▼湯に浸かりっぱなしで、疲れさえ感じ始めていた直子の耳に、初めてと言っていい子どもたちのざわめきが耳に飛び込んできた。手を触れることもなく終わった、園部透を揶揄するものでも、直子にあてこすったものでもない。何と彼女の耳に、響いてきたのは、「雪が解けたら、山に入って、雀蜂を退治するぞ」という叫びだった。子供たちは一人の声に刺激されて、別な言葉を口々に叫び始めたのだ。その中には、家でつかっている防毒マスクを持ち出して,雀蜂に害虫退治の毒を振りかけてやる、と声を張り上げた。こうなると、直子はだまっているわけにいかなくなった。湯から出ると水だらけの着衣を絞って着た。そのうち子供たちは、自分たちの声をバネにして、山の方角へ歩き出した。直子は着た衣が、パリパリと凍りついていくのに逆らうように、実家をめざして走り出した。それ...バイク雪女完
▼ハンモック揺られかすかに厭世観漂う国へ眠りつつ行く▼ハンモック
◇春日傘別れた女の置きみやげ◇置きみやげ
◇春日傘炎のように蘇り◇春日傘
▼烈日にさらした肌の癒しに入るクーラーそれとも安い浜風▼烈日
◇鼻を出し菫のふるえに驚く雌牛◇菫のふるえ
▼草原を嗅ぎつつ行けばすみれそう食べたくもあり哀れにもなり▼草原
▼まとまって健気に揺れるすみれそうその傍らに赤いポストが▼すみれそう
▼洗い髪仄かに匂う水の香に髪のあわいに白魚走る▼洗い髪
▼あのブログ聴いてよいのか悪いのか知恵者の顔して我が前を行く▼知恵者
◇できるだけ不幸流して洗い髪◇洗い髪2
◇洗い髪毛先見ている妻ひとり◇洗い髪
◇重いのは上昇あるっばかり乳母車◇乳母車
◇欠席に静かな不幸成人式◇静かな不幸
山里
海辺に住む人
☆海辺に住む人は海に接して生きながら遠くに海を遊ばせている海辺に住む人
tm
鳥の来る街
鳩の来る街13
海景
★路地で若い男女が羽根付きをはじめた。今は四月だし、時期からすればずれているが、まあいいだろうと、二階の窓から、見るともなく眺めていた男は思った。彼とて、今頃ビュートルズをかけているのである。はやった頃、どうしてもそれほど好きになれず、時代に取り残されて、今頃になって聴き直しているのである。今ビュートルズの良さが新鮮に響いてくるようなら、彼は自分の青春を反省しなければならないのである。しかしそれも憂鬱なことだった。だから、蘇ることがないように、願う心も強くあった。時々、羽根付きをする女の声が、甘やかなざわめきを運んでくるが、彼はできるだけとらわれないようにして、CDを聴いていた。そのうち、女の打ち上げた羽根が、彼の上に飛んできて、顔をかすって、V首シャツの胸元に留まった。こうなると、関わらないではいられない。男...路地の花
★路地
▼二匹は交番のストーブに当たらせてもらって、雨に濡れた毛を乾かした。連休で息子がカレイを二十尾釣ってきてよ、その始末に困ってんだ。同僚には分けたが残りは多い。この調子では,明日も明後日も、カレーの唐揚げだ。お前たち少し手伝ってくれねえか」警官は冷蔵庫からカレイを取り出してきた。「すげえ、生のカレイじゃなく、奥様の手による愛のタマモノじゃんか」とオイラは言った。何がタマモノのもんか。ただのアゲモノだ。ところでお前たち、泊まるところはあるのか。なければ裏の納屋を貸してもいいんだが、……」▼カレイの唐揚げコント
▼おいらはそっと近づいて自分が被るビニールカッパをずらして入れてやる一緒にかぶってやってちょうてなぐあいに、三十分後、二匹は駅前広場。雨の中交通整理のお巡りさんが、ギョロ目を光らせこう言った「おっ、まだいたか」だってさ。雨の中から外へコント
▼誰よりも愛する人を失って鳴きぬれている猫雨の中の猫そんな猫ならすぐ分る雨より哀しみまめているほっておいたら三日も四日も同じ木の下雨の中▼雨の中の猫コント
▼猫が墓訪れるのは食い物探し?あるじ亡くした可哀そうなねこもいる▼分らない猫の動向コント
▼放牧の馬にあやかり牛もまた大きな動きとまではいかぬが▼放牧
◇草の芽に馬の緋色の舌光る◇舌光る
◇下萌えに犬が鼻入れ鶏が掻く◇下萌え
野鳥の来る里2
野鳥の来る里
