プロフィールPROFILE

汎武さんのプロフィール

住所
八王子市
出身
佐世保市

写真やイラストなど殆どない、文字だけの地味なブログです。全体のトーンはエッセイ風でありましょうか。ま、ちょっと創作ものも入っていますし、批評めいたものも煩わしくない範囲で書いております。よろしければ覘いてみてください。

ブログタイトル
はなし汎武ん
ブログURL
https://hanbu-y.blog.ss-blog.jp/
ブログ紹介文
日常のあれこれ、本の事、誰彼の事、合気道の事等々、諸事への思いを整列させることもなく書いております。
更新頻度(1年)

154回 / 365日(平均3.0回/週)

ブログ村参加:2009/02/10

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ハンドル名
汎武さん
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はなし汎武ん
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はなし汎武ん

汎武さんの新着記事

1件〜30件

  • あなたのとりこ 402

    「これ迄に聞いていた頑ちゃんの話しに依ると、その二人は自分達の待遇を差し置いてでも頑ちゃん達の好待遇を考えるような、献身的な人でも義に篤い人でもお人好しでもないみたいだし、屹度従業員よりも遥かに好条件を獲得したんじゃないの」 「組合の中の推察も、大体そんなところだけどね」  頑治さんは冷ややかな笑みを浮かべながら頷くのでありました。「ところで、明日の夜は大学時代の友人と会食だったよね?」  頑治さんは表情を改めて話題を変えるのでありました。 「そうね。仕事の打ち合わせの後で教授も交えて、新宿の住友ビルの中にある何とかって云う土佐料理の店で食事する事になっているわ」 「ふうん。皿鉢料理かな。鰹のシーズンの最盛期には少し早いように思うけど」 「何だかよく判らないわ。博士課程に進んだ同級生がその宴会を仕切ってくれるみたいだから、あたしはそれに乗っかるだけで、魚料理でもジンギスカンでも..

  • あなたのとりこ 401

     まあ、然程に熟達したコーヒー淹れの腕前は特にはないながらも、頑治さんは手動のミルで豆を挽き、紙ドリップで二杯分のコーヒーを丁寧に淹れるのでありました。夕美さんは久し振りの頑治さんの手になるコーヒーの立ち上る湯気に嬉しそうな表情をしてから、恐る恐るコーヒーカップの熱い縁に口を近付けるのでありました。  結局夕食を摂るために頑治さんのアパートを二人して出たのは、それから三時間程経ってからでありました。その三時間てえものは、コーヒーが熱過ぎたので飲むのに三時間を要したとか、久し振りの再会にすっかり時を忘れて三時間、この間の二人夫々の身に起こった何やかやの出来事を、交互に飽かず喋り合っていたと云う訳でもないのでありましたけれど、まあ待ちに待った邂逅でありましたから、あれこれ色々、と云うか、それ程色々でも無いのでありますが、まあ何やら、やる事もあったと云う事でありましたか。・・・  こちら..

  • あなたのとりこ 400

    「さてそうなると、未だ夕食には早いからどうやって時間を潰すかな。・・・」 「散歩なんかより、これから頑ちゃんのアパートに行く、と云うのはどう?」 「まあ、それでも構わないけど、でも俺のアパートに上がり込んでまったりしていると、肝心の夕食の時間を逸するかも知れないなあ」 「別に良いじゃない。夕食の時間がきっちり決められている訳じゃないんだから」 「ま、それはそうだけど」  夕美さんが泊まるのはビジネスホテルであり、観光地の観光旅館のように夕食が宿泊プランに付属しているのではないのだから、何時に何処で夕食を摂ろうとそれは随意でありますか。頑治さんの心配は的外れで間抜けなもののようであります。 「こっちに出て来てあたしが先ず行きたい処って云ったら、頑ちゃんのアパートと云う事になるものね。他は後回しで良いもの」 「ウチに置いていった見張りのネコの報告も聞きたいから、と云うのもあるか」..

