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BL小説『いつか君に咲く色へ』連載中です。人の感情を色で把握できるDKとその色をもたない同級生のおはなし。ゆっくり恋になっていきます。

『ありえない設定』⇒『影遺失者』と『保護監視官』、『廃園設計士』や『対町対話士』(coming soon!)など。…ですが、現在は日常ものを書いております。ご足労いただけるとうれしいです。

風埜なぎさ
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2014/08/13

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  • いつか君を恋と呼べたら #22

    生絹とは二年生に進級したときにもおなじクラスになった。心のどこかでそうなるような気がしていたから、とくに驚きもしなかった。クラス分けが張り出されている掲示板のまえで前後になったふたりの名前を見つけたとき、生絹とはこうして一生そばにいるのかなぁとひどくしずかに凪いだ気持ちで思った。それでも、春の光のなかで、おだやかな湯にたゆたうような幸福を覚えた。 生絹。傍らで「またおなじクラスだな」と言ってうれ...

  • いつか君を恋と呼べたら #21

    担任のその提案に当初は、子どもっぽいとか、その程度で大学受験を乗り越えられるのなら苦労しないとか、高二の同窓会ってなにか意味があるのかなとか、ぜんぜん乗り気でない意見ばかりが目立った。至極もっともだ、と碧生も思った。手紙を書こうにも三年後という微妙なタイムラグはどうなんだろう、と。 けれど、つぎの週のロングホームルームで担任が便箋と封筒の束を抱えて教壇に立ったとき、なぜか全員が厳粛といっても差し...

  • いつか君を恋と呼べたら #20

    寒風の吹き抜けるグラウンドの片隅には長机が置かれ、そのまわりを高校二年生のときにおなじクラスだった男女が取り囲んでいる。ほとんど全員の視線が長机のうえの一抱えはあろうかというぼろぼろのごつい金属の箱にむけられている。碧生たちのタイムカプセルだ。13年間ものあいだ、漂流し続けていた17歳の自分たちのかけら。 もうずっと長いことその存在すら忘れていたのも関わらず、碧生の心はそわそわと落ち着かない。「それ...

  • いつか君を恋と呼べたら #19

    「ねぇ、どうして?」 やっと絞り出したふるえる声で碧生は訊ねた。傷つけられたのは碧生のはずなのに、なぜか生絹がひどく傷ついている気がした。「どうして……どうして、こんなことするの?」「な、これで、碧生はいつだって左手を見れば俺を思い出せるんだよ」「こんなこと、しなくても……忘れたりしないのに」「言葉だけの約束は弱いんだ。ちゃんと物理的に残しておかないと。俺には碧生以上に大切なやつがいないんだから。碧生...

  • いつか君を恋と呼べたら #18

    うたうような調子で、楽しげに生絹が碧生の名を呼ぶ。その声が魂がここにないようなまなざしとひどくちぐはぐで、碧生の背を悪寒が這いあがった。どうしたの?訊きたいそのひと言が、どうしても出ない。「碧生、手を貸して」 悪い魔法というのは、ああいうふうなものなのだろうか。碧生はうっすらといやな予感を覚えながらも、催眠術にでもかかったように生絹の手のひらにゆらりと手をゆだねた。 つぎの瞬間、脳天まで貫くよう...

  • いつか君を恋と呼べたら #17

    生絹が「化学室に参考書を忘れたからいっしょに取りに行こう」と碧生を誘ったのは、高校一年生の秋、碧生が生絹と出会ってもう半年以上がすぎようとしていたころの放課後のことだった。 面倒だなぁとすこしだけ思いながらも、ところどころが欠けているすのこをがたがた言わせながら渡り廊下を連れ立って歩いて、化学室のある第三校舎までむかう。もうすぐ陽が落ちようとしていた。燃え立つようなオレンジ色の陽はすべてをあま...

  • いつか君を恋と呼べたら #16

    バスのアナウンスがのどかな声でつぎは高校前、と告げる。バスのなかの泡のようなざわめきがひときわ大きくなるとともに、碧生はふっと冬枯れの木々が空に梢を伸ばす景色に引き戻された。また回想にふけっていたことに気がついて、しっかりしろと自分に言い聞かせる。 それなのに、心のなかで厳重に封をして、閉じ込めて押し込めて普段は忘れたふりをしている数々の記憶の蓋が、丘野と言葉を交わしたのを皮切りにつぎからつぎへ...

