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2015/01/11

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  • 銀河太平記・116『漢明の領海侵犯と政府の嫌がらせ』

    銀河太平記・116『漢明の領海侵犯と政府の嫌がらせ』加藤恵「バカか、あいつら」舵輪を取舵にきりながらシゲ老人が吐き捨てるように言う。次の瞬間、盛大な水しぶきがボートを呑み込むように襲い掛かって来る。ザッパーーン!「ワップ!勘弁してくれよ、同志シゲ老人!」「ああん……防水してなかったのか、主席?」「ビックリしっぱなしで、スイッチ入れ忘れてたよ」パルス防水で完全に水しぶきを無効にした村長と社長は無口なままだ。「どうぞ……」西之島市のロゴの入ったバッグから、タオルを渡しながら、市長も口数が少ない。かく言うわたしも、開いた口がふさがらないでいる。西之島南方海上に、漢明の宇宙船五隻が不時着水したと連絡が入ったのが四十分前。わたし(加藤恵・ラボ主任研究員)を含む島の代表者五人は、ただちにカンパニーのボートに乗って調査...銀河太平記・116『漢明の領海侵犯と政府の嫌がらせ』

  • 銀河太平記・115『案の定と斜め上』

    銀河太平記・115『案の定と斜め上』加藤恵案の定、漢明国は西之島の領有権を主張してきた。「日本人は領土というものを固定的なものだと感じる傾向があるんですよね……」ここちゃんはサーターアンダギーの蓋を閉じながら呟く。わたしは、伸ばしかけた手を曖昧にして、つい話を続けてしまう。「日本人はね、国というものを人間の体みたいに感じてるのよ」「体ですか?」「うん、手とか脚とか臓器とか、死ぬまで自分のものだと思ってる」「ちがうんですか?」「移植したり、義体化したりするでしょ」「あ、ああ。そうですよね」法律で決まっているわけではないが、皇室の人間は義体化しない不文律があるので、ココちゃんはピンとこないんだ。もし、義体化をしていたら、ココちゃんの母君も早逝されることは無かっただろう。天狗党に居たころ、母君の明子殿下が義体化...銀河太平記・115『案の定と斜め上』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・041『煙の柱は八幡の空道』

    漆黒のブリュンヒルデQ041『煙の柱は八幡の空道』ヒルデが居ながら世田谷は東京で一番の感染者数だ……まったく……たまらん……忌々しい……そんな呟きが聞こえる。呟いているのは地元の妖どもだ。わたしは、この異世界では武笠ひるでという一介の女子高生だ。だが、この異世界に来てから、多くの妖たちを浄化してやった。浄化されて喜ぶ者ばかりではない。中には恨みに思う者も居るし、妖が浄化されたところは霊的には一種の真空地帯になってしまって、逆に呼び込んでしまうことがあるのかも知れない。「しばらく豪徳寺を離れた方が良いかもしれませぬなあ」焼き芋を焼きながらスクネ老人が言う。「これを御覧なされ」老人は懐から小さな瓢箪を出し、栓を抜くと、焚火の上に振りかけた。パチパチパチ振りかけた粉は小さく爆ぜて一筋の煙となって空に伸びていく。...漆黒のブリュンヒルデQ・041『煙の柱は八幡の空道』

  • 魔法少女マヂカ・280『白巫女と行くトキワ荘歴史散歩』

    魔法少女マヂカ・280『白巫女と行くトキワ荘歴史散歩』語り手:マヂカけっきょく大黒さんにはご遠慮願うことにした。武人としての実績が乏しいし、神田明神を訪れた時の本殿の有り様……まるでアニメかゲームの制作現場のような佇まいから受けた印象は武闘派のそれではない。「実は、本人もホッとなさっているんですよ」池袋駅からの道中、こっそり耳打ちしてくれているのは白巫女だ。東京西部の哨戒を主任務とする白巫女は「とりあえず、トキワ荘を見に行く」と伝えると「同行させていただきます」と、快く返事してくれた。大人数では目立つので、大正リープ組の三人(マヂカ・ブリンダ・ノンコ)で出向いている。白巫女は、白のカットソーに生成りのジーンズで、漫研のOBが後輩を引率して見学に来たという感じだ。山手通りを西に渡るころには、同じようにトキワ...魔法少女マヂカ・280『白巫女と行くトキワ荘歴史散歩』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・040『戦い済んで鳥居前』

    漆黒のブリュンヒルデQ040『戦い済んで鳥居前』あわや時間切れというところで琥珀浄瓶を退治することができた。スマホを通じて名前を奪われた人たちも回復して、日常の生活を取り戻しつつある。おきながさんは琥珀浄瓶の中で限界まで戦ったので、いまは社の中で臥せっている。かく言うわたしも一昼夜泥のように眠って起きたところだ。早々に支度をして世田谷八幡を目指す。おや、もう起きているのか?そう思ったのは、踏切まで来たところで、鳥居の方角に穏やかな煙が立っているのが見えたからだ。煙は、おきながさんが掃き集めた落ち葉を焼いているしるしだ。たいてい、焼き芋も焼いている。が、意表を突かれた。「わたしが代わりにやっております」ニコニコと火の番をしていたのはスクネ老人だった。「姫も、三韓征伐以来のお疲れのようです。いっそ高天原で養生...漆黒のブリュンヒルデQ・040『戦い済んで鳥居前』

  • くノ一その一今のうち・10『初めてのアルバイト』

    くノ一その一今のうち10『初めてのアルバイト』「拘束時間を考えると、けしていいギャラじゃないけどね……」後ろの座席で一緒になった金持ちさんが呟く。「そうなんですか?」全部合わせても一時間程度の撮影時間で5000円のギャラと聞いていたから、ちょっと意外。近ごろの時給は、高校生のバイトで1200円くらいだから、5000円稼ごうと思ったら四時間働いても稼げない。それが一時間の拘束で頂けるんだから、わたし的には文句ない。そう言うと、金持ちさんからは大人の答えが返ってきた。「こうやって、車で往復する時間も入れると、拘束時間は6時間。撮影によっては10時間超えることもあるからね。そうすると、時給は500円くらいに目減りする。コンビニのバイトだったら、同じ時間拘束されて倍くらいは稼げるよ。牛丼の深夜シフトだったら三倍っ...くノ一その一今のうち・10『初めてのアルバイト』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・039『琥珀浄瓶・6』

    漆黒のブリュンヒルデQ039『琥珀浄瓶・6』いつもなら、ぶちのめして名前を付けてやればお終いだ。しかし、今度の相手は西遊記の牛魔王が持っていたと言われる琥珀浄瓶。それも数千年の時を経て無限に人の名前を呑み込んでいくと言う化け物だ。スクネ老人と共に立ち向かったが、かすり傷一つ負わすこともできず、世田谷八幡の祭神であるオキナガ姫(神功皇后)が琥珀浄瓶の中に飛び込んで支えている。が、それも三日が限度。いつもヒルデにまとわりついているねね子が豪徳寺のネコたちを総動員して、ネコたちが百万回生きてきた名前を食らわせて一時は琥珀浄瓶の動きを止めることに成功した。しかし、効果は三十分しかなかった。旺盛な琥珀浄瓶の食欲を凌いで、撃滅するには並みの作戦では勝ち目がない……。その間にも、ヒルデは二人の妖に出会って名前を付けてや...漆黒のブリュンヒルデQ・039『琥珀浄瓶・6』

  • ピボット高校アーカイ部・14『螺子先輩の正体・1』

    ピボット高校アーカイ部13『螺子先輩の正体・1』あれから、先輩の顔がまともに見られない。ほら、プールの壁が壊れて、その……不可抗力で先輩のお尻を見てしまってから。部活は一回あったんだけど、また、ポッペのケーキとか食べて喋っただけで終わってしまった。そのあとは二日続けて部活は休み。先輩も女の子だ、不可抗力とは言え見てしまったんだ、いちどきちんとお詫びを言って仕切り直しておかなきゃと思った。あ!そんなことを思いながら廊下を歩いていると、窓から旧校舎に向かっている先輩の姿が見えた。チャンス!階段を下りて、旧校舎に向かおうと思ったら、階段の途中で中井さんに呼び止められる。ほら、女子の保健委員が休みなので、僕が付き添って保健室に行ったクラスの女子。「田中君、あの時はありがとうね。清水さん(女子の保健委員)は休みだし...ピボット高校アーカイ部・14『螺子先輩の正体・1』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・038『琥珀浄瓶・5』

