chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
大橋むつおのブログ
フォロー
住所
未設定
出身
未設定
ブログ村参加

2015/01/11

arrow_drop_down
  • 銀河太平記・111『新パルス鉱の検査』

    銀河太平記・111『新パルス鉱の検査』こころココちゃん……心地いい呼ばれ方(^▽^)。東宮御所(亡くなったお母さんの家)に居る時は殿下と呼ばれる。お母さんは、活舌のいい人だったので、亡くなるまで「心子(こころこ)」と呼んでいた。伯母にあたる天皇陛下は「しんこ」と呼んでくださっている。「明子(あきこ=お母さんの名前)は『しんこ』って読ませたかったのよね、シャキッとした歯ごたえのある子に育ってほしいって。でも、皇族の名前って、みんな訓読みだから『こころこ』。だから、睦子伯母は『しんこ』と呼びます」学校の友だちは『こころ』って呼んでくれた。「殿下や内親王はお店の屋号みたいなものですから、どうか愛称で呼んでください」それで『こころ』が定着した。アニメの人物みたいで、まあいいんだけども。アニメ文化のフィルターを通さなけれ...銀河太平記・111『新パルス鉱の検査』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・011『その放課後』

    漆黒のブリュンヒルデQ011『その放課後』小栗……声をかけようとしてやめた。今朝の事件が、まだ初々しい。小栗も身構えるだろうし、たぶん、わたしも意見してしまう。顔の見える生徒会はけっこうだけれども、先生と一緒の立ち番は、生徒たちには生徒会が学校の手先になった印象で、いずれは化け物犬でなくても反発されるだろう。そう意見しても小栗は聞かないだろう。それに、彼女は資料を抱え、生徒会室の前を素通りして、階段教室の方に向かっている。委員会だ。ということは佳子も委員会。一人で帰ることにする。昇降口で下足に履き替え校門に向かう。二年生ということになっているが、わたしとしては初めての学校だ、ついキョロキョロしてしまう。校内の施設は、すでにインストール済み。興味があるのは人間だ。そろいの制服を着ているという点ではヴァルキリアの兵...漆黒のブリュンヒルデQ・011『その放課後』

  • 魔法少女マヂカ・275『』

    魔法少女マヂカ・275『戻った……』語り手:マヂカあ、テレビのゴースト?原宿駅がダブって見えた。ほぼ同じ駅舎が、アナログテレビのゴーストのようにダブっている。「……戻ってきたんだ」数秒でゴーストの片方が消えて、ブリンダが吐息のように呟いた。わたしは、ただ頷くだけ。時空の狭間はデジタル的には変異しないのだ、以前いた時空を夏の蜃気楼のように引きずって、時空の旅人に感傷を強いる。完成間もなかった駅舎は、数秒ダブった後、百年後の解体保存の準備に入った微睡(まどろみ)みの姿に落ち着いた。その屋根越しに見える神宮の森は、マジシャンが「ワン……ツー……スリー!」ともったいを付けるようにホワホワとして、見慣れた令和の茂みに変わり、足もとの道路はアスファルトの硬さを取り戻した。「戻った……」ブリンダに続いてため息ついた口に飛び込...魔法少女マヂカ・275『』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・010『芳子の迎えで学食へ』

    漆黒のブリュンヒルデQ010『芳子の迎えで学食へ』教室の席は窓側の一番後ろだ。先月の席替えでここになったことになっているが、実のところは、父王オーディンが設定に手を抜いたのだろう。武笠ひるでという子は、敬して遠ざけられる性格がデフォルトになっている。しがらみが少ない。キンコーンカンコーンキンコンカーンコーン昼休みの鐘が鳴る、一人で昼食かと思ったら廊下に芳子が立っている。「先輩、お昼行きましょ!」「おう、芳子も学食か?」「はい、急がないといっぱいですよ」「そうだな」財布を掴んで学食を目指す。同じように学食に向かう子がけっこう居て、早足になっている。階段を下りて、二階まで来ると、ドタドタと男子たちが追い越していく。腹ペコの男が食に向かって走っているのは好きだ。良き兵士の根源は食欲だ。生きるエネルギーが陽気にほとばし...漆黒のブリュンヒルデQ・010『芳子の迎えで学食へ』

  • せやさかい・309『制服リユース』

    せやさかい・309『制服リユース』さくら朝ごはんの後片付けして、ちょっとだけソファーに座ったら寝てしもた。歳時記的には『春眠暁を覚えず』ちゅうとこやねんけど、五月も末では洒落になりません。「もう、テイ兄ちゃんがエアコン点けるさかい~」理不尽な文句を言うて冷めたお茶に手を伸ばす。「エアコンの試運転言うたら、喜んでたんはダレやぁ?」「え、ああ……」電気料金が高いので、今年はギリギリまで点けるのんを辛抱、せやけど、もうそれも限界なんで、今朝は試運転をしたわけですわ。「ちょっと音うるさいけど、まあ、いけるやろ」「そうねぇ、さくらも、ちゃんと居眠りできてたし」詩(ことは)ちゃんも手厳しい。リビングにおったら、どれだけ棚おろしされるか分からへんので、足もとのダミアに躓きそうになりながら部屋に戻る。ニャー甘えた声を出して付い...せやさかい・309『制服リユース』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・009『お弁当にしなくてよかった』

    漆黒のブリュンヒルデQ009『お弁当にしなくてよかった』踏切を渡ると道路は混んでくる。すぐ脇の駅から出てきた生徒たちが合流するからだ。ピークには間があるので混雑と言うほどではないけど、同じ制服の群れが同じ方向に歩いているのは、なかなかの圧だ。「おはようございます」駅前には通学指導の先生が立っているので挨拶。無言で通ると感じが悪いので、される前に声をかける。「おはよう」定年前の原田先生は鷹揚に返してくれる。「おはようございますぅ」小さな声が続いた。先生の陰に隠れるように生徒会の腕章付けた二年生がいる。芳子といっしょに当選した子だ。どうやら、朝の立ち番に生徒会も加わったようだ。『顔の見える生徒会』というのが新会長・小栗結衣の方針だ。さっそく実行ということなんだ。勇み足という感じがする。生徒指導の前面に生徒が出るとい...漆黒のブリュンヒルデQ・009『お弁当にしなくてよかった』

  • くノ一その一今のうち・5『その修業に出る』

    くノ一その一今のうち5『その修業に出る』まだ幼いか……意識が飛ぶ寸前、お祖母ちゃんが呟いたような気がする。幼いって……さっきは代々十三歳で目覚めたとか言ってたじゃん、お祖母ちゃんは十五で、お母さんは、ついに目覚めなかったとか……。ヘックチ!自分のクシャミで目が覚めた。なんだか、スースーする……エアコン入れた?正面に天井……ということは、仰向けに寝てるんだ。グルッと目玉を回すと足もとにお祖母ちゃん。怖い顔で腕組みしている。「やや小ぶりではあるが、体は十分に発育しておる……」え?なんだか裸を見られてる気がするんですけど……って……このスースー感は?マッパになってる!?ウワワワ(#゚Д゚#)!慌てて起きて、脱がされた服を抱えて部屋の隅で丸くなる。「ちょ、なんで裸に!?」「狼狽えるな。魔石の声を聞こうとしたら気を失った...くノ一その一今のうち・5『その修業に出る』

  • ピボット高校アーカイ部・9『ドアのささくれを直した』

    ピボット高校アーカイ部9『ドアのささくれを直した』ドアのささくれを直した。ほら、うちのトイレのドア。お祖父ちゃんが二度もひっかけて、セーターに綻びを作ってしまった。ホームセンターでパテを買ってきて、ささくれ部分を削ってパテを埋めておいたんだ。説明書には24時間で切削可能と書いてあったけど、一週間空けた。パテは収縮するし、24時間では少し柔らかいので、そのまま整形したら数日で他の所よりも痩せてしまって跡が残る。パテの堅さがドアの素材と同じ硬さになるのを待ったんだ。デザインナイフで粗々に削って、さらに二日置い後、サンドペーパーをかける。周囲と面一(つらいち)になったところで、クレヨンで木目を描く。「ほう……こういう補修をやらせたら、お祖父ちゃんより上手いなあ」「アナログだからね、あ、お茶淹れるよ」仕事場にお茶を持っ...ピボット高校アーカイ部・9『ドアのささくれを直した』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・008『ひるでの朝』

