「黒堂が見えました」 肌を刺す冷気のなか、前を歩いていた飛丸が声をあげる。兵庫介は、はっとして我に返った。「お待ち申しておりました」 龕灯のあかりに気づいた祭司が、雪を踏み分け門より出てくる。黒堂は、紅葉山の艮(うしとら・東北)の鬼門を守護する黒翁の館である。中腹の木々に覆われた岩場にあり、祈り堂たる須弥堂は地下洞へと通じ全貌は計り知れぬ。「さあ、こちらへ。翁よりお指図を賜っておりまする」 出迎え...
オリジナル『夫夫小説』 推奨肉食系時代劇。オールド上海。薩摩藩風男子高。現代モノ。完結作品多数あり!
男と男の情愛やら肉欲やらをはらんだ娯楽小説を目指しております。 キャラの猛禽ケモノ率、高め。衆道色、濃いめ。男臭、きつめ。情愛、うざいほど! 作品は「江戸もの」「上海もの」など。楽しんでもらえたら幸いです。
「ブログリーダー」を活用して、神永佳さんをフォローしませんか?
「黒堂が見えました」 肌を刺す冷気のなか、前を歩いていた飛丸が声をあげる。兵庫介は、はっとして我に返った。「お待ち申しておりました」 龕灯のあかりに気づいた祭司が、雪を踏み分け門より出てくる。黒堂は、紅葉山の艮(うしとら・東北)の鬼門を守護する黒翁の館である。中腹の木々に覆われた岩場にあり、祈り堂たる須弥堂は地下洞へと通じ全貌は計り知れぬ。「さあ、こちらへ。翁よりお指図を賜っておりまする」 出迎え...
飛丸の持つ龕灯(がんどう)のあかりが、導(しるべ)のごとく雪闇を照らす。総じて足腰の弱い鵺衆だが飛丸は頭抜けた健脚の持ち主で、勘も良く、聡明さは目を見張るものがある。されども兵庫介とて黒堂へゆけるし、灯も要らぬ。本心では飛丸など蹴散らしたいところであるも、ここで暴れたら半太夫をまた困らせることになる。さらには半太夫に馴れ馴れしい古弦太(こげんた)の態度も甚だ気に入らぬが、半太夫から乱暴狼藉を許し...
パチパチと爆ぜる囲炉裡火が、古弦太(こげんた)の張り詰めた頬に暗い火影を揺らす。「頼近様は……おまえらを連れて来いと申された。なんぞ企(くわだて)があるのやも……」 鋭い切れ長の眼が、炎を映して半太夫を見る。「某も左様に存ずる。雨月丸とか申す妖(あやかし)の暗鬼(くらやみおに)との言、捨て置けませぬ」 仙蔵も眼差しを険しくする。半太夫は頷いた。「確かめねばならぬ。まこと頼近様が……」 言葉を飲み込む。...
「半次郎殿、頼近様のお熱はまだ下がりませぬのか」「先の狩での疲れが癒えぬのだ。もう暫く養生せぬばなりませぬ」「なんと脆弱な。休んでばかりではないか。紀伊の山村で、村人が一晩で死に絶えたとの報せが入り申した折、かような有様ではとても陰狩の鷹とは呼べませぬぞ」 襖を隔てた隣室に頼近が臥せっているというのに、詰る(なじる)声に遠慮はない。声の主は、鷹眼の熱による障で頼近の耳がほとんど聞こえないことを承知...
初春のお慶びを申し上げます皆さま、いかがお過ごしですか?半年ほども更新が滞っていますが……(;^ω^)私は概ね元気です。昨年は私にとって激動の年でした。去年の私は何を考えていたのかな? と「迎春記事2022」を読むと、ずいぶん遠くへ来てしまったな、という感じです。遠くというより、方向が逸れた、という方が正しいかな? (;^ω^)この年で初挑戦の仕事×3回ですよ~我ながら年末までよく泳ぎきったねって、さすがに自分を褒...
