chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
゜*.。aquarium。.*゜ http://suisuitokotoko2nd.blog.fc2.com/

BL小説『いつか君に咲く色へ』連載中です。人の感情を色で把握できるDKとその色をもたない同級生のおはなし。ゆっくり恋になっていきます。

『ありえない設定』⇒『影遺失者』と『保護監視官』、『廃園設計士』や『対町対話士』(coming soon!)など。…ですが、現在は日常ものを書いております。ご足労いただけるとうれしいです。

風埜なぎさ
フォロー
住所
未設定
出身
未設定
ブログ村参加

2014/08/13

arrow_drop_down
  • LITMUS #15

    小紅が目をしばたたいた。「言えなかったことって、なに?」あくまでもやわらかに問う小紅の声に、返す。単語をひとつ口にするたびに、緊張で喉が干上がっていく。「僕、だれかにうそをつかれると苦い香りを嗅いでしまうんだ。うそのにおいがわかる。だれかに触れられるとその人の秘密や隠し事がわかってしまう。ちいさいころはそれでだいぶ苦労したんだ。友達らしい友達もできなくて、小紅がはじめての友達で。昔から小紅はうその...

  • LITMUS #14

    どれほどの時間が流れただろう。小紅はベッド柵に肘をついて器用に頬を支えている。もう片方の手はまだ、僕の手の甲でリズムを刻んでいる。穏やかな春の終わりの午後の光に、ずっと昔からこうしていた気がした。小紅に看病されながら、ぽつりぽつりと会話をしている。「碧音、ちゃんと寝てないんじゃないか?顔色、めっちゃ悪いよ」小紅が僕をのぞきこんで心配そうに言う。小紅が、という声が自然と口をついた。いちど、口のなかで...

  • LITMUS #13

    「碧音、どうかしたのか?ぜんぜん食ってないじゃん」急にうつむいた僕をそっと小紅が覗き込んでくる。無理やり、両方の頬を持ち上げて笑いかけた。「小紅がめっちゃ食べてるから、見ているだけでお腹いっぱいになりそう」「ええ、そんなことないだろ。碧音が食べなさすぎ」小紅の無邪気といっていい笑顔にさらに胸がざらつく。この笑顔が僕にむけられる期限はいつだろう。叫び出しそうなのに、空気をひとかたまり押し出すのが精い...

  • LITMUS #12

    四時間目までなんとか居眠りせずに授業を受け、昼休みになった。それぞれなんとなく仲のいいグループで輪になって昼食をとる。音村さんがわりと目立たない女子の集団に紛れ込むのを見てほっと胸をなでおろしていると、小紅が購買から戻ってきた。僕の前の席の椅子に陣取って、戦利品をかかげる。「焼きそばパン買えた」「よかった。小紅、それ好きだもんな」机の上にお弁当箱を載せ、ふたを開けると小紅の目が輝いた。ささみフライ...

  • LITMUS #11

    小紅と音村さんの言葉に、うそのにおいじゃない、だけど苦いものが口の中に広がる。小紅にとってはたとえ僕との間に友情以上のなにかがあっても、それは『冗談』で片付いてしまうものなのだ。しかたない、と、だけどどうして、が心のなかで混ざり合う。だけどどうして、それなら小紅は彼女を作ろうとしないのだろう。「碧音がいればいいんだ」と心地よい言葉をくれるのだろう。もしも小紅に好きな女の子がいたのなら、なにも言わず...

  • LITMUS #10

    教室に入るとほうぼうから「おはよう」が投げかけられる。いまいち顔と名前が一致しないクラスメイトに挨拶を返しながら席までたどり着き、かばんから漢文のノートを取り出し小紅に渡す。「ほら、ちゃちゃっと写しちゃえよ」「ありがと、碧音。あとでジュースおごらせて」小紅がいそいそと自分の席にむかうのを眺めていると、うしろからちょいちょいと背中をつつかれて飛び上がった。「おはよう、河瀬くん」僕に笑いかける真後ろの...

