母は包丁を握る。

あの頃、自分がまだ本当に幼い頃。その頃の母親の顔をあたしは覚えていない。薄暗い台所で、中島みゆきをラジカセでかけながらくわえタバコでキッチンに向かう母親。それ…

濡れタオルを顔にかけて。

あたしはよく泣く子だった。ぼんやりと覚えているし、物心ついてからもそうだった。姉たちも、泣き虫だとよく言っていたし。当時、2階建ての一戸建てに住んでいた。多分…

要らない子ども。

生まれた日は、ちょうど梅雨入りの日だったみたい。母親はかなり憂鬱な気分でいたのだと、いつだったか話してた。三人姉妹の一番下として生まれたんだけど、どうやら既に…