いやあ、参っちまいました。「6月に誕生日を迎えられたので、身体検査をしますなんて、月一回の定期検診でいわれました。「体重は……。あらあ、大台ですねえ、80.5kgです」「身長は……。あらあ、縮んじゃいましたねえ、171.3cmです」「あらあ」が、口ぐせの看護師さん。すこし、ショックが和らぎましたけど……。でもほんとに、「あらあ」でした、ものの見事に。じつは、もういっちよ!「あらあ……。お腹周り、81cmですねえ。メタボの更新ですねえ……」身体検査
結局、多賀SAに入りこみました。あきらめて昼食を摂ることにして、コンビニ弁当を車内で食しました。空腹時ってイライラするでしょ?事故ったりしたら大変ですからね。多賀SAといえば、若いころに近江牛のすき焼き弁当を食していましたが、現在はあるのでしょうかね。1,000円近い、とうじとしては結構な値段でした。仕事で半年に1回ぐらいでしたかね、名神高速を走ったおりに購入していました。ああそうか、上りのSAだけだったかな?すき焼き弁当が置いてあったのは。旅行から帰宅した後にパソコンでの検索で分かったのですが、SL(蒸気機関車D51)が展示してあるんですね。いやあ、懐かしいなあ。子どものころにSLで小学校に通学していたんですよ。まあそのお話は後々にということで。さあもういいでしょう、渋滞解消といきたいですよね。大して走...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(九)結局、多賀SAに
[ライフ!] ボク、みつけたよ! (三十六)そんなある日のことです。
そんなある日のことです。降車の段になって、定期券を忘れてきたことに気が付きました。もう、ドキドキですよ。「ていきけん、わすれました。ごめんなさい」。ひと言そう言えば、大目に見てくれると思います。でも、言えないんですね。そのまま顔パスしちゃったんです。ひょっとしたら、顔を真っ赤にしていたかもしれません。案外、車掌さんはお見通しだったかも?です。ところで不思議なのが、バスの顔パスは覚えているのですが、汽車はどうしたのか……。当然のことに、汽車も定期券です。どうやって降りたのでしょうか?誰か、教えて下さいな。問題は、帰りです。もう顔パスは通用しません。学校から駅まで、どのくらいの距離だったか。歩いて駅まで行ったと思います。駅まで行かなければ、家まで帰るルートが分からないのです。現代のようなスマホによる地図検索な...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(三十六)そんなある日のことです。
愛の横顔 ~RE:地獄変~ (十三)大学内だけのことではありませんで
大学内だけのことではありませんで、坂田善三さまがよくご存じの会合においても、理論をお教えになられているとか。アジ演説の原稿なども三郎さまのお手になるものですのよ。とにかく、たくさんの方たちから頼りにされているので時間がいくらあっても足りない、といつもこぼされています。なのに、こんなわたくしのために時間を割いていただけるのですから、ほんとうに感謝のことばしかありません。三郎さまにはじめてお目にかかったのは、もう十月に入ったというのにすこし動いただけで汗ばむほどの日でございました。いつものように三人組での下校途中のことでした。とつぜんに一子さんがおっしゃるのです。「みなさま方。すこし涼んでいきませんこと?こんなに暑い中を歩きづめで、どちらかがお倒れになられては大変です。あそこの神社でひと休みいたしましょうよ」...愛の横顔~RE:地獄変~(十三)大学内だけのことではありませんで
[ライフ!] ボク、みつけたよ! (二十一)血の池地獄ですね、
血の池地獄ですね、そうでした。ちょっと気を許すと、すぐに横道にそれちゃいます。性格が移り気というわけではないですよ。気が散りやすい、これは当てはまるかもしれませんが。どこが違うんだ!とお叱りを受けそうですが、集中するときは集中しますんでね。はい、これからは愚痴のオンパレードになります。覚悟して読んで下さいね。「いままでだって十分に愚痴だらけだったぞ」ですって?すみませんねえ、わたし自身はそんな風には考えていなかったものですから。googlemapで確認しますと、「距離は2.6kmで、歩いて34分」とあるんですよね。それで、地図上に貴船城があるのですが、右手に見ながらのルートになっています。が、が、です。わたしは左手に見ながら歩いたわけです。ということは、より海岸寄りに歩いたことになります。時間にしても、実...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(二十一)血の池地獄ですね、
たまたま五平が留守をしていて、たまたま小夜子が出先からもどりひと息を吐いていたとき、そしてたまたま徳子が銀行にでかけていて、さらにはたまたま竹田が裏の倉庫にいたときのことだ。この四つのたまたまというか偶然が重なりあういうことは、天文学的確率のぐうぜんの重なりなのか、はたまた天の意思、いたずらなのか、ある騒動を引き起こすことになった。事柄としては小さなたわいもないことなのだが、五平にすれば簡単にすませられることなのだが、のちにこのことを知った人物がここぞとばかりに責めたてたがゆえに、おおごとになってしまった。見るからに筋者という風体の男がやってきて、小夜子に「これ、はらってもらえませんかねえ」と、証文を突きつけた。同意書となっていて、日付けは三年もまえのものだった。富士商会御手洗武蔵という署名入りのもので、...水たまりの中の青空~第三部~(四百四十七)
海はいつか日暮れぼくの胸に恋の剣を射したまま波間に消えて行った追いかけても君は見えない白い闇がただ迫るだけ恋はいつか消えてぼくの胸に涙の光を残したまま波間に消えて行った追いかけても君は見えない白い闇がただ迫るだけ昨日も今日もそして明日も夏の渚に立って君を探してもあの日の君はもう居ないはるかな海どこまでもどこまでも果てしなくつづくがその海も……限りなき空どこまでもどこまでも広がり続くがその空も……水平線では海と空が一つに重なる追いかければ追いかけるほど水平線はどこまでもどこまでも広がりつづくわからない追いかけるほどにわからない君がきみがわからない=背景と解説=“女って奴はな肉体で愛さなくちゃ逃げちまうもんだ!”“青臭え恋愛論なんぞ屁でもねえ!”“恋文だあ?そんなもんより口吸いのひとつでもしな!”「白い闇」安...ポエム~黄昏編~(海)
[臆病者]きょうは一日中、雨だ。べつに嫌だとは思わない。ただ、悲しいだけだ。-----あゝ己は何(ど)うしても信じられない。たゞ、考へて、考へて、考へて、考へるだけだ。二郎、何うか己を信じられるようにしてくれ。(夏目漱石著・「行人」より)-----ぼくは彼女が好きだ。すごくすきだ。会社の先輩から聞いた。彼女が、ぼくのことを馬鹿にしている、と。「真面目なのネ」わかれぎわに呟いた彼女のことばに、引っかかるものがあったけど、べつにそれほど深くは考えなかった。ぼく自身がそう思っていたから。だけど、彼女のいう真面目と、ぼくのそれとは、違う意味のものだった。要するに、臆病者という、軽蔑のいみが、ことばの裏に潜んでいた。なんということはない、映画館でそして帰り道でも、手をにぎらなかったこと。そして別れぎわにキスをしなか...小説・二十歳の日記九月一日(雨)
エルヴィス・プレスリーに心酔していたわたしにとって、プレスリーとビートルズの初顔合わせでジョンがとった無礼きわまりない態度は、とうてい許せるものではなかった。エルヴィスの「君たちのレコードをぜんぶ持ってるよ」という声かけにたいして、「ぼくは1枚ももってないんだ」と、レノンが応じたという話。わたしがその場にいたわけでも、その映像を確認したわけでもないのだが、風の噂として耳に入ったそれがゆるせないのだ。もちろん、日本の歌謡曲も好きで、たまに聞いている。ど演歌であるぴんからトリオの「女の操」も聞かなくはない。ま、しかし、その喧噪も夜の九時までのことだ。NHKのニュース番組がはじまると、とたんに静かになる。十時ともなると、すべての窓が暗くなる。もの音ひとつなくなる。灯りが点いているのは、わたしの部屋ぐらいだろう。...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(六)