  • あなたのとりこ 399

    「まあ、それは仕方が無いか」  頑治さんは少し落胆の表情をして見せるのでありました。  と云う事で、二人はその儘駅構内の通路を歩いて中央線のホームに移動するのでありました。もう夕方に近い時間になっていたから通路は急ぎ足に行き交う人で非常に混み合っていて、夫々が一つずつ下げた夕美さんの持ってきた大きな旅行カバンが、二人横に並んでのスムーズな足の運びを苛立たしく邪魔するのでありました。  御茶ノ水駅で電車を降りて改札を抜けると、夕美さんはこの地を去ってから然して長い時間が経過していたと云う訳でもないのに、斜陽にやや赤みを増した駅前の交差点の雑踏に懐かしそうに目を細めるのでありました。もう自分はこの地の人間ではないと云う思い做しが、前に見慣れたこの光景への懐かしさをいや増すのでありましょうか。  二人は大学の裏手にある、今宵夕美さんが泊まるビジネスホテルの方に向かって、矢張り手に下げ..

  • あなたのとりこ 398

     夕美さんも頑治さんをほぼ同時に見付けて、逸る気持ちを弄ぶように足手纏いに絡む両手に下げた大きな旅行バッグを持て余しつつ、頑治さんの方に向かって小走りに駆け寄って来るのでありました。その前に勿論、この荷物共は、先ずは見付けた頑治さんに手を挙げて見せる挨拶の動作をも忌々しく邪魔したのでありました。 「見慣れないフォーマルな格好をしているから、見違えるところだったよ。ま、実際はどんな格好をしていても、夕美を見違える事なんか絶対にしないんだけど」  頑治さんはそう云いながら、傍まで来た夕美さんの如何にも重そうな方の荷物を受け取るために片手を差し伸べるのでありました。 「一応仕事絡みでの上京だからね」  夕美さんは素直に頑治さんに大きな方の旅行バッグを手渡して、それから頑治さんの顔をまじまじと見るのでありました。「変わり、なさそうね」 「一か月ちょっとでの再会だから、そんな短い時間では変..

  • あなたのとりこ 397

    「それはどうですかねえ。ただ俺の言葉を停滞していた会話を少し活性化させる好都合な接ぎ穂だと捉えて、上手く社長が利用しただけじゃないですかねえ」  頑治さんは謙譲からだけではなく、実のところあの社長には、人を見る目とか好機を的確に捉える目とかをあんまり期待しない方が無難だろうと云う読みかあるものだから、そんな風に冷えた語調で応えるのでありました。 「まあ何事にも敏くピンとくるタイプじゃないけど、それでも唐目君の発言にちょっと瞠目したような様子は充分あったよ。それにあの社長だけじゃなくてあの場に居た殆どが、唐目君の発言にグッと引き込まれたのは間違いない。まあ、一人を除いて」  均目さんに除かれた一人とは土師尾常務に間違いないでありましょう。 「そうね。確かに唐目君の発言にはあたしも、おお、とか思ったもの」  那間裕子女史が頑治さんの方に向けた目を、まるでその時を再現するように少し大袈..

  • あなたのとりこ 396

     本来ならばこういう締め括りの発議は、袁満さんよりは土師尾常務辺りがするべきところではありましょう。しかし当人としてはこの会議に然したる思い入れも期待も無いものだから、それに元々気が利かない性質でもあって、ケチを付ける事はするけれどそんな役割なんぞは全く興味も無さそうで、さっさと立ち上がろうとするのでありますか。  反省会と云う程のものではないけれどこの会議の後、甲斐計子女史を除いた従業員一同は馴染みの神保町駅近くの居酒屋で例に依って一献傾けるのでありました。酒杯を取り交わす時の話題としては、先程の土師尾常務の重職の者にあるまじき子供じみた振る舞いや発言に対する鬱憤晴らしが先ずあって、それから次には那間裕子女史の土師尾常務に対する寸分の遠慮も無い食って掛かりようへの驚嘆等でありましたか。  土師尾常務への欠席裁判的批判や論いは何時もの事と云えば何時もの事でありますが、一同は那間裕子..

