「おまたせ。じゃあ始めようか。」入り口の扉がパタンと閉まった。正面に座った田中さんは、無造作に髪を束ねた。「よっし。」そのかけ声に、私もつられて気合が入った。…
バス停の目の前に児童相談所はあった。クリーム色のその建物は、少し古いもののようだった。それにしても、中に入るのは少なからず勇気がいる。入り口でウロウロしている…
面接予定日。授業が終わると一目散に教室を抜け出し、バス停に向かった。まだ誰もいないバス停はほんの少し寂しい空気が流れていた。バスが来るのが待ち遠しかった。5分…
私は頷くしかなかった。あ、そうなんだ。私、虐待されてたんだ。虐待という言葉の響きが、私の心に重くのしかかった。ちょっと風邪を引いたみたいだと思って保健室に行っ…
しばらくして、私はやっと泣き止むことができた。「落ち着いてきたか。」鼻をすすりながら私はコクンと頭を下げた。「よし、じゃあちょっと落ち着いて、さっき渡したパン…
体中の血が一瞬ザワッと逆流したように感じた。次の瞬間、私は声を荒げていた。「違う!私が、私が勝手にそう振舞ってるだけで…。」出だしの勢いは続かなかった。言い終…
児童相談所、なんてあまり聞き覚えのない場所だ。いじめ110番みたいなイメージでいいんだろうか。黙っていると、先生が尋ねてきた。「水野は、児童相談所って何か知っ…
作戦会議は放課後に生徒指導室で行うことになった。「先生、逃げるっていってもどこに逃げ込めばいいのかわからないんですけど。」谷崎先生は子供みたいにいたずらっぽく…
お父さんを捨ててしまえたらいいのに。今まで何度も想像してきた。この家の子じゃなかったら。このお父さんじゃなかったら。でも、本当に逃げ出すことは考えたことがなか…
「谷崎先生らしくない?」「うーん。というか、教員らしくないっていえばいいのかな。」少し間をおいて先生は始めた。「水野は今、お父さんに縛られてる。お父さんのせい…
「ブログリーダー」を活用して、ゆきさんをフォローしませんか?