第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ1 情縁(15) 坂の下ににじむ家々の明かりがみえる窓際に座り、飲み干した茶碗の底を見つめながら、過ぎ去ったその歳月の流れをたど…
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ2 至道(6) 酔い覚めの喉を潤す冷酒はおいしかった。妙子が庇護を受けていた鬼塚の怒り狂った怒声に、秀敏の後を追うようにして浅草…
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ2 至道(6) 「深味にはまっちゃいけない・・・・なんて、どうしてそんな他人行儀なことが言えるの?悲しくなるからそんな言い方やめ…
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ2 至道(5) 4月も終わろうとしているが、咲き残った桜の花びらが、妙子の髪に舞い落ちてきた。フト我に返ったように「妙ちゃん、中…
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ2 至道(4)「ガキじゃああるまいし、オメエたちに手を引かれなくたって帰えれるぜ。そんなことよりこっちえ来て一杯えのみな。今夜は…
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ2 至道(3) 卓をつなげ席を作ると、良三はのりきらないほどの料理を作って並べた。若い頃には京料理の老舗で修行したというだけあっ…
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ2 至道(2) 「国松さん、本当にありがとうございました。ひとりではここに来られる勇気もなかったです」「そうだろうと思ったから、…
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ2 至道(1)「おお、大迷惑だ。迷惑ついでに今夜俺と“あいざわ”につきあってくれ。いやとはいわせねえぞ」白神一家の若頭武井国松の…
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ1 情縁(7) 白神一家の木村京介から浅草小津組の小津政吉に宛てた手紙を懐にした秀敏は、浅草に戻ろうと桜木町駅に向かった。上りの…
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ1 情縁(6) 「洗いざらい話したんじゃないの?」「秀ちゃんが命をかけて戦おうとしていたアメリカ兵と結婚したうえ捨てられて、芸者…
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ1 情縁(5) 6年ぶりに再会した秀敏との、飽くことを知らななかった一夜の情事の温もりに、身を包んだ妙子を待っていたのは、すご…
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ1 情縁(4) しかし、事件の真相を探り当てたのは、政財界から裏社会までを取り仕切る龍王寺義嗣である。彼がいまもって率いる元特高…
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ1 情縁(3) …
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ 1 情縁(2) 至誠館に身を置いている大井秀敏と伊東将男を除けば、桜木町駅構内で発生した列車火災事故で、乗客はドアが開かなかっ…
本年もどうぞよろしくお願いいたします。 令和二年 元旦 皆様のご多幸をお祈りいたします。 …
第七章 蒼穹遙か一 巨星落つ 1 情縁 話の合間をぬって出してくれた“煮出し里芋の唐揚”や“イカげその醤油焼き”なども、埠頭の片隅にある屋台の料理とは思…
第六章 夢幻泡影三 歳月 4 国士への道 4(13)「悪徳商人のモノとばかり思って仕掛けましたが、露店のネタモノと判り返しにきました。間違いは間違いでもご迷惑…
第六章 夢幻泡影三 歳月 4 国士への道 4(12)“ここの大根は美味いぞ、やみつきになる”と言った黒崎軍三の言葉そのままに、薄味で煮あげたうすい飴色の大根が…
第六章 夢幻泡影三 歳月 4 国士への道 4(11)「ところで以前お邪魔したときいただいた、煮大根はまだありますか?」「あるわよ。お出ししましょうね」「それと…
第六章 夢幻泡影三 歳月 4 国士への道 4(10)雲峰寺に修業に行く前の昭和29年3月終わり頃、全てに希望を失い失意のどん底にいた大井が、やっと本来の自分を…
第六章 夢幻泡影三 歳月 4 国士への道 4(9)女将が言う“北さん”とは、至誠館を創立してくれた菅井組の社長菅井欽一に、南波組から派遣されてきて、荷役の初歩…
第六章 夢幻泡影三 歳月 4 国士への道 4(8)その夜、大井秀敏は留守をまかせていた伊東将男を労おうと、埠頭の埠頭の一杯飲屋「かもめ」に誘った。大井秀敏にと…
第六章 夢幻泡影三 歳月 4 国士への道 4(7)黒崎軍三は日本陸軍の諜報部隊育成のための中野学校出身で、“殺しのライセンス”を持つ特務機関員であった。京城で…
第六章 夢幻泡影三 歳月 4 国士への道 4(6) 突然の事に呆気にとられていた黒人兵も、両手をだらりと下げ茫然として立つ男に「ユア ナッ ウオンティド ヒア…
第六章 夢幻泡影三 歳月 4 国士への道 4(5)四天王も次々とこれにならい、これまた見事に彫り上げた『国天』『増長天』『広目天』『多聞天』の刺青の躍動が始ま…