  • LITMUS #9

    小紅を想えば想うほど、恋をしながら親友を装っている寂しさと罪悪感にさいなまれる。けれど、気持ちを伝えて小紅が離れていくことのほうが数百倍おそろしくて苦しかった。幼いころに刻まれた、臆病な気持ちが顔を出してしまう。奇異なものを見るまなざし、すっと向けられる背、うその苦い苦い香り。もし、もしも小紅が僕を見て笑ってくれなくなったら。話しかけてくれなくなったら。僕の世界はまわりに分厚い膜を張ったように閉ざ...

  • LITMUS #8

    小紅からLINEが来るとそれがなんの用件であれ無条件にうれしい。心のどこかでたぶん、ずっと待ちわびている。ただ、小紅は長々とやりとりするのをめんどうくさがって、用事が終わるとさっさとやりとりを打ち切ってしまう。何事に関してもめんどうくさがりの小紅がもしもLINE好きだったらなぁ、と思うのはナミブ砂漠並みに不毛だ。机に向かい、漢文の書き下し文の課題に四苦八苦しているうちに(こういうことや試験のヤマ当てに僕の...

  • LITMUS #7

    家に帰ると、まずは仏壇に手を合わせる。部活動のたぐいには入っていないので帰宅は五時になるまえだ。数年前に大好きだった祖父が逝ってしまい、我が家の体感気温がすこしだけ下がった気がする。中学生になっても僕を「あおちゃん」と呼んでかわいがってくれていた祖父。すこぶる元気だったのに突然、亡くなってしまった。それでも、長らく病を患うでもなかったのを、心の準備のできていなかった別れはつらかったけれどよかったと...

  • LITMUS #6

    小紅への恋慕に気がついたのは中学校にあがってしばらく経ってからのことだった。夏のはじめの昼休み、窓際の自分の席で頬杖をつき、開け放たれた窓からそよぐ風に髪を撫ぜられていた。心地よくて突っ伏して眠ってしまいそう、そう思ったとき。「古関くん」やわらかく、けれど緊張した女の子の声が小紅を呼ぶのが窓の外から聞こえた。ぱっと目が覚めた。カーテンをそっと開けて二階の教室から覗いてみると、さっきまで目の前の席で...

  • LITMUS #5

    「小紅はむかしから変わらない」僕がつぶやくと、うん?と首をかしげる。まっすぐで、健やかな樹木のような小紅。見あげているとこちらまでまるで大事な生きものであるかのように思えるくらいに。僕の世界に小紅がいてよかったと心から思う。碧音だってむかしからあんまり変わってないよな、と小紅が笑う。「どのへんが変わってないんだよ」「うーん、碧音といると何も言わないまま、ぜんぶわかってもらえるみたいで安心する」「な...

  • LITMUS #4

    「碧音、そろそろ3限終わるぞ。起きたほうがいいんじゃないか」小紅の声が浅い眠りの隙間にそっと滑り込んできてふっと顔をあげると、英語の担当教師が板書を消しているところだった。僕の前にはみみずののたくったような筆跡のノート。文法の時間に居眠りをしていたらしい。小紅が笑っている。あのころと変わらない構図、あのころと変わらないうそのにおいのしない笑顔にさっきまで見ていた夢との境目があいまいになる。境目に線...

  • LITMUS #3

    小紅(こべに)と出会ったのは、小学校高学年にあがるときのクラス替えの際に名簿順で席が前後になったからだった。後ろの席の僕を振り返った小紅は、満面の笑みで言った。たったいま、生まれ落ちたばかりのようなまっさらな目をしていた。「碧音くんっていうんだね。俺、小紅だからふたりとも名前に色がついてる」小学校高学年にもなると、みんなどこかしらにうそのにおいをまとっていて、吐き気のしそうなときもあった。特有の苦...

  • LITMUS #2

    来訪客や物のありか以上に僕は人のうそに敏感だった。おじいちゃんがまだたばこをやめられていないこと、おとうさんが実は無類の甘党であることを幼い僕は言いあてて「まいったなぁ」とか「なんでわかるんだ?」と祖父からも父からも驚かれていた。うそを聞くとき、僕の唇に乗る味はすこしだけ苦くなる。いつから、苦みをうそと紐づけしたかは覚えていないのだけれど。熊のストラップ事件のあった日、園からの帰り道で母が言った。...

