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Fish On The Boat https://blog.goo.ne.jp/mask555

本や映画のレビューや、いろいろな考え事の切れ端を記事にしています。

本や映画のレビュー中心。「生きやすい世の中へ」をメインテーマとして、いろいろな考察、考え事を不定期記事しています。

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2014/07/08

  • 『現代思想入門』

    読書。『現代思想入門』千葉雅也を読んだ。デリダ、ドゥルーズ、フーコーを中心に、フロイト、ラカン、ニーチェ、マルクスらにも遡り、レヴィナス、メイヤスー、マラブーらにも言及する、できるだけの平易な言葉で語られる現代思想の入門書です。本書の最後では、現代思想の読み方指南もあります。そこでは、まずデータをダウンロードするように読むことが大事だとされる。中途でいちいちツッコミをいれてはいけない、と。これは話を聞いているときと同じだ、とあります。僕はほんとうによく、読んでいる中途で「待て待て?」とツッコミをいれます。それをメモっておいて、こうして感想・書評を書くときに使うのです。マナー違反なんだよなあ、ということを改めて思い知ってしまいました(それでもやめませんが……)。どうして読んでいる最中にツッコミをいれてはいけ...『現代思想入門』

  • 『しろいろの街の、その骨の体温の』

    読書。『しろいろの街の、その骨の体温の』村田沙耶香を読んだ。ニュータウンに住まう主人公・結佳。彼女の小学生時代と中学生時代の二部構成の物語。ニュータウンの開発とその停滞、そしてまた開発が進んでいく様と、結佳の身体と心の成長のその様子が、静かにリンクして描かれていたりします。<今回は、ほぼネタバレとなっています。お気を付けください!!>黒子に徹しているような文体。静かにそうっと丁寧に、物語を文字にして記していったかのようです。著者は、水槽の中に登場人物や舞台となるところがあって、そこで起こることを眺めて書き移しているというようなことをテレビでおっしゃっていたのを見たことがあります。水槽というか、箱庭みたいな感じなのでしょうか。著者は小説世界が動いている水槽(あるいは箱庭)の中をかなり引いたところから見ていて...『しろいろの街の、その骨の体温の』

  • 坂本龍一さんへ。

    坂本龍一さんが亡くなられた。3月28日のことだったらしい。もう葬儀は近親者で済ませていての報道だった。僕は小学校高学年の頃に坂本龍一さんの音楽にドハマッて、以来、YMOと併せて130枚以上、プロデュース作品を併せるともっとになるのだけど、それだけのCDを集め、そして何千回も聴いてきました。好きな曲を一曲なんて挙げられないし、時期によって好きなアルバムは変わる。最初に買ったのは『メディア・バーン・ライブ』でした。たくさん本を読んでいらっしゃって、そういった、教養を積むことは当たり前なんだ、っていう感覚を、僕は坂本さんの姿から学びました。10代はずっと傾倒し、20代の半ばくらいからは、ちょっと考え方や思想面で合わないところがあることに気づいていき、その後は、彼の発言や考え方をより客観的に受け取るようになってい...坂本龍一さんへ。

  • 『【実践】 小説教室』

    読書。『【実践】小説教室』根本昌夫を読んだ。「海燕」「野生時代」の元編集長で、島田雅彦、吉本ばなな、小川洋子、角田光代、瀬名秀明らの作家デビューに立ち会った著者による小説指南書。著者は現在、小説教室を開き、多くの生徒を教えているそうです。そのなかには、芥川賞をダブル受賞した若竹千佐子さんと石井遊佳さんもいらっしゃったようです。僕も小説を書きますが、ふだん、原稿を書くことについて話をする人が、オフラインでもオンラインでもいないので、たまにこういった本を読むと、原稿書きの知己や先輩が得られたみたいな、そんな気持ちになり、楽しくなります。書いてある内容は、どれも腑に落ちます。こういった指南本では、「ほんとうにそうかな?」とか「ちょっと自分の感覚とはずれてるな」とか、自分でもある程度経験があるのに、その外側にあっ...『【実践】小説教室』

  • 『男、そのブログ愛』(自作小説)

    十二月の夜の外気が張り付いてきても、熱を帯びた頬は燃え盛り続けた。今日は散々な別れ方をした。だいたい史恵はきっちりしすぎだ。大学の講義やバイトの間の時間の使い方について、毎日おれの行動をあれこれ詮索するうえに、ちょっと連絡を忘れたくらいで、会った時には必ずむっすりふくれている。インスタント食の多かったおれの体を気遣って、炒め物なんかを作りに来てくれたり、自分の部屋で作った煮物なんかを持ってきてくれたり、史恵はほんとうにおれのことを考えてくれる人で感謝だってしてるし、会えば楽しいことは楽しいのだけど、最近、うっとうしいと思う瞬間も少々でてきた。二人の相性がぴったり合っていれば、付き合うための努力なんてそれほど要らないのかもしれない。もしくは、気が重くなるような種類の努力の要らないのが相性の良さというものなの...『男、そのブログ愛』(自作小説)

  • 『コンプレックス』

    読書。『コンプレックス』河合隼雄を読んだ。1971年発刊の名著。ユング派に属する心理療法者・河合隼雄さんによるコンプレックスに対する解説。はじめにはっきり申しますが、すごい本です。中身が濃く、圧倒されもするのですが、なかなかこれだけの本には巡り合うことはありません。読みだしこそ、「怖い」と思いました。「こうなったら異常!」というトラップ的なテストが張り巡らされているような気がしてです。でも、そんな低い次元での話ではなく、もっと底の方からえぐるように未知のもの(それは人間心理のこと)を考察したものを、こちらも同じ目線でくらいつき、かみ砕いて知るべく読み進めるような読書になりました。序盤ではこういった例が紹介されていました。父親がよく棒きれで自分を打ったこと、父親がわけもなく自分を打った後で、急に親切にするの...『コンプレックス』

  • 父性と母性から始まる思索。

    大人になれば、父性も母性も自分の中にあるようになる。言うことを聞くなら愛するという条件付きで愛する父性、無条件で愛する母性。どちらも丁度良くそこにあれば、人の成長を促し助けます。大人になっても母性を求めるなら幼少期に足りなかったのだろうし、父性を求めるならそれも足りなかったりいびつだったりしたのです。母性が足りなくても父性が足りなくても優劣はつけるものではないし、自らの中に母性・父性がちゃんとあってもマウント条件ではありません。必要であればなんとかしたらよいだけなのではないでしょうか。そこに優越や、優劣の差をつける見方は、社会構造や文化状況の影響で生まれるんだと思います。つまり、「ところ変われば品変わる」の言葉通りのようなもの。普遍的なものじゃないんです。生活していて、家族にしても外部からにしても、無条件...父性と母性から始まる思索。

  • 『さくら』

    読書。『さくら』西加奈子を読んだ。西加奈子さんの作品は直木賞受賞作の『サラバ!』の印象が強いのです。『さくら』とは順序が逆ですが、本作の作風はその『サラバ!』に近いと感じました。家族の物語なのもいっしょです。子ども時代だとか、まだ言語化がうまくないじゃないですか。その頃の空気感や感じたこと、そして出来事なんかは、たとえされても淡い言語化くらいで済んでしまって、それから日々を過ごしていくうちに記憶の果てへと少しずつ退場していくもの。本作品を読んでて思うのは、西加奈子さんという作家はそういった、言語化が淡いまま過ぎ去っていったあれこれを眼前によみがえらせながらその時期の感性を損なわない形で柔らかくなんだけどある程度しっかり再言語化して軟弱な意識の基盤みたいなものの強度をあげてくれるかのようだということ。自分自...『さくら』

  • 『入門 組織開発』

    読書。『入門組織開発』中村和彦を読んだ。組織には二つの側面がある。ハードな側面とソフトな側面がそれ。ハードな側面は部門・部署、制度・規律、職務内容と手順などの明文化されたもの。一方、ソフトな側面は、意識・モチベーション、コミュニケーション、信頼関係・影響関係など可視化されていない心理的側面。ハードな側面のほうはバブル崩壊後に大規模な変革が行われて今に至るそう。一方、ソフトな側面のほうは軽視している経営者が多いのではないか、とある。でも、このソフトな側面は重要なのです、というのが本書の出だしなのでした。組織開発とは、大きく、このハード面とソフト面を変革して、より合理的に利益を得ていけるようにすることと、働く人たちがより無駄なストレスなく活き活きと働くことができるようにすることを推し進めていくものです。組織開...『入門組織開発』