    漆黒のブリュンヒルデQ008『ひるでの朝』行ってきまーす。きちんとリビングのドアを開け、NHKのニュースを見ている祖父母に声をかける。人間関係の基本は挨拶だ。ひるではきちんとしている。「「行ってらっしゃ~い」」祖母は笑顔を向けて、祖父は新聞に目を落としたままの横顔で返事してくれる。小学校から変わっていない(設定の)武笠家の習慣。「よし」玄関の鏡で身だしなみチェック。小さな声だけど、リビングには聞こえている。こういう変わらない習慣が人の生活には大事なんだ。カランコロンカウベルの音をさせ、七つの枕木を踏んで門を出る。「「おはようございます」」お向かいのおばさんと挨拶を交わす。門脇さん。高校に進んでからはあまり顔を見かけなくなった息子の啓介が中学まで同級だった。二階の窓からチラ見していることは分かってる。たまに目が合...漆黒のブリュンヒルデQ・008『ひるでの朝』

  • やくもあやかし物語・141『神保城』

    やくもあやかし物語・141『神保城』意外にかわいい顔をしている……メイド王さんだよ。仮にも王様だし、遅れたのはわたしの方だし、起こしちゃ悪いって思った。取次のメイドさんだって立ったまま居眠りしてたしね。ここは、お目覚めになるまで待っているしかないと思うわけですよ。衣装がね、王様らしいローブなんか着て、首には貂かなにかの襟巻みたいなの巻いて、頭には略式の王冠。略式と言っても、王様だから、そこらへんの王女様のティアラなんかよりもゴッツいよ。カクンなにか夢でもみたのか、体かカクンとして襟巻の半分がズレて喉元から鎖骨にかけて露わになる。その露わになったところが白くて華奢でね。ちょっと感動。なんというか、宝塚音楽学校の娘役の生徒さんが、文化祭で無理して王さま役をやっているような感じ。ちょっと倒錯したような可愛さに、思わず...やくもあやかし物語・141『神保城』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・007『武笠ひるで・2』

    漆黒のブリュンヒルデQ007『武笠ひるで・2』学校から家に帰るには三通りの道があるようだ。その三通りの道で、一番時間のかかる道を歩いている。この道は広大な豪徳寺の外周に沿っている。夜間には人通りが無いところもあって、祖父母は避けるように言っている。でも、武笠ひるでは、このルートが好きなんだ。わたしの性格か?それとも主神オーディンの狙いがあってか?まあいい、わたしも好きだ。この異世界のことは、とりあえず必要なものから情報がほぐれていくらしい。子どものころ冬至祭にもらったプレゼントのようだ。幾重にもラッピングしてあって、ラッピングごとに手紙や小さなプレゼントが挟み込んであって、最後に本命のプレゼントが顔を出す。あれに似ている。楽しみながら馴染んでいこう。武笠ひるで。ブリュンヒルデのもじりかと思ったら、ちょっと違う。...漆黒のブリュンヒルデQ・007『武笠ひるで・2』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 75『』

    鳴かぬなら信長転生記75『関羽と張飛の酒盛りおもてなし』信長牧に続く道には数多の蹄に混じって轍の跡が残っている。輜重隊のそれほどには深くも無く、車幅も車輪の幅も狭いので、貴人の乗る車のように思われた。「孫の旗が立ってる!」牧の旗を見つけて市が指差す。俺はとっくに気づいていたが、指摘すると無意味に突っかかって来そうなので「ほう」とだけ言っておく。「ちょっと、興味薄くなくない?車の向こうには呉の騎馬隊も屯ったりしてるんですけど!」「尖がるな、騎馬隊はうちも同じだ。うちも呉も騎馬の数は多いが気はたっていない。それよりも馬車だ」「馬の飾りも立派だし、王族?」「で、あろうな。護衛の兵は並の軍服だが、目つき体つきは近衛の精鋭だ」ひょっとしたら、呉王自身がやってきたのかもしれない。探っているのは相手も同様で、遠慮気味にではあ...鳴かぬなら信長転生記75『』

  • 漆黒のブリュンヒルデQ・006『武笠ひるで・1』

    漆黒のブリュンヒルデQ006『武笠ひるで・1』ゲホッ!!世界の縁から地獄に転がり落ちたのかと思った。したたかに背中を打って呼吸が出来ない。瞬間に頭を庇ったのは長年の戦いで身に着いた脊髄反射だ。数十秒で呼吸が復活し感覚が戻ってきた。戦の中、草原や岩を褥(しとね)にすることには慣れている。背中に触れているものは、いくぶん暖かい。木の床か……立っていれば腰の高さほどのところをぐるりと窓が取り巻いている。馬ならば縦に二頭は入るか……と言って厩ではない。左右には布張りのベンチが伸びている。なにかを繋ぎ止めるためだろうか、背の高さほどのところ、窓に添ってたくさんの丸い輪がぶら下がっている。これは………………で……でん……電車だ。思い至ると同時に、仰臥した足許の向こうで声がした。白だ!コラアッ!反射的に怒って上体を起こす。ヤ...漆黒のブリュンヒルデQ・006『武笠ひるで・1』

  • 漆黒のブリュンヒルデ・085『握りたてのお握り』

    漆黒のブリュンヒルデ・085『握りたてのお握り』女将さんが風呂敷包みを開くと、握り飯は数も大きさも数百、数千倍になって、まるで目の間に白い山ができたみたいになった!しかし、数と大きさが増したばかりではない。炊きあがったご飯の握りたてという感じで、蒸気爆発寸前の火山のように湯気を立ち上らせ、あたりの風景を蒸気に滲ませている。「す、すごい迫力……」「赤城山にメタモルフォーゼしちまってますからね、並みの量じゃ追いつきません……クロノスのやつ、出会った頃は偏屈な巨神でしたがね、もともとは親の愛とか家族の温もりとかに飢えた、ブキッチョな男だったと思うんですよ。それが身に合わない時間の管理とか任されちまって、上っ面は偉そうなこと言ってますけど、どうしていいか分からなくっちまって、ヒルデさんに尻もちこんだんだと思いますよ」「...漆黒のブリュンヒルデ・085『握りたてのお握り』

  • 銀河太平記・110『EE計画又は新アキバ計画』

    銀河太平記・110『EE計画又は新アキバ計画』加藤恵西之島北東部新規総合開発計画……正式に呼ぶとこうなんだが、ちょっと長い。市役所のある北区では『エデンの東開発計画』、つづめて『EE計画』という略称が定着し始めている。最初のEがEden、次がEastのEを表している。エデンの東の西は北区なので、とりもなおさず自分たちの北区をエデン(楽園)と称していることになる。北区には市役所があって、政治的に西之島の中枢であるのでおかしくはないのだが、西区(ふーとん)、南区(カンパニー)、東区(ナバホ村)からすると片腹痛い。そもそもの西之島の主体はパルス鉱石の採掘で基礎を築いた東西南の三つの区なのだ。北区は、日本政府の形ばかりの開発事務所が置かれていたにすぎない。市政が布かれて市役所を設置するにあたり、まあ、開発事務所に毛が生...銀河太平記・110『EE計画又は新アキバ計画』

  • 漆黒のブリュンヒルデ・005『ブリュンヒルデ 父に詰め寄る・2』

    漆黒のブリュンヒルデ005『ブリュンヒルデ父に詰め寄る・2』ビシャーーーン!オーディンの指から雷光が発せられ、ブリュンヒルデはカエルのように床に叩きつけられた。「グエ」「すまん、いきなり跳びかかって来るから手加減ができなかった」「わ、わざとだろ……」「一人娘に、わざとするわけがなかろう。だれか姫を!……あ……人払いをしていたんだった(;^_^」「大丈夫、こ、これしきのこと……」「……変らんな、その強情なところは。人間、痛いときには痛いというものだぞ」「い、痛くはない。それに、人間じゃないし」オリハルコンを杖に、やっと起き上がると、大胡座をかいて父を睨みつける。「あ……その下から睨みつける顔は怖すぎるぞ」「生まれつきだ!」「仕方がない……」オーディンはユサユサと玉座を下りて姫の前に腰を下ろした。姫の言葉を待ってや...漆黒のブリュンヒルデ・005『ブリュンヒルデ父に詰め寄る・2』

  • せやさかい・308『ペコちゃん先生の落とし物』

    せやさかい・308『ペコちゃん先生の落とし物』さくらタタタタ……(^^♪今日の分のテストが終わって、かろやかに階段を駆け下りると、踊り場の窓から見える中庭のベンチにペコちゃん先生が座ってるのが見えた。ピョン二段飛ばして窓辺に寄って、ヤッホー言お思てOの形に口を開けると、もうペコちゃんの姿が無い。「タイミング悪かったね」「あ、落とし物」留美ちゃんが慰めてくれてメグリンがなにかを発見した。タタタタ……(⊙ꇴ⊙)!?落とし物が気になって、三人で中庭に下りてみる。「写真やわ」小さなポリ袋に写真が入ってる。ほとんど透明な袋なんで、数枚ある写真が素通しで見える。「自衛隊みたいだね」自衛隊の制服着たニイチャンが、ビシッと敬礼決めて写ってる。「あ、高等工科学校……」メグリンが聞きなれん学校を言う。「「え、学校?」」よう分からへ...せやさかい・308『ペコちゃん先生の落とし物』

