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天使も踏むを恐れるところ https://blog.goo.ne.jp/kataribe314/

以前書いたものを少しずつまとめています。BL苦手な方は引き返してね。R18?ほどでもないかな??

基本的に忙しいので週1更新できればとは思います。 批判などは受け付けていません。

雪月花
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2011/07/25

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  • 結城屋花便り 第10話

    さっきから周りを女性に囲まれていたせいか、思わず振り返ってしまう。背筋を伸ばして大股に奥へと入っていく様子からすると客ではないのだろう。わざとらしくなく整えられた短い髪。スーツの色が良く似合う少し日に焼けた肌。彫りの深い精悍な顔立ちは彫刻のようだ。ただ痩せているのではなくしっかり筋肉がついているのが分かる身のこなし。猫科の動物を思わせる、どこか野生的な雰囲気。あまりにじっと見つめすぎていたのに気付いたのは、切れ長な、透き通るような瞳が訝しげに千裕を捕らえたからだ。男が歩調を緩めかける。視線が交わる濃密な一時の後、何事もなかったかのように外されようとした。「一ノ瀬、相変わらず愛想のない男だな。挨拶くらいしていけ。こっちは新人の紺屋君」店長が彼を呼び止める。「紺屋千裕です。お世話になります」気圧されるものを感じ、背...結城屋花便り第10話

  • 結城屋花便り 第9話

    「ちゃんとお茶を淹れ替えたの、二重丸」「あ、はい。ありがとうございます」思いがけず褒められ、面映い気持ちで礼をする。「それにしての一人のお客様に三十分はかける。そんなの洋服ではありえないですね」「そうよ。着物なんてそうでなくても出番が少ないんだから、気に入らなきゃ箪笥の肥やしでしょ。気に入ってもらって、たくさん着ていただいたほうが嬉しいじゃない。でも、たいていの人はどんな着物が自分に似合うかっていうイメージを持つのが大変。洋服の感覚で選んで、それが似合う場合もあるけど、今の方は違ったでしょ。着物を好きになってもらう。場合によっては気持ちよく着ていただくために、いわゆる『決まりごと』のご説明もする。それが私たちの仕事なんだから、時間がかかって当たり前なの」弓子の言葉に感心しながら店長の方を見ると、カウンターの脇の...結城屋花便り第9話

  • 結城屋花便り 第8話

    「これは結城屋のオリジナルなんですけど、お出ししましょうか?」女性はパンフレットから目を離さないまま頷き、弓子の後について立ち上がった。弓子は棚から写真と同じ着物と帯を出し鏡の前で女性に合わせている。女性は、着物を見た瞬間、少し目を輝かせたが、合わせてみると思ったイメージと違ったのだろう。少し首を傾げて生地を見下ろしている。「あとは、写真にないんですけど、これなんかお客様に合うと思いますよ」弓子はいつの間にか、紺地に淡い大振りの花が、艶やかに縦縞を作って流れている着物を女性に差し出している。「これもオリジナルで浪漫小袖って言うシリーズなんですけど、少し大正ロマンをイメージしているんです。花の色が中間色、日本古来の色を使っているから、そんなに派手にはなりませんよ」「私にはちょっと」女性は渋っていたが、弓子の話を聞...結城屋花便り第8話

  • 結城屋花便り 第7話

    後姿まで確認して言うと、「でしょう?」弓子は得意げに胸を張る。しかしその脇で、千裕はさっき弓子にこれが似合うと言われたんだったと思い出し、こんなの似合うわけないじゃないかと、少し恥ずかしくなってしまう。思わず目をそらすと、姿見の中で少し顔を赤らめた自分と目が合った。位置の関係でマネキンが丁度体の部分を隠していて、一瞬、実際に着ているように見える。見なければ良かった。確かに似合っていた。物凄く。でも、女物が似合っても嬉しくない。「次、畳み方」一人溜息をつく千裕の横に、弓子がさっきの着物を持ってくる。千裕にマネキンを、リサイクルコーナーに入ってすぐ見えるところに運ばせ、シートの上にそっと着物を広げる。「今日は見てるだけでいいから」右身頃から手早く畳んでいく手元を見ていると、着物の縫い目以外ほとんど折らないで、つまり...結城屋花便り第7話

  • 結城屋花便り 第6話

    「腰紐は腰骨の上で結ぶ。ウエストで締めると苦しくなるし、締めた時引っ張られてこうやって裾が上がっちゃう」弓子は位置を指し示してから手早く結び直す。「じゃあ、おはしょりを整えようか。この、帯を結んだ時に出る所、ここをおはしょりって言うの。ここが皺になっていたり、もたついているとカッコ悪い。整えるには身八つ口から手を入れて下に下ろすだけ。女性の着物は脇が開いてて、この部分が身八つ口。手を入れてみて」言われるままに手を差し入れ、下に下ろすと驚くほどきちんとした感じになった。「ここでもう一度背中心と襟を合わせるから」弓子は千裕に後ろから見てみるように手招きする。「この、腰から下の部分は中心が合ってなくていいんですか?」上半身の背中心と、下とがずれているのに気付いて言うと、「鋭いっ。よく気付いたわね。でもいいの。あんまり...結城屋花便り第6話

