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BL小説『いつか君に咲く色へ』連載中です。人の感情を色で把握できるDKとその色をもたない同級生のおはなし。ゆっくり恋になっていきます。

『ありえない設定』⇒『影遺失者』と『保護監視官』、『廃園設計士』や『対町対話士』(coming soon!)など。…ですが、現在は日常ものを書いております。ご足労いただけるとうれしいです。

風埜なぎさ
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2014/08/13

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  • インディゴ #22

    その日の夕方になってやってきた葉は僕の表情を見て、マリー姉さんがいなくなったことを察したのか「ごめんね」と謝った。「インディゴの大事なお姉さんのために何かできたらと思っていたんだけど……」首を横に振る。頼りない動きだと自分でもわかっていた。葉の顔を見たとたん、ぽろぽろと涙が頬を伝った。マリー姉さんの口癖や、髪を梳くのが好きだった後ろ姿を思い出せば、いくらでも涙があふれた。葉は泣くなとも泣けとも言わず...

  • インディゴ #21

    葉がうーん、と言って両腕に顎をうずめた。「僕、自分がずっとままならない恋に振り回されてきたから、幽霊になってまで恋に悲劇がついて回るなんて信じたくないなぁ」うん、とうなずいて葉の目を見つめた。僕のことを好きだと言ってくれる葉。僕も『ままならない』の一部なのだろう。「真剣に考えてくれて、ほんとうにありがとう。マリー姉さんが消えてしまっても、葉がいてくれるのなら何とかだいじょうぶでいられる気がする」葉...

  • インディゴ #20

    その日やってきた葉はすぐ、僕の元気がないことを察してくれた。葉のこういうところがすごいと思うし、本当に尊敬する。細やかさは、逆に葉の繊細さなのだろうか。「どうしたの、インディゴ。どこか具合が悪いの?」心配そうに僕をのぞきこむ葉にしがみついて泣き出したかった。子どもみたいに泣いて、心の負荷をすこしでも軽くしたかった。でも、マリー姉さんを認識できない葉にそんな風には甘えられない。かわりに、ぽつんと言っ...

  • インディゴ #19

    草取りの手をとめている山科のおじさんに背を向けて、マリー姉さんの住む区画へ走り出した。ぴかぴかに磨かれた墓石のうえでマリー姉さんはご機嫌で髪を梳いている。鼻歌が聞こえる。呼びかけると、「どうしたの、インディゴ。顔色が真っ青」と言った。どう訊いていいのかわからない僕の口から飛び出したのは結局、とても直截的な問いかけだった。「姉さんはオリーブさんのことが好きなの?」マリー姉さんの頬がみるみる赤く染まっ...

  • インディゴ #18

    ほんとうに、ほんとうになにげない台詞だったのに、山科のおじさんの顔がみるみる曇っていく。いつも僕を安心させてくれる思慮深さとはまた違った翳りだった。つられて僕も真顔になる。「インディゴ、それはほんとうなのか?マリーちゃんが恋をしているというのは」「うん、マリー姉さんに確かめたわけじゃないから、まだわからないけれど。でも姉さんのようすを見ていればわかるよ」山科のおじさんははびこる雑草を取る手をとめて...

  • インディゴ #17

    その日もやってきた葉にその話をした。僕のような幽霊がどうして存在するのか。胸が不穏な感じにどきどきしている。「それで、僕みたいに幽霊になっちゃうのは、しあわせな死にかたをしなかった人間なんだって」葉がすこし考えて「なんとなく、考えかたとしてはわかる」とひどく言いにくそうに言った。「未練とか心残りとかがあると死んでからも現世にとどまってしまうっていうのはよく言うよ」「……そう、なんだ」でも、と明るい口...

  • インディゴ #16

    マリー姉さんの区画にあたらしく男性の幽霊がやってきたのは、それから三日後のことだった。姉さんとおなじくらいの年恰好で、すこし葉に似たきれいな顔立ちをしていた。「こんにちは」僕が挨拶をしに行くと、すこし疲れたような顔をほどいて「こんにちは。君がインディゴか」とかすかに笑った。「俺、なんていう名前なんだろう。生きていたころの名前も住所も思い出せないんだ」と焦った声で言う。彼のかたわらにしゃがみこんで、...