  • あなたのとりこ 395

     袁満さんが土師尾常務の口がようやく閉じたのを見極めて云うのでありました。 「まあ、総括として、出雲君と袁満さんの今後の仕事の遣り方が少し具体的になったと云うのは、今日の会議の収穫ではないですかね」  均目さんが荒れた場の空気を一端沈めるようにそう纏めるのでありました。 「確かにそれは良かったかな」  袁満さんが力強く頷いて出雲さんの方を見るのでありました。その袁満さんの目に出雲さんも大きな頷きを以って応えるのでありました。 「常務が人をへこませる事ばかりに矢鱈に熱心で、建設的な意見は欠片も持っていないと云う事が判った事も収穫の一つかしらね」  気の強い那間裕子女史は未だ土師尾常務に対する侮蔑を止めないのでありました。しかし土師尾常務の方はと云えば、天敵を睨むような目付きで凄んで見せて、力を入れた頬の小さな波打ちで奥歯の噛みしめを表して口惜しさを覗かせはするけれど、唇は引き結ん..

  • あなたのとりこ 394

     まあ、土師尾常務としては常に片久那制作部長を意識して、それに決して劣らない迫力と存在感を社員の前で醸し出そうと必死なのでありましょうが、なかなかご当人の狙い通りにはいかないようで、それがまたこの御仁にとっては慎に腹立たしい事なのでありましょう。この欲求不満が、この人を余計にいじましく見せて仕舞うのでありますけれど。 「そんな事を云うのなら、僕の代わりに那間君が営業に出れば良いじゃないか」 「そんな子供が駄々を捏ねるような事を云わないでくださいよ、みっともない」 「まあまあ、那間君ももう少し冷静になって」  全く怯まないで益々嵩じて土師尾常務と言葉の遣り取りで対抗しようとする那間裕子女史を、社長が宥めるのでありました。「土師尾君もそんなに興奮しないで」  ここでも仲裁役を演じる社長の魂胆としては、まあ、場の空気から、そう云う役回りを演じざるを得ない点はあるとしても、しかしどちらか..

  • あなたのとりこ 393

     那間裕子女史が聞き捨てならないと云った風に土師尾常務を睨むのでありました。均目さんも多少は柔らか目ではあるけれど同じ制作部の人間として、土師尾常務に向ける目付きに於いて那間裕子女史にすっかり同調するのでありました。  土師尾常務としては、社長にじんわり仄めかしたい事を、そうもはっきり那間裕子女史に言葉にされたものだから、女子以上に不愉快気に眉根を寄せた表情を作るのでありました。まあしかし、要はそう云う思いに間違いはないと云う事でありますか。 「利益率の点から云っても、勿論他社商品よりも自社商品を売り上げる方が良いに決まっているじゃないか。でも特注営業ではウチの製品よりも他社のものの方が色んな面で魅力的で、圧倒的に引き合いが多いのは紛れもない事実だ」  確かにこう土師尾常務が云うのは一理あって、元々自社の製品は地図類にしても他のものにしても、地方出張営業用に作られた旅行関連の商品が割..

  • あなたのとりこ 392

     日比課長が身を乗り出しながらそう訊くのでありました。 「いやあ、特には何も。ありきたりの挨拶を交わす程度で」 「ああそうか。まあ、それはそうだろうけど」  日比課長は乗り出した身をまた背凭れの方にゆっくり戻すのでありました。ひょっとしたら結構本気で、頑治さんがこれから喋るであろう事に何やらの期待を秘かにしていたのかも知れないと、日比課長のそう云う所作を見ながら頑治さんは思うのでありました。 「単に云い付けられて納品に行くだけなんだから、唐目君にそこの会社とウチとの営業上の機微なんかが判る筈がないし、先方だって単に納品に来ただけの作業服を着た人間に、何やかやと営業上の話しを態々する筈もないだろう」  土師尾常務もひょっとしたら頑治さんと同じ感触を日比課長の所作に感じて、日比課長のある意味迂闊な期待を窘めようとしてそう云うのかも知れませんし、或いは頑治さんのものす言葉に対して、社長..

