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2014/02/20

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  • 2021年始

    2021年今年もよろしくお願いいたします!!2020年は、なんだか大変でした。今年こそはみんなで良い年になりますように♪リモートとか休校とか・・・、そんな中、ともえは日々変わらず仕事に行っておりまして。(仕事に行ってくださいの、優先順位が高いやつ)んでブログ作品を書くのに困ったのが子どもの学校の行事がことごとくなくなってしまったこと!!行事の日↓仕事休める♪↓半日は家で作品を書くのに専念出来る!ラッキー♪↓しかし、コロナのせいで行事、懇談会もろもろの中止↓仕事を休む理由がない↓作品を書く時間がない!!!(かなり集中して長考するので、人がいる横では作品書けない人)今年は何とか、別館作品を再開したいです。ともえの目標!今年もよろしくお願いいたします(^^)TOBAばしょ&ともえ2021年始

  • 2020年末

    そして、令和2年。今年は怒濤の1年でしたね。それでも作品連載続けられたり新キャラもどしどし誕生したり山あり谷ありでしたが無事今年も年末年始を迎えることができます。二〇二〇年令和二年もあと少し皆様どうぞ良いお年をお迎え下さいTOBAともえ&ばしょイラストは新キャラ!!2020年末

  • 「水辺よもやま話」

    人々が目覚め始め、早い者はもう仕事に出掛ける時間。圭はまだ夢の中。僅かな稼ぎである西一族の民芸品を作っていて昨日は遅くまで作業をしていた。どうせ眠りを妨げる人も遅い、と起こしに来る人も居ない。意識は僅かに目覚めているが体はまだ起きようとしていない。誰が困るわけでもない。もう少しこのまま。このまま、ずっと、とそんな時。「ねぇ、外は良いお天気よ。寝ているのは勿体ないわ」誰かに起こされるような感覚。夢半ばの圭は、それじゃあ仕方無いなと体を伸ばしゆっくりと起き上がる。「………んん」窓から差し込む光になるほど、確かに今日は良い天気になりそうだ。そう返事をしかけて気がつく。今の自分を起こしに来る人など居ないのに。「夢、か」あたりを見回して、いつもなら少し虚しくなるけれど、なぜか空気は澄んでいて、急にお腹も空いてきて、天気が...「水辺よもやま話」

  • 「『成院』と『戒院』」23

    朝靄もまだ晴れない、薄暗い刻。成院は家を出る。長く過ごした家の扉をそっと撫でる。挨拶を済ませたのはほんの数人。もしかしたら何も知らず、今日このドアを叩く者が居るかも知れないと思うと何とも言えない想いにかられる。家から続く、畑のあぜ道を抜ける。何度も何度も通った道。今日で最期。「………」振り返り、住み慣れた我が家を遠くに見る。東一族の村を出た時はそんな余裕もなく、ただ、ひたすらにこの地を目指した。まだ、ここに居たいと言う思いと行かなくてはいけないという思い。馬車乗り場には二台の馬車が停車している。東一族の村へ向かうもの、そして、反対方向へと向かう馬車。もう決めているはずだ。けれど、もう一つの可能性に暫く目を奪われる。目を閉じる。「………」すう、と息を吸い込むと、成院は1人馬車に乗り込む。同じ頃、東一族の村では『成...「『成院』と『戒院』」23

  • 「『成院』と『戒院』」22

    「この村に来て、最初の数年は生活に慣れるのに一生懸命だったよ」成院は呟く。「それから、また、数年。南一族として生きていこう、とこの一族の証を入れた頃だったかな」頬の入れ墨を成院は示す。南一族である証。もう、東一族としては戻らない覚悟を決めた物。「南一族の村に、素子が遊びに来ていたんだ。最初は人違いだと誤魔化していたんだが」成院、と昔の名で呼ばれて、久しぶりに会った故郷の人。酷く懐かしさを覚えた。「それから、素子が帰るまで一緒に過ごした」わずか、数日の出来事。会えて良かった、と素子は言っていた。「素子が帰って暫くは今の様に覚悟を決めていた。けれど、東一族の使いはやって来ない」成院は頭をかく。「村に居た頃にあまり面識もなかったし、その時だけのものだと素子も思っているのだとばかり」「違うだろ」戒院はため息を付く。「素...「『成院』と『戒院』」22

  • 「『成院』と『戒院』」21

    「………」「………」テーブルを挟み、距離を取って座った2人の沈黙が続く。出されたお茶も手が付けられないまま冷めていく。「分かっては居たんだ」そう切り出したのは成院。「あの子が俺を見つけた時からこうなる気はしていた」お前の娘だろう、と成院は問いかける。「未央子だ」「良い名前だ。晴子との子、か?」「ああ」それを聞き、成院は頷く。「それは、よかった」「よかった、だと!?」今、この時は戒院に戻った『成院』は拳を握りしめる。「お前の名を名乗り、恋人と結婚し、子供も産まれ、次期医術大師だと言われ」「………そうか、大医師に、お前なら、間違い無いだろう」「代わりにお前は自分が死んだ事にして村を出て、南一族のふりをして、ひっそりと暮らしている」「ああ」「俺が、それをすんなり、よかったと受け入れると思っているのか!!」全部分かる。...「『成院』と『戒院』」21

  • 「『成院』と『戒院』」20

    昔訪れたのは子供の頃。記憶もおぼろげで初めて訪れたも等しい南一族の村。豊かな畑が広がる、農業の村。北一族の市場とは違う、どこかのどかな賑やかさ。「………」季候も良く、過ごしやすい。違う目的で訪れていたのならばこの雰囲気を楽しむ事も出来ただろう。「さて」気持ちを切り替え『成院』は辺りを見回す。どうやって当たりをつけるか、と村の中心地を歩く。「聞いて回るしかない、か」店に足を踏み入れる。南一族の村名産の豆を使った菓子店。「こんにちは。すまないが」甘い匂いに囲まれる中店番の青年が背中を向けて作業をしている。「なんだ、今日も詰め合わせか?」客と勘違いしているのだろう、目深くかぶっていた羽織を脱ぐ。いや、と『成院』は返す。「人を尋ねたいんだが」「うん?」青年は振り返る。まだ若いどこか生意気そうな顔が『成院』の顔をじっと見...「『成院』と『戒院』」20

  • 「『成院』と『戒院』」19

    「大先生」『成院』は麻樹を見る。戒院が『成院』になる事に関わっている唯一の人。「俺は成院の死を見ていない」病から回復して、ベッドから起き上がれる様になった頃には全ては終わっていた。病人は2人。薬は一つ。その薬は戒院に使われた。もう、成院はいない。そう聞かされた。遺体も見ていない。流行病の患者の埋葬には家族ですら立ち会えない。そういう決まりだったから、全て終わった後の墓の前で死んだと言われた兄弟の死を実感した。「教えてくれ、あの墓石の下には誰がいる?」大医師は知っている。戒院が眠り続けていた時の事も。成院の死も。全て。「成院は本当に、あそこに眠っているのか?」おかしい。そうでなければ話の筋が通らない。この村で、当事者である『成院』と大医師、全てを話した妻の晴子、そしてその兄大樹。それ以外に、『成院』は本当は戒院だ...「『成院』と『戒院』」19

  • 「『成院』と『戒院』」18

    その日『成院』の娘はやや高揚しながら帰って来た。「先視の司祭様とお話ししてきたわ」ああ、と『成院』は頷く。「満樹兄さんの客が海一族から来るんだったな」「そう、明院がご挨拶をするからって私達も着いて行っちゃった」海一族の先視。東一族の占術とはまた少し種類が違う未来視の力。宗主の屋敷に奉公に行っている未央子はそういう来客とすれ違う事も多いのだろう。「未央子はなにか視て頂いたのか?」いいえ、と未央子は首を横に振る。「司祭様はみんなウエルカムとか言ってたけれど、恐れ多くって」あと、ほいほい先視を使うな、と満樹が呆れて止めていた、とか。「でも、明院は視てもらっていたの」「………それは」それは迂闊だ、と『成院』は慌てる。今、宗主の跡継ぎがややこしい事になっている時に本家の血筋である明院の将来、とは。「明院の子供はきっと双子...「『成院』と『戒院』」18

  • 「『成院』と『戒院』」17

    宗主の屋敷に、戦術・占術・医術の大師が集う。『成院』は次期医術大師として麻樹に付き添う形で参加する。医術と占術は当代が高齢なので次代候補が付いている。戦術大師は前代が死亡した為一時的な代理として任を任せられたばかりの者。「………」なぜ、歴代の猛者感で座っているのか。水樹ってああいう所ある。戦いの腕も立つ、が指導側となると少し不安。不安だけど、もう家庭も子供も居るしそろそろ落ち着いて来た、よ、ね。と皆も自分に言い聞かせる形で無理矢理納得している。次代戦術大師で水樹の兄、大樹がずっと胃のあたりを押さえているが仕方ないよな、となんとも言えない目線を『成院』は送る。そう、仕方がない。まさか、前代の戦術大使が数年で座を退く事になるとは誰も予想していなかった。砂一族の来襲。大医師である麻樹に代わり宗主の家系の患者を看ること...「『成院』と『戒院』」17

  • 「『成院』と『戒院』」16

    「まだ間に合う」南一族の村。そこで、その男は言う。「やり直すべきだ。全て話して、なにもかも」いや、いいや、と成院は首を振る。「許されるわけがない」「それでも、だ」「分かってくれというのか?今までの十数年は全部、欺いた物だったと皆にそう言えというのか?」そうだ、とその男は頷く。待ってくれ、と成院は答える。「無理だ」今さらどの面を下げて、と懇願する。罰を受けるだろう。その覚悟はある。いつかは、と思っている。でも、それは今ではない。「放っておいてくれ。いいじゃないか、このままで」「駄目だ。それは許されない」成院の苦しみなど知るわけもなく。その男は言う。「罰を受けたとしても、お前は全てを明らかにして帰らないといけない」あまりにも横暴だ、と成院は首を振る。「お前に俺の何が分かると言うんだ」「わかるさ」男は答える。「俺はお...「『成院』と『戒院』」16

  • 「武樹と父親」12

    「いただきます」いつも通りの夕食。今日は武樹の好物が並ぶ。気を使わなくても良いのに、と思うが食卓には母親の好物も並んでいる。母親なりに自分自身へのご褒美なのかもしれない。いや、好きな物を食べて、気合いを入れるという所か。「もう、ね、13年前の話」母親の話を、武樹は頷きながら聞く。「あの時、母さんは使いがあって村を離れたの」初めての遠出だった、と母親は昔を振り返る。「そこで、ね」「うん」あ、と母親は言葉を止める。「いや、もうちょっと遡るね。18年前から話すわ」「えええ」折角話しに乗っていたのに、と武樹は肩を落とす。「違うのよ。そこから聞いた方が話が分かりやすいかなって」母親は静かに話し始める。「驚くかもしれない。信じられないかもしれないけれど武樹、あなたの父親は」その日、寝床についた武樹は横になりながらも冴えた目...「武樹と父親」12

  • その

    ときが、近付いている。その

  • 「武樹と父親」11

    「沙樹くん」何が何やら分からず武樹は沙樹に言葉を吐き出す。「もうやだ、全部嫌だ」武樹のせいで母親は肩身の狭い思いをしている。自分が生まれたせいで。「でも、なんで俺だけ」自分と母親はこんなに苦しい思いをしているのに医師とその一家はのうのうと暮らしている。医師の娘なんて何も知らずに、そんな事なんて知らされる事も無く。「みんな、苦しめばいいのに」うんうん、と武樹を窘める事も無く、ただ、静かに沙樹は頷く。「………」少しだけ落ち着いて掠れた声で、武樹は呟く。なんてことは無い。ただ、ふと思った事が口から漏れただけ。「ああ、でも俺。ちゃんと東一族なんだよな。砂一族よりはマシなのかな」砂一族に攫われて生まれてしまった子供。そんなものよりは。本当に無意識だった。なにか、自分より酷い物を見つけてそれよりは、と言いたかっただけ。「…...「武樹と父親」11

