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  • 狐たち(3)

    霧はさらに濃くなり、霧雨は本格的な雨へと変わってきていた。敬太は座り込んだままだった。手は無意識にコンクリートの割れ目から顔を出した雑草を毟っている。ふと何かの気配を感じて顔を上げた。いつの間にか数メートル先にある用水路の水面すら見通すことができないほどの霧に囲まれていたので敬太は思わず息をのんだ。見渡す限り足下から頭上までが白い膜で覆われている。その霧の中で動くものがあった。 用水路のほとりには柳が何本も並んで生えていた。風が強い川べりのことなので幹は斜めに伸び、枝はよじれている。どうやらその柳の生えているあたりに何かがいた。敬太は思わず目をこらした。霧の塊が動いているようにしか見えなかった…

  • 狐たち(2)

    狐かなあ、見るともなく目の端で茂みが動くのを捉えながら敬太は考えた。最近河川敷では狐が頻繁に目撃されるようになっていた。これはこのあたりではとても珍しいことだったので、早朝や日暮れ前は長い望遠レンズを持ったカメラ愛好家が狐の姿を求めてやってくるようになっていた。 学校でも狐の話題が出た。朝礼で校長が狐にまつわる逸話をシートン動物記から引用したと思えば、朝の会では担任が注意を述べた。曰く狐は大変用心深い生き物であること。県によって絶滅危惧種に指定されていること。もしかしたら人間に病気をうつしてしまうかもしれないこと。よって、むやみに近づいたり、触ったり、脅かしたり、危害を加えたりしてはならないこ…

  • 狐たち(1)

    敬太は惨めな気持ちでコンクリートの階段に腰を下ろした。リードを外されたレオは脱兎のごとくに土手を駆け下り、左に曲がってちょっと逡巡した上で柳の木の根元にある茂みへ飛び込んでいった。 4月も終わろうとしていた。ゴールデンウィークが始まる土曜日で、昨日クラスは休日の間の予定の話で持ちきりだった。両親の実家に帰省する者もいれば、めでたくサッカーの選抜選手となって強化合宿に向かう者もいた。海外旅行に行く者すら二人いた。これから始まる一週間をうんざりした気持ちで迎える者などどこにもいないように敬太には思われた。「遠野はどうすんの?」ふいに名前を呼ばれて敬太は顔をしかめた。「留守番」彼は短く答えた。「あと…

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