  • あなたのとりこ 391

    「どう云う経緯からか、話しが変な隘路に入り込んで二進も三進も行かなくなったようだけど、ちょっと落ち着いて一息入れた方が良いかな」  袁満さんが社長に同調して場を落ち着かせようとするのでありました。 「あたしは誰かさんと違って、別に始めからずっと落ち着いているけど」  那間裕子女史が土師尾常務を一睨みした後に、今度は仲裁役の袁満さんの方に険しい視線を送りながら、未だそう云う憎まれ口を叩いているのでありました。しかし場の大勢としては一息入れる事に皆異論は無いようで、気を利かせて席を立って茶を入れるためにであろう、傍らの流し台の方に移動する甲斐計子女史を制止する声は何処からも上がらないのでありました。均目さんと那間裕子女史、それに出雲さんは茶を断って、事務所を出てすぐの、駐車場の傍らにある自動販売機で缶コーヒーを買ってくるのでありました。   十五分ほどの休憩を挟んで、全体会議は再開..

  • あなたのとりこ 390

    「つまり本当は、具体的に進展している話しなんか何もないと云う事ね。如何にもそんな話しがあるように仄めかして、勿体付けているけど」 「勿体なんか付けてはいない。失礼な事を云うな」  土師尾常務はそうに吐き捨ててソッポを向くのでありました。 「そうやってこう云う場合の常套手段としてすぐ声を荒げるくせに、でも目をあたしからオドオドと逸らせるのは、要するに何も無いと云う証拠じゃないのかしら」  那間裕子女史は土師尾常務が視線を逸らしたその仕草を、ばつの悪さから逃れるためだと解したようで、手を緩めずに益々追い詰めていく魂胆のようであります。「実は披露出来る話なんか何も無いくせに、まあ、もう少し配慮してあげて柔らかく云うと、未だ披露出来る程に具体化もしてもいない、一種の自分に都合の好い勝手な感触だけしか無い段階のくせに、それを以って日比さんの事を罵るなんて云うのは全くいただけない遣り口だわ。少..

  • あなたのとりこ 389

    「有力な話しも幾つかあるけど、未だ発表出来る段階ではない」 「なあんだ、要するに何も無いと云う事か」  日比課長は侮るような口振りながら、上司への憚りからかそれとも単なる小心からか、土師尾常務の顔から目線を逸らして独り言めかして呟くのでありました。 「しかし私が今進めている有力な商談と云うのは、豪華版ロードマップの五十部とか百部とかの、大して有難くもない小さな儲け話しなんかとは違うよ」  日比課長如きの肚の座っていない侮りなんぞは、歯牙に掛ける程の重さも無いと云うところを表するためか土師尾常務は、ここは喧嘩腰にはならすにあくまで日比課長を見下したような余裕の口振りで云うのでありました。しかしこれは取り敢えず日比課長への自分の優越を誇示するため以上の云い草ではなく、実際その素振りから、然程に有力で大きな商談をどこかの会社と進めているような気配は何ら窺えないのでありました。  この人..

