳴かぬなら信長転生記83『曹素の汚い計略』信長なんで輜重隊が来るんだ(ꐦ°᷄д°᷅)!!?茶姫は激おこぷんぷん丸だ。無理もない、茶姫は銃装した近衛騎兵師団を引き連れ、卯盃(ぼうはい)を出発し、扶桑(転生国)の南辺をかすめて、その後の二日間で魏・呉の国境まで疾駆してきた。それは、銃装した騎兵の機動力・突破力を内外に示すと同時に軍事的に無欲であることを示すためである。万余の騎兵が集まろうと、騎兵だけでは大した脅威にはならない。騎兵一人一人が持っている銃弾は、縛帯に備えたカートリッジに四つ、弾数にして20発余りに過ぎない。銃に籠められているものを含めても25発。射撃すれば1分も持たない。扶桑の南辺をかすめた時に信玄と謙信が物見にきていたが、輜重を同伴しない編成を確認すると、さっさと帰ってしまった。茶姫の意図を理...鳴かぬなら信長転生記83『曹素の汚い計略』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・066『大出井老人と出会う』

    漆黒のブリュンヒルデQ065『大出井老人と出会う』正直言って手が回らない。何がって?ウィルスよ、琥珀浄瓶の奴が日本に残した置き土産。自分の家に関わるものはアスクレピオスのお札で封じたけど、お祖母ちゃんのマイバッグ。そう、日本中の婆さんたちがエコだと信じて懐に忍ばせている怪しげなやつ。市販のもあるけど、年寄りは変に器用だったりして手製のマイバッグというのが流行ってる。お祖母ちゃんはレザークラフトとかが得意で、マイバッグなんてササッと作れてしまって「武笠さん、すてき!」なんて言われるものだから、しこたま作ってあちこちに配ってしまった。それに琥珀浄瓶の置き土産たちが憑りついて東京中に広まってしまった。今日も新宿まで出張って、お祖母ちゃんがまき散らしたウィルス共を退治しての帰り道。「見て、家ん方角に怪しげな気が満...漆黒のブリュンヒルデQ・066『大出井老人と出会う』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・14『今日は数学のテストだ』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)14『今日は数学のテストだ』返事をしてから後悔した。メールだったら即断ってただろう。大勢で受ける教室の授業でも苦痛なのに、マンツーマンの個人授業なんてあり得ないから。マンツーマンなんて、地上100メートルの綱渡りみたい、とても踏み出せるもんじゃない。でも。先輩の電話は声までωなんだ。先輩の従姉さんという女性に教わることが、なんだか渋谷のスクランブル渡るくらいに気軽に感じる。先輩の家も幸いした。普通にリビングとか先輩の部屋だったらどーしようと、先輩の家に着くまでドキドキだった。この角曲がったら到着という時は、もう手の平がシャレじゃなくてアセビチャだ。渋谷のスクランブルは再び地上100メートルの綱渡りになった。でも、通されたのは喫茶店というかスナックというか、お店だった...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・14『今日は数学のテストだ』

  • せやさかい・323『鏡の中の留美ちゃん』

    せやさかい・323『鏡の中の留美ちゃん』さくら人生で一番楽しいこと。それはね、ウフフフフフ……思い出しただけでも幸せの笑みがこぼれてしまう。朝、目が覚めて、いっしゅんハッとする!窓から差し込む陽の高さで、いっしゅん――寝過ごした!――とビビるわけですよ。それが……せや、夏休みやってんわ!そう思い出して、体中に幸せな元気が湧いてくる。おまけに、夏休みは、まだまだ始まったばっかりで、一月後も、まだ夏休みとか思うと、うれしさ百倍!なんせ、ここ二年は流行り病のために、ちょー短い夏休みやったからね。うれしさ千倍ですよ!「もう、いつまで寝てんのよ。朝ごはん食べて、さっさと宿題やっつけるわよ!」留美ちゃんが、呆れた顔で、けど、歯磨きの爽やかな匂いさせながら文句を言う。「せやかて……しみじみとうれしいねんもん」「だいたい...せやさかい・323『鏡の中の留美ちゃん』

  • 銀河太平記・120『那覇空港』

    銀河太平記・120『那覇空港』心子内親王「辺野古から行くんじゃないの?」民宿を出た車は南西に向かっている。てっきり米軍との共同使用の辺野古に行くんだと思った。辺野古は民宿からは北西の方角だから、完全に真逆。「軍の施設を使うと秘密が保てぬでござる」「え、これって秘密なの?」「いい女は秘密のベールに包まれているものでござる」「え?」サンパチさんは誤魔化したけど、意味は分かっている。個人としてのわたしは、並みのハイティーンよりも好奇心が強いというだけのオチャッピーだけど、母から受け継いだ血は、自分自身の未来も運命を自分で決めることを許してはくれない。ホーーーー不覚にもため息が出てしまう。子どもの頃から、人前でため息をついてはいけないという躾を受けてきた。それが出てしまうのは、西之島に来てから、とても自由で充実し...銀河太平記・120『那覇空港』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・065『大出井老人』

    漆黒のブリュンヒルデQ065『大出井老人』人の家に潜り込むのは150年ぶりニャ。明治維新までは佐賀県にあった鍋島ってお大名のお城に居たニャ。何を隠そう鍋島の猫騒動の猫は、このねね子なのニャ。あんまり干渉されたくないので、あのおどろおどろしい化け猫の怪談話をでっち上げ、お城の中で平和に暮らしていたニャ。むろん、本宅は豪徳寺なんだけどニャ、鍋島さんとこが気に入って、豪徳寺には殿様の参勤交代とかに紛れてたま~に顔出す程度だったニャ。それが、今度は門脇さんちの娘という設定で潜り込んだのはひるでと仲良くなったからニャ。門脇さんちは、ひるでの武笠家とは向かい同士ニャんで、とっても便利ニャ。門脇さんちには、あたし以上にネコみたいな啓介というのが居て、たいてい昼過ぎまで寝てるニャ。いちおう兄貴ってことになるんで、ときどき...漆黒のブリュンヒルデQ・065『大出井老人』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・064『アイスの美味しい食べ方』

    漆黒のブリュンヒルデQ064『アイスの美味しい食べ方』『猛犬に注意』と『セールスお断り』の間、大昔の『赤十字社員章』のステッカーの上にアスクレピオスのお札を貼る。ほら、豪徳寺駅前の明日暮医院でもらった役病退散のお札さ。効果はてきめんで祖母のマイバッグだけでなく敷地内に根を生やし始めたコ□ナウィルスが絶滅した。「だけじゃなくって、お祖母(うんぼ)ちゃんが配ったマイバッグにも効き目が出始(ではい)めてるよ!」玉代が安堵の悲鳴を上げた。玉代は、祖母から情報を聞いて、人にあげたマイバッグを調べて回っていたのだ。根が鹿児島の荒田神社の神さまなのでわたしには無い能力があるのだ。お札そのものも対人ステルスになっていて、人には古びた赤十字社員章しか見えていない。「なんで、WHOのマークが貼ってあるのかニャ?」ねね子が掃除...漆黒のブリュンヒルデQ・064『アイスの美味しい食べ方』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・13『』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)13『祖父ちゃんのフライドポテト』勉強し終わった後の飯が、こんなに美味いとは思わなかった。祖父ちゃんが特製のサンドイッチとミックスジュースを作ってくれたのだ。食べているのは、俺と松ネエ、それにシグマ。小菊はいない。「こんなサンドイッチ初めてです」「パブやってたからね、お店の看板メニューだったのよね」「うん、店を畳んでからは初めてだけど、こんなに美味いとは思わなかった」三人ともニコニコ笑顔だ。「ハハ、それは三人の時間が充実していたからさ」そう言いながら祖父ちゃんが入って来た、手には短冊に切られたジャガイモいっぱいのザルを持っている。「フライドポテトつくるんだ!」松ネエはピョンと立ち上がりカウンターの中に。昨日は女っぽくなった松ネエを眩しく思ったが、あの弾み方はオチャッ...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・13『』

