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BL小説『いつか君に咲く色へ』連載中です。人の感情を色で把握できるDKとその色をもたない同級生のおはなし。ゆっくり恋になっていきます。

『ありえない設定』⇒『影遺失者』と『保護監視官』、『廃園設計士』や『対町対話士』(coming soon!)など。…ですが、現在は日常ものを書いております。ご足労いただけるとうれしいです。

風埜なぎさ
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2014/08/13

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  • 春、流る #16

    言葉にすると、心臓がはじけそうなくらい高まった。シバくんが僕を強く抱きしめてくる。あまりの幸福に目のまえがくらくらする。心がふわふわと軽くなっている。こんな風に苦しみから逃れられる日がくるなんて、想像もしていなかった。夢だと言われたらそうだろうなと思うくらい、ありえなかった。シバくんが顔つきを改めたのを見て、心臓がどくりと鳴った。片手で僕を抱きしめたまま、遮光カーテンを引き、こちらに向き直る。周囲...

  • 春、流る #15

    「……僕も、見られるかなぁ、まぼろし」「見られる」僕の声をすぐさま拾って答えるシバくんを軽く睨む。「考えもなく言ってない?それとも、言い切れる理由があるの?」「ある。俺は、ハルなら見られるって思ってる」「どうして?」自信満々にいうシバくんに首を傾げると、八重歯を見せてわらう。「ハルは空気とか人が動かないのが無理なんだろう?ひとところにいると、積み重なった濁りみたいなもんを感じて苦しくなる。身動きがと...

  • 春、流る #14

    そうしてたどり着いたのは、テレビでもよく取り上げられる大きなサービスエリアだった。広大な駐車場にみっしりと車が詰まっている。しかし、車はゲームの画面のように秒単位で入れ替わってゆく。腕のよいゲーマーがパズルゲームをやっているようだった。大型車用の駐車スペースが空き、シバくんが緩やかに滑り込む。「ここが、目的地?」「うん、本当は夜のほうがいいんだけど。ちょっと詰めて」エンジンを切ったシバくんは、僕の...

  • 春、流る #13

    「―――あれ、きょうはトラックなの?」約束の場所で待っていたら、シバくんはいつもの土砂ダンプではなく、ウイングタイプの大型トラックに乗って現れた。「へへん、かっこいいだろ」運転席から僕を見下ろしたシバくんが、おもちゃを自慢する子どものような笑顔でいう。「とりあえず乗れよ。いままでのより乗り心地いいし、ベッドスペースもあって広いんだぜ」僕を車内に招き入れたシバくんはひとつひとつ自慢ポイントを披露してみ...

  • 春、流る #12

    シバくんから連絡があったのは、それから10日くらい経った夜のことだった。彼のほうから連絡をしてくるのははじめてだった。「あしたくらい、こっち来ない?この間は中途半端に終わったから、ドライブ行こうぜ」先日の別れ際の僕の言葉には触れず、シバくんはいう。「どうして、急に」「俺、次のところに行こうかと思ってさ」シバくんはとてもあっさりと、ちょっとコンビニ寄るねと言うような軽さで告げた。「ここはごちゃごちゃ...

  • 春、流る #11

    マンションの部屋に帰ると、秦野さんが飛び出してきた。悶々と僕を案じていたに違いない、深いため息を全身でつく。「波瑠。波瑠……よかった、帰ってきた……」秦野さんはそのまま玄関にへたり込み、両手で顔を覆った。冷静沈着な彼のそんなふうな姿を見るのがはじめてで、這いつくばって赦しを乞いたくなる。けれど、僕の無慈悲な声は「どうしてわかったの」と流れてしまう。「波瑠の実家から、荷物が届いた。開けるつもりはなかった...

  • 春、流る #10

    シバくんに顎で示された僕のかばんに耳を澄ませる。たしかに低い振動音がする。「たぶん、何度か鳴ってる。確認してみ?」「あ、うん」かばんの底からスマホを取り出すあいだに着信は途切れた。見てみると、秦野さんからのメッセージと着信の通知がいくつも入っていた。「はたの、さん……」「だれ?」シバくんが鋭く尋ねる。間髪のなさにびっくりした口から「一緒に暮らしてる、恋人」と正直な答えがこぼれ落ちた。ふうん、といった...

  • 春、流る #9

    慣れない長旅に疲れ切っていた僕はすこしまどろんでいて、目をこすりこすり車窓のむこうを見た。炎が揺らめいているんじゃないかと怖くなるほど鮮やかな夕焼けが広がっていた。電車が駅のホームに滑り込み、ドアがひらく。母はそれまで抱えていた父の入った包みをすっと座席に置き、僕の手を取った。そしてそのまま、父を置いて電車を降りた。「それって……遺骨をわざと棄てたって、ことか?」シバくんの問いにうなずいて答えた。燃...

  • 春、流る #8

    一度目に父と別れた日のことは、はっきりと覚えている。想い出作りだったのだろうか、3人で水族館へ行った。イルカのショーやたくさんの水槽を、まるで仲睦まじい理想の家族のような顔をして眺めて回った。銀色の流星群のような魚群やゆうらりと漂うクラゲ、ぞっとする容姿の深海魚を思い出せば、包まれた両手の温もりまでよみがえる。そして、水族館の入口のペンギンの看板の前で、僕たちは別れた。夕闇に溶け込んでいく父は僕た...

  • 春、流る #7

    「……え?」シバくんがちいさくつぶやく。信号が変わったのだろう、緩やかに停車するのがわかった。けれど僕は、濡れた膝から視線をあげることができない。「ハル、どうしたんだよ?」ぽん、と頭に大きな手のひらが載ってびくっとする。慌てて顔をあげて、笑みをつくった。シバくんのまえで、作り笑いなんてしたくなかったのに。「あ、いや、なんでもない。ごめんね」「ごめんねじゃねえでしょうや。いきなり泣き出しそうな顔してさ...

