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2006/01/22

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  • 「コヴェナント 約束の救出」

    covenantというあまりなじみのない言葉を辞書でひいてみると、約束、盟約、合意、協定と同時に、聖書における神とイスラエル人との契約といった例が出てきて、この場合アメリカ兵とアフガニスタン人通訳との間のそれなのだから、どこかずれている。簡単にわかったような気になってはいけないのだろうが。アフガニスタンとカンボジアの違いこそあれ、アメリカから見た異文化と罪障意識という点で「キリングフィールド」とモチーフがかぶる。どこか「わかっていない」感じがするところもそう。-YouTube「コヴェナント約束の救出」-公式サイト「コヴェナント約束の救出」-映画.comGuyRitchie'stheCovenant-IMDb「コヴェナント約束の救出」

  • 「ARGYLLE アーガイル」

    シリーズものの小説を書いている小説家の描くキャラクターが画面として描かれて交錯する趣向というと「アンリエットの巴里祭」とそのリメークの「パリで一緒に」、それから「おかしなおかしな大冒険」などと古くから連綿として続いているわけだが、その手の込み方とくるりくるりと転換するシチュエーションの密度はまあ大変なもの。一体、どのように展開してどのように落ち着くのかさっぱり読めない。スローモーションを多用して華麗なバレエのように振り付けられたアクションが魅力。ヘンリー・「スーパーマン」・カヴィルの整いすぎた容姿が作り物っぽすぎて可笑しい。-YouTube「ARGYLLEアーガイル」-公式サイト「ARGYLLEアーガイル」-映画.comArgylle-IMDb「ARGYLLEアーガイル」

  • 「ゴールド・ボーイ」

    岡田将生が「ドライブ・マイ・カー」を再現するキレッキレぶり。あるいは「デスノート」のように、ひとりで悪役を背負わずに他のキャラが次第に嵌入してくるあたりのタッチ。考えてみると、沖縄独特のでかい墓がこれだけ生かされて描かれたことはなかったかも。マーラーのアダージョと共に死の匂いがする。キャラクターが進展するというより回想の中でひとひねり半して遡るような描き方が独特。金子修介監督は中国で撮った映画があったと思ったが、製作体制でそれとの関連どうなっているのだろう。ラスト近くシャッター街がちらっと写るのが「衰退している国」をさりげなく匂わせる。-YouTube「ゴールド・ボーイ」-公式サイト「ゴールド・ボーイ」-映画.comGoldBoy-IMDb「ゴールド・ボーイ」

  • 「52ヘルツのクジラたち」

    原作を先に読んでいたので、ストーリーの意外性はないのは当然として、ちょっとキャラクターが演じる役者と乖離している、という疑問はある。欲をいうなよという思えるのといやそこまでいかないと本当ではないのではないかというのと両方で、今後ますます問題になる気はする。タイトルの象徴的な意味あいというのが実際のクジラの映像でむしろ力強くなっている。-YouTube「52ヘルツのクジラたち」-公式サイト「52ヘルツのクジラたち」-映画.com「52ヘルツのクジラたち」-IMDb「52ヘルツのクジラたち」

  • 「ネクスト・ゴール・ウィンズ」

    公式戦でワンゴールを決めたら合格と、思い切りハードルを下げている。下げておいて多少上げたらお汁粉に少し塩を入れるみたいに甘さが強くなるかという作戦なのだろう。クライマックスをストレートに盛り上げないでフラッシュバックを重ねて焦らしながら描くのは良くも悪くも変化球。マイケル・ファスビンダーが金髪にしているのは実物に合わせたのがわかる。-YouTube「ネクスト・ゴール・ウィンズ」-公式サイト「ネクスト・ゴール・ウィンズ」-映画.comNextGoalWins-IMDb「ネクスト・ゴール・ウィンズ」

  • 「マダム・ウェブ」

    なんか最近のマーベルユニバースものって、予習復習が必要みたいで面倒。怒られるか知らないが、脇に出る3人娘が誰なのかわからなかった。他で出てるのだろうけれど。スパイダーマンそっくりのキャラクターがなんでそっくりなのかも良くわからないし。ユニバースものばっか見ているわけにはいかないのですよ。ヒロインがデジャヴ(既視感)に襲われ、それがすでに見たものではなく、これから見るものであることがわかってくる。ヒロインの名前がカサンドラというのはギリシャ悲劇のキャラクターからとったもので、予言能力を与えられると同時に誰もその予言を信じないので結局危機を避けられないというアイロニカルな悲劇的な存在なのだが、予知能力を与えられるのは一緒だが着地はかなり強引に楽天的。そうでないと次に続かない事情もあるにせよ。-YouTube「...「マダム・ウェブ」

  • 「落下の解剖学」

    あれ、これで終わり?というのが正直なところだった。何かもっとどんでん返しがあるのかと思ったのだが。見方間違えたか。突飛なことを言うけれど、「氷の微笑」みたい。女性作家の作品のネタが実際の殺人?に反映するところとか、セクシュアリティとか。あれもモヤモヤする映画だったけど。展開とすると掘り進んで真相に迫るというより岩盤に突き当たって止まってしまう感。-YouTube「落下の解剖学」-公式サイト「落下の解剖学」-映画.comAnatomied'unechute-IMDb「落下の解剖学」

  • 「おかしな奴」

    歌笑という落語家は小林信彦の「日本の喜劇人」の渥美清の項で知った。小林は実在の歌笑を知っていて映画の渥美清と比較すると、かなりずれがあるらしい。たとえば歌笑がジープにはねられて死んだのは1950年で、バックで流れる「銀座カンカン娘」がヒットしたのは1949年といった具合だが、歌笑を知らない身には考証は難しい。YouTubeを検索してみても映像はなく音声しか残っていない。民衆が歌笑を英雄視していたような描き方は渥美自身「アラビアのローレンスママ」みたいな歌笑だったろ、と小林に言っていたらしいが、歌笑を持ち上げた民衆が同時に引き下ろしもしていた記憶のある人間には違和感があったということか。生前の歌笑のことは知らず妙な英雄視というのは今の寅さん=渥美清と一周まわって妙に重なっているみたい。なお1966年のテレビ...「おかしな奴」

  • 2024年2月に読んだ本

    2月の読書メーター読んだ本の数:19読んだページ数:5560ナイス数:2唐牛伝敗者の戦後漂流(小学館文庫さ19-2)読了日:02月01日著者:佐野眞一リナ(1)(コルク)読了日:02月02日著者:ちばてつやリナ(2)(コルク)読了日:02月04日著者:ちばてつやリナ(3)(コルク)読了日:02月06日著者:ちばてつや推し、燃ゆ(河出文庫)読了日:02月07日著者:宇佐見りん西部劇を極める事典読了日:02月07日著者:芦原伸同和のドン上田藤兵衞「人権」と「暴力」の戦後史読了日:02月09日著者:伊藤博敏諸星大二郎劇場第5集アリスとシェエラザード~仮面舞踏会~(ビッグコミックススペシャル)読了日:02月09日著者:諸星大二郎正欲(新潮文庫あ78-3)読了日:02月11日著者:朝井リョウ仁義なきヤクザ映画史読了...2024年2月に読んだ本