10月15日に入院して、予定より1日早く本日25日に退院できました。経過良好ということではなく、入院生活に飽きたわたしの頼みを聞いてくださったということです。もちろん数値目標に近づいたということもありますか、今回はインスリンの量がえらく増えましてね、うーん!ですわ。昨年の7月でしたか入院したのですが、そのときとはインスリンの量が段違いですし、数値も悪いです。先生によると「代謝が落ちたから」ということでした。えっ?「えらく」の意味がわからない?えらい=たくさん、なんですが。ほかにもありまして、たとえば、えらい=ひどく、とても、といった……ああ、たくさんと同義語みたいですね。岐阜地方の方言でしょうか、これは。ま、いいや。話を戻しましょう。1月28日だったか、自転車転倒による、左肩鎖骨骨折。これが元凶です。それ...退院しました
スピンオフ作品 ~ 名水館女将、光子! ~ (二十八)(明水館女将! 光子:四)
(若女将としてはそれを語ることは出来ないようです。まあ、客商売の基本です。簡単にいいますと、不倫なわけです)。付け足させてくださいな。佳枝さんはそのことを恥じておられるようではありません。そのことをご自分の口からお話しされましたが、そのおりには真っ直ぐにわたくしの目を見据えながらでございました。正直を申しますと、痛い視線でございました。そう、わたくしに対する挑戦するといった風でございました。といって敵視するといったことでなく、かと申しまして追従する、いえそうではございませんね。先輩として後を追うがいつかは超えてみせる、そういった観が感じられました。瑞祥苑の女将さんがわたくしをたいそう褒めていただけますので、それに対する嫉妬心がない交ぜになっておられるのかもしれません。なんにしても和やかな中にほんのすこしの...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(二十八)(明水館女将!光子:四)
[ライフ!] ボク、みつけたよ! (八)東京方面と大阪ほうめんに
東京方面と大阪ほうめんにわかれる分岐点が、みええてきました。そろそろ車線変更をしなければいけません。が、そくどを落としたはずなのに、BMWはいまだにななめ後方に位置しています。速度を確認すると、70kmほどです。あちらも減速したのでしょうね、でなければ並走するわけありませんもん。もう限界だとおもい、うしろの車には申し訳ないですが、さらに減速しました。60km近くまで減速して、やっとBMWの後方になりました。新手のあおり運転というか、いやがらせ運転かと、少々はらが立っています。ですがうしろについて納得です、高齢者マークを見つけました。ごていねいに、2種類のマークが貼ってありました。「1枚は前につけておいてくれよ」なんて、ブツブツ言いながら走りましたよ。で、大阪方面にはいると同時に、本当はいけないのですが、走...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(八)東京方面と大阪ほうめんに
愛の横顔 ~RE:地獄変~ (十二)なんとでもおっしゃいまし
「なんとでもおっしゃいまし。人を見くだすなど、坂田善三さんほどではございませんから。特高だなんて、みなが怖がるものですから。それこそ特高の話など、わたくしたち庶民には口にするのもおぞましいですわ。だかつですって?そのおことば、そのままお返しします。へびやさそりのように忌み嫌われていたのは、どちらさまで?」なんとも気丈なお方です。このように口答えされるとは。むろん、善三さんもこのままでは終わりません。「なにを言うか!われわれ特高警察は、お国のために身を粉にしてはたらいていたのだ。国家転覆などという大罪をおかす者に、なんで情をかけてやらねばならんのだ!というてもだ、あの足立なんぞは、下っ端もしたっぱだったよ。足立自身は幹部連におだてられて、資金の調達やら女の斡旋やらをしておったが。なもんだから、足立自身も準幹...愛の横顔~RE:地獄変~(十二)なんとでもおっしゃいまし
武蔵時代には、つねに開いていた社長室の扉が、不在時でもあいていたとびらが、いまは閉じられている。小夜子が不在時はもちろん、在室中でもとじられている。そして誰であろうと入室がかなわない。専務である五平すらはいれない。〝まだ哀しみから立ち直られていないのよ〟だれもがそう思っている。たしかにそうとも言えるのだが、つい5日ほど前に、内装の回収業者がはいった。殺風景だった内装が、いまは女性特有の柔らかい素材をつかっての壁となった。無機質な白だけだったかべの色が、上下に2色がつかわれていた。小夜子としては淡いピンク色を使いたかったのだが、ここは事務室だ。プライベートな空間ならともかく、とあきらめた。で、薄めの紫色を上段にすることにして、下段もまったくの白ではなく、こちらもうすめのグレーとした。壁にかけられていた富士山...水たまりの中の青空~第三部~(四百四十六)
幼い頃背丈の何十倍もの大木の下でその高さのあまりにただため息を漏らしつつもあすなろを感じたその純な心は何処に?れんげ草の咲きほこる畑の中に寝転んでは花から花へ飛び交う蝶に心を許し共に蝶になりその蜜の世界に浸ったその純な心はどこに失われた?いつか沈みゆく太陽が隠れる彼方の雲はオレンジに輝く青い青い海に落としたオレンジ色をオレンジの雲に乗ってどこまでも追い続けてみたいそしてやはりいつかはここに戻る=背景と解説=この詩に解説は不要ですね、素直に不安を吐露してます。だ、まだ自分をさらけ出せていません。もっとも、どこまで自分をさらけ出せばいいのか……。どこまでえぐり取るべきなのか、未だにためらいがあります。九州旅行によって蘇った記憶を、「せからしか!」という作品に仕上げましたが、まだまだ書き切れません。そして今、「...ポエム~黄昏編~(いつかは……)
八月も終わりの日曜日のきょう、彼女に連絡をとらなかったことが悔やまれる。おなじ会社とはいえ、ぼくは現場で、彼女は事務所。ほとんど顔をあわせない。連絡方法は、いつも彼女から。連絡メモをとどけるふりをしてのこと。最近はタイミングがわるく、いつもぼくのそばにだれか居る。内緒の付き合いだからなあ。ぼくとしては、だれに知られても構わないけれど、彼女がいやがる。やはり、年上だということを気にしているのか?それとも、ぼくなんかとの事を知られたくないのか。ぼくのポケットの中には、千円札が二枚ある。すこし、金持ちの気分だ。チューインガムも入っていた。もちろん、口に入れた。でも、空があいにくのくもり空のせいか、かみごこちが悪い。生暖かいコーラを飲んだときの不快感だ。長くポケットに入れていたせいかも?なんの変わり映えもしない町...小説・二十歳の日記八月二十九日(曇り)
とにもかくにもざっと回覧に目をとおして、廃品回収の日付を確認した。再来週の土曜日となっている。そういえば、廃品回収ではにがい思い出がある。なにが原因だったかは覚えていないけれども、些細なことからだったと思う。その場をとりしきっていた男と口論となり、廃品の回収をきょひされてしまった。たの人の取りなしで、持ちかえる事態はさけられたけれども。以来、持ちだすのをやめた。おかげで大量の新聞やらチラシがたまってしまった。ちり紙交換車のアナウンスが聞こえたおりには、なにをおいても外にとびだして探したものだ。ここではトラブルを起こさぬように、言動には気をつけねばとおのれに言い聞かせている。「回覧ははやく回してください」と、うるさく言われている。たしかになにかの行事があったとして、その開催日時後にとどいたのではなんの意味も...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(五)とにもかくにも
スピンオフ作品 ~ 名水館女将、光子! ~ (二十七)(明水館女将! 光子:三)
「失礼いたします」。緊張のあまり、手がふるえてしまいました。女将としての自負をお持ちのおふたりです、お互いを認め合われての会話は、さぞ楽しかったろうと推察できます。互いのこれまでの格闘劇をかたられていたようで、「おたがいに年を取りました。もうそろそろ隠居させてもらって、のんびりと余生を送りたいものです」と、大女将が口にされます。「羨ましいことですわ、ほんとに。大女将には、この光子さんという立派な後継者がお育ちになっていらっしゃいます。ほんとに安心なことで」。最大級のお褒めことばを頂きました。「ありがたいことです。あたくしの見込んだとおりに、しっかりと育ってくれました。それに、今こうして1年の余ぶりに会いますと、しっかりと教育して頂けたことがよく分かります。改めてお礼を申し上げます、ありがとうございました」...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(二十七)(明水館女将!光子:三)