  • 漆黒のブリュンヒルデ・004『ブリュンヒルデ 父に詰め寄る・1』

    漆黒のブリュンヒルデ004『ブリュンヒルデ父に詰め寄る・1』衛兵たちが警備する外郭を駆け抜けると、凱旋祝賀の準備に非番の侍女や近習たちまでも動員されて灰神楽が立つほどに忙しい内郭を突き抜ける。さらに本丸宮殿の門前に立つまでに十秒とかからぬブリュンヒルデであった。ここまでヘルメス神をも凌ぐ俊足で駆けた姫ではあるが、本丸宮殿に入るには門衛長ロイデンの許可がいる。「ブリュンヒルデである。父君に糺したきことがあって立ち戻った。疾く門を開けよ!」「何やつ!?姫ならば、いまだ凱旋の途につかれたばかり、かような刻限におわすはずがないぞ」「ロイゼン、余の声を忘れたか!?」「籠った声では分からぬ。兜を脱いで顔を見せよ」「身は、主神オーディンの王女ブリュンヒルデである」シャキン姫は、バイザーのみを上げて忠勤な門衛長を睨んだ。「こ、...漆黒のブリュンヒルデ・004『ブリュンヒルデ父に詰め寄る・1』

  • くノ一その一今のうち・4『その襲名する』

    くノ一その一今のうち4『その襲名する』目覚めたんだね家に帰ると、お祖母ちゃん、ボケの新バージョン……かと思ったよ。玄関入ったすぐの所に正座しててさ、ビシッと睨みつけて言うんだもん。「こっちへおいで」「あ、まだ晩御飯の用意買ってないし……」「そんなことはいい……」お祖母ちゃんは、普段は使っていない客間兼仏間に、あたしを連れて行くと、お仏壇の前に進んだ。「ここにお座り」「う、うん……」お仏壇には、すでにお線香の煙が立っていて、昔やったひいばあちゃんの法事みたいな感じ。ひょっとして、今からひいばあちゃんの十三回忌?それにしちゃ季節が合わないよ、何月だったか忘れたけど、あれは春だった。やっぱ、まだらボケの新バージョン?「これを羽織りな」え?お祖母ちゃんが示したのは、畳んだ黒の着物。やっぱ、法事?ひいばあちゃんの七回忌は...くノ一その一今のうち・4『その襲名する』

  • ピボット高校アーカイ部・8『』

    ピボット高校アーカイ部8『シフォンケーキと桃太郎』「あれって、桃太郎だったんですよね?」あくる日の部活、すっかり僕の仕事になった部活前のお茶を淹れている。今日のお茶うけはコンビニで買ってきたらしいスポンジケーキだ。けっこうボリュームがありそうで、こんなの食べたら晩御飯食べられるだろうかと心配になるが、口にはしない。「まあ、食ってみろ」口にしなくても読まれてる。クポクポクポ……お茶を淹れて、フォークでケーキを切る。あれ?フォークはケーキを切るのではなく、押しつぶすようにひしゃげさせてしまう。「シフォンケーキというんだ、見かけの割には頼りない」「はい……あ……」口の中に入れると、頼りなく萎んでしまう。ケーキというよりは綿あめかマシュマロを食べているように頼りない。「こういうソフトな感触がいいというので、街では、ちょ...ピボット高校アーカイ部・8『』

  • 漆黒のブリュンヒルデ・003『神都ヴァルハラ』

    漆黒のブリュンヒルデ003『神都ヴァルハラ』神都ヴァルハラは辺境の勝利に湧きかえっている。主神オーディンにまつろわぬ辺境の蛮族どもが、やっと平定されたのだ。誰もが、この戦いに臨むのはトール元帥であると思っていた。誰もが、遠征軍の馬印はトール元帥の得物たるミョルニルのハンマーであると願っていた。しかし、遠征軍の中軍に掲げられたのは、プラチナの兜であった。プラチナの兜は、ヴァルキリアの主将たるブリュンヒルデの標である。漆黒の甲冑を身にまとうブリュンヒルデであるが、この漆黒に染められたプラチナの兜を被ることはめったになく、常にはセキレイの御旗とともに馬印として中軍に掲げさせている。姫が出陣なさるぞ!数多の傷をものともせずに!これで七百を超える御親征なるぞ!漆黒の姫騎士の勝利は姫の使い魔たるフェンリルによって伝えられた...漆黒のブリュンヒルデ・003『神都ヴァルハラ』

  • 魔法少女マヂカ・274『虎ノ門事件勃発!』

    魔法少女マヂカ・274『虎ノ門事件勃発!』語り手:ノンコあれ……………………あれ……………………?二回首を巡らせて、虎ノ門の大通り、主に歩道の通行人を観察したけど犯人らしい男の姿は見えへん。ファントムやらシャドウのあらかたは、富士山頂の戦いでやっつけられるか、マヂカとブリンダといっしょに時空の狭間に吸い込まれてしもて、犯人は、元々の難波大助一人になってるはずやのに姿が見えへん。いや、歴史が変わり始めてるから、難波大助以外の人間が……せや、犯人はステッキ型の仕込み銃持ってるさかい、人間よりもステッキを探した方が早い。いや、ひょっとしたら虎ノ門以外の場所で?それはない。詰子とJS西郷が赤坂御所からここまでのルートを調べてくれてるさかい、犯人が居ったらすぐ分かるはずや。――見当たらないよ――電柱一本分離れてる霧子の気...魔法少女マヂカ・274『虎ノ門事件勃発!』

  • 漆黒のブリュンヒルデ・002『』

    漆黒のブリュンヒルデ002『エルベの水』不覚でした……水に思念を写してしまいました。ニンフが暁にエルベの水を汲むのは禁忌とされています。現世(うつしよ)において、最も清浄とされるエルベは、その清浄さゆえ、魔力を持つ者の思念を写します。端女(はしため)とは申せ、わたくしはニンフであります。姫が魔王との戦いに臨まれているのではないならば、このような無理はいたしません。しかし、かように満身創痍となられても戦いを挑まれる御決意、その御決意を知ってしまっては、手をこまねいているわけにはいかないのです。姫は、これまでの戦いで三十余個所の傷を負われているのです。心を写してしまわぬよう、目をつぶって水を汲みましたが、それでも、心の底にわだかまる星屑のような記憶が暁のエルベに感応したのでありましょう。おぼろな断片でしかなかった記...漆黒のブリュンヒルデ・002『』

  • やくもあやかし物語・140『頂いたお屋敷はお城だった』

    やくもあやかし物語・140『頂いたお屋敷はお城だった』二丁目の坂道に似ている。100メートルほど行ったところで右に曲がっていて、道幅も同じくらいで舗装道路。でも、逆なんだよ。二丁目の坂道は下りの坂道で、突き当たったところで右に曲がる。目の前の坂道は登りの坂道で、突き当たったところで右に曲がる。曲がると、まだ上りで、50メートルほど進んで、アーチ形の門。門扉は赤っぽい茶色で、駅のシャッターみたいに上下に動いて開くみたい。え~どうしよう……どこかにスイッチがあるのか、それとも「開けてください!」とか「かいも~ん!」とか言わなきゃならないのか。言うとしたら、どの程度の声を出せばいいのか、ひょっとしたら、そこらへんにインタホンとがあって、そこで言わなきゃならないのか、人感センサーとかがあるのか……怖がりで人見知りなわた...やくもあやかし物語・140『頂いたお屋敷はお城だった』

  • 漆黒のブリュンヒルデ・001『我が名はブリュンヒルデなるぞ!』

    漆黒のブリュンヒルデ001『我が名はブリュンヒルデなるぞ!』主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将!堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士!我が名はブリュンヒルデなるぞ!佩刀オリハルコンを抜き放ち、天をも貫く勢いで大上段に構えられると、かくも雄々しく姫は名乗りを上げられました。たちまちのうちに雷鳴響き稲妻が走ると、電光は御佩刀オリハルコンにまとい付き、姫の憤怒を荘厳いたします。姫の憤怒は、もはや御身の内に留まること能わず、御身に負われた数十の傷口から血と共に噴き出し、電光に短絡せしめられ、御身の周りに血の虹を現出いたします。姫の従者となって幾百年の年月を経ましたが、かくも荒ぶるお姿を拝するのは初めてでございます。身が縮むほどに凄惨ではございますが、そのお姿は鬼神でさえ、その凄絶な美しさにため息を漏らしたでありま...漆黒のブリュンヒルデ・001『我が名はブリュンヒルデなるぞ!』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 74『函谷関』

