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Soul and Belief 孤独な哲学者たち http://soulandbelief.seesaa.net/

苦悩した哲学者たちから現代をより良く生きるヒントを学びたいと思います。後に英訳も併記する予定。

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2014/12/18

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  • 125冊目『わたし、虐待サバイバー』羽馬千恵

    昨年、複雑性PTSDという言葉がマスコミを賑わせた際に、とある記事で本書を見かけ読んでみました。このブログでも過去に虐待を扱った作品は多数取り上げてきています。(『沈黙の壁を打ち砕く』『"It"と呼ばれた子』

  • 124冊目『妻を帽子とまちがえた男』オリバー・サックス The man who mistook his wife for a hat

    患者の経験している内面世界に迫ろうとした神経内科医オリバー・サックスの有名な短編集を読みました。端的に言って面白く、学びの多い濃密な本で、他の著書も読んでみたくなりました。冷静な科学者の視線で脳と心の不思議を探究しつつ、患者との心の交流を描いた症例報告であり、脳の多様性に目を開かれるとともに、結局みんな持っている魂の内奥は同じ、ということを教えてくれます。 第1章では、神経学は「欠損」の学問で…

  • 123冊目『彩花へ 「生きる力」をありがとう』山下京子

    読む者の魂を揺さぶる本であり、死者の「悼み方」を教え導いてくれるお手本のような本でした。本書も、前回と引き続き神戸連続児童殺傷事件の被害者側で書き紡がれた手記です。 本書を涙なしに読み切ることは難しいと思います。過去記事のなかで読後感として近いのは、東日本大震災で大事な人を亡くした被災者たちの霊体験をまとめた

  • 122冊目『淳』土師守

    本書は、1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件で殺害された、土師淳くんの父親による手記です。この父親が放射線科医と言うこともあってか、努めて冷静な筆致で書かれてはいますが、あのような残虐な仕方で息子を殺されることが、親にとってどういうことなのかを私たちに教えてくれます。 やはり、被害者側のまさに当事者からの真実の声を出すことは必要なのではないだろうか。 自分なりにいろいろと考えてみまし…

  • 121冊目『奇跡の脳』ジル・ボルト・テイラー My Stroke of Insight

    本書は、37歳という若さで脳動脈の奇形により脳卒中を発症した脳科学者が8年に及ぶリハビリを経て"復活"するまでを描いた闘病記です。過去にも脳卒中に倒れた日本のジャーナリストによる書『脳が壊れた』を取り上げていますが、こちらでは右脳に脳梗塞を起こしているのに対して、『奇跡の脳』の著者は左脳に脳内出血を起こし…

  • 120冊目『感じるオープンダイアローグ』森川すいめい

    『オープン・ダイアローグ』については、先駆者であるセイックラ氏らの著作を過去に取り上げました。本書は、オープンダイアローグが生まれた病院でトレーニングを受けた日本の精神科医がその実例を解説したものです。 オープンダイアローグ発祥の地ノルウェーの精神科医たちが行き着いたオープンダイアローグを形式的に実…

  • 119冊目『私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活』樋口直美

    本書は、レビー小体型認知症という、アルツハイマー病と比べると認知度の低い疾患を、若年で患うに至ったごく普通の主婦による闘病期(診断前後の日記)です。41歳ごろから体調を崩して鬱病と誤診され(この方の場合に初期には抑うつ状態としか診断できないのは医学そのものの限界ではある)、以来抗うつ薬が無効・逆効果であるにも関わらず長期投与を余儀なくされ、幻視が目立つようになった頃から自ら文献を読み漁り、この診断を…

  • 118冊目『絶歌 神戸連続児童殺傷事件』元少年A

    このブログで殺人を犯した人物の著書を取り上げるのは、美達大和の『人を殺すとはどういうことか』に続く2冊目ですが、今回の方は事件について匿名化が為されていないため、公開のブログで感想を書き残すのはやや憚られました。実際、報道などの情報も合わせると、元少年Aも出版社も遺族に無断で出版に踏み切り、遺族に大変なショックを与えたようです。しかし、本書には共有されるべき重要なことが書かれているに違いないので、…