    漆黒のブリュンヒルデQ038『琥珀浄瓶・5』効き目があったのは、ほんの三十分ほどでしかなかった。琥珀浄瓶は、再び蠕動に似た動きをして東京の上空に蟠った。この化け物は三十分で数百億匹の猫の名前を消化してしまったのだ。携帯基地局も電源が落ちたままなので、スマホを通じて人の名前が奪われることもなくなったがな。終わったと思った琥珀浄瓶との戦いは膠着状態におちいった。「おまえ、学校は休め」「なんでニャー?」「だって、おまえ……」いつものように豪徳寺の角を曲がったところで待ってくれていたねね子だが、耳と尻尾が出てしまっている。よく見ると、鼻の下から左右で六本のヒゲが出たり入ったり。名前を失ったことで、力が衰えて、完全な『猫田ねね子』に化けていることができていないのだ。「すまんが、しばらく預かってくれ」踏切を渡って鳥居...漆黒のブリュンヒルデQ・038『琥珀浄瓶・5』

  • せやさかい・316『それぞれの梅雨』

    せやさかい・316『それぞれの梅雨』頼子どちらが好きかと聞かれることがある。日本とヤマセンブルグのどちらが好きか。「それぞれの国に良いところ、優れたところがあって、いずれも甲乙つけがたく……」ローマの休日のアン王女のように、こんな顔(^~^;)して答えておく。でも、根っこの所では、7:3ぐらいで日本が好きだ。生まれ育った……生まれたのは日本じゃないんだけど、物心ついて、高三の今日まで育ったのは日本だからね。いちおうバイリンガルで、英語もヤマセンブルグ語もできるけど、考えるのは日本語。マザータングというやつです。でもね、一年の内、この時期だけは、こんな顔(^▽^)して「ヤマセンブルグ!」と答えられる。梅雨ですよ梅雨!この、じっとしていても粘りつくような湿気は17年生きてきても馴染めない。むろん、家も学校も電...せやさかい・316『それぞれの梅雨』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・037『琥珀浄瓶・4』

    漆黒のブリュンヒルデQ037『琥珀浄瓶・4』東京全域で携帯電話が使えなくなった!71カ所ある携帯基地局の電源が全て落ちたからだ。すぐに全基地局の点検が行われた。携帯が使えないのはライフラインが止まったことと同義で、管理会社の作業車は都内全域から駆り出されたパトカーに先導されて現場に急行した。しかし、電源を落としたのはスクネとヒルデ。どちらも神である。神の御業は人の目や知識では認識不能だ。「どこにも異常はありません!」基地局を周った担当者からは同じ答えが送信される。携帯以外の通信システム(固定電話、電信、パソコンなど)は生きているのだ。もう一つ異変が起こった。急性記憶障害に陥った者が、都内で数千人現れたのだ。自分の名前が分からなくなってしまい、ひとに呼ばれても返事をしなくなった。テレビやラジオのアナウンサー...漆黒のブリュンヒルデQ・037『琥珀浄瓶・4』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 80『突然の小休止』

    鳴かぬなら信長転生記80『突然の小休止』信長孫策とは面識がある。事の起こりは市だ。市が二宮忠八と紙飛行機を追って、森の向こうまで行ってしまい、強行偵察のために侵入してきた袁紹の部隊と遭遇してしまった。あわやというところを武蔵が救ってくれて事なきを得た。後日、その調査の為に、薬草探しの女子高生を装って、信玄・謙信・俺(信長)・武蔵の四人で偵察に出て、孫策の警戒隊と鉢合わせした。武蔵が袁紹の部隊をコテンパンにした時の兵が加わっていて、あやうく見破られそうになったのを孫策が(おそらく)見逃してくれた。孫策は、扶桑(転生国)への侵入には積極的ではないような気がする。ことを荒立てないで、三国志諸侯をなだめながら様子を見ようというのが、孫策の心づもりではないか。「それは、どうかなあ」シイ少尉(市)が馬を寄せてきた。「...鳴かぬなら信長転生記80『突然の小休止』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・036『琥珀浄瓶・3』

    漆黒のブリュンヒルデQ036『琥珀浄瓶・3』わたしが相手をしよう!背後から声がした!虚を突かれた格好になって、反射的に急降下するとともに頭上をに目をやると、群雲を突き抜け、琥珀浄瓶の眼前に躍り出る白馬の騎士が見えた。赤地錦の直垂に金小札緋縅の大鎧、兜は被らずに利剣の前立打った金冠を頂き、螺鈿の長刀を風車のように振う女武者……え……おきながさん!?日ごろのおきながさんは、生まれた時から作務衣に軍手姿で焼き芋を焼いているのではないかと思うおばさんだが、この出で立ちは、一緒に正月の記念写真を撮っていなければ気づかないほどの凛々しさだ。「姫!なりません!」スクネ老人が馬腹を蹴ると、おきながさんは長刀を琥珀浄瓶の正中に擬したまま、静かに、しかし、良く通る声で命じた。「東京には七十一の基地局がある、電源を喪失させれば...漆黒のブリュンヒルデQ・036『琥珀浄瓶・3』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・035『琥珀浄瓶・2』

    漆黒のブリュンヒルデQ035『琥珀浄瓶・2』琥珀浄瓶(こはくのじょうへい)とは中国の六道仙人が持つ宝具の一つで、西遊記では金閣魔王の持ち物とされている。金閣は琥珀浄瓶の蓋を開けて敵の名を呼ぶ。うかつに返事をすると、たちまちのうちに瓶の中に吸い込まれ、数刻の内に溶かされ、金閣の酒にされるという恐ろしい武器である。その琥珀浄瓶が不定形の真ん中で不規則に漂っている。琥珀浄瓶の口は開かれて、金魚の口のようにフワフワと不定形の中身を呼吸している……吸っては吐き出し、吐き出しては吸っている。「あれは人の名でござるぞ!」目を凝らすとスクネ老人の言う通りだ。習近時李光沢連戦陳明女荘玄沢毛仁善蒋介岩金美華孫御嬢石電析周恩沢林即足……全て漢字で、苗字は、ほとんど例外なく一文字、名前は二文字……中国で取り込まれてしまった人たち...漆黒のブリュンヒルデQ・035『琥珀浄瓶・2』

  • 魔法少女マヂカ・279『将門さまは療養中でお休み』

    魔法少女マヂカ・279『将門さまは療養中でお休み』語り手:マヂカえ?赤巫女に案内されて拝殿の奥、本殿に続く扉が開いて驚いた。前回、ジャーマンポテトを持って訪れた時と様子が違うのだ。低いパーテーションで区切られたブースが一杯あって、カチャカチャとキーボードを叩く音や、サーバーが唸る音やらコンピューターのファンが回る音がしている。まるで、ゲームかアニメの制作会社に迷い込んだ感じだ。「少々お待ちください」そう言って赤巫女が入った奥のブースでヒソヒソと話声。ひとりは赤巫女、もう一人は、バリトンのいい声。なろう系アニメのギルドのリーダーが務まりそうな声だ。「いやあ、わざわざすみません」出てきた、その人は、黒のジーンズとTシャツが似合う、年齢不詳のベテランプログラマー風。「二番の会議室が空きました」パーテーションの向...魔法少女マヂカ・279『将門さまは療養中でお休み』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・034『琥珀浄瓶・1』

    漆黒のブリュンヒルデQ034『琥珀浄瓶・1』スクネ老人と共に東京の空を西北西に飛ぶ。スクネ老人は朽葉縅(くちばおどし)の胴丸鎧を身に着け、兜は被らずに顔を縁取るような半首(はっぷり)を着け、八人張りの大弓を携えている。箙(えびら)には八本ばかりの矢が収められているが、神矢のようで、いくら射ても減らないようになっている。おきながさんこと神功皇后の第一の臣とは思えぬ身軽な装備だ。「ひるで殿は格別でござるな」飛翔する横顔のまま老人は笑った。老人の身軽さに比べると、我が漆黒の甲冑はいかにも大仰に過ぎる。「仕方が無いだろう、元の世界に置いてきたものを持ってきたのはスクネ老人、あんたなんだからな」「しかしお似合いではありますぞ。流石はヴァルキリアの主将、主神オーディンの姫騎士ではあられる。いかような敵が立ちはだかろう...漆黒のブリュンヒルデQ・034『琥珀浄瓶・1』

