失われたもの お気に入りのコップを落として割ってしまった。 私はまだ、ずっと、そこから立ち直れずにいる。 「たかがコップじゃない。何をそんなにいつまでも落ち込むことがあるわけ?」「お気に入りだった。だから、ショックで」「そ
真友(しんゆう) 他人の心を量るのは、本当に難しいよな。 親しい貌。優しい貌。楽しそうに、はしゃいだ貌。いつだって、人は、演技をするものだから。 巧妙なそれを見破るのはさ、不可能だと言ってもいいんじゃないかな。彼らの関係が、たとえ血の
非対称 「一概に、事実だけを見て、幸福か絶望かを判断するなんてできない。足や指を一本失うにしても、当人にとってそれがどれだけの価値があるかによって変わってくるからだ。そう、つまり……ピアニストでもないそこらの人間にとって、指一本なんて価値
あなたが主人公の”あなたへのLINEシリーズ”ちょっと、試しに始めてみようと思います。コンセプトは「狂愛」。登場人物一人目は、「KYOU」(キョウ)。ひたすらあなたのことを、盲目的に愛しています。あなたが男性であろうが女性であろうが、キョウはあなたが大好きです。
僕のD i a r y 7月20日 ……夢を見た。 現実でも、こんな恐怖を知らない。 何かを、取り戻さないといけないような気がして、ならない。気のせいじゃないと思う。たぶん 7月26日 夢を見た。 指が離れる夢。
いびつな…3 七 ドアを開く音が、聞こえたような気がした。 さざ波のような雨音が、部屋の中まで響いている。遠くの空で、雷鳴が轟いた。 真昼間の筈なのに、部屋の中は、気の滅入るような薄闇に満ちている。「……御飯の時間ですよ」 女の声が、近づいて
いびつな…3 六 周囲はやはり、薄闇に包まれていた。向かう方向なんて考える余裕もなく、ただひたすらに、灰色の道を走る。 足場は、妙にごつごつしていた。まるで岩を敷き詰めたような……。そこまで思ったところで、不意に何かに躓いて、その場に転んだ。 足元で
いびつな…3 五「よさそうなレストランを見つけたの…」 言いながら、妻は朝から、いやに上機嫌だった。「お客さんは少なそうだけど、絶対に、穴場よ。今度行ってみない?」 ピンクの口紅が塗られた唇。それが蠢くたびに、その下で、米粒ほどの真珠がきらき
いびつな…3 四「あなた、手が離せなくて。ちょっと、明樹を見てくれる?」「ああ、わかった」 夕食の支度をする妻の背中に、返事をすると、泣いてぐずる明樹の体を、引き寄せた。 涙を零して泣きながら、右の拳を固く握り締めている。「明樹?何
いびつな…3三 静寂に、包まれている。 空っぽのテーブルの上をただ見つめていると、こつん、と、背後から靴音が響いて来た。「……御待たせ致しました。まずは、前菜を」 女の声が、降り掛かった。「“国産蝶のミルフィーユ”で御座います……」 しなやかな指先
いびつな…3 二 砂利でできた地面を、ゆっくりとタイヤが擦り付ける。 小雨が、降り続いている。雨音に混じって、微かに聞こえるのは……波の音だ。 車のヘッドライトを消すと、たちまち辺りは闇に包まれた。 運転席を降りて、後部座席で眠る息子を揺さぶ
”……御来店、有り難う御座います。特別料理〈コースV〉を、御案内致します。どうぞ……目眩く悪夢を、最期まで御堪能下さい” いびつな…3一 ドアを開く音が、聞こえたような気がした。 ざあざあと滝のような雨粒が、窓硝子を叩く。遠くの空で、雷鳴
しずく 「どうでもいいってことだろう?」と訊かれ、私は思わず、ビニールで包んだスマホを湯気の立つ湯船の中に落しそうになった。 トリートメント中の髪を蒸しタオルで覆い直しながら、私は慌ててスマホを持つ指に力を込めた。こんな時、ハンズフリーが使えたらいいの