  • 魔法少女マヂカ・284『魔法少女はくたびれている』

    魔法少女マヂカ・284『魔法少女はくたびれている』語り手:マヂカくたびれているのは綾香ネエのケルベロスだけではなかった。ゴホゴホ……遅刻して学校に行くと、咳き込みながら階段を下りてくる安倍先生に出会った。「真智香は来れたんだ」「風邪ですか?」「ああ、ちょっとね。調理研のみんなも具合悪いみたい、友里も清美も休んでるし、ノンコはさっき早引きしたよ。サムは異世界人だから来てるけど、真智香は休みだと思ってたよ」「うちの姉も倒れてます」「ケルベロ……綾香さんも?」「ええ、昨日、魔王が治療の為に引き取っていきました」「ああ、あいつは頭が三つで胴体一つだもんな。姿そのものから無理してるって感じよね」「魔王が引き取った時は、普通の黒い子犬でした。あれが元々だとしたら、ちょっと不憫です……」「詰子ちゃんは?」「あの子は元気...魔法少女マヂカ・284『魔法少女はくたびれている』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・12『あ、松ネエ!』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)12『あ、松ネエ!』後悔はしねえが困ってしまった。シグマに「俺に任しとけよ、堂本先生の数学は経験済みだから」なんて言ってしまったけど、俺自身、数学はからっきしだ。ノリスケと並んでの下校中、なにかアテはないかと聞いてみたくなったが、こいつも勉強は俺とおっつかっつ。二人とも知り合いに優等生はいない。思わずため息をついたら「月曜からテストだもんなー」と大局的には外れていない相槌が帰ってくる。まさかシグマの心配をしているとは言えない。「くそ」「ハハ、新作エロゲやりたくって仕方ねえんだろ」「バ、バカ言ってんじゃねーよ」「俺もテスト中に督促したりしねーからよ」ノリスケに罪はないんだけど、無性にムカついてしまう。なんで、こんなに秘密や心配事を抱え込まなくっちゃいけないんだ!家に帰...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・12『あ、松ネエ!』

  • くノ一その一今のうち・14『忍冬十五代目』

    くノ一その一今のうち14『忍冬十五代目』う~~~~ん『吠えよ剣!』の仕事から帰って来ると、金持ちさんが唸っている。チラ見すると、パソコンの画面がチラついたかと思うとツアー旅行のあれこれが出ている。「あ、見られちゃった(^_^;)?」「旅行でもいくんですか?」「あ、まあね、三十路の独身女、たまの旅行くらいしか楽しみないからね」「わたしも、はやく就職して、そういうの悩んでみたいです」「アハハハ」それで、仕事の報告をしようと社長室にいくと、また回覧板を頼まれた。「すまんな、金持ちから『仕事してくれ』って、外出禁止なんだ」見ると、机の上には書類や手紙がいっぱい。まあ、社長が忙しくって経理がツアー旅行の情報をググっているのは、会社が順調で平和な証拠。「了解!」元気よく返事して忍冬堂へ。「順調なもんかい……」回覧板に...くノ一その一今のうち・14『忍冬十五代目』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・063『アスクレーピオス・2』

    漆黒のブリュンヒルデQ063『アスクレーピオス・2』駅前に来ている……と言っても通学途中にある宮の坂駅ではなくて反対方向の豪徳寺駅の駅前。豪徳寺に直近の駅が宮の坂駅なのに、北に外れたところが豪徳寺駅と言うのはおかいしんだけど。そのことは、またいずれ。アスクレーピオスが「駅前で開業医をやっている」というので『明日暮医院』の看板を探しているのだ。「あれ、ここ……?」玉代が見つけたそこは流行らない薬屋があったところだ。「あれ?」ギシギシギシィ……………………ポン!不思議に思っているとギシギシと音がして薬屋の横に『明日暮医院』が現れた。薬屋の隣は不動産屋だったはずだが、不動産屋は『明日暮医院』の隣だ。つまり、一瞬で『明日暮医院』が薬屋と不動産屋の間に割り込んできたのだ。「いや、前々からここにあるんだがな、患者たち...漆黒のブリュンヒルデQ・063『アスクレーピオス・2』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・11『裏閻魔帳じゃねーか』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)11『裏閻魔帳じゃねーか』情報教室を少し行ったところでノートを見つけた。学校なんだから、ノートの一つや二つ落ちていても不思議じゃないんだけど、それはあきらかに教師のノートだ。使用感がハンパではなく、綴じの部分がリングのパッチンになっていて、表紙は厚手の黒いビニールで少し反り返っている。これはルーズリーフとかいうやつだ。親父のデスクにも似たようなのがあった。手に取ると、耳の部分がチョークと手垢で変色している。名前が書いていないので、パラパラと開いて見る。一ページごとに生徒の名前と顔写真、住所やら指導記録がこまめに書かれている。それが38人分あって、後ろの方は出席やら成績の一覧表になっている。――ヤバいぜ、裏閻魔帳じゃねーか――そうビビっていると、一人の生徒のところで手...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・11『裏閻魔帳じゃねーか』

  • ピボット高校アーカイ部・18『螺子先輩のメンテナンス・3』

    ピボット高校アーカイ部18『螺子先輩のメンテナンス・3』これでも食べて待っていよう。マスターは焼き立てのラウゲンプレッツェルと自分のコーヒーカップを持ってきて、ボクの横に腰を下ろした。「売れ筋じゃないけど、このプレーンなのが本来のラウゲンプレッツェル。焼き立ては、こっちの方が美味しいと思うよ」「いただきます」知恵の輪がくっ付いたようなラウゲンプレッツェルは、バリエーションが多くて、僕もお八つ用に買っていく。プレーンも買ったことがあるけど、僕も祖父もバニラとかシュガーとか日本人用にアレンジした方が口に合っているようで、数回買っただけだ。「……あ、別物ですね!」香ばしさと、ほのかな甘さが新鮮だ。「うん、熱いうちは、これが一番。工夫次第では、冷めても変わらない味にはできるんだけどね。ちょっと柔らかくなりすぎて、...ピボット高校アーカイ部・18『螺子先輩のメンテナンス・3』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・061『アスクレーピオス・1』

    漆黒のブリュンヒルデQ062『アスクレーピオス・1』どうかした?置きっぱなしされたバッグを見てため息をつく玉代。バッグは祖母のもので、ご近所の友だちから電話があって、いそいそと出かけて、バッグが取り残されているのだ。いわゆるマイバッグという奴で、祖母のお手製、お友だちにも評判がいいようで「武笠さん、すてき!」と褒められるものだから、作っては、あちこちに配っている。玉代もわたしももらっている。「傘に武漢ウイルスが付いちょっ」「え!?」「人に貸したのが返ってきたみてなんじゃばっ、あちこちに付いちょって、バッグん中にも広がっちょっ」「あ……なるほど」わたしは意識して見ないと見えないが、玉代は普通に見えるみたいだ。「二日もあればウィルスは死滅すっどん、中んもんを触ったりしたや伝染っ」「除菌すればいいじゃない」目力...漆黒のブリュンヒルデQ・061『アスクレーピオス・1』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・10『あたしのトリップが始まる……』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)10『あたしのトリップが始まる……』嫌われているはずだ。少なくとも変な女子だと思われている。普通に考えてあり得ないよ、エロゲ大好きな女子高生なんて。階段を駆け下りるあたしを呼び止めたのは、先輩の優しさだ。ハンカチを買って返すというのは……ま、常識だよね。あたしは返してほしくなんかないけど。エロゲ趣味だということを知られてしまった先輩には会いたくないから。先輩は、あたしのΣ顔をあまり気にはしていないようだ。だからアキバのマックまでは普通にしていられた。でも、祖母ちゃんのことがあったとはいえ、エロゲの受け取りを頼んでしまって、それからは、あたしの評価は変わっているはずだ。「コンプリートしたら、貸してもらえないかな!」先輩の言葉は額面通りには受け取れない。ハンカチのことで...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・10『あたしのトリップが始まる……』

  • せやさかい・322『こら、さくら!』

    せやさかい・322『こら、さくら!』さくらヤッター!!こら、さくら!思わず出た声とガッツポーズしたら、即怒られて、教室中の注目を浴びてしもた(#^_^#)。メグリンは、大きな背中を振るわせて笑いをこらえてるし、留美ちゃんは自分の事のように恥ずかしがって赤くなるし。「あはは、すんませ~ん(#^▽^#)」頭掻いて謝るんやけど、緩んだ顔は直ぐには直りません。なにをヤッターのかと言うと、中間テストの欠点を挽回したんです!今日は、終業式で、体育館での暑苦しい式が終わって、教室で成績表をもらったとこ。中間テストでは成績伝票だけやったんで、カッチリした成績表は、これが初めて。初めての成績表を二色にせんで、ほんまに良かった!なにごとも最初が肝心やさかいね。もうちょっと詳しく言うと、みんなの笑いには二つの山があった。最初は...せやさかい・322『こら、さくら!』

  • やくもあやかし物語・149『チカコを捜す・江戸城』

    やくもあやかし物語・149『チカコを捜す・江戸城』電波通信事業法が壁になっているらしい。難しい法律なんで、中学生のわたしにはよく分からないんだけどね。勝手に放送局作ったり、携帯電話の会社を作ってはいけないという法律。昭和59年に公衆電気通信法というのが改正されてできた法律らしい。通信事業の自由化のために改正されて作られた法律らしいんだけど、自由化のための法律が、なんで規制するのかよく分からない。自分の日常生活に関係なかったら、どうでもいいんだけどね。力のある法律は、時間がたつとオバケになって、オタクやファンタジーの世界まで影響を及ぼすんだって。いつも優しくシャキッとしている交換手さんが、ちょっとだけ悔しそうに言っていた。まあ、法律妖怪というか妖怪法律というか、そういうもんらしいです。そいつがね、神保城にや...やくもあやかし物語・149『チカコを捜す・江戸城』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・061『永津彦の訪い』