  • インディゴ #15

    秘密、秘密と胸のうちで猛然と転がしながら、夏の夕暮れがだんだん夜になっていくのを眺める。オレンジから紫、濃紺へと空が変化していく。空の色さえ甘やかに見えた。なんとなく、生きていたころはこんなふうにきれいな空を眺めることもしなかったような気がする。いや、空を見たってきれいだと思うことがなかったのかもしれない。きっと幽霊になるのも悪いことばっかりじゃない。空を見上げることを、忘れていなくてよかった。ふ...

  • インディゴ #14

    ひと言発するごとに考えているような喋りかたで、葉が言う。「たとえばさ、たいていの人は……僕の学校のクラスメイトみたいに……男性が好きな男っていうと気味悪がるけど、インディゴはすこしも気持ち悪がらなかった。自分に好意が向けられているのに」「嫌われるより、好かれる方がずっといいに決まってる」「まぁ、そうだよね。そうではあるよね」葉が二重の目を細めて笑った。かすかにうなずいている。「だから、学校での居場所が...

  • インディゴ #13

    葉が、男性を好きになる男。告げられた言葉を頭のなかで繰りかえした。もちろん、そういう人がいることは知っていた。いじめに遭っているというのは、なるほど、そういう事情だったのか。「そうだったんだ」という僕に、葉は大人びた声で言った。「インディゴにこたえてほしいと思っているわけじゃなくって、ただ伝えておきたかったんだ。わかるかな。僕は、インディゴのことが好き」「うん、わかる。ありがとう」僕がこたえると、...

  • インディゴ #12

    葉がやってくるようになってからも、日中の僕の過ごしかたはだいたい変わらない。山科さんのリヤカーに座って歌を歌ったり、しゃべったり、マリー姉さんと外界と墓地を隔てるブロック塀の隙間から外を眺めたりして過ごした。葉がやってくる時間になると、自分のねぐらの墓石のところに腰かけて、待つ。葉が顔を輝かせて駆け寄ってくるのを、心待ちにして。雨が降っていると葉があまりここにいられないので、晴れが好きだったぼくは...

  • インディゴ #11

    僕の言葉に、葉はとても弱々しく笑った。「そうだねぇ、できるといいね」とちいさく、どこか投げやりな声で言う。まるで他人事のような口調に、心の奥底がひやっとした。僕が思っているより、きっとずっと深く、葉は悩んでいる。毎日、話し相手のいない場所に行くのが苦痛なことくらい容易に想像がつく。マリー姉さんと山科さんのいない墓地より、きっとつらい。想像する以上の痛みなのかもしれない。けれど、葉はがんばって負けま...

  • インディゴ #10

    その日の夕方も葉はやってきた。ねぐらのまえで待っていた僕を見るなり、顔を輝かせて駆け寄ってくる。所作や喋りかたの大人っぽい葉だけれど、そのときはまるで子犬のような喜びようだった。「インディゴ!待っていてくれたの?」「葉が来てくれるといいな、って思っていたところ」くすぐったい気持ちで僕は答える。葉が笑っていてくれることが彼の生きる支えになれば。「ふわふわって学校まで迎えにきてくれればいいのにな」と僕...

  • インディゴ #9

    「人間の友達ができた!葉はいいやつだよ」僕の息せききった報告に、ゆっくりと振り返ったマリー姉さんがおだやかにコメントした。「そうね、そうみたいね」一見、無関心なように自分の髪を梳いているマリー姉さんが実は心配そうにこちらを見ていたのを知っている。だから、「心配いらないよ」と言うと、マリー姉さんが目をしばたたかせた。「インディゴがそんな風に心を許すなんて、意外だな」「どうして?僕、そんなに心が狭そう...

  • インディゴ #8

    その日は主に葉が家族のこと、勉強のことをしゃべった。僕が教えてほしいとせがんだのだ。葉がいじめに遭っているのが心配なだけ、葉の暮らしぶりが知りたかった。両親と三歳離れた妹がひとり、犬が一匹の家族構成で、得意科目は英語と化学。ここから電車で二駅の私立高校に通っている一年生。中学二年生のとき、この墓地近くに造成された、海にも山にも近いという謳い文句のニュータウンに引っ越してきた。順序立てて、やわらかな...

