あの日、ジェリドが駆るメッサーラの後部座席で雨に濡らされた夜景を眺めていた。 助手席に座らせた詩織は小さな寝息を立てている。無事脱出できたことに安心したのだろう。 オレは、もう詩織さんに二度とこんな危険な目に会わせない!強く心に誓う。 だが、もう一人の自分がこう問いかける。 詩織さんの安全と幸せを願うなら、もうオレは彼女の前から消えた方がいいんじゃないのか!?? 胸が苦しい。詩織さんはオレにとって世界の全てと言っていい。 その彼女の前から・・消える・・・???オレが・・。 それを‘想像‘する恐ろしさからオレは意識をずらした。 「フ..
久しぶりのデートは雨だった。 タクシーを降りてから、店の入り口まで走る間に少しだけ濡れてしまったのだろう。 わずかに雨水が滴る詩織の姿は、普段よりも一層艶っぽく見えた。 「ごめんないさい、待った?」 「いや。。オレも今来たばっかだから・・・。」 もう何度も2人で会っているのにいつもこうだ。 詩織さんと会う時は震える。 嬉しさと緊張が入り混じるこの感覚。 彼女以外にオレをこんな風に感じさせる女は未だかつていないし、この先もきっと現れないのだろう。 「ね、黙っちゃってどうかした??」 この人は時々、子供っぽい笑顔を作ってオレをから..
「主人の出張が1日早まったの。ね、今夜は会える??」 朝の10時、詩織さんからの携帯で、オレの眠気は一瞬で吹っ飛んだ。 ゴールデンウィークの最終。 最後の最後にとんでもなく嬉しいご褒美。 「神様も粋なことをしてくれる。」 思わず一人言もでた。 夜が待ち遠しい。 いつものサイド7のバー。 少しだけ目を瞑って詩織さんを思い描いてみる。 白く柔らかい頬。 ツンとした形の良い鼻。 綺麗な黒髪。 華奢な体型に似合わない、豊かな膨らみの胸。 抱きしめたときにオレの鼻腔をくすぐる甘い香り・・。 そしてあの薄い..
光司はいらだっていた。 芋焼酎を瓶のままストレートでぐい飲みする。 クオーターパウンダー(チーズ)を単品で4個連続で食う。 今度はウィスキーだ。 また、ストレートで飲む。 マクドナルドの女性店員は恐怖で泣き出す者もいた。 「あの詩織とかいう女・・・。」 「こないだ天井裏で覗いてやった・・・。」 「ただの40過ぎのババアじゃねえか・・・!!!」 「どこが良いってんだ!!!」 親友の不倫相手。 オレも一度抱いてみたい。 光司は百式に乗り込んだ。 金色の、モビルスーツ。 「お会計は、、、?」 マックの店..
「桜子・・だろ。また整形したのかよ。」 「悪い?あたし、趣味が整形とお酒と暗殺ぐらいからね。」 桜子はまだ銃口をオレに向けたままだ。 「まだやってのか、殺しなんか・・」 「うるさい!!!」 「食べてくためにはしょうがないでしょ。あなたみたいに何でも与えられてきた裕福な人生ではないの。欲しいものは自分で掴みとるしかない。少なくともあたしはそうしてきた。これからもきっとそうだわ。」 「・・・・・」 「あなたと違って私は実力で生きてきた。あなたは運で生きてきた。実力と運、どっちが勝つかしら」 「・・・・・」 「今とってもあたしはとっても幸..
大型連休を目前に控え、キャンパス中が華やぎ始め、それと同時に 「今年の役目も無事果たした」と言わんばかりに桜の花々は散り終え、 路上を薄いピンク色で染めた。 キャンパスの路上全体が酒に酔ったように赤い。 それにしても、一昨日は死にかけた。 不用意にジムで散策に出たところを、ドム4機に囲まれた。 なんとか2機落としたところで、後方から背中を刺された。 背中にナイフが刺さったままで帰宅し、生来の病院嫌いもあって オレはそのまま毛布にくるまって寝た。 血が止まらない。 愛も止まらない。 さっきからずっと若い女に付けられてい..
つまらない。全く、つまらな過ぎる。 隠し持った、トリスウィスキーの瓶を左手で弄ぶ。 時間は浪費すべきではない。有限なのだから。しかもどんな大金です ら、時間は買えない。 ついにオレはジャケットを羽織ながら、席を立った。 授業開始から40分。 渋々、昨日から大学の授業に復帰したが、一限=90分間があたかも 数時間の如く長く感じた。 昨日、サイゼリヤで光司から言われた一言が脳裏に焼き付いている。 「一度、お前の詩織さんに会わせろよ。」 いつか言われるのではないかと覚悟はしていた。 光司という男は一度、吐き出した言葉は絶対に曲..
昼酒にも飽きたところで、久々に大学に行った。 4月なので、各サークルの新入生の勧誘でキャンパスは異様な賑わいを 見せている。 「何がプリキュアだ」 オレには、春コスメに化粧した女どもが安っぽく見えて仕方がない。 「よう。久しぶり。」 右肩に大きな手を置き、親友の光司が声をかけてきた。 荒木光司。 オレと同い年で、同じ高校出身。バカばっかりに見える周りの連中の 中で、オレはコイツにだけは一目置いている。 光司は女連れだった。オレが知っているだけで5人は付き合っている 女がいる。今日の女はその5人とまた違う女だ。 「オ..