    漆黒のブリュンヒルデQ061『永津彦の訪い』ピンポ~~ンドアホンに反応しようとしたら、一呼吸早く玉代が出てくれた。祖父母共に出かけているので、玉代と二人の日曜日だ。この一週間、延べ五百匹ほどのカエルに名前を付けてやった。ゲコ○号とかケロ○号とか、いい加減なものがほとんどだが、カエルたちは喜んで、瞬間だけ出現する側溝に飛び込んで消えていく。ゲコとかケロの〇号なんだが、名付ける瞬間は、大げさに言うと緊張する。瞬間、頭の中には数千の名前がフラッシュするんだが「これだ!」と強く輝くのがゲコとかケロの○号なのだ。だから、七日目の今日はくたびれて、リビングのソファーで横になっているのだ。「永津彦(ながつひこ)ちゅう老人がお礼を述べに来ちょらるっど」玉代がドアから半身をのぞかせて言う。「永津彦?」「人じゃなかが、礼儀は...漆黒のブリュンヒルデQ・061『永津彦の訪い』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・9『コクコク頷くシグマ』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)9『コクコク頷くシグマ』だれかにハメられたか!?そう思いついた時、背後でカサリと人の気配がした。尻の穴がキュっとなって逃げ出したくなった。根性無しの俺は、瞬間の妄想で反射的に逃げ腰だ。「あ、先輩!」グゥアーーーン!!声でシグマと知れたが、逃げ腰の勢いで階段室の鉄の扉に思いっきりぶつかってしまった。「ツーーーーーーーッ」「大丈夫ですか!」顔からぶつかったようで、オデコと鼻がめっぽう痛い。反射的に押えた手には、ヌルッと生暖かい感触がした。「あ、先輩!」シグマは、すぐにハンカチを出して俺の顔にあてがってくれる。オデコと鼻は痛いんだけど、至近距離に寄って来たシグマからは、ソープだかシャンプーだかのいい匂いがする。こういう匂いは妹の小菊もするんだけど、絶対的に違う。うまく言え...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・9『コクコク頷くシグマ』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 82『敵襲!』

    鳴かぬなら信長転生記82『敵襲!』信長敵襲!見張りの叫びに河原の兵たちは色めき立つ!茶姫も水着の上から甲冑を身に着け、太刀を佩いて、検品長が差し出した銃を構えた。その間、たったの10秒。緩むのも早いが、締まって戦闘態勢に入るのも早い。「鎧脱いで逃げるのなら、あんたの勝ちだけどね」一瞬で分かる。シイ(市)は、越前金ケ崎のことを言っているんだ。浅井の裏切りにあって、越前で朝倉との挟み撃ちになると、妹の市は両口を縛った小豆袋で知らせてきた。瞬間で悟った俺は、5秒で甲冑を脱いで単騎で金ケ崎を逃げ出した。浅井朝倉の包囲が完成する前に、琵琶湖の西を都目指して駆けだした。我ながら見事な逃げっぷりで、浅井朝倉の連合軍が陣形を整えた時には、金ケ崎に残ったのは殿軍のサルの部隊だけだ。サルも空城の計(金ケ崎城に赤々と灯をともし...鳴かぬなら信長転生記82『敵襲!』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・060『梅雨と東京アラート』

    漆黒のブリュンヒルデQ060『梅雨と東京アラート』……東京アラートって終わったよニャー?豪徳寺のわき道に入ったところで、声を潜めてねね子が聞く。玉代は初めての日直で一足早く家を出ている。「ああ、十一日で終わったはずだぞ」「夕べ、点いていたニャ」「え?」「寝苦しかったんで、豪徳寺の大屋根に上って涼んでいたニャ……すると、点いていたニャ。都庁もレインボーブリッジも」「夜間照明を見誤ったんじゃないのか?昼白色なら、普通の夜間照明だぞ」「真っ赤っかだったニャ。今朝のニュースで五十五人も罹患者が出たって言ってたしぃ」「夢でも見たんじゃないか、おまえ、猫又のくせに怖がりだからな」「こ、怖がりじゃないニャ!」「そうかそうか、なにかの兆しかもしれない、気を付けなければな」茶化してやろうかと思ったが、目の色が真剣なので、当...漆黒のブリュンヒルデQ・060『梅雨と東京アラート』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・8『下足ロッカーにピンクの封筒』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)8『下足ロッカーにピンクの封筒』あやうくバレるところだった。昇降口に着いてロッカーを開けると、半分開けたところで上履きの上に乙女チックなピンクの封筒が載っているのに気づいた。「すまん、ちょっとここで待っててくれ」先に行ってくれと言ってしまいそうなんだけど、そんなことをすればノリスケに勘ぐられてしまう。この場合は「待っててくれ」というのが自然だ。食堂の自販機でホットの缶コーヒーを買いハンカチに包んで昇降口に戻る。「すまん、小菊のお詫び、とりあえずな」「おーアッタケー」缶コーヒーを渡すと、両手で転がしたり頬っぺたにスリスリするところなど、ガキの頃から変わらないノリスケではある。教科書に紛らせてピンクの封筒を取り出す。「でも、お詫びの本編は、あのエロゲな!」「あ、ああ」「...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・8『下足ロッカーにピンクの封筒』

  • せやさかい・321『海の日 お祖父ちゃんと』

    せやさかい・321『海の日お祖父ちゃんと』さくらえ、海の日ぃやったんか!?たまたま、お祖父ちゃんと二人だけのリビング、新聞読んでたお祖父ちゃんが声を上げる。時々、こういうことがある。お祖父ちゃんは、二年前に住職の仕事をおっちゃんに譲った。テイ兄ちゃんが、なんとか務まるようになってきたし、他所よりは檀家の多いお寺やけど、さすがに三人でやるほどやない。膝とかもガタがきて、長時間の正座がきついことも理由の一つ。正座は、坊主には必須条件。「親鸞さんは胡座でお経唱えてたんやけどなあ……」と膝をさすりながら言うてた。「そら、お父さん、親鸞さんの時代は正座の習慣なかったからなあ」おっちゃんが笑って、中坊やったうちはビックリした。「昔は正座せえへんかったん?」「うん、正座が習慣づいたのは江戸時代やなあ」「「「え、ほんま!...せやさかい・321『海の日お祖父ちゃんと』

  • 銀河太平記・119『最初の衝突』

    銀河太平記・119『最初の衝突』心子内親王え、2グロスですか!?国際通りを取引のお店に向かっている途中で「2グロス買ってきてぇ(^▽^)/」とメグミさんの連絡。グロスというのは12ダースのことで、一箱10個、1ダース120個だから、24ダースで2880個!?「今日中には帰れないでござる」サンパチさんがポーカーフェイスで呟く。チルル空港の免税店がメグミさんにお願いしてきたらしい。洛陽号たち巡洋艦を応援するために数千人の漢明国の人たちがやってきて、免税店は急きょ仕入れを増やしているらしい。「うち、民宿もやってるから一晩泊って行ってください(^▽^)」お店のおばさんが親切に行ってくださって「まあ、一泊の沖縄観光と思えば良いではござらんか」と、サンパチさんもノンビリ言うので、おばさんのご厚意に甘えることにした。い...銀河太平記・119『最初の衝突』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・059『だるまを転がす少年』

    漆黒のブリュンヒルデQ059『だるまを転がす少年』ズシーーーーン(((°д°)))!突き上げるような地響きで飛び起きた。廊下に飛び出ると、お揃いのパジャマを着た玉代も廊下に出ている。「「地震!?」」同時に声をあげたけど、それに応えるように、もう一度きた。ズシーーーーン(((°皿°)))!「地震じゃなかね」衝撃は一回だけで、地震なら続いて来るはずの揺れがやってこない。階下で休んでいる祖父母が慌てている様子もない。「外に出てみよ」「うん」一階に降りると、さらに何事もなく、薄くドアを開けて祖父母の寝室を窺うと、二人とも穏やかに寝息を立てている。ズシーーーーーン!三度目を聞いたのは、武笠家のささやかな門扉を開けたところだ。ねね子もカーディガンをひっかけて出てきている。「ねね子も聞こえているんだな!?」「うん、昔も...漆黒のブリュンヒルデQ・059『だるまを転がす少年』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・7『あーーなんでこうなるんだ!?』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)7『あーーなんでこうなるんだ!?』けっきょく菊乃に口止め料をくれてやった。後ろめたいことは何もないんだが、手っ取り早いことと諸般の事情を鑑みたからだ。諸般の事情というのは、むろんシグマの事情だ。それと、我が家の事情な。俺の家は、その昔このあたりでは名の通った置屋(芸者さんを置いてマネジメントをやる)をやっていた。むろん俺が生まれるずっと前、親父でさえ生まれていない昔。祖父ちゃんが、子ども時代の微かな記憶として覚えているくらいの昔だ。祖父ちゃんの代には店を畳んでイギリス風のパブになった。今は、そのパブも畳んで、親父がせっせと中間管理職を務めるサラリーマンの家庭だ。だけど、粋筋(いきすじ)の伝統ってのが気風として残っていて、粋でない異性への興味とか感心の持ち方というのは...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・7『あーーなんでこうなるんだ!?』