  • くノ一その一今のうち・9『さすがにくたびれた』

    くノ一その一今のうち9『さすがにくたびれた』さすがにくたびれた。アルバイトなんて初めてだし、それも、ほとんど体育会系の芸能事務所の、それも入所テストがあったんだから。帰りの電車は空いていて、最初から座れたんだけど、それが仇になって寝てしまう。ビュン!ビュン!ブン!ビュビュン!ブン!うつらうつら見る夢の中で本が飛ぶ。あれも、力持ちさんたち、社員の仕業なのか、秘密の構成員?とかが居て投げてきたのか。さっき走った記憶が前身の筋肉に残っていて、ピクピクと体が動いてしまう。小さいときに犬を飼っていて、犬が夢を見てヒクヒク動いていたのを思い出す。『あら、夢の中で走ってるよ』お祖母ちゃんが、面白そうに言っていた。かわいく思いながらも『バカだね、こいつ』とか思ってたよ。バカ半分、可愛い半分くらい。いま、電車の中にいる人た...くノ一その一今のうち・9『さすがにくたびれた』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・033『西の空』

    漆黒のブリュンヒルデQ033『西の空』自殺女を成仏させてやって気が付いた。ほら、『呪』と『祝』を間違えてたOL。呪うはずのところを祝ってしまって、死んでも死にきれないで、道端でヘバっていた。あの女を助けたあと、調子がいいのだ。一部始終を見ていたスクネ老人も、軽口を飛ばすくらいに機嫌が良かった。この異世界に来て、かなりの数の妖を名前を付けることで成仏させたり昇天させたりしたが、成仏、昇天させた後、いささか体調が悪くなることが多かった。弱音を吐くのは嫌だったから、祖父母や人に言ったことは無かったがな。あいつの名前聞かなかったなあ……。まあいい、調子がいいにこしたことは無い。学校から帰ると祖父母の機嫌が悪い。リビングのテレビを見ながら「不見識だ!」「場当たり的すぎる!」とか罪もないテレビにボヤいている。「なに怒...漆黒のブリュンヒルデQ・033『西の空』

  • ピボット高校アーカイ部・13『』

    ピボット高校アーカイ部13『たまにはこんな部活もでも事故には注意』部活以外で先輩に会ったことが無い。一年と三年では校舎が違う。昇降口は全学年共通だけど、三年生は、廊下を挟んだ向こう側の島だし、そもそも登校時間が違うのだから、意識的に待ち伏せでもしない限り会うことは無い。「体の中を流れる赤血球みたいなもんだな」ポッペの新製品だというミニジャムパンを食べながら先輩が答える。「赤血球ですか?」千切ったジャムパンを手に持て余したまま聞く。「ああ、わたしと鋲は、学校という体を巡る赤血球だ。だが行き先が違う。わたしは脳みそで、鋲はお尻の方だ。だから出くわすのは、一巡して心臓に戻った時ぐらいだ。心臓にあたるのが、この旧校舎の部室だな」「ああ、部室が心臓というのは、そうかもしれませんねぇ……」人づきあいが苦手な僕は、部活...ピボット高校アーカイ部・13『』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・032『ま、間違えた!』

    漆黒のブリュンヒルデQ032『ま、間違えた!』楽勝だったニャあ!グビグビグビ……国語の試験のあと、ねね子は爽やかに言い放って、風呂上がりのオッサンのようにペットボトルのお茶を飲み干した。「ほう、余裕だな」からかってやりたくなって空いている前の席に腰を下ろす。「苦手な漢字をがんばったから完ぺきニャ!」近ごろの高校生はロクに漢字が読めないというので、漢字熟語の読みやら意味を問う問題が半分近くだったのだ。クラスのみんなが呻吟していた問題を言ってやる。「『嬲』は分かったか?みんな苦労していたようだが」「簡単、『三角関係』ニャ!」「え……なるほど、男二人に女が一人だもんな。でも、二股とか両天秤とも読めないか?」「え?そうニャのか?」「まあいい、じゃ『湯湯婆』は?」「『ユバーバ』にゃ!『千と千尋の神隠し』に出てくる風...漆黒のブリュンヒルデQ・032『ま、間違えた!』

  • やくもあやかし物語・145『日曜の朝 突然のひとりぼっち』

    やくもあやかし物語・145『日曜の朝突然のひとりぼっち』目が覚めると、ちょこっとだけ体に力が入る。起きて学校に行かなきゃと思うんだ。あそうだ、今日は日曜日……とたんに、少しだけ入れた力が抜ける。目玉を動かして机の上を見る。1/12サイズの六畳の上にはコタツがあって、御息所の脚が覗いている。いつもだったら、チカコと二人で首だけ出して寝てるんだけどね。チカコがいないもんだから、御息所は悶々として、まるでコタツ被ったみたいにして寝てる。オズの魔法使いにあったよね、こういうの。ドロシーが、竜巻に巻き込まれて家ごと吹き飛ばされて、ドスンと落ちたら、それが悪い魔法使いの真上。「キャ、どうしよう、人を押しつぶしてしまった!」ところが、マンチキンの住人やら南の魔女のブリンダとかがやってきて教えてくれる。「それは、みんなが...やくもあやかし物語・145『日曜の朝突然のひとりぼっち』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・031『ひるでの散歩・2』

    漆黒のブリュンヒルデQ031『ひるでの散歩・2』道を外れてみた。と言っても、人の道を外れて悪さをするわけではない。いつも豪徳寺の外塀に沿って学校に行くだけなので、道を変えてみようと思ったのだ。散歩なのだから気ままに歩くのがいい。通学路の反対方向に歩いてみる。しばらく歩くと二人の妖に出遭った。気づかなければすれ違うとか追い越すとかで済ませたのだが、怪しさ全開なので捨て置くことも出来ずに『須藤功(すどういさお)』と『中西絹子』と名付けて成仏させた。道を変えて、さらに進むと何十人という妖の気配。目を凝らすと、気配は国民服やらモンペ姿に実体化し、わたしに気づくやいなや、猛スピードで逃げ散っていった。スッテンコロリン学生服にゲートルを巻いた妖が転んだので近寄ってみる。「どうして逃げる?」「ひるでに捕まったら食い殺さ...漆黒のブリュンヒルデQ・031『ひるでの散歩・2』

  • せやさかい・315『さくら的民の竈』

    せやさかい・315『さくら的民の竈』さくらこの組み合わせは無いと思う。体育の後の数学とか英語。前も言うたけど、中間テストで、英語と数学が欠点やった(;'∀')。一学期の成績は、中間テストと期末テストの点を足して二で割る……だれでも知ってるよね。せやさかい、うちは、期末テストでは、数学と英語に関しては40点ではあかへんのです!最低でも42点くらいは取らんと、一学期の成績が欠点で確定してしまう!せやさかい、数学と英語は目ぇしっかり開けて見て、耳をかっぽじって聞いとかならあかんのです!それが……ZZZZZZつい寝てしまうんです。今月の二週目から、体育はプール。終わった後は、めっちゃ眠たなってしまうんです……ZZZZZZあ、あかん!いつもやったら、後ろの留美ちゃんがシャーペンの消しゴムのとこでツンツンしてくれんね...せやさかい・315『さくら的民の竈』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 79『俺たち以外の紙飛行機』

    鳴かぬなら信長転生記79『俺たち以外の紙飛行機』信長天下三分の計……話だけなら眉唾だ。しかし、天下の諸葛茶孔明ならば信じていい。人物で判断しているんじゃない、孔明の履歴だ。孔明の行動は常に『防衛』に軸を置いている。仕掛けてきた敵の弱点を見抜き、そこを突いて、崩れが見えてくれば策を持って、完膚なきまでに敵を打ち砕く。『赤壁』の戦いなどがいい例だ。曹操が、地を轟かすような大軍と、長江の水面を覆いつくすような水軍で攻めてきたからこその戦いだった。気象・戦術・呪術の三つで味方の心を収れんし、火攻めによって連環の計を打ち砕き、曹操の本軍が崩れるとみるや、これを果敢に攻め立て追い詰めて、自害させる寸前まで持って行った。曹操の追撃を関羽ではなく張飛にやらせていれば曹操の首は取れていた。関羽の強さは比類のないものだが、情...鳴かぬなら信長転生記79『俺たち以外の紙飛行機』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・030『ひるでの散歩・1』

    漆黒のブリュンヒルデQ030『ひるでの散歩・1』ヘクチ!可愛いクシャミで目が覚めた。といっても、わたしのベッドに誰かが潜り込んでいたわけではない。目が覚めたら、横に誰かが寝ていたというのはラノベかアニメの世界だろう。可愛いクシャミは自分自身のだ。元の世界ではヴァルハラの戦士だったわたしには可愛げというものに縁が無かった。この異世界では武笠ひるでという女子高生をやっているが、今でも女子高生としての必須属性である『可愛さ』とか『可愛げ』というものがよく分からない。話し言葉は男だし、妖などを相手に戦ったら、この異世界の女子、いや、どの人間よりも強いだろう。しかし、見かけはロングの黒髪が良く似合う美少女なのだ。この異世界の美少女に対する期待値は絶望的に大きい。制服を着崩してはいけないのはもちろんのこと、私服もセン...漆黒のブリュンヒルデQ・030『ひるでの散歩・1』

