オリジナル学園伝奇小説連載中
高校生の少女那須野結繪と化野音音(あだしのねね)。狐の化精・葛葉と静葉の力を借りた少女ふたりと、唯一の神を信奉する第2契約者たちとの戦いをえがいた伝奇小説。
――半月後、 特訓の末、バイトでも上手に焼けるようになった カラマリボールを引っ下げ、 リノたちの店は<カラマリボールマニア>としてリニューアルオープンした。 タコヤキのタコの代わりにイカを入れたカラマリボールは、 思った通りハワイアンや、 アメリカ本土からの観光客にも好評で、 口コミで広がるとマスコミもこぞって飛びつき、 当然人気は日本人観光客にも飛び火した。 新店舗を出店するにあたり、 焼き手の社員やバイトの養成にも力を入れ、 キチンと人員が確保出来てから出店をしたため、 しばらく品薄状態だったことも 結果、人気に拍車をかけることになった。 文字通りの業績のV字回復に とんでもなく忙しくなったリノたちは嬉しい悲鳴を上げた。 「さんくす音音! コレデ私タチ一族、生活シテイケル!」 一方、今回敵対した火の一族についても、 ナドワの属するアメリカンネ..
そこに、 「よっしゃ、準備完了~~~っ!」 というキザクラの大音声が響き、 火炎が氷の壁に向かって放射される。 「キザクラ遅い!」 「すいやせん~、遅れた分は派手にやりますぜ~! とりゃ~~っ!」 キザクラ以下ボスネセンスキー鬼兵団の面々が、 火炎放射を開始するが、 氷の壁は一旦は溶けるものの、 再凍結していっこうに薄くなる気配が見えない。 「火炎放射器の燃料が尽きるのが先か、 雪ンバの妖力が尽きるのが先か…」 唸る音音の呟きを聞いた キザクラの横で何もできずにいたクボタが、 「クソっ…俺にできる事は、 ファイヤーダンスで応援するぐらいしか…」 と焦れてダンスのステップを踏み始める。 すると、 火炎放射器の炎が幾分増したように思え、 クボタはさらに集中して踊り続ける。 明らかに炎の威力が増し、 氷の壁が徐々に後退を始めた。 「すごい…」 ..
「ぎゃー、折れるっ折れるぅーっ!」 「この声…まさか雪ンバ…、 ははは、なんと本命が釣れるとはね…」 そう呟いてアメリカ兵士に変装していたキザクラが正体を現した。 「やかましいっ! どっちにしろ音音はもう死んだんだよっ! 早く放せって言ってるんだよっ!」 暴れる雪ンバの前に立って、 「見苦しいですわね…」 と吐き捨てたのは先ほど凶刃に倒れたはずの音音だった。 「化野…音々…どうしておまえ…生きて…る…」 血のシミが広がる胸にナイフをさしたまま 仁王立ちをしている音音を見て言葉を失っている女。 その肌から生気が失われ、 化けていた雪ンバが正体を現した。 「お久しぶりですわね…日本で見かけないと思ったら、 雪女のくせにハワイに潜伏してるなんて、 想像もしてませんでしたわ」 ほーっほっほっ! と高笑いしながら、 ナイフをはずしてみせる。 「マジック用の小道具..
かき氷を食べた鬼兵団員たちは、 その場に倒れて動かなくなっている。 「これはどういうことっ! 事と次第によっては…」 「タチアナ! 落ち着いてくださいまし―― そんなことをしてわたくしたちに何の得が…」 「音音様!」 音音の弁解を遮るように声が上がる。 「ダメです…鬼兵団員が凍結していきますっ…」 介抱していたメイドの悲鳴にも似た報告に、 うずくまっている団員たちを見ると、 霜が降りたようにうっすらと白くなっていた。 「音音っ! よくも私の大切な団員たちを!」 タチアナは言うが早いか、 腰の後ろに留めてあるナイフが手に滑り込むと そのまま音音の胸に刃が吸い込まれていく。 「あっ…」 自分の胸に刺さっているナイフの束に手を伸ばそうとして、 音音は膝から崩れ落ちていくのを、 護衛のオオゼキが腕を長く伸ばして辛うじて受け止めたが、 その腕の中でぐった..