[ライフ!] ボク、みつけたよ! (七)話がすこし逸れてしまいました
話がすこし逸れてしまいました。さあそれでは、わたしの[ルーツ探しの旅]へ出発です。平成31(2018)年、12月30日。当日は、まったく雪のけはいなし。前夜の雪がうそのようですわ。晴天にめぐまれて、出発です。わたし、晴れ男なんですよね。天気予報にも負けませんし、たとえ出発どきに雨がふっていても、目的地に到着どきには雨あがりとなっています。だいたい8割程度の勝率です。ただ、雨男やら雨女同伴事には、すこ下がります。ですけど、5割以下にはなりませんから。高速に乗るのはホントにひさしぶりで、すこし緊張気味です。速度が80kmにたっした時点で、固定することに。といっても、オートクルーズとかいった機能はありません。あくまで自分の足でコントロールです。いま走らせている車は、ローン・レンジャー号(別名:ダイハツ製のミラ・...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(七)話がすこし逸れてしまいました
久しぶりの、「よもやま話」です。というか、宣伝になっちゃうか?明日から、「血糖コントロール入院」です。今年の1月末に右肩を骨折しまして、七月頃だったか、「完全にひっつきましたね」と、整形医からお墨付きをもらいました。ところが、リハビリ(機械による)がうまくいかず、ビリビリ状態で腕が上がりません。当初は日常生活にも影響がでるしまつで、はじめて介護保険を使いました。ヘルパーさんに週一回来てもらって、おもに洗濯干しをお願いしました。一ヶ月間、一回45分だっただったかな?ところが7月の末になっても肩の痛みがとれず、二の腕の方にも広がってきました。で、[運動リハビリ]にうつりました。ずいぶんと良くなったのですが、まだ肩に重しが入っているような状態です。もう少しかかりそうです。入院の方は、骨折するまではそれなりに動い...入院しました。
こころ心に雲の広がりをもち湿った空気のために澄んだ音でさえも屈折しがちなこころ……広い空雲の広がりなどものともしない雲雲雲また雲雲雲それですら一つの空としての美を創り出している=背景と解説=何とか気持ちを落ち着かせようとしています。不安と焦りと、そして誰に向ければいいのか分からぬ怒りと。慰め?同情?そして新しい恋ごころ?そんな優しさを向けられても、素直に受け止められない。初めの三行にこめた思いですが、伝わりましたでしょうか。思い描く将来の自分は、広い空。沸き立つ雲ですら、光り輝く未来では単なる飾りとして……。自分は強いのだと、言い聞かせている。今思えば、不安で心が押しつぶされそうだったのでしょう。雲雲雲力強い積乱雲なのか、それとも雨をもたらす乱層雲なのかポエム~黄昏編~(こころ)
だいぶ落ち着いてきた、ような気がする。が、まだわからん。きょう、課長に叱られた。「ミスが多すぎる!」「気のゆるみだ!」とも、言われた。ぼくだって人間です!って、言いかえす気力もない。だまってうなだれていると、「元気がない!」と、また叱られた。そうなんだ、正直のところちっとも身がはいらない。不思議なもので、体調の良いときにはなにをやってもほめられる。すこしのミスをしても、不可抗力だと言ってもらえる。けど、いったん歯車が狂うと、なにをやってもダメ。もがけばもがくほど、深みにはまっていく。「一体、どうしたって?」って、聞くのかい。こっちが知りたいよ。彼女に傘のことで笑われたせいじゃない。この前のデートが、休日出勤でオシャカになったせいでもない。いや、すこしはあるかも?だめだ。どうにも走馬燈のようだ。グルグルと堂...小説・二十歳の日記八月三日(晴れ)
結局のところ、わたしのプライバシーは丸裸にされてしまった。そしてその結論が「キチンとした方ねえ。行くいくは、自治会の役員さんね」となり「この棟一番の、お洒落さんよ」と決めつけられてしまった。ネクタイを締めているからということで、お洒落しているということになってしまった。前のアパートでは、熱い夏のさかりなどはトランクス一枚で過ごしていた。窓を全開にしドアもすこしだが開けて、風の通り道を作っていた。だから部屋のなかは、外から丸見えだ。しかしなにも気にすることはない。となりの住人も上下階の住人も皆、男ども皆がそのスタイルだったから、それが当たり前となっていた。ここだけの話、夜などは、♪風に吹かれて、ぶーらぶら♪状態だ。じつに気持ちがよく「良くぞ男に生まれけり」と、男の特権を満喫していた。それがここに移り住んでか...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(四)結局のところ
スピンオフ作品 ~ 名水館女将、光子! ~ (二十六)(明水館女将! 光子:二)
明水館の門が見えてまいりました。門と言いましても、門柱2本に切妻の屋根をかけた簡便なものでございます。こんなことを申しますと、お造りになった先々代に叱られそうでございますが。でもまあ、やはり良いものでございますね、門がありますのは。なにかこう、格式めいたものを感じずにはいられません。お客さまのなかには「俗世から至極の地に入るといった観になるよ」と、おっしゃる方もございました。わたくしなども、お客さまを熱海駅からご案内のおりにこの門をくぐり抜けますと、ぐっと身の引き締まる思いがいたすものでございます。重くなった足を引きずるようにしているわたくしに、とつぜん「若女将、お帰りなさい!」と歓声が聞こえました。頭をあげて見ますと、仲居たちが勢揃いして、わたくしを待っていてくれたのでございます。おどろくどころの騒ぎで...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(二十六)(明水館女将!光子:二)
[ライフ!] ボク、みつけたよ!(六)どうせ生まれ故郷の九州に
どうせ生まれ故郷の九州にかえるのなら住んだ町すべてをまわってみよう、そう思いたって記憶のかぎりの小学校を書きだしました。生まれ故郷である佐賀県伊万里市立伊万里小、福岡県柳川市立昭代第一小、福岡県久留米市立篠山小、そして福岡県中間市立中間小学校です。卒業したのは岐阜市立木之本小学校です。ただ残念なことに、最初に入学したはずの大分市の小学校時代がおもいだせないのです。もうひとつ言えば、大分市には幼稚園児のおりに引っ越したはずです。そして幼稚園にかようことになったはずなのですが、慣れずにかよわなかったと記憶しています。小学校入学前の年次だったと思います。ですが、まるで記憶がないのです。すっぽりと抜け落ちています。ただ覚えていることが、ひとつだけあります。大分駅に降りたったのは夜でした。見あげればたくさんの星がま...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(六)どうせ生まれ故郷の九州に
まあねえ。たしかに、両親代わりに親身に世話をしてくれました。ああ、熱を出したときのことですね?店に出ている母親の代わりに、寝込んでいるわたくしの世話を甲斐がいしくしてくれました。また夜の夜中にお医者さまを迎えに行ってくれたり、わたくしをおぶって走ってくれたりしたこともありました。店が閉まっているにもかかわらず戸をドンドンと激しく叩いて、家人を起こしてまでも氷を買い求めてきてくれたりもしました。ただ、そんなあれやこれやを恩着せがましく話されては、いくら感謝の気持ちを持っていたとしても、ねえ。つい、「おまえの背中はくさかったわ」と、口にしたことがありました。なぜって、それは……。いまさら自分を飾っても仕方ありませんね。お話しましょう。正夫におんぶされたときなど、それこそ死んでしまいたいと思いました。それがどれ...愛の横顔~RE:地獄変~(十)まあねえ。たしかに、
「賛成!」。社員代表である4人が、同時に声をあげた。「無茶だ!ど素人のおんなに、務まるはずがない!」当然のごとくに、佐多が猛反対した。しかし社内外でまことしやかに流れているうわさ話、陰謀説なるものがささやかれている。「どうも三友銀行の乗っ取りのようだ」。「それに加藤専務がのっかったということか」。「とすれば、あの婚儀もなっとくがいく」。流布してしまった話を打ち消すのは至難の業にちかい。弁解なりをくりかえしても、かえって信憑性を与えることにもなりかねない。もっとも簡単に打ち消すには、流布された話とはちがう決定がなされることだ。小夜子を社長におしたてて、社員全員でささえる。幸いなことに、小夜子のお披露目はおわっている。評判も上々だ。むろん社長となれば経営手腕ということになるが、そこはしっかりと裏方でささえてい...水たまりの中の青空~第三部~(四百四十四)