  • 「辰樹と媛さん」24

    彼女は来た道をとぼとぼと歩く。彼を探して、ずいぶんと屋敷から離れたところまで来てしまった。いつもと違う村。何の音もしない。ただ、静けさ。「…………?」彼女は立ち止まる。顔を上げる。目の前に誰か、いる。「…………」「…………」東一族の、誰、だろう。戦術師、なのか。彼とそう、年は変わらない気がする。「誰……」彼女は首を振る。「いえ。……知ってる」「…………」「あのときの」「……そう」目の前に立つ者が、云う。「覚えてくれていたんだ」「もちろん……」彼女はその者を見る。「母様のお墓を、」「うん」「ありがとう」誰も知らなかった、彼女の母親の墓を見つけてくれた者。間違いない。けれども、今日は、あのときと何か雰囲気が違う。「よく、お墓に来ているのね」「うん」「母様の隣の墓にあるのは、いつも新しい花」「…………」「そのお墓の、...「辰樹と媛さん」24

  • 「武樹と父親」10

    「うーん、それは」沙樹は唸る。「かっちゃんも煽ってきたね」「ん」ぐずっと、武樹は鼻を啜る。「でも、手を出したのはダメだな。むっくんが一つお兄さんなんだし」「わかってる」あれは武樹がいけなかった。謝らないといけない。「わかってるなら、いいよ」こくりと武樹が頷くと沙樹は静かに笑う。「ねえ、むっくん。きっと色々言う人は居るけれど、それでも、むっくんは戦術師になるべきだよ」「………俺が、砂一族の血を引いてるって?」「うん。でも、そういう前例が無い訳じゃない。だって、半分は東一族の血だろ」「………」「混血を嫌う人はいるけれど。俺や、羽子、かっちゃんだってむっくんには村に居て欲しい」「沙樹くん」「出て行くなんて行っちゃダメだ」はは、と思わず武樹は笑う。沙樹は武樹をなだめようとしてくれている。でも、だからこそ。何もかも噛み合...「武樹と父親」10

  • 「辰樹と媛さん」23

    「兄さん!」「武樹!」武樹が走ってくる。「これは何!?」「はっきりとは判らない」いつもと違う雰囲気。慌ただしく動く、東一族の戦術師。何かが、起きている。「入ってきた」「侵入者?」武樹は目を細める。「包囲網は?」「今から張る!」辰樹は武樹を見る。「お前、下の奴らに、出来るだけ上の者と動くよう伝えてくれ」「判った!」「何か起きても、うかつに動くんじゃないと」「そんなに!?」「勘だ!」「うっ……」しかし、事態ははじまっている。動いている。ここは経験者を頼るしかない。「もし遭遇したら、相手が何者か探るんだぞ」「判ってる」「砂なら毒に気を付けろ」武樹は頷く。辰樹は訊く。「大将はどこだ」「父さんなら、占術大師様と合流するって」「うちの父親と?」「そう云ってた」「…………」「それって」「結界まで張る、のか?」辰樹は首を傾げる...「辰樹と媛さん」23

  • 「武樹と父親」9

    「むつ兄さあ」哉樹が言う。「どうして修練サボるわけ」「………」見つかったか、と、武樹はため息をつく。これから修練の時間だが武樹はそこを抜け出して帰る所。「ずるいと思ってるなら、お前もさぼれば」「そう言う話じゃ無いだろう」哉樹は眉をひそめる。「なんでサボるんだって聞いてるんだよ」「なんでって面倒だからだよ。同じ型を繰り返したりってそういうの苦手なの」「学術はちゃんと聞いてるのに」「お前は学術苦手だもんな」「苦手なりに、やってるだろう、俺」「うんうん、偉いと思うよ、そう言うの」「話し、逸らすなよ」ああ、怒らせたな、と武樹は振り返る。「むつ兄、体術得意だろう?なのに、手ぇ抜いたり、前も時々さぼっていたけど、最近酷いよな」うん、と頷く。哉樹が言ってる事は何も間違っていない。「でも、俺、戦術師になりたいわけじゃないし」「...「武樹と父親」9

  • 「辰樹と媛さん」22

    「いっつうぅううぅう(涙)」「…………」「お腹っ……」「食べ過ぎだ」「仕合わせの痛み……」「加減と云うものが、」しくしく、涙を流しながら彼女は布団の上で、ごろごろする。「うぅう、父様。お腹が痛い」「直に医師が来る」「急いで、医師様……」まあ、食べ過ぎなのだから出すものを出して休めば、収まるはずなのである。薬を飲むほどではない。「もう食べない、果物、食べない」「…………」「今日は、食べない」「決意が何とも……」「失礼します」医師ではなく、従姉が入ってくる。父親は立ち上がる。「わあ、もう。食べ過ぎでしょ!」「従姉様、本当にめっちゃ痛いのお腹」「あなたの護衛さんは尋常じゃないんだから、真似しちゃ駄目!」「兄様は?」「普通に務めに出てる」「尋常じゃないのね、兄様……」「護衛さんどうなんでしょうね?」従姉は、ちらりと彼女...「辰樹と媛さん」22

  • 「武樹と父親」8

    ほう、と武樹は一人帰り道を歩く。今日は学術の試験も良い結果だった。気も乗ったのでサボりがちな修練にも出席した。えらい、と自分で自分を褒める。「なにか、いいことあったりして」夕飯、好きなおかずとか。思っても無いような驚きの知らせが舞い込む、とか。「武樹じゃないか」声をかけられ振り向くと沙樹の父親が手を振っている。武樹は駆け寄り、目上の人への礼をする。「いつもウチの子達と遊んでくれてすまないな」「いえ」沙樹の父親は医術師。外で見かけるのは珍しい。「今日はお休みですか?」「いや、外回りなんだ。先生が急用で外しているから交代だ」「へえ」元々戦術師だったという沙樹の父親は生まれた沙樹の体が弱いと知って医術師に転向した、とかなんとか。「ああ、そうそう。これをあげよう」沙樹の父親は袋を取り出す。「豆菓子なんだけど、甘いのは好...「武樹と父親」8

  • 「辰樹と媛さん」21

    「ねえねぇ、兄様」「何だ、媛さん」ふたりはもぐもぐと果物をほおばる。「うまいな、これ!」「そうね!この時期は、やっぱり果物よね!」気温が上がる時期は、水分補給が大切。「いっぱい食べるんだぞ」「もちろん!」「たくさん冷やしてあるからな!」「兄様、準備がいいのねー」川に籠を浮かべ、川の水で果物を冷やす。ふたりはもぐもぐと果物をほおばる。「じゃなくて、兄様!」彼女は、彼を見る。「訊いて、私の話!」「おう、何だ!」「舟に乗りたいって話はどうなったのか!!」「あー。あぁあ、なるほど」彼は果物の種を、ぺっと飛ばす。「そうだった、その話」「そうよ、兄様。南一族の村に行くって云ってたじゃない」「云ってた云ってた」「…………」「…………」「それで、どうなったのよ!」彼女も、果物の種をぺっと飛ばす。「いやー、いろいろ考えたんだけど...「辰樹と媛さん」21

  • 「武樹と父親」7

    「ええっと、哉樹驚かせてごめんね」未央子は哉樹を覗き込む。「まさか。あんたがそんな恐がりだとは」「俺、コワガリジャナイヨ」「………まだ恐怖を引きずっているぞ、こいつ」「そもそも、未央子。こんな時間にどうしたの?」沙樹が問いかける。「実はお茶会の帰り道なの。男の子達ばかり集まって楽しそうだから、女子も何かやりたいねって」「へえ」「みんなでお菓子作って、お茶入れて、お喋りしていたらこんな時間で」「女子会だ」「いや、でも女子っていつも集ってない?」「ばかやろう。いつもの集いと特別な集い。例え同じ事をしていても、全く別物なんだよ」「辰樹兄さんはどうしたの?」未央子は村はずれの家の子を送って行った帰り、らしい。「今の時期は日が長いからって油断してたわ」「そうだね。一人は危ないよ、未央子」「不用心過ぎるんじゃないか」ぽつり...「武樹と父親」7

  • 「辰樹と媛さん」20

    未央子は、胸が熱くなるのを感じる。「小夜子……」辰樹はその様子を見る。「こんなところにいたの」呟く。「淋しかったでしょ」墓場の外れで。ただの石、で。「ばかだなぁ」未央子は云う。「そんなにひとり占めしたかったの」未央子は、同じく亡くなっている小夜子の彼を想う。「ああ、うん」辰樹は云う。「でも、ほら。花が新しいだろう?」辰樹は供えてある花を見る。まだ真新しい、花。「誰か、ほかにこの墓を知っている人が供えてくれてるんだと思うよ」「そう、なの……」「あのとき、いろんなことがあったからな」辰樹が云う。「やっぱり、誰か、何か、知っているやつがいるってことだ」「……辰樹も、」未央子は、息を吐く。「あのときは、ずいぶん気丈にしてた、もんね」「うーん」「いつもよりも、下の子たちの面倒を見ていたし」「えー?俺、いつも面倒見てるよ」...「辰樹と媛さん」20

  • 「武樹と父親」6

    「もう食べられない」「暫くは、とうもろこしはいいかな」「かっちゃん、そればっかり食べてたからね」夕暮れ時のほんの少し薄暗い時間。おなかを膨らませて武樹達は帰路を歩く。「なんというか」武樹は沙樹をみる。「沙樹くんも、こういう行事出るんだ」もちろん、と沙樹は頷く。「去年は羽子の面倒見る人が居なかったから、欠席だったけど、俺、結構こういうの好きだよ」こういう。「納涼川遊び?」「いや、もっと、こう」東一族の若者達が川辺に集い水辺で遊んだり、野菜を焼いて食べたり、飲める者は酒を飲んだりする。いつの間にか毎年、暑い時期になると行われる催し。「世界に無い概念をあるもので説明するって難しいな」「だよなあ」「何を言ってるんだ、俺達は?」今日は羽子は居ない。元々、門番や砂漠の見張りを終えた後に息抜きをしよう、と集ったのが始まりなの...「武樹と父親」6

  • 「辰樹と媛さん」19

    東一族の村に戻り報告を済ませると、辰樹は武樹と分かれる。武樹は公衆浴場へ行くと云う。もちろん、辰樹も行こうかと思ったのだが「未央子(みおこ)!」「ええ、私です!」従妹の、未央子。辰樹の父親と未央子の母親が、兄妹なのである。「お帰り!」「おう、ただいま!」「あなたねぇ、女子に余計なことを教えるんじゃないわよ!」「おぉお、突然何だ!?」「汚れた手を服で拭くとかっ!」「なるほど!」辰樹は手を叩く。「それ、亜香子(あかこ)にも云われたぞ!」媛さんの従姉である。「最悪!」「いや、俺は過酷な状況でも生き残れる術をだな!」「それは、教えんでもいいっ!」あはは~、と走る辰樹を本気の怒りで追いかける未央子。あらあら相変わらず元気ねぇ、と、東一族に微笑ましく見守られながら。「ちょっと、辰樹っ!」「あはは!未央子、こっちこっち!」と...「辰樹と媛さん」19