「さあ、できましてよ」 木を紙のように薄切りにして作った 経木トレイに盛られたカラマリボールが つぎつぎとロシア人の先頭の男に手渡されていく。 「串にさしてひとつづつお取りあそばして… 行き渡りましたか? それではどうぞお食べください! プリャートナヴァ アペティータ(召し上がれ)!」 音音に言われるまま、 熱いカラマリボールを口に含んだ男たちは、 最初はふはふ口の中で遊ばせいたが、 味がわかると破顔して、 「フクースナ!(おいしい)」 「オーチン フクースナ(すご、うまっ)」 と満足げだが、 10人にひとりが咳き込みながら悶絶した。 「今回特別に当りにはデスソースを入れておきましたわ」 その中の一人にはタチアナも含まれていて、 「――音音っ! か…可憐な美少女にっ…はっはっ… こんな辛いモノっ…はっはっ… 食べさせてっ…はっ--っ! 殺す気っ..
ダニエル・K・イノウエ国際空港と滑走路を共有する、 リベラルアメリカ軍のヒッカム空軍基地の格納庫前で、 屈強な男たちを60人程従えた 軍服姿のツインテール少女が立っていた。 13~15歳位にしか見えないその少女―― 帝政時代のロシア軍大佐の襟章を付けた――の前にリムジンで乗り付けた音音が降り立った。 「――遅かったですわねタチアナさん」 音音が、 東京にいたタチアナに出したメールに指示した、 スカイプでの通話から20時間後というのは、 飛行機のチャーター代をケチって、 自衛隊輸送機c2に乗せて貰った結果であり、 ほぼ音音の責任と言える。 しかも、 巡航速度マッハ0.8という、 ボーイング787ドリームライナーよりマッハ0.05も巡航速度の劣る 自衛隊のC2で来たことを思えば上出来だろう。 「なっ…!」 ふだんならすかさず言い返すタチアナだったが、 慣れ..
さっそく準備にかかった音音は、 エディブルフラワーを買い付け、 甘味シロップに漬け込むと 先日の戦いでクラーク博士から手に入れた 細胞を壊さずに冷凍する技術=スーパーセルライブ製法で氷漬けにした。 ふわふわのかき氷とエディブルフラワーのコラボは インスタ映えする商品に仕上がっていた。 「これは売れそうですっ!」 と喜ぶナドワたちに、 「写真を撮ってSNSで拡散してくださませ」 と口コミでの宣伝戦略に出る。 その他、 リノを先生にして、 河童ガードのクボタにフラを覚えさせたものの、 ちょっと地味な仕上がりになってしまい、 (リノは、不思議と荘厳な感じのするクボタのダンスは凄い、 と絶賛していたが) 急遽別のフラの先生に教授してもらったファイヤーダンスで、 炎出しまくりで派手な演出に加え、 撮影中に丁度噴火した(幸い人的物的被害はなし)キラウエアをバックに..
「…何か訳ありのようですわね…」 「……はい。 実は今流行っているシェイブアイスは、 安くて見栄えはするのですが、 あまり美味しいとはいえません…。 それはあの店を運営する火の神ペレを信奉する一族が 日本から来た雪ンバというあやかしをアドバイザーに迎えてから 始まったことなのです」 「雪ンバっ! なんてことっ!!」 「ご存知なのですか?」 「私こう見えてましても、 日本ではあやかし総取締で知られる弾正台の 副長官・弾正忠(だんじょうのちゅう)を拝命する者 ――あやかしで知らないものはございませんわ!」 と大見得を切ったものの、 以前鎌倉で、雪ンバ一党とのかき氷バトルで勝利して、 そのあと行方不明になっていた雪ンバ達がまさかハワイにいたとは 正直驚きを禁じ得ない音音だった。 「ちょっと待っていただけるかしら…」 とふたりに告げると護衛のオオゼキに声を..
「それは…ちょっと言いづらいのですが、 私たち本土のネイティブと違い、 リノたちハワイアンの精霊使いたちはちょっとマネーに不自由してます…」 「それでタコヤキ?」 「はい、リノに私が日本で食べたタコヤキが美味しいという話をしたら、 動画サイトで作り方見てハマって…」 「それだけでタコヤキを? …無茶ですわ…」 (あ…でも、ここで恩を売っておけば…) そう判断した音音は、 「いえ、わたくしでできることなら協力させていただきますわ」 といかにも謙虚に聞こえるように答えた。 「本当に? うれしいっ! 音音、ありがとうっ」 それまで蚊帳の外に置かれていたリノが、 音音の手を両手で取ると激しくシェイクしてくる。 そんなリノの目を見つめながら、 音音はちょっとした心配の種、 ハワイでタコって食材は大丈夫なのかを聞いてみた。 「ネイティブは食べますし、 観光客も食..