お久しぶりです。以前、「渦」という短篇ホラーを一部公開していたことがあるのですが、なかなか最後まで書ける余裕がなく、長いこと保留にしておりましたが、今回、「いびつな3」の執筆に専念するため、作品自体没にすることにいたしました。ずっと書きたかった題材の一つ
筵(むしろ) * 何度目かの時計のアラーム音で、ようやく目を覚ました。 布団の中で欠伸をして、目を擦る。手の甲に纏わり付く顔の脂が気持ち悪い。もう一度、平らな目の表面を擦った。睫毛の感触も、盛り上がった瞼の感触もない。 一気に眠気は去
* 「落としましたよ」 白く霞んだ交差点。信号待ちをしていると、霧の中から、馨は声を掛けられた。 振り返るが、相手の顔は、煙のような霧に紛れ、どうにもよく見えない。しかし、背丈と声色から、それが男性であることを理解する。 随分と面積のある交差
グロあり、ナンセンスホラー作品です。ご理解がある方のみ、閲覧くださるようお願いいたします。 甜い膜 爬虫類になった夢を見ていた。 食道を通じて、内臓が激しく圧迫されている。痺れるような全身の痛みと、背中に当たるひんやりとした感触に、意識を取り戻し
7 「椎堂先生」 呼び止められて、振り返ると、入院着姿の見覚えのある顔が、にこやかに自分の方を見ていた。「先生。ちょっと、みてくれますか」 顔はよく憶えていないが、中学生くらいの……確か、碑石先生の担当している患者だったか。「…今日は、濡れていな
6 起き抜けの頭に、時計の進む音だけが響いている。 途轍もない悪夢を見ていた気がする。脂汗で湿った掌で顔の表面を撫でると、皮膚にこびり付いた涙と涎の痕がしっかりと残っていた。カーテンの隙間からは、薄っすらとした青色のネオンの光が差し込んでいる。昔、小
……どうも。お逢いできて、嬉しいですよ。 こんな時に、ここに来られたということは……つまり、そういうことなのですね? わたしはあなたに、何ができるでしょうか?それとも、あなたはわたしに、何を求めてここまで来たのでしょうか……? ええ……
間に合いました。クリスマス・イブ特別ホラー。夜へ、とけて 終電を降りると、予報通り、すでにちらちらと雪が舞っていた。通りのアーケードは、カラフルなクリスマスのイルミネーションで満ちていた。普段は地味な街路樹も、煌びやかに着飾って、立派なクリスマスツリー
5 静まり返った院内。薄暗い廊下。陰鬱な蛍光灯の灯り。腕時計を確認すると、針は午前零時に差し掛かろうとしていた。ちらりと目に入った窓の外には、暗闇だけが広がっている。椎堂先生、と呼び止められて、振り向くと、私服姿の見慣れない顔があった。「ちょっと
4「…やっぱり、無理です」 研修期間を終え、初めて馨自らが担当した患者のことを思い出していた。 外来の患者だった。白色のライト。白色のインテリア。白壁に囲まれた診察室。生真面目そうな眼差し、引き攣った微笑みを唇に浮かべて、その青年は自分に向かい、開口
* 今日、学校で粘土工作の宿題が出た。 図工の時間に仕上げきれなかった人は、家に持ち帰ってやって来いだって。期限は一週間。マジ、めんどくせえ! 最初から、まともに作る気なんてなかったから、そんなことも忘れて、オレは毎日遊び惚けていた。 そうして六日目
3 水のようなシャワーを止めると、冷え切った体にじんわりと体温が戻って来た。 体温が戻ると同時に、じくじくとした神経の痛みが、額に蘇って来た。 自らの、微かな呼吸音。気怠い瞬き。腕は、湿気を吸ったタオルをじっと持ったまま、少し前から動きを止めている。
2「精神科は主に第一、第二病棟の二つに分かれていて、全二十九床、第一病棟を通称“一般”と私たちは呼んでいる。“一般”は、症状が比較的安定している患者のための空間で、現状二十一床ほど設けられている。対して第二病棟は、重症患者……興奮など感情の激しい起伏、勁