第六章 夢幻泡影三 歳月 4 国士への道 4(4) ここで至誠館の略歴を振り返ってみよう。至誠館の創立は昭和24年、横浜港の荷役業者として確固たる立ち位置を固…
第六章 夢幻泡影三 歳月 4 国士への道 4(3) 青眼に構えた大井に対峙した金田は、一瞬にして固まったように動かない。「遠慮せずに打ち込んでこい」大井が剣先…
第六章 夢幻泡影三 歳月 4 国士への道 4(2)大井秀敏は小津政吉の不慮の死を惜しむ人たちの多さにまず驚いた。関東連合に属する組の歴々に加え、小津政吉が昭和…
第六章 夢幻泡影三 歳月 4 国士への道 4(1)昭和31年4月8日、浅草小津組五代目小津政吉の本葬は、浅草寺の子院のひとつ本龍院で執り行われた。大井秀敏は通…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3 (12)石森の後を追うように、一人きりで組事務所を出た尾島は、関東連合の最高顧問である山野井敏一のもとに出向いた…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3 (11)反共思想・軍閥構想に凝り固まっていた龍王寺義嗣は、関東連合をも防共勢力の一翼を担わせるために、特別相談役…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3(10)「新設道路の用地買収は、公共事業施行者が執り行うのだけど、外部秘であったはずの計画が担当官庁から、悪徳政治…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3 (9) 襲名式から半年ほど経ったときに、尾島義雄のところに同期の親友である石森重郎が『夢染会』有志の小津組六代目…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3 (9)大森組の中堅管理職までになった、石森重郎の悩みはそこにもあった。大森組のみならず建築業界の近代化を目指して…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3 (8)この時期の交通網の整備は著しかった。なかでも最も注目されたのが東海道新幹線と名神高速道路の開通である。昭和…
(五) しんちゃん地蔵 しんちゃん地蔵影絵のような幼い日の思い出だけを、探しに来たわけではない。心の奥底で思い出したくないと蓋をした筈の地獄の残像が、その重…
(四)送り火 1 15年後 それから十五年後の夏、山梨大学空手道場での夏期合宿を終えた帰り道、幼い頃過ごした愛宕町のことがフト思い出され、かすかな記憶をたど…
(三)地獄図1 焼け跡すべてが焼き尽くされていた。そこここの見覚えのある石垣や燃え残った門柱がなければ、ここが山懐の緑に包まれた、静かで平和だった自分たちの町…
( 二)甲府空襲3 坂の上の榎川をめがけて走りながら、フト坂の上の榎を振り返って見た。すでに炎も上げず透き通ったように真っ赤に燃えた大木は、怒り狂った不動明…
( 二)甲府空襲 2 B29 それは余りにも静かな地獄図の序幕であった。東側の天窓のガラスが夕焼けに染まるように赤く照り、やがてその薄明かりは家の中まで射し…
(二)甲府空襲 1 空襲警報断末魔の叫びをあげる戦況は、ただ毎日が楽しければいい子供の世界にも、次第に暗い影を落とし始めた。空襲警報は昼も夜も発令され、ゲート…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3(7) 圧倒的に多い零細業者の大部分は、建設業とは名ばかりの『労働力供給業』であり、常雇労働占さえかかえていないも…
(一) 軍国の母1 その昔、戦争があったほんの70数年前、日本が世界を相手に戦争をしていたことを、知らない若者が多いと聞く。その戦争で延べ1000万人の兵士が…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3 (7) 英語が敵性語であるという理由で廃止縮小されるなか、井上成美校長は強い信念で従前通り英語教育が継続され、…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3 (6) 鉄鋼や造船、自動車、電気などの工場や、石油コンビナートが京浜工業地帯などに立ち並んでいったのもこの時代で…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3 (5)「そこで修業を積んでいるうちに、とんでもないことに遭遇した。大井君も江戸時代中期(1782年:天明2年:か…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3 (4)「だけど先生、ヨーロッパでゴッホ以前は絵画の問題にしても宗教的なものだとか、写実主義が中心だったのが、ゴッ…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3 (3)『“テキヤ”とは露店親分システムである。戦前庄では“カシモト”に比べて地味な存在だったが、戦後はヤミ市の…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3 (2)日々死と向き合っていた予科練時代、そして終戦直後横須賀駅前で、暴徒化した海軍工厰の徴用工の連中との抗争では…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 3(1)木村京介の名代としての大井を饗応する席をもうけてくれたのは、死んでしまった小津政吉である。