  • 「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」

    ぬいぐるみサークル(略してぬいサーというのが今っぽい)の部室というのが狭くて薄暗くて、あまりぬいぐるみという可愛くてふわふわしたイメージとはそぐわない。実際内容もそうで自閉的で内向き、葛藤を避けると言うのは簡単だが、ぬいサーに紛れ込んだみたいな男子の反応見てると他のマチョであることを疑わない男子たちの中で居心地悪くしている。こういう人とこういう人の組み合わせなら恋人とか友だちとか仲間というレッテル貼りを外して人間関係を描いている。ただやや自分で少し後ろめたく感じすぎではないかとは思う。そんな必要あるかと開き直るのも必要ではないか。-YouTube「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」-公式サイト「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」-映画.com「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」-IMDb「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」

  • 「夜明けまでバス停で」

    エンドタイトルで一瞬、国会議事堂が爆破されるイメージカットがはさまる。実際、今の政府与党の人を舐め切った態度を見ていると爆発しない方が不思議なのだが、そうならないくらい相互自粛が浸透している。「滑り台社会」という言葉が登場したのはいつ頃だったか調べてみたら、2008年にはもう「滑り台社会からの脱出」という湯浅誠の著書が出ている。著書より先に概念があっただろうから、もう20年近い。失われた30年を考えてみると不思議はない。滑り台を滑り落ちるように滑り止めになるセーフティーネットがない状態を形容した言葉だが、いっそう加速度がついた感がある。コロナが「終わった」今でも事態はいっこうに良くならない。藁をつかみたい気分だが、つかんだら本当に藁だった繰り返し。高橋伴明は以前連合赤軍を撮影中の映画としてカッコに入れた形...「夜明けまでバス停で」

  • 「ソウルメイト」

    中国映画の「ソウルメイト七月(チーユエ)と安生(アンシェン)」のリメイクだそうだが、そちらは未見。リメイクだということも知らなかった。初めのうちと自由人タイプのミソと堅実タイプのハウンの二人の仲良しの女の子がじっくり描かれる。じっくりしすぎてお話がなかなか動かずどう動かすつもりだろうと首を傾げかけたらかなり斜め上に動きだした。男がひとり登場して三角関係になるのかと予想したら、女二人の関係には影響しない、というか途中から性格付けがそっくり逆転してしまう。あくまで磁石がくっつきあうように引き合うソウルメイト=魂の友だちであって、想像しがちな同性愛への接近も避けている。突飛なようだが、ジェーン・フォンダとバネッサ・レッドグレーブ主演の「ジュリア」を思い出したくらい。女同士の友情を自然に描いていることばかりでなく...「ソウルメイト」

  • 「オルメイヤーの阿房宮」

    ジョセフ・コンラッド原作というだけあって、「闇の奥」(「地獄の黙示録」の原作)同様、川とジャングルに囲まれている。「地獄の黙示録」の「ワルキューレの騎行」の向こうを張ってか?ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」より「愛の死」が流れる。おしまい近くになると、わざとのようにというか、わざとに決まっているのだが、ワンカットの中の時間が果てしなく引き延ばされるようになる。スローテンポというのとまた違う時間感覚。ソクーロフに近いか。あるいはプルースト「逃げ去る女」。-YouTubeシャンタル・アケルマン映画祭「オルメイヤーの阿房宮」-映画.comLafolieAlmayer-IMDb「オルメイヤーの阿房宮」

  • 「ボーはおそれている」

    前半にボーは掌と脇腹に傷を負うのだが、キリストが掌に釘で打ちつけられたのと、脇腹を槍で刺されたのと、位置が一致している。母親のもとに帰ろう帰ろうとし続けて先に進みかけたと思うとリセットされたように振り出しに戻る感覚は悪夢そのもの。母親の存在が出ていない時でも絶大な割に父親はいるのかいないのかわからない。アリ・アスターはここでの主人公と母親との関係はユダヤ人的なものだとインタビューで言っていたが、もともとユダヤ教徒かどうか判断するのに母親がユダヤ教徒かどうかを基準にするとか、父親の存在が薄いのは殺されたりどこかに連れていかれるので基準にならないからだとか聞きかじったことはある。キリストに対する父ヨセフのようでもある。キリストはユダヤ人(にして元ユダヤ教徒)ですからね。なんでキリスト教徒がキリストはユダヤ人が...「ボーはおそれている」

  • 「ポワロと私 デビッド・スーシェ自伝」

    スーシェのポワロは初めからポワロものを全部コンプリートするつもりだったのかとなんとなく思っていたのだが、考えてみるとそんなわけはなく、一シーズンごとに人気を見て決めていたのがわかる。なんでそう思っていたかというと、本書のP232で書かれているようにポワロものは全作コンプリートするつもりだと2000年に初めてスーシェがはっきり発言したのが日本だったかららしい。先だって製作されたジェレミー・ブレットのホームズがコンプリートを目指して果たせなかったというのも頭にあったと思う。継続が決定するまで気をもみながら他の仕事を、時に経済的事情から時に役そのものに惹かれて引き受けるわけだが、映画はともかく舞台は見ることがかなわないのは仕方ないが残念。「アマデウス」のサリエリや「オレアナ」のジョンなど、見てみたかった。同じ英...「ポワロと私デビッド・スーシェ自伝」

  • 「一月の声に歓びを刻め」

    なんでしょうね、舞台もモチーフもバラバラの三話プラス最終話という構成で、オムニバスとしてもまとまりがなさ過ぎるし、短編集というには話が変わっても気分が変わらない。前田敦子が主演で哀川翔とカルーセル麻紀が助演なのかと思ってたら全員主演で、ただし全員共演するところがない。どうにも挨拶に困った。-YouTube「一月の声に歓びを刻め」-公式サイト「一月の声に歓びを刻め」-映画.com「一月の声に歓びを刻め」

  • 「カラーパープル」

    市長夫人(もちろん白人)が傲慢な態度をとるのに反発した黒人女ソフィアが怒りの言葉を投げつけると代わりにしゃしゃり出てきた(レディファーストのつもりか)市長に殴られたので殴り返す。その市長が殴られる瞬間をスピルバーグ監督版だと前をトラックが横切って瞬間自体は見せない。スピルバーグ版が公開された当時、「シネマレストラン」で荻昌弘は「このトラックはナカナカ南ア的に老獪であります。私はアメリカ映画の革命とは、白人を殴る黒人女が現れるより、こういったハリウッド類型トラックがなくなることを、呼びたい」と言っていたが、今度のミュージカル映画化は堂々とぶん殴られる瞬間を写している。なんでもないようだけれど、「黒人女」が「白人男」を殴るというのはタブーだったのがまがりなりにもそれが撤去されたのは「進歩」なのだろう。スピルバ...「カラーパープル」

