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BL小説『いつか君に咲く色へ』連載中です。人の感情を色で把握できるDKとその色をもたない同級生のおはなし。ゆっくり恋になっていきます。

『ありえない設定』⇒『影遺失者』と『保護監視官』、『廃園設計士』や『対町対話士』(coming soon!)など。…ですが、現在は日常ものを書いております。ご足労いただけるとうれしいです。

風埜なぎさ
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2014/08/13

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  • キシャツー! #4

    そうかぁーと実秋先輩は僕を眺めた。だよなぁ、お前、顔がきらっきらしてるもんな、と目を細めて笑う。思わず身を引いて、頬を両手で覆うと「なにやってんの」とさらに笑われた。ちなみに、この時の、この朝の、ハイテンションがから回ったあげくの自分の挙動を考えると羞恥で消えたくなるので、大人な対応をしてくれた実秋先輩の目に自分がどう映っていたのかはぜったいに知りたくない。優しくて寛容な先生や陰湿だから要注意な先...

  • キシャツー! #3

    車内には僕と先輩の姿しかなく、太陽の光がさんさんとさしているのに勇気をもらって僕は先輩の前までちょこまか走り寄った。「おはようございます!」面食らったように先輩が顔をあげる。だるそうに座席にもたれて読んでいた本は意外なことに漫画ではなく、しかも分厚いペーパーバックの英語の小説だった(the story ofで始まっているのでわかる)明るい茶色の髪、男にしては白い肌、黒目がちの目、薄い唇。その唇が動いて「おう、...

  • キシャツー! #2

    キッチンに降りると母さんの「おはよう」がやわらかに飛んできた。おはよう、と機嫌よく返し、ダイニングテーブルの自分の席につく。春の日差しが差し込むダイニングで、父さんと姉さんはもう朝食を半ば食べおえて、それぞれ会社と大学に行く格好をしていた。姉さんはおととい大学の入学式を終えたばかりで、思えば去年の我が家はなんとなくどんよりしていた。なんど姉さんと「遠い夜明けだね……」と言いあったか記憶にない。なには...

  • キシャツー! #1

    《春》あたらしい服というのは、どうしてこうも人をこそばゆい自意識過剰に陥らせるのだろうか。特に制服となるとプラスアルファ緊張と高揚で鏡の前から離れられなくなる。というわけで僕は四月上旬のよく晴れた朝、自室のスタンドミラーの前で、制服のブレザーのボタンを掛け違えていないかとか、えんじ色のネクタイの結び目が変じゃないかとか、ズボンの折り目がゆがんでいないかとか、とにかくそういったことで頭をいっぱいにさ...

  • 彼方の夏へ 《最終話》

    指先を体内に潜り込ませると、さすがに怖いのか緊張しているのがわかる。「ナツ、ゆっくり息をして。大丈夫だから。ここで、ちゃんと気持ちよくしてやるから」俺の言葉に安心したように内腑の緊張がすこしほどけた。ぐるりと指を巡らせると、ナツが一点で高い声をあげた。びくびくと身体を震わせる。「ここ?ナツの気持ちいいところ、ここ?」ナツがこくこくとうなずく。変、だけど、いい。ゆるゆるとじれったいほど時間をかけてナ...

  • 彼方の夏へ #21

    シバさん、とつぶやくナツの涙がTシャツの肩をじょわじょわ濡らす。なんで泣くんだよ、と子どもをあやすように言うと、肩口で声がした。「シバさん、ちゃんとキスをして。眠っていないときに」一回だけ、鼓動が強く、胸を打った。一瞬ためらって、ベッドスペースに片手でナツを押しやって俺もそのあとにつづく。遮光カーテンを閉める音に、ちいさくナツが身じろいだ。ふとんの上で唇を重ねると、ナツの口腔に舌を忍ばせた。ナツも...

  • 彼方の夏へ #20

    こんなに真摯に他者から存在を乞われるのははじめてだった。年下の男に、年甲斐もなく、どうしようもなくどきどきした。ハンドルの上にきちんと両手を並べる。深呼吸しなければ、そうだ、深呼吸を。そして、思った。こいつとなら、俺もひとところで生きていけるんじゃないだろうか。窓を開けてくれる手が、新鮮な空気を運んでくれる手がある場所でなら、生きていけるんじゃないだろうか。俺の迷いを見透かしているのだろう、とても...