★サクラよりウメを好むという人に何故かと訊けばむずかしくなる★ウメコント
★朝起きて黙っていれば鴉鳴くカア★カア
◇母の押す乳母車には下界なし◇乳母車
空き家
鳩の来る街13
▼春落葉隣に女いる気配どこから来たか問えど応えず▼隣に女
▼春落葉舞う中くぐり猫がくる同日うまれの赤子あやしに▼赤子あやしに
◇春落葉空中揺れて生まれ来る◇春落葉
◇グラウンド私の花よとチューリップ◇チューリップ
◇春落葉掃き出す朝の酔い心地◇春落葉2
▼春落葉降る悠然と歩みくる猫の年齢四月で二歳▼春落ち葉
▲そのうち羽音が頻繁になり、それが迫真するバイクの爆音とも重なり合って直子をかきむしり、雑草の繁茂する方へなだれ込んで行った。いくつもの羽音の中に、一つのバイクの音を捉えている気もしていた。直子が草の茂みに飛び込むやいなや、一つのバイクの響きは、まぎれもなく彼女を捉えて強迫してきた。それを掻き消す雑駁な音も飛び込んできて、彼女は不当な攻撃を振り払うべく必死に叫んでいた。雀蜂が礫のように、彼女を襲ってきたのだ。直子は雑草の中に倒れこみ,頭を押さえて叫んだ。「助けて、誰か来て!」蜂の攻撃を逃れて、草の上を転げまわっている直子の耳に、明るく軽快な羽音を響かせてる確かな、しかしこれこそが本物であるというような手応えのようなものを感じ取っていた。園部のバイクだ。直子は項に食らいついてくる蜂をもぎ取り払い除けながら、救いの...バイク雪女未完5
▲彼、園部透が突然バスに乗らなくなったのだ。バスには乗らなくても、彼が高校を退めたわけではなかった。それが分かってから、彼女は心臓の止まる思いはなくなったが、彼を失った思いは強く残って、園部透のことを思わない日はなかった。彼がいなくなったのは、高校のあるY市で下宿をしたからでもなく、通学の手段をバスからバイクに変えたからだった。長距離歩かなければならない孫の大変さを思いやって、祖父が彼の父に協力してバイクを買い与えたからだった。彼女、井関直子は、また苦しみを募らせることになる。彼が消えてしまったのではなく、同じ高校に通学していることではほっとしたものの、彼と顔を会わせる機会がなくなってしまったのだ。そのことが何より井関直子の心を痛めた。彼の乗るバイクの音が、あたかも井関直子の心臓の炸裂音のように重なってきてなら...バイク雪女未完4
鳩の来る街11
鳩の来る街10
◇舞う柳絮私猫よとふところへ◇柳絮
◇陽を浴びてさあさあおいでと猫柳◇猫柳
▼傘に来て離れたがらぬ柳かなそこに一匹蛙が跳んだ▼傘
▼流域に流れ留まり川柳ときに跳ね飛び人を撃つ▼川柳2
◇流域に靡きとどまり川柳◇川柳
◇柔らかく人に寄り来る柳かな◇柳
鳩の来る街9
▼聞き覚え消えていかない山椒の実口に入るのは何年先か▼聞き覚え
▼山に入りタラの芽あさる鳥に合う口笛などは出ず石で追う▼石で追う
花の咲く町
市民公園
鳩の来る街8
▼何するのかと牛も怪訝な顔したが分かればおとなしくついて来た▼夏草の清潔な浴場
▼夏草に牛引き回し洗ったよ猫がそれ見て笑いやがった▼牛の入浴
▼凍る夜鉄路一条底光る線路にサンマを並べたように▼鉄路一条
▼さばさばとして美しい砂浜が千鳥の母と思うたのしさ▼砂浜
◇海行けばどこにでもいる千鳥かな◇千鳥
◇柳の芽しばらく腕に遊ばせて離れた後はそこが涼しい◇柳の芽2
◇人に来て押すでもなしに柳の芽◇柳の芽
鳩の来る街7
羊の通る草原
◇わいわいと声上げて来る木の芽どき◇木の芽どき
鳩の来る街6
▼軽快な鳥が占領新樹かな鳴きわめきつつ空ゆく鳥も▼猫の空もよう
▼空は今樹々を探して鳥が舞う見つけられまいと猫がもらした▼猫がもらす
▼囀りの渦中にありて猫唸る囀りたくとも声が出てこず▼猫唸る
◆嘴を百個ならべて新樹わく◆新樹
鳩の来る街5