  • 117冊目『胎児の世界』三木成夫

    比較解剖学において独創的な仕事を為し、人間の身体を生命進化の縮図と捉えた三木成夫(1925-1987)。1990年の全ヒトゲノム解読により、遺伝子の研究が全盛を迎える前に亡くなられたのが惜しまれる方です。 本書を読むと、人間の生命観が変わるかもしれません。発生学においては、以下のような格言があります。 個体発生は系統発生の短い反復であるp.221 人間は、人間に進化するまでの生命の記憶を…

  • 116冊目『天湖』石牟礼道子

    本書を今まで読まずにいたのは全くの不覚でした。 本書は、フィクションではありながら、『苦海浄土』の舞台、つまり水俣病・近代文明により喪失した世界を、異なるストーリーに乗せて語り直したものです。それも幻想的な世界を描きながらも、伏線を明示することで、ファンタジーならぬファンタジー、俗に言う2.5次元のような世界を書くことに成功していると思います。 「夢を含めて、向うの世界と現実の間はい…

  • 115冊目『脳の大統一理論 自由エネルギー原理とはなにか』乾敏郎・阪口豊

    まず本書のタイトルについてですが。 やや大袈裟であるため、難易度の高いサイエンスが展開され置いてけぼりを食らう覚悟もしていましたが、そのようなことはなく、著者たちが編集者との対話を繰り返す中で、かなり卑近な例も引き合いに出しながら難しい原論文を噛み砕いたという親切な内容になっています。例えば、ブルーバックスや講談社現代新書から、現代認識論入門、計算論的(精神)神経科学入門、フリストン認知科学入門な…

  • 114冊目『JR上野駅公園口』柳美里 Tokyo Ueno Station

    全米図書賞受賞と話題の本だったので読みました。 ホームレスや自殺をテーマにした本との事前情報ありで読み始めましたが、最後まで読むと本書のタイトルの重さにまずハッとさせられます。上野駅で自殺した男の話なのです。この『JR〜』はシリーズ化しているようですが、おそらくそれぞれの駅での飛び込み自殺の話なのでしょう。東京の電車網においては、飛び込み自殺は日常茶飯事でした。最近では飛び込みを防止する柵が設けら…

  • 113冊目『タコの心身問題 頭足類から考える意識の起源』ピーター・ゴドフリー=スミス OTHER MINDS

    本書は、哲学者が実際に海に潜ってタコとコミュニケーションをとりつつその生態に迫った本としても興味深く読めますが、タコという知的生命体を通して意識の起源を探った意欲作となっています。 本書を読む前に『意識の神秘を暴く』を読みましたが、この本の著者たちは、生物進化の歴史を踏まえ、様々な生物間における脳構造の異同を人間のものと比較することで、意識の謎に迫るという研究アプローチをとっています。人間に至…

  • 112冊目『脳はいかに意識をつくるのか 脳の異常から心の謎に迫る』ゲオルク・ノルトフ NEURO-PHILOSOPHY AND THE HEALTHY MIND

    脳については、その構造があまりにもミクロかつダイナミックで、機能が複雑であり、現在のテクノロジーでは理解の及ばないことが多すぎるため、既知のことと未知のこととを整理しつつ、一歩一歩仮説を検証していく作業がとりわけ大事になります。実験により得られた結果から推論して矛盾のない仮説を模索することは、知を愛する営みとしての哲学そのものでしょう。おそらくそのような事情からでしょうが、一部の学者の間で、「神…

  • 111冊目『意識と自己』アントニオ・ダマシオ The Feeling of What Happens

    本書の読後感は、井筒俊彦の著作に触れた後のものとよく似ています。井筒は、賢者たちの数千年に及ぶ内省の結集たる宗教哲学の言葉に導かれて意識の探求を企てたのに対し、本書の著者ダマシオは、当時(1999年)の科学的エビデンスと神経科学者・精神科医としての臨床知を武器に意識の問題に取り組んでいます。 両者に共通するのは、広範な文献検索をもとに、自らの仮説を構築していることです。その内実についてごく簡単に比較…

  • 110冊目『LIFE SPAN 老いなき世界』デビッド・A・シンクレア

    本書では、老化とはどういったもので、どうすれば老化を「治療」することができるのかという最新の研究を、遺伝学の分野で解説しています。本書の後半では、それに基づいて、人の健康寿命が伸びることによる社会への影響や、老化を食い止めるために具体的に何をすべきかという助言も記しています。 本書の推奨する生活習慣において基本とすべきことは、本ブログで過去に取り上げた71冊目『アルツハイマー病 真実と終焉』とお…