  • 彼方の夏へ #19

    「しょうがねえなぁ」俺が笑うと、ナツの顔が曇った。僕、絵が描けるようになったのに、まだシバさんと一緒にいたい。なんでだろう。シバさんのことは優しくて怖い人だと思っていて、それで。「きっと、僕、シバさんのことが好きなんだ」どくりと、一度だけ心臓が跳ねた。続いて、とくとくと速まった鼓動がつづく。ナツが言い募る。シバさんがハルさんの話をするたび、なんだか悲しくて悔しくてどうしてだろうと思っていたけれど、...

  • 彼方の夏へ #18

    「シバさん、なんか眠そう……っていうかめっちゃ顔むくんでるよ?大丈夫なの?」ステアリングに両腕を乗せてぼうっとしていると、俺のやましさなんて知るよしもないナツが、心配そうに顔を覗き込んでくる。よく眠れなくってよ、と詳細をおおいに省いて返すと、シバさんでもそんなことあるんだーといたってのんきに言われた。僕、時々夜中に目が覚めるんだけど、シバさんすごく寝てるから、意外。知ってるよ、と思う。お前が眠れない...

  • 彼方の夏へ #17

    「シバさんにとって、いま、ハルさんはどんな存在なの?」ナツがおそるおそるといった調子で尋ねてきたのは、鹿児島のサービスエリアで仮眠休憩をとる寝入りばなのことだった。もう眠気に両足をとられているのか、もったりとした緩やかな口調だった。そのゆるりとした質問に、俺の口もつい軽くなる。「思い出すと痛い、でも思い出さずにはいられない、会いたい、でも会うのが怖い、忘れられるはずがない」重いね、とナツが言った。...

  • 彼方の夏へ #16

    誘蛾灯に群がっては死んでいく翅の話を思い出した。ナツは言った。あこがれていたものに最期に触れられるのだから、いいなあと思うと。お前だって思っているだろう。三文の恋なんかじゃなかったって。すべてを捨ててもいいくらいに好きだったんだって。「兄ちゃんの婚約者とは、なにかあったのか」問うと、ナツはものすごい勢いで首を横に振って「ないないない、ありえない」と言う。天地がひっくり返ったってあの人が僕とどうこう...

  • 彼方の夏へ #15

    夏の、白くて細い雨がさあさあとフロントガラスに降り注いでいる。ずいぶんとしばらくぶりの雨だ。ナツは雨の軌跡を指でたどって遊んでいる。どこか、いつもと様子が違う気がした。俺はちらちらとナツを横目にしながらも運転に意識を向けている。ハルに言われた。シバくんの運転、すごく安心して乗っていられる。椅子に座っていられないほど落ち着きがなかったなんてうそみたい。それからというもの、俺は無事故無違反安全運転を心...

  • 彼方の夏へ #14

    ―――ああ、どうして。どうしてお前はそう聡いんだ。なにかが決壊したようだった。あふれ出して、流れ出す。もう、止めることができない。俺は、ナツにハルとの思い出を語り始めた。工事現場で出会ったこと、ダンプカーであちこち出歩いたこと、雨の日のおにぎり、そしてこの車での別れ、幸せを願えばその手を離すしかなかったこと。忘れてなどいない、こんなに覚えている。こんなに、記憶から消えてくれない。ナツはちいさくうなず...

  • 彼方の夏へ #13

    「ハル……ハル、元気か?」「うん」すべてをあまねく照らす真夏の光のなかで、ほんの少し笑って、ハルはうなずいた。そして、両手をきちんと並べ、膝の上に置いた。あ、と思う。『しるし』だ。あの、あのね、ハルがなにか言いかけて口ごもる。なんだよ、もう、と促すと恥ずかしそうに言う。いま、秦野さんのご両親に挨拶に行った帰りなんだ。その言葉にへなへなとその場に座り込んでしまいそうな、軽い衝撃と深い安堵があった。ハル...

  • 彼方の夏へ #12

    夏休みに入ったサービスエリアはうんざりするような人出だ。連日ラジオで長蛇の渋滞情報が流れると、それだけでげんなりする。クーラーを最強で稼働させているのに、直射日光でもうこれはどうにもならない。「混んでるね」大型車用の駐車スペースでナツが呆気にとられたように言った。夏休みはいつもこうだぜ、と返すと「まじ?僕、シバさんのことほんとうに尊敬する」と真顔で言われた。やめろや、とそらしたまなざしが目のくらむ...