猫と蝶3「……幻想を愛するのは、僕らも同じだ」 足元で声がした。 骨ばったNの掌が、地面の紙切れをトランプカードのようにシャッフルし、寄せ集めている。「きみが、いまも、これを捨てられずにいるように」 わけの解らない、声を上げそうだった。 纏まらない
『あなたの愛する人に、逢わせます。』街頭の織り成す光のアーチを潜り抜けると、まったくの暗闇になった。溜息を吐く。エンジン、ヘッドライトを切り、小一時間ほど走らせてきた車をようやく降りると、時刻は午前三時を廻っていた。厭に広い駐車スペースに、車は
猫と蝶2 それからどれだけ呆然としていたのかわからない。 気が付くと、猫と蝶の真ん中に俺はいた。 何か途轍もない匂いに包まれている。目先のハンバーグから香っているのは、花の香りに違いない。「切ると、たっぷりの肉汁と一緒に、華やかなマグノリアの香り
追い出せ*****!2「悪いが、ガキの夜遊びに付き合っちゃいられねえんだよ。帰んな」 ドアを閉めようとすると、「遊び?」 あろうことが、そのガ…サムは、銃口を俺の顔面に向けた。「これが遊びに見えますか?このキングコブラが、偽物だと?」 …このクソガキ!
残酷描写を含みます。嫌な予感がする方は閲覧をお控えください。筒 どこかでカシャッとシャッターを切る音がした。 背骨が軋む感覚で意識を取り戻した。 視界一杯に、きらきらとカラフルな水面が揺れている。 揺れる表面に、自らの生白い両腕が
物語の構成上、粗暴的、残虐な表現を多用しております。ブラックコメディ ?追い出せ*****! 愛用のベレッタPx4に急ぎ弾を詰め直して、浅い息を吐く。 いま、俺はありえねえほどのストレスに晒されている。ちなみに四六時中の寝不足も連動して、俺のメンタルは
燭(ともしび)「わたしに、最高の愛をプレゼントしてくれるって、言ったわね」 すでに夕刻は廻っているというのに、太陽が眩しい。 紫色の空の隙間から、西陽が全身に降り注いでいる。「ほら。サイダーよ」 500ミリリットルのペットボトルを取り出し、栓を開
嘴(くちびる) 湿った風が窓を叩き付ける。窓辺の赤い空に稲妻が走り、昏い部屋にくぐもった轟音が響いた。嵐のような夕立はすでに去ったように見えて、これからが本番に違いない。錆色に鬱血し乾いた唇を舐めると、血の混じった鼻水と唾液の味がした
これで最後 指紋で濁った窓硝子の裏側に、一面の曇り空が見えている。 暗澹とした部屋の中。ボンヤリした白い霧に巻かれたベンジャミンが、ぽつぽつと、そこかしこに黄緑色の花を抱えている。 さか剥けた血の気のない唇から、白い煙を吐き出しながら、ただぼんやりと
猫と蝶 /改稿版 連絡を貰い、猫と蝶を飼っているという友人Nに会いに行くことにした。 友人と言っても、互いに久しく会ってはいなかった。恐らくはもう五年以上になるだろう。メールには、〈懐かしくなったから、久しぶりに会いたい〉という趣旨の文章が、二、三行、簡潔
いびつな… 25 ウエイターの手をすり抜け、どれだけ走り、彷徨ったのか、わからない。 暗闇の中、延々と冷たいシャワーが降り注いでいる。それは時に洪水になり、柔らかな滴になり、あらゆるパターンとなって、全身に降り注ぐ。それが、どうやら雨であると気付いたのは
いびつな… 24 凄まじい形相をして障子を開け、弟が戻って来た。 荒く息を吐き、整えながら、俺の正面のソファへ腰を沈める。「………おまえだな……」 何度か唾を飲み込み、弟は血走った目をこちらに向けた。「そうか……そういうことか……。おまえが仕組んだん
いびつな… 23 心臓が弾け飛びそうな感覚に、息が上がる。 まるで服の上から熱いシャワーでも被ったように、頭の先からつま先まで、大量の汗でべたべたになっていた。 いつの間にか俯いていた顔を上げると、テーブルの向かいに誰も座っていなかった。 暗闇はわず