  • あなたのとりこ 388

    「ところで日比君の方の営業は、少しは回復の兆しが見えてきたのだろうか?」  土師尾常務が日比課長の方に顔を向けて話題を変えるのでありました。急に自分の事に話しが移ったので、日比課長は多少面食らったような表情をするのでありました。 「まあ、見積もりの依頼は少し増えてきたような感触ですかねえ」 「実際にどの得意先からどのような見積もり依頼が来ているんだろう?」 「色んな会社から、色々と。・・・」  日比課長は暫し云い淀むのでありました。「そうですねえ、一番最近の事では、東西商事から車のディーラーが商談成立した顧客に配る豪華版のロードマップの見積もり依頼がありましたかね。あの商品にしては少し部数多めの見積もり依頼でしたかねえ」  日比課長の云う東西商事とは、或る大手の自動メーカーの特定のキャンペーン商品とか販促品を専門に扱っている、池袋に本社のある広告代理店でありました。頑治さんも小..

  • あなたのとりこ 387

    「営業車両は会社としては今後購入する心算は無いよ。車を所有すると色々経費もかかるし、その経費に見合うだけの成果が見込めないのに、そんな無駄な出費はしない。また従来の効率の悪い出張営業の形態を繰り返すのは、もう懲り々々だからね」 「ああそうですか。別に、そんなお先走りの説教を頂戴するくらいなら、今の俺の発言は取り消しますよ。ちょっとした話しの接ぎ穂の心算だったんだから」  袁満さんは小さな舌打ちの後に如何にも不愉快そうに云って、一端土師尾常務の顔を敵意満載の喧嘩腰の目で睨んでから外方を向くのでありました。 「どういう事だ、その舌打ちと不貞腐れたような態度は!」  土師尾常務が熱り立つのでありました。常務取締役たる自分への敬意が微塵も無い態度だと袁満さんの仕草を取ったようであります。日頃から薄々推察は付いていたものの、袁満さんが自分に対して寸分の敬意すら抱いていないし、心服もしてもいな..

  • あなたのとりこ 386

     下の紙商事の実情に於いて社長と社長の奥さんの弟である専務と、どちらが実際上の支配力が上なのか頑治さんには全く詳らかではないのでありましたが、この場合社長としては専務の意向を尊重する心算のようでありまあすか。 「僕としては何とかその男に仕事をさせてやりたい気があるんだけどね。まあ、紙商事関連の仕事ではないけれど、ちょっと話しを持ち掛けてみようかな」 「どんな感じの人なんですか、その方は?」  袁満さんが社長に訊くのでありました。贈答社と下の紙商事は兄弟会社であるけれど、殆ど社員間では交流が無いため袁満さんはその人を知らないようでありました。 「始めは上野にある紙商事の倉庫の管理要員として雇ったんだけど、なかなか仕事振りが手堅くて目端が利くから僕が営業をやらせてみたんだ。その後はその儘ずっと営業社員として働いてきたんだ。矢目奈伊蔵と云う名前の男だけど、袁満君は知らないかなあ」 「い..

  • あなたのとりこ 385

     頑治さんは抑々、前に考えた事もある、と云う土師尾常務の言を虚偽だと勘繰るのでありましたが、まあそれは兎も角、頑治さん如きが考える事くらい自分は疾うに考え付いていたと云う事を、つまり体裁上社長の前で云いたいのでありましょう。 「常務は例えばそう云う会社があるかどうかとか、或いはそう云う仕事をやってみても良いと云う人がいないかを、実際に探してみたのでしょうかね?」  頑治さんは反発の言と取られないように、穏やかな口調で訊くのでありました。 「まあ、少しは当たってはみたよ」  これも、実際は当たってなんかいないのだろうと頑治さんは穏やかな表情の裏で考えるのでありました。万事が上の空のくせに、好い加減な事を如何にもしかつめぶった顔で宣うのは、この人の特技でありますか。要するに一種の法螺吹き気性でありますか。 「少しは、ですか?」  頑治さんは愛嬌の色をやや消して、追及するような険しさ..

