人と海(1861年版) シャルル・ボードレール/平岡公彦訳 自由人よ、いつでもおまえは海を愛おしむだろう! 海はおまえの鏡。おまえは無限に繰り広げられる 波濤の刃のなかに、おまえの魂を見つめるだろう。 おまえの精神には、海にも劣らぬ苦汁の淵がある。 おまえは喜んでおまえの鏡像の胸中に身を投じる。 おまえはそれを眼と腕で抱きしめる。そして時に おまえの心は、自身のざわつきをまぎらせもする。 飼い馴らしえぬ野生の苦悶の声が立ち騒ぐなかに。 おまえたちには二人とも闇があり、口も堅くなる。 人よ、おまえの深淵の底を測深しえた者はいない。 おお、海よ、おまえの内奥の富を知る者もいない。 それほどに、おま…