  • 109冊『量子力学で生命の謎を解く』ジム・アル=カリーリ他 Life on the Edge

    生命について、人々は学者も含めて解った気になっているか、あるいは知らないふりをしているけれども、根本のところは実はまだほとんど謎に包まれている、ということを再認識させてくれるスリリングな本でした。現在に至る生物学の流れは、1953年に提唱されたDNAらせん構造の発見に端を発しており、化学の手法によって細胞やDNAの構造や機能を分析する分子生物学が興隆を極めてきたわけですが、そこには明らかに忘れられた視点が…

  • 108冊目『脳が壊れた』鈴木大介

    本書の著者は、虐待や発達障害などが原因で社会から足を踏み外した若者たちを追ってきたフリーの記者です。41歳という若さにして脳梗塞を発症するのですが、本書は病気になって発見したことを言語化した闘病記となっています。 障害されたのは右脳であり、言語を司る左脳は守られたおかげで、本書が誕生しました。また、比較的早期に病院で治療を受けることができたため、他の脳卒中患者と比べると、著者の機能の喪失は軽度で…

  • 107冊目『コネクトーム 脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか』セバスチャン・スン CONNECTOME

    コネクトームプロジェクトをご存知でしょうか?コネクトームとは、接続を表す「connect」に全てを表す「ome」を掛け合わせて作られた造語であり、脳の神経回路全てを指します。遺伝子の全て=ゲノム「gene+ome」と環境との相互作用で形成されるのが、まさに私たちの脳であり、そのコネクトームだということができます。30億塩基対を解読したヒトゲノムプロジェクトに対して、コネクトームプロジェクトでは、1000億個のニューロン…

  • 106冊目『意識はいつ生まれるのか』ジュリオ・トノーニ

    著者は、長年にわたって睡眠医学の発展に貢献し、「統合情報理論」により意識の科学にも一石を投じた精神科医です。睡眠とは、意識を喪失する体験として動物にありふれた行動で、それでいて現在に至るまでその決定的なメカニズムが解明されていない不思議な生理現象です。睡眠から意識の研究へとシフトしていった経歴がまず面白いと思います。 本書は、意識とはどういうものなのか知りたい人にとって非常にスリリングな読み物…

  • 105冊目『クオリアと人工意識』茂木健一郎

    人工知能の「否定神学」から、「クオリアと人工意識」に焦点を当てた「肯定人間学」へ。pp.358-9 人工知能の研究が世間を賑わせるなか、「人工意識」についてはまだ耳慣れないという方も多いのではないでしょうか?そこで自分も本書を手に取りましたが、人工意識の具体的な形についてはまだほとんど何も分かっていないということ、そして人工知能をいくら発展させても、その延長線上で人工意識が創…

  • 104冊目『自閉症の脳を読み解く』テンプル・グランディン The Autistic Brain

    著者グランディンは、動物学博士でコロラド州立大学の教授を務めていますが、自閉症の当事者として、その啓発活動にも積極的に取り組んできた人物です。いわゆる高機能自閉症と言われてきたタイプです。そんな彼女が、自らの経験と、2010年代前半までの当時最新の論文を元に著したのが本書で、以前このブログでも取り上げた大隅典子先生の『脳からみた自閉症』とおおよそ同一の知見に基づいています。自閉症と定義される疾患は、…

  • 103冊目『脳の意識 機械の意識』渡辺正峰

    「あなたはニューロンの塊にすぎない」p.51 この言葉はDNAの二重らせん構造を解明し、後に脳科学に転向したクリックが言い残した言葉だそうです。地球上でありふれた物質から構成された電気回路に過ぎない脳が意識をもつ不思議は、このニューロン(神経細胞)の変哲のなさにこそ還元することができるでしょう。意識も、記憶も、思考も、感情も、人間の心を形作るすべての活動が、ニューロンの賜物なの…

  • 102冊目『自閉症だったわたしへ』ドナ・ウィリアムズ Nobody Nowhere

    発達障害の当事者による読み応えある一冊でした。 本書は、周囲の理解を得られずに並々ならぬ苦労をしてきた著者が自分の居場所をついに見つけ、真の自分自身となるまでの人生を振り返る自伝です。自伝というものは、多くの場合に、読まれることを想定して書かれるだろうと思いますが、本書はそうではないといいます。ただ、自分だけのために書かれた私秘的な記録だったというのです。そして彼女は「物真似が得意中の得意」で、…