  • あなたのとりこ 384

    「それは、まあ。・・・」  土師尾常務は曖昧に、頷くような頷かないような仕草をするのでありました。 「じゃあ出雲さん、早速片久那制作部長に持ちかけてみますから同席してください」  頑治さんは出雲さんの方に顔を向けるのでありました。 「ええ、お願いします」  出雲さんは頑治さんに頭を下げるのでありました。頑治さんは微笑を返して頭を元の正面に戻す序に土師尾常務の顔をチラリと窺うと、仏頂面で眼鏡の奥の目を何度か瞬かせているのでありました。頑治さんの提案を許した事が後々自分の権威を貶める禍根とならないかとか、或いは益々頼りになる上司像に於いて片久那制作部長に差を付けられて仕舞わないかとか、恐らくそう云う辺りをあれこれ秘かに計量しているのでありましょう。  何をどうしてしていいのやら今の今迄皆目見当がつかないと云った按配だったので、出雲さんは感謝に満ちた目で頑治さんを見ているのでありまし..

  • あなたのとりこ 383

     この日比課長の間髪を入れない同調は社長に対するヨイショ狙いと、地方特注営業に対して大した意欲も定見も、端から持ち合わせていないであろう土師尾常務への遠回しの当て擦りの魂胆があると頑治さんは思うのでありました。まあしかし日比課長の魂胆はここでは取り敢えず脇に置いて、頑治さんは出雲さんに向かって続けるのでありました。 「烏滸がましいけど、自分の方から片久那制作部長に話しを振ってみましょうか?」 「ああ、そう云う事ならよろしく頼みます」  出雲さんが藁をも掴むような表情で大いに乗り気を見せるのでありました。  土師尾常務がここで咳払いするのでありました。それは、人を批判する事に総ての言を費やして会話を紛糾させ続ける自分を恥じて、これから先高次元の会議にするための心機一転の咳払い、と云う訳では勿論ないのでありました。はたしてと云うべきか、誰もの期待を裏切らない下らない下心からと云うべ..

  • あなたのとりこ 382

    「誰がそんな事を云いました!」  那間裕子女史の方もなかなかの反応であります。 「だってそう云う事じゃないか!」 「あくまでも実のある話しをしてくれるのなら傾聴はしますよ。でも些末な事の揚げ足取りばかりして、結局実が無いのを誤魔化しているようにしか見えないもの」 「未だこちらが何も喋ってもいないのに、実が無いなんてどうして判るんだ!」 「それじゃあ、聞きましょうか」  那間裕子女史は口元に挑発的な微笑を浮かべるのでありました。「さあ、その実のある話とやらをさっさと喋ってくださいよ」 「何だその云い草は!」 「何だ、じゃないわよ!」  こうなっては収拾も何も付かないと云うものであります。土師尾常務と那間裕子女史の剣幕に怖れをなして他の誰もが口を開かないのでありました。袁満さんはあらぬ方向に目を遣ってあからさまにオロオロと狼狽の身じろぎを見せるし、社長も均目さんも取り成しの言..

  • あなたのとりこ 381

    「そんな事を云って、問題をはぐらかさないでくれるか均目君」  土師尾常務は均目さんを睨むのでありました。先程の経緯もあって、均目さんが自分の一睨みに対して思いの外腰が引けないだろと云う感触は、慎に忌々しい事ながら端から有してはいるような風情が、その睨む瞳の中に色として現れているのでありました。 「いやいや、会議の大前提として、常務の了見が抑々おかしいと云っているんです」  均目さんは拘って見せるのでありました。勘繰れば、そこに拘って譲らない振りをしながら、袁満さんへの攻撃の矛先を少し鈍らせてやろうとの意図からかも知れません。 「大体この会議の議題と云うのは、どのような形態に社長や常務が会社をしていく心算なのかとか、会社の将来の見取り図と云うのか、展望を伺うと云う趣旨で我々従業員が提案したものですから、まるで敵味方みたいな感覚で個人攻撃に徒に時間を費やさないで、本来話し合うべき事を淡..