  • 魔法少女マヂカ・283『自然体・2』

    魔法少女マヂカ・283『自然体・2』語り手:マヂカ自然体が一番オブジェクトには、そっけない文字が、仄かに光って浮かんでいる。「「「なんだ、これは?」」」「あ、もう綾香ネエに戻ったほうがいい、リアルみたいだから」「「「あ、そうか」言い始めの「「「あ」」」は三つ頭のケルベロスだったけど、「そうか」のところでは、こっちのリアル世界の綾香ネエに戻っているケルベロス。「でも、なんだろうね『工事中』とか書いてあると納得なんだけど『自然体が一番』てのはイミフよね」「さっきの、自然体がどうのこうのって、二人の話……聞かれてた?」「だれに?」…………!?同時に危険を感じて、飛び退る!魔法少女の反射神経なので、お互い二十メートルも後ろの向かい合ったビルとマンションの屋上まで飛んだ。オブジェクトがホワホワ点滅して――ゲ、爆発す...魔法少女マヂカ・283『自然体・2』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・058『だるまさんがころんだ』

    漆黒のブリュンヒルデQ058『だるまさんがころんだ』玉代の言葉はコテコテの鹿児島弁だ。化学の先生が鹿児島の出身なんだけど、職員室に提出物を持って行った時に、この化学の先生が「いやあ、君のは鹿児島弁じゃなくて薩摩弁だわ!」と感動した。鹿児島から出てきて二十年になる先生は、アクセントに癖がある程度で、文字に起こすとほとんど標準語。「直そうて思うちょるんじゃじゃっどん、意識しちょっち言葉にならんで困っちょっ。こん頃は、逆にクラスんしたちが慣れてくれて、なんとか以心伝心じゃっで」「それはいいことだ、お互いに慣れてバイリンガルになっとよかよね」「あ、先生、鹿児島弁に戻ってるニャ!」ねね子が指摘すると「ほんなこつね!」と、先生の周囲が暖かな笑いに満ちた。「だけどね、ねね子は思うニャ、玉ちゃんは思いっきりの美人じゃん。...漆黒のブリュンヒルデQ・058『だるまさんがころんだ』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・6『それぞれの後悔 小菊の登場』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)6『それぞれの後悔小菊の登場』後悔が沸き上がってきた。湧き上がるじゃない、沸き上がるんだ。胸のあたりで沸騰するものがあって、それが体中を駆け巡って、身体を熱くする。「あら、暖房がきついのかな?」「ううん、そじゃない、機内食食べたから」「ミコは食べたら熱くなるんだったわね、いーな、そういう子は太らないんだよね」夏子叔母さんは、そう言うと詰まらなさそうにアイマスクして寝る体勢になった。「ミコも寝ときな、ひょっとしたら、そのままお葬式ってこともあるからね」「う、うん……」お母さんとお父さんは、電話をくれた直ぐ後に羽田から一足先にたった。あたしは埼玉から遅れてくる夏子叔母ちゃんを待って飛行機に乗ったんだ。食べて体が熱くなるのは小学校までだ、後悔だなんて、楽天家の叔母ちゃんに...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・6『それぞれの後悔小菊の登場』

  • せやさかい・320『』

    せやさかい・320『古紙回収の朝』さくらミーンミンミンミイ……ミーンミンミンミイ二週に一回の古紙回収、留美ちゃんと二人で古新聞と段ボールを蝉の声かまびすしい中、回収場所に持っていく。今日はテイ兄ちゃんの当番やねんけど、「すまん、寺の用事で、ちょっと出るさかい!」言うて、ついさっき原チャで出て行きよった。回収場所は、うちのお寺の角。うちの角やから、めっちゃ近い印象かもしれへんけど、けっこうある。廊下の隅にまとめてある古新聞と段ボールを玄関に持っていくのに10メートル、玄関から山門まで25メートル、山門から角まで15メートル、合計50メートル!曇り空やから、まだええねんけどね、これが日ぃ照っててたら、この50メートルは、ちょっときつい。新聞はサンケイと朝日。なんや両極端の新聞やねんけど、これはお寺の事情。意外...せやさかい・320『』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・057『宮の坂の夕陽』

    漆黒のブリュンヒルデQ057『宮の坂の夕陽』ハアアア……ちょっと衰えてるのよ……。スクネ老人に腰を揉ませながらため息交じりにオキナガさんはこぼす。世田谷八幡の奥は別次元の神域で、清浄な竹林の中に檜の床どこがあるきりである。ここに招かれた者の分だけの円座があり、照れ隠しのような几帳の前に紫式部の居所のような畳が二畳。そこに仰臥して、スクネ老人に腰を揉ませているのだ。「琥珀浄瓶をやっつければ、元に戻ると思っていたんだけどね……」琥珀浄瓶は大陸からやってきた不定形な妖怪の総元締めみたいなやつだ。スマホを通じて人の名前を奪っていく。スクネ老人が真っ先に気づき、わたしも久々に漆黒の甲冑を身にまといオリハルコンの大剣をふるったが、互角に戦えたのはほんのつかの間。オキナガさんが本地である神功皇后の姿で自ら琥珀浄瓶の中に...漆黒のブリュンヒルデQ・057『宮の坂の夕陽』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・5『よし、俺に任せとけ!』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)5『よし、俺に任せとけ!』土曜日だと言うのに電車の中は高校生が多い。ほとんどの公立高校は休みのはずだ。むろん私学はやっているから、制服の高校生が乗っていたって不思議じゃないんだけど、あきらかに公立高校と知れるやつらが多いので不思議だ。それに、スマホじゃなくて参考書っぽいのを開いてるやつが多い。俺は電車通学じゃないので、いつもの様子は分からないんだけど、なんだか違う。で、OLさんが広げてる新聞(Olさんが新聞広げてるのも新鮮なんだけど)をチラ見して合点がいった。この高校生たちは国公立の二次試験を受けに行くんだ。俺も四月からは三年生なんで他人事ではない。と言って、国公立を受ける予定も能力もないんだけど、ザックリ進路決定が迫っているということを思い出して身が引き締まるわけ...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・5『よし、俺に任せとけ!』

  • くノ一その一今のうち・13『太閤記のスジ』

    くノ一その一今のうち13『太閤記のスジ』忍者にはスジってもんがあるんだ……忍冬堂の目を細めた顔が浮かんでくる。今日も殺陣の仕事を終えて事務所に帰る車の中。まあやは二度ほどで憶えてくれたんだけど、ゲストのアイドル俳優のニイチャンが腰が引けて、なかなかOKが出なかった。理由は分かってる、殺気がありすぎるんだ、わたし。お芝居なんだけど、ジュラルミンの刀だと分かっていても、刀を構えるとどうしてもその気になってしまう。だから、アイドル俳優ビビらせて、撮り直しばかりだった。で、気疲れから、ついウトウトして忍冬堂の問わず語りを思い出してしまう。「忍者にはスジってもんがあってね、Aという大名に仕えるとしくじりばかりだが、Bに乗り換えたとたんにうまく行くことがある。忍者のしくじりは命に係わるから、まとめ役の上忍は気を配った...くノ一その一今のうち・13『太閤記のスジ』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・056『煙が立たない(;゜Д゜)』

    漆黒のブリュンヒルデQ056『煙が立たない(;゜Д゜)』学校を出て二三分もすると世田谷八幡と豪徳寺の緑が重なって見えてくる。一見一つの森のように見えるのだが、東急世田谷線を挟んで別々の緑だ。下校時間に通ると、たいてい二つの緑の間にのどかな煙が立ち上っている。オキナガさんかスクネ老人が落ち葉を焼いている。たいてい芋が仕込まれていて「おひとつどう?」と勧められて立ち話になる。この「おひとつどう?」に付き合って話し込むと、いつのまにか陽が西に傾き果てている。もう少しで鳥居というところまで来ても、その煙が見えない。「お休みなのかニャ?」トテトテとねね子は駆けだして鳥居の内に消えた。玉代と二人で鳥居前までさしかかると、いつもの所でスクネ老人とねね子が、しゃがんで焚火の火を起こしている。「ひるで、火が点かないのニャ」...漆黒のブリュンヒルデQ・056『煙が立たない(;゜Д゜)』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・055『玉代の自己紹介』