  • 「武樹と父親」5

    「爆発」「させまくったなぁ」砂漠の演習の帰り道。とぼとぼ、と修練場の廊下を武樹達は歩く。一人一発は自分で解除してみろ、という指導の下。解除=爆発。「そりゃあ、あんなの無い方が安全だけれど」正直身が震えた。もし、知らぬ間に術を発動させてしまったら。だから、と辰樹は言った。慣れてはいけないが恐怖で動けないのでは意味がない。少なくとも動けるようにはなっておけ、と。「俺達に、転送術なんて使えないしなあ」哉樹が言う。宗主の家系に伝わる東一族特有のもの。その中でも使える者は限られていると言う転移の術。「宗主直系だったら、とかそう言うのじゃ無いみたいなんだよな」例えば今日同行した陸院は使えない、らしい。「あんまり大きな声で言うなよ」先を歩いて居る陸院に聞こえたら面倒くさそうな事になる気がする。そうそう、と武樹の心配なんて気に...「武樹と父親」5

  • 「辰樹と媛さん」18

    「ぶえっっっっくちゅっ!!」「うっ、うるさっ!!」「は、は、は」「もう一発ですか、兄さん!?」「は、はっ、…………」「…………」「…………」「…………」「…………」「でないのかい!!」緊張の砂漠陣地で、声がでかいふたり。「噂なのか何なのか」「噂……」「そして、いい天気だな!!」「そこ!?」「花が咲く時期になったばかりだというのに、何だか暑いな!」「そう云うの、云わなくていいから……」辰樹の相方は息を吐く。「早く進もうよ、兄さん」「いや待て、そろそろ休憩だ」ふたりは、砂漠に坐り込む。携帯していた水と食糧を取り出す。「はあ、暑いな」武樹(むつき)は呟く。「早く帰って、浴場に行きたい」「確かに」辰樹は頷く。「お前の髪、いつもつるっつるだもんな!」「なっ!!これは準備してある整髪剤の問題だ!」声がでかい。しばらく休んだ...「辰樹と媛さん」18

  • 「武樹と父親」4

    「今日は、砂漠に行くぞお前ら」どーん、と元気な声が響く。「本当の当番は夜の見張りなんだけどな。まあ、今日は訓練?下見?ってことで明るい時間だ」今日は修練場での訓練ではない。武樹を含め数人。もうすぐ実戦に出始める者達がぞろぞろと年上の者に着いていく。「今日の指導は俺と陸な!!」「なんで!?」うわぁああ、と陸こと陸院は声を上げる。「なんで辰樹が陸って呼ぶわけ」「照れるなよ。俺と陸の仲だろ」「どういう仲!?」「いや、未央子がお前の事そう呼んでるだろ。そうなれば、俺も親しみを込めてだな」「込めるな!!だいたい、お前年下だろ。陸院様は無いにしろ、兄さんとかなあ」「でもなあ、俺達の年代って人が少なくなって、うん、淋しいよな。明院様にはそんな距離感恐れ多い、だし。ここは、ひとつ」「ねえ!!なんで!!明院には様なの!!?」年上...「武樹と父親」4

  • 「辰樹と媛さん」17

    「そう、なんだ……」そう云えば、自身も最近まで、母親の墓を知らなかった。探そうと思わなければ、判らないままだっただろう。「そのお友だち、待ってるね」「そうね。だから、せめて、この場所に花を」彼女は手を合わせる。媛さんも一緒に手を合わせる。「ありがとう」「うん」「たまにね、あの頃もよかったなぁって、思う」「うん」病があったけれど、好きな人がいるんだと、その人と一緒にいることが出来るから、といつも、仕合わせそうだった、友人。「…………」「いなくなるなんて、思いもしなかった」「…………」媛さんが云う。「その人はどうしたの?」「…………」「お友だちが好きだった、その人」「ああ、……その人、」「うん」「死んじゃった」「え?」「同じ日に」「死ん……」「それが、せめて、……なんて、変なのかも知れないけど」彼女が云う。「残され...「辰樹と媛さん」17

  • 「武樹と父親」3

    「あら、おかえりぃ」帰って来た武樹を母親が出迎える。ただいま、といいながら横を通り過ぎる武樹をうーんと笑顔で見送ろうとして「………」まてまて、と首根っこを捕まれる。「おかしいな、今日は座学と鍛錬の日、よね」「そうだったかな?」「そうだったわ!!」ええっと、今日は、と武樹はもごもごと話し始める。「鍛錬の先生が、急な腹痛で!!」「ほーう?」「俺も、今日はやる気満々だったんだけど」「ふーん?」それじゃあ仕方無いわね、と呟く母親に、武樹はほうっとため息を付く。「それじゃあ、先生のお見舞いに行かなきゃ。誰だっけ、今日の、先生は」ひゅうっ、と先ほどのため息とは違う意味で思わず息が漏れる。「えええっと、今日は、きょうわあぁ」それから暫く怒られて明日からはきちんと通うこと、とお説教の後、やっと武樹は解放される。優しそうなお母さ...「武樹と父親」3

  • 「辰樹と媛さん」16

    「花?」「ああ、これ?」その彼女は微笑む。「きれいでしょ?」「うん」媛さんは云う。「花を持って、ひとりで何するの?」「これは、友人の花」「友人?」媛さんは云う。「ひょっとして、……供える花?」「そう」彼女は坐り込む。「もうすぐ三年だなぁ」云う。「友人が亡くなってね」「…………」「このあたりで」「……ここで?」「ええ」あれ?ここは、父親が誰かを偲び、形代を燃やした場所。「どうかした?」ひょっとしたら、この人は知っている?ここで、何があったのかを。父親が、何を云おうとしたのかを。「ここで、何があったの?」「え?」「この前、父様がここで形代を燃やしていたの」「形代を?」形代。願いをのせたり誰かの無事を祈ったりそして亡くなった者を偲んだり。「そう、形代を……」彼女は、媛さんを見る。「私は友人の最期には会えなかったのだけ...「辰樹と媛さん」16

  • 「武樹と父親」2

    その日の座学を終えて、武樹は屋敷の外に出る。少し先を歩いているお隣さんを見つけととと、と走り寄る。「沙樹くん、羽ちゃん」兄妹は立ち止まり振り返る。「むっくん」どうしたの、と2つ歳上の沙樹が手を振る。「沙樹くん、一緒に帰ろう」お隣同士。何の問題も無い。「わあ、やったぁ」羽子は喜ぶが、沙樹は静かに笑みを浮かべる。「でもむっくん。この後、鍛錬があるんじゃない?」帰っていいのか?という沈黙の問いかけ。「………」何か責められている訳じゃないがう、と武樹は口ごもる。「一回ぐらいさぼっても平気」「………」「次は、ちゃんと出る、から」恐る恐る、武樹は沙樹を見上げる。うーん。参ったな、と眉を下げながらも沙樹は言う。「次出るなら、いいか」「いいの?」「良いんじゃないかな」それじゃあ帰ろうか、と沙樹は羽子の手を引きながら歩き出す。「...「武樹と父親」2

  • 「辰樹と媛さん」15

    花が咲く時期に入る。雪はすっかり溶け、道に、草花が顔を出す。「兄様!」「おお、媛さん!」彼は手を上げる。「今日はどこへ行く?」「俺、今日砂漠だから」一族の務めで村外に出るのだ。相手は出来ないと、手をひらひらさせる。「何でよう」「仕方ないだろ」「じゃあ、私も行く」「ばかだなー!」東一族と敵対する砂一族と顔を合わせるかもしれない。連れて行けるわけがない。「と、云うことで」「むー!!」「今日は、ほかにの人に相手してもらえよ」そう云うと、彼はさっさと行ってしまう。「ふぅん、いいよー」彼女はひとりで歩き出す。「つまんない!」大声で、ひとりごと。「今日はひとりで散歩だかんね!」周りには特に、誰もいない。口をとがらせたまま、彼女はひとりで歩く。お墓参りに行こうかそれとも、水辺に行ってみようかいや、そもそも、ひとりで村内をうろ...「辰樹と媛さん」15

  • 「武樹と父親」1

    「………」ふいに、外からの光で目が覚める。起き上がると日が昇っている。「………まじか」武樹(むつき)は寝床から這い出す。今日は座学や体術の訓練がある訳じゃ無い。何も無い1日、だ。だからこそ、こんな時間に目が覚めたのが惜しい。「母さん起こしてよ」もう仕事に出ている母に聞こえる訳でも無く、ひとり、ぐだぐだと愚痴る。朝食を平らげ洗面所で顔を洗い、布を探し手を伸ばす。ふと、鏡が目に入る。母親が身支度を整える為に置いている物。生意気そうな釣り目と口元ホクロがある不機嫌そうな顔が映る。見慣れた自分の顔。「ふん」鏡を伏せて、武樹は自分の部屋に戻る。寝間着から普段着に着替え今日はどうしよう、としばらく考える。「沙樹(さき)くんは………今日は居ないって言ってたな」いつも遊んでいるお隣さんは不在。かと言って、家でじっとしている性分...「武樹と父親」1

  • 「東一族と巧」7

    旧ぼけた樹。その横に一軒家。彼の息は白い。薪を背負い、片腕で作物を持ち、家へと戻ってくる。荷物が多く、上手く歩けない。と、彼は外に彼女が出ているのに気付く。白い雪景色の中東一族の黒髪。「おい!何をしている!」思わず巧は叫ぶ。荷物を投げ棄て、近付く。大雪の中、外に出る意味が判らない。彼女が振り返る。その腕には、薪を抱えている。部屋の薪を補充しようとしたのだろう。「何している!」彼は、薪を奪い取る。「中の薪が少ないから、薪を、」「外で勝手なことをするな!」そう云って、扉を見る。乾かした薪が濡れる前に、中に入れなければならない。片腕は、薪で塞がっている。彼女は慌てて、扉を開ける。「中にいろよ」「でも、」こんな寒い中、何を云っている。彼は悟の言葉を思い出す。「誰かに見られたら、面倒くさいと云っているだろう」「……ええ」...「東一族と巧」7

  • 未央子と陸院

    夕暮れ時、東一族の村へ戻る馬車の中。未央子と陸院

  • 「東一族と巧」6

    雪が降っている。が、まだ少ない方だ。今のうちに畑を見ておこうと、彼は準備をする。暖炉に火を起こす。部屋が暖まる。彼は暖炉の横を見る。薪はない。外の置小屋にもう少しあるはずだが、今後を思うと、薪も集めておかなければならない。彼女はまだ動き出さない。早い時間。人目に付かないうちに外でやることを覚えた、自分の時間。彼は家を出る。畑に向かう。積もった雪が、いつもより厚い。なかなか、前へと進めない。息を切らして、彼は畑を眺める。もちろん、雪一色。先ほどより、あたりは明るくなっている。判りやすい場所に荷物を置き、彼は、道具だけを持つ。雪をかく。彼は首を傾げる。何も出てこない。ここは、もう、掘り上げた場所だっただろうか。彼は場所を変え、作物を探す。雪をかく。少し、多めに作物を持ち帰ろう。雪をかき、土を掘り、作物を取り出す。ま...「東一族と巧」6

  • 「未央子と陸院と南一族の村」10

    東一族の村へ戻る馬車に二人は乗り込む。「もう一度会って確かめたら?」その、父親そっくりの男に。陸院は提案したが未央子は首を横に振る。「なんとなくだけど、探しても会えない気がするの」今日の出来事はきっと偶然がいくつも重なって、同じ事は二度起きない。「それにこの馬車に乗らないと今日中に村に帰れないし」「南一族の村に泊まればいいじゃないか」「こんな遠出するって、誰にも言ってないからそういう訳にはいかないのよ」「事情が事情だから仕方無いだろ」「いいえ」翌日帰って、未央子どこに行っていたの?え、外泊?………陸院、と?なんて。「変な噂立っても困るし」「何もしないって!!なんだよ、傷つくなぁ」陸院は頬を膨らませてぷいっとそっぽを向く。「………ふふ」未央子も同じ様に外の景色を眺める。遠ざかっていく南一族の村。しばらく、畑ばかり...「未央子と陸院と南一族の村」10