  • 彼方の夏へ #11

    珍しく高速道路がすいている午後のことだった。隣で炭酸水を飲みながらナツがふと俺に疑問を投げた。「シバさんさぁ、結婚しないの?」「はあ?」質問があまりにもいきなりで少し声がとがった。結婚て。こいつ、俺を人生の指標にするつもりだろうか。ろくなことにならないぞ。「いや、シバさんモテるでしょ」喉の奥から笑いが漏れた。ひとり深夜の高速道路を長距離トラックで飛ばす男にモテる要素があるんだろうか。すごく、ない気...

  • 彼方の夏へ #10

    博多付近のサービスエリアで仮眠をとった。遮光カーテンを引き、俺はふとんで、ナツはシュラフで眠っていた。ナツは俺が運転中にいつでも寝ていいよ、というのに首を振る。ちゃんと、いろいろなものを見ておきたい。そう言って。だから仮眠のタイミングはいつも一緒になった。ふっと目が覚めた。ナツが起きている、そんな気配がした。わずかに身を起こす。昼間をさえぎるカーテンの生む薄暗がりの中で、ナツが一心にスマホを見てい...

  • 彼方の夏へ #9

    ナツの言葉に、胸が詰まった。もう会えない。最後のメッセージでハルは『きっと会えるよ』といったけれど、俺たちをつないでいた衝動の糸はあいまいに切れてしまった。もう会わない、もう会えない。どちらだろう。たくさんのかわいい話、たくさんの重い苦しみ。どちらを俺との記憶として、ハルは選ぶのだろう。わからない、わからなかった。でも、とナツが明るい声を出した。「もう会えないって思ってても会えるんだ。会いたい人に...

  • 彼方の夏へ #8

    「こら、ナツ、ただめし食えると思うなよ」「あたりまえだよ。ヒッチハイカーなりにお金は持ってる」「えらいぞ。ただめしが食えるとはなから思い込むやつと、めしを粗末にするやつはろくでもないやつだ」ナツが楽しそうに笑った。それ、シバさんの人生訓?久しぶりにいいこと聞いたな。機嫌を取ろうとしているのではない、いい笑い方だった。天ぷらがすっかりそばつゆを吸ってふやけているのに機嫌よくいられたのは(さくっとして...

  • 彼方の夏へ #7

    「誘蛾灯に」横顔を盗み見ながら、思わず口をついた。「誘蛾灯に向かって飛んでって、死んじゃう虫のこと、お前どう思うよ?」「いいなあって思う」唐突な問いにもかかわらず、間髪を入れず、想定外の答えが返ってきてちょっと動揺した。両の手のひらをハンドルの上で握って開くのを何度か繰り返す。「あこがれて、近づきたかったものに、最期にたどり着けるんだ。いいなあって、思う」あどけない、夢見るような声だった。たったい...

  • 彼方の夏へ #6

    描けなく、なっちゃったんだよね。頼りない声がふよりと車内を漂う。ハンドルを握ったまま、そっとナツを見やる。弱々しく笑って「有名な賞をもらったこともあるんだけど」と情けなさそうにいった。だから、いろんなものを見て、聞いて、触って、嗅いだり味わったり、そういうことしないと。このままずるずる描けなくなったら、まわりにどやされる。どやされるのが怖いんじゃなくて、これ以上、まわりの期待を裏切るのが怖いんだ。...

  • 彼方の夏へ #5

    ナツがやわらかに、軽やかに尋ねる。「シバさんは?いくつ?」「35」「わー、大人の人だ。僕、タメ口きいちゃってるけど、いい?」変な奴。また少し笑って、絶対に許さねえ、次のサービスエリアでおろしてやると言うと、わぁー嫌ですそれだけは勘弁してくださいと慌てたように言う。冗談だよ。まじに取られると困る。「で、さっきのシバさんの話なんだけど」ナツが問う。「どの話だよ」「ミケ。シバさんの名前と『ミケ』のあいだ...