  • 『ソクラテスと朝食を 日常生活を哲学する』

    読書。『ソクラテスと朝食を日常生活を哲学する』ロバート・ロウランド・スミス鈴木晶訳を読んだ。朝起きて、身支度をして通勤し仕事をして昼食を食べてサボって……などという一日の起床から就寝までを18の章に分けて日常レベルの哲学をする本。その都度さまざまな学者を引用しますが、堅苦しさはありません。ちょっと難しいところはありますが、それでも平易な言葉遣いと分かりやすい論理で展開していくエッセイです。ただ今回は第2章の身支度の章でひっかかってしまうところがありました。朝、完璧に身支度しておく、また、前もってしておく、だとかは、自由度を下げるからよくない、と説いているのです。自由がないということは、悪くなる自由がないことでもあるけれども、良くなる自由もないということだから、と。でも、僕はおかしいと首を傾げたのです。朝の...『ソクラテスと朝食を日常生活を哲学する』

  • 憎まれる意味。

    自分が誰からも関心を持たれていない状態、つまり無関心にさらされた状態は、人間にとってそうとう危機的なものらしく、無関心にさらされていることを脳が察知すると被害妄想を作り上げるという話があります。そうまでして、無関心から逃れないといけないのです。(これは、イギリス在住のアメリカ人カウンセラーが書いたエッセイにでてきた話です)この、「無関心にさらされることは人にとってかなりヤバい状況」を踏まえながらなんですが、愛と憎しみは表裏一体なんてよく言われますよね、なぜかというと愛も憎しみもその人に深い関心を持つという点が一緒だからという理解の仕方がひとつあります。憎まれる人はどうしてそうなるのか。人にどうしても愛され得ないと感じた人が、自分の性格の中での「他者からの憎しみを買いやすいであろう部分」を強調していって、憎...憎まれる意味。

  • 「DV防止法改正案を閣議決定」から考える。

    「DV防止法改正案を閣議決定精神的暴力でも裁判所が保護命令へ」という記事をNHKニュースで読みました。<政府は身体的な暴力だけでなく、ことばや態度による精神的な暴力でも、裁判所が被害者に近づくことなどを禁止する「保護命令」を出せるようにするDV防止法の改正案を、24日の閣議で決定しました。>とあります。確かに必要だなと思ったのです。今までこういった精神面への暴力が身体面の暴力に比べて軽視されていたのですが、精神面へのダメージだって深刻なんですよね、という意識が具現化したものだからです。それに、実際面、そういう被害のある人が逃げるための逃げ道が細い道であっても無いよりはよっぽど良いのではないか、とちょっと単純かもしれないけれど、思うのでした。この逃げ道を補強するべく、NPOなんかが手助けしてくれるとより被害...「DV防止法改正案を閣議決定」から考える。

  • 『鉄壁の青空』(自作小説)

    逆さの青い空は、逆さの青い空なのに、なにも変なところがなくて、どう受け取ってみようとしてもまるで面白味がなかった。ぽつらぽつら、浮かぶ雲にだって、さして変哲というものが感じられないから、やっぱり面白くない。青い空と白い雲の群れにしてみれば、「だからなんなの」。空は、私がおかしいだけの話だ、と言わんばかりで、あるまじきほどの揺るぎなさだ。そうか、私がおかしいか。私は逆さの窓から外を眺めていた。床にあおむけになり顎を上げ、のけぞる様にして、頭側にある窓から空を覗いていたのだ。私は空に呆れた。あまりに無敵なんだもの。「どんな方向からのいかなる攻撃であっても私ども空には、1ミリの効果だってありません」。でも、雲くらいなら蹴散らせるな、と思う。「雲を蹴散らしたところで、私ども空にとってはなんの関係もないのですよ」。...『鉄壁の青空』(自作小説)

  • 『颶風の王』

    読書。『颶風の王』河﨑秋子を読んだ。明治の初めの頃でしょうか。東北の庄屋の娘が雪崩の被害に遭いながら、偶然生じた雪洞の中に乗ってきた馬と共にまぎれる。助けの望めないまま、長い間馬とその雪洞に過ごす娘は、空腹のためにその馬を食べ、生き延びるのだけれど……。娘が生んだ捨造は一頭の馬と共に開拓民を募集していた北海道に渡り、以後、根室にて主に馬の生産で食べていく。その捨造から5代にわたる家族の話です。力強いストーリーテリングでした。僕が通ってこなかった道に咲いている言葉の花たちを多く所持しているような著者、という印象がまずありました。時代小説として始まることもあり、その語彙の種類や言葉の用い方が、僕のカバーしていない領域にあるものみたいな感じなのでした。しかし、自分と近い言語感覚では無いから面白くはないということ...『颶風の王』

  • 『日本人のための日本語文法入門』

    読書。『日本人のための日本語文法入門』原沢伊都夫を読んだ。「日本語文法入門」だなんて、義務教育時代の国語授業を学び直す内容なのだろうな、と簡単に推測して買った本です。しかしながら、どうやらそういう中身ではなかったのでした。「どうやら」なんて言い方をするのは、僕が義務教育時代に、どうやって文法を教わったのかを、ほとんど覚えていないからです。「連用形」だとか「体言止め」だとかといった言葉は覚えていますが、文法といえば、どちらかというと英語文法のほうが頭に残っているほうです。さて。これまでみんなが国語で習ってきたものって「学校文法」と呼ばれていて、「日本語文法」とは区別されている、とあります。それでもって、日本語文法のほうが正しい、と。なぜか。学校文法は古文と現代語との連続性を考え、あえて論理的矛盾に目を瞑り、...『日本人のための日本語文法入門』

  • 『step Eguchi Hisashi Illustration Book』

    読書。『stepEguchiHisashiIllustrationBook』江口寿史を眺めた。漫画『ストップ!!ひばりくん!』の作者である江口寿史さんの作品集です。2015年以降のものを集めています。絵のポップセンスがすごい方ですよね。かわいくて、いろいろな意味でおしゃれな女の子たちをたくさん描いています。こういう種類のイラストを手掛ければ、並ぶ者などいないのではないかというほどの訴求力をお持ちだというか、考える間もなくズバンと鑑賞者の感性の内側に入ってくるというか。なんだか、とても好いなあと瞬時にこちらのセンスを刺激されるようなポップミュージック、それもかなりキャッチー。でも、ベタベタとしてこない一定の距離はきちんとある感じがします。描かれている女の子たちのコーディネートにしても、髪形にしても、持ってい...『stepEguchiHisashiIllustrationBook』

  • 『村上朝日堂』

    読書。『村上朝日堂』村上春樹安西水丸を読んだ。1984年刊。『日刊アルバイトニュース』に連載された、安西水丸さんが挿絵を手掛けた村上春樹さんのエッセイ。挿絵で1ページ、エッセイで2ページの計3ページが1篇の分量です。村上春樹さんって、思ってたよりもずっと外向的だなあ、とこのエッセイから感じられました。アウトサイダーってほどじゃないまともな感じがしてる。なんか、とっても健康なんです。80年代。こういった、くだらなさと嘘と雑学と気楽さとが混ざり合った空気感の創作物で笑ったり楽しんだりする、というのがおそらく生まれでたのが80年代ですよね。僕は77年生まれなので、物心ついてから小学校を卒業するまで80年代の(でも地方の)空気にどっぷりと染まって育ちました。だから、このエッセイを読むと、当時のどこか空っぽというか...『村上朝日堂』

  • 『恋しくて』

    読書。『恋しくて』村上春樹編訳を読んだ。海外文学プラス村上春樹さんの書下ろし一篇、あわせて十篇の恋愛短編アンソロジー。各章末に村上春樹さんによる短評と甘苦判定星評価付き。世の中には様々な種類の小説がありますが、やっぱり「王道」でも「ベタ」でも子どもがテーマでも大人がテーマでも、恋を扱う小説って多いですよね。純文学でもエンタメでもラノベでも、恋の占める割合は大きい。本書は、選者かつ訳者としての村上春樹さんが、そんな恋愛の短編小説、それも海外のもので未翻訳でそんなに古くないものを選び、さらにアンソロジーにするために努力して探し出した多数の掘り出しもの(?)をくわえて一冊にしたものです。巻末に村上さん本人が述べていますが、純文学的作家の恋愛作品はストレートじゃない筋の物語ばかりで、さらには恋愛の大人度のとても高...『恋しくて』