  • 「東一族と巧」5

    水汲みが終わると、彼は身体に付いた雪を払い、中に入る。思ったよりも、雪が降っている。今日はもう、外へと出られない。昨日のうちに、畑に行っておいてよかった。彼は、暖炉の前に坐る。寒い。ない腕が、うずく。ある腕が、痛む。人の気配。彼は顔を上げる。東一族の彼女が、部屋の隅に腰掛けている。その顔は戸惑っている。まあ、居辛いだろう。彼は、再度暖炉を見て、そして、台所を見る。どうしようか考える。「そこに、」指を差す。少ない食器が並んでいる。それと、丸い容器。湯沸かし。茶葉。彼女はそれを見る。立ち上がる。「触っても、平気?」云いながら、彼女は食器を触る。水を入れ、暖炉に運んでくる。湯を沸かす。彼は暖炉の方を向いたまま、目を閉じる。もの判りがよくて、助かる、と思う。彼女はお湯を注ぐ。食器を取り出し、お茶を淹れる。彼に差し出す。...「東一族と巧」5

  • 「未央子と陸院と南一族の村」9

    未央子がまだ、幼い頃、母の泣き声で目が覚めた事がある。昼寝をしていたのか、記憶の中の部屋は明るい。隣の部屋から声が聞こえて、昼間はあまり家に居ないはずの父親が深刻な顔をして、母と話していた。幼いながらも自分が起きて話しを聞いて居ることを知られてはいけない。そう思って、静かに扉から離れて寝床へと踵を返した時。「カイイン」そう、母親が声を詰まらせながら言った名前を今でも覚えている。カイイン―――戒院、は父親の弟。未央子にとっては叔父になる。未央子が生まれるよりもっと前、流行病で死んでしまったと聞いている。元々医師を目指していたのは弟の戒院の方だったという。次期戦術大師という声もあった父だったがその志を継いで医師になった………らしい。もう、居ない、会ったことも無い人。「その名前が出るとき母さんはいつも、泣いてる気がす...「未央子と陸院と南一族の村」9

  • 「東一族と巧」4

    目が覚めると、彼は暖炉を見る。昨夜の火はすでに消えている。部屋の中は、冷えている。彼は起き上がる。置小屋から、乾かしておいた薪を運んでくる。火を起こす。次に桶を持ち、水を汲みに出る。薄暗い。また新しい雪が積もっている。彼はいつものように、雪を踏みつけ、川へと向かう。ふと、巧は目を見開く。その雪景色の中に、誰かが立っている。彼は一瞬、動きを止めるが、すぐに歩き出す。黒髪の、……東一族が近付いてくる。うつむき、後ろに続く。「あんたが、……例の東一族か」「……ええ」「話は聞いているよ」「…………」前を向いたまま、彼は歩く。歩きにくい道。彼女は、彼を追う。「大変な境遇だな」彼は云う。「行き場がなくて、転々としているのか」「……いえ」「うちにだって、いつまでいられるかどうか」「…………」足音が止まる。「……お世話に、なり...「東一族と巧」4

  • 「未央子と陸院と南一族の村」8

    何か食べよう、と2人は小さな食堂に入る。未央子は食べる気にはなれなかったが昼食をとっていない陸院に1人で食べろというのも気が引けるので軽い物を、とお願いする。暫くして陸院は器を二つ持って戻ってくる。「ほら、未央子」「ありがとう。何だろうこれ、麺?」「にゅーめん、だって。僕もよく分からないけど」ほら、と陸院は言う。「暖かい物食べたら落ち着くよ」「………ええ」今日、この季節にしては結構暖かいというかむしろ暑い日。なんだけど。「まあ、いいか」いただきます、と手を合わせスープを一口。暖かい。さっぱりとした味が染みてほう、と未央子は息を吐く。胃に染みて、じわじわと空腹を感じていく。「おいしい」「落ち着くよね」向かいあわせで腰掛けている陸院もそう呟く。きっと陸院も落ち着きたいのだろう。「陸院……ええっと、陸は」「うん」「も...「未央子と陸院と南一族の村」8

  • 「辰樹と媛さん」14

    また別の日。少しだけ、暖かくなる。まだ少し雪が残る道を、ふたりは歩く。「雪って全部溶けないねぇ」「そうだな」「風は冷たいし」「そりゃそうだ」彼が云う。「花だって咲いてない」「ええ?」「だから。花が咲いてないから、寒いだろう?」「逆よ」彼女が云う。「暖かくならないから、花が咲いてないの」「えっ、そうなの」「ちょっと、」彼女は息を吐く。「兄様、大丈夫?」はは、と彼は笑う。「頭悪いの、ばれるな」「兄様、課業の評価、どれくらい?」「上から4つ目!」「それ下から2番目!!」5段階評価だった。「この評価って、ちゃんとやればみんな上を取れるやつだよね!?」みんな満点なら、全員が上の評価になれる。「それが不思議なことに、俺はいつも上から4つ目なんだよなぁ」彼は首を傾げる。「さっき、自分で頭悪いって云ってた、兄様……」やれやれ、...「辰樹と媛さん」14

  • 「未央子と陸院と南一族の村」7

    何の冗談だろう、と未央子は思う。父親が、南一族の村に居る。今朝、は会えていないが昨日の夜、夜勤に向かうのを見送った。では、此所にいるのは、誰だろう。同じ背格好で、顔も、声も、仕草も同じ。ただの、他人の空似?混乱しながら未央子は呟く。どういう事なの。「………おとう、さん」その瞬間、その人が眼を細める。そういう表情をする時に目尻にシワが出るのも同じ。彼の呟きを未央子は聞き逃さなかった。「カイイン、の娘?」え?と思っている間に、彼はその場を立ち去る。「待って!!今、なんて」「もし」「え?」「もし、今の生活を続けたいのならば、この事は誰にも言わない方がいい」父親の安全の為にも、と彼は言う。「何を」凍り付く未央子に、だってほら、と彼は言う。「同じ顔をした者は会わない方が良いんだろう。そういう迷信だ」冗談だよ、とそう言って...「未央子と陸院と南一族の村」7

  • 「辰樹と媛さん」13

    お茶を飲みながら、彼は火をつつく。「なあ、媛さん」「何?」「訊きたかったんだけど」「どうぞ」「媛さんって、どの家系なの?」「私?」その今更感に、彼女は首を傾げる。「私は娘よ」「誰の?」「いわゆる宗主様の」「そっ!」「私の父様は現宗主」「宗主様!!?」思っていなかった答えに、彼は慌てる。「え!?宗主様!?」「だからそうだって」「実の!?」「娘」「直系!!」媛さんは高位だと思っていた。けれども、まさか、実の娘だとは気付いていなかった、彼。「確かに、媛さんのことを宗主様に頼まれたけど!」「うん」彼女は湯飲みを差し出す。おかわりちょうだい。「いったいいつから!?」「どう云うこと?」彼の難解な台詞に、彼女は苦笑い。「宗主様に娘がいたと!?」「うん」彼女は云う。「でも、一族の人にはなぜか知らせてないようで」「あれ?ちょっと...「辰樹と媛さん」13

  • 「未央子と陸院と南一族の村」6

    「ゆっくり、少しずつよ」指示を出す声に、従い、集まった村人達により農具は少しずつ持ち上げられる。「ぐあああ」が、下敷きになっている者が悲鳴をあげる。「待って、マジダ。皆もストップだ」1人が、皆を制止し、そのまま、と奥を覗き込む。「部品が食い込んでいるな」「先生、無理に外しては?」「止めた方がいい」これを、外さなくては、と医師は顔をしかめる。「タロウは?」「ここに」村長と、そして1人の男がそこに駆けつける。「すまない、遅くなった」頑張れ、と下敷きになっている者に声を掛けると医師や指示を出していた女性と話しすぐに作業に取りかかる。2人は村人が支える農具の両脇に回る。「村長」「ユウジでいいって言ってるだろ。いくぞ、」「せーの」ガシャン、と食い込んでいる部品が外れる。「うああ」「大丈夫だ、もう外れた」「早くそっち、みん...「未央子と陸院と南一族の村」6

  • 「辰樹と媛さん」12

    「雪です!」東一族の村は雪で覆われる。彼女は、真新しい雪に足跡を付けるべく、無駄にぐるぐると動く。と、そこへ、彼がやって来る。「媛さん出かけるか!」「もちろん!」ふたりで歩きながら、彼が云う。「いやー、寒いんだか暖かいんだか」「寒いよ!」外を歩く者はいない。「市場やってる?」「どうかな」「市場に行こうよ!」「媛さん、市場は駄目って云われているだろう」密を避けねばなるまい。「おいしい果物あるよね?」「あるけど、駄目なものは駄目」「えー」「いつか、媛さんも行けるようになるよ」「行きたい行きたい今行きたい!」「今は我慢だ!そのお出かけは自粛!」「大丈夫よ、ばれないから!」「ばれるばれないの問題ではない!」「絶対ばれない!」「ばれなくても、行ったという事実は覆せないぞ!」「兄様、ずいぶんと今日は返しがすごいわ!」「当た...「辰樹と媛さん」12

  • 「未央子と陸院と南一族の村」5

    未央子は南一族の名物小豆で餅米を包んだおやつ、をお店の外でお茶と一緒に頂く。「うーん、甘いの食べると落ち着く」おいしい。「初めて来たけど、いいなぁ。なごむわ」北一族の村の市場の様に華やかでキラキラしていて、どこを見ても目移りしてしまうような物はない。けれど、余生をゆっくりと過ごしたい世代に人気のスポット。「なのよねぇ、きっと」老後とかじゃないから分からないが。良い所。住めばきっと好きになる。雰囲気も東一族の村に似ている。「………」とは言え、南一族の村は観光の村ではない。馬車乗り場のある中央広場には小さな店が揃っているが、そこを抜けると一面の畑、畑、時々民家、そして畑。「え、どうしよう。意外と時間あまるな」すぐに手持ちぶさたになってしまった。あまり遠くに行くわけにもいかない。陸もいつ戻ってくるのか不明だ。「?」ふ...「未央子と陸院と南一族の村」5

  • 「東一族と巧」3

    「何の用だ」坐ったまま、川を見たまま、巧は云う。「早く話せ」「おいおい」その横で、悟は手を上げる。「俺は、みんなの心配を伝えただけだぞ」西一族は、狩りの一族。狩りは、一族の誇り。狩りに出て、誰もが当たり前。出来なければ、一族での立場は下がる。狩りで片腕を失った彼は、今まさに、そうなのだ。もう、今後皆と狩りに行くことは、ない。悟は、彼の肩を叩く。「気が向いたら、広場に来い」恥をかきに、なのか。そうとしか、受け取れない。「はあ。じゃあ、本題」「悟が来るってことは、村長からの話か」「察しがいいな」悟は腕を組む。彼は、ちらりと悟を見る。悟は、西一族の誇りを固めたような男だ。容姿はもちろん。狩りの腕も当然のこと。村長から、直々に仕事を任されることもある。ゆくゆくは村長を継ぐのだろう。「ほら、知ってるだろ。うちの一族に住み...「東一族と巧」3

  • 「未央子と陸院と南一族の村」4

    新緑の時期。南一族の村は若葉の色がどこまでも続いている。収穫を控えた沢山の畑。そして収穫を行う人々の明るい声が遠く響いている。東一族の村にも畑はあるけれど全く違う風景が遠く広がっている。おだやかな場所。なんだけど。「おぇえええええ」南一族の村に辿り着き、馬車降り場で陸院こと陸は蹲る。「無理無理。嫌すぎるのと、緊張で吐きそう」そこまでなの?と背中をさすりながら未央子は言う。「………行かないと言う手段もあると思うわ」「それはちょっと」蹲ったまま陸は答える。「答えを先延ばしにするだけだし、その間、またずっとこんな想いするだけでおぇえええええ」南一族の人々が、どうしたどうした、と近寄ってくるのでその都度、大丈夫、放っておいて、と未央子が手を振る。暫くして、やっと陸院は立ち上がる。「少し引っ込んだ」「顔、青いけど」「……...「未央子と陸院と南一族の村」4

