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  • MAY その79

    赤茶けた火星の深い深い谷間から、地球防衛軍の宇宙船がつぎつぎに飛び立っていく。それをいち早く察知したのは、火星の周回軌道をまわる敵の宇宙ステーションである。ふいに現れた敵の宇宙船の群れに、いったんはあわてふためいたが、そこは敵もさるもの。報告すべき相手に即座に連絡を入れたり、一番乗りをせんとするニッキの宇宙船に、大型光線銃の照準をあわせたりした。その頃、敵のいちばんのリーダーであるバッカロス将軍は、月の周回軌道にいた。地球と火星の距離は7528万キロある。光の速さは一秒間でおよそ30万キロメートル。その速度で火星に行っても、4分以上かかる計算だ。現在のわれわれのロケットなら、うまくいっても、260日は要する。「なんだって敵の別動隊が火星にいたって?そ、そんなばかな。あそこはずっと前に調べたところだったのに。責任...MAYその79

  • そうは、言っても。 (10)

    種吉が思ったとおり、五指に満たない飲食店はどれも、ほぼ満員。客の列がドアの外までつづく。どの人も思い思いのソーシャルデスタンスをとろうとする態度はいい。しかしこれでは誰かひとり倒れたら、さながらドミノ倒しになってしまうではないかと、危ぶんでしまった。「やっぱりか。思ったとおりや。こらあかん。みんな、コンビニや、コンビニさがそ」種吉は、表面に丸まった糸くずがいっぱい付いたマスクを、あわてて口元まで引き上げると、早足で歩きだした。「おとうはね、きっとふるさとに近づいたせいだろね。あんなに関西弁を使うのは」Мが兄二人にひそひそ声でいうと、兄ふたりはうんうんと答えた。「そんなに急いで、あんたさ。あてあるの。どこにコンビニなんてあるのよ」種吉のかみさんは、かん高い声でいった。種吉に従って歩きながらも、なんども後ろをふり向...そうは、言っても。(10)

  • MAY その78

    ここは火星、地球防衛軍の秘密基地。地球防衛軍は、その戦いの途中で、ポリドンをふくむ惑星エックスの勇士たちと合流することに成功し、共同で作戦を実施しているのだった。通常兵器を積載した宇宙船が、基地の大半をおおい尽くしている。だが、しかし……。今まさに、最新鋭の武器が搭載された宇宙船が一台一台、大型のエレベーターに乗せられ、地下深くの工場から上がってくるところである。ポリドンと将軍たちが、一番さきに上がってきた宇宙船のわきに寄り集まり、何やら話し込みはじめた。時折、ふいに野太い声があがる。いざ出陣となってまで、見解の相違が尾を引いているようだ。敵の戦意を失くしてしまい、冷静さをとりもどさせる。今までの武器とはまったく違った性質を持つ宇宙船だけに、保守的な将軍のなかには、「とんでもない。敵意に満ちた敵のこころなど、和...MAYその78

  • そうは、言っても。 (9)

    滋賀県に入った。(もうすぐ琵琶湖が見えるはず、その湖畔には彦根のお城も……)そう思うだけで、種吉のこころは、真綿のつまったふとんの上で寝ころんでいる気分になった。異郷の地に長く居続けてきたせいだろう。種吉はいつだって、ふるさとに近づけば近づくほど胸がわくわくした。「おとう、このパーキングに寄って行くからね。もうすぐお昼だし」一瞬の沈黙のあとで、「ああ、いいね」種吉の返事がはずんだ。「ねえ、あんた、なんだかうれしそうじゃないの。久しぶりに見たよ。そんな顔」種吉の真うしろに陣取っていた彼の妻は、ぐっと上体を前に倒すようにしていった。「ひぇ、ああ、びっくりした。でっかいトラの首が、立派なひげをたくわえた大きな口が……」「なんだって、もう一回いってごらん。あんたはいつだって、わたしのこと、そんなふうにわるく言うんだね。...そうは、言っても。(9)

  • MAY その77

    「じゃあ、メイ。またあとでね。わたしはケイのためにやることがまだ残ってるの。さあ、ケイ、行きましょう。決してわるいようにはしないわ。わたしたちを信頼して」そういって、アステミルはケイを連れ、洞窟の奥に消えた。メイとニッキは一言も発せない。ただ黙って、うなずくしかなかった。「お母さん、ケイをお願いします」「ええ」ケイの肩を抱くようにして、アステミルが突き出た岩を曲がってしまうと、あたりは急速に暗くなった。「ああ、真っ暗になっちゃった。どうするニッキ?困ったわ」メイが窮状を訴えるのと、洞窟が再び明るさを取り戻すのがほぼ同時だった。「まあ、あなたって。すごいわ。そんなライト持ってるなんて。まるで真昼の太陽のようね。うちにあるのは、ほんの少ししか照らせないのに」「そりゃそうさ。世界で一番、よくできてるんだから当り前さ」...MAYその77

  • そうは、言っても。 (8)

    数百キロも離れている実家と婿入り先との間の往来。当然ながら、新幹線をはじめとする交通機関を利用するのが一番楽だった。「万一途中で事故にでもあったら、しょうがないやろ。孫がおる。お金はなんぼかかってもええ。絶対、新幹線で帰ってくるんやで。車で来るっていうんやったら来んでもええ」三年前に亡くなったおふくろの、若い頃からの言い草だった。私はよく働いた。「よう働くむこさんやなあ」そうおっしゃるひとがいるほどだった。さいわいにも私を見込んで仕事を与えてくださる、徳のある方にも恵まれた。働いただけ、それに見合うだけの収入があったから、種吉は子どもにひかり号に乗せてやることもできた。子どもは大喜びだった。ところが、今は晩年。七十歳に達し、身体があちこち痛みはじめた。それなのに、自ら運転して帰郷するはめになっている。自らの運命...そうは、言っても。(8)

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