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2009/06/11

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  • ときは幻だけを残して移ろいゆく

    ときは幻だけを残して移ろいゆく空はどこまでも碧く澄みわたり茶褐色の変身にいそしむケヤキはきめ細やかな秋の陽光に照射され幽玄の光輝を放っている遠くの広場には薄桃色に光る可憐なコスモスが秋風にやさしくなびきつややかにかおる木槿の赤い花芯のむこうに秋の短い夕陽がしずかに傾いてゆくやがて遊び疲れた子供の影がさみしい日暮れの小道に遠ざかりしんしん深まりゆくしずかな宵闇が濡れた夜気にとけてゆくわたしは透明な静謐のなかに流れゆくやすらかなときの鼓動を聴きながら命の永らえたことに安堵の酒杯をあげる杯を重ねるたびに熱く熟れた酒は五臓六腑の奥深く凛と沁みわたり寂滅の刹那にわたしを迎えに来る光の船の影が蛍火のようにおぼろに明滅するそうして秋の夜長の奥底に芳醇な霊気がただよいときは幻だけを残して移ろいゆくときは幻だけを残して移ろいゆく

  • 今宵のねぐら

    今宵のねぐら初めて歩く知らない道どこへたどり着くかわからない病院の横を通り過ぎ高速道路の下のトンネルをくぐりなだらかな坂道を滑るように歩いてゆくこうして知らない街の気配を感じながら歩くことは心地よい筋肉の躍動に生きている実感がする大きな道路の信号を渡り交差点を右に折れしばらく歩いていると方向感覚が曖昧になってきたどのみち行くあてなどないのだから太陽のしずむ方向に歩いてゆく初秋とはいえまだまだ暑さは健在だ歩みを止め老人の憩いの公園のベンチで冷たいお茶を飲む乾いた喉に生気が戻り疲労がだんだんと弛緩してゆくぼんやりとベンチにたたずんでいるとある思念がこころに浮かぶときの流れの青白い風雪に晒され生命の残存時間はだんだんと擦り減ってゆきその先には終焉の墓標が待ち受けているこんな哀しい摂理に抗うことはできないけれども...今宵のねぐら

  • 太陽は沈む

    太陽は沈む天の奥深くどこまでも清澄な碧がひろがり命に燃える太陽が燦然ときらめいているそれでも壮絶な殺人光線を撒き散らしていた激烈な真夏の太陽は死んだときの移ろいが真夏の太陽を抹殺し蝉の鳴声は一瞬にして途絶した熱風を吹きつける筋肉質の夏風はもはや大気を揺るがしてはいない魂を鋭く抉(えぐ)る大好きな真夏の太陽は夜空を震撼させる大輪の花火のように煌々と胸を締め付け瞬時に消えてしまったいま大空にひかる太陽はなんと優しいことかみどりに濡れていたソメイヨシノにつややかな紅葉が色づき道端には狗尾草(えのころぐさ)も生えはじめたもうすぐするとあたり一面に曼珠沙華が群生し真っ赤な命火に燃え盛ることだろうやがてときが移ろいふたたび夏があたりを支配すれば太陽はらんらんと光輝を撒き散らすけれどもそのとき狂おしく輝く太陽に邂逅する...太陽は沈む

  • 生きる意志はなくしたくない

    生きる意志はなくしたくないはるか遠い昔若い情熱が噴出し夢に向かってがむしゃらに突進したけれど苦難の連続に気力は激しくくじかれ幾度も頓挫した若さの充溢する明るい夢の時間はもう戻っては来ない寒々とした孤影が俺を嘲笑しているもはや残されているのは残存時間を使いきり息を引き取ることだけだそうであってもどうしても夢をこの手に掴みたい生きる意志はなくしたくない背中を伸ばし胸を張ってカツカツと夢の道を歩いてゆき生命の充溢した楽しい夢のときを過ごしたい夢が手に入らなかっても自らを卑小化することはない苛烈な暗闇にもいつかはかならず眩しい陽光がつらぬき落ちてくるそのときまで夢を諦めず自分の信じる道を歩き続けるのだいくら年をとっても生きる意志を強く持つのだ長い歳月の間に悲しいことや辛いことが待ち受けていても生きる力を獲得すれば...生きる意志はなくしたくない

  • いつまでも

    いつまでも空はとてつもなく碧く柔らかな日光がさわさわと零れ落ち優しい光が刈り終わった田んぼに広がってゆく痩せた背中にほかほか日光が宿りほんのりと軽やかな肩ごしに芳醇な秋風がやさしく吹き過ぎるこんなしっとりと光輝の香る秋の空気につつまれているとあの青空のはるか彼方に消え去った遠い昔が夢のように思い浮かぶうす暗い八幡様の境内で鬼ごっこや缶蹴りをして日が暮れるのも忘れて遊んでいた友だちはいまどこにいるのだろうか遊び疲れて長い影と一緒に家路に帰った楽しい日々はもう戻っては来ない過ぎ去ったときはみんなまぼろしのなかに消えてしまったのだいまでは明日の約束のない老残のときの中に漂い残されている春秋は頼りないけれど生きている喜びを惹起させるおだやかな秋の陽光につつまれて月の雫のような甘美なときがいつまでも続けばいいのにいつまでも

  • ときの流れはこころを浄化する

    ときの流れはこころを浄化する夕闇が落ちてきて家々の窓辺に明かりが灯るころ寄る辺のないさみしさを堪えて孤独の棲家に帰ってゆく玄関のかぎを開け誰もいない部屋に明かりをつけ孤独の一夜を過ごすベットに横たわる沈むような疲れがゆっくりとほぐれてゆき今日というときが終わったことにそっと吐息を吐くぼんやりとしたときがながれ寂しさを紛らすように古いブルースを聴きながらバーボンのロックを飲む熱い酔いが体内に沁みわたる酔いの切れ切れにあの燃え滾(たぎ)る情熱に突き動かされ夢に向かって疾走していた遠い昔のことを思い出す今では昨日の無言の暮らしが今日も続き明日も繰り返される孤独なときの流れに浮遊しいつしか夢への情熱は涸渇してしまったそれでも同じ日々の繰り返されるなんの変哲のないときの流れが夢を無くした失意のこころを静かに浄化する...ときの流れはこころを浄化する

  • 5月の太陽に誘われて

    5月の太陽に誘われて大空は真っ青に透きとおり天空いっぱいにきらめく5月の太陽かがやく陽光にまんべんなく照らされ全身を駆け巡る赤い血潮の至福玲瓏(れいろう)な空気につつまれ若草に溢れる小径を散歩するタンポポを黄色くなびかせ吹き抜けてゆく爽やかな風山裾にそって伸びている鉄路銀色の列車が軽やかに駆け抜けてゆく曲がりくねった道の角に小さな神社境内は鬱蒼と樹林がひろがり古代のときがひっそりと横たわっている赤や白の鮮やかな色彩に咲き誇るドウダンツツジを通り抜け白くお洒落なカフェの扉を開く水色の窓からきらめく明るい日差し芳醇にとろけるまろやかな珈琲かすかに流れゆくブルースの歌声幸せのひかりがゆっくりとひろがり穏やかな静謐のなかにこころの奥底に巣食う怨念がじんわりととけてゆく5月の太陽に誘われて

