「街と、その不確かな壁」を読むスタンス

村上春樹さんの新作「街と、その不確かな壁」を読んだので、一次的な感想をまとめてみた。ネタバレは一切ありません。 私はかれこれ30年近く読んでいる、まあまあコアな読者だ。村上さんの小説の世界観は、思春期から青年期にかけて脳にインストールした多くのソフトウエアの中でも、いつまでも大事に保守・更新されながら機能し続けているもののうちの一つだ。…

ダイビング日誌（2）あなたが体験しうることは、それ1つとは限らない

2021年の8月にスキューバのライセンスをとった。その後10月になって、アドバンスのライセンスを取得した。ダイビングでは潜水回数を1本、2本と数える。2023年2月までの1年6ヶ月で45本を潜った。1ヶ月2.5本。ものすごく早くはないが、多分悪くないペースらしい。マリンスポーツは夏のものかというとそんなことはない。ダイバーも、サーファーも、真冬の極寒でも海に入っていく。季節を一巡して、2月の…

利他の料理

年末年始で実家に帰っている。毎年12月29日から怒涛のおせち料理の材料の仕入れのため兄と母と一緒にスーパーを駆けずり回る。兄が出汁をとり鉄玉をいれて黒豆を煮はじめたり酢の物をこしらえている間に、母と私で数の子の筋を取り、くわいや百合根の下ごしらえを手伝う。たくさんの量の、たくさんの品数の料理が31日の夜遅くまで続く。兄のレシピ元は主に土井先生のようで、アーティスト気質の彼は、時間をかけて丁寧…

そのつらさは他人にしかわからない

Twitterの「おすすめ」で週に何度か、いわゆる「妻の愚痴アカウント（以下妻の愚痴垢）」上がってくる。フォローしているアカウントに大人の女性が多いからなのか、40代女性という雑な年齢括りからだろうか？いや、多分上がってくると熱心に読んでしまうからかもしれない。…

海が赤色に染まっても 〜8年越しのブランドマーケティング指針

8年前も今も、私がこの仕事を通じてやりたいことは同じだ。海が赤色に染まっても、船の仕組み、船長、乗組員が変わっても同じ場所で位置を変えない北極星を見つけたい。「顧客にとって本当に価値のあるものを提供する」という当たり前の目的を、時々荒波が寄せても、自分たちの苦しみで見失わないために。ブランディングとはそういう仕事であり、マーケティングとはそれを実現する手段なのだ。…

あなたにはその水滴を落とす資格がある

2021年8月ごろに人生で初めてランニングを始め、春のフルマラソン完走を目指すことにした。 些細なきっかけだった。1年ほどコロナ禍の運動不足解消にゆるいウォーキングをしたあと、ちょっとしたきっかけで5月にジムに通いはじめた。筋トレ中心に頑張っていたのだが体脂肪が落ちず、トレーナーに勧められてトレッドミルを取り入れたら、景色変わらないし外でランニングしたほうが効率的だよなー、と思い近所を走り始…

自分が心地よい音が、奏でるべき音なのだ。

日本で最初に緊急事態宣言が発令された2019年4月から、1年半が経った。今は最悪のピーク、第5波の収束期だ。やれやれ、いやはや。 逆説的なようだが、本当に素敵な1年半だった。 こんなこと言い切っていいのかどうかわからないが、自分の人生にとって大切な学びがたくさんあった。思い起こせば環境の変化が苦しく迷走した時期もあったかもしれない。多分間違いなくあった。けれどトンネルを通過していろいろ昇華し…

彼岸と此岸を往来する意識（ダイビングの話）

人生2回めのダイビングをした話を書きたい。 トライしたのはボートダイビングだ。船で沖まで行き、身体に鉛の重りをつけて船から下ろしたロープで10メートルほどの海底まで潜る。インストラクターが海底でマスクの水を抜く方法、水圧に適応するため耳抜きをする方法、ボンベで呼吸をする方法を簡単に説明してくれる。静かな声の彼が繰り返し言う。 「何があっても落ち着いてください。不安になって焦っても何もいいこと…

彼らのままに

会社で難しいプロジェクトの管理を任された。ブランドの再定義を通じて、今まで一緒に働いたことがなかった社内の複数のチームが協同して一つのものを作り上げる仕事だ。専門家やスペシャリストを集めたチームを作って責任を割り振り、進捗管理や困ったときのお世話をする。複雑なものを短期間でまとめろ系のヤツである。…

価値のゼロ地点で、「あなたのことを知りたい」

唐突だが、私は子ども好きだ。小さい子どもと時間を過ごしたり遊んだりするのもけっこう得意なほうだと思う。子供は「うわー、人間が小さいぞ」というだけ面白いし、そもそも、生き物が好きなのだ。ある日、知人たちとその子どもたちと一緒に意気投合して遊んでいたら、一人に「そんなに子ども好きなら、結婚して自分の子どもを産めばいいじゃないか」と言われた。これって、本当、よく言われるんだけれど。…

2020年に買った素敵なものたち

2020年の私はまあまあお金を使った。なんなら貯金がほとんどできないぐらい使った。 コロナ禍にいかにして経済を回すかが、今の日本の最大の課題だ。観光業と飲食業は壊滅的で、通勤や散歩で街を歩いていると毎日、昨日はこの店、今日はあの店、という勢いでシャッターが閉まり長期休業や廃業の張り紙を貼った店が増えていく。集団で長い悪夢をみているみたいな現実だ。第2の緊急事態宣言が関東に出たいま、「このエピ…

今日も元気だご飯がうまい、のプログラミング

Go To Eatキャンペーン、先週末に政府予算のリミット越え終わってしまいましたが最高でしたねぇ。遅れて参戦したので行けたレストランは5軒だけでしたでしたが十分楽しませていただきました。ありがとう、日本政府。…

「場所」の失われた世界で

外出自粛でリモートワークになった多くの人に共通すると思うのだけれど、3ヶ月も自宅勤務していると最初はなんだかんだ言っててもそれなりに慣れてくる。結婚しているか、子供がいるかどうかで置かれている状況はかなり違うと思うが、私の場合、ひたすらに一人で生活することに慣れてきた。「出かける用事がない」というだけのことが、生活の管理を圧倒的に楽にする。毎日の規則正しい食事とエクササイズで前より確実に健康…