  • 銀河太平記・114『サーターアンダギー』

    銀河太平記・114『サーターアンダギー』加藤恵まあ、そうなるよね。電子ボードに780を781と書き換えるココちゃんの背中に呟いた。実は、サーターアンダギー中毒になりかけている。植樹祭のお土産にサーターアンダギーをもらってからツボにはまって、毎日二個ずつ食べている。サーターアンダギーは、沖縄のボール型のドーナツ。むやみに美味しいけど、カロリーが高い。「レプリケーターなら、カロリーオフのも作れますよ」分かっていながら、ココちゃんは意地悪を言う。やっぱ、天然黒糖の手作りがいい!レプリケーターでも、98%同質なのが作れるけど、全然違う!「レプリケーターなら、一日6個食べても平気ですよ」「ぜったい、本物がいいの!」言い張ると、ココちゃんは、ボードに食べた数を記録するようになった。まあ、半分ジョーク、半分は可愛いイヤ...銀河太平記・114『サーターアンダギー』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・029『受験生 福田るり子』

    漆黒のブリュンヒルデQ029『受験生福田るり子』あ……起きなくていいんだっけ。いつもの時間に目覚めて思い直した。今日は週明けの第二月曜日、月に一度の休刊日だから新聞を取りに行かなくてもいい。でも、そのことではない。今日は学校の入試日で生徒は休みなのだ。普通の生徒なら儲けたとばかり二度寝をするんだろうが、女戦士の習い性、きっちりと目が覚めてしまう。祖母といっしょに庭の手入れをして、家族三人で朝食。表を掃きながら向かいの窓からチラ見している啓介を冷やかす。先月は家の前の道路で掃除の真似事をするくらいの事はしていたのだが、ここのところの寒さを理由に出てこようともしない。情けない幼なじみにジト目の一つもをかましてやろうと思ったが……。あれ?啓介の視線が微妙にズレている……視線の先を探ってみると、地面に落ちた電柱の...漆黒のブリュンヒルデQ・029『受験生福田るり子』

  • 魔法少女マヂカ・278『わたしたちの方向は決まった』

    魔法少女マヂカ・278『わたしたちの方向は決まった』語り手:マヂカなんで関西弁!?二学期が始まって、学校の日常が戻ってくると、ノンコの関西弁は不思議がられた。大正時代にタイムリープしている間、ノンコは京都の野々村神社の娘だということになっていた。ご維新後に祖父の宮司が男爵に列せられ、孫娘であるノンコは女子学習院に入るために高坂公爵家にわたし(渡辺真智香)といっしょに下宿しているという設定だった。むろん、わたしも同様の設定になっていて、精神を病み始めていた高坂家令嬢の霧子をサポートしていることになっていた。これは、特務の仕事ではなく、人知を超えた何者(神か悪魔か)かの意思、あるいは、千年の魔法少女でも理解不能の超常現象であるのかもしれない。それならば、ノンコは京都弁でなければおかしい……そう思い当たると、自...魔法少女マヂカ・278『わたしたちの方向は決まった』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・028『お祖父ちゃんの激辛ラーメン・1』

    漆黒のブリュンヒルデQ028『お祖父ちゃんの激辛ラーメン・2』一晩考えた答えは豆乳だ。べつに本を読んだりネットで調べたわけではない。冷蔵庫の中身を思い浮かべて、一つ一つ想像してみたのだ。バター味噌蜂蜜ガムシロップヨーグルト牛乳オレンジジュース生姜醤油ソースそして豆乳根拠があったわけじゃない、なんとなくの勘だ。この異世界に来て、直感で結論を出せるほどの経験値は無い。戦いと同じだ、難敵に当った時、いちいち考えているわけではない。考えていたらやられてしまう。刃を交わした時、斬撃をからくも躱した時、敵の槍が鎧の胴をかすめた時、ふと衝動が湧いてくることがある。切ったり、突き上げたり、薙ぎ払ったり、いろいろだが、閃いたもので対応する。辺境の魔王を倒した時、一瞬風が吹いた。実際に吹いたわけではないだろうが、あれが閃きの...漆黒のブリュンヒルデQ・028『お祖父ちゃんの激辛ラーメン・1』

  • くノ一その一今のうち・8『百地芸能事務所・3人の社員』

    くノ一その一今のうち7『百地芸能事務所・3人の社員』とっさに思いついてジャージの裾を引っ張ってみる。なんと、ジャージの裾が三十センチほども伸びた。店のショ-ウィンドウに映して見ると、ミニのワンピースになっている。これは、いざという時に、怪しげなジャージ姿から、ワンピース姿に化ける忍者のアイテム?胸にプリントされた『百』のロゴが伸びて、縦長の『白』のようになっている。上の横棒は、プリントが劣化して剥げ落ちて……単にぼろぎれ寸前になってただけ?足元が地下足袋だから、ちょっと不思議なファッション。そうだ、ケモ耳とか付けたら、渋谷とかアキバなら通用するかもしれない。ウウ、しかし、ここは神田の古書店街だ。さっさと事務所に帰ることにする。『さすがは風魔の二十一代目!見事に躱したな!』事務所のドアノブに手を掛けるとカギ...くノ一その一今のうち・8『百地芸能事務所・3人の社員』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・027『お祖父ちゃんの激辛ラーメン・1』

    漆黒のブリュンヒルデQ027『お祖父ちゃんの激辛ラーメン・1』あなたーー賞味期限迫ってますよー!キッチンでお祖母ちゃんが叫ぶ。「あ、ああ………(;'∀')」隠していた0点の答案が見つけられた中学生みたいな生返事をしてノッソリとお祖父ちゃんがキッチンに足を向ける。なんだか面白そうなので、わたしも行ってみる。シンクの下を覗きながらため息をつく祖父母は、少々子どもじみていてほのぼのする。しかし、シンクの下はほのぼのではない。「どうしたの、激辛ラーメンで一杯じゃないの(*o*)!」「ちょっと辛すぎるんで、ついついな……」お祖父ちゃんはインスタントラーメンが好きだ。お祖母ちゃんは、あまりいい顔をしないのだが、亭主の道楽の一種だと放置している。「気が良すぎるんですよ、あなたは」お祖母ちゃんの話によると、こうだ……。去...漆黒のブリュンヒルデQ・027『お祖父ちゃんの激辛ラーメン・1』

  • ピボット高校アーカイ部・12『ちょっと無理して未来に飛ぶ』

    ピボット高校アーカイ部12『ちょっと無理して未来に飛ぶ』ちょっと未来に行ってみよう。そう言って、先輩は魔法陣を稼働させた。シュビーーーン魔法陣はいつもと違う、なんだかすりガラスを爪でひっかくような、嫌な音をさせる。「本来は過去に向かう設定だからな、未来に行くのは抵抗が大きい……」グガガギガガギィィィィィ……すごく嫌な音をさせて魔法陣は停止した。なぜか先輩は恍惚とした表情だ。「だ、大丈夫ですか?」「あ、すまん。嫌な音なんだが、てっぺんまで行って痺れる感じはクセに……なったらダメだぞ!」「な、なりませんよ(-_-;)」ドガ!「ツッゥゥゥ!」一歩踏み出そうとしたら、見えない壁に、したたか鼻をぶつけてしまう。「やっぱりな……覗けるだけで、出ることはできないんだ」言われてみれば、いつもの『また来て四角』が無い。「こ...ピボット高校アーカイ部・12『ちょっと無理して未来に飛ぶ』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・026『初めての豪徳寺』

    漆黒のブリュンヒルデQ026『初めての豪徳寺』この異世界に来て初めて豪徳寺に行った。あ、ここで言う豪徳寺は地名ではなくて、地名のもとになった、そもそものお寺の事だ。おきながさんの世田谷神社には何度も行った。おきながさんが御祭神でありながら、そのへんのおばさんのように門前を掃いているものだから、自然に挨拶を交わし口を利くようになった……つまり、知り合ったおばさんがたまたま神さまだったので、庭先にお邪魔するような気軽さで境内にも足を入れるようになった感じ。近所付き合いが広がった感じだな。登下校の半分は豪徳寺の塀沿いを歩いている。往きは右側、帰りは左側に塀がある。塀しか見えない。それにたいていはねね子か芳子がいっしょで、塀の中を意識することが無い。意地悪でねね子に正体を聞くと、雨宿りのイケメン武士が落雷に遭いそ...漆黒のブリュンヒルデQ・026『初めての豪徳寺』