  • 幸せを求めて

    幸せを求めて空はどこまでも蒼くひかり凍てつく陽光はやさしい春の日差しに変わったこんな春の光を浴びて痩せた老人が孤影を道連れにさみしい野道を歩いていくとおい昔老人は虚ろな瞳をしてどこにあるかわからない幸せを求めて旅を続けていたあるときながい旅の途中で酷い病魔に襲われ生死の境をさまよい夢の時間は虚無の彼方へ流れて行ったそれでもうずくような衝動にかられ厳しい風雨に晒されながら険しい山河を越え荒涼とした原野をさまよい寂寥の淵を歩き続けたそうして鬱蒼とした岨道で妙な胸騒ぎに襲われ天空に熾烈な太陽光線がきらめいたその刹那本当の幸せを頓悟した生きていることそのこと自体が幸せそのものなのだ夕陽が沈むたびに夢の時間は消えてゆき生命が途絶するまでの有限のときのなかに生きていること自体が幸せなのだ春霞たなびく夕焼けに照らされ歩...幸せを求めて

  • 生命の濫觴

    生命の濫觴真っ青な空に屹立するまばゆい入道雲生命の燃える熾烈な太陽に逢いたくて碧い海へ疾走する真っ赤なポルシェどこまでも蒼くひろがる大海原激烈な陽光は海面にギラギラ照り映え光の帯が水平線の果てまで流れてゆく尖った獰猛な太陽は容赦なく照りつけ飢えた狼のように素肌を焦がす太陽光線燃え滾る空気が静寂のなかに流れてゆくきめ細やかな砂浜にねころび眩しい太陽に激しく照射され充溢した血潮は体中を駆け巡り生きている実感が魂魄の奥底まで膨らんでくるああ太陽は生命の濫觴(らんしょう)真夏の強烈な太陽光線に魂魄を抜かれて太陽といっしょに永遠の命を生きてゆきたい生命の濫觴

  • 太古の精霊と触れ合って

    太古の精霊と触れ合って蒼くひかる大空からしたたりあふれるいのちの陽光をふくふく浴びて軽やかに歩みつづけるたどりついたのは霊気のただよう鬱蒼とした森林にひっそりとたたずむ古代の神社急傾斜の古びた石段をどこまでも登ってゆくと豪壮な正殿に鎮座する威厳に光る神の大岩あたりは凛とした静寂に包まれ冴え冴えとした霊気がこころの奥底に沁みてゆく生まれては死んでゆく不思議を内包する人間が縋る思いで魂の安寧を祈った場所心静かに瞑想すると神々しい精霊に魂が浄化されゆっくりと煩悩が消えてゆくこれからわたしのときの流れはどんな人と触れ合うのだろうかわたしはこころから祈る黙っていても心のかようやさしい言葉の人と巡り会えることを遠くに連なる山並みは濃厚なみどりに潤い爽やかな風が生きている喜びを素肌のすみずみに浸透させながら悠久のときは...太古の精霊と触れ合って

  • 桜花を仰ぎ見て

    桜花を仰ぎ見て春の陽光にかがやく爛漫の桜花を仰ぎ見ても燃えるような喜びが滾(たぎ)ってこないうすら寒く予感するのはこれが最後の逢瀬になるかもしれない不安生まれてきたときから生(せい)の内奥(ないおう)に死期は刻印され死の順番は決まっているもしかしたら来年の春までにこの生命が疲弊してきらめく桜花に逢えないかもしれないああどんな祈りも空しくいつかは螺旋状に意識がうすれてゆき今ここにある生存はときのなかに消滅するこの肉体が焼かれ骨だけとなるそんな不条理に怖気(おぞけ)が走るそれでも春風に乱舞する桜吹雪に吹きしだかれていると遠い昔に触れ合い過ぎ去って行った懐かしい人達の声がよみがえり生きてきた幸せがこころのなかに去来する潮の匂いの立ち込める故郷から夢のなかへ旅立って行った生命の旅が永遠に続くことを祈りながらうつう...桜花を仰ぎ見て

  • 小さな山小屋を建てて

    小さな山小屋を建てて5月の澄み切った陽光に照り映えてあたりいちめんに噎せかえる若草の息吹やわらかな潤いに充ちた爽やかな空気すくすく伸びるうすみどりの木槿(むくげ)の若葉暖かい陽光に心はうきうき弾みくたびれた老醜にも命の尖った力がよみがえる道標のない夢の道を幾度もさまよいながらようやく色とりどりの命が萌える嬉しいときに巡り会えたああなだらかな丘陵のはずれの白樺林の中に小さな山小屋を建てて自然と一緒にのどかに暮らしたい小川のせせらぎのなかに眠り爽やかな風のブルースで目を覚ましみどりの窓からさしこむ朝日に挨拶をかわし苦味の程よい珈琲を飲もう汚い言葉の人間はここにはいない人と諍(いさか)いを起こすこともなく恨むこともない好きな野菜を育てながら穏やかなときの恵みに感謝しながら今ここにこうして存在していることの不思議...小さな山小屋を建てて

  • 生きている喜びに涙が頬を伝う

    生きている喜びに涙が頬を伝う秋晴れのどこまでも澄みわたるとてつもなくきれいな青空おもわずこころが吸い込まれそうだ芳醇な秋のうつろいにつつまれひっそりと野道を歩くときをたわわに吸収し枝を離れた熟柿があたりいっぱいに散らばっている爽やかな空気のなかにひとりたたずみここちよい秋風に吹かれていると遠い蒼穹の果てからいとけなき日のわたしの名前を呼ぶ声がこだまし星の影に隠れたお母さんのやさしい笑顔がわたしをつつみこむ物音ひとつしない静かな秋がゆっくりと流れてゆきはらはらと舞い落ちる落葉のなかにお母さんといっしょに生きている喜びに涙が頬を伝う生きている喜びに涙が頬を伝う

  • 流れゆく先のこと

    流れゆく先のこと茶褐色のけやきの枯葉の堆積するレンガの歩道をのんびり歩いてゆく踏みしだくたびに命を使いきった枯葉のキシキシと悲しい音が風のなかに消えてゆく甘い秋の香りを含んだ空気はしらしらと冷たくなりあたりはゆっくりと底知れない寂しさにつつまれてゆくああ誰もが生存というときの移ろいのなかにさまよい生きている夢の時間は夢のなかを流れ去りその流れゆく先のことは誰にもわからないこんないつかは知らない身罷るときの悲しさに耐えながら生きていてもやがて春が来てきらめく桜吹雪のなかを清澄な空気を呼吸しながら大地を踏みしめしっかりと歩いているその生きている瞬時のひとときはこころの底から喜びがこみあげる流れゆく先のこと

  • 公園のベンチでポツンと一人

    公園のベンチでポツンと一人金木犀の甘たるい匂いの漂う公園のベンチでポツンと一人誰ともしゃべらない無言の時間こんな至福のときはないわたしは何も変わらないまま純真に生きたかった損得勘定のなかで他人の顔色をうかがい臆病に生きるそんな卑しい人間にはなりたくなかったそれでも飢えから逃れるためいやでも時間を切り売りしなければならなかった時間の切り売りが破綻しないようお愛想笑いをするときもあったそんな後は魂が冷たくなったこころが潰れないように幾重にも鎧を着た虚偽の時間は夕陽が赤く燃えるたびに過去のなかに溶けてゆきいまでは遠い記憶の中にだけ存在しているこうして公園のベンチで真っ青な空からさんさん降り注ぐ魂のほかほか嬉しい秋の陽光をからだいっぱい吸収するわたし一人だけのわたしのための時間なんと贅沢なことか誰ともつながらない...公園のベンチでポツンと一人