  • 101冊目『「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」』櫻井武

    本書は、現在汎用されている睡眠薬ベルソムラの開発にも繋がった神経ペプチド"オレキシン"の発見者によって書かれた「こころ」についての本です。「こころ」の実体を「情動」に見出し、大脳新皮質を持たない下等な生物も備えるものとしています。 脳は進化学的には増設が繰り返されてきたと考えられています。人類が大きく発達させたものが大脳新皮質であり、これは認知や思考といった高次の機能を司るわけですが、脳に向かっ…

  • 100冊目『脳からみた自閉症 「障害」と「個性」のあいだ』大隈典子

    本書は脳科学の観点から書かれた発達障害についての本で、子供の育て方は自閉症を強化することはあるかもしれないが、神経発達や遺伝子にすべからくその素因がある、という立場で書かれています。中高生を対象読者としたブルーバックス文庫から出版されており、非常にわかりやすい解説がなされていますが、その内容は研究の最先端を紹介するというものであり、この方面に明るくない人には勉強になること間違いなしです。複雑極ま…

  • 99冊目『毒になる親 一生苦しむ子供』スーザン・フォワード TOXIC PARENTS

    問題のある親が行う虐待と子供の立ち直りについての本なのですが、「毒親」という密かな流行をみせている造語の出典だということで読んでみました。実際、「毒親」をグーグル検索すると、300万件以上ヒットします。英語で「toxic parents」を検索すると30万件と少ないのが気になりますが、たとえば「toxic parents」を含む洋書はここ数年だけでも複数の著者によって出版されています。日米文化圏でともに受容されつつある言葉で…

  • 98冊目『ポリヴェーガル理論入門 心身に変革をおこす「安全」と「絆」』ステファン・W・ポージェス

    ポリヴェーガル理論(The polyvagal theory)とは副交感神経を代表する迷走神経についての新しい理解とその重要性を説く理論です。この理論を提唱するポージェス博士は、迷走神経研究の第一人者で、イリノイ大学の名誉教授、インディアナ大学のトラウマ研究センター長であり、評価されてきた今までの成果をまとめたものがこの理論となっています。 ポリヴェーガル理論は、諸々の精神疾患について新しい知見を提供してくれるだけ…

  • 97冊目『生きがいについて』神谷美恵子

    精神科医の神谷美恵子(1914-1979)が本書の構想を得たのが、1957年頃だといいます。そして出版されたのは1966年。このとき日本人は戦後数十年を経て、食うにも困っていたときには考える余裕もなかった心の豊かさを求め始めたのだと思います。 彼女は、ハンセン病患者たちの隔離施設であった長島愛生園(岡山県)で長らく精神科医を勤めました。ハンセン病は精神疾患ではないため、現在で言えば、がん患者の精神的なケアを行う「…

  • 96冊目『人を殺すとはどういうことか 長期LB級刑務所・殺人犯の告白』美達大和

    94冊目『凶悪犯罪者こそ更生します』の岡本茂樹氏が一見反省しているようにみえても今だ父に刷り込まれた価値観を捨てきれず社会に出たらまたトラブルを起こしそうな受刑者の例として挙げていた美達大和の著書を読みました。彼は無期懲役中で刑務所から書かれた本です。 子供がそのまま大人になったような在日朝鮮人の父が彼の人格形成に大きな影響を与えました。父は金融業で財を成しヤクザにも恐れられた存在だったそうで、…

  • 95冊目『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治

    まずタイトルについてですが、これは精神科医の著者が少年鑑別所でとある非行少年に知能を測る課題を出してみた話に基づきます。それは「丸いケーキがあります。これを平等になるように3つに分けてみてください」というごく簡単なものです。小学校低学年であればこの課題をクリアできない子も少なくないといいますが、その少年は中高生。しかし、ふざけているわけでもなく何度書き直しても、正しい答えに辿り着かなかったといい…

  • 94冊目『凶悪犯罪者こそ更生します』岡本茂樹

    『いい子に育てると犯罪者になります』も併せて読みましたが、中高大の教員を勤め、刑務所でも心理学の見地から受刑者の更生プログラムをボランティアで作りそれを実践していた著者の、経験に根ざした哲学が非常に参考になりました。 本書には深い人間理解が示されていますが、著者の主張するところは至ってシンプルだと思います。それは「抑圧」は人格を歪めるということです。そして抑圧は、社会の中、言語の中、あらゆると…