  • せやさかい・314『改めて忠魂碑』

    せやさかい・314『改めて忠魂碑』頼子ソフィーがすごいって云うのは何度も言ったわよね。三年前、はるかたちを連れてエディンバラからヤマセンブルグを周った時が最初だった。王室付き魔法使いの末裔で、通訳とボディーガードをやってくれた。通訳もボディーガードも専門の者が居て、あくまでも見習いだったけどね。日本語の最後に「です!」を付けるクセが抜けなくて、さくらは『デスソフィー』って呼んだりしてた。でも、わたしの高校進学と共に日本にやってきて、本格的にご学友とガードを兼ねるようになってからの進歩は目覚ましい。学校でも、同じクラスで成績も優秀。「です!」の口癖も無くなって、ネイティブと変わらない日本語を喋る。わたしとの会話も校内では、ほとんどタメ口。呼び方も「ヨリッチ」なんぞと親し気で、この頃は、それさえ省略して「リッ...せやさかい・314『改めて忠魂碑』

  • やくもあやかし物語・144『チカコ』

    やくもあやかし物語・144『チカコ』またわたしの姿で……ちょっと辟易、ちょっと親しみ……そんな感じで、のっけに言ってしまった。夢の中に、二丁目断層がやってきたのだ。「また、いずれって言ってただろ」「でも、わたしと同じ姿かたちは気持ちが悪い」「この姿が、いちばん気持ちが伝えやすい。我慢しろ」「で、なんなの?あしたは一時間目が体育だから、しっかり寝ておきたいのよ」「時間はとらせない」「……チカコのことなの?」「ああ、そうだ。これを見ろ……」断層が指を回すと、立派なお墓が並んでいるところに来た。重々しい塀で囲まれていて、広さは、小学校のグラウンドほどもあるんだろうか……御霊屋って言うの?神社のお社みたいなのや、お墓を並べた石段みたいなの、その間には、古い公園みたいに木々が茂っていて全体の様子が知れない。お墓には...やくもあやかし物語・144『チカコ』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・025『』

    漆黒のブリュンヒルデQ025『ねね子の正体』ねね子はおきながさんの眷属なんだな?のっけに聞いてやると、通学カバンを胸に抱えて黙ってしまった。仮病で休んだのは悪気(あっき)を恐れての事なんだろう、責める気はなかったが、ちょっと意地悪してやりたくて、登校途中に出遭うと同時に質問したのだ。ねね子も妖に違いなく、妖と言うのは容易に素性を明かすものではない。それを聞くのはちょっと意地悪。「それは『おまえのウンコの臭いをかがせろ』と言うくらい恥ずかしいことニャ」「な、なんだ、その例えは!?」「ねね子は、ただのネコなのニャ」「ただのネコが人に化けるか」「化けるニャ、長生きすると化けるニャ」「いったい何歳なんだ?」「むかし、お江戸に公方様がいらしたころニャ」「ほう」江戸の公方様と言えば徳川将軍、その時代は二百六十年ほどに...漆黒のブリュンヒルデQ・025『』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 78『天下三分の計』

    鳴かぬなら信長転生記78『天下三分の計』信長本当に酔っちゃったんだ……(-_-;)客楼にあてがわれた部屋に連れて行っても、茶姫はアルコール漬けのナメクジのようにグデングデンだった。呆れながらも、シイは甲斐甲斐しい。「鎧のまま寝たら体に悪いよ……ニイチャン、ちょっと手伝って」「着替えさせるのか?」「鎧だけでも脱がせよう……」ガチャガチャ「よし、持ち上げてるから、鎧を引き抜け……よいしょ」抱え上げると、酒臭さと女くささが立ち込め、転生して女性化したはずの俺でもクラっとくる。「ああ、汗とお酒でグシャグシャ……体拭いて、全部着替えさせなきゃダメね」「そうか、じゃ、ちょっと取りに行ってくる」「うん、お願い」『お召し替えなら、これに』廊下から声がして、出て見ると、検品長が行李を抱えて蹲踞している。「あ、用意してくれて...鳴かぬなら信長転生記78『天下三分の計』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・024『校舎裏の焼却炉』

    漆黒のブリュンヒルデQ024『校舎裏の焼却炉』ダメもとで校舎裏の焼却炉に行ってみた。こないだチラ見した時には投入口のハッチには鎖が巻かれて使用禁止の札が掛かっていたように思う。あれ?非常階段の脇から覗く煙突から煙が出ている。近くまで行くと、投入口が半開きになっていて、チロチロと炎が立っているのが見える。長年使われていないはずなのに、通気口はきれいに掃除されていて、炉の中は様々なゴミが陽気な音を立てて燃えている。いいのかなあ……?逡巡していると、後ろから声が掛かって、不覚にもドキッとした。「今日は特別だから、燃してもいいよ」作業着姿の技能員さんが火かき棒を持って立っている。「いいんですか?」「ちょっと待って……」技能員さんが火かき棒で炉をかき回して隙間を作ってくれる。「はい、どうぞ」「ありがとう、焼かせても...漆黒のブリュンヒルデQ・024『校舎裏の焼却炉』

  • 銀河太平記・113『空港で元帥に会って……』

    銀河太平記・113『空港で元帥に会って……』こころしんこはチャーミングでいなさい。折に触れて伯母さんは言うんです。大臣やマスコミや侍従さんがいる時には「こころ子」と真名で呼ばれるんですけど、二人だけになったときは「しんこ」と呼んでくださいます。だから、呼ばれ方で接し方の区別がつく。「エリザベス二世の妹にアン王女がいらしたの」英国の元首はエリザベス三世。それと区別するために、微妙に長くなるけど、伯母さんは「エリザベス二世」とキチンと言います。エリザベス二世は二百年前の英国女王ですね。現国王も含めて、英国には三人のエリザベス女王が居られます。その中で、二世のエリザベス女王が好きです。言うまでも無く伯母さんの影響だと思います。わたしって影響されやすいんですねぇ。あ、それで、アン王女なんです。英国の王室予算は議会...銀河太平記・113『空港で元帥に会って……』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・023『ねね子の仮病』

    漆黒のブリュンヒルデQ023『ねね子の仮病』豪徳寺脇の通学路にさしかかると、いつものようにねね子が現れた。「どうした、ねね子?」いつもと様子が違う。大時代なドテラを着て、首にはグルグルとマフラー、モフモフの手袋をはめ、額にはアイスキャンディーほどの冷えピタを貼っている。「ゴホゴホ……ちょっと風邪をひいたニャ」「ほう、風邪か……」一目見て仮病と分かる。咳も白々しいし、顔色も悪くない。目を熱感知モードにしても、ねね子としては平熱の37度だ。何よりも大仰な出で立ちが仮病臭い。「だ、だから、がっこ休むニャ、先生に言っといて欲しいニャ!」ピューー視線を合わさずに、それだけ言うと逃げるように駆け去ってしまった。まあいい、うちのクラスに転校生で入って来たのも気まぐれだろうし、仁義を通すだけ可愛いというものだ。教室に行く...漆黒のブリュンヒルデQ・023『ねね子の仮病』

  • 魔法少女マヂカ・277『敵はポチョムキンのソ-ニャと……』

    魔法少女マヂカ・277『敵はポチョムキンのソ-ニャと……』語り手:マヂカ怪力乱神を語らず。古くから君子の心得とされてきた。君子は「きみこ」ではないぞ「くんし」だ。徳を積んで文武両道に秀で、世の中の先頭に立つ一人前の男という意味だ。日本的に言えば「士」にあたるか。君子たる者、真偽不明、原因不明な怪しい話は口にするなという意味だ。尾ひれ葉ひれとか針小棒大いうことがある。人の口を経て行くうちに、蛇を見たという話が竜を見たという話になってしまい人の心を惑わしてはならないという戒めだ。しかし、今朝の新聞やテレビは逆だ。――豊島区上空に蜃気楼――昨日、豊島区空蝉橋上空にC58機関車が出現。まるで、銀河鉄道が発車するような姿に歓声が上がり、その不思議な姿を大勢の人が撮影し、テレビやネットで流されたが、これは、大塚駅近く...魔法少女マヂカ・277『敵はポチョムキンのソ-ニャと……』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・022『パンを買いに行く』

    漆黒のブリュンヒルデQ022『パンを買いに行く』この三が日、世田谷区内で五人の行方不明者が出た。他の街だって行方不明は出ているんだが、世田谷の場合、五人揃って十七歳の女子高生だというところに特異点がある。これに気づいたのは、早起きの祖父の「食パンがきれた……」という独り言を聞いて「あ、ひとっ走り行ってくる」と出かけた朝だ。すれ違ったお巡りさんの視線が強いので、つい心を読んでしまった。自分で言うのも何だが、武笠ひるでは美少女だ。この世界に来てから、そう言う意味での視線には慣れている。だが、お巡りさんの視線は、そう言うものではなかった。読むと、五人の行方不明者の情報が知れた。お巡りさんは、そのための特別警戒にあたっているのだ。非番の日で、デートの約束をキャンセルせざるを得なかったお巡りさん。気持ちの離れかかっ...漆黒のブリュンヒルデQ・022『パンを買いに行く』