  • いつか君を恋と呼べたら #15

    けれど、碧生はどれだけの理不尽な束縛を受けようと、生絹のそばにいたかった。そばにいられさえすれば、ほかの級友たちの目も気にならない。クラスで孤立してもいい。ふたりぼっちでいい。 自分でももう、どうしてなのかわからなかった。二重底になった心の奥では、芽生えはじめていた自分の本音の帯びる熱に気づいていたのかもしれないけれど。ただそのときは、親愛からも友愛からもかけ離れたところで、「碧生だけがいればい...

  • いつか君を恋と呼べたら #14

    たとえば。 生絹といつものように碧生の席であちこちとピンポン玉みたいに話題を変えながらだらだらと喋っていたら「おーい、園田」と呼ばれて振り返った。クラスメイトで読書が好きだという男子が、二週間ほどまえに生絹に黙って碧生が貸した本を片手に歩み寄ってくるところだった。 たったそれだけで生絹の切れ味のよい不機嫌の気配を感じて、胸の奥がひんやりする。 いつも寡黙で教室でひとり本を読んでいるのがうそのよう...

  • いつか君を恋と呼べたら #13

    生絹の碧生に対する束縛の例をあげつらえば、それはもうきりがなかった。 たとえば、週明けの月曜日。「おはよう」と声をかけた瞬間から生絹の機嫌がひどく悪いので、おそるおそる「どうかした?」と訊ねた。針のような声が碧生の心に突き刺さった。「碧生、お前、きのう井上たちとみどり町のショッピングセンターにいただろ」 碧生と目を合わせようともせずに生絹は言う。背中をひやりと、とてもつめたいものが這った。 たし...

  • いつか君を恋と呼べたら #12

    ひとりぼっちの生絹。人付き合いの苦手な生絹。けれど、それでも碧生を選んでくれた。 そう思えば思うほど、びっくりするほど賢いのにうまく立ち振る舞えない不器用な生絹がいとおしかった。そばにいたいと思った。 生意気、気取ってる。ひそひそとささやかれる、あるいは聞こえよがしな生絹への反感を耳にするたびに、「だいじょうぶだよ」と視線だけで碧生は生絹に伝えた。その視線にこたえて、生絹はいつもかすかに笑って...

  • いつか君を恋と呼べたら #11

    生絹はまるで口癖のように気負いない口調で言う。「碧生がいれば俺はそれでいいから」と。 勇気を最後の最後まで振り絞るような女子からの告白をあっさり断ってしまうとき、口さがないクラスメイトの「瀬尾って生意気じゃね?」という言葉を偶然聞いてしまったとき、「碧生だけがいればいいんだ」とむしろ碧生を安心させるように繰りかえしそう口にする。 まるで選ばれた人間だけが聴ける福音のような言葉だと碧生は思った。生...

  • いつか君を恋と呼べたら #10

    ほかのクラスメイトのまえではいつも涼しげな顔をして、つねに他と一定の距離を保っている生絹が、碧生にだけ笑顔や不機嫌な顔を見せるようになるのに時間はかからなかった。その笑顔に、ぶすっとした顔に、特別な友達だと言外に言われているようでただうれしかった。いまだに、碧生のどこが彼のお気に入りだったのかはわからないけれど。 碧生のほうもすぐに生絹に夢中になった。 ユーモアと怜悧さを兼ね備えた生絹と話すのは...

  • いつか君を恋と呼べたら #9

    ふっと回想から我に返ると、バスのなかはなんとなく聞き覚えのある名前を呼びあう声と「ひさしぶり!」「元気だったか?」などというやりとりに満ちていた。乗車時には気がつかなかっただけで、碧生をふくめ、地元組ではない元クラスメイトがほとんど、同級会会場に指定されている母校にむかうこのバスに乗り合わせているようだった。丘野も通路を挟んでむこうの栗色の髪の女子となにやら熱心に話し込んでいる。 にぎやかな車内...

  • いつか君を恋と呼べたら #8

    なんとか笑いの波を飲み込んだらしい彼は、それでもまだ声をふるわせながら言った。「頼む。『もめん』はやめてくれ。俺、瀬尾もめんなんて名前いやだよ」「……じゃあ、これ、名前なの?」「そう。これで『すずし』って読む」 変わった名前、とちいさくつぶやく。声を拾っただろうに、生絹は気分を害するふうでもなく「だろ?」と笑って「4年前に死んだ父親が絹織物を扱う仕事しててな。そこにちなんでるんだ。生絹ってのは生糸...