  • 93冊目『つみびと』山田詠美 SINNERS

    本書は、2010年にあった大阪二児置き去り死事件を題材にしたフィクションです。事件についての参考文献が3冊挙げてあり、重要なプロットについては事実をなぞっていると思われますが、主に母親、祖母、子供たちの立場で描写される具体的な言動については大部分が作者の想像力で構成されています。 虐待の連鎖についての話です。母親と祖母の受けた虐待の物語が重ねられるように交互に展開され、3歳と1歳の子のあまりにも短い…

  • 92冊目『「うつ」は炎症で起きる』エドワード・ブルモアThe Inflamed Mind

    71冊目で『アルツハイマー病:真実と終焉』を取り上げました。その内容は脳・神経系と栄養、炎症、毒物等との深い関係を解説するものであり、またアルツハイマー病の成立は一筋縄ではなく、それが多様な原因の積み重ねで発症することを強調するものでした。そしてこうした慢性疾患にはバケツに開いた無数の穴を全部埋めるように対処する必要があるので、単一の薬剤(脳に沈着するアミロイドβのみを標的にするといった)によっては…

  • 91冊目『マッド・トラベラーズ:ある精神疾患の誕生と消滅』イアン・ハッキング

    アメリカ精神医学会やWHOの診断マニュアルにおいて、「解離性遁走」という疾患が残っているそうです。現代で診断される人はほとんどいないのにもかかわらず。 19世紀末に流行し、まもなく消滅していった疾患がこの解離性遁走であり、この診断を受ける者は、突然それまでの生活に別れを告げ、あてもなく旅立つと、夢うつつのなかでどこまでも彷徨い歩いていくといいます。まるで遊牧民になったように、ユダヤ人になったかのよ…

  • 90冊目『計算論的精神医学:情報処理過程から読み解く精神障害』国里愛彦、片平健太郎他

    計算論的精神医学(Computational Psychiatry)なる研究分野がにわかに注目を集めているようです。この研究者が米国立精神保健研究所の所長だったり、日本でも慶応大学医学部にこの研究室ができたりしています。 この学問は「精神障害患者の示す特徴的な行動や神経活動に関して、その背景にあるプロセスを数理モデルによって明らかにする」(p.19)ものと言われている通り、元々は神経科学でこのようなアプローチが取られていたよ…

  • 89冊目『"It"と呼ばれた子』デイヴ・ペルザー A Child Called "It"

    現在児童支援施設で活動しているという著者。その著者自らが幼い頃に母親から受けた壮絶な虐待を回想しているのが本書です。解説で香山リカも言っていますが、虐待された当事者がここまでのものを書けたというのがまず凄い。本書を読んだ精神科医たちは、これが本当に事実であるかどうか半信半疑だったそうです。それから、受けた虐待の内容がまた凄い。暴力と食事抜きは日常茶飯事、盗み食いしたのがバレると腹を殴られて吐かさ…

  • 88冊目『魂でもいいから、そばにいて 3.11後の霊体験を聞く』奥野修司

    奥野氏は大宅壮一ノンフィクション賞受賞作家で、この賞の第一回受賞予定だったのは石牟礼道子です(彼女は受賞辞退)。本書も彼女の『苦海浄土』と同じように遺族たちの肉声から構成され、読む者の情動を揺さぶる"ノンフィクション"の力強さを備えています。3.11と霊体験とをテーマとした作品は他にも複数ありますが、本書の特色はそのように対話篇であることです。同様の取材がなされても、対話を削ぎ落として、エッセンスを抽…

  • 87冊目『人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医・清水研と患者たちの対話』稲垣麻由美

    本書は国立がん研究センターの精神腫瘍科長清水研先生と患者たちの対話をまとめたものです。ある日突然死を目の前に突きつけられた患者さんが再び生きようと立ち直るまでの葛藤が記録されており、精神腫瘍科というまだ認知度の低い診療科についても勉強になりました。 精神腫瘍科とはサイコオントロジーの和訳であり、オンコサイコロジーではないのがミソです。というのは不安を取り除く精神療法によって癌患者の余命が有意に…