▲二階の窓の下を、家族連れが通る。野鳥が歌い、草花もいっぱいの、市民公園の方へ路地を曲がるのかと思っていたら、ショッピングモールの屹立する方へ行ってしまった。彼はがっかりして、チェット舌を鳴らした。それから彼は、路地を挟んだ二階の窓に目をやった。そこでは若いOLが一人で部屋を借りている。彼は意識して、めったに見ないのだが、この日に限って、さっきの家族連れに裏切られた腹いせから、OLの窓に目をやった。人の気配がして、ノースリーブの女が歩み寄ってくるところだった。彼女は窓辺に近づくと窓を閉めた。チェッと彼は二度目の舌を鳴らした。どこかに出かける様子もあったから、彼は窓辺を離れず、そのまま下を見ていた。二三分して、女が玄関を出て来て、チラと路地の上を仰いだ。そして、彼の視線を遮るように、日傘を開いた。彼女は市民公園の...日傘のノースリーブ
▼山吹をひとつくわえて山下る猫の心はただひたすらに▼山吹をくわえる猫
▼雨降れば雨を力に藤の花ひそかに猫は雨やむを待つ▼雨降れば
▼房揺れて尾のように来る藤の花猫尾を上げてもしょせん届かず▼房揺れて尾のように来る
鳩の来る街4
■バス停に立ち木枯らしをやり過ごす相身互いと寄り添って足元に野良猫と野良犬が来て人を見上げている「あっ犬と猫飼主は誰?」寒気をついて若いOLの声野良だから飼主なんかいるはずはない慕って寄ってきた人間すべてが飼主だ■バス停コント
鳩の来る街3
▼てなことをぬかした男大嫌いデブと言うのさえ自重した猫▼軽口の渡世
▼巨体が乗って下積み猫ははねあがる今の見たかいパンの卵焼き▼シーソー
▲バイク雪女3女は中学生の声が、途中でぷつりと切れてしまうのを感じるようになった。切れるのは幼い子供に聞かせたくないものがあるからなのだろう。そしてその内容こそが、彼女がこの村を出ていかなければならなかったものを含んでいるからなのだと、身震いしながら、考えないではいられなかった。今も小学生の声が大きくなると、それを制するように中学生の声がひときわ大きくなって、その後は沈黙が訪れた。女はその静まりの中から、中学生の声をすくいあげようとしたが、声はひそひそ話のようになっていて、とても聴き取れるものではなかった。女は自分がこの村を脱出しなければならなかった七年前に引き戻され、緊張から息ができないほど苦しくなってきた。そしてその恋がもとになって、悲劇に結びついて行ったとしか思えない出来事が下敷きになっていた。今、中学生...バイク雪女未完3
▼水着干す羞恥心ある花のよう猫その下をつらっと通る▼つらっと通る
▼変な声すると思えば歌えない鶯猫を見て鳴いたケキョ▼変な声
▼レース着て朝引き立てて行く女猫をちらと見てどこかに消えた▼レース着て
▼ゆかた着た少女の弾む息と会うにこ毛も生えて猫の毛のよう▼猫と少女
▼猫が僕をきつい目で見た目の奥に僕とはちがう人間がいる▼違う人間
▼アロハ着た男の肩に九官鳥その鳥がふと猫を見て歌やめた▼歌をやめた九官鳥
▼夏シャツを連れ歩くような女いて面白がって猫そのあとを追う▼夏シャツを連れ歩くような女
▼滴りを探し歩いて家出猫こっちの水は甘いだろうか▼滴りに向かう猫
▼春の土手空には凧がなびいてる少女の下に猫が一匹▼空になびく凧
▼冬草の茎を食みゆく猫がいて冬草涙を流してやまず▼冬草
▲男が一週間留守にして、北海道の実家から戻ると、郵便受けを囲むようにして、雪柳が満開になっていた。周りを囲むどころか、郵便の出し入れ口にも、枝の何本かが,顔をさし入れてポストの中まで明るく飾っていた。世界は広いのに、わざわざ中まだ枝を伸ばして咲く花なんて、物好きな奴である。雪柳にこんな習性があるのかと、男は頭をひねっていた。新聞を抜き取り、宣伝のビラを捨てていくと、奥の奥に直子からの花便りが届いていた。花便りは郵便受けの中に散った雪柳の花に埋まるほどになっていた。事実彼は、一枚の葉書を掘り出すようにしてすくい上げていた。未完雪柳
▼突として猫はねあがり笑われた今の見たかいフライパンの卵焼き▼シーソー2
▼シーソーにぼんやり座っているときに巨体のおっさん来て乗った▼シーソー1
▼咲き急ぐ躑躅を抑え猫が行く牧の長閑さ目に浮かべつつ▼牧場に来た猫
▼珈琲は霊の香りののみもので目にも鼻にももちろん口にも~ちと熱いけどね~▼珈琲
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