  • 「東一族と巧」2

    ほんの少し、あたりが明るくなる。まだ、日は昇りはじめたばかり。この時期は、朝が遅い。彼は片手に桶を持ち、外へと出る。新しく積もった雪の上を、彼は歩く。近くに川がある。雪をかき、道を作れば、水汲みも早いかもしれない。けれども、この距離。雪をかく時間と、歩きにくい道で家を往復するのとどちらが早いだろうか。なんて、彼は考える。川辺も、雪で覆われている。彼は足下に気を付けながら、水を汲む。必要な水。桶はひとつ。何度も往復し、毎朝水を汲む。とにかく、雪道に時間がかかる。上がった息を、彼は整える。雪を払いのけ、川辺に坐り込む。この生活も長い。いやこれまでに比べれば、まだ短い、が。もう慣れた。彼は、川の流れを見る。そろそろ、村が動き出すだろう。それぞれの仕事で。川の流れの音に、別の音が混じる。足音。「やあ」巧は、顔を上げる。...「東一族と巧」2

  • 「未央子と陸院と南一族の村」3

    南一族の村に向かう馬車に乗る。乗客は未央子と陸院の2人きり。陸院はそれにほっとしているように見える。誰とも会わない事に安心した様な。「………」一方、未央子はと言うと誰も居ないことに少し焦る。普段何か話す仲でも無いのだから。「ねえ、陸院……様?」「陸、でいいよ」「そう言う親しい仲では無いので」きっぱりと線を引く。だって、思わず着いてきてしまったけれど、勘違いさせてはいけない。ガードガード、と未央子は距離を取る。「そういう意味じゃないけどさぁ」馬車の対面に2人は座る。まあ、いいや、と陸院は言う。「で、なに?」「南一族の村に、何をしに行くの?」「………」暫く馬車の中に沈黙が流れる。ただ、馬の蹄の音と、それに合わせてガタゴトと車内に伝わる振動。まあ、言いたく無いか、と未央子は思う。話せるのならば最初から言っていただろう...「未央子と陸院と南一族の村」3

  • 「東一族と巧」1

    西一族の村は、雪で覆われている。雪が降り、積もり晴れ、雪が溶ける前に、また、雪が降る。そんな時期。一族は、家や道の雪をかく。主に、家の中で出来る仕事をして、過ごす。西一族の暮らしの基本である狩りは、行わない。もちろん、狩り場である山も、雪が積もっている。獲物も痩せている。保存した肉や野菜で、この時期は乗り越える。空は晴れている。巧(たくみ)は、畑の雪をかく。ひとりで管理するには広すぎる、畑。雪が降る前は、この畑を耕し、作物を育てていた。日々、朝から晩までただ、それだけをやっているのだから、この広さでも何とかなる。獲れた多くの作物は、一族の村長に納め、残りは、自分用。ひとりなのだから、少しで足りる。雪が溶け、畑を耕し次の作物が獲れるまで、十分に保つ。雪の合間から、作物が見える。彼はそれを取り出す。根菜、ひとつ。葉...「東一族と巧」1

  • 「未央子と陸院と南一族の村」2

    「即答は失礼だろお前」酷い、と陸院は半べそをかく。「酷くないわよ、だいたいねえ」陸院とは、友達でもなければもちろん恋人でも無い。宗主の息子と、医師の娘。立場も違う。あえて言うならば、同年代の顔見知り?「赤の他人同士、二人で出掛ける訳ないわよね」「他人っ!?」動きを止める陸院にお伴の蛇が『元気出して』とすり寄る。「お前、辰樹(たつき)が同じ事言ったら行くだろ、絶対」「行くけど」「ほらーーーー!!」「辰樹は従兄弟だし、普段から仲良いし」あと、見張っておかないと少し心配。未央子の方が遅く生まれているけれど、弟みたいなものだ。「そう、だよな」行くわけないよな、と陸院は肩を落とす。「誰か、一緒に来て欲しかったんだ」あまりにも、沈み込んでいるので未央子はそれじゃあ、と言えなかった。「あんた、連れて行こうと思えば誰だって居る...「未央子と陸院と南一族の村」2

  • 東一族と巧

    東一族と生きていたころの、話「東一族と巧」TOBA-BLOG本館で連載されていた「水辺ノ夢」128~とリンクしていますので、併せてご覧ください。東一族と巧

  • 西一族と巧

    西一族として、狩りに出ていたころの話西一族と巧

  • 「未央子と陸院と南一族の村」1

    未央子(みおこ)は身支度を始める。先日まで、上着を羽織っていたが、少しだけ気温が暖かくなった。「ううん」このままでもいけるだろうか、と暫く考える。「まぁ、寒いよりは暖かい方がいいか」暑ければ脱げば良いのだし、と羽織りを手に取り、外に出る。季節の花が芽吹き始めて、今までと違う風の薫り、鳥の鳴き声若葉の芽吹き。いつもならそれだけで何となく気持ちが弾んだりもする。けれど、今はそう言う気分にはなれない。「はーあ」ため息。未央子自身の事では無いが村で、憂鬱な事が続いた。それで、顔見知りが居なくなって少しごちゃごちゃとした事が起きて、でも、時間が経てばみんないつも通りの生活。いつも通りの日常。「………」こうやって気分が沈んでいるのは自分だけなのだろうか。「………」それとも未央子がまだ未熟なだけで皆そんな事を顔に出さないだけ...「未央子と陸院と南一族の村」1

  • 「西一族と巧」21

    「向、」巧は、向の元へと行く。その身体に残る痣を見る限り、向の怪我も非道かったのだろう。「…………」「向」「…………」「無視をするな」「……巧」「向」「すまない」「謝るなよ」「すまない……」「もう済んだことだ」巧は向に話しかける。「向が悪いわけじゃない」「…………」「誰も、悪くない」「…………」「自分を責めるな」「巧、」「そう、俺も云われた」もちろん、巧もあれから自責の念に駆られた。そうせずには、いられなかった。「俺は、班長だったんだ」「うん」「だから、……」向は歩き出す。その後ろ姿を、追う。歩く。誰にも会わない。ただ、ふたり。空はよく晴れ、この季節の風が吹く。心地よい風。直にこの季節は終わり、雨の季節に入る。「俺たちの班は終わった」向は呟く。「あんなに、俺たち、……」「向……」「華を失い、お前は腕を失い……」...「西一族と巧」21

  • 「『成院』と『戒院』」15

    東一族の村の端。静かな場所に、墓地はある。もう何度も通っただろう道を間違えることなく『成院』は進む。その途中には、自分と同じ病で命を落とした又従兄弟の墓。知っている。彼は正式には病で無くなったのではない事。一人だけすまない、と心の中で詫びる。「………」また途中。粗末な墓を見る。見知った顔では無かったが、彼らは、娘の治らぬ病にどうにか、と砂一族に通じた為に罰を受けた。遺された娘も、罰を与えた者の事も知っている。全てが知れたら、彼らと同じ運命を辿るのだろうと思う。そこには行くつもりだ。必ず、行く、と頭を下げる。「………」あれから少し時が過ぎて色々な事があった。歳を重ねて、その分娘も大きくなり、宗主も代替わりした。想いを馳せる間もなく、目的の場所に辿り着く。「ああ、晴子が先に来たのか」その墓には、花が備えてある。男兄...「『成院』と『戒院』」15

  • 「西一族と巧」20

    すでに、華の葬儀は執り行われたと、稔から聞いた。3人が発見されたとき、華の息はなかったと云う。あの瞬間、華は、もう。向も、かなりの怪我を負い、治療に時間がかかったと。それでも先に、向は回復した。「なら、」巧は呟く。「自分は、どれだけ意識がなかったんだ」「もう大丈夫だよ」稔が云う。「血がずいぶん流れて、お前も駄目かと思ったけど」助かった。「意識も戻ったし、動けるまでに回復はしてる」巧は腕を見る。ああ、やっぱり腕は、ない。「巧」稔が云う。「腕だけで済んでよかった」「…………」「命があって、よかった」「これは、……」いろんなことが、ありすぎてまだ、考えがまとまらない。頭の中が整理出来ない。「いいんだよ。誰も、誰のことも責めてない」稔は巧を見る。「事故だったんだ、これは」…………事故?「これからのことは、これから、だ」...「西一族と巧」20

  • 「『成院』と『戒院』」14

    陽は沈み、辺りが暗くなってくる。「ごちそうさま」未央子が手を合わせる。「そうか、たくさん食べたか?」「うん、おなかいっぱい」そう答える娘の頭を『成院』はそっと撫でる。「今日は、ごちそうだったね。みおこのすきなのたくさん」なにかのお祝いかな?ねぇ、と振り返る未央子に晴子はそうね、と返す。そんな晴子に『成院』はぽつりと呟く。「遅いな」「…………」「最後ぐらいゆっくりさせてくれているのか」「もしかしたら、お許し頂いているのかも」「そんな事は無いよ。許してはいけないんだ」知っている。今まで規則を破った者がどうなっていったか。例え理由があろうとも、自分は決まりを破っている。一人だけ例外で許されるとは思っていない。覚悟を決める。そんな『成院』の想いを見計らったように家の扉を叩く音が聞こえる。「『成院』」「いいんだ。晴子」立...「『成院』と『戒院』」14

  • 「西一族と巧」19

    「この花はね、海辺に生えるのよ」華が云う。「あまり寒いのは苦手だから、冬は気を付けて」華の説明は続く。買ってから、もう3年経つのね。そろそろ植え替える時期だから、ちょうどやったところなの。根を傷付けないように。ほんの少し、肥料をあげて。紫の花、きれいだわ。いい香り。ほら。巧が買ってくれた花も、こんなに大きく増えた。ああ花がたくさんあって、仕合わせ!ありがとう、巧。ありがとう。巧、――――。…………。「…………」巧は、目を覚ます。ずいぶんと、眠っていたの、か。ここはどこだ?あたりを見る。寝台の上。……病院?なぜ?巧は、目を開いたまま。頭を巡らせる。「…………」狩り……そうだ。狩りに行った。それで、熊に襲われて……。でも帰って来た。帰ってこられた。「よかっ、た……」夢じゃない。助かったのだ。ここは、安全な場所。安心...「西一族と巧」19

  • 「『成院』と『戒院』」13

    「え?」嘘だろう、と『成院』は呟く。「知っていた?」彼の目を見つめて、晴子は静かに頷く。「私も、謝らないといけない」「分かっていたの、なんとなく。あなた、成院じゃない、戒院―――カイだって」それは、すぐに気がついた訳では無くて。じんわりと。ぼんやり、と。ああ、今の言い方、カイにそっくりだな、と思う事の積み重ね。最初はそりゃあ家族だし、何て言っても双子だし、そう言う事なのだと思っていた。戒院のクセではなくて、家族が似てくると言う様な。けれど、何だかしっくりと来ない。自分が知っている成院が死んだ戒院を真似ているというより戒院が成院を真似ている。そっちの方がすとん、と納得がいく。だけれど、「この人は誰なんだろう、って思ったわ」自分の目の前に居る人は。戒院ならば、どうして成院のフリをしているのだろう。成院ならば、どうし...「『成院』と『戒院』」13