「聞かせてくれ」 小家に戻るなり、半太夫は古弦太をうながした。仙蔵も同席している。 兵庫介は半太夫に云われて上座に座ったもののつまらなそうに体を揺らしだし、古弦太が不快そうに濃い眉を寄せる。「順を追って話す」 苦虫を噛み潰す態で話を切り出した。 将軍家への呪詛に関っていると思しき青翁の館に張られた結界を、鵺(ぬえ)の翁たちが解いたこと。呪詛の源を断つため瑞木や太鵬(たほう)、老忍びたちと共に結界内...
「ご無事で」 雪明かりの中、仙蔵がにこにこ顔で歩いてくる。「先にお召し換えを。話はその後にいたしましょう」 仙蔵に促され、半太夫は褌一本の兵庫介を伴い後に続いた。 陰と鷹とのあのような死闘を目前にしても、この男の振る舞いにはなんの乱れも見られない。半太夫を火炙りにすると見せかけて炎と煙で場を掌握し、攪乱して半太夫を逃がし追手をも遮る。仙蔵がなにゆえ火喰いという字(あざな)をもつのか、敵は知らなかっ...
遅ればせながら~明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。では。恒例の「昨年は一体なにをやっていたんでしょうね?」です。昨年は、サイト創設十周年の節目でしたので、特別企画『進撃の半兵衛w』を書いたり、『風の道』の五章「放鷹」をスタートさせ、六話までがんばって書き進めましたが、職場のすったもんだで執筆どころではなくなり・・・・・・(;^ω^)会社を辞めてバカンスに突入~~~その勢いで、疑惑...
「ヒロは、どっちが好き?」 陽二は、二台のバイクに目顔を向ける。フルカウルの真っ赤なバイクと渋い感じのシルバーのバイクだ。 朝食をとった二人は、ダムへと向かうべく駐車場にいる。涼風が二人の髪を揺らして吹き抜ける。秘境の空は雲ひとつない一面の青だ。日を浴びる梢を揺らして小鳥が囀り、木陰で蝉が鳴きしめている。他の客たちは早朝に発ったようで、駐車場には二人が乗って来たレンタカーと、バイクが二台停まってい...
リーリーリーリーリーリーリーリー リーリーリーリーリーリーリーリー 夜も更けて、虫の合唱もいよいよ賑やかになってくる。 博道の頭の後ろで円筒形のナイトランプが灯され、下腹に跨る陽二の裸体が楮色の光に照らしだされる。 和紙シェードごしの柔らかな光を浴びながら、陽二は懸命に腰を振る。騎乗位は、おのれの貧弱な体が曝されるところが難点であるも、感じている博道の顔がよく見えるので、陽二は嫌いではない。後ろ...
幸せだなぁ~♪ おれはおまえといる時が一番幸せなんだ~ おれは死ぬまでおまえを離さないぞ~ いいだろう? スパークリング地酒にしたたか酔った博道が、コテージの窓から星を眺めつつ、お祝いカラオケ大会でご隠居さんが歌った“君といつまでも”を上機嫌で歌っている。因みに原曲のセリフは「おれとおまえ」ではなく「僕と君」である。 コテージは母屋から離れているので、陽二は静かにしろと文句は云わない。声のいい...
「お疲れさま」 佐伯陽二(さえきようじ)と幸田博道(こうだひろみち)は寛いだ浴衣姿で、冷えたビールをなみなみと注いだジョッキをカチンと合わせ、湯あがりの乾いた喉を潤す。 チリンチリーン、廊下の軒に吊られた風鈴が涼しげな音を奏でる。 越後駒ヶ岳をはじめとする二〇〇〇メートル級の高山に囲まれた盆地の夕暮れは早い。山脈に西日が隠れ、稜線が夕照に染まっている。阿賀野川水系の只見川、北ノ又川の上流に位置し、...