  • あなたのとりこ 380

    「でも今確かにそう云ったじゃないか」 「いやまあ、それは話しを始めるに当たってのちょっとした冗談ですよ」  袁満さんはしどろもどろに取り繕うのでありました。 「そんな冗談や前置きは必要ない」  土師尾常務は不愉快そうに吐き捨てるのでありました。「売り上げが出張に行っていた時と行かなくなってからとでは、どのくらい変化があったのか、それを云えば良い」  そう窘められて袁満さんはすっかりしらけたと云う顔をするのでありました。 「俺が担当していた北関東の各県とか甲信方面とか、それに中部や関西地方の観光地に関しては、これ迄の付き合いとかあるから、今のところ電話対応でもそんなに極端な注文の落ち込みはありません。電話営業だけではなくその内顔を見せろとかは云われるけど、まあそれでも概ね顔を出していた時と同じ程度取引を継続してくれますよ」 「じゃあ、成績は出張していた時と殆ど変わらないと思っ..

  • あなたのとりこ 379

     出雲さんとしては一日中土師尾営業部長と行動を共にすると云うのも息が詰まると云うのに、お辞儀の仕方とか愛想笑いの方法とかで聞いた風な指導をされたり、ひょっとしたら一緒に昼食を摂っている時に、箸の上げ下ろしに迄も一々なっていないと小言を言われたりするのは、実に以ってまっぴらご免蒙りたいと云った心境でありましょう。しかしながら出雲さんの困厄は内心察しながらも、袁満さんも均目さんも出雲さんへの援助の無さを詰った手前、この土師尾常務の提案に異を唱える訳にはいかないのでありました。 「それが良いでしょうねえ」  社長が発言するのでありました。「土師尾君が一緒に付いて行って色々指導するなら、出雲君も特注営業の遣り方をしっかり学べると云うものだ」  出雲さんの心根を慮れば、そんな好都合な話しではなかろうと頑治さんは思うのでありました。袁満さんも均目さんも口には出せないけれど同様の思いでありましょう..

  • あなたのとりこ 378

    「何だその云い草は!」  土師尾常務はいきり立つのでありました。 「云い草の問題にすり替えないでくださいよ」  均目さんは相手にしないような素振りで返すのでありました。しかし目は土師尾常務の目に据えた儘で全く微動もさせないのでありました。土師尾常務の一種の演技として逆上して見せる様子には、何らたじろがないところを確と表明するためでありましょう。 「均目君、そんなに喧嘩腰にならないでも良いだろう」  社長が取り成そうとするのでありました 「こちらは終始冷静で、思った事を淡々と喋っているだけで興奮なんかしていませんよ。寧ろ土師尾常務の方が急にエキサイトしたんじゃないですか。まあ、そうして見せると俺が怯んで、口を噤むとでも考えて態とそうして見せているのかも知れませんけど」  均目さんは至って静かな語調で、冷笑なんかも浮かべもしない無表情で、及び腰にも喧嘩腰にもならないところを見せる..

  • あなたのとりこ 377

     全くの正論でありますか。しかしこれが後に出雲さんを思わぬ窮地に陥れる一言になるとは、袁満さんにはこの時点で考えだにしない事なのでありました。 「私は別に特注営業に関して全く指導をしようとしない訳じゃないし、出雲君の新しい仕事に関して冷淡と云う訳でもない。そんな事は当たり前じゃないか」  土師尾常務は袁満さんに敵意剥き出しの視線を向けるのでありました。「ただ、その役目は、先ずは日比君の役目と云う事になるから、控えていただけだ」 「出雲君の直接の上司は日比課長だから、日比課長に任せていると云う訳ですね」  均目さんがここで徐に顔を上げて、土師尾常務に向かって今の言をもう一度聞き質すような言葉を発するのでありました。 「それが筋だからね」  土師尾常務は憮然とした顔をしで腕組みをするのでありました。 「山尾主任が会社を辞めたから、日比課長はその後始末やら何やらで、今に至るまで新し..