「How do you make it!? Please teach me!」 「まあ構いませんけど…」 答えながら鉄板を掃除して, 新たに油をひいていく。 「では作りますわ」 生地を鉄板の上に流すと、 じゅわーっという音と共に広がっていく。 冷蔵庫を開け、タコの入ったタッパーを見つけると、 ポツポツと穴に入れ、 続いて揚げ玉、紅ショウガを全体に振りまいていく。 「Did you understand it ?(ここまではおわかりですか?)」 「OK、Please continue it(いいわ、続けて)」 「 Look well」 ピックを持った音音は、 それをゆっくりと鉄板上に左右に走らせ、 それが終わると上下に走らせてスクェアに切り分けた。 流し込んだ方から、 ピックをくるくると回すようにして、 生地を器用にまとめてひっくり返すと穴の中に押し込ん..
翌日、昨日の地震のときの対応がSNSで拡散した結果、 「シェイブアイスマニア」は、 開店前から行列ができはじめ、 開店直前には昨日以上の行列ができていた。 音音は、 ナドワと例の少女を,、 自分付きのSP=河童ガードに探しに行かせるつもりだったが、 店の行列整理と警備に回さざるを得ず、 自分ひとりで探しに出かけることにした。 (このままでは本当に雪女の子たちが参ってしまいますわ) 手かがりといえば、 昨日キザクラが見失ったのがダウンタウンだということぐらい。 (とりあえず東に行ってみましょう) クレジットカードを提示すればタダで乗れるトロリーバスを使って ダウンタウンのそばまで行くことにした音音。 こっちの方が地価が低いので、 新たな店舗探しも兼ねている。 ハワイ政庁前でトロリーを降り、 ダウンタウンへ入って行くと あちこちの店舗から おいしそうな匂..
10分後、 代わりの雪女たちを店に連れて行った音音。 「萌さん、ごくろうさまでした。 私が代わりますので、どうぞ休憩なさって」 と声を掛けるのとほぼ同時に地面が鳴動した。 「きゃあっ」 「地震!?」 日本人スタッフが驚いて声を上げる。 (少々大きいですわね…) 音音が感じた通り、 だんだんと大きくなり震度にするとちょっと弱めの4ぐらいの揺れが少し続いた。 地震に免疫のある日本人はほとんど動じないが、 それ以外の人間は日常生活においてほとんど経験することのない 大きな地面の揺れに悲鳴を上げて右往左往し始める。 行列に並んでいる人の中にも動揺して 座り込んだりする人たちはいたが、 同じ行列に並んでいる日本人たちが、 「No problem」 「Don’t worry」 「Earthquakes perhaps end 」 などと言って手を握ったり肩を抱い..
出店に際して、 音音は配下の雪女たちに、 かき氷用の特上雪を用意させていたが、 結果炎天下のハワイでは、 雪女たちの体力にもおのずと限界が訪れつつあった。 (あのシェイブアイスを喜んで食べてるようなアメリカ人ならともかく、 日本人相手だと氷で手を抜いた途端、 <味が落ちた>だの<ブランドに胡座をかいた殿様商売>だの SNSに書きまくられて、 鎌倉の本店まで炎上しかねないのですわっ) 音音は、経営する<道楽チェーングループ>の 最高級割烹<極氷>への影響を考えると、 市販の氷を混ぜられない。 とは言え、 このままでは雪女たちの体調が心配なので、 なんとか手を打ちたいと思っているものの妙案は浮かばず…。 そんなことを考えながら歩いていると、 反対側の道路を見覚えのある女の子が 現地人の女の子といっしょに歩いているのに気がついた。 (あれはアメリカンネィ..
常夏の島ハワイの州都ホノルル。 ワイキキ海岸沿いの目抜き通りカラカウア通りの一本北にクヒオ通りはある。 その一番西、ホノルル動物園にほど近い場所にあるかき氷ショップに 日本人の行列が出来ていた。 「はい、お待ちどうさま! 7ドルですわ!」 (第二契約者どもからドルを巻き上げに参りましたのに 日本人が相手では本末転倒ですわっ) 音音は表面の笑顔とは対照的に内心は、 苦虫をかみつぶしたような状況になっていた。 「音音さーんっ! 氷チェンジです。 お願いしますー!」 県立稲村ケ崎高校からゲストで招いたはずの桂木萌までもがお店で立ち働き、 音音に氷を追加を依頼してきた。 「はいはい、わかりましたわ。 ちょっと行って参りますとも…」 この場合の氷というのは、 雪女の里から連れてきた雪女のことで、 近くに借りているコンドミニアムで待機中の子たちと 入れ替えないと..
