1991年生まれ、ガーナ出身の両親を持つ、アフリカ系アメリカ人作家のデビュー短編集。各作品に通底しているのは、黒人差別や人間の醜さに対する怒りと、ブラックユーモア、暴力性、シュールさ、デフォルメ感といったもので、そういった各要素に真新しさがあるわけではない。けれど、それらがこの作家独自の、ドライでキレのよい、スピード感溢れる文体で書かれていくことで、ヘヴィでダークでパンチの効いた一冊に仕上がっている。 何と言っても、冒頭の「ファンケルスティーン5」のインパクトが圧倒的だ。図書館の外にいた5人の黒人の子供たちが、白人男性にチェーンソーで殺害される。「自分の子供に危害を加えられそうな気がした」という白人男性は、裁判の結果、「自衛の範囲内」ということで無罪になる。主人公の青年は、理不尽すぎる事件に憤りを感じつつも、自らの「ブラックネス」をコントロールしながら日々の生活を送っていこうとするのだが、ふとしたきっかけからそのたがが外れ、それまで押さえつけられていた怒りのエナジーが爆発してしまう…!という話。黒人が日常的に受けている差別的な振る舞いと、それがまったく正しく裁かれることがないし、それに対して正しく怒りを表明することすらできない、ということへのフラストレーションと怒りと悲しみとがなんとも生々しくリアルに描かれており、読者は主人公の姿を通して、その感情を擬似的に体験させられることになる。