  • 春、流る #6

    ややあって、シバくんが口を開く。「そうではあるけど、たぶんハルが考えてるのとすこし違う。俺、高校卒業してからすぐに町を出て、そっからずっと仕事を転々としながら移動してるんだよな」たとえばそうだなぁ、といくつかの地名をシバくんは挙げるけれど、それはここから近かったり、四国のはずれであったりした。トラック運転手という業種のなかで、勤める会社と土地だけを変えてきたという。「ここに来たのはどうしてだったか...

  • 春、流る #5

    その日はシバくんと会うようになってから初めての雨だった。約束を取り付けた前日の晩はとてもよく晴れていたけれど、朝になったら街並みを灰霞が覆ってしまったようなどしゃぶりに変わっていた。雨の日は真砂土を運搬する仕事ができないらしくて休日になってしまうという話だったけれど、シバくんは約束した場所にダンプカーでやってきてくれた。「きょうは仕事止まってるから、現場につれてくことができない。それは勘弁な」しか...

  • 春、流る #4

    その夜はなかなか寝つかれなかった。シバくんのしるしの話を思い出しながら、ベッドサイドの灯りのなかに両手をさまよわせる。そろえて並べた手をいくら翳してみても、もちろん僕にはしるしがみえない。「波瑠、眠れないのか?」ダブルベッドの隣に眠る秦野さんがそろりとたずねる。彼の声はとろりと膜がかかったようにすこしの眠気を帯びている。不意にとても寂しい、と思った。「……したい、な」胸に額を押しつけて、聞こえるかど...

  • 春、流る #3

    家にたどり着くころには辺りは薄闇に沈んでいる。秦野さんと暮らすマンションの玄関灯を目指す。あれが、いまの僕の灯火。あれが、いまの僕の恋。言い聞かせるたび、なにか大きなものを見落としているような心もとない気持ちになるけれども。ドライブ中にシバくんがくれたチョコの包み紙がポケットでかさっと鳴った。「波瑠、おかえり」玄関ドアを開けると、秦野さんがおだやかな笑みを浮かべて僕を迎えた。秦野さんは優しい。とき...

  • 春、流る #2

    秦野さんへメッセージを返信すると、シバくんが僕を降ろしてくれたバス停に路線バスがのんびりやってきた。幸いにも空いていて、ひとりがけの椅子に腰をおろす。シバくんのダンプカーよりずいぶん低い位置で流れ出す風景をぼんやり眺める。記憶は巻き戻り、シバくんとの出会いを思いかえす。僕たちが出会ったのは、一年ほどまえのこと。シバくんが僕を、大ざっぱにいえばナンパしたのだ。シバくんは「声をかけただけだって」と主張...

  • 春、流る #1

    名前も知らない小さな駅で、父と別れた。海に向かう、6両編成の電車だったと思う。夕暮れの日差しが降り注ぐ無人のホームに降り立ったのは、幼い僕と母だけだった。おとうさん、と小さくつぶやく僕の声と、発車を知らせるメロディが重なる。ゆるりと、しかし容赦なく閉まる列車のドアが、僕たちと父をきっぱりと引き離す。「共生できない人には、これでいいのよ」列車が走り出すそのときに落ちた母のひとことに、ぞくりとした。ほ...

  • 【SS】:

    どうしてだろう、と暎(えい)は最近いぶかしんでいる。どうして、恋人の斗希(とき)は近頃こんなに優しいんだろう。たとえば。寝坊をしてまちあわせに遅れても小言ひとついうでもなくデートしてくれる。そのデートで見た斗希おすすめの映画で爆睡してもわらっている。雲が垂れ込めて冷たい雨が降って、雷が落ちるまでが斗希のはず。よからぬ妄想と疑惑(浮気、二股、心変わり)が冷たい雨のかわりに心に降って、暎はDIYで探偵調...

  • 【SS】:きらきら

    水族館に誘われた。3日後の土曜日指定で、里人(りひと)から水族館に誘われた。陸(りく)の頭はここ一週間ほどそのことでいっぱいで数学も現国も物理も手につかず、古文の小テストでは歴代最低点をたたき出した。でも、だけど、これってそういうことだよね、そうだよね。浮かれて出かけたらドッキリ系だったり、里人が約束LINEを送る相手をまちがえていたり、考えられないし。わーお、とつぶやいてもう一度里人からのメッセージ...

  • 【SS】:ディスタンス

    「うん、うん……わかってる、ちゃんと気をつけてるって。天(てん)も気をつけて、じゃあね……またね」金曜夜、電話越しの恋人は『女の子と遊ぶなよー!』とわらって通話を切った。おまえだよ、それは。祐希(ゆうき)は「おまえもなー」といい損ね、スマホの画面をうらめしげに眺めた。きょうも言えなかったな、まだ言えてないんだよね、祐希はばたんとベッドに仰向けに寝転がる。ビデオ通話のむこうの天が好きだった、駅前のセレク...

  • 【SS】:ひかりの夜に

    アルバイトを終えてバックヤードから出てくる恋人を待ちながら、世界は宙(そら)のまわりでゆるやかに弾んでいた。弾まない、わけがない。期末考査明け、夏休みは目の前、おまけに今夜は恋人の百(もも)とふたりきりですごせる。盆暮れ正月クリスマスが百年ぶんいっぺんにきたような。深夜だらだら観るDVDもレンタル済み、アルコールも購入済み、そのあとのいちゃいちゃ含め、宙は期末考査の艱難辛苦を乗り切った自分を手放しに...

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