第11話 結局バナナスィーツ勝負の行方は、 接戦ではあったものの、 バナナの芳醇な香りと濃厚な甘さで勝る雨林23号を手に入れた 音音たちの勝ちに終わった。 「コングラッチュレーション音音。 今日は素晴らしいスィーツを食べさせていただき感謝する。 これが、凍結に伴う細胞破砕を防ぎ、 食品の長期保存と食味の低下を大幅に低減することを可能にした スーパセルライブ製法の詳細だ」 クラークから差し出された書類を素早くめくり、 内容に目を走らせた音音は、 「確かに…」 と言うと笑いながら右手を差し出した。 ウィルス等を仕掛けられるデータではなく、 書類をくれた段階で音音はクラークに対してある種の信頼を覚えていた。 「いつまた、戦場でまみえるかもしれないが、 それまでは、よきライバルでありたい。 できれば若者が傷つき命を落とす戦争は避けたいものだ。 存外、ロ..
第10話 「いやー、 連絡できず申し訳ございませんでした…」 スタジアムではスィーツ勝負が白熱するなか、 オオゼキから音音へ状況報告がなされていた。 「敖環姫(ごうかんひめ)に助けて貰ったまでは良かったんですが、 襲ってきた連中は、 なんかすごい数の船を動員してて海上封鎖されちまって…。 仕方ないんで海中をずっと送って貰ったんですが、 海中だとスマホのタッチパネルがきかない上に、 途中で深く潜りすぎたみたいで陸(おか)に上がっても連絡できなくて…」 「仕方ないのですわ」 オオゼキは、 以前音音がしでかした、 タコ入道騒動の時に懇意になった、 南海竜王の娘・敖環姫とときどき会う中になっていて、 万が一のことを考えて熱海沖合で待機してもらっていた彼女と その郎党の人魚たちに救われたいきさつと、 予定していた小田原に姿を見せなかった理由を音音に報告した。 ..
第9話 「オオゼキはまだ?」 「まだ、連絡が取れません。 クボタたちを捜索に出してるんですが…」 糖度20オーバーするバナナ・雨林23号を入手したという連絡のあと、 熱海から、国道134号線沿いに増援を--と 言って寄越したきり、 予定時刻を過ぎても小田原に現れず、 消息が不明になっていた。 化野家の私兵・河童ガードのほとんどを、 海沿いの134号線に動員していたが、 今日、土曜日の12時を回ってもその行方は知れず、 会場のキッチンスタジアムでは、 道楽チェーン側スタッフのイライラが募っていた。 「こうなったら、 確保してある普通の品種でやるしか…」 焦れる桜花に音音は、 「まあ、待ちなさい。 桜花、あなたがそれでは、 みなが浮き足だちますわ」 と他には聞こえないように諭した。 「待てば海路の日和ありと いうではありませんか?」 音音が..
第8話 電車のドアが開いた途端、 3人はそっと最後尾の車両から抜け出していく。 中ほどの車両に乗っていると報告をうけている敵が車両に乗り込むのと 入れ違いになるように飛び出したので、 少しは時間がかせげるはずと判断したが、 バレるのは時間の問題だ。 ホームから路線に飛び降り、 脱兎のごとく線路を横断すると、 フェンスを乗り越え、 街中の雑踏の中へ紛れ込んだ。 バナナを会場に届けるためには、 迂回するにしても最終的には東に向かう選択肢しか選べない。 そう言う意味で、 伊豆半島の根元にある熱海は、 東は海、 西が山になっており、 海岸線を南北に走る熱海海岸自動車道と その少し山側を走る国道135号線以外は、 港で船に乗るか険しい山道を行くしか手がない。 当然、港や山道にはすでに人を配してあり、 蟻のはい出る隙間もなかった。 だが、海岸へそそぐ初川..