  • 『悪戯な双子たちの思い出』(自作小説)

    少し茶ばみの見え始めてきた網戸越しに虫の声の響いてくる九月初めの夜の深みの頃。僕はぬるいシャワーを浴びた後のとっちらかった濡れ髪にバスタオルをこすりつけながら、Tシャツとトランクス姿で誰もいない暗がりの居間に戻ってきた。そのままガラス製のテーブル上のリモコンを手に取り、壁際にあるテレビのスイッチをつける。画面から放たれる淡い光線が薄っぺらく部屋に漂った。隣の寝室で寝入っている妻の香奈子を気づかって、急いでその音量をしぼりにかかる。香奈子が起きないことを願うゆえに、音量が小さくなるまでの短い間、発せられる大きな話し声やBGMに息が止まってしまう。そうして香奈子の目覚めた気配がしないことを確かめると、ゆっくりとソファに身体を埋め、画面から放たれる淡い光を浴びた。すぐさま、尻が汗ばんでくる。傍らの扇風機のスイッ...『悪戯な双子たちの思い出』(自作小説)

  • いじめる側の人をマイノリティとしてケアすること。

    いじめた側よりもいじめられた側をカウンセリングしたり配置転換や転校をさせたり、働きかけるのはいつもいじめられた側だったりする。いじめた側は「ごめんなさい」とちょっとめそめそしたら「次、またやったらもっと罰があるぞ」くらいで終わる。いじめた側へのケアがないのだ。人をいじめてもケアされずに大人になって社会に出て、という流れがずっと続いているのだと思う。大昔から連綿と。そうやって大人になった人たちが是認される仕組みの社会だから、パワハラなどのハランスメントが多発するのではないだろうか。それは強さとはどういうものかという問いへの勘違いからきている。というか、あまりにも当たり前だから前提を疑う空隙すらなく勘違いしている。なぜって、いじめる側から大人になっていった人たちに重心が置かれた社会だから。いじめる側のほうがマ...いじめる側の人をマイノリティとしてケアすること。

  • 修行なのだけど本番のような執筆。

    昨年の12月に続いて、先月末からまた短い原稿に取り組んでいます。100枚だとか150枚だとかのある程度まとまった原稿に取り組む前に、執筆に慣れていこうというのが目的と言いますか。書きながら書きながら調子を上げていこうという算段なのでした。やっぱり、一つ書いてみると「こういうところがちょっとまずいのかな」だとか、アップしても反応を頂けないと「出来自体の質だろうか」だとか、いろいろ考える種が得られます。間隔が空くとよくわからなくなったりもするので、ちょこちょことまるで愛用の刃先を研ぐかのように小説脳の手入れをするみたいにそういった脳の部位を使っていった方がよさげです。そのぶん、読書が追い付いていきませんが、現在は3冊並行読みをしていて、まあひと月に読む冊数はこれまでと変わらないような気がします。で、現在の原稿...修行なのだけど本番のような執筆。

  • 『記憶する体』

    読書。『記憶する体』伊藤亜紗を読んだ。目の見えない人や腕を切断した人、また、先天的に腕のない人。とくに幻肢痛に悩まされる方を多数取材されています。プロローグで述べられているのが、「体のローカル・ルール」という言葉でした。不自由になった中で、自分なりの世界の認識の仕方や感じ方を作り上げていく。たとえば目の見えなくなった人が出先の喫茶店に入れば、健常者だったとしたら視覚で状況を把握しがちですが、本書に登場する目の不自由な人の状況把握は、音の反響の仕方や、人の話し声の多さで店の規模や混雑具合を把握するのです。席に案内されれば、テーブルの手触りや椅子の座り心地を感じ、その素材について考えていたりするということでした。そういうことが、一人ひとりののローカル・ルールとして体の固有性を形作るまでにいたっていく。____...『記憶する体』

  • 『モネのあしあと』

    読書。『モネのあしあと』原田マハを読んだ。印象派の画家・モネやゴッホをテーマにしたアート小説の評価が高い原田マハさんによるモネ解説本。印象派が生まれたその時代についての説明や、印象派の画風に影響を与えた日本の浮世絵の存在についての解説などからはじまり、画家・モネのたどった足跡と、現代の私たちがモネをたずねる観光のその行程の提案、著者によるモネを描いた小説『ジヴェルニーの食卓』をどう書いたかの概説などで構成されています。モノクロながらも図版が多数掲載されており、たとえばひとつの絵についてのトピックがでてきたときには、すぐにページを繰って参照可能なつくりになっているが親切でした。繊細で穏やかな感覚をもつ絵を描いている画家であっても、従来の古風なアカデミーに与するような軟派な人ではなかったようです。だからこそ、...『モネのあしあと』

  • 『美しい星』

    読書。『美しい星』三島由紀夫を読んだ。三島由紀夫が37歳の時に書き上げたSF的純文学作品。近年、現代版にアレンジされて映画化されてもいます。東西冷戦の60年代。ソ連による大気圏での核実験で放射性物質が日本にも舞い降りる時代。自分たち家族4人が自分たちの本来の属性は宇宙人だと気が付くのでした。父・大杉重一郎は火星人、母・伊代子は木星人、長男・一雄は水星人、長女・曉子は金星人。それぞれ、空飛ぶ円盤を見ることで覚醒するのです。重一郎はこの核の脅威によって人類が滅びてしまうことを、宇宙人として救おうとし、ソ連の書記長・フルシチョフに宛てた手紙を送付するなどの行動を起こし始めます。中盤からは、重一郎たちと対立する三人の、これまた空飛ぶ円盤との邂逅によって自分たちが宇宙人であることに目覚めた(あるいは思いだした)ので...『美しい星』

  • 『これを知らずに働けますか?』

    読書。『これを知らずに働けますか?』竹信三恵子を読んだ。元新聞記者で大学教授の著者が、労働関連に対する学生からの質問をもとにした30の疑問に答える本。ちくまプリマー新書ですから中高生や大学生らバイトをしていたりこれから社会に出ていくことになる人たちが主だって想定されている読者ですが、若い働き手や非正規就業の中高年の人たちまで、労働問題に詳しい知り合いを得たかのように知見を得られる内容になっています。根拠のない希望的観測のようなものはまったくありません。労働法などの理想通りにはコトが運んでいない労働の現実の姿から現況をあぶりだし、それにどう対処するかの方法を提示してくれています。_________「労働法などを知ってしまうと、現実との落差に暗い気持ちになる」「知るのがコワイ」という言葉を、若い人から聞くこと...『これを知らずに働けますか?』

  • 『邪悪なものの鎮め方』

    読書。『邪悪なものの鎮め方』内田樹を読んだ。論考エッセイ集です。この人の考察は物事のかみ砕き方が見事だなと思った。思ったのだけれど、歴史主義について否定的でそれは歴史に法則性を当てはめるからとあって、かのE・H・カーの歴史論と同じでありながらも、そのことを踏まえた良識あるような歴史学者はみたことがない、と著者は言ってしまう。E・H・カーの『歴史とは何か』を読んでないわけじゃないと思うのです。だとすれば、法則性を否定する歴史学者は見たことがないというふうに、まるでE・H・カーの存在を隠匿するかのような論説の仕方が演技的に見えてしまうのでした。そういう意味では知に対して少しばかり誠実ではないのかもしれない(まあ、『歴史とは何か』を読んでいなくて、それゆえにちょっと浅い論考になったのかもしれません)。というか、...『邪悪なものの鎮め方』

  • 謹賀新年 2023

    あけましておめでとうございます。僕の住む北海道の町は、いつもよりも少しばかり雪の少ない正月になりました。このまま春まで……と小さな願望をもってしまうのですけど、99%そうはいきませんからね。雪と寒さは苦手な方です。僕自身のほうはまだ、なかなか活力が湧いてこない状態にあります。どうも精神的な疲れのようです。パワハラや社内いじめ、家庭の精神的暴力のダメージが抜けきらないです。それでも、年末の紅白歌合戦を観ながら気になった曲を数曲をDL購入し(まだまだサブスクはやっていません)、12月上旬にCDで購入した乃木坂46の『ここにはないもの』をまじえて聴きながら、楽しんだりしんみりしたりいています。こうやって音楽を楽しむことって、健康的なこころの体操だなと感じます。さて。昨年は北海道新聞文学賞への応募作(86枚)、カ...謹賀新年2023

