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翌朝、窓から太陽の日が差し込み、電線やら電柱やらの影が徐々に伸びてきた。 奏汰が目を覚ますと、頬に乾いた感覚。 身体を起こして、そっと頬を触ってみるが、何も無い。 「朝、か」 昨日は夕飯を食べていないし、お風呂にも入っていない。そのまま眠りこんでしまったのだ。 はっきりとしない頭のまま、ベッドから降りて、自室から廊下に出た。さすがにずっと同じ下着にYシャツは不快感があるので、奏汰はとりあ […]
白い壁と焦げ茶色の木目調の屋根はくっきりと色と色と分けているお寺のとなりの駐車場では車が数台止まっていた。その中には黒くて前後に長い霊柩車が待機していた。 寺への入り口となる門の上には、漆黒の羽に身を包んだカラスがじっと、お寺の方を見ている。 不気味なその姿に加えて、人気のない木々が風で揺れ、怪しい音を奏でているから、一種のホラー映画のような緊張感と冷たさを与えている。 普段であれば静かで […]
四月も終わり、菜の花は散り、桜の木もすかっり緑色に染まった頃、私は、高校に入って二年目となる通学路を帰っていた。アスファルトは砕け、凸凹とした道で自転車の各パーツが緩んでいるのか声を上げている。 身体はクタクタ、ワイシャツの下は汗が滲んでいる。まだ夏にもなっていないのに、嫌に熱い。 ただ風は涼しくて、なんとなく青と水色とが混ざる空を見上げれば、傾き始めた太陽の光によって、大きな雲や、小さな雲 […]
フライアが隠れる森から奏汰は1時間ほど走って、ようやく家に着いた。 夕飯も朝ごはんも食べず、しかも起きてそう時間が経っていないものだから、奏汰の視界はグニャリと曲がり、息が切れ、心臓がドキドキと脈打ち、汗で身体が濡れている。 膝にとついて息を整えて、やっとのことで顔を上げると、そこにあったのは奏汰の家と、大きな穴が開いて「KEEP OUT」と黒字で書かれた黄色いテープが何重にもなって張られた […]
朝。小鳥たちの楽しそうなさえずりが聞こえるが、その姿は見えない。 きっと木の葉に隠れて遊んでいるか、餌を探しているのだろう。 そして、厚く頑丈な装甲に身を包んだロボットも、木に身を潜めている。 そのロボットの暗いコックピットの中で、男の子の寝息がゆったりとしたリズムを刻んでいる。 奏汰は、昨日の夜、友里との別れの悲しみを拭いきれず、また、世界で自分しかいないような、孤独な気分に飲まれてし […]
━━━慟哭。 奏汰は、幼馴染の亡骸のすぐそばで、膝をつき、悲しみに涙を流し、声を張り上げて泣いている。 「うぅ………あぁッ!……ああッ!」 胸が、心臓が切り裂かれるように痛い。心が痛い。苦しい。 ずっとずっと伝えたかった想いを、彼女に伝えた。 いつもいつも聞きたかった言葉を、彼女から聞いた。 それなのに、奏汰の心は満たされない。どれどころか行き場なのない悲しみで押しつぶされそうなのであ […]
薄い黄色い光は、太く、真っ直ぐと敵のロボットへ向けて宙を駆けた。 その光にほんの少し遅れて、凄まじい轟音が辺りの地面を揺らした。 それまでそこにあったはずの丘は、原型を留めておらず半円形にえぐり取られており、しかも土がすっかり焦げてしまっていた。焦げた土の所々は赤く、未だ灼熱であり続けている。 対して問題のロボットは原型を留めている。 しかし、地面を抉り取るような威力の砲撃に耐える、屈強 […]
幸い敵は鈍足らしく、敵影は無かった。 もしかしたら身を潜め、どこからか狙撃をしようとしていない限りは、まだ安全な地だった。 友里はI-903の肩に立ち、辺りを確認した。 戦闘を行うとすれば、ここの広さは十分であり、また閉演時間を超えているため、人は少ない。 職員はいるだろうが、少し離れたところに事務所があり、直接的な被害は考えづらい。 迎え撃つならここである。 下で人間の胴体ぐらいの […]
幸い敵は鈍足らしく、敵影は無かった。 もしかしたら身を潜め、どこからか狙撃をしようとしていない限りは、まだ安全な地だった。 友里はI-903の肩に立ち、辺りを確認した。 戦闘を行うとすれば、ここの広さは十分であり、また閉演時間を超えているため、人は少ない。 職員はいるだろうが、少し離れたところに事務所があり、直接的な被害は考えづらい。 迎え撃つならここである。 下で人間の胴体ぐらいの […]
奏汰は友里の言葉の一つ一つに注意深く、静かに聞いていた。いやむしろその信じがたい話に口を開き、声を失っていたとした方が正しいかもしれない。 全てを理解し信じろと言われても、こんな話簡単に飲み込めるような内容ではなかった。 が、一方で友里の今までの言動や、実験や研究が好きであること、同年代に比べて有能であること、天才ぶり、発明の数々を考えてみれば、確かに前世の記憶があると言われても合点がいく。 […]