おれは花籠に乗りかかり、浴衣の襟を左右に引いた。昼間ベロベロに舐めてキスマークをつけまくった小さな乳首が二つ、愛らしい顔を見せる。こいつの乳首(乳輪を含む)が並みより小さいのは、二十年もの間、ワイシャツ越しにこっそり見分していたので承知之助である。その高嶺の乳首に口をつけ、唾液をのせた舌でぐりっと押し潰し、円を描くように転がしつつ、もう片方の乳首を指で挟んで愛撫する。丹精された乳首には成熟したエ...
「へえ……覚えてた」「まあね」 花籠が、来いよ、というふうにおれへと向き直る。 ヤッター、と小躍りしたいくらいの喜びを、渾身の演技力で顔にも挙動にも出さず、傍らへ行って横になるおれ。花籠がおれの顔を引き寄せてキスする。歯を磨いてよかった。流れのままアダルトなディープキス。 そう、酒に潰れたこいつを介抱したのは二度目である。一度目は二十年前の新人研修の打ち上げの夜。こいつに予約され (笑)、おんぶして終...
――そして、スパークリング地酒に潰れた花籠をおんぶして、コテージへ戻るおれ。 十九時を過ぎたばかりだが、盆地なのであたりはもう真っ暗だ。 リーリーリーリーリーリーリーリー 四方八方からの賑やかすぎる虫の声。蛙の声も聞こえる。近くに沼でもあるのかもしれない。心地よい酔いにまかせ、フットライトに照らされた小道を下駄を鳴らして歩む。夏草の香ばしい匂い。夜風がおれの髪を揺らす。桁違いの虫の音に圧されながら...
――そして、やっと夕食である。 スーさんから「声かけてね~」と云われていたのに盛って寝落ちし、そのまま温泉へ行ったものだから、結局、蕎麦にありつけなかったおれたちだ。バイクに乗っていると振動のせいか空腹を感じにくくなるのだが、朝メシを食べたきり水しか飲んでいないので腹ペコである。花籠も同様のようだ。 食堂は、母屋の二階にある三十畳ほどの座敷で、グループごとに天然木の座卓が並べられていた。登山組らし...
――そして。 怒涛の逆転ホームランを三発打ち上げたおれと花籠は寝落ちしてしまい、夕方になってやっと温泉に浸かった。途中で一度目が覚めたが、花籠が寝ていたのでまた目をつむり、そのまま蕎麦も食べずに大爆睡となったのである。スーさんから内線電話をもらわなかったら、まだ眠りこけていただろう。 遅蒔きながら足を踏み入れた浴場も露天風呂も、他の客と一緒になり、さすがにエロいことはできない。(残念――いや、そうで...
バックミラーで、後方のドゥカティを確認する。 おれは相棒を太股で挟んでホールドし、スロットルをあけた。上りであろうと下りであろうと、ブラインドカーブの鉄則はアウト・イン・アウトだ。コーナーに差しかかったらアウトへ。旋回しつつ減速してイン。曲がり切ると同時にアウトへと加速。洗い越しの他にも、スリップの要因となる落葉や苔、小石や砂利にも注意する。雨粒がシールドを叩いて視界がさらに悪化する。バックミラ...
――この夏。 おれは会社を辞めて旅に出る。 ブァァーン ブァァーン ブァァーン ドゥルンドゥルンドゥルンドゥルンドゥルンドゥルン 旅の相棒は、スズキGSX1100Sカタナ。 日本刀の切っ先をイメージしたという美しいスタイリング。色は燻し銀を思わせるシルバー&ブラック。重厚なボディーと重厚な乗り心地。八〇年代の正統派ロードスポーツスピリッツを踏襲しつつ、現代的に洗練されたおれ好みのバイクだ。「久住(くすみ)...
初春のお慶びを申し上げます皆さま、いかがお過ごしですか?半年ほども更新が滞っていますが……(;^ω^)私は概ね元気です。昨年は私にとって激動の年でした。去年の私は何を考えていたのかな? と「迎春記事2022」を読むと、ずいぶん遠くへ来てしまったな、という感じです。遠くというより、方向が逸れた、という方が正しいかな? (;^ω^)この年で初挑戦の仕事×3回ですよ~我ながら年末までよく泳ぎきったねって、さすがに自分を褒...