人の幸せなど誰も興味がない
夏。湿った暑苦しい空気を一瞬、真ん中を切る風が流れる。切る、というよりは、もっと優しい。そよそよ、だけど爽やか。その風を皮膚に心地良く感じる度に、子供の頃の光景が蘇る。夏には家の中の風通しが良いように、祖母か母によって、夏用の建具に取り替えられている。透ける生地、ブルーの波を形取った、涼しげなのれんが、風が吹く度に細長に揺れる。玄関周りに、打ち水がされている。風鈴チリンチリンは、あまり記憶にはないが。夏の風を受けると、田舎の家での、あの気持ちいい風が、瞬時に子供の頃に時を戻す。ベルを鳴らすとヨダレを垂らすパブロフのワンチャンのごとく。条件反射的、反応か。その部屋は、冬には掘り炬燵。テレビが置いてある。高い天井には明かり取りの窓。そこでわたしは、テレビを祖母と観ていた。兄、姉、両親の姿はテレビを観ていたわた...人の幸せなど誰も興味がない
2024/06/30 15:29