  • LITMUS #1

    ほんの、まだほんの小さなころから、とても勘の鋭い子だと言われて育った。家にお客さんがやってくる前に「だれか来るよ」と言ったり、母親の探しもののありかを言い当てたりして、両親にも祖父母にも「碧音(あおと)はふしぎな子だね」と言われつづけた。ふしぎ、と言いつつも手放しには喜べない、そんな微妙なニュアンスで。それでも、僕を囲むみんなが笑っていたから、僕のありかたは間違ってはいないのだとなんとなく信じてい...

  • さびしい食べもの 《最終話》

    浅く、深くなかに入り込んで、できうる限り伊理の快楽を引き出そうとした。汗ばんだ身体をふるわせ、僕の名を呼んで、喘ぎ声の隙間から気持ちいいと繰り返す伊理がいとおしい。伊理のなかはしゃっくりするみたいに僕を締めつけるので、このままいってしまうのは簡単そうだったけれど、必死に射精の衝動をこらえた。伊理の声がかすれてきたころ、激しいけいれんが伊理の限界を伝えてきた。「あ、あ、もう、出る、いく……!」立てた膝...

  • さびしい食べもの #18

    伊理の服をすっかり脱がせ、僕も裸になり一糸まとわぬ姿でぴったり抱き合う。ふたりぶんのはやい鼓動を聞きながら、ずっとずっとこうしたかった、とささやくと、ごめんね、と返ってくる。ふたたび唇をあわせ、口づけながら伊理の下肢に手を伸ばすと立ちあがった性器に触れた。瞬間、伊理の喘ぎがたまらなくなったように高くなる。「あっ、あ……ともみ、やぁっ、……あぁ、ん」握りこんだ手をゆっくり上下させると、とたんに濡れてくる...

  • さびしい食べもの #17

    「知水」僕のベッドに腰かけ、改まった調子で伊理が言う。そっと手を伸ばしてきてふとんの上の僕の手を包む。あたたかい手をしていた。生きている温度だと思う。「いままでごめん。ほんとうにごめん。今回のことで知水が俺にとってどれだけ大事か、どれだけかけがえがないのか、よくわかった」「伊理」「好きだよ、知水。いまさらひどいけど、知水のことが好きだよ」伊理がつづける。一生懸命、俺に心を砕いてくれて、ありがとう。...

  • さびしい食べもの #16

    その前日の夜からなんとなく調子はわるかった。寒気がして、だるい。微熱があった。幼いころ、熱を出すと母親が額に手のひらをあてて、大丈夫のおまじないをしてくれたことを思い出した。心配する伊理に「なんでもないよ」といって僕自身も風邪だろうと早めに休んだ次の日、39度を超える熱が出て、さすがに病院に行ったらインフルエンザだった。処方された薬を飲むのもつらい。タクシーで帰宅すると、伊理が「どうだった?」とマ...

  • さびしい食べもの #15

    帰宅して、ひと息ついてから塩パン作りにふたりでとりかかった。伊理の混乱はいくぶん落ち着いたようで、ときどき明るい表情を見せながら多嘉のレシピをなぞっていく。数時間後、伊理には僕の想像以上にパン作りの才能がないことが判明して、彼はオーブンのなかの膨らまない生地を恨みがましく眺めている。書いてある通りにやったのになぁ、となんども繰り返し、多嘉と知水が天才なんだよと言い出す始末だった。伊理とキッチンに立...

  • さびしい食べもの #14

    結果から言ってしまえば、メリーゴーラウンドのチケットを買い求め、係員に差しだすところまでが伊理の限界だった。制服を着た係員の顔を見た瞬間、伊理の顔から血の気が引き、膝が震えるのがはたから見てもわかった。倒れそうな伊理の腕を引き、列から外れる。ほんとうは、手をつなぎたかった。けれど、それは間違っていると痛いくらいにわかっていた。仕方なしに掴んだ腕の主からは大丈夫か?と訊ねても、なんの反応もない。遊園...