  • 「西一族と巧」18

    走る。巧はある方の腕で、明かりを持ち、向は、華を抱えている。荷物は、もはやない。腰に下げている、武器のみ。ふたりが、草をかき分け走る音。それ以外は、不気味なほど、音はない。「巧、行けるか!?」腕から、血が流れている。寒い。気温のせいなのか、それとも。「むか、い」巧は息をする。夢中で走る。「離れろ、とにかく、離れろ!」「うっ、!?」「――――!!」「向!!」目の前の、向が消える。代わりに、「何で、……」熊。首を振り、口からは、よだれとああ……、人の血が、垂れている。巧は肩で息をする。熊と、目が合う。「向、」これは、もう。「巧!!」「――――!?」「走れ!」熊の首に、短刀が刺さる。痛みで、熊は大きく反り返る。向が投げた短刀。「俺は飛ばされただけだ!行くぞ!!」そのあとは、どう逃げたのか判らない。村から、ものすごく遠...「西一族と巧」18

  • 「『成院』と『戒院』」12

    「『成院』」宗主の屋敷に向かう途中、それまで無言だった大樹が杖を握りしめ、言う。「報告は俺が一人で行く」「………?だが?」『成院』に視線を向ける事なく前だけ見つめ、続ける。「夜勤明けの転送術は疲れる、二人飛ばすのはきつい、とお前は言っていたな」「ああ」昔の事、良く覚えているなと『成院』は頷く。それは大樹と戒院の記憶だ。「晴子は………妹は」「うん?」「知っているのか?」お前の事を、と。『成院』は首を横に振る。「………いいや」大樹はそうか、と、ため息を付く。「正直言うとな、いつか力を使うときは晴子か未央子の為だと思っていた」「それが、俺か」「いや、良いんだ」「人死は勘弁だ。怪我だって無い方が良い」「………お前達に何があったのか俺には分からん」成院と戒院に。この双子に。「俺は」大樹は酷く悩んでいる。「何が正しいのか分...「『成院』と『戒院』」12

  • 「西一族と巧」17

    暗い山の中。木々は高くそびえ、空を覆う。いや、その空にさえも、もはや光はない。冷たい空気。静かだ。自分たちの動く音と、獣の息づかい以外は。何をどこで間違ったのだろう。ほんの少し、眠っただけだった。獣に近付かれ火を起こし荷物をまとめただ、山を下りるだけだった。なのに?横たわる、華。わずかな、明かり。巧は、自身の腕を見る。「…………??」「たく、」「…………何」「おい、」「う、」「巧!」「うわぁあああああ!!」形容しがたい痛み。暗闇の中。明かりに灯され逆に、嫌に、はっきりと見える。血。自身の、血。足下にある、腕。「っううううう」「巧!!」向が、駆け寄る。「おい!」「むか、い」「大声を出すな、熊だぞ!」巧は目を見開く。痛い。判らない。何が起きたのか。痛みでどうすればいいのか。「俺は華を抱える!走れ!」血が流れる。この...「西一族と巧」17

  • 「『成院』と『戒院』」11

    「ゲホッ!!」は、は、と『成院』は膝を突きながら短く息を吐く。「自分を『地点』にしたのか」考えても見なかった砂一族の行動。呼吸が荒れているのは久しぶりに使った術の反動。少しでも距離を取る必要があった。それも、自分と大樹2人分。爆発を避けるための短い距離だが、転送術を使ったのはどれだけぶりだろう。「おま、え」大樹が驚いてこちらを見ている。そうだよな、転送術はかなり特殊な術で東一族の中でも使える者は限られている。そして、成院は使えない。「ケガはないか、大樹?」「…………あ、ああ」なら良い。いつかはこうやって力を使わないといけない時が来るとそう思ってた。『成院』は立ち上がり、砂一族に近寄る。一人は地点となり、もう一人は。「三人は飛ばせなかった」自分と大樹それが精一杯。止血を施す、があまり意味は無いだろう。僅かに息のあ...「『成院』と『戒院』」11

  • 「西一族と巧」16

    「何!?」「ねえ!!」「落ち着け!」火が、消えている。暗闇。3人とも少し眠ってしまったようだ。「音!」「鳴き声!?」「熊だ!」巧は、急いで火を起こす。手元が、おぼつかない。「華、いるのか!」「ここよ!」「みんな動くな!」暗い山奥。徐々に、目が慣れてくる。「何が起きた!?」「たぶん、かなり接近された!」「熊に!?嘘でしょ!」やっとのことで、火が付く。巧は持ちやすい枝を探す。せめて、ふたり分。「向!」「すまん、巧!」巧と向は火を持つ。あたりを見る。「いる?」「……いる」3人は息をのむ。いる。近くに、獲物。熊。「……どうしよう」眠ってしまったばかりに、心の準備が出来ていない。「道具は?」「ある」「武器も?」「もちろん」巧と向は、武器を持つ。「狩られるなよ」向が云う。「狩りをするつもりが、このざまか」「まいた方がいい」...「西一族と巧」16

  • 「『成院』と『戒院』」10

    「…………」『成院』は取り押さえた砂一族を見る。どうなるかと思っていたが、あくまで偵察部隊と言った所か。『成院』はふう、と静かに息を吐く。「あたしは、」ぽつり、と砂一族の女は言う。「みんな程強くは無いの」「抵抗しても無駄だぞ」「出来ないならば、出来ないままで良いって訳じゃないの。何か役割をしなくては」「………観念しろ、もうすぐ俺達の戻りが遅い、と門番も駆けつけるはずだ」だが、彼女は淡々と話し続ける。「役立たずではあったけど、次期大師の命を貰えたら今までの分も挽回出来ると思うのよ」チリ、と静電気が起こったときの様な小さな違和感。「?」「だから、ねぇ。こうするしか無いわよね」大樹がこちらに駆け寄ってくる。ふと砂一族の体が淡く光り出す。昔、こう言う光を見たことがある。まだ若い頃。敵対する砂一族が仕掛けた魔法。【地点】...「『成院』と『戒院』」10

  • 「西一族と巧」15

    日が暮れる。火を囲み、3人は話をする。華は、今育てている花の話を。相変わらず、いくつか花を集め、育てているらしい。また、北一族の村に行って、園芸のものを買いたい、と。「ほら、あのときの花、まだ元気なのよ」「あのとき?」巧は首を傾げる。華も首を傾げる。「えーっと、いつだった?」「だから、巧はそれを訊いているんだろう」携帯食をほおばりながら、向が云う。「巧が買ってくれた花なのよ」「そんなことあった?」「何年前だったかな?」華が云う。「私がひとつ買って、もうひとつ巧が買ってくれたのよ」その言葉に、巧はぼんやりと思い出す。「海一族産の?」「それ!」「海一族産ってどう云うことだ?」「海辺に咲く花ってこと」「それが何で、華ん家で咲いているんだよ?」「育て方がいいから、かな!」「すごいな、華は」「俺からも云うよ、すごいな、華...「西一族と巧」15

  • 「『成院』と『戒院』」9

    この場合。占術が当たって砂一族と出会ったのか占術に導かれて出てきたから砂一族と鉢合わせてしまったのか。「卵と鶏どっちが先か、みたいな」『成院』は構える。「すまん、俺はあまり役に立たん」大樹が謝りながらも杖を握る。皆、若い頃は砂漠の当番として前線には出るが大樹はその時から占術師を主としていて戦いの経験は少ない。「ああ。二人ぐらいならどうにか」どうにか、なるだろうか。『成院』は唾を飲み込む。大丈夫だと思っているのだ大樹は。もう最盛期では無いにしろ、成院は大将候補と言われた戦術師だった。戒院は医術師だが、全く前線に出ていないと言うわけではない。門番もしたことがある。大丈夫。周りのことはよく見えている方だ。思い出せ、あの時もやりこなせていたじゃないか。『成院』は砂一族の攻撃を避けながら懐に潜り込む。「はっ!!」腕を掴み...「『成院』と『戒院』」9

  • 「西一族と巧」14

    「向!」「はいよ!」巧は走る。足下は悪い。回り込むように、向が走る。ふたりの間には、獲物。道はない。草をかき分ける音。獲物は必死で逃げる。巧と向は、武器を握りしめる。獲物は早い。が、追い詰めている。「行け、巧!」向が叫ぶ。その言葉と同時に、巧は、獲物に飛びかかる。獲物は鳴き声を上げる。「早くとどめを!」獲物は巧を振り払う。「待ってました!」華が現れる。突然のことに、獲物は、たじろぐ。「油断するな!」「判ってる!」獲物は弱っている。華はひるまない。巧と向も追いつく。華も武器を振り下ろす。「どうだ!」「やったか?」獲物は、倒れる。3人は、その様子を見る。動きが止まるのを、待つ。「いけるか?」「大丈夫そうだな」「今日の獲物ぉ!」3人は、手を叩く。「お疲れぃ!」「よかった」「いい獲物ね!」巧は、獲物を持ち帰る準備をする...「西一族と巧」14

  • 「『成院』と『戒院』」8

    追い返されると思ったが大樹はついてくる『成院』に何も言わない。やはり何かあったら、と思う所もあるのだろう。大樹は村の端にある門を抜ける。その日の門番が何事か、と二人を見るがすぐ戻る、と『成院』は声を掛ける。「あまり遠くに行くなよ」「分かっている」「………」「………」「そう言えば」突然立ち止まり、ぽつりと大樹は語る。「お前の事を占ったことがあるんだが」「俺!?」いや、怖い事するな、とそういう目線を大樹に向ける。「お前、南一族の村に行ったことはあるか?」「南一族の村?もう随分幼い時だな、それ以来は無い」どちらかと言えば、華やかな北一族の村、と言いかけてそれは戒院の事だったと思わず口をつぐむ。「穏やかな所だと言うが、そうだな、医師の仕事が一段落しないと」なかなか、長く村を開けるわけにも行かない。「特に用事が無いのなら...「『成院』と『戒院』」8

  • 「西一族と巧」13

    「耀、見つからなかったって?」「そうなのよ」狩りが終わり、西一族の村での作業中。「もう1年近いんだっけ?いなくなってから」その言葉に、京子は頷く。「どこに行っちゃったのかなぁ」いつからか、耀の姿は西一族から消えた。もともと、村の外に出ることが多い耀だったが。妹である京子は、暇さえあれば耀を探していると云う。つい先日も、北一族の村まで出向いていた、と。「でも、まあ。思ったよりは落ち込んでないわよ」「無理はしないで」華が云う。「京子まで倒れたら、大変」「気を付けるわ」はい、と、研ぎ終えた小刀を、華は受け取る。華はそれを拭き上げる。京子は、次の道具に取りかかる。「それ重いだろ。代わるよ」「ありがと、巧。じゃあお言葉に甘えて」巧は、受け取った道具の整備をする。華と京子は獲物を捌くのを手伝う。「今日は獲物が多かったから急...「西一族と巧」13

  • 「『成院』と『戒院』」7

    往診を終え、病院に戻っていた『成院』はふと佇んでいる大樹を見つける。「大樹」声を掛けるも、距離もあるからか大樹は顔を上げない。「「?」」荷物を持つのを手伝ってくれていた往診先の家の子とふと顔を見合わせる。「どうしたんだろう?」「うん」『成院』はその子から荷物を受け取る。「ここまでで大丈夫だ。もう戻って良いぞ」「ありがとうございます」「次は翌月に。もし調子が悪くなったらその時はすぐ呼んでくれ」「はい」じゃあ、と『成院』はその子に手を振る。「お大事に」彼の姿が見えなくなってからやれやれ、と『成院』はため息を付く。「大樹、どうしたんだこんな所で」『成院』が、近くに行って話しかけてやっと大樹は顔を上げる。「成院か、驚かせないでくれ」「何かあったのか?」「……なんでもない」「そうか?」いや、と大樹の歯切れは悪い。どうせ晴...「『成院』と『戒院』」7