  • くノ一その一今のうち・7『百地芸能事務所・2』

    くノ一その一今のうち7『百地芸能事務所・2』油断はできないけど、単調過ぎると思った。勢いはあるけど、古書店の店内から本が飛んでくるだけの事。注意していれば避けられる。これで済むわけないよね。ビュン!今度は、道の反対側から飛んできて、店の中に投げ込まれる。ブン!次は店の中から!ビュン!ビュン!ブン!ビュビュン!ブン!不規則に方向が入れ替わる。でも、まだまだ大丈夫。投げてる奴は、なかなかの強さとコントロールだけども、直前に――投げるぞ!――って殺気を膨らませる。駅前で、男の子が屋上から飛び降りようとしたときの気配に似ている。だから、避けられる、問題はない。ブビュン!しまった!なんと、工事中のマンホールの穴から本が飛び出してきた!反射的に建物側に身を躱す!ズビュン!次は、工事車両から!思わず、開いていたシャッタ...くノ一その一今のうち・7『百地芸能事務所・2』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・021『ひるでの初詣』

    漆黒のブリュンヒルデQ021『ひるでの初詣』声をかけようと思ったがやめた。向かいの窓を一瞥して『バーカ』と口の形だけで言っておく。今から初詣に行くのだ。祖母からもらったリュックの中には去年のお札とお守りが入っている。神社に納めて新しいのを買うんだ。付いてくるかと思ったねね子は踏切が近くなっても現れない。まあ、学校に行くんじゃないんだからなと思いつつ、ねね子が付いてくるのが当たり前になっている自分が可笑しかった。芳子に声をかけても良かったんだが、大晦日から生徒会の面々と初詣のハシゴをやって、今ごろは爆睡しているだろうから、それも止した。踏切が見えてくる通りに出て、沢山の初詣の人たちの流れに乗る。日ごろは信心など無い人たちが、行儀よく三列になって鳥居をくぐる。たいていの人が鳥居の前で一礼し、心持ち石畳の真ん中...漆黒のブリュンヒルデQ・021『ひるでの初詣』

  • せやさかい・313『馬場を走った!』

    せやさかい・313『馬場を走った!』頼子う~~~ん、ちょっと無理ねぇ。院長先生は腕を組んで唸ってしまった。いえね、思いついたのよ。ほら、裏の神社(ペコちゃん先生の実家)から東に伸びてる道が昔の馬場だってわかったでしょ。神社の前の鳥居は二の鳥居で、馬場の向こうの端、600メートル先に一の鳥居。それが馬場の跡で、悠々三車線くらいの一本道が続いてる。馬場だから、当然馬が走ったわけよ。多分、お祭りなんかの神事で、奉納競馬って感じ。本当は馬で走ってみたいなんだけど、無理だから、人間で走ってみようと思ったのよ!むろん、散策部のメンバーでね。それで、散策部の顧問でもある院長先生にお願いの巻というわけです。「どうして、無理なんですか?」「だって、今は一般道なのよ。途中に信号のある交差点が二カ所あるし、とうぜん車も走ってる...せやさかい・313『馬場を走った!』

  • ピボット高校アーカイ部・11『市長の娘の死亡記事』

    ピボット高校アーカイ部11『市長の娘の死亡記事』かわいそうに。叔父さんは、三面、お祖父ちゃんが目を落とした同じところを二秒ほど見て新聞を畳んだ。新聞の下の方に小さな死亡記事が載っている。戦後初の市長さんの娘さんが老人ホームで亡くなったんだ。上皇陛下と同い年のお婆ちゃんで、朝食に出てこないお婆ちゃんの部屋をノックしたら、すでに亡くなっていたそうだ。父親である市長の没後、嫁ぎ先を出されたお婆ちゃんは、再婚することも無く東京へ出て紆余曲折のあと故郷の要市にもどり、職を転々として、二流の老人ホームに入っていた。「親の因果が子に報いってやつだな」心無い独り言をお尻を傾けながらこぼす。「隆二、屁をひる時は風下でやれ」お祖父ちゃんは、湯呑を持って避難する。「あはは、ごめん(^▽^)/」で、もう――かわいそうに――は忘れ...ピボット高校アーカイ部・11『市長の娘の死亡記事』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・020『集金さんと追う男』

    漆黒のブリュンヒルデQ020『集金さんと追う男』ピンポ~~ンドアホンが鳴ったので、いいところに差し掛かった文庫にしおりを挟んで通話ボタンを押す。はい。『こんにちは、〇旗の集金です』定年後十年はたったであろう、白髪交じりの元教師という感じの集金さんがモニターに映っている。「いま、いきます」そう返事して、月間購読料の入った封筒を持って門まで出る。「ご苦労さまです、えと……3497円ですね」「はい……たしかに。領収書です」「たいへんですね、だいぶ寒くなってきましたから」「いえいえ、武笠さんはお変りもなく?」わたしも武笠さんなのだが、集金さんは祖父母の事を聞いているのだ。「はい、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、あの齢でも仕事に恵まれて楽しそうです」「それは良かった、人間、仕事をやっているのが一番ですからね。あ、えと...漆黒のブリュンヒルデQ・020『集金さんと追う男』

  • やくもあやかし物語・143『お客は二丁目断層』

    やくもあやかし物語・143『お客は二丁目断層』応接室のソファーに座っていたのは、同じ中学、後姿の女生徒。「やあ、久しぶり」そう言って振り返った顔は、あたしだ。「ゲ」「アハハ、『ゲ』はないだろう」そう、そいつは、外見的には、あたしとソックリな二丁目断層だよ。断層のくせに妖で、目の前に現れる時は、いつもあたしソックリに化けている。本性は、神さまがインクを落としてできた染みみたいなまっくろくろすけ。わたしと同じ能力者の教頭先生が「けして直に見ちゃいけない」と言って、体育館の鏡に映してしか見せなかった、ご近所きってのあぶない奴。アカメイドさんも、二丁目断層だって言ってくれればいいのに。「言ったら、会ってくれなかっただろ。それに、メイドさんには違う姿見せてたし」「むー」「いいお城じゃないか、ほら、新築祝い」「え……...やくもあやかし物語・143『お客は二丁目断層』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・019『夢を見た』

    漆黒のブリュンヒルデQ019『夢を見た』夢を見た。この異世界に転生する直前の記憶が無い。映画のコマがまとまって飛んでいるような感じだ。その飛んでいるコマを補うような夢だった。父王オーディンに休息を宣告されると闇になった。うすぼんやりと地平の彼方が知れる以外は、大きな木を背にしていること以外、どこがどこやら判然としない。シトシトと雨が降っている…………しばらく様子を見よう。思い定めると、地平の彼方がチラチラと光る……数秒遅れてゴロゴロと音がする……遠雷か。この闇の中で雨にたたられるのはかなわんなあ……すると、二十メートルほど先に猫が現れた。最初は、迫りくる雨の気配を探っているのか、髭をそよがせ鼻をクンクンしている。そのうちに目が合っても、猫は逃げもせずにオイデオイデをする。「用事があるなら、おまえの方から来...漆黒のブリュンヒルデQ・019『夢を見た』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 77『酔っ払いとカマトト真に迫る』

    鳴かぬなら信長転生記77『酔っ払いとカマトト真に迫る』信長コウチャン……と呼んでいただければ嬉しいです。エクボを浮かべてはにかむ紅茶妃は、戦略的可愛さだ!さっき、客楼の欄干に頬杖ついていたアンニュイはどこへやら、会談の席に着いた紅茶妃は初御目見えの時の蘭丸のように赤くなっている。「お楽になされよ、大橋どの。期せずして、三国の次席が顔を合わせるのです。胸襟を開いて語らねば実を結ばぬ」「それがダメなのですよ我が主。主は固すぎます。ただでも主は国主なんです。茶姫さん、紅茶妃……いや、コウちゃんよりも一個上のお立場。だから、ここは同格の丞相である孔明がお相手をするんです。顔出しが済んだら、さっさと執務室にもどってください。関羽・張飛の沙汰書とか書かなきゃならないでしょ」「あ、忘れていた」「仮にも、蜀の二大将軍を獄...鳴かぬなら信長転生記77『酔っ払いとカマトト真に迫る』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・018『』

