10年以上前の話か。ここつかえるのかな？

野村から聞いた話だけでも、老健雲ノ平の問題は複雑すぎた。私の知らない言葉ばかりで、私の理解度の問題もあるのかもしれないが、それを差っぴいても、一つ一つの問題が大きすぎる。きっと私が聞いた部分は問題のごく一部で、内部ではもっと自体は深刻なのだろう。「問題の一つ一つが複雑に絡み合...

危険な魅力

「町側が知っていた？計画倒産するかもしれないことを、町側の上層部が知っていたって事ですか？」 野村は私の問いは答えなかった。話しづらいのか、話したくないのか。それとも将棋の方が大事で、次の手に思案していてそれどころではないのか。またしばらく沈黙が続いた。 私は歩を捨て...

数直線上の虚数

穴熊は、相手の王が強固に固められる寸前に攻撃を開始し、急戦を挑むのが常識である。それは分かっていた。しかし、野村がこの俄か仕込みの戦法をどこまで研究しているのか興味もあって、私は仕掛けるのをやめた。長期戦の様相である。話も長くなりそうだ。 「老健雲ノ平ってのは、...

浮雲

家内は3年ほど前に他界した。今は娘と二人で田舎でひっそりと暮らしている。娘も田舎暮らしは案外気に入っているようで、栄えている天原市街へはあまり行きたがらない。 蓄えはそれ程ないが、あと数年はもつだけの財産は持ってきている。農業も軌道に乗って、3年目の今年はようやくプラスが...

時間は平等に流れているか？

天原市は人口5万人に満たない県境の町である。管内では最北端に位置し、農業と漁業のバランスが取れた街づくりに成功している。市の鳥はうぐいす、市の花はノジギク。ノジギクは、海沿いの岸壁などによく見かけるが、私の住む家の裏にも何故か群生している。 一ノ倉町、二ノ倉町と、山の名...

留まらぬ雲

「老人保健施設雲ノ平で虐待が行われている。統括事務長として調査、是正をしてきてくれ」と、小田町長は私にこう言った。あまりの突然のことで、状況が旨く飲み込めない。 統括事務長とはどんな役職なのだろうか、と思った。「まぁ、普通に事務長と思ってください」と、町長は言うが、事務...

流れるままに

ある日のことだ。畑仕事をしている私のところへ、私を探して私の住む町の町長が訪ねてきた。もちろん知り合いでもないし、訪問理由の心当たりもない。とりあえず茶を出して、道端（畑端か？）もなんだから、上がってもらうことにした。 町長とは面識はなかった。たしか・・・以前の町長を...