  • 『みどりのゆび』

    読書。『みどりのゆび』モーリス・ドリュオン安東次男訳を読んだ。60年近く前に翻訳された、フランスの童話。著者のドリュオンは小説『大家族』で有名な文学賞であるゴンクール賞を受賞した作家です。小学校低学年の年齢に当たる少年チトは、町の大金持ちの両親やその大きな家で働く家政婦や庭師のおじいさん、両親の工場で働くかみなりおじさん、そして馬たちに囲まれて生活しています。学校へ通うことになると、まるでそのシステムに適応できず、すぐに退学することに。両親の指示によって庭師やかみなりおじさんに物事を学んでいくことになるのですが、そのうちに自分の家が武器工場だと知ることになります。中盤までは横へと筋が流れていくお話だったのが、中盤からそれまで語られた世界や人びとを濃く描くことによって物語の深みが増していきます。さながら、解...『みどりのゆび』

  • 不安に蝕まれないために、孤独であっても持ちたくない孤立感。

    世の中全体、つまり世間一般的な多くの人たちはさまざまな不安を抱えながら生きています。その不安が強迫観念を生んだり、なんでもない他者の言動に悪意を読み取るなどの認知の歪みを生んだりします。そして不安は、個人を苦しめるばかりか、世の風潮や空気までをも強迫観念的な状態へとつくりあげているように僕には見受けられるのです。<不安ってどこから来るのだろう?>不安はほとんど孤立感によってもたらされる、といいます。______人間は孤独で、自然や社会の力の前では無力だ、と。こうしたことのすべてのために、人間の、統一のない孤立した生活は、耐えがたい牢獄と化す。この牢獄から抜け出して、外界にいるほかの人びととなんらかの形で接触しないかぎり、人は発狂してしまうだろう。孤立しているという意識から不安が生まれる。実際、孤立こそがあ...不安に蝕まれないために、孤独であっても持ちたくない孤立感。

  • 『コフート心理学入門』

    読書。『コフート心理学入門』和田秀樹を読んだ。フロイトが興した精神分析学。その系譜にありながら人生の後年、独自の発展をさせた心理学の手法を考え、そして残したコフートの心理学について解説する良書です。とてもわかりやすいうえに、中身がしっかりしていました。コフート心理学は日本ではあまりなじみがありません。とくに心理学や精神医学の素人である僕にとっては聞いたことのない名前だったりしました。しかしながら、アメリカでは主流の精神分析学として現役の手法なのだそうです。反対に日本は、フロイトの手法に固執してしまっているところがあり、こういった発展した精神分析をあまり取り入れていない風です。さて、一般に精神分析のカウンセリングは、神経症(不安症や強迫症など)には使えても精神病(統合失調症や躁うつ病など)には使えないとされ...『コフート心理学入門』

  • 『クリスマス・イヴの夜』(自作小説)

    真っすぐに落下してくる湿った雪片の数々が、ほんの少しだけその落下の軌跡によって街をモノトーンに近づけた、その様を僕だけは見逃さない。各々の商業ビルのウインドウから放たれるあらゆる彩色は、この先、冬が深まるにつれて次第に嘘寒くなり生気を薄めていくのを僕は知っている。支配的な立場になる黒や白やグレーといったものたちが、かすかな音すらも立てずに僕ら人間たちのこころの領域の内部まで侵食してくるからだ。それは間断なくあっという間に。わずかなたくらみだって感じさせずに。ある一線を越えるとやつらは、パンを浸したミルクのように音もなく、瞬間的な速度で世界に浸みわたって自分たちの支配下としてくる。無彩色のみを構成要素とする思想のようなものが、それまでの王の一族にとって代わり王座につくのだ。元号が変わったり、首相が交代したり...『クリスマス・イヴの夜』(自作小説)

  • 『「300億円赤字」だったマックを六本木のバーの店長がV字回復させた秘密』

    読書。『「300億円赤字」だったマックを六本木のバーの店長がV字回復させた秘密』足立光を読んだ。小説仕立ての、マーケティングの考え方を知る本。ビジネスを扱っていても、堅苦しさがまったくなく、すいすいと読めてしまいます。もしかすると、小学校高学年の人でもおもしろく読めるかも。中身は地に足がついたマーケティング論なのですが、平易な言葉でシンプルにマーケティングの考え方を学ぶことができます。著者はコンサルティング会社やP&Gなどを経て、日本マクドナルドのマーケティング本部長として、業績を瀕死の状態からV字回復させた方。マクドナルドの商品や、近年展開されたキャンペーンが具体例として出てくるので、マック好きな方にとっては親近感をもって読めるでしょう。かくいう僕も、にわかですが隠れマックファンで、たまにドライブスルー...『「300億円赤字」だったマックを六本木のバーの店長がV字回復させた秘密』

  • 『大地のゲーム』

    読書。『大地のゲーム』綿矢りさを読んだ。近未来の日本。未曾有の大地震が起こり、大きな被害を受けたのち、さらにまた同規模かそれ以上の大地震が一年以内に起こると警告されている時代。大地震以来、被災地の大学内で暮らす学生たちのひとりである女性の主人公と、その混乱に乗じて頭角を現してきたリーダーと呼ばれる男性の学生。リーダーは彼独自の思想をもって学生らを魅了していく。主人公もいつしか、その一派に属するようになっている。90%の確率で訪れるとされる二度目の大地震に怯えながら暮らす学生たちは、まず一度目の地震と、それに派生したある事件などによって、大きなカルチャーショックを受け、生き方が危ういほうへと変容している。それでも行われる学祭に向け、リーダーは渾身の演説を段取りながら、自らの台頭を目論んでいる。破局へ向けた残...『大地のゲーム』

  • 『歴史とは何か』

    読書。『歴史とは何か』E・H・カー清水幾太郎訳を読んだ。初版は60年も前に発行された岩波新書の名著と言われる本。6つの講演をテキスト化したものです。最近、新訳版が発刊されましたが、今回僕が読んだものは、それとは違います。クラシックな名著であり、読み下すのにはちょっと労力がいりました。序盤にまず、「歴史とは何か」についての著者としての最初の答えが示されます。歴史とは、現在と過去の対話である、と。相互的なのです。今が変われば、過去も変わるし、そうやって過去が変わると、今にも影響が出てくる。そういうインタラクティブなものだというとらえ方は、たとえば僕が学生の頃の社会科の授業ではまったくでてこなかったです、本書が世に出てしばらく後の時期だったのに。ともすれば、歴史とはゆるぎない事実について、その真実をつきとめるも...『歴史とは何か』

  • カタールW杯での日本代表の健闘を讃えながら。

    とてもよくがんばっているなあと感激しながらW杯を見ていました。あのドイツに逆転勝ちし、コスタリカ相手にはひどかったですが、グループリーグ最終戦でまたしても強豪のスペインを相手に逆転勝ち。観ていて、何度震えたことか!これが見たくて代表戦をみてきたんですから。それも本番中の本番であるW杯で下した、というのはとても大きかった。VIVA!日本代表!ベスト8のかかったクロアチア戦で、ご存じのようにPK戦での敗退となりました。でも、よくやったなあ、と拍手をいつまでも送りたい気持ちでした、もちろん、苦味を感じながら。で、これ以上の成績を上げられるための強さはなにか、と考える。もっともっと、代表が高みに上っていく姿をみたいのです。彼らは国民を多く巻き込み、一体となることを「力」ととらえていました。これはずっとそうですよね...カタールW杯での日本代表の健闘を讃えながら。