奏汰と友里は見つめ合った。 片方は困惑の表情、もう片方は覚悟を決めた表情。 先ほどまで2人きりで静かだったラボは危険を知らせる警報が鳴り響いている。それはチッチッチッと壁に掛けてある時計が、「時間が無い!急げ!」と必死に伝えようとする秒針の音をかき消してしまう。 実際、2人には猶予は残されていなかった。こうしている間にも武装した男たちは家の周りに静かに囲い込み、突入の機会を伺っている。 「 […]
茶色いドアの銀色に輝くドアノブを握り玄関を開けると、誰かがフローリングを走っているのか激しい足音がした。 その音は段々と近づいて来ており、遂には何やら慌ただしく玄関に繋がる階段をドタドタと駆け下りてくる、白衣姿の友里が姿を現した。 「ただいま」 「あ!おかえりー。って家は奏汰の家じゃないんですけど」 奏汰がリュックを背負ったまま、直接友里の家に来たことに抗議をした。 「いや、もう直接来た方が […]
「クラスで、根も葉もない変な噂が立っているのは、古谷も知っているな?」 奏汰や友里のクラス担任である佐藤先生は、他の教師たちが忙しく雑務をこなしている職員室に奏汰をお呼びだし、出来るだけ穏やかに務めて、話を切り出した。 「………はい。今朝、ニュースでやってた、工場が爆発して、それがロボットの襲撃がああったから、って話ですよね。それを友里がやったって。でも俺はおいつがそんなことをしないと思っていま […]
次の日の朝、今日は友里は研究のために学校に体調不良という名目で休み、奏汰は1人で登校することとなった。 1人で歩く通学路は味気なく感じ、ワイヤレスイヤフォンで音楽を聴きながら早歩きで学校に向かって歩いていた。 とあるアニメのOPソング。それは朝に聞くにはピッタリなほど元気な曲で、この世の絶望や不平不満など全て吹き飛ばしてしまうようなもので、友里と登校しない日はいつもこの曲を聴い […]
他よりも大きな白い家の黒い表札には小黒と書かれており、その家の中のリビングではカチャカチャとフォークと食器が軽い音が、踊るように両サイドからなっていた。 リビングはラボの隣にある、比較的片付いていて、尚且つずっと小さい部屋で、テーブルにパスタやスープが彩られて置かれた食器が並び、近くの椅子には友里と奏汰が向かい合って座っている。今夜の夕飯は家に家族がいなく、また家事が不得意な友里のために、奏汰 […]
杉田高等学校の校舎には約1000人もの生徒が、40人ごとに教室に入り、自分たちの席に座り、教科書を広げノートを広げ、教師によって行われる授業を聞いて、必要であればメモを取るし、指示があれば問題を解いている。 しかし一般的で真面目で優秀な大多数の生徒が、教師の理想とする授業態度をとるのに対して、少数の生徒はそうではなかった。ある者は、教師にバレないように教科書を立て、持ってきていたお弁当のおかず […]
街。平穏な街。大勢の人間が、アスファルトをも焼いてしまいそうな朝日に見守られながら、しかし見守られていることなど露ほども知らず、スマホやら携帯電話やらを見るために下を向いて歩いている。どこを見ても大勢の人の群れ、動かない車の列、何度も行きかう電車、広い空に独特な機械音で存在感を隠そうとしない飛行機。誰もが忙しい。そんな息苦しく、物々しい風格とは無縁な街。都会とは少し離れている街。 この街には特 […]
無限に広がる、世界と世界を繋ぐ超空間。 上も下も右も左もない、ただひたすら何もない超空間。 まるで絵具のパレットに、黄緑色や水色やピンクや赤色や青色の絵具を混ぜたような模様が、四六時中うごめいている。 それはまるで夢の世界にも似ている。 そんな空間に不釣り合いな、旧式な蒸気機関車が走っている。 汽車は長く力強い汽笛を、まるで魂の歌のように響かせながら、空間をも揺るがす勢いで走っている。 […]
空は薄く明るくなっており、青空は見えているのに太陽はまだ昇っていない。 コスモスは少し長い汽笛を二回、長い汽笛を一回鳴らした。 これは本当なら車掌を呼び出すための汽笛合図だけど、今回は僕に準備が出来たことの合図だろう。 大人の身長よりも遥かに大きい動輪の元まで行き、その巨体を見上げてみた。 煙突からは白い煙が上がっていいき、まるで青い空に溶け込んでいくようだった。 「自己修復100%完了 […]
コスモスは敵艦の中の大きな部屋で停車した。 そこには装置やモニターが多くあり、またこの場にいる十数人の乗組員の中で他の誰とも服装が違っていて、帽子もしている男が見えた。 どうやら彼はこの艦の艦長のようで、ちょうど敵艦の艦橋で停車できたようだ。 艦長は静かにこちらを見据えている。 中央のモニターで確認する限り、他の下級の乗組員は戸惑いながらもこちらに銃を向けて、ある者は発砲している。 ロ […]
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