  • あなたのとりこ 376

    「ああ、多分そうですね。その数字で先方に見積書を送りましたから」  出雲さんは何度か頷くのでありました。 「先方に商品説明はちゃんとしたんだろうね?」  土師尾常務が出雲さんに聞くのでありました。恐らく土師尾常務の狙いとしては、出雲さんに無理を課して窮地に追い詰める魂胆だったのでありましょうが、どうした按配か出雲さんの仕事に乗って来た会社があると聞いて、ひょっとしたら、等と少しここで当初の目論見をうっかり失念して、妙な色気なんぞを出してみたのでありましょうか。 「いやあ、カタログに載っている商品で、今迄の出張営業で扱っていた物はなんとか商品説明みたいな事は喋れたんですが、特注営業の方に限られた商品に関しては、自分の知識不足もあって、いろんな点であんまり捗々しくは説明出来ませんでしたねえ」 「その、説明出来なかった点、と云うのは?」  日比課長が出雲さんの顔を覗き込むようにして訊..

  • あなたのとりこ 375

    「経費がかかろうがかかるまいが、仕事の効率を考えるならば、目先の経費削減よりも出張扱いの方が良いんじゃないですかね。僕はそう思いますがねえ」  こう返す辺り、どうやら社長は別に察してはいないようであります。 「要するに出張にかかる経費を極力ゼロに近づけようと云う事ですよね」  日比課長が口を開くのでありました。この日比課長の言を一種の助け舟と取るかそれとも自分への批判と取るか土師尾常務は俄には判断出来ないようで、不愉快極まりないと云った顔は一応その儘保持しながら、一つ頷いてもみるのでありました。 「何でもかんでも節約すれば良いと云うものじゃなくて、それが非効率になるようなら、出すところは出すことも必要でしょうよ」  なかなかに気前の良い社長の言葉ではありますが、これは社員に対してさももの分かりが好い経営者だと云う格好を演じて見せているだけで、先の甲斐計子女史への仕打ち等からすると..

  • あなたのとりこ 374

    「ところでどう云う感触なんだろうかな、新しい営業の仕事は?」  社長が出雲さんに目を向けるのでありました。 「はあ、未だ何とも。・・・」  出雲さんはそう訊かれて下を向いて云い淀むのでありました。 「何かしらの成果みたいなものは未だ出ていないのかな?」 「そうですねえ。・・・」  顔を上た出雲さんは申し訳無さそうに愛想笑うのでありました。 「当初こちらが考えていた一日の訪問件数より実数がかなり少ないようだけど?」  土師尾常務がここで口出しするのでありました。 「まあ、朝に遠方まで出掛けて日帰りでこちらに戻って来る訳ですから、そんなには回れませんよ。おまけに車を使える訳でもないですし」  出雲さんは土師尾常務の方に顔を向けず、社長を見ながら応えるのでありました。 「北関東とか静岡県や山梨県なんかの街を回る訳なんだから、向こうに一泊とかして営業する方が都合も効率も良いん..

  • あなたのとりこ 373

    「じゃあ会議を始めたいと思いますが、主な議題は、営業部の改変がどのような会社のこれから先の見取り図によって行われたのか、その辺を伺いたいと云うものです」  袁満さんが誰に云われるでもなく議事進行役を担うのでありました。何となく前の春闘時の団体交渉時の空気と同じ色合いを頑治さんは感じるのでありました。社員側から提案した会議であるから、まあ尤もとは云えるのでありましょうが、何となく労働組合と経営側と云う対立図式がその儘ここにも持ち込まれて仕舞うような気配でありますか。 「会社の経営方針に関わる事は別に君達社員全員と相談して決める事ではなくて、経営者の専権事項なんだから、それに君達が一々口出しする権利は無いんじゃないかな」  冒頭から早速、土師尾常務が例に依ってこの会議を台無しにするような言挙げを行うのでありました。この会議を提案されたこと自体が不本意なのでありましょう。 「経営の決めた..

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