    鳴かぬなら信長転生記74『函谷関』市そいつは、崖の上から団扇みたいなのヒラヒラさせながら降りてくる。ゾロッとしたワンピースみたいなの上に、それよりも裾の長いガウンみたいなの着て、薄ら笑い浮かべながら降りてくる。こいつ、ルックスはまあまあなんだけど、きっと体の線に自信ないんだ。自信があったら、あんなゾロっとしたの着ないと思う。茶姫とかの三国志の美人は、みんなミニスカで、胸元も大きく開いたの着てるし。むろん、わたしの近衛騎兵のコスだって、胸甲の下はミニスカにニーソで決めてるし。茶姫はガーターベルトの留め具を赤いルビーで際立たせている。フフフ「シイ、何がおかしい?」「ううん、なんでも……」勝った!あ、いや、そいつは大したことないと思った瞬間、気まぐれな谷風が噴き上がってきた。ブワア谷風は、そいつのガウンとワンピを遠慮...鳴かぬなら信長転生記74『函谷関』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・53『いざ生きめやも』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち53『いざ生きめやも』男は暗い決心をした……こいつのせいだ。そして、これは千載一遇のチャンスだ。「ほんとうにありがとう。新曲発売になったら、よろしくね!」両手を振りながら、栞たちメンバーはピロティーのバスに向かった。「すみません。せっかくだから記念写真撮ってもらっていいですか!?」ハーーーーイ!元気のいい声がいっせいにした。ここまでは織り込み済みである。いわばカーテンコール。まずは、メンバーと生徒たちがグラウンドに集まって集合写真。それからは気に入ったメンバーと生徒たちで写真の撮りっこになった。「どうも、ありがとう。がんばってくださいね!」そんな言葉を五度ほど聞いて、わずかの間栞は一人になった。「ごめん、鈴木君」めずらしく苗字で呼ばれて、笑顔で栞は振り返った。その直後、栞は、顔と...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・53『いざ生きめやも』

  • せやさかい・307『来週から中間テスト』

    せやさかい・307『来週から中間テスト』さくらもう中間テスト( ゚Д゚)!?うちが驚くのんはいつものこと。つい、日々の面白いことやらビックリすることに気を取られて、毎年2/3の確率で叫んでは、人に呆れられてる。せやけど、こんどビックリして目ぇ剥いたんは留美ちゃん。「月曜から中間テストだね……」掃除道具を片付けながら、ナニゲに掲示板の『今月の予定表』を見てメグリンが呟いた。ほんで、教室の窓閉めてた留美ちゃんがショックで固まってしもた。「ああ……まだ三日あるねえ」「三日しかないのよ!」「え、ああ……せやねえ(^_^;)」「メグリン、ノートはちゃんととってる!?」「うん、とってると思う……」「ねえ、抜けとかミスとかないか確認しとこうよ!」「え?」「あ、うん、いいよ」留美ちゃんとは中一からの付き合いで、いまは、うちの...せやさかい・307『来週から中間テスト』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・52『風立ちぬ』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち52『風立ちぬ』紫陽花が人知れず盛りを終えたころ、夏がやってきた。あれだけ冷温が続いた春は、いつのまにか蝉の声もまびすしく、水分補給のペットボトルが手放せなくなった。さくやはMNBではパッとしなかったが、それでも選抜のバックコーラスやバックダンサーをさせてもらえるようになり、楽屋では自称「パシリのさくや」とニコニコと雑用をこなし、メンバーからはかわいがられていた。「ジャーン、この中に、当たりが一本は必ずあります!」スタッフの分を含め四十個のアイスを保冷剤をいっぱい入れてもらって、さくやが買ってきた。むろん制服姿で、宣伝を兼ねている。こういうパシリでは、制服でMNBということが分かり、ファンの人たちから声を掛けてもらえるので、さくや本人はいたって気に入っていた。「あ、わたし、当たり...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・52『風立ちぬ』

  • くノ一その一今のうち・3『風間そのの災難・3』

    くノ一その一今のうち3『風間そのの災難・3』朝、校門で呼び止められて、注意されたこと以外には不幸なことはなかった。予習が間に合わなかった英語も、前から順番にあてられて、あたしの前に座ってるAがもたついてるうちにチャイムが鳴って助かった。ほら、ナントカ坂46のAだよ。可愛いし、アイドルのハシクレだからいたぶりたくなる気持ちも分かるけどさ。英訳のBe動詞抜かしたぐらいでカラムことないと思うよ。オーラが通じたのか、チラッと振り向いたAは「テヘペロ」をかましてた。後ろの男子どもが胸キュンしてんのも伝わってきて……ま、いいんだけどさ。昼休みの学食、階段の最後の二段ジャンプしたのが功を奏したのか、B定食は、あたしで売り切れ!やったね。隣のA定食(B定食より50円高い)はとっくに売り切れてた。この瞬間に限っては、プロレタリア...くノ一その一今のうち・3『風間そのの災難・3』

  • 銀河太平記・109『ココちゃん』

    銀河太平記・109『ココちゃん』加藤恵ニ百何十年前は宮内省と云ったそうだ。昭和20年、大東亜戦争に負けてからは宮内庁と変わった。たかが『省』と『庁』の一字違いだけども、中身はまるで違うようだ。終戦前日の20年8月14日から15日にかけて、降伏を良しとしない第一師団の将校たちが、陛下の玉音放送のレコードを奪おうと宮内省を襲撃した時、宮内省の職員や侍従たちは体をはって玉音を守り、軍部のクーデターを阻止した。阿南陸相は割腹自決、第一師団長は殺され、師団の指揮権は反乱将校たちに握られていたが、それに怯むことなくよく耐えた。宮内省の任務は陛下と、その藩屏たる皇族・華族を護る事であった。それが、宮内庁と看板が替わると、長官はじめ高級職員は他の省庁からの退職組や出向組が多数を占めることになった。彼らの意欲は本来の任務よりも無...銀河太平記・109『ココちゃん』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・51『もらった南天』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち51『もらった南天』中間テストの初日であったが、朝から全校集会になった。「黙祷!」首席の桑田が号令をかけた。さすがに水を打ったように静かになった。一昨日、墓参りのあと、田中教頭が霊園の門前で急死したことを、校長の水野が簡潔に述べたあとである。一分間の黙祷が終わった後、校長は再び演壇に上がり、話を続けた。「田中教頭先生は、この春に淀屋橋高校から赴任されてこられたところで、赴任以来、本校の様々な問題について、わたしの女房役を務めていただきました。昨年わたしが本校にまいりましてより、我が校の改革に邁進してきましたが、今年度に入り、様々な軌道修正をしながら、本格的な改革案を練る作業に入ったところであります。その実務を裏で支えておられたのは田中先生です。先生を、突然失いわたしは両腕をもがれ...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・51『もらった南天』

  • 魔法少女マヂカ・273『虎ノ門を下見』

    魔法少女マヂカ・273『虎ノ門を下見』語り手:ノンコてっきり門があるもんやと思てた!「プ、なに洒落てんの(˘#艸#˘)」霧子に笑われてしまう。「せやかて、虎ノ門やねんから門があると思うやんか(#'O'#)ふつう!」「江戸城って無駄に大きかったから、明治の初めの頃に壊しちゃったのよ。昔のまんまだったら、大名屋敷しかなかったからね、そこを官庁街にしたから、門とか堀とか残したままじゃ交通に不便でしょ」もうじき起こるはずの虎の門事件を未然に防ぐために、みんなで虎ノ門付近に来てる。みんな言うても。マヂカとブリンダは富士山の頂上でファントムをやっつけた時、時空の狭間に呑み込まれて(たぶん、令和の時代に戻ってる)しもたさかいに、あたしと霧子。詰子(つんこ)とJS西郷は桜田門の方を見に行ってる。「摂政の宮殿下を乗せた車は赤坂御...魔法少女マヂカ・273『虎ノ門を下見』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・50『教頭 田中米造』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち50『教頭田中米造』すり切れた肩下げカバンから二つの真新しい写真立てを出した。微かに野鳥の声がしたが、屋内の仏壇式納骨堂だったので、とても微かで、ひょっとしたら幻覚かもしれないと思った。幅五十センチ、高さ百八十センチ程の納骨式仏壇は、まるで職員室のロッカーのようだった……いや、奥行きが三十センチあるなしの薄さなので、ロッカーよりも貧弱に見える。二十数年前、親類の紹介で見合いして、妻といっしょになった。妻は、娘といっしょに下段の納骨スペースに収まってている。事務所で、お経を上げる坊主を付けましょうかと言われたが断った。坊主といっても仏教系大学の学生アルバイトであることは百も招致である。自分で正信偈(しょうしんげ)の小さな経本を持ってきている。子どものお道具箱のような引き出しを開け、...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・50『教頭田中米造』