  • 「風よ あらしよ 劇場版」

    伊藤野枝に大杉栄といった大正時代のアナキストについては、先日「福田村事件」で関東大震災のどさくさに紛れて自警団が朝鮮人を虐殺したのを描いていた(ただし福田村で殺されたのは日本人)が、こちらは憲兵の甘粕正彦が大杉と野枝を虐殺するのが山場になっている。甘粕正彦が野枝(吉高由里子)と大杉(永山瑛太)を連行する時に大杉の甥(橘宗一6歳)も連行するのだが、こちらがどうなったのか描き方が曖昧。子供を殺すところはテレビでは描けないということか?実際当時でもすでに子供を殺すなんてと非難轟々で、憲兵という地位にいた甘粕に対してもさすがに当局は逮捕して裁判にかけることになった(ただし7年あまりに減刑されてフランスに渡ったのち満州で満映理事長に就任したのは有名)。NHKのドラマ版は見てないのでどの程度異動があるのかはわからない...「風よあらしよ劇場版」

  • 「瞳をとじて」

    冒頭の室内シーンは製作途中で中断した映画のワンシーンのはずなのだが、冒頭に置かれているのでそれ自体映画中映画という文脈からは微妙に外れている。登場人物の年齢が上がったのはエリセ自身が歳をとったということだろう。探し求められる少女の若さ美しさがそれに対置されるわけだが、作り手のスタンスは「ミツバチのささやき」からは遠く離れているのがアナ・トレントの出演によってより明確になっている。ミゲルが持っている携帯がスマートフォンではなくガラケーなのがふさわしい。監督と主演男優の二人が元水兵で、おそらく若い時世界を共にまわってきたであろう時間が、二人が離れていた時間と重ねられる。映写技師が扱う手と映写機の間でフィルムのモノとしての存在感を改めて教える。「ミツバチのささやき」を品田雄吉は「これは詩的な映画なのでなく、純粋...「瞳をとじて」

  • 「梟 フクロウ」

    17世紀、中国が明から清に代わった頃、日本では徳川時代の初め頃の朝鮮半島の話。目が不自由で明るい場所ではモノが見えず、暗い、それも真っ暗な場所だと見えるという(だからフクロウになぞらえられる)鍼医が主人公。朝鮮王朝時代の記録物「仁祖実録」に記された“怪奇の死”にまつわる謎をモチーフにしているから実録ものにして伝奇ものといったところ。隣の大国の王朝が代わったあおりをもろに受けた激動の中、朝鮮宮廷ではあらゆる疑心暗鬼と陰謀が跋扈する。その中で「見て見ぬふり」をしないと生き延びられないという苦しい立場を維持し続けるというのは、一種象徴的な表現ということになる。画面はほぼ全編ロー・キーで通していて、暗いなりに鮮明に写っている。ロウソクの炎を吹き消して真っ暗になり、他の者が見えなくなると見えるようになるというのもア...「梟フクロウ」

  • 「ヴィーガンズ・ハム」

    肉屋が過激なヴィーガンに引きずられる格好でヴィーガンのふりをして肉屋を襲撃するところから始まり、ヴィーガンを殺して肉にしてしまうブラックな展開を見せる。相当にヴィーガンに対する悪意が丸出しで(原題はBarbaque)、逆に言うとそれだけ肉食が身近な文化圏の話で、そこまで日本ではなじみがないせいか見ていてブラックさにひきつるようなところがある。ちょっと捕鯨禁止になって失業した漁師が観光客を殺しまくる「レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカ―」みたい。生活がかかっているわけでもない人間が何だ偉そうに、という感情ね。-YouTube「ヴィーガンズ・ハム」-映画.comBarbaque-IMDb「ヴィーガンズ・ハム」

  • 「ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ」

    なんか思っていたのと違う。予告編だと大型のぬいぐるみみたいなのが「プーあくまのくまさん」みたいに襲ってくるルーティンなホラーな印象だったけれど、そちらはかなり脇に下がって、主人公のうだつが上がらない青年が年が離れた妹(娘かと思った)と一緒に住んでいるのだが、その誘拐されたまま行方不明の弟とその仲間みたいなのが幻想的に出没する。いやに芸術的な表現で、弟とその仲間がイメージシーンから抜け出てきて主人公に危害を加えたりする。弟の話の方は先延ばしにして続編がありそうな締めくくりになるのはなんだかまわりくどくてちぐはぐ。メアリー・スチュアート・マスターソン(「恋しくて」のショートカット姿には惚れましたね)が実年齢通りのおばさん役で出てくる。-YouTube「ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ」-公式サイト「ファ...「ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ」

  • 「Firebird ファイアバード」

    エストニアが舞台なのだがセリフは英語。エストニア・イギリス合作。実話に基づく。スタッフ・キャストの経歴を見ると監督ペーテル・レバネはエストニア出身で交換留学生としてイギリスのオックスフォード大学に留学し、それからアメリカのハーバード大学と南カリフォルニア大学で学んだとある。原作者でもある主人公セルゲイ・フェティソフを演じるはイギリスの王立演劇学校出身のトム・プライアー。脚本にも参加している。セルゲイは2017年というからかなり最近まで生きていたとエンドタイトルで知らされる。相手役のロマン役のオレグ・ザゴロドニーはウクライナ出身。三角関係(といっても男をはさんで男女が関係する)の一角をなすルイーザ役はロシア人のダイアナ・ポザルスカヤ。他エストニア他旧ソ連各国とイギリス俳優の混成ということになる。男同士で愛し...「Firebirdファイアバード」

  • 「夜明けのすべて」

    PMS(月経前症候群)とかパニック障害といったあまりなじみのない症状を一応モチーフにしているのだけれど、それらについて啓蒙しようとか理解を求めるといった作りにはあまりなっていない。上白石萌音がかなり大きな会社に勤めていたのがPMSが原因で辞めざるを得なくなり、いくつかの臨時雇いを転々としてからミニチュアのようなプラネタリウムを作っている会社に再就職し、そこでパニック障害を抱えた青年松村北斗と出会う。その出会うところからストーリーが動き出すわけではなく、青年が障害を抱えているのを観客に伏せて何だか態度の悪い男という具合に提示しておいて、男が服用している薬の種類をヒロインが見て心当たりがあったので困っている男に届けるというなんでもないような親切というより当然に思える反応から入っていく。そのなんでもないようなこ...「夜明けのすべて」

  • 「ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人」

    平民出身で王侯貴族の間に入ってフランス革命で軟禁されいったんは釈放されるが結局ギロチンにかけられるという波瀾万丈の人生のはずだが、見た感じあまり波瀾万丈な感じはしない。一応野心家なのだが出世が目的というより王との出会いが逆に動機になったみたいな描き方。ジョニー・デップがルイ15世という、太陽王ルイ14世とフランス革命の時のルイ16世の間にはさまっている王の役で、どこからこのキャスティングを考えたのだろう。柄からいって王様らしい感じはしないが、感じではないのが狙いだったのか。ヒロインをやっているのが監督本人だと見た後に知った。-YouTube「ジャンヌ・デュ・バリー国王最期の愛人」-公式サイト「ジャンヌ・デュ・バリー国王最期の愛人」-映画.comJeanneduBarry-IMDb「ジャンヌ・デュ・バリー国王最期の愛人」