  • インディゴ #7

    「インディゴが話ができるっていう山科さんって、あの人?」葉の視線を追う。おじさんがリヤカーの把手を置いてタオルで額の汗をぬぐっているところだった。「そうだよ」肯定して、山科さんについて補足する。「山科さんはおだやかで思慮深くて、決して人の悪口を言わない人。僕、もしも死ななかったのなら山科さんみたいな大人になりたかったな」葉が嘆息する。学校の先生にもそういうあこがれの対象になるような人がいればなぁ、...

  • インディゴ #6

    僕をやさしく案じてくれる山科のおじさんの言葉を噛みしめて、すこし考えて言ってみた。「きっと、幽霊が珍しいんじゃないかな」「それにしたって、わざわざ会いに来なければいけないだろ。学校に行けばいくらでも人間の友達がいるだろうに」「それもそうか」ふたりで考えていたけれど、納得のいく答えは見あたらない。心の隅に引っかかった綿毛みたいに気になったので、その日は山科のおじさんのリヤカーに乗ってあちこち墓地を移...

  • インディゴ #5

    優しげなまなざしのまま、そっと訊かれる。生卵を両手でくるんで運ぶような喋りかただった。「名前はなんていうの?」「インディゴ。生きていたころはちがう名前だったような気がするけど」「そうなんだ」会話が成立することに安心したように少年はかすかにうなずいた。おだやかさのむこうに聡明さが垣間見える。「僕は葉(よう)。葉っぱの葉で、よう」葉、と呼ぶとまたうなずく。葉の顔をじっと見た。もちろん、失礼にならない程...

  • インディゴ #4

    僕を見下ろすマリー姉さんがあきれたように言う。長い栗色の髪に触れながら、すこし笑っている。「インディゴ、なにびっくりしてるの」「いや、マリー姉さんのほうから僕のところにくるのが珍しいなぁって」マリー姉さんはきれいな顔立ちのほっそりした女性だ。印象としては、幽霊だということを抜きにしても、ごく淡いシャープペンシルで輪郭を描いたような人。山科のおじさんは「薄幸の佳人」と言っていたけれど、どういう意味か...

  • インディゴ #3

    飛び起きて、リヤカーを押す山科さんに大慌てで謝った。「ごめんなさい、山科さん。僕、うつらうつらしちゃって」「起こさないようにしたつもりだったけど、目が覚めたかい」おだやかに言った山科さんは僕がねぐらにしている墓石まで僕を送り届けると、「退勤の時間だから帰るな、またあした」と言ってリヤカーを押して去っていった。山科さんの背中を見送ってから、墓石の足元にうずくまった。夜の間だけ、僕はふわふわと宙を漂う...

  • インディゴ #2

    果敢にも墓石の隙間から顔をのぞかせている雑草に手を伸ばした。もちろん、触れられない、つかめない。僕の生前の名前のように。山科のおじさんがちいさく笑った。「ごめんね。手伝いたいのはやまやまなんだけど」「かまわんよ。インディゴがしゃべってくれるから退屈しない」「もうすぐまた人がいっぱい来るからね。山科さんの仕事もたくさん」「まあ、なぁ。お盆だからな。インディゴが好きな花いっぱいの景色になるぞ」僕は笑う...

  • インディゴ #1

    幽霊になって、インディゴ、と呼ばれるようになってから何年経つのかはよくわからない。気がついたら僕に対する周囲の呼びかけはそうなっていたから。周囲というのは、毎日、僕の暮らす墓地の清掃にきてくれる山科のおじさんやここの隣の区画にいるマリー姉さんのことだ。いまのところ、僕をインディゴと呼ぶのはこのふたりだけ。僕が話をすることができるのもこのふたりだ。なんてせまい世界なんだろう、とときどき思うけれど、こ...