    漆黒のブリュンヒルデQ055『玉代の自己紹介』かごんまから参ってめった荒田玉代じゃ、武笠どんとは従姉妹同士で、住めも武笠どんの家で下宿じゃ。東京どころか豪徳寺周辺ん事もさっぱりじゃっで。こんあたりを頼りなか顔でウロウロしちょったら、道に迷うちょっ証拠じゃで教えてもれると嬉しか(^▽^)/。かごんまは、どけ行ってん桜島が見ゆっで、道に迷うたや桜島を見っ。桜島ん微妙な形や距離感で居場所が分かっんじゃ。東京には桜島は無かで、東京に来て、桜島んごつわたしを導いてくるったぁ、先生方を始め、こん学校のみなさんじゃて思っで。何卒宜しゅうたのみあげもす。先生に紹介されて教壇に立ったときは、大柄で目の覚めるような美しさに圧倒されたクラスメートたちだが、玉代が転校の挨拶をすると、コテコテの鹿児島弁と持ち前の明るさと温もりに、...漆黒のブリュンヒルデQ・055『玉代の自己紹介』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・『プレミアムフライデー』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)4『プレミアムフライデー』――世間様とは付かず離れずのモブ人間――十七年の人生で打ちたてた俺のモットー。人様の先頭に立つのもごめんだし、ケツに回ってハブられるのもいやだ。なんとなく世間に混じって、つつがなく人生を送れれば上等なんだ。だから、自分から進んで人や事件に関わることはやらない。クラスメートの顔ぐらいは分かるけど、口もきいたことが無いのが十人ほどいる。ケリを入れたり入れられたりという、ちょっとばかし肌感覚で付き合っているのは、保育所からの付き合いのノリスケ(鈴木典亮)一人だけ。人が困っていても――気の毒だなあ――と同情の顔はするけど、率先して助ける人がいなければ傍観している。天変地異の大災害があってもボランティアなんかには行かない。駅前とかで募金とかをやってい...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・『プレミアムフライデー』

  • ピボット高校アーカイ部・17『螺子先輩のメンテナンス・2』

    ピボット高校アーカイ部17『螺子先輩のメンテナンス・2』一石軍太ですどこから見てもゲルマン民族という感じの先生は、まるでアフレコが入ってるようなきれいな日本語で名乗った。「あ、はあ……田中鋲です」「帰化してつけた名前なのでね、もともとはギュンター・アインシュタインと云います。鋲くんは螺子さんの助手なんですね。わたしも、三年前までは父の助手でした。いずれ、ゆっくりお話しできるといいですね」「は、はい、よろしくお願いします(;'∀')」そんなに大柄ではないんだけど、そのままディズニー映画の王子役が務まりそうな姿とアインシュタインという有名すぎる苗字に圧倒されてしまった。「さっそくメンテナンスにかかりましょう」先生は慣れた無造作、でも、けしてぞんざいではないやり方、例えて言うと母親がうつ伏せのまま寝てしまった子...ピボット高校アーカイ部・17『螺子先輩のメンテナンス・2』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・3『ノリスケの復活』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)3『ノリスケの復活』死んだんじゃねーのかよっ!?ボス!信号でいっしょになったノリスケにケリを入れる。「イッテーなあ!病み上がりにする挨拶かよっ!」バス!そう返しながらノリスケもケリを返す、これでコミニケーションのスイッチが入る。「蹴んなよ、インフルエンザが伝染んじゃねーか!」「伝染んねーよ!だいいちインフルエンザじゃねーし!」「バカが伝染る~!」「ウッセー、だれがバカだ!」バス!ボス!ふたたび蹴りあいになったところで信号は青だ。「食堂で女子とスペメン食ってたってろ?」「ノワッ!」歩道の段差でつまづいてタタラを踏む。「なに動揺してんだよ」「してねー、つまづいただけだっつーの!」「で、ラブラブになった女子ってだれなんだあ(。¬д¬。)?」「んな目で見んな!」「堂本にいた...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・3『ノリスケの復活』

  • やくもあやかし物語・148『再びの神保城』

    やくもあやかし物語・148『再びの神保城』霞の真ん中がぼんやり滲むように開けていって、神保城の坂道が明らかになっていく。坂道は、神保城の東側。ぼんやりとしながらもフワフワと明るいので、日が昇って三時間くらいの初々しい朝だ。おお……思わず、都に着いた勇者みたいな声が出た。お城の周りは、四季折々の花がいっぺんに咲いていて、ミックスジュースを思わせるようないい香りがしている。見上げたファサード(城門を含む、正面のしつらえ)は、ゴブラン織りかなにかの幕やら旗やらが、垂れたり掲げられたり、なんともゴージャスで華やかで、勇者がミッションコンプリートで大団円に臨むって感じ。このまま、王様に出迎えられて「勇者殿、我が姫を妃として、末永くこの国を治めてくだされ」とか言われて、経験値マックス、トロコンして、経験値引き継いで『...やくもあやかし物語・148『再びの神保城』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・2『それぞれのあだ名』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)2『それぞれのあだ名』例のやつとはスペメン、スペシャル麺類の略だ。食堂の麺類は、うどん・そば・中華そばの三種類。日によって残っている麺類はまちまちで、その麺類に、ありったけのトッピングを全部のせしたものをいう。今日のスペメンはうどんだ。天かす、オボロ昆布、きざみあげ、わかめ、玉子が乗っかって300円。早めに頼むと、数量限定の肉が入ることもある(肉が入ると350円)券売機のメニューには無い特別メニューだ。元々は、余った食材で作ったまかないなんだけど、ずっと昔の先輩が発見して裏メニューになっている。で、目の前には大盛りと並のスペメンが並んでいる。食堂のおばちゃんは南さんといって俺んちの近所のおばちゃん。おばちゃんは状況を察して、大盛りと並に振り分けてくれた。「こんなの初...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・2『それぞれのあだ名』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・054『走る』

    漆黒のブリュンヒルデQ054『走る』どうやらオキナガさんの仕業のようだ。玉代が従姉妹になって隣の部屋に住み着き、彼女を収容するために十坪ほど家が広くなった。では、その分庭が狭くなったかというと変わりがない。前の道路や、周囲の家にも変化がないのに、うちだけが広くなっている。人間業ではない。ネネコも寧々子の名前でお向かいの娘という設定になってしまった。それも、グータラで引きこもりの啓介の、しっかりした妹という立ち位置だ。いったい、なんのロールプレイングだ。そういう変化の一切合切を『よろしく呑み込んでくれm(__)m』という感じでスクネ老人が電柱の角で頭を下げた。それから三日がたった。緊急事態宣言が緩和され、少人数ずつの授業が始まる。少人数も、午前と午後に分かれて、午後の部のわたしは、そろそろ準備にかかろうと、...漆黒のブリュンヒルデQ・054『走る』

  • 銀河太平記・118『』

    銀河太平記・118『サーターアンダギーを求めて』心子内親王パーソナルカーは駐車場を出るとフライングモードになった。え……飛んで行くの?サーターアンダギーはチルル空港の免税店と北東区のショッピングモールで売っている。元来、島では売っていなかったんだけど、メグミさんが出入りの業者を焚きつけて、わざわざ沖縄本島から取り寄せて置かせている。メグミさんのサーターアンダギー愛と、同じリゾート開発を柱とする島同士、お互いに応援しようという気持ちから、しだいに扱う沖縄グッズも増えてきている。「え、海に出てしまったわよ」眼下に見える景色が、島の火山土壌ではなくて、エメラルドグリーンの海原になってしまってる。「黒糖サーターアンダギーは売り切れでござるので、那覇の仕入れ先まで行くのでござる」「え、あ、タイミング悪かったのね」「...銀河太平記・118『』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・053『……ハメられたか?』

    漆黒のブリュンヒルデQ053『……ハメられたか?』鹿児島からやってきた従姉妹ということになった。天文館高校の同級生という設定で一日行動を共にしたが、張り切る度に桜島を噴火させてしまうので、とても鹿児島には置いておけない。そこで、わたし武笠ひるでの従姉妹という触れ込みで、豪徳寺の家に同居して同じ学校に通うことになったのだ。東京にも21の火山があるが、都心から遠く離れた島しょ部の火山なので、噴火させることはなさそうだ。ちょっと広くなってない?一階のリビングは、その気になればビリヤードができそうなくらいになっていたし、二階のわたしの部屋の隣には同じ間取りの玉代さんの部屋が出来ていた。「はい、玉ちゃんにも同じリュック作っといたわ」お祖母ちゃんが、誕生日にわたしにくれたのと同じリュックを玉代に渡した。「あいがと、お...漆黒のブリュンヒルデQ・053『……ハメられたか?』