  • 「家からの手紙」

    初めのうちは人すら写らず風景だけがえんえんと映され、それに監督シャンタル・アケルマンの母親の手紙の朗読がかぶる。「私、あなた、彼、彼女」が「私」から徐々に人間関係を広げていったのに対して、母親という「私」以前からある存在にまで遡っているというべきか。ニューヨークの街がすごく荒廃しているのでいつの風景かと思ったら、製作は1976年。「タクシードライバー」と同じ頃。-YouTube「家からの手紙」-映画.comNewsfromHome-IMDb「家からの手紙」

  • 「沖田総司」

    50年前の1974年の製作で草刈正雄がいかにも若いのだけれど、変な言い方になるが現在の年をくった面影がある。土方歳三の高橋幸治、近藤勇の米倉斉加年はともかく、永倉新八が西田敏行というのは本格的に人気が出たテレビの「三男三女婿一匹」が76年だからその前の出演ということになる。マンガチックに折れ曲がった刀を持ったアップなどなんとか目立とうとしているみたい。真野響子がきれいで、草刈と美男美女のカップル誕生かと思うとズタズタに切り刻まれてしまう。新選組を取り上げているのだから当然とはいえ、結構血なまぐさい。草刈がやると肺病病みの美男子の陰の部分があまり出ない。良くも悪くもと言いたいけれど、良い方の資質ではないか。天然理心流の遣い手としての腕を見せるところでチャンバラを見せるけれど、やや型通り。-YouTube「沖...「沖田総司」

  • 「ストップ・メイキング・センス」

    まずデヴィッド・バーンだけが登場して歌い出し、ティナ・ウェイマスが続き、黒衣のようなシンプルな黒スーツ姿のスタッフがドラムセットを乗せた台を運んできて、以下人数が増えていくが、きちんと順序立てられ整理されたミニマムな作り方。観客をほとんどお終いまで写さないところなどもそう。ミニマムというのは「アメリカン・ユートピア」もそうだったが、あそこでラストで舞台の外に広がっていくのは対照的。後半のスライドをマルチスクリーンに投影した背景は現代美術的なセンス。電気スタンド相手に歌いかけ踊るシーンは、ちょっとフレッドアステアの「恋愛準決勝戦」の帽子かけ相手のダンスみたい。ラスト近く、壁に映ったシルエットだけでデヴィッド・バーンだとわかるのが可笑しい。-YouTube「ストップ・メイキング・センス」-公式サイト「ストップ...「ストップ・メイキング・センス」

  • 「罪と悪」

    少年たちが体験したトラウマものの体験と、その22年後に犯罪が再現されるという設定は「ミスティック・リバー」ばり。少年のひとりが刑事(椎名桔平)になっているところもそう。犯罪絡みの内容にも関わらず福井県がかなり協力しているらしい、監督脚本の齋藤勇起が福井出身なのは大きいのではないか。登場人物の土地に対する愛憎こもごもの感情がかなり濃厚にこもっている。案外おどろおどろしい雰囲気は薄くてなんだか悲しい印象が強い。-YouTube「罪と悪」-公式サイト「罪と悪」-映画.com「罪と悪」

  • 「ダム・マネー ウォール街を狙え!」

    ここでもセリフでちらっと触れられるが、「ウォール街を占拠せよ」OccupyWallStreetと1%以下の金持ちがそれ以外の貧乏人(というより地盤沈下した中産階級)そっちのけに株価を操作し利益を貪っているマネーゲームに抗議する運動が起きて、いわばその抗議の実践版の映画化。1%以下の金持ちがボロ(と見なされた)株の空売りを仕掛けて、SNSでゆるくつながった貧乏人たちが対抗して買い進めるというのが全体の構図。売るものがないのに空売りするというのがすでに変なので、後で買い戻すといっても具体的なモノがあるわけではなく、数字だけが動く。金持ちにとってはただのバカでかい数字であっても、貧乏人にとっては食費であり教育費であり医療費でありガソリン代であり光熱費であり、つまりは具体的な生活の裏打ちがある。登場人物それぞれに...「ダム・マネーウォール街を狙え!」

  • 「私、あなた、彼、彼女」

    ヒロイン(監督のシャンタル・アケルマン自身)のストップモーションの連続から始まる。やがてベッド代わりのマットレスでごろごろ寝転がって、書いた手紙を床に並べ紙袋に入った砂糖をスプーンで掬って食べたりとえんえんととりとめなくだらしのない姿を見せる。上映時間で30分を過ぎたあたりから外に出る。トラック運転手の男と並んで黙って食事する間ずうっとテレビの音がオフで聞こえてくる。もう少しあとで男と相対して座る。背景に水槽が見える。明らかに運転したまま性器をしごかせているのだがヒロインの姿はオフになっている。このあと出てくる女とはあからさまな性交描写が出てくる。通して見ると、最初は一人きりだったのが次第に他者との関わっていく。通常だったらドラマが始まるところでぷつっと終わるという構造になっている。ひとりきりから始まり、...「私、あなた、彼、彼女」

  • 「ザ・ガーディアン 守護者」

    ヤクザが親分のために敵に殴り込みをかけて懲役に行き、その間に愛人が女の子を産んでというお話は日本のヤクザ映画にもありそうだけれど、全体にずいぶんスマートになって泥臭くない。留守にしている間にボスがずいぶん出世していて、誘いを断って足を洗うのはいいが、洗った後どうするのかよくわからない。下っ端の敵ばかり相手にしていて大物がすっぽ抜けているのはどうかと思う。ヤクザ映画だったらラスボスにこそ殴り込みをかけるところではないか。愛人(これまたスマート過ぎるが)が早く死に、残された幼い女の子を元ヤクザが守るというのが邦題の由来だろうけれど、この女の子に対する態度が自分の素性を明かすでもなく明かせないのを苦しむでもなくで、なんだか曖昧。ノリで犯罪を犯罪とも思わないで行うような軽薄なカップルが敵にまわるのだが、男の方はモ...「ザ・ガーディアン守護者」

  • 「グロリアス 世界を動かした女たち」

    アリシア・ヴィキャンデルとジュリアン・ムーアが同じフェミニストのグロリア・スタイネム役の青年期と壮年期を二人一役で演じるわけだけれど、顔の作りが似ているわりに1988年生と1960生の28歳差がさほど目立たず、「欲望のあいまいな対象」ばりにキャラクターの二面性を表現したのかと思うくらい。実際おそらくそういう意図はあったのではないかと思われ、つまりミスとミセスを未婚か既婚かで分けるのを否定し男のミスターに相当するミズを使うよう提案したのが実在のグロリアというわけ。ミズなんて称号?認められるかとニクソンが揶揄するところで時代がわかる。60年代から70年代にかけてで、そんなに前から言っていたのかと思う。なおグロリア・スタイネムは存命中(1934生)。時制がかなり複雑に交錯し、同じバスの中の別の席に二人の女優が座...「グロリアス世界を動かした女たち」