その席で大井が“至…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 2 (10)これだけの強面の連中に囲まれてなお微塵も動揺しない秀敏に、不貞不貞しさを感じ取ったのだろう、その場の雰囲…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 2 (9)「いまは世帯もちいせえが、いまに浅草一帯どころではねえ、東京に、いんや関東に小津組在りってところまで上り詰…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 2 (8)・・・これが浅草妙清寺事件といわれる博徒住吉一家の身内同士の抗争の概要であるが、場所が浅草という点を除いて…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 2 (7)では、妙清寺で高橋輝男とともに相果てた、一方の“向後平”はといえばどうだろうか。前述の菊岡久利によると「ヤ…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 2 (6)ヤクザは、義理を殊更に大切にするだから葬儀場を襲って目的を遂げることなど決してなかったし、あってはならない…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 2 (5)復員した大井秀敏が、横浜・野毛の屋台で諍いを起こし、身を隠させてくれた関東白神一家で同宿したのが、渋谷での…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 2 (4) 明日か明後日には開花を告げられるだろうと思いながら、本堂に戻ろうとした秀敏のもとに貞子がただならぬ様相…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 2 (3)それは貧民層からドロップアウトした者の吹きだまりでもあった裏社会にも通じることである。そのヤクザ社会では…
第六章 夢幻泡影三 歳月 3 国士への道 2 (2)いずれにしても冷戦の激化をきっかけに、経済面では工業を発展させることによって経済を再建し、日本を反共の防波…
【 前回までのあらすじ】続・続 人間機雷 327 2018/10/2216歳で志願した予科練習生大井秀敏は、終戦間際に創設された『人間機雷』とよばれる伏龍隊で…
夢ゆ め 沢庵禅師の辞世は『夢』だったそうです。大書した『夢』の横に「是亦夢 非亦夢 弥勒夢観音亦夢 仏云応作如是観矣」(是もまた夢、非もまた夢、弥勒もまた夢…
空くう 感じるもの、想うもの、更には知ったり判断したりする精神の 働きなどすべてのものには実体が無いということ、それが「空」だといいます。般若心経の中に出てく…
知足 ちそく 「“知足”のものは貧しいといえども富めり“不知足”のものは富めりといえども貧しい」という釈尊の教えを釈迦十大弟子の版画に書き添えました。 “足る…
黙もく 『黙』とは普通“だまる・無言”という意味ですが、禅の世界では問われて答えに窮しての“無言”ではありません。禅者は「語黙動静」といって、語るも黙するも、…
阿吽あうん 梵字の最初の一字が“阿”で、最後の“吽”ですが、声に出すと“阿”は口を開いて出し“吽”は口を閉じて出すさなければいえません。密教ではこの二字を、万…
襤褸 らんる 「襤褸」(ランル)とは、つぎはぎだらけの衣服のことで、“ボロ”のことです。 ♪ぼろは着てても こころの錦 どんなな花より きれいだぜ・・・・♪な…
両忘りょうぼう 両忘(りょうぼう)は二つのことを忘れることを意味しますが、世の中には相対することは沢山あります。是と非、善と悪、愛と憎、美と醜、生と死、貧と富…
喝かつ 『喝』は本来、禅宗の大声で叱り付ける“叱咤の声”で、相手が言い訳や反論を差しはさむ余地を与えないために用いられた言葉です。坐禅で瞑想が妄想になりそうな…
一期一会 いちごいちえ 今日の素晴らしい出会いも、この一回こっきりかもしれない、もう一生会えないかも知れないと思って接するのが「一期一会」です。この出会いは二…
一心いっしん 人間のこころは、コロコロと変わるから“こころ”と言われるますが、まことにあてにならないもの、頼りにならないものなのかもしれません。日頃は温厚な人…
NHKの『ダーウィンが来た』が好きでときおり観ています。迫力の映像の数々で生きもののすばらしさを伝えてくれるのですが、時には涙を堪えるのに苦労する感動的な場…
『正』という字は「一」と「止」という字の組み合わせですが「一」は城郭で囲まれている「邑」(まち)であり「止」はそれに向かって進撃する意だと言いますから、目標め…
身のまわり かたづけて 山なみの雪 …
一炊の夢 いっすいのゆめ 人の世の富や栄華、人生のはかなさの例える言葉にはいろいろとありますが、古代中国・唐の時代に書かれた“沈既済”(しんきせい)にある話が…
守 株 しゅしゅ 古代中国の宋の国にこんな話があります。ひとりの農夫が畑を耕していたところ、いきなり飛び跳ねてきた兎が木の切り株にぶつかって、ころりと死んでし…
寒空とほく夢がちぎれてとぶやうに 山頭火 今年もあと少しで終わってしまいます。年頭にこころの中にえがいた夢の半分も彩色で…
昭和45年12月・・・・。クリスマス・イヴ近くともなるとキンキラの‘とんがり帽子’をかむり、ビニールの‘ロイド眼鏡’をかけた酔客が、関内の街を肩を組んで大騒ぎ…
寒い雲がいそぐ 山頭火 寒々とした雲がかなりの速さで空を流れて行く。 北風の吹き荒ぶなかでよく見かける情景です。 …
酔ざめの風のかなしく吹きぬける 山頭火 句集“草木塔”のなかにわざわざ自責と題して詠んでいます。深酒の朝に飲む“…
まつすぐな道でさみしい 山頭火 「まつすぐな道」がなぜ「さみしい」のでしょう?見通しが利いてしまうからですか・・・・行く先が遥か…
「ブログリーダー」を活用して、lionmanさんをフォローしませんか?