今日の一日は缶チューハイのグビ飲みで始まった。 飲み終わると、すぐにグラスに焼酎を注ぎ、それをストレートで飲む。 もう2週間、大学には顔を出していない。 朝起きて、缶ビールかチューハイを飲む。 この2週間で習慣付いてしまった。 「ピリリリリ・・・」携帯が鳴る。 詩織からだった。朝の9時。 高鳴る胸を抑えきれず、通話ボタンを押す。 「ごめん、起こしちゃった?」 「いや・・起きてたから・・。どうしたの。」 「別にね、用事はなかったの。ただ声が聴きたかっただけ・・。」 オレの胸の鼓動はさらに高まる。。声を発せない。。。 ..
オレは詩織さんの後姿がたまらなく好きだ。 一流の女とは、こういう女を言うのだろう。 強い酒を飲むのを好む彼女。 どこか淋しげにグラスを傾ける彼女。 その髪も、うなじも、背中も、他の女性とは全く違って見えた。 他の女性とは一流と四流ぐらいの開きがある。 瞼を閉じれば、必ず現れる彼女の後ろ姿。 振り向いてくれるのは一体、いつだろうか。 現実の詩織に会った時、オレは彼女を全身でで味わおうとする。 隣に座ってジントニックを啜る彼女を。 その横顔を、その瞳を、その存在を。 ふと我に返る。 気が付くと、ギャンのサーベルがオレの..
去年の夏の終り頃だ。詩織さんと出会ったのは。 詩織さんのご主人は、オレの父親が経営する会社の専務だ。専務といってもまだ40才ぐらいだったと思う。東大卒だ。名は森下。下の名前は忘れた。 親父なんかは大喜びした。東大卒がウチの会社に来たって、家庭の夕飯時に子供みたいにはしゃいでた。 親父の営む会社は従業員が100人程度。梱包業を営む小さな会社だ。オレは小さな会社とはいえ、一応は社長の子息ということになる。まあ、子供の頃から何不自由のない生活をしてきた。 でも心が満たされたことは一度もなかった。子供の頃に腹が減ったという記憶は全くない。常に誰かがオレに食べ物を与えた。オレはそ..
今日は大学の授業は休んだ。 「債権法の勉強なんか」と、自虐的なつぶやきを放つ。 なんなら退学したって構わないとも思っている。 こないだ実家でそれを言ったら、妹に平手打ちを喰らわされたっけ。 3発。あれは効いた。 オヤジにだって殴られたことはないのに・・・・・。 ため息をついて、目を閉じる。 目を閉じるとオレはいつでも詩織さんに会える。 オレは詩織さんの背中が好きだ。 白く、小さく、キレイな背中。 抱いたのはまだ2回だけ。しかし、鮮明すぎるほど彼女の裸体は目に 焼きついている。鮮明に、だ。 目を閉じれば。いつでも。 詩..
伊織は改札口で携帯をいじりながら、退屈そうに立っていた。 捨てられた子猫のように。 オレに気付やいなや、目に涙をためながら走り寄ってきた。 「信じられなくなった・・・!もう・・ユウ君のことが!」 伊織は泣き声で激しくオレに訴えてきた。 詩織さんとのことは絶対にバレてはいない、バレてるはずがない。 それは確信などという生易しいものではない。「絶対」だ。絶対に バレるわけがない。 仮に万が一、いや、億が一、バレていたとしよう。オレは何も困らない。すぐさま伊織と別れるだろう。何の未練もない。 もともと遊びだったのだ、心からそう思う。遊び。単なる。..
昨日は伊織と遊んだ。上野駅周辺で、アメ横を歩いたりとか、寿司をつまんだりとか、そんな程度だけども。 伊織は22歳らしく、就職に焦っていた。世の中不況だ。大変だ。女の子は特に。 オレが社長だったらな・・・、すぐにでも内定をあげる。そんないい子だ。でもオレは一介の公務員だから、伊織に対して何の力にもなれない。ゴメン。ごめんな。オレは空になったグラスに手酌で焼酎を注いだ。「ふー」と一息。酔いがまわってきた。 明日は夜7時から詩織さんと食事の約束をしている。それを思い浮かべるだけで、全身に幸福が漲る感じだ。明日も辛いことがたくさんあるのだろうが、。。。定時後には詩織さんとのデートが待..
将棋教室に入るとすぐにこどもたちの眼差しを浴びる。 見せてもらおうか、平成の子供たちの強さとやらを! 子供たちは目線をすぐに将棋版に戻した。もう私には目もくれない。 かわりに、見るからに強そうな中年オヤジが近寄ってきて、 「将棋指すかあんちゃん!」 と声をかけてきた。 (いや・・私は弱い人と・・・) 対局は始まり、16年ぶりの実戦だった私は、飛車と角の配置を逆にしてしまい、オヤジに注意を受けた。 結果は3分ぐらいで負けた。その後、さんざんダメな指し手を非難された。 (あまり若者を苛めないでいただきたい・・!) 帰りはガンプラを買って帰った。 帰宅後、作る気が起きず、珍..
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