  • 泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・1『ランチを食べ損ねる』

    泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)1・『ランチを食べ損ねる』ノリスケが休みなので一人で食堂を目指す。食堂の前で嫌なものに出くわした。数学の堂本が女子をいたぶっているのだ。「担任の指示を聞けないなんて、もう、終わってるぞ」「『考査一週間前につき生徒入室禁止』の札がかかってました」「俺の呼び出しの方が優先だ。あたりまえだろう、札の注意書きよりも担任の口から出たことの方が重要なのはあったりまえじゃねーか!それをシカトして食堂直行ってか、いい度胸してるよなー!」「直行したのは職員室です。ドアに手を掛けたら、南先生に『テスト前だ』って札を示されて……」「百地の担任は俺だ、南先生じゃないだろ、なんでドア開けて声かけないんだ!」「お昼食べたら、もっかい来ようって……」「俺の指導より昼飯が大事なのか!」「そうじゃな...泣いてもωオメガ笑ってもΣシグマ・1『ランチを食べ損ねる』

  • 魔法少女マヂカ・282『自然体・1』

    魔法少女マヂカ・282『自然体・1』語り手:マヂカわ!?浴室を出るとお姉ちゃんの綾香が立っている。「ごめん、ここで話がしたい」「ちょ、あがるまで待ってよ。まだ裸だし(#-o-#)」トキワ荘から帰って、三姉妹の最後にお風呂に入って、やっと出てきたところ。裸どころか、湯気が立って水が滴っている。「詰子に気付かれたくない、気づけば、詰子のことだ『あたしも連れてって』って言いだすからね」「でも、こんな洗面所でなくても」「トイレでもよかったんだけど」「それは、ありえない!」「ま、体拭いて、パジャマぐらい着なさい」「そのつもりよ……ちょ、あっち向いててくれる」「いいじゃないか、お互い義体だ」「わたしは、昔からこれなの」「千年も変化しないボディーなんてあるわけないじゃん」「それは、わたしの魔力と、たゆまぬスキンケアとか...魔法少女マヂカ・282『自然体・1』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・052『玉代のハイテンション』

    漆黒のブリュンヒルデQ052『玉代のハイテンション』玉代さんのテンションは一時間目から高い。国語の授業は和歌と俳句だ。本来なら和歌と俳句に分けて四時間はかかると思うのだけど、鍋島という四十路の女性教師は和歌二首と俳句二首を解釈してお終いにしようとする。俳句の一つは『プレバト才能ランキング』の作品で、作品の面白さよりも、プレバトのヨタ話で時間を消化しようという腹だ。「あなたたちは、好きな俳句とかありますか?」一通りの板書と説明を終えて生徒に振る。半分はアリバイだ。座右の和歌や俳句を諳んじている高校生なんて、まず居ない。数秒待って反応がなければ次に行こうと教案の次のページに目を落とす鍋島先生。「先生」「なにかしら、荒田さん?」「好きな俳句です、教科書の欄外にあります」あらくれの熔岩山のぼり女郎花角川源義(かど...漆黒のブリュンヒルデQ・052『玉代のハイテンション』

  • せやさかい・319『めぐりんからの手紙』

    せやさかい・319『めぐりんからの手紙』さくら一昨日は、ごめんなさい。そしてありがとう。みんなには言ったことないけど、あれがわたし、古閑巡里の持病なんです。度を超えたショックを受けたり、極度に興奮すると過呼吸になって、ひどいときは意識を失ってしまいます。小学校の頃にお医者さんに診てもらったんですけど、原因はよく分かりません。とにかく、興奮しすぎないよう、ショックに陥らないよう、わたしも家族も気を遣ってます。父は陸上自衛隊の幹部です。階級は一佐いわゆる職業軍人なので、子どもの頃から引っ越しと転校を繰り返しています。父は、二佐になったとき「これからは、自分一人で転勤するから、巡とお母さんは家を買って定住しよう」と言ってくれました。でも、わたしもお母さんも、定年で退官するまで、父に付いていく決心をしました。家族...せやさかい・319『めぐりんからの手紙』

  • くノ一その一今のうち・12『鈴木まあやと回覧板』

    くノ一その一今のうち12『鈴木まあやと回覧板』今日は時代劇のエキストラ。『吠えよ剣』というアクション系時代劇。幕末、尊王攘夷で煮え立っていたころの若者たちの青春群像的なドラマ……というのは、嫁もちさんの話。歴史に疎いあたしは、説明聞いてもよく分からないんだけど、幕末ものなら、きっと切ったはったがあるはずだから、覚えたばかりの太刀廻りのスキルが活かせる……緊張しながらも、ちょっと嬉しい。事務所のバンで撮影所のゲートをくぐると、見覚えのあるSUVが停まっている。鈴木まあや……分かったけども口にはしない。通行人のバイトの子が三人乗ってるから、先達としてミーハーなことは言えない。「え、そうなんですか!?」着いてビックリ玉手箱。主役の男優さんが腰を痛めて太刀廻りができなくなったので、それ以外のシーンだけ撮ることにな...くノ一その一今のうち・12『鈴木まあやと回覧板』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・051『玉代の玉依姫』

    漆黒のブリュンヒルデQ051『玉代の玉依姫』今の言葉分からなかったでしょ?電車道に差しかかると通学カバンをぶん回すようにして玉依姫が振り返る。先ほどまでの目がくらむような美しさではないが、清楚系のアイドルが務まるくらいには美少女だ。「いちおう、この時代に順応できるスキルは持っているけど、その分負荷がかかって本来の力は発揮できない。なまじ普通に見えてるだろうけど、心は昔のままだから、失敗しそうになったらサポートお願いね」「あ、うん。で、ここはどこなの?」「後ろ向いてごらん」「ん…………おお!!」振り返ると東の空に濛々と煙が立ち昇っている……最初に見た煙はこれだったのか……宝永大噴火で見た富士山を思い出す……ということは火山?あ、桜島か!?「承知してくれたようね。さ、見とれてちゃ遅刻するわよカナちゃん」「カナ...漆黒のブリュンヒルデQ・051『玉代の玉依姫』

  • ピボット高校アーカイ部・16『螺子先輩のメンテナンス・1』

    ピボット高校アーカイ部16『螺子先輩のメンテナンス・1』ごめんね田中くん、部活じゃないのに付き合わせて。部活では見せたことのない優しさで、先輩は手を合わせた。最初にゲートをくぐった時、お地蔵さんの陰に隠れる直前、おざなりに手を合わせた。あの時の男性的ぞんざいさではなく、アニメの女の子が「無理言ってごめんね」という感じなので、戸惑ってしまう。ちょっと反則的な可愛さだ。「えと……いつものようには喋らないんですか(^_^;)?」「え?いつも通りですよ」「いや、先輩は、いつも『鋲!』って呼び捨てじゃないですか、苗字を、それも君付けなんて初めてですよ」「え、そう?学校の友だちには、いつも『さん』『くん』付けしてるわよ」「あ……そうか、いまの先輩は部活時間外の?」「え、そうよ……あ、わたしったら体操服のまんまだ!」そ...ピボット高校アーカイ部・16『螺子先輩のメンテナンス・1』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・050『荒田八幡宮 ねね子の知り合いの頼み』

    漆黒のブリュンヒルデQ050『荒田八幡宮ねね子の知り合いの頼み』煙の柱を経めぐって全国の八幡宮を訪れている。スクネ老人は慰労のためだと言うが、それは北欧の主神であるわが父オーディンへの遠慮があるのだと思った。さぞ、各地の八幡宮が抱える問題の解決にこき使われるのだろうと観念してもいた。ところが、実際に行ってみると、時代は様々だが、八幡宮周辺の高校生になって数時間から数日を過ごすだけだ。むろん、憑依した高校生自身や、その友人知人の手助け程度の事はやるのだが、現実のわたしは、けっこう楽しんで、文字通りの慰労になってきた。なあ、ねね子、こんなことでいいのか?『これでいいのニャ』「なんだ、今度はネコのままか?」『そうニャ、今度はネコ付き合いのお仲間の依頼なのニャ』「おまえの付き合い?」『まあ、行ってみればわかるニャ...漆黒のブリュンヒルデQ・050『荒田八幡宮ねね子の知り合いの頼み』