    漆黒のブリュンヒルデQ018『スイカをぶら下げたおっさん』ねね子にはクセがある。時々、右のこめかみのあたりを掻くのだ。右手をグーにして、親指の第二関節のあたりで掻くのだ。爪で掻くと傷を付けたりするので親指の第二関節にしているのだろう。その仕草が、なんだかネコが顔を洗っているようなので、クラスのみんなからも「かわいい!」とか「もえ~!」とか言って可愛がられている。これをやっていると、人が集まって来る。可愛い仕草をしているネコを、つい構いたくなる女子の特性と言っていい。よし、今のうちだ!ねね子の周りに人が集まったのを幸いに、カバンを持って教室を出る。付いてくる者を袖にする薄情者ではないが、自然な流れであれば一人で帰りたい。去年は芳子と一緒になることが多かったが、生徒会役員になった芳子の放課後は忙しい。昇降口で...漆黒のブリュンヒルデQ・018『』

  • 滅鬼の刃・25『親をなんと呼ぶか』

    RE滅鬼の刃エッセーノベル25・『親をなんと呼ぶか』自分の親をなんと呼んでいらっしゃったでしょうか。お父さん・お母さんお父ちゃん・お母ちゃんパパ・ママ父ちゃん・母ちゃん父上・母上おっとう・おっかあおとっつあん・おっかさんおでいちゃん・おもうちゃんムーター・ファーターダディー・マミー親一号・親二号おとん・おかん散歩をしていると、たまに子どもが親を呼んでいるところに出くわします。たいてい、公園で遊んでいる小さな子が回らぬ下で母親を呼ぶ声です。たまに、スーパーとかで「おかあさん、これ買ってぇ」とか「お父さん、さき行くよ!」とかを耳にします。いちど、そばを通過中の車から「お父さん、ブレーキ!」という切羽詰まった呼びかけを聞いたことがあります。呼びかけたのは奥さんで、年恰好から見て旦那さんのことであったようです。自...滅鬼の刃・25『親をなんと呼ぶか』

  • 銀河太平記・112『沖縄植樹祭』

    銀河太平記・112『沖縄植樹祭』こころパチパチさんたちが採取してきた新鉱石は『パルスギ』と名付けられた。「どうぞ、殿下からお伝えください」市長と相談した社長は、村長さんや主席さんとも協議して、陛下への連絡を任せてくれた。陛下は、植樹祭のために沖縄に向かわれる。今年の植樹祭は、西之島の杉の苗が使われることになっているから都合がいいのよ。苗の名前は『パル杉』火山灰地の西之島でも育つように食堂のお岩さんが趣味で品種改良していた杉。「アハハ、いやあ、まぐれまぐれ(n*´0`*n)」と、頭を掻くお岩さん。どこからどう見ても食堂のおばちゃんなんだけど、以前は大手銀行のキャリアで、趣味がバイオだという烈女さん。「野菜畑に防風林作りたくって、たまたまできたんだよ」育ちが早く潮風にも強いパル杉は、その道の人たちにも注目され...銀河太平記・112『沖縄植樹祭』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・017『転校生』

    漆黒のブリュンヒルデQ016『転校生』グ……なんでおまえが!?拍手で迎えられた転校生を見て、思わず叫びそうになった。「じゃ、自己紹介」担任の京極先生に促されて正面を向いた顔は、あの猫田ねね子だ。「今日から、皆さんと一緒に勉強します。猫田ねね子です。よろしくお願いしまぁす(o^―^o)ニコ」ペコリ頭を下げて、黒板に『猫田ねね子』と丸文字で書くと、クラスのあちこちから暖かい笑い声があがる。「ニャハハ、マンガみたいな名前だけど、偉い人が付けてくれた名前で、自分的にはオキニです。呼び方は『猫田』でも『ねね子』でもかまいませ~ん」教室のあちこちから「かわいい!」「持って帰りたい!」「うふふ」「あはは」の声が上がる。「席は、窓側の後ろから二番目。武笠さん、面倒見てあげてね」ゲ、なんでわたしの前なのだ!?「武笠さん、よ...漆黒のブリュンヒルデQ・017『転校生』

  • 魔法少女マヂカ・276『』

    魔法少女マヂカ・276『位相変換した!してない!?』語り手:マヂカウワ!ドスン!目が覚めると、目の前にお尻があって、ビックリしてベッドから転がり落ちてしまった。イテテ……身を起こすと、詰子がお気に入りのパジャマの体を丸めて寝ている。寝相が悪くて足と頭が逆になっているんだ。「ああ、目が覚めたんだ」背中から声がしたかと思うと、姉の綾香がトーストを齧りながら半開きのドアから顔を出している。「夕べ、ドスンて音がしたら、真智香の部屋に詰子が戻っていてな。寝ているというか寝ちまってるんで、着替えさせて真智香の横に放り込んだんだぞ。お姉ちゃん、もう仕事いくから……」「ちょ、お姉ちゃん……」リビングに出ると、我が姉は、パンプス履いてドアノブに手をかけている。「あ、日付はリープした翌日になってるから、あと、よろ~」バタム「...魔法少女マヂカ・276『』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・016『表札をとる女』

    漆黒のブリュンヒルデQ016『表札をとる女』雨が降るぞ。思わず言ってしまった。表に出ると、啓介が掃除しているのだ。いつもは、小母さんが家の前を掃いている。「お、おまえのためだ」「ほう」つい、意地悪な微笑みになってしまう。「じつはな……」思い切り顔を寄せてくる。幼なじみだからの無作法、ちょっとは戻ったか……と思ったら、磁石が反発するように距離を戻す。反応で分かる、わたしの匂いだ。朝シャンと十七歳の女の子の匂いにクラっときたんだ。「早く言え」気づかないフリして、こちらから寄せる。「ひょ、表札が動くのを見たんだ」「動いただけか?」「気配が、気配がしたんだ。だれかが、おまえんとこの門に近づいて表札に触ってる」「姿を見たか?」「いや、気配だけだ。気配だけだけど、北の方から来て表札を触ったあとで豪徳寺の方へ行った。夜...漆黒のブリュンヒルデQ・016『表札をとる女』

  • せやさかい・312『これでカシコなる!』

    せやさかい・312『これでカシコなる!』さくらオシ!これでカシコなる!頼子さん手づからお御守りを渡されてガッツポーズ!頼子さんの右にはソフィー!左側には留美ちゃんとメグリン!頼子さんは言うまでも無くヤマセンブルグの王女さま!ソフィーは文字通りのガード!見た目も実質も優等生の留美ちゃん!身の丈178センチの守護神みたいなメグリン!そんで後ろの授与所(神社の売店)にはニコニコと福の神みたいな神主さん(ペコちゃん先生のお父さん)。これで酒井さくらは、もう欠点二個挽回どころか、優等生の仲間入り間違いなし!「あ、ありがとうございます!」パチパチパチパチ!みんな拍手してくれて、みんなで拝殿の前に立ってトドメのお参り!「さくらが、目出度く欠点を回復して賢くなりますように!」頼子さんが声に出してお願いしてくれて、全員で一...せやさかい・312『これでカシコなる!』

  • くノ一その一今のうち・6『百地芸能事務所・1』

    くノ一その一今のうち6『百地芸能事務所・1』ほう……きみが風間本家二十一代目か……たっぷり十秒ほどかけて、変態さんみたいにジロジロと社長が見る。「あの……紹介状と履歴書……」視線に耐えられなくなって、二つの封筒を社長机に差し出す。「これはご丁寧に……」封筒を手にすると、そのまま二秒間ほど見て、封も切らずに引き出しにしまった。「あ、あの……」「大事なことは、封筒の方に書いてあるんだ。忍者にしか見えない字でね」ほ、ほんとかなあ……。「十七歳で覚醒……その子さんは『遅咲きではあるが、開祖に劣らぬ力を秘めている』と書いている」「え、そうなんですか?」「だから、よろしく鍛えてやってくれと結んでいる」そ、そうか……ここ何日かのニャンパラリンとか、自分でもビックリするくらいの能力だもんね。「というのは時候の挨拶の書式み...くノ一その一今のうち・6『百地芸能事務所・1』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・015『ひるでの誕生日』

    漆黒のブリュンヒルデQ015『ひるでの誕生日』ガラにも無く余韻に浸っている。この異世界に来て三日目、祖父母が誕生日を祝ってくれたのだ。この三日、二人とは挨拶以上の会話はほとんどなかった。学校でもコワモテの前生徒会長で、話しかけてくるのは福田芳子だけだ。父オーディンが設定に手を抜いたのかと思ったりしたが、今夜の祖父母は饒舌だった。「最初は戸惑ったのよ、生まれたって言うから、おじいちゃんと二人、矢も楯もたまらずに飛行機に乗ってベルリンまで行ったのよ。生まれたばかりのひるでは、色白の、とっても清げな赤ちゃんで、これがわたしの孫だって、最初は実感できなくてね」「そうだったの?」「ああ、オレもばあさんも胴長短足の平たい顔。しずく(母)も一筆書きで描いたようなうりざね顔。それが、教会のフレスコ画に描かれた赤ちゃんのよ...漆黒のブリュンヒルデQ・015『ひるでの誕生日』