  • 行旅死亡人

    行旅死亡人うらぶれた路地裏をあてもなく蹌踉(そうろう)とさまよう底冷えする静寂のなかに真っ赤に燃える曼珠沙華はげそっと枯れ果て蝉の鳴き声が記憶から削がれてゆく不意に空気が鋭利に尖ったその刹那飢餓のような眩暈に襲われ野垂れ死にした行旅死亡人(こうりょしぼうにん)の暗闇に落下したあの白装束の旅人の行く先は何処なのだろう鳥のさえずりも聞こえない清流のささやきは幻聴かもしれないけれどもここにとどまるわけにはいかない光の見える方向に歩いてゆくだけだどこからかかすかに囁く祈りの声脈絡のない色褪せた追憶がぼんやりと点滅するここだよここにいるよまぼろしの言葉が虚空にこだまするその言葉の方へゆらゆらさまよいゆくとまぶしくきらめく光の船が死人のようにしずかに手招いているああ真夏の海辺で熾烈な太陽をガンガン浴びながら心地よく眠...行旅死亡人

  • いまどこに

    いまどこに家の前のデコボコの道路ロバのパン屋の歌を流しながら荷車を引く灰色のロバ子供の夢を乗せて遠ざかって行ったチリンチリンと自転車でやって来る紙芝居のおじさん水あめをなめながらごんぎつねの話に何も悪いことをしていないのにと言って泣いた太陽にきらめく向日葵そのそばを痩せた男の子が嬉しそうに駆け抜けるけんちゃんそっと友達の名前を呼んでみるかんかん照りの太陽を浴びながら小さな清流でいつまでも泳ぎ遊び気がつけば日が暮れていたねけんちゃん楽しかったよいまはどこにいるのけんちゃんいまどこにいるのいまどこに

  • 山の向こうの

    山の向こうのまぶしい木漏れ日がいたるところに広がりおちじんわりと心がぬくもるあたりは透明な空気につつまれとても静かだ春の小川はさらさら流れどこからか聞こえる横笛の穏やかな音色つややかにひかるケヤキの若葉のやわらかい息吹にそっと息をひそめるタンポポの冠毛は春風に誘われて山の向こうの幸せの国で新しい命の花を咲かすのだろうかああ春風に乗って朗らかな笑顔に満ち溢れ優しい言葉の人達の住む幸せの国へ行ってみたい山の向こうの

  • 知らない道

    知らない道梅の花のかがやきに春の扉がそっと開き芳(かぐわ)しい梅の香りが透明な青空にひろがっていった冬の疲れたコートを脱ぎ捨て春風に吹かれながらあてもなく知らない道を歩き続ける時計台の下のベンチにひと休みコンビニで買ったアンパンを食べ牛乳を飲む甘ったるい餡が疲れを分解し冷たい乳脂肪が生気を復活させるここはどこだかわからないだけどそんなことはどうでもいいことだ居場所を知っても行くあてなどどこにもないのだからあたりは夕闇がひろがりひんやりした空気が肌に満ちてくる夕陽が浮雲を深紅に染めながら沈んでゆきぼんやりとときの流れを感じるああか細い命の糸の揺らめく脆弱な生存の暗闇のなかにどこまで歩きつづけていけば優しい言葉の人と出会うのだろう知らない道

  • 病院

    病院ソメイヨシノの古木に満開の桜花その傍に時代の風雨にさらされた灰色の病院吸い寄せられるように入ってゆく人達うす暗い無機質の長い廊下待合室の古い長椅子に無言で項垂(うなだ)れる人たち得体のしれない不安が胸に渦巻き思わず呪詛を垂れ流すなぜ俺に病魔は憑りつくのだあわただしく担架で運ばれる人点滴を腕に垂れゆらゆら歩く人パジャマを着てコンビニで日用品を買う人診察の開始を告げる機械の音声待合室の淀んだ静謐が破れ俯きながら診察室の扉を開ける慈愛にあふれた白衣の医師おもわず症状をまくしたてる沈黙の医師がおもむろに言葉を発する怯えながら命の宣告を聞くその瞬間余命が天井を走り回る病魔の本性が解明され死期を撃退できるだろうか病院

  • 無言の旅

    無言の旅各駅列車を乗り継ぐひとり旅列車の走音が高く低く鳴りひびき見知らぬ風景にこころが躍(おど)る鄙びた片田舎の木造の駅舎に切符を置き捨て初めての道を歩いてゆく太陽は夕陽に傾きさみしい風が吹く色褪せた酒場の扉を開き冷たい酒を注文する一日かけてたどり着いた初めての町に乾杯心のやすらぐ土地であることを祈ってキリリ冷えた酒がこころに沁みいり冷徹なこころがほんの少し弛緩するしかし過去を拒否する扉は閉じたままだああ汚穢に充ちた過去を抹殺し笑顔の戻る日はいつになるのかそれまで無言の旅はつづく無言の旅

  • うれしい吐息

    うれしい吐息桜花のときは夢のように消え去り深紅に萌えるドウダンツツジまっしろな雪柳の風景は黄色いレンギョウがとってかわった蒼穹からやさしい光が舞い降りて体中にあたたかい血潮が駆け巡り魂の奥底からうれしい吐息が漏れる新緑に萌える瑞々しい若葉眩しい木漏れ日が葉陰にひろがりじんわりと心がぬくもるすがたやさしいれんげの花にさわやかな風が吹きわたりみどりの空気が晴れ晴れと美味しいもう命の凍えることはない。うれしい吐息

  • オンボロジープに乗って

    オンボロジープに乗って土ぼこりを撒き散らしながらデコボコ道を跳びはねるオンボロジープ助手席に孤独の影を乗せて明るい陽光の中をオンボロジープは疾走する風を切って走るジープを過去からじっと覗き込んでいる不気味な眼(まなこ)を断絶して未来へ突き進むオンボロジープ野太い筋肉質の風に吹かれて渓流のながれる山林にたどり着いた急峻な瀑布が轟き細かな飛沫が霧のように夕闇に消えてゆくみどりに薫る林の中にテントを張り冷たい缶ビールを呷(あお)る爽やかな酔いが体中に沁みわたる満天の夜空にひときわ赤く光る流れ星俺のときが滑るように流れてゆく俺の命の安寧を祈るオンボロジープに乗って

  • いつかその日に

    いつかその日に明るく晴れた大空に北風が吹き始めるころ遠い夢の道を歩き疲れてたどり着いたのは冷たい墓場野ざらしの空っぽの乳母車老婆の子守歌は虚空にながれ哀しい薊(あざみ)だけがひっそり風にふるえている桑の実を小篭(こかご)に摘んだまぼろしのように石に刻まれた文字を読む人はもうどこにもいないああこんな墓場にも太陽は金色の光線を撒き散らしているいつかその日に石の下に眠ったとしても太陽はかがやきなにも変わらないだろういつかその日に

  • 死神

    死神陽光に照らされ明るく晴れわたる秋空ソメイヨシノはもうすっかり裸木になってしまいコナラの茶褐色の紅葉は燃えるように光っているこんな晩秋の澄み切った青空を眺めているとなぜか幻聴のように奇妙な足音が響き渡り得体のしれない死神の声を感じた変に周りの空間が歪み急に死の不安に襲われたその刹那わたしは頓悟した人間はみんな死神を背負って生きているのだ生命の盛んなときは死神は眠っているけれど産声をあげたときからすでに死は始まってるそうしてときの流れが寸断される寂滅の間近に魂魄の奥底から死神の声が聞こえてくるのだとおい潮騒のようにわたしの体内から死神の声がひろがる耳を澄ますとこっちへ来いと呼んでいるああなんと晴れ晴れとした命を暖かく包み込む優しい声なのだろうきっとこの世とあの世の境を永遠にさ迷うことが無いように天へとつながる道...死神

