わたしは、いないいないばあ専門の評論家である。 いないいないばあを評価しはじめたのは、生れたそのときから。もう十二か月である。同業者のなかではかなりの古株だと言えよう。 今回は、いないいないばあの魅力について語りたいと考えている。その動機としては、大
私はかえるであり、また、いもうともかえるである。 父は生まれた時から知らぬ。母は私の足が生えた時に死んでしまった。夕食の蜻蛉を田から出て道路まで追って行った所で車に轢かれたのである。兄弟はたくさんあったが、いま一緒に暮らしているのは、このいもうとだけだ
人に構ってはいられないのである。 彼は家にいる間、常にヘッドホンを付けている。食べる時も寝る時も、便所へも風呂場へも。それでいて何を聴いているかと言えば、延々とある音を聴いている。 他人の悲鳴。 老若男女問わず、ひたすらに悲鳴を聴き続ける。高い声低い声
今日午後三時頃、Aビルを清掃していたB清掃株式会社の社員吉岡一郎(二十八)が、突風に煽られ転落死した。発見された当初、同氏は衣類を身に着けておらず、安全器具も付けていなかった。警察は現場に居合わせた同社員に事情を聞くと共に、現在事件の詳細を調査中である。(
五月末日。彼は眼の奥に脈打つ頭痛を揉み消すように灰皿へ煙草を圧し付けた。マウスを握る骨張った右手は液晶画面から溢れる白光に照らし出されて、机上に影を落としている。硬い椅子の背凭れに身体を預けると、押し出されるように濃い溜息が出た。手探りで足下の電源を落
サツキと喧嘩をした。給食の時間のことだ。サツキの大事にしていた筆箱に、手を滑らせて牛乳をこぼしてしまった。僕が悪いとは思う。でも、ワザとではない。それに、たくさん謝った。給食の時間が終わり、五時間目が終わっても、まだ謝っていた。それでも、サツキが許して
お父さんの話によると、どうやら花火の卵はあそこでしか手に入らないそうなのである。少しほっとした。確かにあれほど奇妙キテレツなものがどこにでもあるなんて面白くない。よろしくない。 転がるように薄桃色のサンダルを履いて、立て付けの悪い引き戸を全体重でこじ開
1 最近の私の趣味はあてもなく電車に乗ることである。 階段を上がり終わった時には既に電車が到着していた。私は足早に車両の中へ歩みを進める。 ドア付近にいた人がこちらを見て驚いた様子を見せたが、いつものことであるので別段気に留めはしな
うっすらと霧が立ち込める静かな湖畔。 そこは知る人ぞ知る釣りの名所であり、男がその場へ到着した時には数人の釣り人が既に釣りを楽しんでいた。 男はいつもの自分の定位置に付き、簡易椅子と釣り具を置く。ぼんやりとした朝の陽ざしを受けて、男の取り出し
ある大手企業の社長室に1人の技術師が訪ねてきた。 「よく来た。注文の品ができたのかね?」 社長はそう言うと、技術師が小型フォークリフトで運んできた大きな荷物に目を遣った。 「はい。予定より早く完成致しましたので、実際に社長にご覧になって
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