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あなたは四月一日に生まれたんだけど早生まれは不利だと思って四月二日に出生届を出したのよ あなたが産まれたとき四月一日ももうすぐ終わりそうな夜だった陣痛は三月三一日のうちからはじまって気を失うほど長かったのなかなか出てこない頑固な子
(これは人間がスマホを持つ前の話) 監視員がからだをカンカンと叩く「9時だぞ」足元の天板に歪んだ影が落ちている「天板を見るのではなく、前を見ろ」くりかえし言われてきた言葉太陽がなければ生きている意味もないのに太陽がうら
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印字された紙が持たれ畳まれ仕舞われる鼓動(縮む・絞まる・ゆるむ・漏れ出す)鏡はヒトを映す瞳はヒトを映す「いってきます!」(ひらく・震える)肌に染みる外鼻をまとう潮風生まれたての飛行機雲その先に門振り返ると海高鳴り(打つ・しびれる・濡れる)砂
本は少しずつ焼けていく。 地平線の真ん中にぽつんとこの建物はあって、家庭の顔をした老若男女がものを買いに来る。夜崎はひとり片隅で店番をしながら、蛍光灯に照らされる人の顔を機械的にチェックしていた。蛍光灯の下では皆、人間はプライベートをさら
深夜、首都光速道路を開発中のETCで通った先に真直ぐな自分史が複数並んで好きなように行けるゲームがある等間隔な灯の下、助手席にはシンセサイザーに脈をまかせる君を置きドラム音でちょうどその横顔に灯が差すシンクロの仕組を頼りにスタートするバーが
あの子が好き! と教室で叫んだ人がいて仮にその名をミユキとするミユキは恋なんてしたことがなかった涼しい目を持ちながら八重歯がかわいいけど格好つけることが苦手で少しださいので深追いされることはなく正しい学生生活をしているミユキは勉強ができない
駅前の本屋はつぶれてしまったと母は言う。私の荷物を持ち、颯爽と前を歩く母の背中は小さい。元から細かったけど頭も首もやわらかそうで、手のひらでつかめそうなくらいだ。先日、就職が決まり母には電話で報告済みで、父もいないふたりだけの小さな家族も
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