  • 枯淡

    枯淡どこまでも透きとおる青い空山茶花の赤い花が冷たい風に吹かれ凛とした命の輝きを放っているそれでも風に流され姿を変えてゆく白雲ようにしばらくすると山茶花はしおれて散ってゆくこんなときの流れの果てに死んでゆく老人のささやかな夢は来る日も来る日も何の新しいことの起こらない同じことの繰り返す単調な日々かつては野心に満ち溢れていた今ではそんな赤い情熱は闇夜の影に消えてしまったああいまここに降りそそぐ命のほっこりする柔らかな陽光欠伸(あくび)のでるほど退屈な日常何と穏やかなことか探し求めていたものはこれなんだ枯淡

  • 越冬

    越冬どこまでも澄みわたる秋空ときおり白い流れ雲が太陽を隠しうす暗い日差しが秋楡の小枝にこぼれ落ちるたわわに揺らめいていた金色の稲穂は秋風が強まるにつれて刈株に姿を変えてしまったうす茶色の刈株の広がる田圃は妙にしんとしてこれからやって来る冬をしずかに待ち受けている見るからにさむざむしい刈株はすべての生き物の生命を削ってゆく厳しい酷寒の冬を予感させるけれど田圃の黒い土の中に春に向かう命の吐息に濡れたときの流れのぬくもりを感じる一陣の冷たい風が冬の香りを孕ませながら遠く広がる田圃を吹きすぎるその刹那雪や寒風に耐えながら冬を乗り越えて生きてゆく強い意志が刈株の切り口にきらりと光った越冬

  • 枯葉の歩道

    枯葉の歩道冷たい風の吹く師走の昼下がりレンガ造りのお洒落なカフェしっとり落ち着いた照明チーズたっぷりの焼きたてのピザ一口齧ると芳醇なハーブの香りどこからかながれくる暖かいクリスマスのバラードガラス窓の向こうの木枯しの吹く枯葉の歩道コートの襟を立てながら歩いているのは夢を追い求めてさ迷い歩く遠い昔のわたし心細い夢の道をさすらう遠い影のなかにこうして美味しいピザと冷たい麦酒に巡り逢えるときがあるとは思いもよらなかった年老いたさみしい哀愁の淵にも冴え冴えと澄みわる透明な太陽の光はしんしんと輝いている枯葉の歩道

  • かき氷

    かき氷いっせいに鳴き叫ぶ蝉声(ぜんせい)が街中にあふれかんかん照りの大空に赤く燃える夏猛烈な暑気にさらされ憔悴した肉体が求めるのは生命を蘇生させるかき氷魔法のようにふりつもる白い氷片にとびきりの餡をのせ濃厚なミルクをそそぐと大好物のミルク金時の出来上がりぐさぐさほおばり舌に触れたその刹那眼の奥がジーンと疼き躰全身に冷たい戦慄がはしるああ大好きな夏だいつまでも夏が続けばいいのにかき氷

  • 雨が降ればブルースを聴こう

    雨が降ればブルースを聴こう無人駅の寂しい鉄路黄色い夕陽がプラットホームに降り落ち風音だけが通りすぎる次の電車に乗ってどこか知らないところへ行こう流れついたところで屋台の焼酎を飲むそれで一日は終わりさ無造作にはびこる忌まわしい人間関係いつも孤独の殻にこもり心の傷つく言葉から逃げてきた放浪の旅に疲れたら土と一緒に生きてゆこう大地は人を恨むこともないだろうそうして雨が降ればブルースを聴こう雨が降ればブルースを聴こう

  • 夏のある日

    夏のある日一歩外に出ればいちめんきらめく真っ青な夏空ゴルフ場前のレンガの坂道をくだり交差点の信号を渡るとまっすぐ公園に続く道公園はみどりに膨れ上がり生命の息吹が充満している野球場から華やいだ歓声が漏れ聞こえ競技場ではサッカー少年の汗がほとばしる高い階段に息をきらせ登り切ると見晴らしの良い芝生広場遠くの山並みに入道雲がぐんぐん屹立しているテニス場を横切り小高い丘を越え坂道を下る無造作に雑草が生い茂るみどりの小道の角を曲がればいつものスーパーマーケットバナナでも買って帰ろうかな夏のある日

  • 八月の太陽

    八月の太陽すべての存在を圧倒する眩(まぶ)しく透きとおった八月の太陽稠密な空気は真っ赤に歪み八月の太陽は瞳孔(どうこう)を射抜くほど獰猛に光っている背中に太陽光線が突き刺さり禿頭(とくとう)は火傷するほど熱くほてってきたわたしはこの脳天を打ち砕き激烈な殺傷力を秘めた陽光に魂魄を刺し貫かれて生きてきた生命の根源に触れる八月の太陽の光と熱がたまらなく好きだああいつまでも八月の太陽と逢瀬を重ねたい八月の太陽

  • バーボンのロック

    バーボンのロック煮え立つ陽光が容赦なく俺を襲うこの攻撃的な夏の太陽が大好きだああ海に行きたい海底まで透きとおる蒼い海と戯れトビウオのように気持ちよく泳ぎたい泳ぎ疲れたら冷たい麦酒をごくごく呷(あお)り心地よい酔いに任せ水色のパラソルの下で眠りたい目が覚めれば火傷するほど日焼けしているだろうその日焼けした体をジーンズと白いTシャツにつつみ高層ビルの林立(りんりつ)する街角を颯爽と歩きたい太陽の贈り物を体いっぱいに詰め込んでうきうきする夜は酒場のカウンターでバーボンのロックがお似合いだバーボンのロック

  • 夢の風が吹くところ

    夢の風が吹くところみどりの窓に差し込む朝日丸いテーブルに漂う熱いコーヒーの香りラジオから甘く誘惑するロバートジョンソンシカゴに行かないか最高だぜシカゴ窓を開けると爽やかな風ああ感じる生命が燃えているのをまるごとひと齧(かじ)りの甘いトマトが涼しい食欲の中に落ちてゆく幸せ求めてゆらゆら走りだす軽やかにしなる青い筋肉虚ろな心に苦い汗がほとばしる記憶の箱よ空っぽになれ!ああ感じる死んでいった人の息吹を行ってみようかなシカゴへきっといいところだぜスイートホームシカゴだもの夢の風が吹くところ

  • 入道雲のはるか向こうに

    入道雲のはるか向こうにどこまでもつき抜けて蒼い空太陽の光にきらめく赤い花芯の木槿百日紅の紅い花弁を吹き過ぎる涼風ざあーと蝉が鳴いてあたりは純正の夏となった青空高く真っ白に盛り上がる入道雲もくもくと光りながら風に揺られて遠くへ流れてゆくその旅遊の果てにはるか昔の幼いときが見え隠れする真っ黒に日焼けしながら青い波の寄せくる白い砂浜で遊ぶ痩せた子供光をキラキラ反射している大海原にむかってお母さんと大声で叫んだ岩に砕けて引いてゆく白い波濤いくら呼んでも戻ってはこない幸せのとき真夏の太陽のまばゆくかがやく光のなかに涙に濡れた蜃気楼がさみしく揺れていた入道雲のはるか向こうに

  • 夕凍

    夕凍灰色の空に夕陽は沈み冷たい薄墨の帳が落ちてくるしんとした暗闇につづく夕凍(ゆうじみ)の歩道寒いコートの襟を立て俯きながら歩いてゆく寄る辺のない不安にさいなまれいつ果てるか知らない無言のさすらい痩せた人影が街路を行き交うたびに還らないときが土に埋もれてゆく獰猛な木枯しが夜の奥底まで吹き荒れ濃厚な闇夜がこころ深く落ちてくる立ち止まると凍えるほどの身震いに襲われさみしい孤独の影に寒さがつのる太古のときのうら哀しい亡霊のようにぼんやりと遠くの街角の片隅にともるオレンジ色の暖かい窓明かりのなかに優しい言葉の人はいるのだろうか夕凍