  • 『ツイてるわたしの予想屋稼業』

    今週のオークスも先週のヴィクトリアマイルに引き続いて予想が的中した。払い戻し、馬連で27.8倍。頭流し5点の買い目だったし、乗ってくれたみんな、けっこう儲けたのではないかな。これでわたしの的中率は七割を超えた。回収率なんて400%を超えたはず。春のGⅠ戦線も後半にはいって、波に乗っているのだ。レース確定後、ツイッターのアカウントにお礼のコメントが殺到しだした。<今週もおかげさまで払い戻し28万円です!ありがとうございます!><足向けて寝られませんわw、馬屋お七さん、ずっとついていきやすwww><よっ!令和の天才美女馬券師お七様!さすがやわ!おおきに!!><なんでわかちゃうんです?!?!……こんなに儲けられるなんて夢みたいですよ!!!>続々とコメントを寄越す人たちは、馬屋お七こと、わたしの予想を買った人たち...『ツイてるわたしの予想屋稼業』

  • 掌編アップロードのお知らせ。

    仕事を辞めてから、というか仕事中からずっと頭が動かない状態に陥っていました。ネットニュース記事にタイムリーなものがあったのですが、どうやら職場いじめにも遭っていたといえる状況だったようで。みんなにお菓子を配っていても、僕ははぶかれるだとか、仕事がひと段落して他に仕事があればと古株の人に声をかけると、「いたの、いると思わなかったわ」と言われて、そのうち笑われ出すだとかがありました。気にしてたらだめだ、という気持ちでいたのですが、そうすると相手は図に乗りだしますし、こっちはどんどん小馬鹿にされていきます。バカに対して謙虚にふるまうと、なめられたりバカにされたりしだす、というのをツイッターで読んだことがあります。それか、と思ったり(毒)。最近はそれなりによくはなってきているのですが、それでもなかなか思うようには...掌編アップロードのお知らせ。

  • 『置かれた場所で咲きなさい』

    読書。『置かれた場所で咲きなさい』渡辺和子を読んだ。10年くらい前に100万部超えのベストセラーになったキリスト教的なやわらかな人生訓エッセイ。著者は、若くしてノートルダム清心学園の理事長となり、本書刊行時には85歳のシスターです。<時間の使い方は、そのまま、いのちの使い方なのですよ。置かれたところで咲いていてください。>p13「んなこといわれてもなあ……なかなか納得がいくものではないんだよなあ」と思いつつ、そのほかのエッセイも読み進めていきました。著者なりの固有の人生で積み重ねられた体験や経験、学んだ教義や聖書を読み解いて得たもの、好みの詩など、そのようなバックグラウンドから発せられる柔らかくて筋の通った言葉たちと、まず出だしのインプレッションでかみ合わなくとも、読み手としては冷笑的にならずに向かい合う...『置かれた場所で咲きなさい』

  • 『乃木坂46 中田花奈 ファースト写真集 好きなことだけをしていたい』

    読書。『乃木坂46中田花奈ファースト写真集好きなことだけをしていたい』中田花奈撮影:桑島智輝を眺めた。乃木坂46を二年前の2020年に卒業されたときに発売された、一期生・中田花奈さんの写真集。セカンドシングル『おいでシャンプー』でフロントメンバーに選ばれたのち、アンダーに配置されることが長かったですが、彼女はさまざまな経験のなかで前後左右さまざまに揺さぶられながら成長されてきたような印象を持っています。当時、自虐のように読めてしまったのだけど、13thシングルくらいのときには、『おいでシャンプー』が自分の全盛期だなんてブログに書かれていたりもして。乃木坂に興味を持って第一印象的に彼女に好感を持っていた僕は、なんでそんなことを書くんだろう、とちょっと腹が立ったわけではないのだけど、もっと客観的かつ冷静かつポ...『乃木坂46中田花奈ファースト写真集好きなことだけをしていたい』

  • 『白夜 / おかしな人間の夢』

    読書。『白夜/おかしな人間の夢』ドストエフスキー安岡治子訳を読んだ。初期の傑作短編でありドストエフスキーらしくない感傷的な作品である「白夜」と、『作家の日記』内から掌編を3つと、エッセイがひとつ収録されています。表題作の二作について、かんたんな感想を。ネタバレがありますので、ご注意を。「白夜」主人公の夢想家の26歳の男がある夜に、17歳の乙女ナースチェンカと出合う。その四夜の物語。現代のいまとなってはベタな話かもしれないけれど、よかったなあ。スタートが夢想家である主人公の夢想語りなので、これどうなるの?と心配したけれど、胸をついてくる切ないけどあたたかな読後感でした。ピュア・ラブです。頬を伝う涙ぶんのあたたかみ。純粋な愛は、自分の幸せよりも愛する人の幸せを願い働きかける。自分の愛の成就を阻む結果になること...『白夜/おかしな人間の夢』

  • 『強迫症を治す』

    読書。『強迫症を治す』亀井士郎松永寿人を読んだ。強迫症。50~100人にひとりは発症する、ごく一般的な病気だそうです。男女差はありますが、多くは20歳までには発病し、そのうちの1/4は10歳までに発病する。特徴は、強迫観念と強迫行動。不安や落ち着きのなさのような「何か」が意識に強く迫り、思考を支配する。この思念を「強迫観念」といい、不安や落ち着きのない感じを解消しようという行動が「強迫行動」です。ただ、正常な心理にも不安や強迫はあり、どこで病気と線引きをするかというポイントはあります。主に強迫には3種類あります。確認系:カギの確認やコンセントの隙間がないかの確認。(うちの親父の場合は加えて、蛇口がしまっているか、トイレの照明が消えているかなどがある)汚染/洗浄系:手を洗うのがやめられない。ピッタリ系:書棚...『強迫症を治す』

  • 『パッシブ・ノベル』 最終話

    智鶴さんに、白井と会って話をしてみる、ときっぱり言えたのにはちょっとした根拠があった。実際、見栄だけではなかったのだ。それを今、目の前の白井にぶつけてみるところだ。僕は白井の部屋に来ていた。公園でのあの夜から二日経った夜だった。白井は僕の来訪を喜んだ。わずかではあるけれど確かに持ち上がった口角が白井らしい喜び方だった。白井は濃灰色の薄手のスウェットにカーキのパンツ姿でマスクをつけていなかった。部屋に上がったばかりの僕にソファを勧めるとすぐさまキッチンへ立ち、沸かした湯でドリップしてコーヒーを淹れてくれた。コーヒーは絵柄のない真っ白なマグカップで出された。白井はテーブルを挟んだ向こうのデスクチェアに、自身のやはり真っ白なマグカップを持って腰掛けた。部屋はやや薄暗く、ひんやりとしていた。僕は小説の原稿の入った...『パッシブ・ノベル』最終話

  • 『パッシブ・ノベル』 第二話

    翌々日、仕事から帰ると、郵便受けにA4サイズ用の茶封筒が挟まっていた。引き抜いて部屋に持ち帰る。送り主は白井だ。早速、小説原稿が送られてきたのだ。この行動の速度にこそ白井の悲しいほどの切実さがはっきりと表れている。なんだかもの寂しくなった。テーブルに置いた厚みのある茶封筒が、報われることのない健気さの姿として目に映ってしまう。正直、読むのは面倒くさかった。僕はほとんど小説を読まないこともあって、ノンフィクションに比べて小説の読解はそれほど得意ではない。学生時代の現代文の試験では、選択肢があればなんとか正解できたほうでも、記述式になるとずれた内容をこれでもかと書いてしまったものだ。読解がその程度なのに、アドバイスまで頼まれている。できるだろうか。でも、やらないと、だ。智鶴さんのためには。そう思いながら、ソフ...『パッシブ・ノベル』第二話

  • 『パッシブ・ノベル』 第一話

    例年よりずっと長引いた、むせるような残暑だった。その残暑の去った九月下旬の休日、図書館前のプロムナードで中古の本を売るフリーマーケットのテントに、スタッフとして僕は居た。少々黴臭いその陰のなかからすっと立ちあがって抜けでる。しばらく客が途切れ、智鶴さんとの会話も途切れてしまったつかの間、午後の黄色くまるい日射しを浴びることで、舞い上がった気持ちを落ちつかせたくなったからだ。図書館は、四方を低い山々に囲まれた静かな町のほぼ中心に位置する。視界には、ぽつら、ぽつら、と薄く小さな雲が五つほど浮かんでいた。今にも別世界へと旅立ち、消え去っていくかのような、儚げな雲たちだった。でも、そちらをまず気にしたものだけれど、今日の主役は断然、雲たちよりも大空のほうだった。まあ主役については智鶴さんを別格として、自然物の中で...『パッシブ・ノベル』第一話