  • あなたの声のそばにいる 《最終話》

    昼過ぎには遠木の実家を辞した。また来ることはあるだろうか。未来のことはわからない。なにひとつとして。駅までの道をふたたび並んで歩きながら、遠木がほっとした声を出した。すこし笑いながら言う。「極の勝算とやらの『お手紙作戦』があんなにうまくいくとはなぁ」「遠木と僕の歳月の力じゃないかな」笑いながら返すと、軽やかに遠木が笑った。思えば長く恋をしていた。恋をしている。そしてこれからもずっと、恋をしていく。...

  • あなたの声のそばにいる #19

    「僕の存在が乃生くんのご両親にとって不本意なものであることは承知しています」ふるえだしそうな足にしっかりしろ、と言い聞かせる。「でも、これを読んでください。乃生くんが、アフリカにいたあいだ僕にくれた手紙と、大学進学直前に書き残してくれた手紙です」これ以上はないだろうという渋面をした遠木の父親と不安そうな表情の母親は、不承不承といったていで読みはじめる。隣で遠木はじっとしている。どれくらいの時間が流...

  • あなたの声のそばにいる #18

    思い返せば、遠木と大きな喧嘩をした記憶がない。僕が我慢することもないし、遠木もおなじだと思いたい。呼吸をするように、お互いがお互いの酸素であるかのように互いを必要としている。言葉に出さずとも考えや思いが的確に伝わることがあるし、12年も離れていたのに不思議なくらいだ。 * * *遠木が浮かない顔で僕の部屋にやってきたのは、帰国から一年半が過ぎようとする夏のはじめごろのことだった。「どうした?しょん...

  • あなたの声のそばにいる #17

    それからしばらく経っても、遠木の両親からは特になにを言ってくる様子でもなかったので「しぶしぶ黙認ってことなのかな」と遠木は言った。僕はそう甘くはないんじゃないかと思ったけれど、遠木を不安にさせる必要もないのでそっと黙っていた。「極はいいの?結婚しろとか言われない?」「基本的に父さんも母さんもそこは放任主義というか、したかったらすればいいっていうスタンスだと思う」そっか、という遠木の横顔が淡くやわら...

  • あなたの声のそばにいる #16

    解放されたのは夕方の陽がまもなく落ちようというころだった。オレンジ色の陽がすべてをあまねく照らしだし、遠木と僕の影も長く伸びている。長時間の緊張のあまりに背骨がぎしぎしと軋んでいた。「遠木、僕、うまくやれてた?」「うん、極はよくやったと思うよ。俺より緊張したろ。わかってるんだ。ありがとな」遠木は微笑んで、僕のほうを見た。茄子色の髪がやわらかに風に揺れる。「どうなんだろう。遠木のお父さん、苦虫を10...

  • あなたの声のそばにいる #15

    「それで、乃生」遠木の父親は息子を見据えるようにして苦々しげに言う。「お前たちはその、最近テレビでときどき見る同性愛者ってやつなのか」問いかけに、遠木も僕もしばらく考えこんだ。どうなんだろう。僕は、小さなころからあんまりにも遠木の上にばかり関心があったものだから、遠木以外には考えられなかったのだけれど。「わからないんだ。俺は極しか好きになったことがないから、改めて訊かれると……どうなんだろう」どうや...

  • あなたの声のそばにいる #14

    「楠原極と申します。乃生くんとおつきあいさせていただいています」名乗り、僕にできうる限り丁寧に頭を下げた。大事なのは第一印象だ。傍らに立っている遠木がたじろぐのがわかった。僕が『乃生くん』と彼を呼んだせいだろう。遠木を『乃生くん』と呼ぶと、無性に泣きたくなるのはなぜだろう。「あぁ、えーっと、つまり……それじゃあ、君が乃生の恋人だというわけだな」「そうです」「そうか……そういうわけだったのか、いつまでた...

  • あなたの声のそばにいる #13

    ひさしぶりに訪れる遠木の家は相変わらず瀟洒だった。けれど、玄関先の階段に手すりがとりつけられていて、遠木の両親が年齢を重ねていることが垣間見える。門柱のところのインターフォンで「母さん?俺だけど」と話しかける遠木のふるえる声を聞いた瞬間、手のひらにどっと汗をかいた。玄関の扉を開けて、家のなかに入る。キッチンから出てきた遠木の母親は遠木を見て、それから僕を見た瞬間、怪訝そうな顔になった。「乃生?あな...

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