いびつな… 22 障子で仕切られた異様に広い空間の中、漆黒のテーブルを挟んで、男二人向き合う形でソファに座っている。 床に敷かれた赤い絨毯は、硬くはないが軟らかくもない。よく見れば、障子、テーブル、ソファ、天井、壁、窓、あちこちの表面の隅に、赤い花びらの
ねえ、悲鳴をあげてみて。夜に、たゆたう 生温い、初夏の風の吹く夜道。日中の茹だるような太陽熱が、未だ地面にむんむんと滞留している。ヒトの汗と、土が混じったような、アスファルトのにおい。二十四時はとっくに廻っている。微かな虫の鳴き声と静寂が、辺りを包んで
………呪いは進行する。早く。早くしないと。カーテン迷路の中で 僕はきみになれないと知った時点で、何がどう崩壊するか……ねえケイリー?……それすらもおぼろげで、僕は僕でないと盲信することが、唯一のキーだった。 母親に父親、兄、姉、祖母、祖父、伯父、伯母、
キャッチコピーは、“理不尽な理不尽による理不尽行進曲”階段の窓のすきまから がしゃんとお皿を床に叩きつける音がした。 階段の下から、上を見上げて、ママがあたしを呼んでいた。「おい、クソガキ!」いらだった声。うるさいなあ。「一体、何十回呼ばせる
暖かくなってきましたね!みなさんはどうお過ごしでしょうか? 春の陽気が深まるにつれて、わたしの心もぽかぽかです♪ 穏やかで、晴れ渡る空を見ていると、まるで自分の心もほんわかしてきちゃいます(^^♪ そして、何といっても! 春といえば、桜ですよね~! やっ
”……同い歳の弟に、ミミズやカブトムシの幼虫の入ったジャム瓶の中に閉じ込められたのは、確か四歳の頃だったと記憶している。 それとも、到底、信じがたいことだろうか?……俺はいつだって、歪(いびつ)な記憶とともにあるのだ。……”いびつな… 2 小雨が降り出して
幻想学級奇譚 ……どこ…?どこなの……? クラス中の生徒が、わたしの入る棺を囲んでいる。けれど、教室が空席で占める中、一つだけ、ぽつんと有人の席があることに気付いた。 教壇の列の、一番後ろ。 そこにぼんやり座る生徒と目が合った瞬間に、ぞくりとする。
幻想学級奇譚〈金曜日〉 …… はたして、げ そ は、失われるだろうか?わたしにはわからない。けれど、確信がある。この学級も。学校も。理穂も。先生も。すべてはげ そ とともに、移ろいゆく。 唯一の固定観念として、わたし自身がげ そ ではないと
幻想学級奇譚「…何してるのよ?」「…うえ……鉄の味だ……」 汚れた唇を舌で舐め、不愉快そうに、志賀野は表情を歪めた。「とにかく。わたしは、帰る」「待……」 ギャアアア。 近くの悲鳴。どたん、ずるん、と、派手に人が倒れる音がした。「だから、何
幻想学級奇譚 〈木曜日〉 …… 総合学習の時間。 突然に、一人の生徒が、教壇に出てきたと思ったら、〈脣〉 と、黒板に、大きく書き出した。 そして、「いまから について、意見を聞いていきます」と言って、「新木さん」 なぜか、わたし
幻想学級奇譚「………放送室………悪戯か…?ふざけやがって……」 独り言を言いながら、小辻は教室のドアに手を掛け、〈……くっくっく……おまえのおおゲンソウだよ……〉 ぴたりと、その動きが止まった。〈クソッタレな幻想。ありもしない、ゲンソウ。・・……
幻想学級奇譚 〈水曜日〉 …… 机の上で、何かどろどろした夢を見た。 机の上は、何かの液体で、どろどろと湿っている。 気が付くと、小辻先生が、わたしの頭をペンで叩いていて、 先生は、わたしに、一言も声を掛けることなく、ただ、わたしは、遠ざ
幻想学級奇譚「…な、何……もう…」「……美術部の…生徒の作った作品……かな」 腰を屈めながら、志賀野が、足元に転がったオブジェに手を掛ける。 恐らくは、人の上半身を模した、白い彫刻。 下半身が無ければ、首から上…頭部もない。「…人体……首から腹