  • 「哀れなるものたち」

    室内シーンで広角レンズをはめこんだドアの覗き穴(和製英語だとドアスコープ、英語でpeephole)から見たみたいに撮られた丸く切り抜かれたショットがあちこちにはさまるのだが、実際にはドアも覗き穴もないのだし、どういう狙いだろうと首をひねった。後の方のパリのシーンではこの覗き的あるいは顕微鏡的アングルの頻度がかなり減る。ヒロインの一種の主観(ヒロインも写っているのだが)として視野狭窄になっている状態を表現しているのかいなと思ったりした。空の色を含めて明らかに作りものっぽい美術にヒロインが人造人間(それを作ったウィレム・デフォー自身がフランケンシュタインばりに顔中縫い目だらけなのだが)というのが徹底している。ヒロインが何の脳を移植されたのかかなり後まで伏せている。これもある意味それこそ白紙で見るためだろう。意...「哀れなるものたち」

  • 「ランジェ公爵夫人」

    今はなき岩波ホールでの公開だったのだね。ギョーム・ドパルデューの父親ゆずりの巨体が豪華な割にがらんとした室内で大きな足音をたてて歩き回る。びっこをひいているのだが、95年には実際にバイク事故で重傷を負い、手術の際の院内感染が原因で長年ひざの痛みと戦ったあげく、03年に右脚の切断を余儀なくされたからだという。この映画はその後の07年の製作(翌08年に37歳で急逝)。サイレント映画を思わせる字幕の簡素な潔癖さ。まず読む文字として現れる、バルザック文学に忠実な(というのか)表現。初めは気位高く構えていたランジェ公爵夫人が無骨な軍人モンリボー将軍と立場が逆転するすれ違いドラマなのだが、文字でつなぐことでいかにもなドラマチックなメリハリはあえてつけないでいる。マキノ光雄の言葉を借りると、ドラマがあってチックがない。...「ランジェ公爵夫人」

  • 「幻滅」

    貴族と平民の間に生まれた主人公がイノセントな純文学志向だったのがペンで人を持ち上げたと思うと引きずり下ろすのを生業とするようになり、気づくとあちこちのしがらみで借金で首がまわらなくなっている。華やかな生活にも全部カネがかかっているというわけ。19世紀のコスチューム・プレイの世界だから、今で言うメディアを牛耳っている連中のえげつなさがカリカチュアと見せてリアルに描けている。今だったらSNSの世界になるから画にするのが難しいだろう。いわゆる犯罪大通りで赤い靴下を履いて踊っていた出会った時まだ十代の歳の離れた妻が、借用書につぎつぎとサインする情景は「バリー・リンドン」を思わせる。美術が素晴らしく、ロウソクの照明のニュアンスが良く出た。小林信彦はバルザックについて、昭和初期のビルを歩いていたら最新のビルに紛れ込ん...「幻滅」

  • 「サイレントラブ」

    あららチャップリンの「街の灯」じゃない。浜辺美波は音楽大学在学中で交通事故で視力を失い耳が頼りだが、それに対して山田涼介は口がきけない。音大に通うくらいだから浜辺は裕福な生まれ育ちで、不良出身で掃除夫をしている山田とは、劇中のセリフにもあるが住む世界が違う。これにグレているけれどピアノの名手の野村周平が絡む。浜辺が目が見えないので野村を山田と誤解するところや、手を握ったり触ったりする動作の強調などアレンジしてはいるけど、ほぼそのまま。山田が無言というのがサイレント映画の「街の灯」を今に生かしたと思しく、浜辺と野村がピアノを連弾演奏する場面がまたトーキーの特性を今さらながら生かした。だいたいこの映画、台詞がかなり少なく緊張感を維持している。貧困のあり方というのがチャップリンとは違いすぎるが、格差という形でリ...「サイレントラブ」

  • 「ノスタルジア」4K

    4Kレストア版とあって画質に注目したが、それ以上に音それも小さな音に耳を傾けた。レストアに際しては撮影監督(ここではジュゼッペ・ランチ)の監修は受けるけれど、録音やミキシングの方はどうなのだろう。ホテルの廊下でピアノの音がごく小さく聞こえた時は、気のせいかと思うくらい。クライマックスの「第九」は対照的にかなりマチエールが荒く聞こえた。「ストーカー」でも列車の音でわざと聞こえにくくして「タンホイザー」や「第九」を使っていたが、こういう音の処理はあまり例がない。武満徹の、「近ごろ人間の音に対する感性は、鈍ってきていて、とくに映画の場合、音が大きくなってきたということもあるんですけど、無神経になってきている。かならずしもドルビー・システムが悪いわけじゃないけどね。その無神経さと、タルコフスキーの感性は、対極にあ...「ノスタルジア」4K

  • 2024年1月に読んだ本

    1月の読書メーター読んだ本の数:26読んだページ数:4607ナイス数:0窓ぎわのトットちゃん新組版(講談社文庫)読了日:01月04日著者:黒柳徹子1・2・3と4・5・ロク(1)(コルク)読了日:01月07日著者:ちばてつや1・2・3と4・5・ロク(2)(コルク)読了日:01月07日著者:ちばてつや1・2・3と4・5・ロク(3)(コルク)読了日:01月07日著者:ちばてつや歳月読了日:01月08日著者:鈴木敏夫詐欺の帝王(文春新書)読了日:01月08日著者:溝口敦あした天気になあれ(51)(コルク)読了日:01月08日著者:ちばてつやあした天気になあれ(52)(コルク)読了日:01月08日著者:ちばてつやあした天気になあれ(53)(コルク)読了日:01月08日著者:ちばてつやあした天気になあれ(54)(コル...2024年1月に読んだ本

  • 「アイヌモシㇼ」

    観光地化した十勝で英語が日本語と共にアナウンスされていてアイヌがアイヌ語を習っているという逆転が、言語の背景にある力関係を示している。テレビで「インディペンデンス・デイ」を見ているシーンがあるけれど、あれはドイツ人の監督がアメリカで思い切りアメリカ万歳やっている映画で、かなりアイロニカル。日本人韓国客が主人公のカント(哲学者のカントかと思ったら、アイヌ語で「天空」という意味)の母親に「日本語お上手ですね」と言うのは悪気がないだけに無神経が際立つ。アイヌの伝統が「守り」に入って、熊狩りが禁止されそうになっているのは現代の感覚に合わないからという理屈はつくだろうが、たとえばアイヌが川から鮭を採るのも禁止されていて、許可をとるのに身長を越すほどの書類を作る必要があった、他民族の「主食」を禁止した例はないとはアイ...「アイヌモシㇼ」

  • 「ゴールデンカムイ」

    プロジェクトとすると原作のどこまで映像化するのかと思う。原作が完結していることは知っているが、実は結末までは読んでいない。長編マンガの原作はどうしても人気のあるうち、つまり連載中に他のメディアに移されることが多く、「あしたのジョー」が連載途中でアニメに追いつかれてしまい、10年後に改めて「2」としてやり直せたのは例外で、それだけきちんと終わっていてラストまで見通せたからだろう。「進撃の巨人」「鬼滅の刃」といった人気連載が完結しても人気を保てるよう他のメディアに乗り換えながら飽きさせないのは進歩。キャラクターの再現度が高い割に役者の地もちゃんとわかる。アシリパの山田杏奈が大きくなったのは例外として変顔の再現度は高いのが可笑しい。童顔に対してきりっとした喋り方が良く、杉本がアシリパさんとさんづけで呼ぶのが不自...「ゴールデンカムイ」