  • ピボット高校アーカイ部・10『ピカピカの看板』

    ピボット高校アーカイ部10『ピカピカの看板』あ……一瞬目をつぶってしまった。角を曲がって校門が見えてくると、朝日が学校の看板に反射して眩しかった。入学して一か月がたったけど、こんなに眩しく感じたのは初めてだ。朝日と看板の微妙な角度で目を刺すんだろう。五歩も進むと眩しくなくなるが、その刺激で、思わず校門を潜るまで、看板を見つめてしまった。PIVOTHIGHSCHOOL(ピボット高校)英語の横文字表記の下に2ポイントほど小さな日本語の校名がレリーフになっていて、朝日が反射しなくてもピカピカ。入学式の時は大きな『2022年ピボット高校入学式』の立て看板の横で写真を撮った。門扉の横のレンガ塀に学校の看板があるのは分かってたけど、マジマジ見るのは初めてだ。英語の横文字は、古めかしい亀の子文字だ。今どき、こんな古い書...ピボット高校アーカイ部・10『ピカピカの看板』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・014『だれも仕掛けてこない』

    漆黒のブリュンヒルデQ014『だれも仕掛けてこない』その姿で決まりか?二日目の朝、豪徳寺の角を曲がると、すでにねね子はねね子の姿で前を歩いていた。「だって、名前つけてもらったニャ」「気に入らないんじゃないのか?」「いいのニャ。あの三億円も、最初はほんとうの女子高生と思って声をかけてきたのニャ、大学生って感じでニャ」「あいつ、ナンパしてきたのか?こんなところで?」豪徳寺の周辺は落ち着いた住宅街だ、ナンパ目的の大学生風が歩いているとは考えにくい。「ハハ、まさかニャ。アキバに行ってたのニャ」「アキバ?ちょっと遠いぞ」「ちょくちょく行くニャ。勉強になるニャ、このアバターもアキバで仕入れたニャ」「仕入れる?」「いろいろ見て研究するニャ、そしたら三億円が寄ってきたニャ」「その三億円を教えろ。三億円がらみの事件が具現化...漆黒のブリュンヒルデQ・014『だれも仕掛けてこない』

  • せやさかい・311『こいつは才能だと思う』

    せやさかい・311『こいつは才能だと思う』頼子こいつは才能だと思う。こいつというのは酒井さくら。中学からの、わたしの後輩。客観的には、ちょっと厳しい人生を歩んできてるのよ。小学校の時にお父さんが失踪して、中学に入学すると同時に失踪宣告して……失踪宣告というのは法律的に死んだのと同じ扱いになる。七年間消息不明ってことが条件なんだけどね。そうして、さくらは、お母さんの姓になって実家である如来寺にやってきた。そして、越して二年足らずで、今度はお母さんが失踪。如来寺には、さくらのお祖父さんと伯父さん夫婦。従兄姉のテイ兄ちゃんと詩(ことは)さん。今どき、親類と言っても、そうそうあてになる世の中じゃない。それを、さくらは、生まれてからずっと如来寺の子だったみたいに愛されているし、さくら自身も、如来寺の子として屈託なく...せやさかい・311『こいつは才能だと思う』

  • やくもあやかし物語・142『』

    やくもあやかし物語・142『神保城・2』どこかで見たことがある……神保城のあちこちを探検して思ったよ。大きなお城なんだけど、窓とかバルコニーから見える尖塔とか櫓とか。大手門入ったとこの広場の具合。全体としてコの字型に配置されてる建物とか。それに、なによりお城から見える景色っていうかロケーション。お城は独立した峰の頂にあるんだけど、峰は背後にも繋がって大きな山になって、そこから滝が流れてて、お城を取り巻く天然の堀になってる。堀は、お城を取り巻いたあとは下流に流れて、ふもとの街を潤して湖に流れ込んでいる。これって、ノイシュバンシュタイン城だ。ちょっと舌を噛みそうな名前なんだけど、わたしは正確に覚えてる。だって、ノイシュバンシュタイン城は、ディズニーのシンデレラ城のモデルなんだよ。子どもの頃、ディズニーランドに行きた...やくもあやかし物語・142『』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・013『ねね子危うし!』

    漆黒のブリュンヒルデQ013『ねね子危うし!』バタン!窓を全開にすると三つ向こうの屋根の上を目指してジャンプした!あ……思ったほどの飛距離が出ない。学校で二つ尾の犬と猫を追いかけた時はいけたのに……そうか、あれは、塀に飛び移るとか、ほんの僅かのジャンプだった。ひるでの身では、屋根三つ分は能力を超えるのか……。思い当たっているうちに体は降下していく。上着を脱いだだけの制服姿なので、スカートが翻って、ほとんどオチョコになっている。並の女子高生ならば「キャーー!」とか悲鳴を上げ、前を押えて落ちていくんだろう。だが、それはみっともない。せめて、体操競技のフィニッシュのようにきれいに決めよう。Vの字に手を挙げ、両足をきれいに揃えた。あ……なんと、啓介の部屋の窓の真ん前を落ちているんだ。まあいい、啓介は引きこもり、めったに...漆黒のブリュンヒルデQ・013『ねね子危うし!』

  • せやさかい・310『五月最後の朝』

    せやさかい・310『五月最後の朝』さくら高校に入って変わったことはいっぱいあるけど、一番は通学の変化やね。やっぱ、電車通学は違うでしょ!?と、思われるかもしれへん。ところがちゃうんです。電車に乗るのは人生で初めていうわけやないし、南海電車も地下鉄も物心ついたころから乗ってるしね。一番の変化は自転車ですよ。家から堺東までの二キロほどを自転車で走って『スナックはんぜい』の駐車場に停めさせてもらう。むろん自転車は五歳くらいから乗ってるけど、毎日同じ道を走る云うのは人生で初めてやんか。最初はね、本名というか真名というかは30号線やねんけど地元では13号線いう名前で通ってる道を北に向かって走ってた。せやけど、家から13号線に出るには、東のごりょうさんの方に400メートルほど走らならあかへん。堺東て、家の北の方角やさかいに...せやさかい・310『五月最後の朝』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 76『劉備玄徳、二将の落花狼藉を叱る』

    鳴かぬなら信長転生記76『劉備玄徳、二将の落花狼藉を叱る』信長やめんかっ!!蜀王劉備玄徳が一喝して、ようやく二将軍の剣舞が止んだ。広間の卓は、ことごとく壊れるかひっくり返るかしていて、卓の上に並べられていた山海の珍味やら満漢全席やらは、床の上にぶちまけられるどころか、壁や天井にまで飛び散って貼り付いたりシミを作ったりしている。酒の半分は二将軍と賓客たちの腹に収まったが、残り半分は甕や瓶子の破片にまみれて、広間の絨毯をビショビショにしている。「魏と呉の賓客をお招きしているというのに、このありさまは何か!?関羽・張飛は我が義兄弟ではあるが、外交の場においては、ただの武臣に過ぎない。臣であるならば、主の着席も待たずに盃を挙げるも無礼であろうに、かように、落花狼藉の所業、誠に許し難し!衛兵長、この阿呆二人を捕縛して営倉...鳴かぬなら信長転生記76『劉備玄徳、二将の落花狼藉を叱る』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・012『いろいろある』

    漆黒のブリュンヒルデQ012『いろいろある』また歪んでる。豪徳寺の角でねね子と別れた帰り、郵便受けから夕刊を取り出して、門を潜ろうとしたら表札が歪んでる。きのうは、古い門がガタついて、開け閉めの振動で傾くと思っていたのだが、門はしっかりしている。直そうと手を伸ばすと微かに妖気を感じる。――あ、そうか、妖気があるから歪んでいると感じたんだ。見た目には傾いているだけだ――妖精の気配に似ているが、どこか暗い印象。妖精がやったなら、見つけた時に子供が笑っているような振動を感じる。この表札には陰りしか感じない。そうだ。思いついて回れ右、小指の先ほどの小石を拾い、お向かいの二階の窓目がけて投げる。カチンささやかな音がして、カーテンの隙間に片眼が覗く。出てこい!口の形だけで言う。片眼の下に口が現れて――いやだ――口の形だけの...漆黒のブリュンヒルデQ・012『いろいろある』

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