幻想学級奇譚〈火曜日〉 …… 給食の時間のこと。 お昼の放送が流れてきて、その内容に、思わず辟易してしまった。放送部の誰かが、独りで、得体の知れぬコメディを演じている。〈始まりましたあ、第211回“生命の輝きチャンネル”!パチパチパチ。(謎の拍
幻想学級奇譚〈月曜日〉 …… 五時間目の出来事。 もうすぐ卒業も近いので、六年間の思い出作りに、みんなでタイムカプセルに入れる品を、それぞれ持ち寄った。 小辻先生の用意した、大きなアルミのスーツケースの中に、みんなの思いの詰まった物たちが、ば
幻想学級奇譚 唾を飲み込む。沈黙とともに、音の方に、目を遣っていた。…部屋の隅に佇む、自らの背丈ほどの、黒い物体に。唐突に、笑んだ唇が視界に入り、生温かいものを、腕の中に押し込められた。熱を孕んだ、ipad。「…ちょ…し、志賀野……」 無音の、足音。
現在、新たなホラー短篇を執筆しております。コンセプトは”学校の怪談”。ちょっと(かなり)、気持ちの悪い内容になる予定です。短篇ながら、気が狂いそうなほどに、各章の構成に手間取っております。笑眠る前にうっかり読むと、ウッとする気持ち悪さに眠れなくなるような
幻の「薄暗い中、独りでいると、りんりんりんりんうるっさくてさあ」「おまえ、一人暮らしだったっけ」「そうだよ。狭くて、ボロいアパート」「一体、どこから聞こえてくるんだ」「イヤホンから」 沈黙とともに、目が合わさった。 目の前の唇から、ゆっくりと
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。これまで、こんな拙いサイトに遊びに来てくださった方、本当にありがとうございました。これからも変わらず、ゆっくりですが、悪夢を紡いでいきますので、よろしくお願いいたします。ええと。改めまして、古石と申します。
目的地まで ……こんばんは。AI car auto driving systemへようこそ。OSの起動を確認。エンジン、システムの正常を確認。ウインドウ、ドアをロックします。安全のため、マニュアルに基づいたトラブルを除き、目的地に着くまでロックの解除はできません。非常
1 〈京〉 微睡むような虫の鳴き声で、黒淵京は目を覚ました。縁側でゆっくりと体を起き上がらせると、いつの間にか辺りは夕闇に染まり切っているようである。晩秋とはいえ、体の下の床板はしっかりと冷え込み、まるで寒季のような冷気が頬を刺している。ころ
”………徐々に意識が遠のいていくのがわかる。ひどく懐かしい、狂おしいほどの、芳芬に纏われ……”プロローグ、或いは地元警察官による口述と迷言 ……はじめに、これだけは申し上げておきますよ。私共の口述に、いかなる虚誕もないということを。 先月十七日未明、当県
26それから日を経ずして、環境庁主導のもと、幾つかの区間に分けて、速やかに除染と“悪魔の花”の撤去作業は執り行われた。町のスローガンでもあった「町の顔(^O^)♪ 朝顔」という表現は、たちまち、あちこちの媒体から姿を消し、また、一部の町営の施設や学校が、当面
25 この日、朝起きてリビングへ行くと、母親が電気ケトルを手にテレビの前に立ち止まっていた。「……ねえ」 直季の方を見ずに、声が発された。「ニュースで、お父さんのこと、言ってる…」「……え?」 シャツのボタンを留めながら呆然と直季が答えると、「
24 病室に入ると、酷く青白い顔をした阪上がベッドの上に横たわっていた。 躊躇いながら、直季が声を掛けると、その顔がわずかに声の方を見て、戻された。「……調子は……どう?」 ありきたりな言葉を力なく述べながら、直季はベッドに近づいて行った。
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