  • ゲノム

    ゲノムうす暗い雑木林の片隅にひっそりとたたずむ苔むした墓石灰色の空が陰気に垂れ下がり凍てつく冬があたりを重厚に支配している冷たい土の中で風化した太古の骨の破片は原始の生命の炎(ほむら)が子孫のときのなかに連綿と受け継がれ今ここに生き続けていることを知っているのだろうか人間の生命の源はその肉体が滅失してもゲノムのなかに永遠の息吹を残している愛し合った男と女のゲノムは子供の生命のなかに宿り愛のゲノムは永劫のときを旅することだろう冬枯れの陽だまりの日向ぼっこにこころがほかほかするようにわたしの細胞の中に生息するゲノムにいいようのない親しみを感じるわたしの死後にもわたしのゲノムが生き残り決して邂逅することのない子孫のゲノムにわたしの生きてきた痕跡が少しでも残っていればわたしにも生まれてきた意味はあったのかもしれないゲノム

  • 白い精霊

    白い精霊凍える夕暮れの空から外灯のあかりのなかに白い妖精が踊るように雪は静かに舞い降りてくる灰色の空に暗闇が忍び寄りいっそうさらさらと町並みを白く染めてゆくこんな雪の夜は路地裏の居酒屋のきりりとしまった辛口の熱燗杯を傾けるたびに疲れた心がほぐれてゆき生きている嬉しさがよみがえるやがて心地よい酩酊はゆっくりほどけてゆき祭りの後のように生まれてきた悲しみが心の深淵に落ちてくる青白い陽炎が儚く身罷(みまか)るのは明日かもしれない魂に沈殿している汚穢(おわい)を拭い去り苦悩を取り除くかのようにはらはらと静謐な夜は白い雪の精霊につつまれてゆく白い精霊

  • 晩秋

    晩秋魂にしみいるどこまでも澄みわたる青空やわらかい秋光したたりながれあたりいちめんにひろがる暖かい明かり黄色や朱色に染まった落葉をかき分けドングリを拾うおさな児たちまるで宝を探しているようだしっとりと潤うさくらの木立に優しいまろやかな光が落ちてきて白い道に細い影を映しているときおり吹き過ぎてゆく素肌にやさしいむらさきのそよ風色彩のうつろう静謐の遠くからこだまする過ぎ去ったときの足音遠い空の果てに姿を隠した人の面影ゆれこころの襞(ひだ)がかすかにふるえる芳醇な匂いの立ち込める成熟した空気透明な静寂のなかに香気をくゆらせて晩秋のときは流れてゆく晩秋

  • すべてがうまくいきそうだ

    すべてがうまくいきそうだはるか遠くまではじけ跳ぶ陽光陽炎の揺れる白い道蔦の絡まる教会の白壁静かに迫りくるときの足音大学の門まで続く並木道遠くからまぼろしの蝉の声出逢っては別れた交差点また逢おうという人はもういない古い町のくすんだ駅舎青白い露に濡れる鉄路雑草の生い茂る資材置場ときの影に消えてゆく路線バス風鈴の音にゆれるやさしい言葉渇いた喉にとろける冷たい麦酒太陽が笑っているすべてがうまくいきそうだすべてがうまくいきそうだ

  • 古いときの影

    古いときの影まぶしい光に満ち溢れる真夏の青空きらめく蒼天の向こうにおさないときの幻が懐かしくほほえんでいる目もくらむ太陽光線の激しい放射を浴びながら半ズボンに麦わら帽子の痩せた男の子が釣竿を片手に田んぼのあぜ道を歩いている田んぼには若い命の弾けるみどりに尖った稲葉が筋肉質の夏風に吹かれしゃらしゃらと揺れている陽炎の沸き立つ砂利道を歩き過ぎ涼しいせせらぎのこだまする清流の川辺にたどり着いた大きな葉の繁る木の下でどこまでも澄みわたる水面に釣り糸を垂らした熾烈な太陽光線を反射して川面はキラキラ輝いていた熱波に赤く染まった稠密な空気は肺の奥深くしみわたり真夏の生命を呼吸しているようだ滴る大粒の汗に吹き過ぎてゆく涼風が心地よいまばゆく生きている濃厚な時間が谷底をしずかに流れてゆくこころの浮足立つ楽しい夏休みも入道雲の流れ...古いときの影

  • 黄昏

    黄昏果てしない夢を追い求め凍てつく夜道をいくつも越え孤影をひきずり暗闇をさすらう明日の見えないその日暮らしやつれた心に吐息を吹きかけ痛みを抱いて流れてゆくこの先どうなるか分からないけれど気ままに生きてゆければそれでいいささみしい魂魄のほころび繕うのは古びた酒場の狭いカウンターため息ひとつこぼれたグラスの底に昔の夢が揺れている夕焼けが黄昏にきらめくころ消えゆくときが重くのしかかるひび割れた歩道の青白い人影が蟋蟀の鳴く寂しい夜に沈んでゆく黄昏

  • 木漏れ日

    木漏れ日ひとりぼっちの木漏れ日の道音の気配が途絶えた真っ白な静謐合歓の木を揺する風の音透明な妖精の歌声のようだひんやりとした土の感触を踏みしめ開拓者のようにゆっくりと歩いてゆく清流の水面をなめらかに流れゆく笹船歩くたびに揺れるやわらかい光と影過去から流れてきた古いときが木立の葉裏にひそみ青い空を見つめている遠くのひかりにつつまれた孤影が忘れていた夢のように蒼穹の彼方へ消えていったハナミズキのもも色の花はさみしいときのなかに散り落ちてしまったゆるやかに折れ曲がった木漏れ日の道にまだ見ぬわたしが生きているかもしれない木漏れ日

  • 眩暈

    眩暈こんもりと茂る緑の間を縫って銀色の電車がやってきたプラットホームの端に熱気を帯びた電車の吐息が充満するやがて絵画のように扉が開きそれぞれ違うときを背負った人々をつかの間の同じ空間に誘うマスクをした人達は陰鬱に押し黙って電車の流れに身をまかせているみんな飛沫を恐れているのだ気まぐれに降り立った駅にも灼熱の陽光は降りそそぎ灰色に淀んだ無機質の階段を降りると表通りの銀杏並木が陽炎に揺れていた死人のように町は静かだ碧天の太陽は頭上にまだ高く生暖かいアスファルトの風が吹く白い歩道を歩み始めるとなぜか生存自体が曖昧になってきた風味も不確かな街角のカフェの扉を開く背中の汗に絡みつく人工的な冷風やけに甘いブラックコーヒー軽い眩暈(めまい)に襲われひび割れたときの中に命が流れていった眩暈

  • 刹那の幸せ

    刹那の幸せ空気の色彩が移ろうたびに生に内在する死が膨らんでゆくいつ枯渇するか全くわからない命の時間そんな脆弱な生存の中で生きている人間の幸せってなんなのだろう天賦の有限の時間を楽しく使い切ることその使い切ったことが幸せなのかもしれないけれども人間の心には憎悪や憤怒や殺意や嫌悪や敵意や嫉妬が渦巻いているこんな心で楽しい喜びをしんそこ感じることが出来るのだろうか楽しいことはそのときだけの刹那的な喜びその刹那の喜びを連続して繰り返し享受できるのであれば人間は幸せを感じるのかもしれない青空から燦燦と降りそそぐまばゆい陽光その煌めく光線に魂魄の深淵まで射抜かれめくるめく快感に包まれるその刹那痺れるような幸せの喜びに満たされる刹那の幸せ