  • 彼方の夏へ #4

    「ありがとう、ほんとにありがとう」そのサービスエリアを出発するまで10分もたっていなかったと思う。男は俺のトラックの助手席でまるで神さまをあがめるようなまなざしで俺を見て礼を繰りしていた。運転しながら、おざなりな返事をする。「わかったわかった、ありがたく思うんなら、そのたい焼きを半分くれ。腹が減ったんだよ」差し出されたたい焼きを左手で受け取ってかじりながら、「で、名前は」と促した。「芦田、那津」思...

  • 彼方の夏へ #3

    「こんにちはー」青年がさわやかに挨拶してくる。初夏の日差しのなか、とても感じのいい笑顔で。ふさがりがちだった胸にすうっと一瞬だけ、すずしい風が通り抜けた気がした。そよかぜ、まさにそんな感じで。好青年、という使いなれない言葉が脳裏に浮かんだ。片手をあげて挨拶を返す。「おう、兄ちゃんどこ行くんだ」「えっと、門司まで行きたいんですが……」誤字に気づいていないとみて、「そんなんじゃ誰も乗っけてくんねえぞ」と...

  • 彼方の夏へ #2

    鹿児島のサービスエリアで仮眠から目覚めると、ふいに尿意を催した。ベッドスペースから這い出し、トラックを降りて鍵をちゃりちゃり鳴らしながら公衆トイレに向かう。昼間のサービスエリアは日曜だからということもあるのか混雑していて、たい焼きとソフトクリームののぼりには行列ができていた。小さな子供が「たいやきたりぶー」と叫んでいる。その子供を抱いた母親は、娘を軽くゆすり上げてあやしながら、かばんのなかを探って...

  • 彼方の夏へ #1

    夜だった。中継センターから戻る途中、まばゆい誘蛾灯にみちびかれて力尽きた夜の翅を地面に見つけた。青白い灯りを見あげる。性懲りもなく、次の翅また次の翅、と群がっている。翅そのものより、群がらずにはいられないその愚かさがやりきれなくて視線を外した。俺の足音だけが夜の静寂に響く。長距離トラックに乗り込む。エンジンをかけるとぶおん、と低い音ともに出発する。次の目的地までの道のりをナビに表示させながら、むな...

  • 春、流る 《最終話》

    声を殺して泣きながら、それでも駅に向かおうとするとかばんの底で携帯が震えた。その振動でわずかに我に返り、かばんを開ける。取り出してみると、メッセージが一通届いていた。シバくんからだった。『いつかどこかのサービスエリアで会えたらうれしい』それは、偶然にということ?それとも、真夜中のまぼろしのことだろうか。涙を拭きながら、スマホの画面を眺めているとふっと暗くなる。気持ちもかげり、それを察したかのように...

  • 春、流る #19

    トラックから降りて、空を仰ぐ。日が落ちかけ、空がオレンジ色に染め上げられている。その鮮やかさは幼いあの頃と少しも変わらない。大きな炎が沈んでいくような激しい色をした夕日が街並みをあまねく照らす。その炎を背景にして、勢いよく走りだすシバくんのトラック。海に出ていく巨大な船が汽笛を鳴らすような音を残して去っていく。僕は置いていかれたのだろうか、それとも置いていったのだろうか。わからない。あっという間に...

  • 春、流る #18

    「行かないの?俺と」温度の下がったシバくんの声に、力なくうなずく。行こう、行きたいと思ったあの瞬間とはちがう涙があふれそうになるのを必死でとどめた。ここで泣くのは、狡い。「僕は、父のようにはなりたくないんだ。だからいつだって、どんなにつらくたって、家に帰った」このままどこかへ行ってしまおうかと思ったとき、遠ざかっていく電車の姿がよみがえった。炎のなかに運ばれていく、大きすぎる父の棺。どれだけ遠くへ...

  • 春、流る #17

    うるんだ孔はよろこんでシバくんを受け入れた。ひくついているのが自分でわかる。「いやじゃない?ハル、いやじゃない?」衝動をこらえているのだろう、顔をしかめて尋ねるシバくんは本当に不安そうで、でももう止まれないんだろうなぁ、と思うといとおしさで胸が痛んだ。「だ、いじょうぶ……気持ちいい、いいから、つづけて」動くよ、といったシバくんは荒い息のあいだに何度も僕の名を呼んだ。あたらしい言葉を覚えた子どもみたい...

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