短編小説『支点の登り方』エレベーターのないマンションの五階まで、階段は二十段。みどりさんの日課のウォーキングは、この階段がゴールだった。ある日、ふと逆さ歩きに挑戦した。後ろ向きで階段を登るのだ。最初はおっかなびっくり。手すりにすがりながら、ゆっくりと。しかし、何度やっても、途中で必ずグラッとくる。転びはしないが、心臓がちょっと跳ねる。なぜだろう。ただ段を上がればいいだけなのに。ヨガの先生が言っていた。「意識は、どこに置くかで体が変わるよ」みどりさんは階段の前で目を閉じた。「意識の置き場所…」次の日、実験開始。右足で体重を支え、左足を一段上げる。この時、意識は「上げる左足」ではなく、「支える右足」に集中する。足の裏が冷たいコンクリートを押している感覚。筋肉が微かに震える感覚。すべてを「支点」の右足に注ぐ。そ...後ろ向き階段?