  • 結城屋花便り 第5話

    話している間に掃除は終わってしまい、開店時間が近づいてきた。「紺屋さん、十時になるから準備して下さーい」千裕は弓子に促されて掃除機をしまい、手を洗ってカウンターの脇に立った。なんだか所在無い気分で、落ち着かない。「紺屋さん、そんな畏まってないでいいのよ。まだお客様、いらしてないんだから」弓子は笑って、リサイクルコーナーの方に千裕を呼び、片隅にシートを広げて、そこにマネキンを運ぶように言う。「暇なうちにさっきの、着せちゃいましょう」素早い手つきでマネキンの帯を解いていく。「ホントの着付けと違って、これはディスプレイ用だから、あんまり痛めないように着付けてあるの。また違いは教わると思うけど」外した帯などを、空いた棚の上に置き、着物の紐を解き始める。「着物の着付けは実際着る時と同じだから、よく見ててね。マネキンに着せ...結城屋花便り第5話

  • 結城屋花便り 第4話

    「めいせん?」「アンティーク着物の中でも主に普段着にされていた部類の着物だよ。色使いや柄がなかなか洒落てるだろ。この頃のリサイクル着物ブームに一役買っているんだけど、銘仙といっても色々ある。元々は養蚕地方で自家用に作られていたものだから、丈夫だけどまぁ商品化するようなものじゃなかったのね。そのうち、江戸時代の終わりくらいかな、縞が織られるようになって江戸・関東で流行って、昭和に入って洋好みのハイカラな模様銘仙が出てきて、化学染料を使った鮮やかな色とかも使われだして。おしゃれ着や普段着としてよく着られたんだけど、高度成長期に着物が普段着でなくなった頃から衰退の一途。着物全般に言える事だけどね。それが今になって若い人たちに人気が出てきてるんだから面白いよ。大体区分として、縞銘仙、絣銘仙、模様銘仙って分けられて、これ...結城屋花便り第4話

  • 結城屋花便り 第三話

    「おはようございます店長!もう、又シャッター開けかけなんだもん。と、あと、えーっと」「紺屋君」「紺屋さん。小林弓子です」立ち止まった途端落ち着いた態度で手を差し伸べてくる。「よろしくお願いします」店長とは身長が頭一つ分は違う。声は一オクターブくらい高そうだ。色白で少しふっくらして童顔。肩までで少しカールした茶色い髪は瞳の色からすると染めていないのかもしれない。「ふーん、紺屋さんって」弓子は遠慮なく千裕を観察しその肩に手を置いた。「すっごくお似合いの着物があるの。見て欲しいなー」大きな瞳をきらきらさせて下から覗き込まれると、千裕はどう対応していいか分からずフリーズしてしまった。「ちょっと待ってて」呆然として立っていると、弓子は少し区切られた一角に消え、しばらくして腕に帯やら何やら一式抱えて出てきたのだが、「小林さ...結城屋花便り第三話

  • 結城屋花便り 第二話

    まだ店内に明かりは点いていない。待つのか、と鞄を置きかけたとき、店を囲っている柵状のシャッターが、一部半開きになっているに気付き、覗き込む。と、カウンターの向こうのドアが開いて、背の高い人影が現れた。「おや、おはよう。紺屋君?早いな。今日は君が一番乗りかな」髪を一つに結んだスーツ姿の女性が店に敷かれた絨毯の上を足音もなく近づいてきた。背は百七十五はあるだろう。千裕より高い。シルバーの眼鏡をした細面の顔に、一重の切れ長な瞳が理知的な雰囲気を漂わせている。歳は三十半ばといったところか。「あたしが店長の富岡絹子。よろしく」「あ,はい。紺屋です。今日は何をすればいいんでしょうか」「そうだな。まず、どんな仕事があるか分からないだろうからみんなの様子を見て、それでできるところからやってもらおうかな。それはそうと、紺屋君、着...結城屋花便り第二話

  • 結城屋花便り 第一話

    「大丈夫かなぁ、今日」鏡を前にネクタイを結びなおした紺屋千裕は、一昨日切りに行ったばかりの髪をもう一度撫で上げ、まじまじと鏡の中の自分と目を合わせた。就職して、研修初日。入社試験では社長と総務にしか会わなかったが、今日はそうはいかない。しかも、小さな店なので、新入社員は千裕一人と聞く。どんな感じなんだろ。いい人達だといいけど。どっちにしろ、上手くやっていけるか。そういう思いからか、鏡の向こうで見つめ返しているのは少し不安な色の残る瞳。日に焼いても赤くなってしまう白い肌に、瞳孔が見えないくらい黒い瞳は、そのせいで不本意な綽名をつけられることもあった。その瞳は今、長い睫の下で翳っている。梳かし上げてもすぐ落ちてしまう癖のない髪が額にかかっている。細い鼻梁の下の薄い唇。整っているが、生来の無表情も加わり、どこか冷たい...結城屋花便り第一話

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