  • 応募小説のブログ公開のお知らせ。

    こんばんは。今夏、作品を応募した「北海道新聞文学賞」でしたが残念ながら落選となりました。そのまま日の目を見ないで眠らせておくのも可哀そうな作品だと思いますので、明朝より三日間かけて本ブログにアップロードいたします。どうぞ、よろしければ読んでみてください。題名は『パッシブ・ノベル』です。気楽な感じでスタートしていく小説です。しかしながら、どんどん没入していけるつくりになっていると自負しています。よろしくお願いいたします。応募小説のブログ公開のお知らせ。

  • 『ルポ 保健室』

    読書。『ルポ保健室』秋山千佳を読んだ。子どもの頃、保健室には身体測定とケガをしたとき以外ではお世話になったことのない僕です。たまたまなにげなく見たテレビの特集でなんとなしのイメージがあるばかりで、具体的には保健室ってよくわからず、でもなんだか知っておかねばならないような……というひっかかりを本書のタイトルから感じて、手に取りました。保健室ってどう機能しているのだろう?どのような苦しみを背負った子どもたちがやってきて、どういった悩みが寄せられるのだろうか。そこで養護教諭はどんな対応をしているのだろうか。著者が実際にいくつかの中学校の保健室に滞在し、そのなかでリアルタイムに経験したものや、養護教諭や生徒への取材から知ったことなどを中心とした内容です。昨今の子どもたちのリアルな負の部分、それは虐待や貧困がそのひ...『ルポ保健室』

  • 『乳と卵』

    読書。『乳と卵』川上未映子を読んだ。芥川賞受賞作「乳と卵」と掌編「あなたたちの恋愛は瀕死」の二編を収録。「乳と卵」女性の身体性と、そこからくる心理を描く物語。東京に住む語り手の女性のもとに、姉とその娘(姪)が泊まりにやってくる。姉は、出産を機にしぼんでしまった乳房を手術によって豊かにしたいと考えて実行寸前のところにいる。娘は10歳くらいの子で、女性としての身体的な自覚を、学校の授業なり友達との付き合いなりからしはじめている。女って卵子を持っていて大人になっていく段階で月経がおこるのだとわかって、それで、自分はいやがおうでもその宿命のレールに乗っていて外れることのできない、そこに無慈悲さや不条理なものを感じているふうな書き物をノートにしている。自動的に女だと規定される運命を受け入れたくなくて、過渡期というか...『乳と卵』

  • 『人を幸せにする目からウロコ!研究』

    読書。『人を幸せにする目からウロコ!研究』萩原一郎編著を読んだ。アイデアや創意工夫はもちろんのこと、「人のためとなる」という動機もみな等しく持っている研究者による、、そこに至る過程でひとつやわらかく屈折してからたどり着いたのではないかと思えるような、ちょっと独特な数々の研究を紹介する本です。12人の研究者がそれぞれご自身の研究を20ページ前後の分量で、まるでプレゼンのように解説してくれています。川魚特有の生臭さを克服するべく、生育過程であたえる餌を改良することによって、食肉部分まで柑橘類の香りのするようになった柑味鮎を実現させた研究者。環境問題にもエネルギー問題にも一挙に答えを出せるエネルギー源として、芋をエネルギーとして使うことを提唱し、実現に向けて道を切り拓いている研究者。「かわいい」を感性価値と位置...『人を幸せにする目からウロコ!研究』

  • 『愛するということ 新訳版』

    読書。『愛するということ新訳版』エーリッヒ・フロム鈴木晶訳を読んだ。どうして愛が必要なのか。僕だったら、愛を媒介として子孫をつくり後世へと生命を繋げていくためで、あくまで手段としてプログラムされたものなのかもしれない、と答えるでしょう、いきなり訊かれたならば。しかしながら、「でも……」とそう答えてしまってから首をひねるでしょう。愛って、そんなに矮小なものだろうか。そしてそんな単一な機能しかもたないものだろうか。人生を楽しくしたり、幸せにしたりするのも愛だとする。それだって、楽しい人生じゃないと生きようという気持ちが芽生えず、生命は滅んで行ってしまうからプログラムされた、と言えるかもしれない。ここで再び、「でも……」とプログラム説の冷たさにたいして疑問を感じ始める。愛っていうものは、生命を巧妙に騙すプログラ...『愛するということ新訳版』

  • 『嵐のピクニック』

    読書。『嵐のピクニック』本谷有希子を読んだ。13の短編が収録されている。まず2つの作品を続けざまに読んだとき僕は、ずっとこれを求めていたに違いない!と目の覚めるような想いとともに、自分の読書脳と創作脳がほの温かく躍動し始めるのを感じたのでした。わかりそうな人たちに、「ちょっとこれ読んでみ」と前のめりで薦めたい。見つけた!感が泡立つのです。話を展開をしていくために言葉のバランスを考えたり表現を考えたりしながら書いている部分と、内容や自己に沈潜して書いている部分と、そしてもともとの発想があると思うのだけど、三位一体的でした。そしてぎゅっとして無駄がない。以下、とくに好きだった3作品についての感想です。「私は名前で呼んでる」カーテンのふくらみから妄想と記憶が流れ出す話。こういう、なんともいえない錯覚の渦中にいる...『嵐のピクニック』

  • 『意識と無意識のあいだ』

    読書。『意識と無意識のあいだ』マイケル・コーバリス鍛原多惠子訳を読んだ。目的不明の思考が自然と生まれ、その思考は意識をさまよい、うつろっていく。授業中、仕事中、いやいや読書中にも運転中にだってそれはあるものです。この作用をマインドワンダリングと呼びます。マインドワンダリングしていると「集中しなさい!」と授業や仕事に呼び戻され、読書中にそれに気づけばハッと意識を正すようにして読書に戻る。運転中のマインドワンダリングならば、もしもそれが深いものならば事故の危険が高まります。「集中しないと!」と目を見開いたりするかもしれません。時代はマインドフルネスが力を持っています。マインドフルネスは、「今ここ」に集中する方法です。雑念を払い、今を十全に感じることで、生きている実感や充実感とともに、意識がすっきりするとも言わ...『意識と無意識のあいだ』

  • 『良心をもたない人たち』

    読書。『良心をもたない人たち』マーサ・スタウト木村博江訳を読んだ。いわゆるサイコパスやソシオパス、反社会性人格障害などと呼ばれ、分類される人たちがいます。本書の帯を写すと、「一見、魅力的だが、うそをついて人をあやつり、空涙をながして同情をひき、追いつめられると逆ギレする」ような人々です。本書はこのような人々を「良心のない人々」と定義し、その視座から彼らとはどういった人たちなのか、何者なのか、を明らかにしていきます。「良心をもたない人々」は良心がないがゆえに、この世界をゲームとしてとらえ、他者に勝利し支配する行動をとります。配偶者や子どもを支配する例が多いようです。僕は本書を読みながら、自分の親や自分自身がサイコパスに当てはまるかどうかを考えました。結論からいえば、まるまるすべてが当てはまりはしませんでした...『良心をもたない人たち』

  • 仕事を辞めることにした理由。

    6月からお店のパートスタッフとして働き始めましたが、10月半ばをもって退職することにしました(現在は有給休暇消化中)。その顛末というか、理由について、ここに残しておきます。<序論として>まず、働き始めた理由ですが、母親の介護にデイサービスやショートステイを使えないのは経済的な理由だと親父が言い始めたからです。訪問リハビリの回数も、毎週月曜日に来て頂ているのを経済的理由として月に一回分を減らしました。親父に一存です。デイサービスやショートステイを使えないのは、親父が他者に母親を預けることにつよい不安を感じるからなのですが、金銭面に転嫁しました。お金の問題だと言えば、役所からもケアマネからも口出しできないだろうというねらいだと思います。そして、働かずに家にいる僕へ矛先を向け、お金がないのがいちばんの問題だとし...仕事を辞めることにした理由。