夜学授業の終わりを告げるチャイムの音がこんな遠くまで聞こえてくる風に乗って美しく響いてくる昼に働き夜に学ぶ辛く苦しい道“がんばってるね!”優しく声をかけられる黙って頷く僕がいる早く大人になりたいなりたい大人に……君を受け止められる大人に早くなりたい…………なりたかった=背景と解説=ようやく気付いたこと。失った、一人の女性。少し上の、年上の女(ひ)性(と)。看護学校に通ったせいで、高校入学が遅れた女性。「おともだちが欲しかったの」淋しげに教えてくれた。なにがあったのか、その折りには聞くことがなかった。多数の女友だちの中の、ただのひとり。その付き合いがどんなきっかけだったのか、まつたく思い出せない。クラスメートではあった、日記にも書いていない。夏休みのこと、ただ、一行あった。「キスした」そして卒業式を迎える前...ポエム~黄昏編~(さよなら)
ぼくは、文学を愛好するひとりの青年だ。当初は、あたりまえだけど読者のひとりだった。いまは、創作する側にまわっている。もちろん、すこしは本も読んでいる。ぼくの小説ぐるいは、小学生のときに発する。担任の先生に、作文をほめられたのがきっかけだ。先生の、「日記を書いてみなさい」というひと言からの日記はいまもつづいている。もっとも、まいにち書いたのは、小学生までだったかな?一年と三ヶ月ぐらいだった。中学にはいってからは、飛びとびだな。きょう、水中見合いなるものを聞いた。アクアラングを背負っての見合いらしい。当然しゃべれない。身振りてぶりでの、会話?海底にテーブルと椅子をおいているらしい。そこにキチンと行儀よくすわってのことらしい。むずかしいだろう、それは。けれど、どんな意味があるのだろう。お遊びだろうか?。幻想的で...小説・二十歳の日記八月一日(晴れ)
意気揚々とかえりついたわたしを待ち受けていたのは、「遅かったわねえ」と、不機嫌な顔を見せるおとなりさんだった。「お昼過ぎって聞いてたけど、いま、何時かしら?うちの時計では、もう三時を回っているんだけど」「ああ、失礼しました。ありがたいことに、就職が決まりまして。会社内を見学させてもらったら、遅くなってしまいました。お待たせしてしまいました」“なんで謝らなきゃならんのだ”と思いつつも、へこへこと何度も頭を下げつづけてしまった。そんなわたしとお隣さんの声に気がついたのか、ぞろぞろと集まってきた。まったく、ひまな御仁ばかりのようだ。結局のところ、二時間ほど質問攻めにあった。六年前に離婚してバツイチであること、子どもたちとはたまに手紙のやり取りはあるけれども、今はやりのメール交換はしていないと話した。そして三年ほ...奇天烈~赤児と銃弾の併存する街~(三)意気揚々と
スピンオフ作品 ~ 名水館女将、光子! ~ (二十五)(明水館女将! 光子:一)
早朝に熱海駅におりたちました。駅員さんから顔をかくすように改札をでますと、おもわず立ち止まってしまいました。駅前にたちならびますお店のそれぞれが懐かしく感じられ、かってに涙腺がゆるんでしまいました。すぐにも立ち去りたいのでございます。どこで知り合いとでくわすかもしれません。この時間にお客さまをおむかえする旅館などあるはずもないのに、この時間に駅前にまで出ばる者がいるはずもございませんのに、不安でふあんでたまらないのでございます。大女将からは「はやく帰ってらっしゃい」とあたたかい手紙をいただいてます。ですが、明水館についたとたんに、大目玉を食らうのではないかと、足がふるえます。一歩をふみだそうとするのでございますが、なかなか動いてくれません。どなたかに背中をトンと押していただきたいのです。「さあ、行きますよ...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(二十五)(明水館女将!光子:一)
もう少し前段のようなものを聞いてください。小学生のおりには、作文でよくほめられました。昔むかしに「計画学習」という教材誌がありました。団塊の世代の方ならば、ひょっとして覚えてらっしゃるかもしれませんね。それに投稿した詩やら作文で賞をいただいたことがあります。だれもがわたし本人の体験談だと思いました。小学生なのですから、それが当然のことでしょう。しかしそれが事実として書いたように見せかけて、じつは作り話なのです。じっさいには体験をしていない事象を、さも事実であったかのごとくに書いたのです。こう書けばきっと先生は喜んでくれる、大人は感心してくれる、そんな思いで書いていたのです。そんたくということばは、現在においてほぼ毎日のように新聞やらテレビのニュース番組でとびかうことばですが、あのおりのわたしにピッタリです...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(五)もう少し前段
きょうもそうでした。「あたくしなんか」と哀しげな口調ながらも、目は笑ってらっしゃいました。「長女だからと、いちことされましたのよ。一つの子なんですから。一子なんて漢字にしましても美しさは感じられませんし。イチコというカタカナにされてしまえば、これほどに冷たく感じられる名前はありませんわ。せめても、初子という名前にしてほしかったと思うのですよ」つづけて貴子さんです。一子さんに対する慰めといった風のことばは、わたくしもですが貴子さんからもありません。もう、当たり前といったことになっています。「あたしもなんです。貴子という響きが固くていやですわ。ですので、答案用紙などには、わざとたかことひらがなにしてますのよ。それでよく先生からは、『親御さんからいただいたなまえは、大切になさい』と、おしかりをうけますけど」たし...愛の横顔~RE:地獄変~(九)きょうもそうでした。
社葬終了後に、「一週間後に重大発表をします」と、五平のアナウンスがあった。当然ながら後任人事のことだということになり、業界新聞記者が色めき立った。むろん取引業者にしても他人事ではない。これまでの経営方針が一気に変わるということはないだろうが、五平が社長就任となれば、バックにいる三友銀行の意向がより強く反映されるだろうと、小規模会社は戦々恐々となった。武蔵が入院してからというもの、売れ筋商品の供給が大手優先となっている。これまでもそれはありはしたが、一定の数量確保はできていた。武蔵の「古くからの取引先は、大小にかかわらず優先だ」ということばがあったからだ。それにたいして銀行側としては、やはり利益優先をとなえ、効率性をもとめてきた。五平が対応にあたり、武蔵まで話がいくことはなかったけれども、融資額が増えるにつ...水たまりの中の青空~第三部~(四百四十三)
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いやあ、参っちまいました。「6月に誕生日を迎えられたので、身体検査をしますなんて、月一回の定期検診でいわれました。「体重は……。あらあ、大台ですねえ、80.5kgです」「身長は……。あらあ、縮んじゃいましたねえ、171.3cmです」「あらあ」が、口ぐせの看護師さん。すこし、ショックが和らぎましたけど……。でもほんとに、「あらあ」でした、ものの見事に。じつは、もういっちよ!「あらあ……。お腹周り、81cmですねえ。メタボの更新ですねえ……」身体検査
彼は、心のなかを見せない。たにんの侵入を極端にきらう。それゆえか、彼の部屋をおとずれる者はいない。そのくせ彼自身は、ひとの部屋にズカズカと入ってくる。仲間と友人。彼は、区切りをつけている。それが何故なのか?いままで考えもしなかった。が、学友との口論から、それを考えるに至った。町工場での俺は、労働の代価を受け取る。しかし夜学での俺は、支払う側のわけだ。とうぜん、時間の自由があってしかるべきだ。労働中の俺に、自由のないことは理解できる。しかし何故に、授業の選択が許されない?規則だからと、諦めにも似た気持ちになっている。入学時の誓約書は、強制であり交渉事ではなかった。町工場への就職時には、形だけであっても交渉があった。奇天烈~蒼い殺意~人間性(一)
それが9時近くになって、やっと帰ってきた。その時間が麗子には長く感じられ、不安だけが募った。裏通りにあるアパートである。人通りはまるでない。街頭にしても、アパートの階段に設置してある電灯だけだ。しかもまだ修理されていない。あとは、50mほど先にある。しかも、何時になるのかわからない。麗子の心は、恐怖感におそわれていた。いつなんどき暴漢が現れるかもしれない。そのときには誰かの部屋をノックすればいい。いやこのアパートの住人すらあぶない。〝どんな人が住んでいるのか、まるで分からないんだ。素性はもちろん、男か女かもわからない。というより、こんな場所だ。おとこだろうけどね〟男にきいた話だ。といって帰る気にもなれず、途方に暮れていた。そんなときの、男の帰宅だった。ムラムラと、怒りの気持ちと嫉妬心が渦巻いた。で、悪態を...[淫(あふれる想い)]舟のない港(三十四)それが9時近くになって、