  • 「西一族と巧」12

    占い師は、机に並ぶ、占いの道具を見る。先ほど、この店を去った者の、結果だ。占い師が使う道具。けれども、これは、補助的なものに過ぎない。この占い師は、魔法と云う自身の力で、未来を見る。「巧は、……」占い師は呟く。「一族の中で立場がある」狩りが出来る。出来るだけではない、成果を出している。皆をまとめる力もある。慕われ西一族として、申し分ない日々。「でも」この先遠くない、先、にそれらは、失うのだろう。周りがどう思うかは、判らない。でも、自身が一番、失ったと、思うのだ。残るものは「自身の優しさ、だけ」占い師は目を閉じる。それでも「あなたがそれらをすべて受け止めるのなら、この先もやっていけるのですよ」まだ、しばらくは、変わらない、日々。狩りをし、その日を暮らし、ただ、同じ日々が、続く。動いたのは、その数年後。NEXT「西一族と巧」12

  • 「『成院』と『戒院』」6

    夜勤明けの騒動から病院に戻り、引き継ぎを終わらせて昼を少し回った頃。やっと『成院』は家に辿り着く。「おかえりなさい。今日は遅かったのね」晴子が出迎える。荷物を置いて、まずは座る。「………ね、眠い」「ご飯どうする?」「あー、うん。何かスープだけ」はあい、と晴子は鍋を温め始める。「おとうさんおかえり」「ただいま、未央子」伏せていた顔を上げ、『成院』は未央子を抱き上げる。「ご飯は食べたのか」「ううん。もうすぐ帰ってくるかなってお母さんと待ってた」「そうか、それじゃあ一緒に食べようか」それから少し遅い昼食を三人で囲む。「明日は?」「公休だから、休めるはずだ」今日のような急な呼び出しが無ければ。「それじゃあ、ゆっくりする?」「未央子、どこか出掛けるか」「やった」軽い昼食を終えて、『成院』は寝室へと向かう。夜勤で夜通し起き...「『成院』と『戒院』」6

  • 「西一族と巧」11

    「巧ー!!」巧の姿を見付け、向が手を振る。「お疲れー!」横に、華もいる。「巧、何も買わなかったの?」「お前みたいに、あれこれ買うわけないだろう?」「何よ、向だって、いろいろ買っているじゃない」「これは、必要なもの!」「私のだって、必要なものよ!」向と華の手には、買ったものが。「とりあえず、飯行こう!」「そうね、お腹がすいた」「あちらの店で、北一族料理を出してるところがあったぞ」「じゃあ、そこに行こう」「食べながら、私が買ったもの聞いてね」3人は、店に入る。席に坐り、食事を注文する。北一族の料理。食事時と云うこともあり、店内は混んでいる。「私ね、これ買ったんだ!」待てない華が、話し出す。「ほら、髪飾り。みんなへのおみやげ!この砂糖菓子もね」「ふぅん」「これ、スコップ。かわいいでしょ。こっちは小さい鉢。かわいい!」...「西一族と巧」11

  • 「『成院』と『戒院』」5

    「最近、多いですよね」宗主の屋敷からの帰り道裕樹が呟く。砂一族の襲撃の事かと『成院』は頷く。「そうだな、大事には至っていないが」「………俺は」裕樹は言う。「もっとこちらからも打って出るべきだと思う」「東一族から襲撃を仕掛ける、と?」「はい」たまりかねたのか裕樹が言う。「無駄な犠牲を出すだけだと思っていますか?」「どう動くかは大将が決める。すべて考えて進めている事だ」「でも、やられっぱなしじゃないか」「そうではないと思うが」「こちらは犠牲が出てばかりだ。俺達の様に砂漠に出ているならともかく」「裕樹」「先生は自分の家族に手を出されても黙って見ていろと言うんですか」「裕樹!」『成院』は裕樹の肩を叩く。「裕樹、それなら戦術師に戻るか?」あ、と裕樹は口ごもる。頭に昇った熱が少し冷めたのだろう。彼は、他の東一族よりも強く砂...「『成院』と『戒院』」5

  • 「西一族と巧」10

    「魔法?」「そう」占い師は頷く。「未来を見る力」「未来を、見る……魔法?」「ええ」占い師は指を差す。壁に、大きな地図が貼ってある。水辺の地図。「私たちの一族から、反対に位置する一族」「海一族、か」「そこにも、先視と云う名で未来を見る者たちがいます」占い師が云う。「星の動きや、玉の配置で見る占いとは違う」「…………」「未来を見る力を与えられているのです」占い師は、巧を見る。「自身のこの先を、知りたいのですね?」「…………」「そうなのでしょう?」「……ああ」占い師は目を閉じる。「魔法とは云いますが、すべてがはっきりと見えるわけではありません」「…………」「もちろん、未来は変わります」「魔法として、見るのに?」「術者の能力によるのです」占い師は、占いの道具に触れる。「確定未来を見る能力を持つ者は、稀」「……そう、なの...「西一族と巧」10

  • 「『成院』と『戒院』」4

    宗主の屋敷に呼ばれて『成院』は出掛ける。「こっちは夜勤明けだぞ」敵対する砂一族とちょっとした小競り合いがあった。戻ってきた者達の手当にあたる。幸いにも酷い怪我の者は居ない。連れてきた裕樹と共に怪我をした者の毒抜きをする。毒を使う砂一族は僅かな傷でもそれに気をつけなくてはいけない。「成院」声を掛けられて、ああ、と手を上げる。「俊樹」今回指揮を取っていたのは彼だ。一段落していたので『成院』も手を止める。「いつもの事だが」『成院』は言う。「大きな怪我人が居なくて何よりだ」「夜勤明けは不機嫌な医師(せんせい)も居るからな」「冗談を。俊樹の指揮が良かったんだろう」「お前が前線に居たとき程じゃないよ」歳の近い二人は屋敷の廊下で立ち話をする。「………ん?」庭を挟んだ向こうの廊下を誰かが通っていく。当代の戦術大師。「………」「...「『成院』と『戒院』」4

  • 「西一族と巧」9

    「おお!」「これが、北一族の村!!」久しく訪れていなかった北一族の村を、3人は見渡す。並ぶ、たくさんのいろいろな店。通りを歩くのは、多くの他一族。「すごいわ!」「すごいな!」「北一族の村は、違うな」「私、あの店見たい!」「女は買い物が好きだよな~」「いいじゃない」「夕方の馬車に間に合えばいいよ」「なら」向が云う。「お昼までは各自行動。昼食で合流で、いいか?」「判った」「了解!」華は軽く飛び跳ねながら、進み出す。「お小遣い、いっぱい持ってきたし……、じゃ、あとでね!」「俺は、狩りで使えそうな道具がないか見てくる」「向、華。気を付けてな」人混みの中、ふたりは、それぞれの方向へと消えていく。巧はそれを見送って、歩き出す。北一族の通りには、多くの食材が並ぶ。肉、魚、野菜。香辛料。それぞれの一族の特産品。織物、陶器、装飾...「西一族と巧」9

  • 「『成院』と『戒院』」3

    「よーう裕樹、元気!!?」どーん、と水樹が診察室に入ってくる。「兄さん、声大きい!!」病院なんだからさ、と裕樹が慌てる。実の兄弟ではなく、年上の者をそう呼ぶ習慣で裕樹は水樹を兄さんと呼ぶ。「大丈夫、ここまでの道のりは俺静かにしていた」が、ハッと水樹は閃く。「裕樹元気、ってなんか響き良くない!!?」「いや、それ言うと東一族の男ほとんど当てはまるし」大体みんな名前に樹が入っている。「成先生は残念だったな」樹、付かないメンバー。「いや、『院』付く方が残念って兄さん」何言ってるのこの人、と裕樹が呆れる。『院』は宗主に連なる者しか名乗れない名。『成院』の祖父は先代の宗主の兄弟。宗主ではないが、その血筋の家柄。「先生」ちらりと、裕樹は『成院』を見る。「うん、水樹」『成院』は笑顔で言う。「とりあえず、怪我した腕を出せ!!」「...「『成院』と『戒院』」3

  • 「辰樹と媛さん」11

    彼女と父親は、水辺の近くへとやって来る。途中まであった道がなくなり、木々が生い茂っている。この前、彼女が来たときと同じ。もちろん、誰もいない。「寒いっ」父親はあたりを見渡す。「父様、ここ?」父親は、紙を取り出す。「ここに何かあるの?」父親は屈む。地面をなぞり、陣を描く。東一族式の紋章術。「形代ね」「そう」紋章術の上に、その形代を置く。瞬間。ふわりと、形代は燃え上がる。その痕は、ゆっくりと風に乗る。それを見て、父親は祈る。彼女も真似る。冷たい風。彼女は、顔を上げる。父親は、まだ祈っている。「誰に祈っているの?」「…………」「ねえ、父様」「無事を、」「無事?」「…………」「いったい誰の?」彼女が云う。「母様?」「違う」「…………?」彼女は首を傾げる。「父様?」父親は目を開く。空を見る。彼女も見る。形代の痕は、もはや...「辰樹と媛さん」11

  • 「『成院』と『戒院』」2

    「成院」『成院』は大樹に呼び止められる。「なんだ、義兄さん」「少し良いか?というか、その呼び方は止めてくれ」「だが、大樹は晴子の兄だし」妻の夫で、義兄さん。「聞こえは同じなのだから、兄さんと呼ばれていると思えば」村では実際の兄妹姉妹に関係無く年上の者を『兄さん』『姉さん』と呼ぶ。「お前の場合、それがしっくり来ないから言っているんだ」「ははは、それならば、なんだ、大樹」「病院の人では足りているか?」「なんとか、な」「裕樹はどうだ」「裕樹?あぁ、飲み込みも早いし、やる気もある。よい医師になるんじゃないか」医師見習いの青年。教え甲斐がある、と『成院』は答える。それに、「元々戦術師だから、現場で動けるタイプの医術師になるだろうな」「………」「心強いだろう」「確かに」大樹は言う。「お前と同じだな、成院」その言葉に、二人は...「『成院』と『戒院』」2

  • 「辰樹と媛さん」10

    「はあぁあ。お芋焼きたいなぁ」「…………」「お芋、焼きたい、なぁあ」ごろんと寝っ転がったまま、彼女はちらりと横を見る。父親がいる。「お芋……」「…………」「焼きたい……」「…………」「ねえ、父様聞いてる!?」「聞いている」「やろうよー、お庭で焼き芋~」「次の年にしなさい」「えぇえええ」父親は、何かを読んでいる。仕事、だろうか。彼女は起き上がり、外を見る。薄暗い。寒い。今にでも、雪が舞いそうだ。「退屈だなー」彼女が呟く。「兄様のとこにでも、行こうかなぁ」「駄目だ」「え?」彼女は父親を見る。「今日は務めに出ているはずだ」「務め?」「そのはずだ」「えー、つまんない」彼女は再度、寝転がる。「父様、私も務めしよっかなー」「無理だ」「じゃあ、今日は父様に付いて回ろっかなー」「…………」「回ろっかなー」「…………」父親が立ち...「辰樹と媛さん」10

  • 「『成院』と『戒院』」1

    「よし」陸院は未央子を指差して言う。「みおこ、俺のけらいな」えー、と未央子は言う。「なんで私が陸院のけらいなのよ」言われた陸院は胸を張る。「だって、俺。宗主の息子だぞ」「だからなんだってのよ」「えらいんだぞ」「えらいのは陸院のお父さんでしょう」分かってないな、と陸院は言う。「父さんがえらいってことは俺もえらいって事だよ」なんたって、陸『院』だしな、と胸を張る。「それなら、うちのお父さんも『院』だよ」「ちがう、未央子の父さんは院だけどギリギリ、院だからちがう」「ちがわないわよ」「いいから、けらいになれよ」陸院はふんふん、と地団駄を踏む。「いやよ。どうぜ言うこときけとかムリばっかり言うんでしょう」「うちのごはんはおいしいぞ」「お母さんのごはんだっておいしいもん」二人のやりとりを見ていた辰樹はピン、と来る。「これ、ご...「『成院』と『戒院』」1