  • いつか君を恋と呼べたら #7

    瀬尾生絹(すずし)と出会ったのは、碧生が高校一年になったばかりの春だった。 大なり小なりの差はあれど、みんな鋭意作成中というふうなおさなさの残る顔立ちをしていたなか、生絹は同い年とは思えないくらいに完成度の高い、むしろすこし怖いくらいに整った目鼻立ちをしていた。ほっそりした背中をいつもまっすぐに伸ばしていた。入学してすぐのころは、女子たちが川のなかの小魚のようにさわさわと騒ぎながら、彼を遠巻きに...

  • いつか君を恋と呼べたら #6

    こちらを見る瞳に軽く首を振った。「いや、普通に大学に進学して、最初は一般企業に入社したくらいだよ」 碧生が答えると、「すごいね、13年もあればなんにだってなれるってことだよね」と丘野はくりくりした瞳を瞬かせて真顔でうなずいた。碧生は自分をそんなたいそうに考えていないので、若干の戸惑いを覚える。 なにやらひとり納得しているようすの丘野は楽しげに言う。「けど、むかしから園田くんってものすごくきっちり...

  • いつか君を恋と呼べたら #5

    「ありがと、わたしひとりだったらきっと落っこちちゃってたよ」 そう言って笑って碧生を見上げた母親は、赤ん坊をあやしながら「川瀬美星です、覚えてる?」と言った。 聞き覚えのない名前に首をかしげると「あっ、ごめんね。旧姓は丘野。丘野美星」と軽やかに訂正が入った。なんとなく天体観測を彷彿とさせるこちらの名前の記憶はあったので、「覚えてるよ。図書委員で一緒だったね」と答える。 結婚してもう7年経つからつい...

  • いつか君を恋と呼べたら #4

    ふるさとの地を踏むのは高校卒業以来はじめてだった。なつかしさを覚えるより足元がざわざわと落ち着かないような奇妙な感覚だ。ふと間違った世界に入り込んでしまったような。 山間の鄙びた温泉街は町を出たときとほとんどなにも変わらないように思える。駅前に並んで三軒あったはずの土産物屋が一軒減っているところをみると、どうやら衰退の方向になだらかにゆるゆると下っていっているのかもしれないけれど。 ぼんやりと駅...

  • いつか君を恋と呼べたら #3

    「見つかった、のか」 ふたたびのひとり言とともに見あげる、アイボリーホワイトの天井のシーリングファンを埃がうっすら覆っていた。めんどうだ。また掃除をしなければ。 そんなことをつらつらと思いながらも、碧生の心ははるかむかしの高校時代に飛んでいる。 古い校舎の廊下に反響する上履きが床にこすれる音、チョークと埃の混ざりあったような教室のにおい、休み時間ともなれば学校中を覆ったはじけるような笑い声、配られ...

  • いつか君を恋と呼べたら #2

    その風変わりな同級会の開催を知らせるはがきを見つけたのは、たまたまのことだった。 仕事先でもらってきたラングドシャを食べようと紅茶を淹れてカップをソファーテーブルに置いた。その拍子に、郵便受けから抜き出してきてそのままテーブルの端に置いてあった郵便物の小山がばらっと崩れた。 ダイレクトメールやチラシ、公共料金の引き落としの連絡票にまざって妙に目を引いたのは、そのなかに一枚だけあったなんの変哲もな...

  • いつか君を恋と呼べたら #1

    ときどき見る夢がある。真っ白で、真っ黒な凍りついた悪夢。 夢の景色はこうだ。 小雪のちらつくなか、広い雪原にたたずんでいる。すこし離れたところから、ブレザーを着た端正な顔立ちの男子高校生が黙ってこちらを見返している。表情に浮かんでいるものを読み取ろうとするけれど、うまくいかない。 上着を着ていないのが寒そうで、上履きを履いた足がとてもつめたそうで、歩み寄り手を取ってこちらに引き寄せようとする。あ...

  • 箱庭に降る音の名は 《最終話》

    「それでいいの?」と小窪がすこし笑った。緊張がゆるんだのか、おさない笑顔だった。すこしだけ、と僕は言う。「すこしだけなら、怖くない?」小窪がうなずく。あらためて向き合うかたちで座りなおして、その唇に唇を重ねた。ただ重ねるだけのキスだったのに、とても気持ちがよかった。これ以上のあれやこれやはもっともっと気持ちいいんだろうなぁという煩悩がよぎりはしたものの、実行には至らなかった。ただ、小窪をこわがらせ...