話をもどします。まいどまいど、横道にそれてすみません。校舎のうら手に車をまわしたところで、思わず「ああ!」と叫んでしまいました。見覚えのある大木と、その横に土俵が見えました。あれえ……。でも土俵はあっちではなく、こっちの角のはずじゃ……。すみません。あっちやらこっちやらでは、どこなのかわかりませんよね。東西南北の観念がないので。(ナビで調べれば一発でしたね)。車の進行方向の向こうがあっちで、敷地にそって曲がってそしてまたまがってすぐの角で、停車した場所がこっちなんです。土俵のうえに屋根があるんですが、大木の枝がおおいかぶさっています。台風の進路によっては、屋根をおしつぶしませんかねえ。すこし心配です。たしか、相撲が体育の授業にはいっていると聞いた気がします。やせぎすだったわたしは、それがいやでいやでしてね...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(四十五)話を戻します。
「山本さん、5番におはいんなさい」当初は聞きまちがいかと思ったが、なんど思い返しても、「おはいんなさい」だった。わたしの前に数人が呼ばれていたが、たしかに「おはいんなさい」だった。なんとも、暖かさを感じさせる呼びかけで、嬉しさを感じたわたしだった。名医だ、瞬間的にそう思った。「良い先生ですよ」が頭で反すうされた。こころがある、なぜか直感的に思った。ドアを開けると背筋がピンと伸びた老医師が、にこやかに迎えてくれた。「はいはい、山本さん。きょうは気分が良さそうだね。うん、良かったよかった。さあさあ、お座んなさい」またしても、「り」ではなく「ん」だった。なんとも、人なつっこい話し方だ。やはりベテラン医師はちがう。なんというか、お医者さま、という雰囲気がある。患者に人気があるのもムリはないと感じた。「ほうほう。山...ドール [お取り扱い注意!](十六)山本さん、5番におはいんなさい
しかしふと不安になった。武蔵のいないいま、だれが「奥さま」と呼んでくれるだろう。「ミタライさん」と呼ばれるのだろうか。御手洗家の主はあるけれども、武蔵はいないけれども、それでもやはり「奥さん」と呼ばれたい。御手洗家の主は、やっぱり武蔵であってほしいと願う小夜子だった。「パッ、パッ、パアー!」。けたたましいクラクションが鳴った。「バカヤロー!」。だれ?だれへの叫び声なの?大勢が立ち止まっている交差点。なのに小夜子は足を止めなかった。赤になっていることに気づかなかった。「ごめんなさい」と、頭をさげる小夜子に「気をつけろ、この有閑マダムが!」と、捨てゼリフをのこして、商用車が行く。やめて、そのことばは。小夜子のもっとも忌み嫌う、有閑マダム。新しい女の対極ともいえる、蔑称ととらえている小夜子。夫の地位そして財力に...水たまりの中の青空~第二部~(四百八十三)
異端の天才ベートーベン「運命」その烈しさに魂が揺さぶられるああ佳きかな佳きかないにしえの旋律(背景と解説)好きなクラシック音楽家のひとりです。他にも好きな楽曲はあるのですが、まずはこの作品をえらんでみました。キモはですねえ、……ないです。強いて言えば、「畏怖」でしょうか。そうだ。初めて聞き入ったクラシックでしたよ。ジャジャジャーン!ジャジャジャーン!jajajajajaja,jajaja~n!CDで、パソコンやら車で聴いています。ポエム~五行歌~クラシック賛歌(ベートーベン)
シゲ子は、その日のうちに長男に問いただした。シゲ子のたしなめるような物言いに萎縮してしまった長男は、口をつぐんでしまった。幼いときから、人に甘えるということのできない長男で、とくに祖母であるシゲ子にたいしては身構えてしまう。シゲ子の長男にたいするぎこちなさが、そうさせてしまっていた。シゲ子のしつような追求にたえきれず「ごめんなさい」と、あやまる長男だった。孝道が「目くじらを立てるほどのことでもないだろうに」と、長男をかばうと「いいんです、食べたことは。でもね、翌日にでも『ありがとう、美味しかった』と、ひと言ぐらいあっても。ほんとに、卑しい子だよ」と、長男を叱りつけてしまった。美味しいサツマイモをほのかに食べさせてやれなかったということ、すこしだけでも残していれば…という、たしょうの罪悪感にもにた感情にとら...[青春群像]にあんちゃん((通夜の席でのことだ。))(十)
彼の頭のなかでは、数多の声がとびかっている。ひとつひとつの言葉は、断定的でしかも独善である。無道徳とはいったい何か?社会いっぱんの道徳は、常識なのか?幾多の矛盾を擁する道徳でもか?住みなれた町の地図は必要か?コンパスまでもか?俺は無道徳か?道徳はどうとく、常識はじょうしき?俺は反道徳だ!では、ニュー道徳を創るべきか?では、それに従えるか?違うぞ!単にスネているだけだ!ニュー道徳は、偽善の産物だ!ホワイトカラー族の目的は?教師とは、如何なる人種か?教える義務と、従わせる権利。学ぶ権利と、従う義務。そして反発する権利。殺す自由、生きる権利。人間を殺すことは罪であり、「家畜類の屠殺は許される」という現実。and,その是非は論外、という現実。食べる自由と権利。断食もまた然り。自然界の法則とは?地球の歴史、人間のれ...奇天烈~蒼い殺意~いち日の過ごし方(五)
「そう、あのむすめね…。あの娘のこと、好きなのね」と、小声で呟いた。いつもの男なら、そのまま聞きながしてしまう。しかし、今夜の男はちがった。このまま無言をとおせば、気性の激しい麗子のことだ。どんなしっぺ返しをくらうやもしれない。それこそ私立探偵をつかってでも、ミドリの特定をしてしまうかもしれない。そして……。考えるだけでもおそろしい。気色ばんで男は言った。「な、なにを言いだ出すんだ。あの人とは何でもない。友人の妹だ。3人での食事の約束だったんだ。友人の都合が悪くなってのことだ。だからふたりだけの食事になっただけだ」「あら、そう。お食事のできるナイトクラブがあるとは、知らなかったわ」服を着おわった麗子は、いつもの麗子に戻っていた。「時間が早かったからだ。ナイトクラブを知らないと言うから、連れて行ったんだ。だ...[淫(あふれる想い)]舟のない港(三十三)そう、あのむすめね…。
そうでした、学校です。当然ながら、まるで違います。当時は木造でしたが、いまはコンクリートの校舎です。正門まえに立ちますが、まるで思い出せません。車をうごかして、裏手にまわることにしました。運動場なんですが、意外にちいさいです。もっと広く大きかった記憶なんですが。敷地に沿ってまがると、せまい道路です。大型の車がきたらすれ違えないかもしれません。学校のフェンスをこするか、相手の車が畑に落ちてしまうか、どちらかでしょうね。いっそのこと一方通行にしてしまえばいいのに、なんて勝手なことを考えてしまいました。そういえば、こんなことがありました。いくつだったか、五十過ぎたころだったと記憶しています。両側が畑のせまい道で、ここではすれ違うことはできません。半分以上を過ぎたところで、中型の車がはいってきました。当然ながらわ...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(四十四)そうでした、学校です。
待合の席にすわろうとしたわたしに、通りがかった看護婦が声をかけてきた。この間の入院時に世話をしてくれた看護婦だった。じつに気立ての良い娘で、いつも明るく笑う娘だった。退院するときに「ありがとうね」と声をかけたかったのだが、シフトで会えずだった。「山本さん、ラッキーでしたね」「なんで?」。笑みを返しながら、尋ねてみた。「良い先生ですよ、岩井先生って。いつもは予約だけの先生なんですよ。ね、島田さん」「きょうはね、畑中先生が休みなものだから、急きょピンチヒッターでお願いしたの」「山本さん、ついてるわ」。うんうんと頷きながら、ひとり納得して去って行った。良い先生かどうかは、診察を受けてからだと、あまり期待もせずにいた。しかしこの医師に会ったことで、わたしの人生が一変したと言っても過言ではなかった。ほどなく看護婦に...ドール [お取り扱い注意!](十五)待合の席にすわろうとしたわたしに