  • 『大人になる前に知る 老いと死』

    読書。『大人になる前に知る老いと死』前沢政次を読んだ。おもに中高生に向けた、老い(老化や認知症、介護)と死について医師が長年の経験から得た知見をまじえながら、解説するというよりもふだんの会話のように話をしてくれるような内容です。なので、言葉遣いはとても平易でした。ですが、たとえば何冊かの文献(少年少女向けの文学を含みます)を引いてその話す中身に活かしながら、読者に考えごとをさせてくれる余白があるのでした。くわえて、だからこその押し付けのない語り口です。これこれこういうことだからこう考えられますよね、それは論理として難しくないですよね、でも、それだってひとつの答えであり、人それぞれ別々に答えを導き出していいし、たとえ同じ答えだったとしてもそこで輪郭をきっちりときめつけたような(言い換えれば、白黒はっきりさせ...『大人になる前に知る老いと死』

  • 『一九八四年』

    読書。『一九八四年』ジョージ・オーウェル高橋和久訳を読んだ。1949年発表の、1984年を舞台とした近未来全体主義世界の物語。文学性と、色の濃い政治性が融合した、近未来ディストピア小説だと言えるでしょう。ビッグ・ブラザーをトップとした監視社会。テレスクリーンと呼ばれる、今でいうインタラクティブなテレビ的機械装置や隠しマイク、隠し監視カメラ、密告などのスパイ行為などによって、そのがんじがらめの監視社会が成立させられている。また、歴史はつぶさに修正され、自国や権力を握っている「党」、そしてビッグ・ブラザーはつねに正しい存在だとされる。たとえば配給のチョコレートの量が減っているのに、過去の配給量をごまかして広報してこれだけ増えたと偽の情報にすり替えてしまう。そして、世界は三つの国の戦争状態にあるとされながら、そ...『一九八四年』

  • 何故、知恵や知識はかんたんにもっとシェアされないのか?

    これまで受けてきた学校教育によって、無料で得たという心積もりでたくさんの知識を蓄えて知的興奮を味わう経験してきますよね、勉強するのが好きな人たちというか、知的好奇心が強い人たちは。そしてそういった人たちが大人に近づき、世の中にはもっとたくさんの知識や理論、世知にいたるまでが広く存在しているだろうことを知る。人生の先輩たちは自分よりうまい方法を知っていて、どうやら得の仕方も知っているのを知ります。それらの方法や知恵を無料で分け与えてくれないだなんて、世の中を発展させ、よりよくしていくんだっていうピュアな論理からすればおかしいじゃないか、教えてくれれば自分はうまく人生を成功させて、そのお返しだって他者へできるだけする、という考えを持つ人は珍しくないと思います。若いころには僕もそうだった。義務教育や高等教育の延...何故、知恵や知識はかんたんにもっとシェアされないのか?

  • 『ソ連史』

    読書。『ソ連史』松戸清裕を読んだ。1922年・ソビエト連邦結成のその前夜から1991年の消滅まで。労働者階級、つまり被搾取人民の解放のために革命は起こり、世界初の社会主義国家連邦が生まれました。それがソビエト連邦です。マルクス・レーニン主義のもと、資本主義を超えるものとしての社会主義からはじまって、貧困のない共産主義まで到達させようとするのがこの連邦の目的でした。しかしながら、ソ連結成まもなくから、食糧確保のためにまもなく農民の搾取がはじまるのです。目的のために手段を正当化するのが、権力(ちから)の強い側のやり方。こういった政治の強引なやり方は今も昔もよく行われることで、社会主義でも民主主義でもその主義にかかわらず、警察や軍隊までをもときの政体がそのしもべとして使うことは珍しくないと思います。露骨さの度合...『ソ連史』

  • 雇用の流動化を考えるときに。

    雇用の流動化。かいつまむと、転職しやすい社会のこと。人材が流動化すると、産業が発展しやすくなるのではないかと言われていたと思います。しかし、今って雇用の流動化は盛んではないですね?雇用の流動化が起こりにくいのは、新たな仕事に対する不安のためというよりも、新たな職場で再び自分の立ち位置を構築しなければならないことへのプレッシャーや不安のため、というほうが大きいのではないか。現場では、つまりひとつの職場の話ではですが、「陣取り合戦」のような、駆け引きや威圧やコミュニケーションなどを含む人間関係のあれやこれやを全力で駆使してその職場での自分の立ち位置を長い時間をかけて確保することが多いように見えます。いわゆる、権力闘争が激しくてつらいというような。立ち位置が確保できれば、比較的安穏な気持ちで仕事ができる。でもそ...雇用の流動化を考えるときに。

  • 『休息の科学』

    読書。『休息の科学』クラウディア・ハモンド山本真麻訳を読んだ。副題は、<息苦しい世界で健やかに生きるための10の講義>。休息といえばコレというランキングを10位から順にその効果について一つひとつ分析し解説・検証してくれます。そのランキングは、世界各国18000人からのアンケート結果から得たものです。最終章に書かれているのですが、いまやアメリカだけでもセルフケア業界の市場規模は4.2兆ドルにものぼるそうです。高級オイルや香り付きキャンドル、高級ブランケット、高価なチョコレートなどなどが例としてあげられています。過激な商業主義との見方もされはするものの、著者はそれでもセルフケアには大きなメリットがあると述べています。それは若い世代が上の世代よりも休息の重要性を理解し始めているあらわれではないか、という点がそれ...『休息の科学』

  • 短編完成、そして送付。

    もう3日前の12日のことになります。完成した小説を「北海道新聞文学賞創作部門」充てに送付しました。今回は85枚の分量になりました。応募規定に「50~150枚以内」とありましたから、どちらかといえば短めの作品ですけれども、これでしたら規定内としては余裕があり、たとえば枚数の原稿用紙換算の仕方が文字数ではなく改行などを含めたものだったとしても十分に収まる範囲です。原稿は5部そろえて送るのが条件でした。ただ、パソコンから印刷をかけてみると、プリンタからインクが漏れ出てるものがあったり、行がだんだん斜めにずれて印刷されたものがあったりなどのちょっとしたトラブルが発生しました。「印刷して送るだけじゃん」というように簡単に考えていましたので、パソコン原稿で35枚になる作品を5部すなわち175枚をいちいちチェックすると...短編完成、そして送付。

  • 小説は永遠につづく。

    文芸作品の売り上げが、ここ10年で1/4まで落ちたというニュースを受けて書きます。文芸作品はセーフティーネットでもあると僕は思うのでした。多様と分散のこの時代に、前時代よりもシェアが減るのは当然なのかもしれない。でも、最初に書いたように、セーフティーネットたりえるものです。でもって、文芸作品を求めるひとって一定数はずっとい続けるものなんじゃないかな。虚構があるからこそ、現実や人間を理解しやすくなる。虚構は思考実験であり、「それ」があるからこそ説明しやすくなる種類の複雑な問題があるというその「それ」である虚数のようであると言えるのかもしれない。その虚構が、映画や漫画でいいじゃないか、というのもひとつの在り方だ。かといって、小説がそれらに劣るメディアではないことは知っておいたほうがよいことだし、そこをわかるく...小説は永遠につづく。

  • 『吉祥寺の朝日奈くん』

    読書。『吉祥寺の朝日奈くん』中田永一を読んだ。せつなくて、でもぬくもりのある恋愛模様を五編収録した短編集。五つともストレートな恋愛ではないところに、「なんだ?なんだ?」と読み手の目をリードしていくものがあるのかもしれません。とくに、最初の「交換日記はじめました!」と、表題作でもある締めの「吉祥寺の朝日奈くん」が、僕にとってはかなり好みなうえにその出来映えに拍手したいくらいでした。「交換日記はじめました!」は交換日記が繰り広げられるその一冊のノートを舞台として場を固定しています。数奇な運命により、最初に企図された交換日記から逸脱した、日記リレーのような体裁になっていくのですが、そこにほんとうに豊かな物語が根付くのです。アイデアといい、内容といい、僕は「やられたわ!」と嬉しい悲鳴をあげたくなったくらいです。「...『吉祥寺の朝日奈くん』

  • 「たら」「れば」「もしも」との付き合い。

    僕はどちらかというと、「たら」「れば」を言うタイプではない。それは生きていく上でのある種の強みではあります。だけれど、そういった「たら」「れば」「もしも」は創作や工夫の種なんです。もっというと、後ろ向きの「たら」「れば」「もしも」こそが物語を生んだりもする。人の、切っても切れない「弱さ」だからなのかなあ。会話の中で「~~だったらよかったね」「そうだねえ」なんて言いあうとき、表面上は同調しても本気の部分ではそうは思わないで割り切っているタイプです。十代の頃に後悔と格闘したひとつの結論としてのものなのかもしれません。「決定」するということについて、じっくり考えたんだと思います。生半可に決定するものじゃない、というように。それでも、割り切っているようでいて、他者に「~~だったらよかったのに」なんて言われると腹が...「たら」「れば」「もしも」との付き合い。