  • くノ一その一今のうち・2『風間そのの災難・2』

    くノ一その一今のうち2『風間そのの災難・2』凹んでばかりいられないので、ちゃんとスーパーで買い物をする。買い物は晩ご飯のあれこれ。ここんとこ、お祖母ちゃん不調だから、あたしがやってる。お祖母ちゃん、今年に入って晩御飯失敗してばかり。お味噌汁にお味噌入れ忘れたり、砂糖と小麦粉の区別つかなくなったり、金魚を三枚におろしたり。あと、炊飯器のスイッチ入れ忘れぐらいならいいんだけど、揚げ物、炒め物に失敗して、二回火事出しかけたし。危なくって任せられないから、夏の終り頃からは、あたしがやってる。たぶん認知症なんだろうけど、要介護認定……してもらわなきゃいけないんだろうけど、あたしも、お祖母ちゃんも、怖くって踏み切れない。要介護3とか出てさ、「一人にしてちゃいけませんね」とかケアマネさんに言われたら、介護付き老人ホーム入れて...くノ一その一今のうち・2『風間そのの災難・2』

  • やくもあやかし物語・139『蓄音機から聞こえてくるもの』

    やくもあやかし物語・139『蓄音機から聞こえてくるもの』Vic〇orの犬が聴いているのは何なんだろう?白虎にのせられていたっぽいと言っても、将門さまやメイド王が困っていたワンコ妖怪。そいつが本家のVic〇or犬といっしょに大人しく耳を傾けるんだから、そうとう良いものが聞こえていたはずだ。蓄音機は、相当にレトロなもので、そこいらへんのトラッドを気取った喫茶店のディスプレーって感じじゃない。う~~ん日本で言えば、明治か大正か……100年は経っているに違いない。ラジオ放送が始まったころだよね?テレビとかはまだ無かっただろうし。『蓄音機でラジヲは聴けませんよ』え?いっしゅんビックリしたけど、黒電話が喋っているのに気付く。受話器が少し上がっていて、そこの送話口から交換手さんの声が聞こえてくるんだ。チカコと御息所も気づいた...やくもあやかし物語・139『蓄音機から聞こえてくるもの』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・49『デビュー!』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち49『デビュー!』朝、校門近くの坂道で、さくやのお姉さんを見たような気がした……。しっかり者の栞は、人が気づく前に、こっちから挨拶ができる子である。幼いころに母が亡くなってからは、弁護士の父の足手まといにならないように、子どもながら家事一般はこなしてきたし、父の仕事柄、行儀作法も並の子よりはできる方である。だから挨拶はされる前にする。これがモットーであった。それが「あ」と思ったときには姿が見えなかった。ただ栞のことをニッコリ見つめ皇族の内親王さまのように手を振っていたような気がした。で、気がしたときには姿が見えなくなっていた。「ねえ、お姉さん、来てた?」妹の方は、すぐに目に付いた。下足室で上履きに履きかえようと片脚をあげたところに声を掛けたものだから、さくやはタタラを踏んで、クラ...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・49『デビュー!』

  • くノ一その一今のうち

    くノ一その一今のうち1『風間そのの災難・1』うまく言えないけど、普通ってあると思う。普通の成績とって、普通に進路が決まって、普通に進学だか就職だかして、普通に生きるってこと。普通に友だちできて普通につきあって、友だちのほとんどは女子で、ちょっとだけ男子の友だちもいて、その男の一人と結婚して……しなくてもいい。見合いでもいいしさ。結婚しても普通に働く。普通に子育てして、普通に年取っていく。家族葬やれるくらいのお金を残して、風間家先祖代々とかのお墓とかに入って、七回忌ぐらいまで法事やってもらって、十三回忌はうっかり忘れられて、そして無事にご先祖様の端くれになっていく。そうだよ、ひいばあちゃんの十三回忌、お婆ちゃんうっかり忘れてたもんね。次は十七回忌だっけ?たぶん忘れる、わたしもお祖母ちゃんも。でも、まあ、そういうの...くノ一その一今のうち

  • ピボット高校アーカイ部・7『先輩と川に入る』

    ピボット高校アーカイ部7『先輩と川に入る』くの字に曲がる小川の手前まで来て、先輩は立ち止まった。「ここを曲がった先、小川の向こう岸にお婆さんが現れる。そのお婆さんを観察するのが、今日の部活だ」「あ、そうですか」「念のため、靴と靴下は脱いでおいてくれ」「え?」「理由は聞くな、わたしも脱ぐから」そう言うと、先輩は器用に立ったまま靴と靴下を脱ぐ。たかが、靴と靴下なんだけど、ドキッとする。片足ずつしか脱げないので、脱ぐたびに先輩の片足が上がって、太ももの1/3くらいが露わになるし、くるぶしから下の生足が露出するし。「ズボンもたくし上げておいてくれ」「ひょっとして、川に入ります?」「可能性の問題だが、とっさに間に合うようにしておきたい。さ、行くぞ」くの字の角を曲がって薮に身を潜めると、向こう岸にお婆さんが現れて盥の中の布...ピボット高校アーカイ部・7『先輩と川に入る』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・48『それぞれの週明け』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち48『それぞれの週明け』トーストを咥えながら、駅まで走っている女子高生なんてドラマかラノベの世界だけだと思っていた。栞は、現実にやって、自分がドラマの主人公になったような気に……は、ならなかった。今日から中間考査の一週間前である。学年でベストテンの成績をとっていた去年までの栞なら、こんなには慌てはしない。父子家庭で、早くから主婦業を兼業……正確には、弁護士である父と半分こであるが、半分とは言え主婦をやっていることには違いない……ので、物事を計画的とか、順序立ててやることには自信があり、去年まで実態として存在していた演劇部と学業と家事の三人組を相手にするのは、『体育会テレビ』で、プロのスポーツマンが子どもを相手にするよりタヤスイことであった。でも、今は違う。MNB24の研究生になっ...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・48『それぞれの週明け』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 73『蜀の桟道ニコプン賞』

    鳴かぬなら信長転生記73『蜀の桟道ニコプン賞』市三国志を、四角い文字盤の時計に例える。0時の位置にあたるのが北部の首邑である豊盃。向かって右側の2時が酉盃で、その右隣2時10分あたりが辺境の前戦都市・懐古(皆虎)。我々は2時10分の懐古を出発。隣国・転生(扶桑とも云う)の南端を掠めるようにして左側、10時の卯盃(ぼうはい)に入って、一路、8時に位置する蜀の成都を目指している。え、ここを通るの!?思わず馬の手綱を引いてしまう。目の前には道に沿って渓谷が広がっていて、成都には、渓谷の崖にへばりついている細い崖路を通らなければならないんだ。道幅は広いところでも三メートルほどでしかなく、ところによっては道が途絶えていて、棚のように設えられている木製のキャッツウォークみたいなのを渡らなければならない。「蜀の桟道(さんどう...鳴かぬなら信長転生記73『蜀の桟道ニコプン賞』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・47『スリーギャップス』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち47『スリーギャップス』「栞、Bスタジオまで……ほら、急ぐ!」午前のレッスンが終わって、控え室でお握りを頬張っていたら、鼻に絆創膏を貼ったMNBの専属作曲家の室谷雄二に呼び出された。「は、はい!」栞は、お茶でお握りを流し込み廊下に飛び出す。室谷は、もうエレベーターの前にいて、エレベーターのドアが開きかけていた。「うわー!待ってえ!」慌てて、エレベーターに乗り込むと叱られた。「アイドルは、仕事以外では走らない!」「はい」気難しい人だと思った。「ほら、これ栞のパート」ナニゲに渡されたスコアに戸惑っているうちにエレベーターは一階上のフロアーに着き、あと二三歩でBスタジオというところで、室谷の背中にぶつかった。なぜかというと、室谷が急に立ち止まったからである。室谷は勢いでドアに顔をぶつけ...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・47『スリーギャップス』