  • 「辰樹と媛さん」9

    「冷えるわね」葉が散る時期が終わり、寒さが厳しい時期に入る。従姉が、彼女の部屋に何か運んでくる。「従姉様、それは?」「新しい年の飾りよ」さあ、部屋を片付けて、飾りましょう、と従姉は手際よく動く。彼女はごろごろする。「いや!そこは、ごろごろしない!」「掃除苦手だな~」「らしからぬ……」従姉は、彼女の手に布を握らせる。渋々彼女は動く。とはらりと、何かが落ちる。従姉の肩に止まっている鳥の羽。彼女はそれを拾う。「はーん。羽が落ちましたよー」「あら、失礼」従姉は鳥に目で合図する。すると、その鳥は、ふわりと外へ飛んでいく。「賢いね、従姉様の鳥」「もちろん」手を動かしながら、従姉は云う。「私たちは動物を友とする一族だもの」「うん」「動物は皆、賢いのよ」「私にはなぜ、供がいないの?」彼女は首を傾げる。「ああ、そう云えば」「いつ...「辰樹と媛さん」9

  • 「戒院と『成院』」14

    病院からの帰り道、『成院』は少し遠回りをして村の端に向かう。人通りの少ないそこには一族の墓地がある。目的の場所に辿り着くまでに並ぶ墓に刻まれた名前がぼんやりと目に入る。宗主の息子。はとこだった。医師の娘。彼女も病で命を落とした。それからいくつも、いくつも、知っている名前や、知らない名前を通り過ぎ、1つの墓の前に。自分の名前が刻まれた、『戒院』の墓。そこに戒院は居ない。居るのは。「………ええ、と」今までも、これからも、きっと何かを決めるときはここに来るのだろう、と思う。だから、今日も。「俺は、先に進むよ」『成院』は持っていた包みを抱え直す。中には2つの衣装が入っている。一族の伝統の刺繍が縫い込まれて、質の良い素材で作られている。『成院』が看た患者は、それを作る事を仕事としていた。門出を祝う際に身につける服。恐らく...「戒院と『成院』」14

  • 2020年始

    2020年です。今年もTOBAをよろしくお願いいたします。今回のイラストテーマは、キョダ●マックス!別館もマツバにて。よかったのかなぁ、こんなイラストで(笑)2020年も頑張ります!ばしょ&ともえ2020年始

  • 2019年 年末

    2019年も今日まで。今年もこのブログにお越し頂きありがとうございました。来年もよい一年になりますように。そして、新作ももりもり書けますように。今回のテーマはダ○マックスなのでまだ作品中では幼いキャラとか登場していないキャラを大人にしてみるチャレンジでした。この2人は姉弟になるのか、従兄弟になるのか、はたまた他人になるのかまだぼんやり~なのでした。(年の差も変わるかも)それでは良いお年を!!TOBAbyともえ&ばしょ2019年年末

  • 「涼と誠治」40

    「ああ、そうか」誠治が呟く。涼を見る。「そろそろ、なのか」涼は顔を上げる。「おい、その、……」「何?」「…………」「…………?」「何とか、帰って来いよ」「帰る?」彼は首を傾げる。「どこに?」「ここにだよ!」彼は再度首を傾げる。「お前、行くんだろう」誠治が云う。「その、東に……」「ああ」彼が云う。「そうだね」「行くのか……」「雨の時期も終わった。狩りはまた、通常通り行える」西一族の村は雨が続き、食糧が不足していた。それが解決されるまで、狩りの要員がいる。涼は、それまで、東一族へ向かうと云う件が延期されていたのだ。いわゆる、涼に対する西一族内の罰。「帰って来られるかな」「村外追放じゃないんだ。当たり前だろう」「上の者たちが、……」「帰ってくればいいさ」「どうかな」「お前が黒髪で、いくら嫌われていようとな!」涼は笑う...「涼と誠治」40

  • 「戒院と『成院』」13

    戻りましたと告げる『成院』に医師は一度顔を上げ、そうか、と頷くとカルテに視線を戻す。初めて担当した患者。往診。今まで見習いだった『成院』も医師になり、医師は「大医師」や「大先生」と呼ばれる様になる。……いや、少し違う。自分は医師としての仕事をするために行ったのではない。「患者に薬は使わない、そう決まりました」それは、と大医師は言う。「君が決めたのか、それとも宗主が決めたのか?」「患者の家族と話して」家族、と言ってよいのか、と『成院』は内心首を傾げる。「俺が意見を通しました」だから大医師である彼にも何かお咎めがあるのかもしれない、と『成院』は詫びる。「迷惑を」「構わないよ。おそらく、咎めも無いだろう」「そうでしょうか?」「そういう物なんだよ」「うん?」何が、と思うがこの村で長く医師をしている彼には分かっている事な...「戒院と『成院』」13

  • 「涼と誠治」39

    「ずっと昔にだな」山一族が云う。「黒髪の女性を助けたことがある」云う。「今思えば、顔立ちがお前に似ていたな」「…………」「素性は知らないが、」「…………」「もしや、お前の母親だったか?」彼は首を振る。あり得ない話だ、と。「気を付けて帰れ」彼は手を合わせる。山一族は頷く。「お前に、山の神の加護があるように」彼が山を下り西一族の村へと戻ってきてから数日後。手当てをしてもらいいろいろと村長に話を聞かれ、今に至る。ここ最近の雨が嘘のように。空は晴れ渡っている。誠治が、彼の元へとやって来る。彼は、家の前で道具を手入れしていた。誠治は、彼の前に立つ。「もう、いいのか」涼は頷く。同じことを訊く。「誠治は」「俺も平気だ」「なら、よかった」涼が訊く。「今回のことは、村長が何と?」「ああ、……それはだな」誠治は、涼の前に坐る。話し...「涼と誠治」39

  • 「戒院と『成院』」12

    「先生」『成院』は医師に問いかける。「この前、言ってたじゃないですか」「どれのことかな」「恋人でも作れば、と」そうだっけ、と医師は首を傾げる。案外適当だな、と『成院』はあきれる。「それで、いい人でも出来た?」「いや」そうではないけれど、と少し考える。「俺が、『成院』として晴子の恋人になる道はあるんだろうか、と」戒院として生きることはもう望んではいない。ヨツバと話して分かった。名前を捨てることも他の村で生きていく事も出来る。けれど、それは選べない。選ばない。「俺は成院が好む人と付き合わないと変なんじゃないかと思ってたんですが」「まあそれは、ねぇ、君。失礼だよね。どちらに対しても」「どちら?」その相手と、そして、「成院にも、そして君自身にも、だ」ああ、そうなるとどちらじゃなくて3人だったな、と医師は言う。「だいたい...「戒院と『成院』」12

  • 「琴葉と紅葉」40

    「そう決めた?」「黒髪との約束」「約束?」紅葉は首を傾げる。「ああ、もう!それで帰ってくるかどうかとか向こうは約束してないし!」「んん?」「おかしくない!?」「んんん?」「こっちの話!」「全然判らないんだけど」「だから、こっちの話!」「琴葉」「あんたはそうよ、前村長の孫と結婚すればいいのよ!」「急に、どう云うこと!!?」「紅葉はもてるからいいわよね、て、話!」「ええ、そうかなー?」「否定しなさいよ!」琴葉は、水をばしゃばしゃさせる。「うちらは本当に西一族から棄てられた人間!」「琴葉。だから、狩りにおいでって」「行かない!」「矛盾!」「やりたい、かつ、出来ることしかやらないから!」「全部やりなさいよ!」「決めるのは私!」琴葉は立ち上がる。息を吐く。紅葉はもういない。横を見る。黒髪の彼が立っている。「…………」「…...「琴葉と紅葉」40

  • 「戒院と『成院』」11

    「市場を見ても?」「もちろん」戒院はヨツバと市場を練り歩く。「そう言えば、髪型変えたの?」「気付いた?」「ふふ、私は今日の方が好きよ」「ありがと」たわいもない会話。なんてことの無い昼過ぎの市場。「久しぶりだな」誰も自分を知らない場所で何も気にする事なく過ごす。「生き帰った気分だ」「そんなに?」「そんなに!!」ヨツバは首を傾げている。何も知らない。だから、良い。言葉の裏に隠れた意味なんてなにも知らない。だから、よい。このまま名前も捨てて、一族も捨てて、違う村で暮らしていく。「なんて、なあ」「見て」ヨツバが足を止める。装飾品を扱う店。「何か買うの?」覗き込む戒院に、これなんてどうかしら、とヨツバが腕飾りをみせる。「作りも雑だし、違うのにしたら?」店主が眉をひそめるが戒院は気にしない。「いいのよ、こんな作りの物は初め...「戒院と『成院』」11

  • 「琴葉と紅葉」39

    彼女が山を下り西一族の村へと戻ってから数日後。ここ最近の雨が嘘のように。空は晴れ渡っている。「…………」「…………」「……何よ」琴葉は手を止め、顔を上げる。「何か用?」「あ、えっと」紅葉がいる。「えー、っと」「黒髪ならいないけど」「あ。うん」紅葉はあたりを見る。彼を、探しているのか。琴葉は云う。「村長のところか、狩りじゃない?」「それ、ずいぶんと違わない?」琴葉は息を吐く。「うちら、適当だから」「何それ」「干渉しない程度に」「ふーん」「生きていて、たまに帰ればいっかなって」紅葉は首を傾げる。琴葉は、ちらりと紅葉を見る。がやがて、自分の作業を再開する。「…………」「…………」「まだ、何かある?」琴葉の言葉に、紅葉は、再度あたりを見回す。「あの、」「何?」「……大丈夫だったの?」「大丈夫?何が?」「この前の……」「...「琴葉と紅葉」39

  • 「戒院と『成院』」10

    目を覚ます。宿のベッドは自分の部屋とは寝心地も違い、日の光が入ってくる方向も違う。起き上がり、サイドテーブルに置いていた水を飲む。今日はいつもより遅い時間に起きた。「………」だからきっと、成院の夢なんて見たのだろう。はあ、と戒院はひとりため息をつく。「はい、どうぞ」「ありがとう」広場で再び顔を合わせたヨツバに戒院は露店のお茶を差し出す。昨日、相手を俺にしたらどう、とそう問いかけた戒院にヨツバは何も答えなかった。西一族に居る恋人の事をどう考えているのか、戒院には分からない。ただ、もう彼女は決めているのだろうとそう思った。少し羨ましい。「………あふ」「寝不足かしら?」「まあね」あくびをこらえた戒院にヨツバは尋ねる。「ちょっと変な夢見て」「ふうん、村に居る彼女の夢でも見た?」「いや、そうだったら良かったな」「むう?」...「戒院と『成院』」10

  • 「琴葉と紅葉」38

    ふたりは、山を下りる。山一族の村を出て、西一族の村へ。山一族の村は、その名の通り、山の奥深くにある。西一族の村までは、遠い道のり。彼が前を歩き、琴葉は後ろに続く。ただ、歩く。かろうじて、道のようなものがある。「何か、……」「何か?」「獣とか、いそう……」「獣?」「獣」彼はあたりを見渡す。音を聞く。「…………」「…………?」風の音。葉が揺れる音。鳥の鳴き声。「大丈夫だよ」彼が云う。「何事もなく、山を下りられるよ」「本当に!?」「そう」「根拠は?」「根拠?」彼は琴葉を見る。「何となく」「当てにならない!」「大きな声はやめて」「何となくって何よ!」「山で、大声は駄目だって」彼は、弓を握り直す。「山一族にもらった矢もあるから」いざと云うときは大丈夫。琴葉は息を吐く。先を見る。まだ、歩かなければ、ならない。「行こう」彼が...「琴葉と紅葉」38

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