  • せやさかい・318『めぐりん倒れる!』

    せやさかい・318『めぐりん倒れる!』さくらお財布持って食堂に行こうと腰を浮かした時、変な音がした。ヒュッなんか小さなブラックホールが出来て、瞬間で周囲の空気を吸い込んだような音。振り返ると、スマホを持ったメグリンが目を見開いて、口を酸欠の金魚みたいにヒクヒクさせたかと思うと、いままで聞いたことのない、押し殺して絞り出すような悲鳴を上げた。アアアアアア……みるみる真っ青になったメグリンは、ハッハッハッ……と、つんのめるような荒い息になって、次の瞬間机に手を付いた。「ちょ、どないしたん、めぐりん!?ワ!ちょっとおお!」ドサ!180センチ近い身長のメグリンが、わたしに覆いかぶさるようにして倒れてきた!「キャー!」「古閑さん!」「メグリン!」「だれか、先生よんできて!」何人かの声がいっぺんにして、昼休みに突入し...せやさかい・318『めぐりん倒れる!』

  • やくもあやかし物語・147『庭先で里見さんとお話する』

    やくもあやかし物語・147『庭先で里見さんとお話する』里見フセです里見さんのお嬢さんは、キチンと目を見てあいさつしてくれる。白のワンピがよく似合って、黒のロングヘア―とも相まって、清潔な威圧感がする。むかしのわたしだったら、息苦しさに窒息しそうになって逃げだしたと思うよ。「ごめんなさいね、急に庭先に現れてしまって。お玄関から伺うと、小父様や小母様に出くわすでしょ……」「あ、いえいえ(^_^;)」お爺ちゃんもお婆ちゃんも、散歩の途中でよく出くわすお馴染みさん、今さらなんだけど……ま、いい。「八房が、無理なお願いをしてごめんなさい」手をおなかの前で重ねて、きちんと頭を下げる里見さん。なんだか、皇族のお姫様みたいで、アセアセで頭を下げる。「いえいえ、大してお役にも立ってませんし、八房もお礼にって檜ぶろくれました...やくもあやかし物語・147『庭先で里見さんとお話する』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・049『高知八幡宮の末吉と膝カックン』

    漆黒のブリュンヒルデQ049『高知八幡宮の末吉と膝カックン』お姉ちゃんとケンカしたがや。拓馬がいきゆう土佐城西高校が選抜で優勝したがやき。拓馬は野球部やけんろ、補欠の球拾いじゃ。ずっとベンチに座っとってバッターボックスには立たずじまいじゃ。そんなんを喜ぶのはアホじゃき。「けんど、自分が参加した野球部が優勝したんやき、嬉しいに決まっとろーが。せやき、それを喜んでやることのどこが悪がかや!」「未練じゃき。自分を振って城西なんか行きゆう拓馬を応援するんは未練じゃき!」「み、美登里……」あとは言葉にならん、ワナワナと震えよって、これは手が出ゆうろ……思うた瞬間右頬に衝撃が来た。「た、拓馬がサウスポーやいうて、真似せんでもええがやろ!」それだけ吠えると、ローファーをつっかけて家を出た。家を出て三十秒で高知八幡宮の前...漆黒のブリュンヒルデQ・049『高知八幡宮の末吉と膝カックン』

  • 銀河太平記・117『』

    銀河太平記・117『メグミさんサーターアンダギーを握りつぶす』心子内親王漢明国軍巡洋艦(旧式宇宙船)五隻の領海侵犯に対する日本政府の対応は生ぬるさのレベルを超えてきた。調査は故障艦復旧のためであるので、人道的観点からこれを認める。という国交大臣の談話まで出され、管轄の海上保安庁も監視以上の手が打てなくなってきた。「こんなものが認められるか!」漢明国国防長官の、一見へりくだった要請に怒気を発してしまった。『まことに、市長閣下のお怒りはごもっともなのですが、洛陽号以下五隻の巡洋艦は漢明国にとっては満州戦争以前からの功績艦でして、五隻とも無事に帰国させたいのです。調査の結果、洋上での修理には限界があることが判明、ドックに入れて本格的な修理を施さなければなりません。そこで恥を忍んで市長閣下にお願いするのです。五隻...銀河太平記・117『』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・048『石清水八幡宮の待ちぼうけ』

    漆黒のブリュンヒルデQ048『石清水八幡宮の待ちぼうけ』スクネ老人の計らいで、あちこちの八幡宮を巡っている。琥珀浄瓶との激戦で世田谷八幡であるオキナガ姫もくたびれている。スクネ老人は「しばらく豪徳寺を離れた方が良いかもしれませぬなあ」とだけ言った。オキナガ姫を助けた慰労のニュアンスであったが、行く先々での戦いを覚悟していた。しかし、今のところは息抜きだ。ちょっと昔の高校生になって、ささやかな問題を解決……いや、お節介を焼く。こんなことで人やオキナガ姫の役に立つなら嬉しいことだ。さて、今度はどこの八幡宮か……。ケーブルカーを降りると蝉の声が変わった。鳴いているだけで体感温度が上がってしまうアブラゼミに替わってヒグラシだ。ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ……と涼しい響きだ。麓に比べ140メートル高い標高のせい...漆黒のブリュンヒルデQ・048『石清水八幡宮の待ちぼうけ』

  • 魔法少女マヂカ・281『孫悟嬢とオリジナルの跡地に』

    魔法少女マヂカ・281『孫悟嬢とオリジナルの跡地に』語り手:マヂカとりあえず顎をしゃくった。トキワ荘の廊下で話すわけにはいかない、表に出ろというジェスチャーに、孫悟嬢も小さく頷いて付いてきた。さいわい、トキワ荘そのものがトキワ荘公園、木陰のベンチでファンの交歓会風に集まりなおす。「え、なにを交換すんのん?」ノンコがスカタンを言う。「交歓だ、楽しくお喋りするという意味だ」「え、楽しんでる場合やないと思うよ」「いや、だから……」「オフ会の感じという意味ですよ」白巫女が注釈してくれる。「こちらの女性は?」「お初にお目にかかります、神田明神にお仕えする白です。お見知りおきのほどを……」「白?」「神田明神の白巫女だ。赤・白・青・黒の四人で神田明神の四方を護っている。白巫女、こいつは中国の魔法少女の孫悟嬢だ」「孫悟空...魔法少女マヂカ・281『孫悟嬢とオリジナルの跡地に』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・047『近江八幡 大当たりの文化祭』

    漆黒のブリュンヒルデQ047『近江八幡大当たりの文化祭』ねね子、こんどの八幡はどこだ?ちょ、ちょっと待ってニャ……えと、琵琶湖の東、近江八幡みたいニャ……ちょ、待ってニャー(^_^;)……風俗やからアカンてさ。職員室から帰ってきた加奈子は、教室の入り口に立ったまま悄然と言った。言っただけじゃなくて、そのまま廊下を走って、姿を消してしまった。教室で飾りつけのあれこれや準備をしていた手が停まってしまう。「ちょっと見てくる。ぜったい無駄になんかしないから、みんなは作業の続きしといて、いいわね!」教室も放っておけないけど、加奈子はもっと放っておけない。転校して三週間ほどにしかならないのに、エラソーに言ってしまう。こういう場合は、だれかがアグレッシブに行動しなきゃ全部がダメになる。教室を出ると直ぐに階段だ。上に行っ...漆黒のブリュンヒルデQ・047『近江八幡大当たりの文化祭』

  • くノ一その一今のうち・11『』

    くノ一その一今のうち10『初めてのアルバイト』鏡を横目でにらむ。立ち姿の横顔が、あたしをにらんでる。にらんでいるけども、可愛いよね?こないだの仕事で鈴木まあやのスタントをやった。横向きから後姿にかけては、まあやに似てる!聞いてビックリひたんだけど、本番直後に観た映像は、ほんとにそっくりだった。で、今も、事務所の稽古場の鏡に映して確認してるわけ。……90度回って、正面になると、ぜんぜんアキマセン。本物にくらべて、5ミリほど頬がくぼんでる。目蓋も一重で腫れぼったくて、おまけに瞳が小さくて、ちょっと目を見開くと、アニメのかたき役かっちゅうくらいの三白眼。普通にしていても、ちょっぴり顔を伏せると……やっぱ、三白眼。あ、これって、黒板見てる時の顔の角度……ちょっとヤバいよ。小学校入学以来「風間さん」「はい」と授業で...くノ一その一今のうち・11『』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・046『』

    漆黒のブリュンヒルデQ046『函館の八幡坂』わき腹をつつかれて目が覚めた。「あ……寝てしまった」「次だよ」つついた奴がニコニコしている。ん?ねね子か?「おまえ、まんま……化けなくていいのか?」「今はなな子、ほら、下りるよ」東急の宮の坂駅……と思ったら、街中を走る路面電車だ。末広町という停留所で降りる。見送る電車のロゴは……函館の市電になっている。「函館……何年前だ?」宇都宮郡上八幡根岸八幡石清水八幡宮いずれも四十年ほど昔の昭和だった。「たったの一年前さ、行くよ」「アグレッシブだな、ねね子」「なな子」「あ、すまん……しかし、なかなか、この時代の意識にならないぞ。まだ、武笠ひるでのままだぞ」「まあ、ちょっとね……」停留所を下りて歩道に移り百メートルほど歩くと『八幡坂⇒』の標識。上ったところに八幡宮があるのだろ...漆黒のブリュンヒルデQ・046『』