  • 「VESPER ヴェスパー」

    主人公のヴェスパーって少年なのか少女なのかわかりにくいのだが、エンドタイトルでラフィエラ・チャップマンと出るので女とわかる。神話的な両性具有イメージを付与していると思しい。森からコケやキノコみたいなサンプルを集めているあたり、ちょっとナウシカを思わせる。それと共に連想させるのはタルコフスキーで、木の壁の家や森の中、川面などの質感は「アンドレイ・ルブリョフ」「ノスタルジア」、荒廃したSF世界という点では「ストーカー」ばり。種が現実にあるいわゆるF1種みたいに一回しか収穫できないという制限をかけられているという世界観は現実的すぎて意外性に欠ける。ドローンみたいに自在に空中を浮遊する顔の落書きがしてある物体が寝たきりの父親の声を代弁したり、中身がぐちゃぐちゃした内臓状になっているあたりの有機物と古びた金属の取り...「VESPERヴェスパー」

  • 「ベネシアフレニア」

    世界有数の観光都市であるベネチアにクルーズ船でやってきたグループが仮面で正体を隠した道化に一人また一人と惨殺されていく。よくあるホラーだったらキャンプとかホリデーとかに設定するのを外国まわりのクルーズにして非日常感を演出するという寸法。しかもクルーズ船に対して現地人がすごい反発していて一方で観光業がなければ食いっぱぐれているという葛藤が背景にある。日本はどうなのかなと思った。白昼堂々と大勢の観光客たちの前で惨殺してもツーリストたちはショーだと思ってスマホを向けるだけという趣向が面白い。-YouTube「ベネシアフレニア」-公式サイト「ベネシアフレニア」-映画.comVeneciafrenia-IMDb「ベネシアフレニア」

  • 「ある閉ざされた雪の山荘で」

    タイトルに偽りありで、山荘は実際には雪に閉ざされてはいない。そういう見立てあるいは「つもり」で演じなさいという指示があるだけ。この指示してくる劇作家兼演出家というのが終始姿を現さない処理が結構中途半端なのは気になった。山荘の2Fを真上から見取り図みたいな平面に開いて見せる「ドッグヴィル」みたいな趣向がちょっと面白い。階段を降りて1Fに向かうと姿が消える。こう言うとなんだが、集められた集団が歳がみんな20代後半で、役者らしくそれなりに美男美女となると顔が見分けにくい。アメリカ映画みたいに人種が違えばともかく。作中に出てくる「そして誰もいなくなった」みたいにフラットな人物配置で途中まで通して、そこから誰か特別な存在(たとえば探偵役)に移行する処理は難しく、この場合かなりムリしているように思える。劇中に出てくる...「ある閉ざされた雪の山荘で」

  • 「コンクリート・ユートピア」

    大災害に襲われたアパート群のうち一棟だけ倒壊を免れているという図がどうも納得できない。「パラサイト半地下の家族」を横にしてみましたといったところなのだろうけれど、阪神淡路大震災の時に明らかになったように、貧困層の住宅だけ壊れて富裕層の住宅は倒壊を免れたという具合に社会的な格差が自ずと出たというわけではないから。イ・ビョンホンの正体不明の男がヒロイックなのと暴力的なのを併せ持っていてすわ主役なのかと思うと割と中途半端。-YouTube「コンクリート・ユートピア」-公式サイト「コンクリート・ユートピア」-映画.comConcreteUtopia-IMDb「コンクリート・ユートピア」

  • 「サン・セバスチャンへ、ようこそ」

    アレンらしくウェルズ=「市民ケーン」ベルイマン=「野いちご」「第七の封印」「仮面ペルソナ」フェリーニ=「81/2」ブニュエル=「ブルジョアジーの秘かな愉しみ」「皆殺しの天使」ゴダール=「勝手にしやがれ」トリュフォー=「突然炎のごとく」ともうオマージュというか引用だらけなのだが、意外(というか)なのはクロード・ルルーシュ=「男と女」が音楽つきで再現されたこと。芸術というかゲイジュツ志向ではないのが混じった。「ペルソナ」のセリフはわざわざスウェーデン語にしているという凝りっぷり。演出はシンプルで、さらさらとひっかからないように撮っている。ヨーロッパのヌーヴェルヴァーグをはじめとする映画人はヒッチコックやハワード・ホークスなどハリウッドの監督でも自分のスタイルを持った人は称揚したのだけれど、アレンはあまりそうい...「サン・セバスチャンへ、ようこそ」

  • 「エクスペンダブルズ ニューブラッド」

    EXPENTABLESのうち中ほどのAの文字を4に変えてEXPENT4BLESにしてシリーズ4作目なのにひっかけている。かなり世代交代気味で、邦題に「ニューブラッド」=新しい血とわざわざ断っているが、スタローンが引っ込み気味で、新しく加入した女(ミーガン・フォックス、レビ・トラン)に東洋人二人(トニー・ジャー、イコ・ウワイス)はどちらもあまり生かされていない。核爆発に無神経なのには、またかよと思う。ラストシーン直前に回想入れるっていうのはねえ。実質ジェイソン・ステイサムとその他大勢。-YouTube「エクスペンダブルズニューブラッド」-公式サイト「エクスペンダブルズニューブラッド」-映画.comExpend4bles-IMDb「エクスペンダブルズニューブラッド」

  • 「猿女」

    ラストが三通りあって、イタリア公開版、ディレクターズカット版、フランス公開版と全然違う。イタリア公開版はベッドに横たわった猿女の遺体が黒味に囲まれてだんだん小さくなっていく、ディレクターズカット版は死後ウーゴ・トンニャッティ扮する猿女の夫が見世物小屋を開くところまで続く、フランス公開版は猿女が死なないのみならず顔中に生えていた毛が抜けてアニー・ジラルド(当然、美女)の素顔が現れるといった具合。正直、なんべんもラストを見せられるのは生理的にきつかった。もろに終わりそうで終わらないのだから。考証的、研究としての意義があるのはわかるけれど。多毛症の女を猿まがいの見世物にして金を稼ぐという最低な真似をしておいて途中で結婚するのにはあれと思ったし、妊娠する(その後の展開は前述の通り分かれるが)ということは性交したわ...「猿女」

  • 「時は止まりぬ」

    エルマンノ・オルミ監督第一作。舞台は雪に振り込められたダムに隣接された山小屋で登場人物は三人だけ、それも一人が下山してから交代で若いのが補給されるといった調子で、最初から最後まで出ているのは一人だけ。どんな設備があるのかいっぺんに見せないでダムの内部を順々に紹介したり、その内部に水がたまっているのを手でかい出したり、教会が近くにあるのを吹雪が強まったので避難先にしたりと、いちいち手の届く範囲で危機が起こっては去る。去ってしまえばさほどではないとはいえ、その時はかなり深刻。↑の写真にあるように雪に人型をつけたり、風邪をひいたらしい未成年にミルクに酒を混ぜて飲ませて、熱がひいたらアルコールくさいというあたりのユーモアがいい。-YouTubeIltemposièfermato-IMDb「時は止まりぬ」