  • 驟雨

    驟雨真夏の昼下がり急激に入道雲が碧天高く湧き上がりみるみるうちに黒光りのする雨雲が空を覆い尽くし激しい雷鳴が轟き稲妻が大気を切り裂いた大粒の驟雨が容赦なく地面を叩き付けあたりは薄暗い不気味さに支配された凄まじい雨脚に体の芯までずぶ濡れて朽ち果てた納屋のなかに逃げ込んだ紫に変色した唇から思わず呪詛がこぼれるいくらダメな俺でも今日の不幸は酷すぎるやり場のない怒りを鎮めるためにウイスキーの小瓶をラッパ飲みし冷え切った体のなかに熱を送り込んだ西の空が薄明るくなり土砂降りの雨もふりやんだ黒い雲の隙間から一条の光が差し込むと湿潤な匂いの空気のなかに熾烈な陽光が息を吹き返し木々の茂みから蝉がけたたましく鳴き始めた激烈な光の散乱するなか赤く燃える吐息に目が眩み重い足取りで俺の道を歩きだした挫折を繰り返しながら夢の途中に死んだと...驟雨

  • 無垢の旅

    無垢の旅歯朶類の鬱蒼と繁茂する険しい岨道息を切らし疲れた足取りで歩く旅人行けども変わらぬ風景に思考する気力も失くし木陰の冷たい岩にへたり込む汚穢(おわい)まみれの過去を焼き捨てここまで逃げてきたのに灰となった過去の残滓の足跡が後ろからどこまでもついてくるとおくの青白く揺れる陽炎のなかにかすかにひびく太鼓の音懐かしい音曲のしらべに混じって聞こえてくるお母さんの呼ぶ声夕影の短い冬の太陽が西へかたむきひんやりと落ちてくる夕闇寄る辺のない不安にさいなまれ浮遊する塵埃のように薄れゆく生命のともし火流浪の果ての貧しい場末の宿にいつ終わるか知れない旅塵の疲れを癒し夏草の陰にひかる線香花火のように無垢の光がある限り生き続けてゆく無垢の旅

  • はぐれ道

    はぐれ道小学校の遠足は太平洋に突き出た岬に建つ白い灯台みんなで急峻な山道を登り息を切らして辿り着いた頑丈な円筒形の灯台岬から眺めた太陽の光にかがやく大海原心地よい5月のさわやかな風見学が終わって登って来た道を振り向きもせずどんどん下って行った来た時のバス降り場は妙にしんとした気配急に心細くなりあたりを見回しても人影はないみんなからはぐれ異国に放置された戦慄奈落の底に落ちてゆくような眩暈のなか涙で眼をくもらせながら岬の麓の浜辺に向かってやみくもに駆けだした。どこへ向かっているか分からないガタガタ道行けども行けども時間だけが空回り不安にひしゃげた小さな心を震わせてみんなの居場所を血眼(ちまなこ)で探した険しい巨岩の乱立する海岸の遠くに人の群れ靴底にごつごつと当たる小石を踏みしめ荒波の押し寄せる磯辺に駆けて行ったみん...はぐれ道

  • 春の萌芽

    春の萌芽しだれ梅が硬い冬の殻を切り裂き鮮やかな桃色の光彩を放っているソメイヨシノの蕾も膨らみ始め雪柳も純白の触手の準備に余念がないきらめく太陽光線を目いっぱい吸収してクヌギの樹皮がじゅんじゅんと潤い青白い極寒の峠を何とか越えて裸木のケヤキたちもほっと一息寛いでいる太陽の眩しい光輝はきっぱりと新しい季節の色彩をまといはじめ冷たい空気と春の予感を孕む暖かい空気の入り混じった風がときおり吹いてくるなつかしく心はずむ小鳥の囀り小川のせせらぎ過ぎ去った七草粥と豆撒きの後にかわいい雛祭りが通り過ぎれば川堤の土手に土筆の歓声が響き渡るだろう太陽の充溢した濃厚な空気は肺の奥底を貫き躰全身に熱い血潮が駆け巡るどんなに歳をとっても春の訪れほどうれしいものはないしみじみ生きていてよかった春の萌芽

  • 旅景

    旅景喧騒の渦巻く都会の駅舎にゆったりと滑り込んできた西へ向かう電車に乗り込んだレールの振動に揺れる車窓にどこまでも稲穂のひかる平野が見えてきた硬い椅子に凭れ睡魔に身をゆだねているとかすかに車内のアナウンスが耳に流れてきたぼんやり車窓を眺めると遠くに紺碧の海原が広がり海岸線に白い波濤が飛び散っていた家並みの点在する静かな田舎の駅に電車が止まったとき不意に忌まわしい過去が脳裏をかすめ逃げるように人影のまばらなプラットホームに降り立った行くあてもなく太陽の傾く方向に歩き始めた駅前の広場を通り過ぎ人気の途絶えた商店街を通り抜け古い家並みの路地裏をさまよい小川の流れる土手を歩き小さなみどりの公園のベンチに座り冷たいビールを渇いたのどに流し込んだ夕暮れが迫り寂しい風が吹いてきた見知らぬ土地の風は心に沁みる夕闇が濃くなるにつ...旅景

  • 真夏の影

    真夏の影碧天高く湧き昇る真っ白な積乱雲熾烈な日差しにきらきら濡れる木槿の花芯輪郭の濃い葉影を揺すり吹き抜ける夏風白い道に燦々と照り映える木漏れ陽真っ赤に燃える稠密な空気に包まれ眩しく陽光の反射する川沿いを歩いていると不意に火焔のように響き渡る蝉声幻覚のような眩暈に襲われ陽炎の燃え立つ激烈な真夏の影の中に幼いわたしの姿が見え隠れする炎天下の畦道を麦わら帽子の子供が釣竿を手にして川に向かって歩いている額から大粒の汗がうなじにしたたり水色のTシャツはずぶ濡れだそんなことにはまったく頓着せず楽しそうにうきうき歩いてゆく小さな身体いっぱいに大好きな真夏の陽光を受け止め強く胸に刻印された永遠の楽しいときはいつまでも魂魄の片隅に生きていた真夏の影

  • 田んぼ

    田んぼ炎天下にあかあかと金色の輪をひろげていた向日葵も蝉時雨の降りやむにつれてしだいに色褪せていった遠くに広がる田んぼでは涼しげな風が吹くたびに黄金のたわわな穂波がうねり豊饒のほほ笑みを振り撒いているやがて天の恵みに感謝する収穫の宴も終わりうす茶色の柔らかな刈株は静かに冬を迎えるときには霜が降(お)り雪が降(ふ)り冷たい風に曝されても田んぼはじっと冬を耐えてゆくそうして冬が溶け春風かおる春光の中に潤いを帯びた田んぼには新しい生命の息吹が胎動するこんな田んぼの営みは見慣れた光景だとしても煌々と昇る朝陽のように心を安らかにしてくれる田んぼ

  • 無言の暮らし

    無言の暮らし遠く霞む夢に熱い情熱を吹きつけてきたのに俺の手にはどうしても届かなかった途方に暮れながらうろつくうら淋しい街角石のように誰とも話をしない痩せこけた無言の暮らしこんな暮らしでも生きている限り陽はまた昇るある日不意に海が見たくなった電車を幾度か乗り換え小さな海辺の砂浜に降り立った真っ青な空は遠い水平線に繋がり空と海の境目は太陽を反射して淡く光っている寄せ来る波は浜辺に白い泡を打ち上げ静かに引いてゆくさらさらとした無垢の砂を掬(すく)いあげ柔らかな感触に遠い昔を思い出した潮風に乗ってお母さんの声が聞こえてくるもう一度浜弁当をしたいね太平洋に面した田舎の砂浜で真っ黒になって泳ぎまわっていたあの夏の日は幻か大声で絶叫したくなる衝動が胸につきあがる俺はどこへ行くのだ!無言の暮らし