  • ピボット高校アーカイ部・15『螺子先輩の正体・2』

    ピボット高校アーカイ部15『螺子先輩の正体・2』大規模な通信障害が起こった。スマホが通じにくくなり、通販サイトや通販と繋がっている運送会社に甚大な影響があったらしい、一部には、GPSやら、救急車の手配まで影響がでたという話だけど、お祖父ちゃんとちがって、そういう方面に詳しくないボクには、よく分からない。仕事をサボって、うちで昼寝していた叔父がすっ飛んで行ったところを見ると、相当の大事件のようだ。「大地震が起きて、鉄道や電気のインフラが停まってしまうのと同じ……それ以上かな」お茶を持っていくと、仕事の手を休めて、お祖父ちゃんが頭を掻いた。この仕草は、以前パソコンがウィルスにやられて仕事ができなくなった時以来だ。「そんなに大変なことなの?」「ああ、博のやつ、すっとんで行っただろう」「あ、うん……」あの叔父の表...ピボット高校アーカイ部・15『螺子先輩の正体・2』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・045『石清水八幡宮の鎌倉』

    漆黒のブリュンヒルデQ045『石清水八幡宮の鎌倉』鎌倉に鎌倉大仏は無い。地元なら小学生でも知っている。それが、コロッと騙された。――鎌倉駅で降りて大仏のとこに行ってくれる?ケメコ――日本史の授業中に回ってきたメモに書いてあった。メモを寄越してきたのは池野さんだが、それは二列向こうのケメコが寄こしてきたものだ。昨日、部室で王様ゲームをやった。テストの前日で部活は禁止なんだけど、家でやってもはかどらないとか、いっしょにやった方が効率がいいとか理屈をつけてね。三回目に、ケメコが王様になって、あたしに命令することになったんだけど、あんまり賑やかだったので、部室前を通りかかった小川先生に怒られた。そのために、ケメコの命令は保留になって、テスト中に手紙をよこしてきたというわけさ。「大仏だったら長谷でしょーが。それとも...漆黒のブリュンヒルデQ・045『石清水八幡宮の鎌倉』

  • せやさかい・317『暑いさかい(^_^;)』

    せやさかい・317『暑いさかい(^_^;)』さくらミストいうのはええもんやなあ……この暑い中、高校の同窓会で大阪城に行ってきたお祖父ちゃんが、汗拭きながら感激してる。「お義父さん、もうお歳なんですから、控えてくださいね……」甲斐甲斐しく舅の背中を拭きながらおばちゃんがこぼす。「いや、美保さん、かんにん。ホテルのラウンジで喋ってたら、目の前に大坂城やさかい、ついなあ(^_^;)」同窓会そのものは、馬場町(ばんばちょう)のホテルでやったんやけど、窓から見える大阪城に感動して、何十年かぶりで行ったらしい。「で、ミストって?」麦茶を並べながら詩(ことは)ちゃん。「観光局務めとった奴がな『天守閣にミストが付いたんやで』て言いよってな、それで、みんなで行こういうことになって」「子どもみたい、天守閣までは坂道だらけなの...せやさかい・317『暑いさかい(^_^;)』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・044『根岸八幡から悪魔の城塞へ』

    漆黒のブリュンヒルデQ044『根岸八幡から悪魔の城塞へ』振り返ると鳥居がある。鳥居の脇に石柱があって『根岸八幡宮』と刻まれている。鳥居の向こうに階段が伸びていて、何十段か上ると境内で、規模の割には立派な拝殿がある様子だ。八幡宮を巡る時空の旅も三つ目、どんな旅なんだろう……思ったところで降りてきた。結城千秋……こんどのわたしだ。あら、ちーちゃん。鳥居の向こうから声がかかった。「峰岸せんせい!」峰岸せんせいは、わたしの幼稚園の先生だ。もう三十は超えているはずなのに女子高生のようにフットワークがいい。なんでせんせいが?と思ったら、神社の境内に幼稚園があるんだった。「毎日上り下りしてるとね、足腰だけは十代のまんまよ」「おでかけですか?」まだ勤務中の時間だろうに、せんせいはエプロンをしていない。「あ、うん。ちょっと...漆黒のブリュンヒルデQ・044『根岸八幡から悪魔の城塞へ』

  • やくもあやかし物語・146『まだひとりぼっち』

    やくもあやかし物語・146『まだひとりぼっち』……あんがい広いんだ。ベッドと机の間の、ちょっと谷間のような床に転がっている。いつもはね、一人用の座卓っていうかテーブルがあって、テーブルの上には、宿題とか読みかけのラノベや、ちょっとだけ残ったスナックとか。座卓で勉強やら読書やら、ただボーっとしていたりする。ときどき横を向くと、目の高さの机の上にチカコと御息所のコタツがあって、二人も、ボーっとしてたり、なんかしてたり。で、ときどきのときどき、なにしてんの?とか声を掛ける。ときどきのときどきには、わたしの座卓に移ってきて話しかけてくる。逆に、わたしが机のへりにアゴを載せて「ねえ、なにしてんの?」とか声を掛ける。その周りには、アノマロカリスやら黒電話やら他のいろいろのフィギュアやらグッズやら、そういうのが、チョッ...やくもあやかし物語・146『まだひとりぼっち』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・043『郡上八幡の千代子』

    漆黒のブリュンヒルデQ043『郡上八幡の千代子』学校からバイト先までは二キロ近くある。でも、ほとんどペダルをこぐこともなく十五分ほどの小旅行。校門を出て吉田川にぶち当たったところで右折。あとは川沿いに緩く下ってスピードを絞りながら西に進む。吉田川なんて、同じ岐阜県でも地元の人しか知らないだろう。二キロほど下ると長良川に合流している。長良川は鵜飼で有名だから日本人の半分以上は知ってる。でも、吉田川は「え、どこそれ?」になってしまう。小学校まで世田谷に居たわたしは、この吉田川の下流沿いの町、郡上八幡が気に入ってる。吉田川沿いに下っていくと、八幡神社の前を通り、八幡病院、町役場を左に窺いながら本町通りに入る。八幡神社の前では自転車を止めて手を合わせておく。日常生活の中で、ここだけはお辞儀をしておかなければならな...漆黒のブリュンヒルデQ・043『郡上八幡の千代子』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 81『カメラ小僧のチュウボウ』

    鳴かぬなら信長転生記81『カメラ小僧のチュウボウ』信長「中坊ってのは勘弁してくださいよ」カメラ小僧は、親し気な口を利く。シイ(市)は……どうやら嫌いなタイプのようで、早くもソッポを向いている。気が付かなかったが、このカメラ小僧、茶姫に甘えた挨拶をしながら、視野の端にシイを捉えて値踏みしたようだ。「チュウボウというのは、おまえの字(あざな)ではないか。それとも、もっと幼いころのケンちゃんがいいか?」「アハハ、かなわないなあ、チャ-ねえさんは」チャーねえさん?茶姫は末っ子のはずだが?「あれは、呉王孫策さまの弟君の孫権さまだ」さっき見張りに出ていた近衛騎士が、馬を寄せて教えてくれる。ほかの兵たちも知っているようで、河原の士卒たちに、いっそう和やかな空気が漂う。「これは、腰を据えた大休止になりそうだ」近衛騎士は、...鳴かぬなら信長転生記81『カメラ小僧のチュウボウ』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・042『宇都宮の八幡山』

    漆黒のブリュンヒルデQ042『宇都宮の八幡山』ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ!心地よい振動をお尻に感じて滑り降りる!頬を嬲る春風も爽やかに、クニっと曲がったと思ったら水平に戻って終わりが近い。スカートが乱れないように裾を押えて着地!ヤッターー!体操選手のフィニッシュみたいな決めポーズ!ここは…………宇都宮の八幡山公園だ。振り返ると、いま滑り降りてきた全長58メートルのロングローラー滑り台。横に、同じ長さの普通の滑り台があるけど、断然こっちが面白い。ポンポンとお尻をはたくと感触が違う。そうか……煙の柱を通って『八幡』を頼りに移動すると姿形が変わるようだ。意識を飛ばして三人称視点で自分の姿を確認する。目鼻立ちは武笠ひるでだけど、ちょっと幼い。セミロングの前髪を七三に分けて、七の方に赤いヘアピンを...漆黒のブリュンヒルデQ・042『宇都宮の八幡山』

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