  • 「せかいのおきく」

    白黒にしたのは糞尿を撮らなくてはいけないせいだろうけれど、そこにふっとカラー画面が混じってくる(糞尿ではない)。法則らしいものはなくて、ラストカットだけ広角ぎみのレンズを使っているのも、あまり理に落ち過ぎないようにするのが狙いではないか。おきくが喉を切られて口がきけなくなるのが芝居の見せ場になるかと思わせてそんなに表には出ない。無言の饒舌さといったところに抑えている。池松壮亮と寛一郎の二人の衣装のボロさ加減がすごくて逆に手がかかっている。おきくが半紙に筆で書く仮名文字が上手。-YouTube「せかいのおきく」-公式サイト「せかいのおきく」-映画.com「せかいのおきく」-IMDb「せかいのおきく」

  • 「NOCEBO ノセボ」

    舞台はアメリカかと思ったら、アイルランドのダブリンでした。監督はロルカン・フィネガンLorcanFinnegan。フィネガンというからアイルランド系かと思って検索してみたが、個々の映画の関係者とするとひっかかるのだが、どういうわけかWikiでは個人としては名が出ていない。個人のホームページは出る。謎のフィリピン人役のチャイ・フォナシエルは1986年9月27日生まれの37歳。小柄なもので、もっと若く見える。英語、セブアノ語、タガログ語、ヒリガイノン語を解するとのこと。フィリピン映画「リスペクト(2017)」に出ているらしく、2018年の第31回東京国際映画祭「CROSSCUTASIA#05ラララ東南アジア」で上映された記録がある。アイルランドというとITが普及してからは大いに経済発展したが、それまでは貧しい...「NOCEBOノセボ」

  • 「カラオケ行こ!」

    中学生役の齋藤潤は2007年6月11日生まれの出演当時16歳。メガネをかけているところは何だかハリーポッター第一作の頃のダニエル・ラドクリフとちょっと似ている。子役出身というわけではなくまだキャリアは浅いが、ヤクザ役の綾野剛が縦横無尽に投げ込んでくる球をキャッチするあたりの堅い表情が器用になりすぎなくていい。クライマックスのカラオケ絶唱で喉を押さえているのは変声期でムリに声を出しているということか。このあたりは原作の方がはっきり描いている。合唱部の部長という役のわりにあまりちゃんと歌っておらず発言は批評に徹している。ヤクザたちがよく怒らないものだが、いずれにせよリアルなヤクザではなく「セーラー服と機関銃」みたいなコメディ要員。「映画を見る会」がVHSテープで「白熱」「四十三丁目の奇蹟」「カサブランカ」「自...「カラオケ行こ!」

  • 「ゴジラ-1.0/C」(白黒版)

    カラーと白黒の両方の版があるのとしては比較的最近では「マッドマックス怒りのデスロード」があるが、技術の進歩のせいか初めから白黒用の照明で作ったのかと思うくらい微妙な画調が出ている。今では白黒映画は「せかいのおきく」「花腐し」などそんなに珍しくなく、フィルムだと最初から白黒用のを用意しないといけないわけだが、デジタルだともう少し手前が省けるのではないか。知らんけど。フィルム時代の「マスターズ・オブ・ライト」のデジタル版みたいな本が出ないものか。白黒だと第一作の、特に生中継しながらゴジラに襲われる場面のオマージュが生きる。焼け跡のセットの質感も白黒ならではの抽象化をいったんくぐり抜けたリアル感がある。余談だが、1954年のファースト「ゴジラ」の三年前の1951年、日本映画初のカラー映画「カルメン故郷に帰る」で...「ゴジラ-1.0/C」(白黒版)

  • 「ミークス・カットオフ」

    西部開拓史を描いているには違いないが、虚像を剥いでリアルな実像をさらけ出すといったニューシネマ的な手つきではなく、男たちが世にもあやふやなまま道を決めて、それに女たちはついていくしかないという先の見えなさがそののまま「現代」の見通しになっている。「ファースト・カウ」もそうだったが、1:1.37のスタンダードサイズ。「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」もそうだったが、字幕で「先住民」ではなく「インディアン」と訳している。当時の言葉遣いを考えればそうなる。ビーバーが乱獲されてほとんど絶滅したことは「ファースト・カウ」にも言及されていた。幌馬車が崖から落ちて樽から水が漏れ、そのまま銃を向け合うクライマックスになだれ込むあたりは生死を賭けている割にどこかそれが特別なことではない感じが残る。-YouTube「ミー...「ミークス・カットオフ」

  • 「夢のチョコレート工場」

    ジョニー・デップ=ティム・バートンによるリメイクや先日公開された前日談映画と比べて人工的なルックではなく、かなりフィルムのざらっとした質感が出ている。ウンパルンパ(ウーパールーパーに似ているが、関係あるのか?)が大勢出てくるのだが、合成で増やしているのではない。というか、この時代は合成技術自体あまり発達しておらず、姿かたちが似た小さな人間を大勢出したらしい。脚本は原作者のロアルド・ダール自身だが、クレジットされていないデヴィッド・セルツァー(「オーメン」)の手がかなり加わっているとのこと。-YouTube「夢のチョコレート工場」-映画.comWillyWonka&theChocolateFactory-IMDb「夢のチョコレート工場」

  • 「サンクスギビング」

    サンクスギビング(感謝祭)といっても、クリスマスやハロウィンに比べると日本ではなじみがない。七面鳥を食べるといっても、大きすぎて持て余すだろう。クリスマスならサンタクロース、ハロウィンならブギーマンみたいな有名なキャラクターがいるが、感謝祭のジョン・カーヴァーとは清教徒を乗せたメイフラワー号の航海中の指導者で、プリマス植民地の初代総督でもあると言われてもピンと来ない。16世紀から17世紀にかけて実在した人物で、メイフラワー号というあまりにアメリカ的な史実であることが足をひっぱっている。とはいえ、ホラーとなるとすべては単なる残虐な見せ場のための口実になるのだが、犯人は誰かといったミステリ的な趣向も加えて飽きさせないのは定石。主演のネル・ヴェルラックという女優さん、ずいぶん背が高いなと思ったら1m82cm。母...「サンクスギビング」

  • 「PERFECT DAYS」

    朝早くに目を覚ました役所広司が古い木造家屋の二階の部屋から階段を降りてきて玄関から出ると、そのままドアに鍵をかけないで近くの自動車の鍵を開けて乗り込むのにあれ?と思った。玄関に鍵をかけなかったように見えたけれど見間違いかなと思っていたら、玄関のドアにはこの後も鍵がかけられることはない。仕事用の鍵がものすごく多いのが対照的。盗むようなものなどないこと、それ以前に所有欲がない、少なくともモノにたいする執着がないことを表わしているといっていいだろう。(と、思ったのだがプッシュしてから閉めると自動的に鍵がかかる仕掛けらしい。ホテルみたいで、見かけによらない)公衆のトイレを掃除する仕事、というのを聞いて、どうかすると実際にトイレを素手で地位のある人が掃除する、あるいは子供にさせて精神的な修行・鍛錬にするといったそう...「PERFECTDAYS」