  • さびしい食べもの #13

    遊園地の最寄り駅はわかりやすく遊園地駅前という名前だ。日曜日なのもあってか親子連れが多く下車するのに混じって、僕たちもシャトルバス乗り場へ向かう。バスの座席に並んで座ると、伊理の腕に腕が触れる。それだけで切ないほどどきどきするのを悟られないように、軽やかに話しかける。「遊園地日和だね」「きょうなんてなにやったって気分がいいに決まってる」伊理の頬が光を受けている。やつれた感じがすこしなくなった横顔を...

  • さびしい食べもの #12

    秋がすこしずつ深まっていく。木の葉が色づいていくにつれ、伊理の顔に血の気が戻ってくるのを見ながら、ほっとしていた。「あした、遊園地に行こうか」紅葉の名所から、行楽シーズン真っ只中です、と満面の笑顔で告げるテレビのレポーターを見て、伊理が言う。この家で、『遊園地』は多嘉が勤務していた遊園地のみをしめす。「そうだね」端っこがかりかりに焼けたベーコンエッグをつつきながら僕は相槌を打つ。それが、メリーゴー...

  • さびしい食べもの #11

    多嘉の三回忌の法要はつつがなく、滞りなく終わった。かすかに僕個人の波が立ったところを挙げれば、この三年でいくらか生気を取り戻したように見える多嘉の母親に「伊理くんは、元気なの?」と尋ねられた。この人は、多嘉と伊理が恋人同士でいっしょに暮らしていたことも、その思い出の墓場のような部屋に伊理と僕が住んでいることも知らない。ただ、多嘉のいちばんの友人だったのが伊理だと思っている。「あの子、伊理くんのこと...

  • さびしい食べもの #10

    夏の終わりから秋のはじめは、伊理がゆっくりと病んでいく時期だ。多嘉は三年前の夏の終わり、趣味であるツーリングの最中に居眠り運転のトラックと正面衝突した。多嘉の事故と一緒に魂を持っていかれたようなようすの伊理と覗き込んだ棺のなかの彼は、凄惨な事故を思わせない、きれいな顔をしていた。それがフルフェイスのヘルメットのおかげであとは見る影もない、と誰かがささやいているのが聞こえた。その言葉が耳に入っている...

  • さびしい食べもの #9

    「知水」ぼんやりと物思いにふけっていると背後から声をかけられた。すこし輪郭のぼやけた伊理の声。きのう徹夜だったから寝過ごしちゃったと伊理は言うと、僕が手にしていた塩パンサンドを見てうらやましそうな顔をする。微笑んで、伊理にもおなじものを作るべく、席を立った。僕は伊理の夢にはなれないかもしれないけれど、おいしいものを差し出すことはできる。ときに、それが一種の呪いであることを知りながら。塩パンをかじる...

  • さびしい食べもの #8

    多嘉は遊園地で働いていた。テーマパークではなく、遊園地というのがふさわしい、ちいさな遊び場。多嘉の死後、ときどき、伊理は恋人が働いていた遊園地に行きたがる。弔いなのだろう。生前の多嘉はメリーゴーラウンドの担当だったのだと話していた。しあわせの圧のつよい乗り物。雨の向こうにかすんでいるのを見るのがふさわしい、そんな回転木馬。「メリーゴーラウンドは遊園地の隠れた花形遊具なんだぜ」というのが、多嘉の口癖...

  • さびしい食べもの #7

    あの夜。伊理と僕をつなぐいびつな糸が紡がれた夜。通話に応答するまえから、震える携帯電話は伊理からのSOSのコールのような気がしていた。『知水、どうしよう、どうしよう、多嘉がいない』恋人の死をようやく引き寄せた夜だったのだろう。痛ましい通夜でもすすり泣きに満ちた葬式でも、うつろな目のまま涙ひとつこぼさなかった伊理が案の定泣きじゃくっていた。『俺、ひとりぼっちになっちゃった。なにがあっても、なにもなくて...

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、風埜なぎささんをフォローしませんか?

ハンドル名
風埜なぎささん
ブログタイトル
゜*.。aquarium。.*゜
フォロー
゜*.。aquarium。.*゜

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用