  • 箱庭に降る音の名は #29

    からめた指先でゆるく手をつないだまま玄関ドアをくぐる。背後のドアの閉まる音がいつになく大きく聞こえた。指を離して施錠し、上がり框で小窪を抱きしめた。指先まで心臓になったみたいに鼓動がうるさい。小窪がそろそろと僕の背に腕を回す。なにも言わずに抱きしめあったままで、お互いのにぎやかな鼓動をそっと交換した。ほんとうのところ、女の子じゃない身体を感じたら、小窪も僕も淡い夢から目覚めるように「これじゃないな...

  • 箱庭に降る音の名は #28

    僕の手をそっと離すと、小窪は「僕にはいま、榎並くんしかいない」とまっすぐな目で言った。ちょっと怖いくらい、直線的なまなざしだった。「夏休み、毎日ピアノを聴いてくれて……しかも、わざわざ聴きにきてくれた日もいくつもあって、話を聞いてくれて、じいちゃんが倒れて混乱しているときに優しくて。言葉が足りない僕のことをちゃんとわかってくれる榎並くんが、僕には必要だよ。榎並くんがくれる気持ちにこたえたいし、僕だっ...

  • 箱庭に降る音の名は #27

    そのピアノの旋律が耳に入ってきたのは、駅のロータリーに差し掛かったときだった。スピッツの『スターゲイザー』だ。あっ、と思いふわふわとした足取りのまま駆け出す。躓きそうになりながらも駅前広場に辿りつけば、案の定、小窪がピアノに向かっている。両手の指がいっさい迷うことなく鍵を押し、メロディを奏でている。「小窪!」名を呼ぶと、旋律がやんだ。榎並くん、と振り返った小窪はただにこにこ笑っていて、しあわせそう...

  • 箱庭に降る音の名は #26

    はじめてLINEの小窪とのトークルームにふきだしが浮かんだのがその一週間後の金曜日の夜だった。驚いたことにトークはじめてのメッセージは小窪からだった。漫画雑誌を読んでいた僕の頭から、おもしろいと思っていたはずのストーリーが瞬時に吹き飛んでいく。『あした、12時に駅ピアノのところで待ってる』急に走り出したせいでひっくり返りそうな心臓をもてあましながら、みじかいメッセージをなんども読み返す。これは、返事をさ...

  • 箱庭に降る音の名は #25

    翌日からも小窪は屈託なく僕に笑いかけ、話しかけてくれた。昼食の弁当を一緒に開くようにもなった。僕のとなりでひろげられる小窪の弁当は彩りがきれいで、大事につくられているのがよくわかる。こんなふうに育てられたんだろうなぁと、勝手に弁当から生い立ちを思った。天高く馬肥ゆる、という感じの秋晴れの昼休みだった。あいかわらずきれいな色彩の弁当を食べながら小窪が言った。「そうだ。高校卒業したら弟子入りする人が決...

  • 箱庭に降る音の名は #24

    高校の最寄り駅まで並んで歩き、改札を抜けて電車に乗ると小窪はちいさく息をついた。「どうなっちゃうのかな」うん、とうなずく。小窪の祖父が師として彼を導けなくなったあと、小窪はだれを頼りに箱庭の木を植え、花を咲かせ、うつくしい庭を保てばいいのだろう。「じいちゃんの伝手で、弟子入りさせてくれそうな人をあたってみてはいるんだけど」えっ、と小さくつぶやく。この地域にそうそう調律師を生業としている人はいそうに...

  • 箱庭に降る音の名は #23

    言葉を尽くして伝えながら、強く思った。花が盛りを終えて散って、若葉が芽生えて生い茂り、花が咲いていたことすら忘れるまえに、やがてすべてが失われるまえに、小窪に想いを伝えられてよかった。ほんとうによかった。どきどきと速い脈を心臓に隠して、意識して口角を持ち上げる。気持ち悪かったらごめんな、と小窪に視線を合わせて笑ってみせると、まなざしは意外にも逸らされなかった。「榎並くん」生真面目な声で小窪が言った...

  • 箱庭に降る音の名は #22

    「混乱しているときに、いきなりごめんな。でも、伝えたかったんだ。小窪が将来、どうしたらいいか考えたかったら、僕がいっしょに考える。ほんとうに逃げたいんだったら、どこへでも連れて行く。小窪のことが、好きだからだよ」重ねて言うと、血の気の失せた小窪の表情にようやく徐々に赤みがさしていく。ゆらゆらと所在なげに視線がぶれる。「榎並くん」とつぶやいて、恥ずかしそうに僕のシャツから手を離す。離した手は膝の上に...

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