  • 86冊目『安全・領土・人口』ミシェル・フーコー

    タイトルからテーマが分かりにくい本書。フーコーは講義の中で「統治性の歴史」と銘打ってもよかったと語っています。自分としてはこれを近代国家で統治の根幹をなす「統計学の誕生」に迫った講義として記憶に残したいと思います。統計不正問題に揺れる日本では、まさに統治が上手く行っておらず、国家として機能不全を起こしていることが分かります。しかし、統治とは、その負の側面を平たく言えば、支配、洗脳とも言い換えられ…

  • 85冊目『アウシュヴィッツ収容所』ルドルフ・ヘス

    世人は冷然として、私の中に血に飢えた獣、残虐なサディスト、大量虐殺者を見ようとするだろう。ーーけだし、大衆にとって、アウシュヴィッツ司令官は、そのようなものとしてしか想像しえないからである。そして彼らは決して理解しないだろう。その男もまた、心をもつ一人の人間だったこと、彼もまた、悪人ではなかったことを。 ドイツ敗戦後にホロコーストの責任を問われて処刑されたアウシュヴィ…

  • 84冊目『沈黙の壁を打ち砕く』アリス・ミラー

    悲惨な虐待事件が相次いでニュースで取り上げられ、児童相談所の権限強化など社会制度が変わろうとしています。実際、虐待事件数は急増する一方であるようです。社会資本としての家族というものの形が変質を余儀なくされている今、子供の生と命を守るための一歩進んだ方策が求められています。「孤独」が疫病であるならば、「虐待」も紛れもなく疫病であり、しかも虐待の連鎖というように次世代に引き継がれる遺伝病の側面さえあ…

  • 83冊目『あやとりの記』石牟礼道子

    石牟礼道子が逝去されてから1年以上が経ちました。彼女の残した水俣受難史としての『苦海浄土』は日本で生まれた聖書のようなものであり、普遍性を備えたその精神をこれから益々読み継いでいかなければなりません。時代の病巣は水銀が公然と垂れ流しにされた当時と何も変わっていないと思うからです。自分も彼女の全集に少しずつ取り組んでいきたいと思っています。 彼女は本を読み通すようなタイプではなかったと言われてい…

  • 82冊目『心臓を貫かれて』マイケル・ギルモアShot in the heart

    村上春樹による翻訳なので読みました。本書についても翻訳書では通常は使われないようなこなれた表現が多く小説家でなければできない訳業となっています。 著書のマイケル・ギルモアは全米の死刑廃止の潮流を変えた死刑囚ゲイリー・ギルモアの実弟です。ゲイリーは1940年生まれで学童期より問題行動を繰り返し、ついに1976年に金目的で無実の店員2人を連続殺害すると、逮捕後には自ら処刑されることを要求します。それにより…

  • 81冊目『自己と他者の統治』ミシェル・フーコーLe gouvernment de soi et des autres

    晩年のフーコーは、講義で「真実を語る」という意味の「パレーシア」という概念の歴史をギリシャ・ローマ・キリスト教時代の数千年にわたって掘り起こし、それに多様な意義を見出しつつ、現代に使えそうな倫理のヒントを探っています。本書では、キリスト教の「パレーシア」が論じられる最終講義『真理の勇気』へ繋がっていくソクラテスらの「パレーシア」が中心に考察されています。 このパレーシアという言葉ですが、「真実…

  • 80冊目『永山則夫 封印された精神鑑定』堀川惠子

    1968年に米軍基地から盗みだした拳銃を使って全国各地で4人を殺害した連続射殺魔事件。翌年逮捕されたのは19歳のひ弱な少年でした。本書では、1997年に死刑執行された彼、永山則夫の精神鑑定を担当した石川義博医師から託された鑑定書と100時間を超すテープレコーダーを中心資料として、以前より永山の足跡を追っていたジャーナリストの著者が、永山をして凶行に向かわせた家族と虐待の問題に迫っています。 逮捕された当初の…

  • 79冊目『精神医学と制度精神療法』ジャン・ウリ

    著者のジャン・ウリは、フェリックス・ガタリが勤務していたラ・ボルト病院の創設者であり、ラカンに長年師事した精神科医です。そのラカンには賛同してもらえなかったとも言われていますが、本書では「制度精神療法」という自身が重視した治療法の立場を表明する論文集となっています。それは端的に言えば、以下のように、生活の場における有形・無形の構造=関係の網目に発生するミクロな「制度」に配慮することを治療で重視す…