  • 銀河太平記・108『新しいお隣りさん』

    銀河太平記・108『新しいお隣りさん』加藤恵2DKに住むようになるとは思わなかった。自分の家はおろか、自分専用の住居スペースというのが初めてだった。もの心ついたころには施設で集団生活。「まだ二年居られるのよ」という施設長の言葉を振り切って16歳から外で働いて、初めての二人部屋でも広かった。施設に居る時は6人部屋だったしね。紆余曲折あって天狗党に入ると、ずっと移動ばかりで、車やシップ、あるいは潜入先のあちこち雑多な場所を仮寝の宿にしていた。西之島のカンパニーに来てからはラボの仮眠室、倉庫の隅、ハナちゃんたちと名ばかりの女子寮の三人部屋……ここが一番長かったし楽しかった。西之島に市政がしかれて、人口が増えてくると、いつまでも秘密基地みたいなわけにもいかなくなって、ナバホ村にもフートンにも移住者が住み始める。それにつ...銀河太平記・108『新しいお隣りさん』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・46『家族写真』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち46『家族写真』「こんちわ、クロヤマタヌキの宅配便です!」ドアホンのカメラで宅配便のオニイサンを確認すると、美玲は代引きのお金とハンコを持って玄関に出る。今度は、カバン一式だった。リュックにも手提げにもなる優れもののメインバッグはAKBの『SOLONG』の持ち道具を思わせるようでカッコよかった。思い出が味方にな~る♪思わずワンフレーズが口をついて出てしまった。近江八幡の中学で使っていたものは、基本はビニールの手提げで、ストラップを調整することで肩から掛けられるようにもなっていたが、いま手にしている森ノ宮のものはリュック……鏡に映してみると、形がしっかりしていて小粋なランドセル。人工皮革だけど、緑地に細い赤のラインが入っていてオシャレだ。サブバッグは、同じデザインで、近江八幡の時と...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・46『家族写真』

  • せやさかい・306『通天閣の滑り台』

    せやさかい・306『通天閣の滑り台』さくらギョエーーーーーーーーーーー!十秒間叫びっぱなし!先に着いてたみなさんがニヤニヤしたり同情の眼差しを向けてくれたり……。シューーーーーーーーーーーー!あたしの後に、極超音速ミサイルみたいな音をさせて悲鳴もあげずに滑り降りてきたのは、さすがのソフィー!「ソフィーは可愛くない」最初に下りて、まだ涙目のままの頼子さんは不貞腐れてる。留美ちゃんとメグリンは、パチパチパチと無邪気に拍手。今日は、学校近くの公園の横までヤマセンブルグ領事館の車が来てくれて、みんなで開業間もないタワースライダーに来てる。タワースライダーっちゅうのんは、通天閣にできた全長60メートルのチューブ型滑り台。9日から営業してるから、当然――やってみたい!――という気持ちになるんやけど、料金が高い!一回10秒で...せやさかい・306『通天閣の滑り台』

  • やくもあやかし物語・138『残され犬がウロウロ』

    やくもあやかし物語・138『残され犬がウロウロ』ちょっと、あれを見てください……白虎をやっつけて、空き箱の中でグッタリしていると、アキバ子が声を上げた。「……なに?」「……なによ?」「……なんじゃ?」ノロノロと三人、空き箱の縁から首を出してアキバ子の指の先を見る。指先の『あれ』は、高速移動しているようで、アキバ子の指がせわしなく動く。動きに従って、三人の首も動くので、動物園のペンギンが餌につられて集団で首を動かすのに似ていると思ったよ。「「「あ」」」同時に気付いた。犬が、ウロウロオロオロと相棒の白虎を探しているのだ。「気が付いていないんですね……」「ククク……バカな犬よのう、土星の輪に溶けてしまったことが理解できないのじゃなあ」「意地が悪いわよ、御息所」「何を言う、わらわたちを、あそこまで苦しめた片割れじゃぞ。...やくもあやかし物語・138『残され犬がウロウロ』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・45『春の大遠足』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち45『春の大遠足』水野校長の数少ない功績がある。遠足を連休が終わってからにしたのだ。一年生だけは学年でまとまって遠足にいく。学年としての一体感を持たせたいという、これも校長の発案であった。職員は嫌がったが、校長が、とうに絶滅した宿泊学習を持ち出す気配だったので、この線に落ち着いた。もっとも、一体感をもって学校を改革しようという意思のかけらもない教職員にはなんの効果もなかったが。ただ、先月の栞の『進行妨害事件』で、府教委やマスコミから叩かれた時には、ささやかではあるが、学校が前向きな姿勢を持っている証左であると評価された。しかし、このことは教職員には伝えていない。「恩着せがましい」と思われるのが分かっていたからである。二三年生は、クラスごとに行き先を決める。現実には幾つかのクラスが...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・45『春の大遠足』

  • 魔法少女マヂカ・272『富士山頂決戦・3』

    魔法少女マヂカ・272『富士山頂決戦・3』語り手:マヂカうちらが上がってきた時には、カルデラの上にはまだ次元の狭間がインクの染みみたいに残ってた。ビョ~~~カルデラの縁を撫でるみたいにして風が渦巻いて、ちいさなカケラか埃みたいなもんが吹き上げられては狭間に吸い込まれていく。「すごい戦いだったんだ……」魔法少女とちゃう霧子にも、この風景を見て、ついさっきまでの激戦は想像がつくみたい。「みんな、あの次元の狭間に呑み込まれてしもたみたいやなあ……」「次元の狭間?」「うん、うちらが大正時代に来た時も、ああいうのに呑み込まれてきたさかい、ひょっとしたら、令和の時代に戻って行ったのんかもしれへん」「それに違いないよ、わたしも、あれと同じ狭間から出てきたんだワン」遅れて上がってきた詰子も手を庇にして次元の狭間を見上げる。「黒...魔法少女マヂカ・272『富士山頂決戦・3』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・44『美玲の転入試験』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち44『美玲の転入試験』美玲の転入試験は大阪城が見える応接室で行われた。つい四日前の大阪城でのことが思い出された。転入の説明を聴いたあと、新しいお母さん(乙女さん)は、ほんの気晴らしのつもりで連れて行ってくれた。むろん広々とした大阪城公園は気晴らしになった。生まれてすぐに近江八幡に行った美玲は、お城と言えば、遠足で行った彦根城しか知らない。彦根城は国宝ではあるが小さな平山城。どちらかというと、山の中の閉鎖性を感じさせたが、大阪城は石垣なんかはいかついけど、なんだか野放図な開放感があって、美玲は好きになった。そこで出会った青春高校の教頭先生の娘さんは、いま美玲が受けようとしている森ノ宮女学院の入試に受かり、その制服姿をお祖父ちゃんお婆ちゃんに見せに行く途中の事故で亡くなった。なんだか...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・44『美玲の転入試験』

  • ピボット高校アーカイ部・6『今日の部活はヘソパンから』

    ピボット高校アーカイ部6『今日の部活はヘソパンから』今日も、おへそで茶を沸かしている。と言っても、面白いことがあって笑っているわけではない。おへそ型のガスコンロでお湯を沸かして、お茶を淹れる準備をしている。「どうだ、ガスコンロでお湯を沸かすというのはドラマだろ」黙っていれば清楚な美人なんだけど、喋ると男言葉、ズッコケのセクハラ女。でも、時々すごいこと(いろんな意味で)を言ったりやったりする。お祖父ちゃんに部活の事を、つまり螺子先輩のことを離すと「そりゃ、自己韜晦だろ」という。ジコトーカイなんて言うもんだから、自我が崩壊していることかと思ったら――内面にすごいものを秘めていて、日ごろは、わざとバカなふりをして人に気取られないようにすること、している様子――なんだそうだ。クククク……ほら、また始まった。「鋲、きょう...ピボット高校アーカイ部・6『今日の部活はヘソパンから』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・43『美玲の連休』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち43『美玲の連休』「そんな立派なのいいです(^_^;)」美玲は遠慮のしっぱなしであった。この連休は美玲の部屋の調度を整えるのに、亭主の正一も乙女さんも、熱中のしっぱなしなのである。初日にベッド、机、本箱を買った。いずれも贅沢なものではなかったが、気品と堅牢さを兼ね備えた国産の木製のものが選ばれた。本箱などは、親の経験が前面に出て、二段スライド式で、文庫なども含めると五百冊は入るだろうというものが二つ用意された。「これに全部入るだけの本読んでたら、わたしお婆ちゃんになってしまう(=゚Д゚=)!」美玲の悲鳴に思わず成り立ての親は笑ってしまった。「ミレは今まで、図書館の本で済ましてたやろ」「はい、自分の本置いとくスペースもなかったから、机の上の教科書以外は図書館でした」「月に何冊くらい...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・43『美玲の連休』