感傷的になるかと思っていた小夜子だったが、意外にもサバサバとした気持ちになった。空はあいにくの曇り空なのに、ウキウキとした気分でビルを出た。全員がお見送りをしたいと申し出たが、五平と竹田のふたりが通りで見送った。最敬礼をするふたりに「やめてよ、そんな大げさなことを」と言いつつも、感慨ぶかいものがあった。はじめて会社におとずれたとき、水たまりがあるからと、武蔵にお姫さま抱っこで車からおろされた。大きな歓声と冷やかしの声、また近隣ビルの窓から、なにごとかと覗かれたこともなつかしい。なにからなにまで、なつかしい想い出だ。帰りの車をことわり、ひとり日本橋界隈をねりあるくことにした。そういえば通りをあるいた記憶がない。いつも契約ハイヤーで会社前まで乗りつけた。竹田の送迎もあったわね、と思いだす。〝大層なご身分だった...水たまりの中の青空~第二部~(四百八十二)
茶目っ気モーツァルト「25番ト短調」そのミステリアスな曲調にこころがうち震えるああ佳きかな佳きかないにしえの旋律(背景と解説)好きなクラシック音楽家のひとりです。他にも好きな楽曲はあるのですが、まずはこの作品をえらんでみました。CDで、パソコンやら車で聴いています。ポエム~五行歌~クラシック賛歌(モーツァルト)
翌日のこと。「きのうのお芋さんは美味しかったろう。ばあちゃんもね、おじいさんとおいしく食べたんだよ」ほのかかキョトンとした顔つきで、「きのうはよらずにかえったよ」と、こたえた。誰かが食べたはずなのだ。「ツグオちゃんだったかね」首をふりながら、つづけてこたえた。「にあんちゃんは、ほのかといっしょだったよ」思いもよらぬ返事がかえってきた。「それじゃだれだったんだろうね。ツグオでもないんだね。近所のだれかかしらね」そうことばにしつつも、だれもいない家にはいりこんで、ましてやなにかを食べていくなどありえない。“まさかナガオが…。いやいや、あの子は寄りはしない”と、否定してしまった。「あんちゃんだよ、きっと。夕食、めずらしくすこししか食べなかったから。それに、もしにあんちゃんだったら、きっとぜんぶ食べてたよ。にあん...[青春群像]にあんちゃん((通夜の席でのことだ。))(九)
実はこの1週間、彼は悩んでいる。学友との些細な口論のためだった。さっこん耳にする”フリーセックス”についてだ。まだ青い我々は、真面目に論じあった。勉学上の口論はまるでない我らだが、ことセックスに類するものは好んで論じあう。が、残念ながらお互い言いっ放しで終わってしまう。面白いのは、”革新”そして”保守”と、イデオロギーの立場をお互いに押しつける―なすりつけて終わることだ。革新にしろ保守にしろ、じつの所あまり分かっていないのに。『70年安保』の後遺症といっては失礼か。「アンポ、ハンタイ!」が流行語になっていた頃を、多感な中学時代に我々は過ごした。彼はいま窓際でひざを抱いている。そしてときにそのひざに接吻をしたりして、体のぬくもりを感じている。生きている実感があるという。ときおり、バサバサの髪をかき上げては、...奇天烈~蒼い殺意~いち日の過ごし方(四)
「舟のない港」というタイトルが気に入って書きはじめた作品です。気乗りのしないままにストーリーを重ねて、次第しだいに二人のヒロインたちの心情にとらわれだしました。なかなか女性心理がわからず、キーボードをたたいてはDeleteを押して、またたたいて、また消しての連続です。時間の移動がはげしいためご迷惑をおかけしていますが、一気読みをご希望の方には、4月の初めには[やせっぽちの愛]にてupする予定です。よろしければ、どうぞ。------------麗子が起きるころには、母親はすでに台所にいる。父親もまた、食卓に着いていた。気むずかしい顔つきで、新聞を読みふけっている父親だった。一日のはじまりに家族そろって食卓を囲む。なによりも大切にしている父親だった。夜の食事は父親の仕事しだいではそろうことが難しい。休日にして...[淫(あふれる想い)]舟のない港(三十二)麗子が起きるころには、
吉野ヶ里遺跡公園をあとにして、福岡県柳川市の昭代第一小学校へ向かいました。小学なん年生だったか、低学年には違いありませんが新入生ではなかったはずです。幼稚園児だった頃に伊万里市をはなれて、それからどこに移り住んだか。柳川市?いや待て、もう1ヶ所、どこかの……そうだ!大分県の佐伯市に入ったような……。そこで幼稚園に入る予定だったのが、いまでいう引きこもりになったのか、通ったという記憶がありませんね。それじゃ、佐伯市の小学校に入学した?うーん……。新入学したのはどこの小学校だったのか、まるで記憶がない……。昭代第一小学校まえでお店――駄菓子屋さんだと思っていたら、じっさいは酒屋さんでした。店の横にビールびんやら酒びんが山積みされていました。失礼ながら、小学校の真ん前なんですが。でも、すこしばかりの文具もありま...[ライフ!]ボク、みつけたよ!(四十三)吉野ヶ里遺跡公園をあとにして、
“やれやれ今はやりの自己責任ですか。大丈夫、先生を訴えたりしませんよ”「はい、これで良いですか?」「ほんとにね、生命に危険があるんですよ。考え直しませんか?山本さん」「先生の言うことを聞いた方が良いですよ」なおもしつこく入院を迫ってくる。わたしのことを考えてくれているとは分かるが、イライラしてきた。「今夜ひと晩だけで良いんです。経過をね、観察したいんです」真剣な目で、せまってくる。「お気持ちだけいただいておきます。ほんとにね、もうずいぶんと楽になりましたから」意地の突っぱり合いの様相をていしてきた。しかし意地っ張りということに関しては、わたしの方にいち日の長がある。医師に書面をわたして、看護婦に会釈をして、意気軒昂にベッドをはなれた。あの老婆、わたしと目があったとたんに目をそらしてきた。聞いてはならぬこと...ドール [お取り扱い注意!](十四)やれやれ今はやりの自己責任ですか。
自宅でのこと、その毎日がなくなるのかと思うと、ここで感傷的になった。平日の朝9時、閑静な住宅街にある自宅を出る。日々の暮らしは、もうはじまっている。学童たちのげんきな声は、もう聞こえない。おはようございますと声をかけあう人々にあふれ、「あら、ごめんなさい」と、声をかけあいながら、ほこりっぽい道路に水をまいている。「小夜子おくさま、おはようございます。これからご出勤ですか?」ななめ向かいの佐藤家のよめである道子が声をかけてくる。「おはようございます」と返事をし、かるく会釈する。するととなりの家からあわてて、大西家の姑であるサトが出てくる。「もうこんな時間ですか、行ってらっしゃいませ」わざわざ外に出てこなくとも、と小夜子は思うのだが、女性たちは必ず声をかける。小夜子にあいさつをするが、じつは小夜子ではない。御...水たまりの中の青空~第二部~(四百八十一)
その日の昼すぎ、あの三郎が顔を腫れ上がらせて、明水館に転がり込んできた。背広の袖口が破れ、ズボンには泥がこびりついている。泥の乾き具合から見て、まだすこしの時間しか経っていないことが分かる。騒然とした中、光子の指示の元に昨夜三郎が泊まった部屋に運び込まれた。すぐに医者を、と光子の指示かあるものと思っていたが、聞こえたのは驚くものだった。場に居合わせた二人の仲居に対して「他には漏らさぬように」と、厳命してきたのだ。「お客さまのたっての希望です」ということばも付け加えられた。一時間ほど後に、上気した表情の光子が番頭に対して「近江さまをお医者さまに診てもらうことになりましたから」と言い残して、三郎と共に出かけていった。「行ってらっしゃいませ」と声をかけつつも、何かしら違和感のようなものを感じた。旅館に転がり込ん...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(十五)(光子の駆け落ち:三)
その女子は真面目派より一学年下だったが、幸か不幸かふたりと同じバレーボール部だ。ゆえに、放課後にふたりに帯同すれば、ひんぱんに会える。行動派が部活動に熱心なこともあり、ヒネクレ派も必然とがんばっている。そんなふたりを待つという口実のもとに居残りをきめこんでいた。三年ほど前の夏季大会ののちに、理由は分からないが部員ゼロとなってしまった。そして今年までの三年間、廃部となっていた。そんな男子バレーボール部を、行動派が復活させたのだ。気乗りのしないヒネクレ派をムリヤり入部させ、ほかに数人の幽霊部員を仕立て上げた。大会ごとに集合して、試合前のわずかな時間だけ練習をする。そして作戦も何もなく、むろんコーチもいない。どころか、役割すらあいまいだ。皆がみなアタッカーであり、やむなくレシーバーやらセッターにもなる。正直、勝...原木【Takeitfast!】(九)初恋