  • 曲解していたこと

    量子コンピュータに関する量子アニーリングについての本を読んだとき、内容をよく理解できませんでした。その流れで、量子コンピュータの0と1の重ね合わせの理論を、0と1の間の組み合わせのようなものを無限に解析できるということを混ぜてしまっていたなあと、気づきました。0と1の重ね合わせは重ね合わせであって、0と1の間のグラデーションではないんですね。量子アニーリングはアナログ的だとあったので、曲解したようです。いろいろと間違ったまま話をすすめたことがあったはずですが、間違いのタネをばらまいてしまい申し訳ありません。曲解していたこと

  • 『日本人のための世界史入門』

    読書。『日本人のための世界史入門』小谷野敦を読んだ。西洋では古代ギリシャ、東洋では三皇五帝、といった紀元前の時代から現代までを一気呵成に通貫した世界史読本。著者の印象は、いわゆる「むずかしい人」とされるタイプなのではないのかなあ、と読み始めからちょっと感じました。これはダメ、あれは良い、と端々で仕訳が始まるのですが、その判断基準の統一性がよくわからず「むずかしい」のでした。それでも歴史の要約の仕方が巧みで、語り口もおもしろいので、著者のクセさえ認められたならばあれよあれよと読めてしまうでしょう。世界史のアウトラインを辿っていくような感覚です。270ページに世界史を詰めこんでいるぶん、かなりのスピードで一時代が過ぎ去っていきます。でも要諦をつかんで書かれていますし、生煮えの知識を出してくるわけではありませんから、...『日本人のための世界史入門』

  • 『饗宴』

    読書。『饗宴』プラトン中澤務訳を読んだ。古代ギリシャの哲学者・プラトンによる、師匠であるソクラテスの物語のひとつで、エロス論です。舞台となるのは詩人・アガトン邸での饗宴(飲み会の一種)の席。アガトンが大勢の大衆を前に見事な詩を披露して優勝したお祝いの饗宴です。そこに出席した者たちが順々にエロスについて語っていきます。途中、演説の順番が来たアリストファネスのしゃっくりがとまらず、次の順番をひとつ飛ばしてもらうアクシデントがありますが、これはこの哲学議論物語にユーモアで彩ったアクセントなのかもしれません。まずはじめのパイドロスの話からもうおもしろかった。「自分がなにか恥ずべき状態に置かれている状態を愛する者に見られるとき、最も恥ずかしいと感じるのです」つまり、臆病な振る舞い、醜いふるまい、そういったことをしなくなる...『饗宴』

  • 『王国』

    読書。『王国』中村文則を読んだ。『掏摸(スリ)』の兄妹編に位置する犯罪小説で、今回の主人公・ユリカもまたあの「巨大な悪」である木崎と対峙することになります。哲学的だったり思想的だったりする部分では十分に考え抜かれているし、そういった思弁的色合い一色にならないように、参考文献を用いて補強した知識を咀嚼してちりばめてあるし、ストーリーの起伏・緩急は巧みでぐいぐい読ませるエンタメ性もあるし、背後にはいくつかのテーマが配してあるようですし(木崎が自ら語る部分以外、僕には拾えていないと思います)、著者一流の馬力をフルに発揮して作り上げた作品といった感じは、『掏摸』と同じくらいあります。ただ、ここまで野蛮で、強烈な悪の領域に踏み込んで書いていて、著者はその執筆中にまともな生活を送れていたのだろうかが気になる、というのはあり...『王国』

  • 『小説の読み方、書き方、訳し方』

    読書。『小説の読み方、書き方、訳し方』柴田元幸高橋源一郎を読んだ。翻訳家・柴田元幸さんと作家・高橋源一郎さんの対談本です。柴田元幸さんの翻訳のお仕事に触れたのは、オースターのニューヨーク三部作とミルハウザーをひとつ、といったくらいです。印象としては、「透明な触媒」としての翻訳、です。翻訳者の癖というか、翻訳者自体の声や匂い色、もっというと人となりって、どうしても翻訳された作品からかすかにではあっても感じられがちだと僕は思っていて。それが柴田さんの翻訳だと、翻訳者は薄いフィルターとしてだけあって、外国人の作者のほうを大きく、そして近く感じるんです。翻訳者の存在が、無色無臭っぽい。柴田さんは翻訳を、原文が自分の中を通り抜けていく通過時間がゼロに近ければ近いほどいい、という考え方を本書で明らかにします。なるほど、体現...『小説の読み方、書き方、訳し方』

  • 『小倉昌男 祈りと経営』

    読書。『小倉昌男祈りと経営』森健を読んだ。クロネコヤマトが有名なヤマト運輸の二代目経営者・小倉昌男。彼は「サービスが先、収益(利益)が後」などの経営哲学でビジネスの分野で著名だった人です。「宅急便」をスタートし、当時、無意味だったり非合理だったりした各規制に異を唱え、行政と激しく闘った人でもあります。また、ヤマトを退職した後には福祉財団を立ち上げ、福祉の世界に経営の手法を持ち込んでいきます。そして、当時一万円がやっとだった障がい者賃金を十万円にまであげていくという目標を掲げ、実際に財団の力でパン屋を立ち上げてその目標を実現させて、モデルケースを作った人でもあります。ただ本書では、そういったビジネス面での小倉昌男を追う分量よりも、妻の玲子、娘の真理、晩年に親密だった遠野久子(仮名)といった女性たちとの関係の内実を...『小倉昌男祈りと経営』

  • 『ハーモニー』

    読書。『ハーモニー』伊藤計劃を読んだ。「大災禍」を経た21世紀後半。成人した大人たちは、WatchMeという微小な医療分子機械を体内にインストールすることが義務付けられている。それが、大多数の国家が政府ならぬ生府という統治機構へと移行した未来世界のシステム。WatchMeによって健康状態を管理されることで、人類は病の大半を克服した。人間存在は社会のリソースとして、この上なく尊重されるものとされる。究極の健康ファーストの価値観が共有され、健康に悪い食物や嗜好品は忌避されている。健康倫理のセミナーも盛んで、人々の健康意識や人命尊重意識はこのうえなく高く、安定している。そんな管理社会に、自らの死をもって自らを尊重しよう、自分は自分なのだからとする考えで自死を試みた3人の少女。イデオローグ的な存在としてその行動を先導し...『ハーモニー』

  • 「note創作大賞2022」結果報告

    「note創作大賞2022」に短編『春の妻』を応募していました。3/25の中間発表にて、この賞へ16,848作品の応募があり212名が一次選考を通過したことが発表されました。誇らしいことに、僕の短編もそのなかに入っていました。倍率でいえば80倍ほどの門をくぐり抜けたのです。それで今夜、最終結果発表がありました。ちょっと期待はあったのですが、残念ながら選ばれませんでした。まあ、次作、そしてさらに次、と力のある作品を書き上げていきたいです。もっと良い結果を得るために。まだまだ、なのです。応援の気持ちで見守ってくださっていた方、ありがとうございました。これからも坂を上っていきます。「note創作大賞2022」結果報告

  • 『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる

    読書。『NATUREFIX自然が最高の脳をつくる』フローレンス・ウィリアムズ栗木さつき・森嶋マリ訳を読んだ。タイトルの「NATUREFIX」を訳すと、「自然が回復させる」「自然が治す」となります。本書は、人が自然に触れたり自然を体験することによって、日々のストレスから回復することがどうやらできるようだ、ということを解説しています。そればかりか、アメリカ、日本、韓国、イギリス、フィンランド、スウェーデン、シンガポールなどの自然と人間の研究やそれらを踏まえた実践的取り組みを取材した著者の経験をまじえながら、おおよそがドキュメンタリータッチで、認知力や創造性などの向上にまで自然の効果が認められることを教えてくれるのです。近年、都市部に人口が集中し、2008年には世界人口の半分が都市生活者となりました。自然と疎遠になっ...『NATUREFIX自然が最高の脳をつくる

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