  • 曼珠沙華の咲くころ

    曼珠沙華の咲くころ畦道に紅蓮に燃える曼珠沙華が咲いているその姿はまるで亡き人の魂が生血を滴らせながら何かを叫んでいるようだ生命のきらめく熾烈な夏の光はその消息を途絶え芳醇な香りに充満する柔らかな光が地上を覆い始めたもう少しするとあたりいちめん濃厚な秋色に染まってゆきその恵みのなかに酔い痴れることだろう夏の終りは膨張した命の活力がだんだんと凋(しぼん)んでいき漁火のように堪らなく淋しくなるけれど生まれ変わったふたたびの夏に邂逅することを祈りながら薨(みま)かった夏を懇(ねんご)ろに弔(とぶ)らおう夏の死ぬことはもう怖くはない酷寒の冬を耐え忍べば必ず暖かい春光に逢えるそうして曼珠沙華の花が咲くまで真夏の太陽をがむしゃらに堪能するのだときの流れるままに心地よい時間を過ごせれば生きてゆく不安はすこしずつ薄れてゆくときの...曼珠沙華の咲くころ

  • 落伍

    落伍真夏の灼熱の光の中に街路樹の蝉の鳴き声が消えてゆく行き交う車のやけに耳障りなクラクションの音煩瑣な人間模様にくたびれて重い足取りで沈黙の街角をさまよう大人になってからどうしてだか分からないけれど他人と話そうとすると妙に胸が圧迫されうまく言葉が出てこなくなったいつしか話すことが苦痛となり沈黙の中でいつも怯えながら暮らしてきた飢えをしのぐため明日の光にすがって何とか働いてきたけれどある日どうしても耐え切れなくなって組織から落伍した辛いときにはいつも思い出す太陽の輝く真夏の海辺で遊んだ幼い頃真っ黒に日焼けした顔に無邪気な満面の笑みを浮かべ透明な波が打ち寄せる砂浜で水平線を赤く染めながら沈んでゆく夕陽を眺めていたたとえ生きる糧(かて)が尽きようとも自分に向いていない生き方は出来ないどんなに嘲笑われようともたとえ野垂...落伍

  • 生きていてよかった

    生きていてよかった蒼天からキラキラと降りそそぐ暖かい陽光きらめく春光を浴びて色とりどりのドウダンツツジが咲き乱れている真っ赤な石楠花も大輪を思い切りひろげているハナミズキの白い花に陽光が照りかえりキリキリと眼に滲みるハリエンジュの乳色の花房がそよ風に揺れ道端のハルジョンもタンポポも生命の光沢を放射している田圃にはうす赤色のレンゲが群生し畦道には土筆が伸びてきたケヤキのうすみどりの若葉が初々しく枝いっぱいにひろがってきた野道を歩くたびに春風が頬を撫でてゆきあたりいちめん新しい命の息吹が充満しているまわりの色彩はときめき色に変わった生きていて本当に良かった生きていてよかった

  • 山の風

    山の風川面から涼風が吹き寄せる遊歩道真っ白なスニーカーを躍らせ歩いて行く生きている喜びに躍動する魂魄どこまで歩いて行っても全く疲れない日陰の落ちる山麓から九十九折の山道を登ってゆく心地よく滴る汗清涼な森林の空気を胸いっぱい吸い込み体内に迸る赤い命の鼓動を感じながらずんずん山道を踏みしめ登ってゆくすると突然密集した山林の隙間から真っ青な空が目に飛びこんできて気がつけば開けた山頂にたどり着いた眼下にはどこまでも広がる晴れ晴れとした田園風景ああ山の風が心地よいどこからか鶯の啼き声生きていることは何と素敵ことなのだろう山の風

  • 冷酒

    冷酒夕暮れの駅前の路地裏ひっそりとたたずむ立ち飲み屋台薄汚れた暖簾をくぐりコップ酒をあおる腹の底から湧き上がる熱い吐息傷ついたこころに冷酒が沁みこんでゆき胸に突き刺さった言葉が嵐のように荒れ狂う言葉なんて風と同じだ吹き過ぎてゆけば後には何の姿も見えないそうとは思っても言葉の棘の激痛はおさまらないだから棘が溶けるまで冷酒をあおる黄昏のなかに同じような疲れた顔の旅人がやって来て冷酒をあおる今日の言葉の棘が抜けるまで無言の酒がつづきぐるぐると感情はとぐろを巻いて酩酊のなかに憤怒の言葉は薄れてゆく毎晩こんなことをくりかえしそれでも駅前の路地裏に夕墨が落ちるころ薄汚れた暖簾をくぐって冷酒をあおる生きてゆくために冷酒

  • 5月の雨

    5月の雨妙に静かな雑木林どす黒い雲がぶ厚く垂れさがり湿気を孕んだ風が吹いてくる背後から近づいてくる足音の気配振り向いても誰もいない幻聴だったのかと訝(いぶか)しんでいると木立の影から大きな鴉がかさかさと飛び立った薄絹のような静寂ときおりうすみどりに膨らんできたケヤキの葉を揺らしながらごわごわした風が吹き過ぎてゆく遠いまぼろしの故郷まで風は吹いてゆくのだろうかもう会うこともできなくなった人たちはどうしているのだろう今年も田植えに忙しくしているのだろうかはらはらとうす紫の雨が落ちてきた黒い雲がせわしげに流れてゆき細やかな雨が橋のたもとを煙らせわたしのうなじを濡らしながら青白い雨滴の弾けるときが流れてゆく笹船を流して遊んだ幼いときはどこにいったのだろう5月の雨

  • 風雪の果てに

    風雪の果てに凛とした冷たい空気街路樹のクロガネモチに無数の赤い果実がひかり冷たい風に山茶花の桃色の花が揺れている冬枯れの清流に茶色い数羽の鴨が餌を探しながら流れ漂いそのうえを白鷺がおおきな翼をひろげ黄昏の彼方へ飛んで行ったうす茶色の枯葉が堆積したなだらかな丘の斜面に夕陽が照り映えあたりいちめん静かな冬の匂いが漂っているこんな綺麗なときを呼吸するたびに心は清らかな気持ちに満たされあの陰鬱な風雪の果てにこんなに安らかなときが訪れるとは思いもよらなかった生きているということは浮雲のように頼りなくか細い生命の糸はどこで切れてしまうのか分からないけれど今では生命の鼓動には必ず終止符が来るという真実は受容することができるこんな真綿のような平穏なときがいつまでも続くことを祈りながらまぶしい光の船がわたしを迎えに来るまで暖かい...風雪の果てに

  • 春光

    春光うすら寒い冬の殻を突き抜けて小さな桃色の梅の花が可憐に咲き始めときおり春の息吹を孕んだ暖風が青く濡れた屋根の上を吹き過ぎてゆくもうすぐすると碧天からまぶしい太陽が光輝を放ちあたりいちめん春の色彩に充ち溢れてくるこんな嬉しい春光をあびながらわたしは果てしない夢の道を歩き続けてゆくさわさわと花芽の膨らみはじめた桜並木をゆらゆら歩いてゆくと遠い霞の彼方へさみしい夕陽が傾き愁いに潤む黄昏どきが音もなく降りてきたひろがり流れる夕墨のなかにぼんやりとみどりの窓辺の明かりが灯りやがて夜露のひかる静寂のなかに浅い眠りが沈んでゆくそうして白いカーテンに差し込む朝日に目覚め萌えいずる新芽のような爽やかな朝の空気のなかを青いスニーカーを道連れに今日も夢の旅がはじまる春光