とうとう、結婚式の前夜がやって参りました。式の日が近づくにつれ平静さをとりもどしつつあったわたくしは、暖かく送りだしてやろうという気持ちになっていました。が、いざ前夜になりますと、どうしてもフッ切れないのでございます。いっそのこと、あの合宿時のいまわしい事件を相手につげて、破談にもちこもうかとも考えはじめました。いえ、考えるだけでなく、受話器を手に持ちもしました。ハハハ、勇気がございません。娘の悲しむ顔が浮かんで、どうにもなりません。そのまま、受話器を下ろしてしまいました。妻は、ひとりで張り切っております。ひとりっ子の娘でございます。最初でさいごのことでございます。一世一代の晴れ舞台にと、いそがしく動きまわっております。わたくしはといえば、何をするでもなく、ただただ家の中をグルグルと歩きまわっては、妻にた...愛の横顔~地獄変~(二十一)式前夜:前
「けどもこんどは、本場で聞こうな。アメリカに行って、アナスターシアだったか?お墓参りをすませてから、ラスベガスに寄ろう。な、なあ。それで機嫌を直してくれよ」涙があふれ出した。揺り起こそうかとも思った小夜子だったが、いまはこのまま夢のなかの小夜子でいいかと思いなおした。「小夜子。俺ほど小夜子を知っているものはいないぞ。頭の髪の毛一本から足のつま先でも、俺は小夜子を当てられる。はらわたの一つひとつまで知っている。肺も心臓も、胃袋だって知っている。きれいだぞ、とっても」ふーっと大きく息を吐いて、カッと目を見開いた。起きたのかと思いきや、またすぐに目を閉じてしまった。「おおおお、ステーキを食べたな?いま胃をとおって、腸にはいった。栄養素に分化されて、肝臓やら腎臓にとどけられるんだ。そしてそのカスが便となって外に出...水たまりの中の青空~第二部~(四百三十二)
時の流れは今川となりました銀の皿は流れるのですその上に空を乗せたままその夜空は消えましたその朝には太陽が消えました(背景と解説)女友だちとの間が冷え切っていたという時期ではないのです。二股交際という言葉がありますが、わたしの場合は殆ど重なりません。不思議なのですが、ある女性との付き合いが疎遠になると、新たな出会いがあるのです。浮気ぐせ、とも違います。そりゃ、血気盛んな青年時代ですから、色んな女性に目が動くことはあったと思います。でも、この年になって色々思い直して-己を見つめ直してみると、一番の原因は、自分に自信が持てなかったのだと思います。短期間ならば薄っぺらい自分を隠せますからね。当時の連絡手段と言えば、固定電話か手紙ぐらいのものでした。手紙は、正直言ってお手のものでしたから。話を戻します。この詩は、自...ポエム焦燥編(朝、太陽が消えた)
時計の針は、二時半をさしている。貴子の希望で、南麓の岩戸公園口におりることになった。こちらの道は彼にもはじめてだった。こちら側の眼下にはビル群はすくなく、二階建ての個人宅がおおく見うけられた。国道ぞいに車のディーラーやら銀行、そして飲食店がチラホラとあるだけだった。すこし行くと、小ぢんまりとした台地があった。貴子の提案で、時間も早いし腹ごなしもかねて散歩でもということになった。彼に異はなく、真理子もまたすぐに賛成した。外にでた貴子が大きく深呼吸すると、真理子もならんで、大きく空気を吸いこんだ。とその時、強い風がふき、ふたりの体が大きく揺らいだ。とっさに真理子の背を抱くようにし、片方の手で貴子の腕をしっかりとつかんだ。悲鳴にもちかい声を出した真理子だったが、強風に驚いた声だったのか、彼の対応におどろいての声...青春群像ごめんね……えそらごと(三十)
訝しげに見る目を気にしつつ、付け足した。「目が、痛いんだ!」言葉が空を横切った途端、“嘘だ!”と、心が叫んでいた。そう、心が叫ぶまでもなく脳は刺激され、サングラスのない世界の恐ろしさが瞼の裏に醸し出された。そこによぎる全てが眩しいものだった。“信じられないんです”ある時、目に見えぬ何ものかに向かってそう叫んだ時、また心は叫んでいた。“嘘だ!”決して言葉のせいではなく、といって“信じなさい、信じることが唯一の道です”という言葉をはねつけたせいでもない。[ブルーの住人]第七章:もう一つの「じゃあず」(二)
日一日と、光子への周りの視線が変わってきた。子をうしなった母親という憐憫の視線がしだいに、子を産まぬ女という蔑視さえ感じるようになった。そもそもが清子を産んだあとに、二子、三子を産もうとする気配のないことに疑念が持たれていた。そして清子の死という事態をむかえて、導火線に火がついた。光子の年齢からしてためらう必要などなにもないはずなのだから、もうそろそろおめでたの話が出ても……と、口の端にのりはじめた。折に触れてかばってくれた珠恵からも、ことばには出さないが「もうそろそろ」という声が聞こえてくる気がしている光子だった。合原家という家系を考えたとき、光子は言わずもがなで、清二もまた妾の息子ということで他所者として扱われている。ふたりの間にまた娘が産まれたとして、女将を継ぐだろう事は想像にかたくない。しかしそれ...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~(十四)(光子の駆け落ち:二)
行動派にもヒネクレ派にも、ガールフレンドがいる。しかし、真面目派にはいない。ふたりに比べると、ハンサムである。成績にしても、当然ながらトップグループにいる。しかし、女子からも敬遠されている。モテていいはずなのだが、作者だけの思いこみだろうか?もっとも、その原因は性格にあるのだろう。なにせ、内向的だし、おとなしい。そんな真面目派のきょうのの発言は、わたしもまた驚かされた。はじめてのことだ。もっとも、当の本人がいちばんん驚いていはいるが。そんな真面目派が、最近だれかに恋をしたらしい。いや、いままでも“いいなあ”とも思える女子生徒がいるにはいた。ただ憧れに近い気分を抱いていることが多かったし、それよりなにより、彼氏がいた。が、今回は違うようだ。“恋している”という、実感があるらしい。夜、ひとりになると、その女子...原木【Takeitfast!】(八)“キュン!”
その翌日、もちろん娘をまともに見られるわけがありません。その翌日も、そしてまたその次の日も……、わたくしは娘を避けました。しかし、そんなわたくしの気持ちも知らず、娘はなにくれと世話をやいてくれます。そしてそうこうしている内に、結納もすみ、式のひどりも一ヶ月後と近づきました。娘としては、嫁ぐまえのさいごの親孝行のつもりの、世話やきなのでございましょう。私の布団の上げ下げやら、下着の洗濯やら、そして又、服の見立て迄もしてくれました。妻は、そういった娘を微笑ましく見ていたようでございます。なにも知らぬ妻も、哀れではあります。しかしわたくしにとっては、感謝のこころどころか苦痛なのでございます。耐えられない事でございました。いちじは、本気になって自殺も考えました。が、娘の「お父さん、長生きしてね!」のことばに、鈍っ...愛の横顔~地獄変~(二十)陵辱
「小夜子。おまえは、ヴァイオリンだ」突然に己のことをふられて、なんと答えれば良いのか窮してしまった。しかし武蔵はお構いなしにことばをつづけた。「おまえは、ビッグバンドの、いやオーケストラのといっても良い、ヴァイオリンなんだよ。そこにいるだけで、あるだけで、光を放っている。華やかな、存在だ。誰もがひれ伏す存在だ。いや、ヴァイオリンがなければ成り立たない」あまりの褒めことばは、小夜子には面はゆい。「やめてよ、もう。どうしたの、今日の武蔵は。熱でもあるんじゃない?」といって、熱に浮かされている節もない。心底からのことばに聞こえる。目を見ればわかる。しっかりとした瞳がそこにあり、そしてしっかりと小夜子を見ている。まるですぐにも居なくなってしまう小夜子を見忘れないようにと、しっかりとめにやきつけようとしているかのご...水たまりの中の青空~第二部~(四百三十一)
ある冬の街角で……、そう、少し雪の散らつく寒い夜のこと。ダウンジャケットのポケットに迄、冷たさが忍び込んできた。路面がうっすらと雪の化粧をし、街灯の灯りで眩しい。ひっそりとして、明かりの消えたビルの前を、ポケットの中の小銭をちゃらつかせながら歩いていた。とその時、後ろから恐ろしく気味の悪いーかすれた、腹からしぼり出すような声がする。”だめだ!左はだめだ。右に、行くんだ!”どぎまぎしながらも後ろを振り向いた。全身が血だらけで、片腕のちぎれかけた男が、呼び止める。生々しいタイヤの跡が、顔面に刻み込まれている。その男、確かにどこかで見たような気がする。が、あまりの形相に思わず目をそむけた。そのまま逃げ出し、左へ折れた。そう。男の言う、行ってはならない左へ行った。と、ふと思い出す。血だらけの男の居た場所は、雪が白...ポエム~焦燥編~(右に、行け!)