  • せやさかい・305『後輩たちと二つの顔のソフィー』

    せやさかい・305『後輩たちと二つの顔のソフィー』頼子また走ってる……わたしの気まぐれに付き合って音楽室にやってきたソフィーが、せっかく弾けるようになったビバルディ―『四季』の春をカン無視して、ピアノに背を向けて呟く。ピアノの後ろは窓で、カーテンを少しめくって下界を見てるんだ。連休の狭間、六日の金曜日には「走ってる」って呟いたものだから、うる憶えのビバルディ―が走っているのかと、鍵盤の指を意識した。しかし、友だちモードのソフィーが見ていたのは、下界のグラウンドを走る一年生の三人。言わずと知れた、さくらと留美ちゃん、それに、近ごろお仲間になった古閑巡里(こげんめぐり)。いちばん小さいさくらが先頭で、ほとんどくっつくようにして留美ちゃん。そして後ろをノッポの古閑巡里。走るといっても、次が体育の授業というわけでもなく...せやさかい・305『後輩たちと二つの顔のソフィー』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・42『そうなんですか!』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち42『そうなんですか!』「そうなんですか!」三宅プロディユーサーの言葉に五期生のみんなが湧いて、栞一人が赤くなった。近ごろ流行りの「そうなんですか!」は、連休のレッスン中に思わず栞が発した言葉で、MNBの五期生の中で、ギャグとして定着したものだ。昨日は選抜メンバーがテレビの生放送でカマして大ケ。すぐに変化球の「うそなんですか!」が生まれ、MNBのギャグとして定着の兆しである。で、三宅プロディユーサーの「そうなんですか!」は、急遽決まった五期生のテレビ初出演を伝えたところ、みんなが「嬉しいです!」と、大感激したので、三宅がかましたギャグなのである。むろん、大いにウケた。統括プロディユサー杉本の肝いりで、こどもの日の特番生番組に、ガヤではあるが五期生の出演が急遽決まったのである。会場...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・42『そうなんですか!』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 72『宿営』

    鳴かぬなら信長転生記72『宿営』市卯盃(ぼうはい)での宿舎は、主に大商人の邸宅が使われた。いずれも兎角事業に参画していて、これからの事業で結構な儲けが見込まれる者たちだ。むろん一個師団規模の宿営全てを一軒の屋敷で賄われるはずも無く、いくつかの屋敷の他に寺院や道館、それでも収まらない兵たちは、広場や城壁の脇に幔幕を巡らせてキャンプしている。他に宿館が無いわけでもなく、並み以上の民家からは「茶姫さまの軍勢にお泊りいただきたい」という申し出もあったが「馬の世話もあるし、一般住民に迷惑を掛けたくない」ということで断っている。その謙虚な姿勢に――さすがは茶姫さま!――の声が上がって、茶姫の評判は上がるばかりだ。「せめて、差し入れをさせてください」街の者たちは、あまりの謙虚さに酒や食べ物を、進んで献上してくれる。「いやあ、...鳴かぬなら信長転生記72『宿営』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・41『田中教頭の娘』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち41『田中教頭の娘』田中教頭は、イタズラを見つかった小学生のようにうろたえた。「アッチャー!」乙女先生は、教頭のあわてぶりを、親しみをこめた感嘆詞で現した。「あ、スーツが!」美玲は、ポケットからティッシュを取り出すと、取り落としたアイスで汚れた教頭のズボンを拭き始めた。「いや、いいよいいよ。クリーニングに出すから」「せやけど、直ぐに、ちょっとだけ拭いとくだけで、ちゃいますよ」美玲は傍らの水道でハンカチを濡らし、固く絞ると、もっとも被害の大きかった右の膝を丹念に、ポンポンと叩きだした。「ミレちゃん、なかなかのダンドリの良さやな」「はい、母に……あの、習ってましたから」「せっかくやから、教頭先生、三人でアイス食べなおしましょ」乙女先生も、これまた見事な早業で、地面に落ちたコーンとアイ...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・41『田中教頭の娘』

  • 銀河太平記・107『須磨宮心子内親王』

    銀河太平記・107『須磨宮心子内親王』越萌マイ(児玉隆三)桜色のパンツスーツがとてもお似合いだ。心子内親王殿下のファッションは季節の先取りとファッション誌などで書かれるが、わたしは保護色なのだと拝察している。お若いに似ず、殿下の感覚には老獪と言っていい深さと穏やかさがある。春は桜か萌黄色、夏は柑橘系の黄色からオレンジ系、時に大海原のような青と白。秋はオリーブグリーンやライトブラウン、冬はアクセントに赤を配したホワイト。それを暦の移ろいに合わせてお召し替えになっておられる。それも、なるべく原色は避けて、ライトとかオフを冠する穏やかな色調にまとめておいでだ。季節の先取りと言われるのは、旧暦の季節に合わせておられると思うのは、ファッション小物を本業とする越萌姉妹社のCEOの感覚とも、保護色のスペシャリストである軍人の...銀河太平記・107『須磨宮心子内親王』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・40『森ノ宮女学院』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち40『森ノ宮女学院』桑田先生は臨時の入室許可書を作ることにした。理由は一つ、いや二つ、乙女先生が今日も休みなのである。乙女先生が転勤してきてから物の置き場所が変わった。それまで雑然としていた生活指導室を、徹底的にきれいにし、物品の置き場所を合理的にしたのだ。むろん乙女先生は、それについて説明もしたし資料も配った。しかし、みんなろくに話を聞いていない。それに、遅刻者に対する入室許可書は常駐の乙女先生が一人でこなしていた。で、携帯で聞くのも業腹、首席という沽券にもかかわる(と、自分では思っている)ので、自分で作ることにした。理由その二は、学校全体の緩みであった。栞の『進行妨害受難事件』以来、生徒は学校を不信……とまでは言わないが、軽く見るようになった。で、遅刻者が日に十人を超えるよう...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・40『森ノ宮女学院』

  • やくもあやかし物語・137『』

    やくもあやかし物語・137『白虎はお祭りでひっかけろ!』白虎って言えば……白虎隊よね……白虎の姿が地平線の向こうに見えなくなると、遠くを見るような目になってチカコが呟いた。「「「白虎隊?」」」御息所もアキバ子も、むろんわたしも直ぐにはピンとこないで、ギョッとする。今まさに白虎に追いかけられてるところだから、白虎に隊が付いてしまうと、白虎が団体で追いかけてくるみたい。ちょっと恐怖。「幕末にね、会津藩が最後まで官軍に抵抗するんだけど、お城の西側を護っていた少年隊よ」「西を護っていたから白虎なのじゃな」「うん、他にも朱雀隊とか玄武隊とかもあって、白虎隊は西からやってくる官軍と戦っていたの……お昼ごろに丘の上まで退却してお城の方を窺うと、お城の方からモクモクと煙が上がっているのが見えて『あ、お城が落ちた!』と落胆して、...やくもあやかし物語・137『』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・39『』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち39『乙女先生の休暇』鳥インフルエンザに罹ったとまで噂が立った。それほど乙女先生が仕事を休むのは珍しかった。「ご家庭の事情です」教頭の田中は、昨日の午後から十回は人に言っている。教頭も、転勤後わずか一カ月で、乙女先生が学校には無くてはならない存在になっていることを認めざるを得なかった。しかし、いったいなんの家庭事情なのか、教頭にも分からなかった。で、鬼の霍乱から、家庭不和、あげくは鳥インフルエンザに罹ったとまで噂がたってしまった。生指部長代理の桑田など、遅刻の生徒がきても叫ぶしかなかった。「入室許可書は、どこにあるんや!?」昨日は午前中授業があったので、それが済むと、銀行へ行って、幾ばくかのお金を下ろして、我が家へと急いだ。「ごめん、一人で心細かったやろ。さあ、忙しいでぇ。まずは...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・39『』

  • 魔法少女マヂカ・271『富士山頂決戦・2』

    魔法少女マヂカ271『富士山頂決戦・2』魔法少女の攻撃は、大きく分けて二種類ある。術式による魔法攻撃(マジカルアタック)と、剣や弓を持っての直接攻撃(ダイレクトアタック)よ。いずれの場合も、攻撃の直前に術式を唱えたり、気合いが入ったりする。術式詠唱なら「スプラッシュエコー!」とか「ミラクルビーム!」とか。気合いなら「セイ!」とか「ウリャーー!」とかね。ところが、将門・ファントム両雄の間に割り込むときは、その詠唱も気合も入れる余裕がない。ブン!ブリンダと二人、風を切る音しかしない。詠唱も気合いの叫びを入れる余裕がないのよ。ブン!ブン!ブブン!ブン!何度割り込んだだろうか、割り込む度にファントムに魔法・直接両方の攻撃を掛ける。攻撃の度に、ファントムが纏っている邪悪の欠片は飛び散るけど、ファントムの本性に至ることが無...魔法少女マヂカ・271『富士山頂決戦・2』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・38『栞は栞』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち38『栞は栞』この連休は全てレッスンである。覚悟はしていたが、やっぱり厳しい。休日のレッスンは昼休みを除いて六時間ミッチリある。まず、狭いスタジオの中を二十周ほど歩かされる。歩く条件は一つ「アイドルとして歩くこと」だけ。その間、二人のインストラクターの先生は、なにかしらメモをとっている。終わってもなんのアドバイスもない。次ぎに、MNBのストレッチ。一定の型はあるんだけど、そのストレッチの間、個別に指導が入る。どうやら歩かせているうちに、体の歪みや癖がチェックされていたようで、各自、それに合ったメニューが付け加えられる。栞は、それまで、自分の体に歪みがあるなんて思いもしなかったが。「栞は右脚に重心をかけすぎ。あんな調子で吹雪きの中を道にまよったら、大きく左側にそれて、一時間も歩いた...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・38『栞は栞』