  • ウイスキーの小瓶をラッパ飲みして

    ウイスキーの小瓶をラッパ飲みして空気は凛として冴えわたり寒気に背骨がすくっと伸びたった軒下の氷柱(つらら)もふるえる薄暗く凍える路地裏を行くあてもなくさまよい歩き公園のベンチで上着のポケットに忍ばせたウイスキーの小瓶をラッパ飲みする喉の奥が焼けるように熱いふっと熱い吐息を洩らしながらさらにウイスキーを流し込むいい気持ちに心が尖ってきた途方に暮れながら明日の気力を見失しないいつしか世間の暗い狭間に落ちぶれ果ててしまったこんな嫌悪に充ちた出来事はすべて靄のなかもう何があっても恐れない生きていけばいいだけのことだウイスキーの小瓶ですべての憎悪を洗い流し空っぽの心で生きてゆく上着のポケットを手探りすればそこには忘却の小瓶がある簡単なことだ足下で数羽の鳩が冷たい地面を嘴で突っついている大きな欠伸をしたら驚いて飛び立ってい...ウイスキーの小瓶をラッパ飲みして

  • 終焉

    終焉最期の光輝を放つ日輪紅蓮に燃える夕雲街角には青白い夕闇がひろがり人影のまばらな公園の水銀灯が無言でともる今日も雨に濡れる紫陽花のようにときは過ぎ去ったそうして死んだときの亡霊を張り付けた写真のように孤影のなかに思い出の痕跡は消えていくこんな何の変哲もない日々の暮らしのなかに残有時間の曖昧なわたしのときが過ぎ去ってゆくそれでもわたしは予感する真夜中の鼻血のように不確かなわたしの終焉の刹那澄みわたった蒼天から放射される太陽光線に胸の芯まで射抜かれてわたしの魂魄は光となって太陽に還ってゆくことを終焉

  • まどろみ

    まどろみ無窮にひろがる真っ青な空からきらきら輝く暖かい陽光が降りそそぎ銀杏並木の黄葉が溶鉱炉のようにめらめらと発光しているときおり透明な涼風が吹き過ぎると木々の間から色とりどりの落葉が乱舞して石畳を秋色に染めてゆく遠くに明るい日差しを浴びてうす茶色にひかっている煉瓦の橋の向こうに光と影の濃淡が鮮明にうきあがる木漏れ日の遊歩道がどこまでも続いている歩き疲れて公園のベンチで日向ぼっこをしながらちょっとひと休みぽかぽか陽気の日光につつまれて身体の隅々まで心地よい弛緩が沁みわたり微睡(まどろ)みたくなるような幸福な脱力感に浸っているとまわりの音は妙にうっすらと消えてゆきあたりは霧のような静寂に包まれてゆくそんな穏やかな静謐のなかにさらさらと太陽の鼓動が近づいてきてわたしを光の船に誘うもうそろそろわたしの夢の旅も終焉を迎...まどろみ

  • 夢のバス

    夢のバス透明な陽光の中に涼しげに佇む秋楡並木このなだらかな並木道にゆっくりとやってくる夢のバスこれに乗れば遠い憧れに近づける真っ白な砂浜の海辺にバスは停車した真夏の沸騰した砂地を跳ねながら波打ち際まで走っていった潮の香りが海面を流れてゆく潮騒に誘われて白浜のさざ波に素足を濡らす心地よい孤独を感じる赤いパラソルが潮風に舞う松林の蝉時雨が騒がしい乾いた石に腰をかけどこまでも碧い大海原を眺める無垢のときが過ぎてゆく海辺には向日葵の黄色い舌状花が発光し白い浜昼顔がごろんと咲いているいったいここはどこなのだろう夢のバス

  • 孤老のブルース

    孤老のブルース枯葉の歩道をゆらゆら歩く孤老の影あたりは夕墨がゆっくりとひろがってゆく明日の夢はどこにあるのだろう遠い昔の明るい団欒の窓辺ため息ひとつさみしい風に飛ばされる酒びたりの暮らしはもういやだ話をする人なんて誰もいないひとりぽっちでとても寂しい思い出のなかのやさしい愛に飢えている石畳にこつこつと足音が響く今日も行くあてもなく街中をさまよう明日はどうなるかわからないこれからどこへ行けばよいのだろう何ひとついいことなんかありゃしない明日の夢はどこにあるのだろう孤老のブルース

  • ときのさすらい人

    ときのさすらい人悠久のときが流れ生まれてくる人間(ひと)の生命この世にうぶ声をあげたときから始まる生命の旅果てしなく遠いこの人間(ひと)の道はどこまで続いているのだろう長い旅路のふとしたときに昇る朝陽に照らされ生きる喜びを感じ沈む夕陽を見送り移ろいゆく寂しさに涙がこぼれた人間(ひと)は誰も明日の命は約束されていない不確かなときをさすらいゆく旅人孤独の影を引きずりながら桜吹雪を通り過ぎかしましい蝉時雨に幼いときを思い出し鮮やかな紅葉の山道で風の歌を聴き寒い荒野をさすらう旅人の濡れた瞳に痩せた未来が映っていたそれでも遠い太古の息遣いを感じながらときのさすらい人は明日の夢を求めて茫漠とした寂寥のなかをどこまでも歩いてゆくめぐりくる季節のなかでときの流れはいつしか肉体を風化させ愛おしい命の炎は氷柱のようにやせ細り孤独な...ときのさすらい人

  • 真夏に抱擁されて

    真夏に抱擁されて激烈な太陽の照りつける煉瓦の坂道白い帽子を突き抜けて太陽光線が頭髪を焦がす高温に膨れ上がった熱い空気の中を歩いてゆく歩くたびに迸(ほとばし)る大汗咽喉がからからに乾きかるい眩暈に襲われ楠木の木陰に立ち止り冷たい水を飲むときおり野太い涼風が肌を優しくなでて吹き過ぎてゆきそのたびに身体中に生気が甦る坂道を下り広い大通りを横切りずんずんと歩いてゆくひろびろと広がる田圃に青々とした稲葉がキラキラかがやき若い夢が青葉の影にひかっている弾力性に富むしなやかな積乱雲が大空に昇り立ちぶ厚い雲の端がギラギラとひかった何と精気にあふれていることか熱波のような狂おしい蝉声(ぜんせい)激烈な光線の照りつける沈黙の白い道あたりは太陽光線の静止する稠密な静謐につつまれわたしのときは穏やかに流れてゆく真夏に抱擁されて

  • ときめき

    ときめき空は真っ青に澄みわたり野山にみどりが圧倒的に膨張してきたこの時とばかりに石楠花の大輪が真っ赤に咲き誇り純白のハナミズキも皓々と咲き乱れ色鮮やかなツツジがどこまでも群生している鉄柵に絡みつくノウゼンカズラの赤い喇叭の花も咲き始めハリエンジュのうす黄色の花房が風にゆすられ歩道に散乱し垣根の片隅に房藤空木がひっそりと白い花を咲かせているどの花も生命の鼓動のようにまぶしくひかり儚く散りゆくときを知りながら今を嬉しそうに咲いている底抜けに明るい大空から優しい陽光が降りそそぎケヤキの木陰にみどりの風が吹き過ぎわたしは木漏れ日の落ちる白い小路を歩いてゆく小枝の隙間から差し込む日光は無数の斑(まだら)になって小路に反射している青い雲の影が緑の山の斜面を流れすぎてゆき銀色の列車が轟音を響かせながら淡い夢の中に消えていった...ときめき

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