五月日ざしは肌に悪いからという貴子のことばで、山肌の木陰で食事をとることになった。「三角おにぎりのつもりなんですけど……」と、真理子がはじめて握ったというおにぎりが出された。「形が悪くてごめんなさい」というそれは、すこしいびつな丸っこい形をしていた。「お味はどう?」と問いかけられ、「うまい!」となんども叫ぶように言いながらぱくついた。満足げに頷く彼にうながされて、ふたりも頬ばった。とたん「塩辛い!」と、目を白黒させながら声をそろえて言った。「ちょうど良いって」という彼の必死のことばに、真理子の警戒心がとれてきた。会社ではぶっきらぼうな態度をとる彼だが、それが照れ隠しによるものなのだと知り、そんな彼に親近感を覚えた。(やっぱり、九州男児なのよね)再確認する真理子だった。そして彼を、故郷にいる兄にダブらせた。...青春群像ごめんね……えそらごと(二十九)
部屋の照明は落としたまま、ベッドぎわの灯りだけを点けた。上向きの灯りは、うす暗くはあったが落ち着いた雰囲気で、気持ちも和やかになってくる。ふとんの中に入れと、小夜子を迎え入れた。しわになりにくい素地の服だということで、小夜子も久しぶりに武蔵に触れられるとウキウキしてくる。しかし武蔵の体を感じたとたん、あまりの痩身ぶりに驚かされた。たしかに腕にしろ足にしろ、細くなっていることは見ていた。が、直接に小夜子の体全体で感じる物とは異質のものだった。“こんなに痩せ細ってるの?ううん、だいじょうぶ。退院したらしっかりと栄養を摂らせるから”小夜子のそんな思いを推し量ってか、「小夜子。病院食ってのは、精進料理そのものだな。まるで脂っ気がないぞ。ああ、中華そば食いたい、ステーキもがっつりといきたいぞ」と、両手を合わせてお願...水たまりの中の青空~第三部~(四百二十九)
海はいつか日暮れてぼくの胸に恋の剣を刺したままその波間に消えた追いかけてもきみは見えない白い闇が迫りくるだけ恋はいつか消えてぼくの胸に涙の粒を残したままその波間に消えていった追いかけてもきみは見えない白い闇が迫りくるだけ昨日も今日もそして明日も夏の渚に立ってきみを探してもあの日のきみはいないあの日のきみはもういない遥かな海………どこまでもどこまでも果てしなく……が、その海もまた…………限りない空……どこまでもどこまでも広がり続く……が、その空もまた…………水平線では、空と海が一つになるなのに………きみとぼくは追いかけても追いかけても水平線はどこまでも果てしなく広がり続ける……わからないわからない追いかけるほどわからない……(背景と解説)彼女が逃げていくわけではないのです。自分の想いと彼女の思惑がずれている...ポエム~焦燥編~(太陽の詩(うた))
(不良だって、俺が?)しかしつらつらと考えてみるに、そう思われるのが当たり前のような気がしてきた。ポマードをしっかり使って、エルビス・プレスリーばりのリーゼントスタイルに髪を整えている。普段は不良っぽさを意識した言葉遣いで話しているし、口ずさむ歌と言えばロックンロール系が多かった。「日ごろの行いって大事なんだよね」そうつぶやく岩田の顔が突如浮かんだ。「年寄りみたいなこと言うなよ」と反論したものの、確かに損をしていると感じる彼だった。同じようなミスをしても、岩田なら仕方ないさとかばわれ、彼のミスには「集中心が足りない」と、小言になる。(不良だと思っているんだ、やっぱり。仕方ないか。不良まがいの日ごろの態度では)と、じくじたる思いが湧いてきた。写真で見た断崖絶壁の縁に立たされたような思いに囚われている彼に、貴...青春群像ごめんね……えそらごと(二十七)
(五)視線その他には、ぐるりと見回しても、とりたてて言うほどのものはない。強いて言うなら、紺いろにいろどられた扉があることか。小さなのぞき窓があり、ときおり神のような冷たい視線がそこから投げつけられる。しかしそれが、どうだと言うのか。冷たい視線など、どれ程のものと言うのか。忘れたころに訪れる、女よ。いくらでも泣くが良い。たとえそれで体中がびしょ濡れになってとしても、それがなんだと言うのだ。ただ無視すれば良いだけのこと。そんなことに気を取られるほどに、暇人ではない。このこころは、深遠な世界にあるのだ。知りたければ、……。はいってくるが良い。そっと足音を忍ばせて、のぞき込めば良い。ごっちんこをすればいい、ドアはいつも開けてあるのだから。窓の外にはポプラがそびえ立ち、その葉をすける太陽の光、そして遙かかなたにか...[ブルーの住人]第六章:蒼い部屋~じゃあーず~
(十一)(周囲の目:二)無事出産を終えて明水館に戻ったとき、大女将の珠恵を始め、番頭に板長そして仲居頭の豊子たちの出迎えを受けた。然も、玄関口でだ。初めてのことだった、これほどの人に笑顔で出迎えられるのは。思わず後ずさりをした。娘だけを取り上げられて、光子はそのまま叩き出されるのではないか、そんな思いにとらえられていた。「お帰りなさい、若女将!」。「お帰り。さあさあ早く入りなさい、奥の部屋で休むと良いわ」。珠恵の優しい言葉は心底のもので、温かい慈愛が感じられるものだった。そしてそのことばで、やっと光子はこの合原家の一員となったことを実感した。それは突然のことだった。珠恵がお使いから帰ったところを見た清子が「おばあちゃま、おかえりなさい!」と、通りの向かい側に飛び出した。急ブレーキ音とともに、ドン!という音...スピンオフ作品~名水館女将、光子!~
行動派が言う。「誰も反対しないようだ。委員長、やってくれ。時間が勿体ない」眼鏡をかけたやせっぽちの男が、渋々と立つ。と、あろうことか「待ってください。みんながそれでいいと言うのなら僕もそうしますが、僕としては、自習とした方がいいと思います。第一、先生も居ないことだし。それに、あと二十分足らずの時間です。討論の時間には少ないと思います。風紀については、重要なことですから、誰かが調査して、その結果を元に討論してはどうでしょうか」と、小声ながらも、はっきりと胸を張って、真面目派が言った。クラス内に、割れんばかりの拍手が起こった。真面目派は、“ドクン・ドクン”という心臓音を耳にしながら、真っ赤になっていた。さすがの行動派も、いつも連れ立っている仲間の一人に反対されては、反論のしようがなかった。「それでは、俺とあと...原木【Takeitfast!】(五)意外なこと
断じて許すことはできません。八つ裂きにしても足りない男どもでございます。しかしもうわたしには気力がございません。お話しする気力が、ございません。もう、このまま死にたい思いでございます。まさしく地獄でございます。……地獄?そう、地獄はこれからでございました。じつは不思議なことに、男どもには顔がなかったのでございます。もちろん、その男どもをわたくしは知りません。見たことがありません。だから顔がない、そうも思えるのではございます。しかし、……。そうですか、お気づきですか?ご聡明なあなたさまは、すべてお見通しでございますか。”申し訳ありません!申し訳ありません!!”わたしは、犬畜生にも劣る人間でございます。“殺してください、わたしをこの場で殺してください。この大罪人の、人非人を!”そうなんでございます、男どもは、...愛の横顔~地獄変~(十七)銀蝿などと!