  • ピボット高校アーカイ部・5『ゲートの向こうへ』

    ピボット高校アーカイ部5『ゲートの向こうへ』「じゃ、始めるぞ」「はい」前回と同じように魔法陣の椅子に向かい合って座る。グィーーーン遊園地のコーヒーカップが回るのに似ているけど、そこまでは激しくない。ガクンワッ!前回と違って、なにか引っかかったような衝撃があった。ムニュ一瞬遅れて胸に柔らかい衝撃。「すまん」「いえ(#^△^#)」衝撃で先輩が覆いかぶさってきている。「すまん」という割には平然としているようなんだけど、単なるドジなのかもしれない。胸は接触しているんだけど、腰から下は接触しないように全身を突っ張らかせている。「魔法陣そのものもメンテナンスが必要なのかもな……よっこいしょういち」「え?」「気にするな、つい古い掛け声が出ただけだ」前回とは逆向きで停まってしまったので、発見するのは僕の方が早かった。「あ、ゲー...ピボット高校アーカイ部・5『ゲートの向こうへ』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・37『美玲、父との対面』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち37『美玲、父との対面』人が固まるというのを初めて見た。家の玄関を開けて、美玲を招じ入れたとき、亭主の正一は呼吸するのも忘れたかのように固まってしまった。「勝手なことをして、もうしわけありませんでした。そやけど、これが一番ええ思てやりました!」乙女先生は、余計な気持ちが表れないように、大きな声で一気に詫びた。「な、なんで……」「美玲ちゃん。靴脱いで、スリッパ履いてついといで。正一さん、あんたもな」有無を言わせなかった、これからが二番目の勝負である。濁った言葉や、後腐れのある言葉は言ってもいけなかったし、言わせてもいけない。リビングのソファーに座らせると、乙女先生はペットボトルのお茶を三本置いて、直ぐに話に入った。「この十五日に美子さんが亡くなりました。その手紙が四日前いつもの封筒...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・37『美玲、父との対面』

  • せやさかい・304『GWは一里塚やで』

    せやさかい・304『GWは一里塚やで』さくら春のゴールデンウイークいうのは一里塚いう気ぃせえへん?学校やら会社やらの始まりは四月。新しい職場やら学校、学年、クラスで、いろいろ緊張。それを解してくれる一里塚。峠の天辺に茶店が並んでて、お茶店の前には、松とか楠とかの一里塚の大木がワッサカした緑の木陰を伸ばしてる。その茶店の縁台に腰かけて、ホッコリお茶を頂いてる。そんな感じ。四月は、ちょっと、もう初夏ちゃうん!?いうくらいの暑い日もあったけど、連休に入ってからの朝夕は、ちょっと寒いくらいの爽やかさ。生駒山もごりょうさんも、かすみ一つもかからんと初々しい若葉色。で、今朝は、家中のお布団を本堂の縁側に敷き並べて虫干し。虫干しの役得で、留美ちゃんとお布団の上でゴロゴロ。眠たなったら、このまま寝てしまおという、ずぼらぜいたく...せやさかい・304『GWは一里塚やで』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・36『美玲(みれい)』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち36『美玲(みれい)』カタを付けなければならない……車窓を飛んでいく景色を見ながら何度目か分からないため息をついた。ほんの五日ほど前のことである。『美玲友の会』から手紙が来ていた。宛名は佐藤正一、つまり亭主のことである。いつもなら亭主の机の上にそっと置いておく。いつもなら……。『美玲友の会』とは、ミレニアム、つまり2000年を記念にして連帯を組んだ教師仲間の親睦会で、数か月に一度泊まりがけで、青臭いというか阿呆くさい話題を種に飲み明かす会である……と、亭主の正一は言ってきた。封筒も大判の定形最大のもので、表には会の名前から「事務局」の先生の住所や、メルアドまで緑のインクで印刷されていて、宛名もパソコンで打ち出したシールで貼ってあった。そして、それはいつも月の初めに来ることが決まり...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・36『美玲(みれい)』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 71『兎の角』

    鳴かぬなら信長転生記71『兎の角』市南に折れて卯盃(ぼうはい)への一本道に入ると、城門のうさ耳はいやましに大きく迫って来る。おお!軍団の中からもどよめきが起こる。中軍が一本道に入るころにはうさ耳の間に『歓迎曹茶姫御一行様』横断幕が上がったのだ。横断幕は『曹茶姫』の部分が貼り付けてある。『曹茶姫』のところだけ貼りかえれば使いまわしができる仕組みだ。ちょっと無礼にも興ざめのようにも思えるが、茶姫自身は平気な顔をしている。城門そのものが大きいので距離感が狂う。遠目で見たよりも一回り大きいのが分かって来る。城門の上に屹立するうさ耳も、予想以上の大きさだ。縦に12メートル、最大幅は2メートルほどだろうか。うさ耳本体は書割のようだけど、内側にはしっかりした心棒が通っているようで、少々の風では揺るぎもしない感じがする。耳の先...鳴かぬなら信長転生記71『兎の角』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・35『初めてのブログ!』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち35『初めてのブログ!』激しい光が点滅します、小さなお子さんは、部屋を明るくし、画面から離れてご覧下さい。そうテロップが流れたあと、当惑した笑顔の栞と、テーブルの上の一億円が映し出された。栞が、切り通しの薮の穴蔵から発見したお金は、しめて一億円あったのだ!この一カ月余りで五回もテレビに取り上げられた。一度目は、今は停職中の教師達による「進行妨害事件」、二度目は、その事件の記者会見、三度目が梅沢忠興という教育学者との「テレビ対談」、四度目は「MNB五期生合格発表の記者会見」、そして五度目が、この「一億円拾得事件」。他に、お尻丸出し抗議事件による動画サイトなども含めると、この一カ月、日本でもっとも注目された高校生であろう。もっとも今回は、事が事だけに顔やジャージの学校名にはモザイクが...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・35『初めてのブログ!』

  • 銀河太平記・106『二人でタイ焼き』

    銀河太平記・106『二人でタイ焼き』越萌マイ(児玉隆三)大したもんだ……何度目か分からない呟きを漏らす孫大人。話の接ぎ穂のようでもあり、本当に感動しているようにも感じられる。市役所を馬(オートホース)で出たわたしと孫大人は、西之島北東部の新開発地区を歩いている。「辺野古の沖出し造成の技術も、ここまで進歩したんだねえ……日本人というのは、つくづくスゴイよ」「災い転じては得意技だが、ここまで昇華するのには幾百幾千の報われない努力と犠牲がある」「そうさなあ……」普天間基地の辺野古への移設は、23世紀の今日では噴飯ものの平和主義のために、予想・予定の十倍の無駄と努力が傾注されたが、副産物として埋め立て技術、浮体工法などの技術が飛躍的に進化。その技術や工法は、その後の二世紀で磨きがかかり、日本の専門分野のようになった。オ...銀河太平記・106『二人でタイ焼き』

  • 乙女先生とゆかいな人たち女神たち・34『謎の旅行鞄』

    乙女先生とゆかいな人たち女神たち34『謎の旅行鞄』足を踏み出したところで、空と地面がひっくり返った……。「イッテー……!」栞は、薮の中の穴に落ちてしまった。じきに制服に水が染みこんできて気持ち悪くなり立ち上がった。穴の底には細いひび割れがあるようで、それほどに水は溜まっていなかった。「水が溜まっていたら、溺れて死ぬとこだよ」なんとか、足場か手がかりになるものを見つけて上に這い上がろうと思った。「ええと……ええと……ん……なんだこりゃ?」土混じりの根っこたちの間に何かトッテのようなものに触った。わりとしっかりしているので、栞は、思い切って、それを掴んで上に這い上がろうとした。「うんこらしょ……キャー!!」トッテは急に外れて、栞は、再び穴の底に尻餅をついた。「あれ……」トッテには先が付いていた。かなり古いタイプの旅...乙女先生とゆかいな人たち女神たち・34『謎の旅行鞄』

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、大橋むつおのブログさんをフォローしませんか?

ハンドル名
大橋むつおのブログさん
ブログタイトル
大橋むつおのブログ
フォロー
大橋むつおのブログ

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用