  • 78冊目『裁かれた命 死刑囚から届いた手紙』堀川惠子

    本書は、NHKのディレクターである著者が2年間にわたる取材をまとめたものであり、インタビューした何人もの関係者たちの重層的な声で構成されています。関係各所に出向く徹底的な取材により死刑囚長谷川武の実像と司法の問題点を浮かびあがらせる読み応えある本です。 主人公は、死刑存置論者で知られる元最高検察庁検事の土本武司と、彼自身が死刑で起訴し後に文通した死刑囚の長谷川武です。土本は、長谷川の取り調べを行い…

  • 77冊目『異常者たち』ミシェル・フーコー

    フーコーの講義録を読みましたが、論理展開が親切であるため分かりやすく、内容も非常にスリリングで、フーコーの凄さを改めて思い知らされました。『私は花火師です』というインタビューのなかで、彼自身も言ってましたが、面白いものを書こうとしているのが伝わってきます。自分を歴史家でもなく、哲学者でもなく、花火師だと語る彼。ニーチェは自らをダイナマイトに例えましたが、それよりは控えめですね。しかし、知を愛する…

  • 76冊目『ピエール・リヴィエール』フーコー

    われわれは、精神医学と刑事裁判とのあいだの諸関係の歴史を研究しようとしていた。その過程で、このリヴィエール事件に出会ったのである。p.17 本書はフーコーらが歴史に埋没していたリヴィエール事件を発掘し、犯人の手記や精神鑑定書に、裁判記録や新聞記事、それと合わせて論考も付した内容となっています。 「われわれにとって本質的なことは、これらの文書を出版することであったp.27」と語る…

  • 75冊目『出エジプト記』Exodus

    今回は出エジプト記の味わい方について。 本書は前半ではエジプトで奴隷に甘んじていたユダヤ人たちが神の声を聞いたモーセに率いられてエジプトを脱出する歴史が語られ、後半は神がモーセに授けた律法から構成されます。こうした書を興味深く読むためには、どういったことを考えながら読んだらよいかという話ですが。 行間から倫理を読み解くことが出来ます。 本書はex-odus、「外部」への移動を表す接頭詞exで表される通…

  • 74冊目『教誨師』堀川惠子

    教誨師という役職があります。 死刑囚との面会が家族以外で許された唯一の人たちで、その活動内容を公言することは禁止されていることから、その存在は私達にはあまり知られていません。僧侶や牧師がその任にあたっており、日頃の面会から、死刑に際しての立会まで、ボランティアで行われているそうです。 本書は、浄土真宗の教誨師がジャーナリストの著者に告白した半生を軸に編まれ、刑場の「守秘義務」が免除される死後に…

  • 73冊目『黄泉の犬』藤原新也

    2018年7月、オウム真理教教祖麻原含む13名の死刑執行がなされたことで世間は騒然としました。それは一度に行われる死刑として例を見ない人数だったからであり、また教祖の神格化が懸念されるため死刑が容易にはなされないものと考えられていたからであり、残された元信者による報復を恐れる声もあったからでしょう。平成の総括という意味合いを感じ取った人も多かろうと思われますが、長きに亘った裁判をとおして、口を固く閉ざ…

  • 72冊目『大量殺人の"ダークヒーロー"なぜ若者は、銃乱射や自爆テロに走るのか?』フランコ・ベラルディHeros:Mass Murder and Suicide

    挑発的なタイトルの本です。 著者は、個人主義や競争主義が極北にまで達し閉塞している現代では、自殺を伴う大量殺人が「生の表現」として機能していると主張します。つまり、それは自殺という形で復讐や犠牲を遂行し、マスコミの報道やネットにより作品化させることで、人々の記憶の中に「永遠の生命」を刻み込もうとする行為だというのです。世界中の若者による銃乱射事件や自爆テロがなぜ起こり、何を目的として行われている…

  • 71冊目『アルツハイマー病 真実と終焉ー"認知症1150万人"時代の革命的治療プログラムー』デール・ブレデセンThe End of Alzheimer's

    昨年アメリカの公衆衛生局元長官が「孤独こそがあらゆる健康・社会問題の根底にある」と警鐘を鳴らし世界中で話題になりました。これを受けてかイギリスでは今年より社会に蔓延する孤独問題を取り扱う「孤独担当大臣」なるポストが新設され、これまた世界の注目を集めました。孤独は喫煙よりも体に悪いということが明らかになりつつあるそうです。今回はそんな"孤独"に栄養が効くかもしれないという全米ベストセラーを一冊。現代…

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