第7話 たっぷり礼金をせしめたナベシマに駅まで送ってもらった一行は、 ちょうどやってきた東京行きの特急・踊り子号に乗り込むことができた。 「この分だと余裕で間に合うが、 片瀬江ノ島への到着時間を調べて、 ガードの本部に連絡いれておけ」 指示しながら、車両内をそれとなく見回していたクボタは、 駅の改札にいた二人組が自分たちの斜め後ろの席に乗り込んでいるのに気が付いた。 しばらくして、スマホをいじりはじめたのを見たクボタは、 「ちょっとトイレ行ってくるから、 車内販売のおねえさん来たら、 ビール買っとけ」 席を立って、こちら側を向いている二人組の方へ歩き出し、 その横で振り返ると、指で2本のサインを2度出しながら、 「ぬるくなるから、ひとり2本だけ買えよ」 と言って再び歩き出したと思った途端、 その二人組の窓側に座ってた方の首にヘッドロックをかける。 一瞬..
管理人 桂木 萌です。 もうしわけありません。 間違えて6話を先に公開してしまいました。 こちらが第5話になります。 大船駅から14時台の特急踊り子号に乗り込んだ オオゼキ以下3名は、 駅弁の名店・大船軒で鯵の押し寿司とカップ酒を買いこんで、 すっかり物見遊山を決めこんでいた。 「バナナをもらいに行くのに3人もいらんとは思うんだが、 ボックス席を自由席で気兼ねなく使うには最低3名は 必要だからなぁ…コクリュウ、アラマサ、お前らも食え食え」 押し寿司を包んでいる紐をぶちきると びりびりとぞんざいに包装紙をやぶって ふたりに差し出す。 「いただきます」 鯵に少ししょうゆをたらして食べ始めたふたりに、 カップ酒を渡そうとすると、 「オオゼキさん、さすがに勤務中に酒は…」 と言って受け取ろうとしない。 「…はいそうですか。じゃあいいよ、 俺だけでひとりさ..
第6話 「!!!」 驚くふたりが急いで迎撃の態勢を取ると、 周囲を警戒する。 「オオゼキ! 駅から園の入り口にいたるまでに張り巡らした、 我等の監視網をよくぞどうやって潜り抜けた! だが、 知られたからにはただでは帰さんぞ!」 そう息巻く声の主は、 温室の横柱に足だけでぶら下がっている男だった。 「ナベシマ…、 バテレンガッパの貴様がいるということは,ここは…」 急にきりっとしたオオゼキの背後で、 コクリュウとアラマサが、 「普通は本園から行くもんなぁ」 「酔っ払ってたからなんていえないもんなぁ」 と声を潜めて話している. その脇で、 ナベシマと呼ばれた河童の眷属とオオゼキは話を続けている。 「ご明察だ。 ここはすでに我々、 九州伴天連(ばてれん)河童会が占領している。とっとと帰れ」 「日本独自の大乗契約理論で神の無限の愛を説く貴様らが、 ..
「悪い冗談はおよしなさい!」 と音音が言うやいなや、 ボディーガードの河童たちの指先から、 アーモンドやピスタチオ、落花生なとが メイドに向かって一斉に飛んでいき、 ビシビシと命中する。 「痛っ! 痛たたっ!」 ボンっと煙ったかと思うと、 そこにはメイドの姿は無く、うっそりと狢(ムジナ)が立っていた。 「ひでえな、かわいい冗談じゃないですか? だいたいそれが危険な潜入捜査に挑む俺様に対する仕打ちですかい?」 「やかましいっ! とっとと報告しないと、狢汁にしちまうぞ!」 普段から折り合いの悪いキザクラが、 ペティナイフに手を伸ばすのを見て貉が勢いよくしゃべり始めた。 「わわっ、今回の件、 禁断バナナは関わってないと思いやす。 今は儲かってますけど、 借金がすごくて、 クラークは返済にキューキューしてやすから」 「新宿辺りのいい借金弁護士を紹介してや..
「マイナス4℃で細胞膜に傷をつけるとは 考えましたわね」 苦し紛れに当てずっぽうに言ったものの、 その一言でクラークの顔色が変わったのを音音は見逃さなかった。 「そこはそれ、企業努力の結晶ですから、 おいそれとは教えられることではありませんな」 「じゃあ、御社の細胞膜破壊製法と 私どもの『鎌倉バナナ道楽』の営業権をかけて バナナデザート勝負をしませんこと?」 「いいでしょう。 それでは1週間後ではどうでしょう? 場所は…」 「江の島に魯山人星岡窯を復元した 飛鳥グループの料理研究施設がありますの。 そのキッチンスタジアムではいかがかしら?」 「結構。では詳細はのちほど。 今日は存分に楽しんで行かれよ」 そう言うとクラークは店の奥に消えた。 お互いの利権をかけての バナナデザート勝負は 一週間後の土曜の13時から行うことがきまり、 鎌倉ばなな..
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