  • 「土を喰らう十二ヵ月」

    都会から地方に移動するオープニングにかかるジャズが洒落ていて、出てくる食事が食材からして自分で採ってくるのが今になると凄い贅沢。贅沢すぎるくらい。室内シーンが思い切って画面を暗くして、それでいて鮮明に撮れている。沢田研二が老けてなお艶っぽい。エンドタイトルの歌がまた艶っぽい。水上勉の原作は「美味しんぼ」で名前を知ったのだけれど、雁屋哲の臭みはここではついていない。-YouTube「土を喰らう十二ヵ月」-映画.com「土を喰らう十二ヵ月」-IMDb「土を喰らう十二ヵ月」

  • 「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」

    シリーズもので時間的に遡った作りというのは今や珍しくないが、もともとシンボリックなキャラクターとして出てくるウォンカをはっきり主役に据えたのは思い切りがいい。ティム・バートン版のリメイクは今にして思うとかなりビサールなケレン味の強いアレンジだったけれど(ジーン・ワイルダー主演版はそうでもない)、今回はおとぎ話か童話っぽいテイストに寄せている。チョコレートを食べるとふわふわ宙に浮くなどファンタスティックな情景。主役のティモシー⋅シャラメは少女マンガから抜け出てきたみたいとかなり言われたものだけれど、人食い役の「ボーンズアンドオール」ですらロマンチックな持ち味を保っていたのを生かして、優男でも腐らずへこたれない。ヒュー・グラントがこれまでのウンパルンパ役とは違ってキャラクターを単一にして立てている。草刈正雄で...「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」

  • 「シャクラ」

    映画の途中から新しい登場人物が出てきたりするもので、これはシリーズものの再編集版か、それに類するものかと思ったら、果せるかなぴしっと終わらない。韓国映画の「TheWitch魔女」とかアメリカ映画の「テリファー」の劇場公開版がストーリーでいうと始まりではなくドラマ版の続きにあたるようなものだろう。これだけ登場人物や部族や国の名前で、ひどく難しいなじみのない漢字が頻出するのも珍しい。振り仮名ふってありますからね。基本アクション映画なのだからもうちょっとシンプルなのかと思った。中盤、ドニー・イェンが敵が集結している真っ只中に乗り込んでいって、敵対者たちと酒を酌み交わして縁を絶つという矛盾した儀式を行った後このまま命を落として終わるのかと半ば本気で思った。後で思うと、ここからペースが乱れる。いろいろ不満を述べてい...「シャクラ」

  • 「ダークグラス」

    盲人が盲導犬に引かれて殺人鬼に狙われる姿は「サスペリア」そのまんま。あれほどいい意味でのハッタリも効いていない。殺人鬼の姿を見せないでおくのかと思うと中途半端に顔を見せ、実は顔はもう見せていたのでしたとネタバレ?するあたりは「サスペリアPART2」なのかなあ。ダリオ・アルジェント10年ぶりの新作といってもかなり前に全盛期は過ぎている印象。-YouTube「ダークグラス」-公式サイト「ダークグラス」-映画.comOcchialineri-IMDb「ダークグラス」

  • 「アリスの恋」

    この映画の日本公開時のポスター↑では、監督マーチン・スコルセーゼと表記されていた。それが「タクシードライバー」の時はマーティン・スコシージになり、今のスコセッシ表記に落ち着いた。オープニングの人工的な大セットと赤い照明は「風と共に去りぬ」ばりで、スコセッシのシネフィルぶりを見せる。歌手として売り込もうとするアリスがものすごくダサいグリーンのワンピースといういでたちなのがかなり可笑しい。アリスがジャムがついたナイフを拭いた布でそのままテーブルを拭くのはずいぶんと無神経で、アメリカ人らしいというか。だいぶ前にテレビで見たときはクリス・クリストファーソンとの関係がハッピーエンドに見えたけれど、今見るとちょっと引っかかる。またアリスの連れ子に手を上げるのではないかと思ってしまう。ハーヴェイ・カイテルのウブな若者と...「アリスの恋」

  • 「ロアン・リンユィ 阮玲玉」

    実在のロアンが25歳という若さで亡くなっているので、それをだいぶ過ぎた主演のマギー・チャンが振り返る形で半ば自分を通したイメージで捉えている感じ。白黒サイレント映画の中の姿として交錯しながら現れるのが若くして亡くなった人の伝記映画というスタイル自体凝っている割に明快で、全体に良い意味で回顧的。-YouTube「ロアン・リンユィ阮玲玉」-映画.com阮玲玉-IMDb「ロアン・リンユィ阮玲玉」

  • 「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」

    今さらだけれど、時代設定が漠然と現代ではなく、おそらくスパイが跳梁していた冷戦期のイメージで、敵の母船がギガントみたい。こういうとダサいが、これも「血がつながっていない」家族の話なのね。アーニャが一応両親のことを「チチ」「ハハ」と呼ぶのが可笑しい。-YouTube「劇場版SPY×FAMILYCODE:White」-公式サイト「劇場版SPY×FAMILYCODE:White」-映画.com「劇場版SPY×FAMILYCODE:White」

  • 「TALK TO ME トーク・トゥ・ミー」

    幽霊が祟る時に相手に幻覚を見せて(東海道四谷怪談とか)その相手が殺してはいけない人を殺させるという手を使ったりするが、それに近いことを幽霊の存在を前提にしないで、使っている。イヤだなあ。-YouTube「TALKTOMEトーク・トゥ・ミー」-公式サイト「TALKTOMEトーク・トゥ・ミー」-映画.comTalktoMe-IMDb「TALKTOMEトーク・トゥ・ミー」

  • 2023年12月に読んだ本

    12月の読書メーター読んだ本の数:23読んだページ数:5291ナイス数:0エンニオ・モリコーネ映画音楽術マエストロ創作の秘密――ジュゼッペ・トルナトーレとの対話読了日:12月03日著者:エンニオ・モリコーネ,ジュゼッペ・トルナトーレ鬼の筆戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折読了日:12月04日著者:春日太一キミのお金はどこに消えるのか読了日:12月07日著者:井上純一がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか読了日:12月07日著者:井上純一安倍晋三の正体(祥伝社新書682)読了日:12月07日著者:適菜収僕らの蟹工船小林多喜二『蟹工船』より(ビームコミックス)読了日:12月08日著者:唐沢なをき黄金の服(小学館文庫)読了日:12月09日著者:佐藤泰志会社員でぶどり8読了日:12月10日著者:橋本ナオキ...2023年12月に読んだ本

  • 「ゲアトルーズ」

    ドライヤーとしては「奇跡」同様に舞台劇が原作なのだが、映画化にあたって強いては場面を散らさないでいわゆる三一致の法則(場の一致、人物の一致、筋の一致)を守り、それで映画としての簡素さ、端正さを通している。俳優はほぼ棒立ちで互いに顔を合わさずにセリフをやりとりし、カメラは簡素なパンと移動を含めた長回しで、一筆書きといった趣がある。-YouTubeカール・テオドア・ドライヤー2-公式サイト「ゲアトルーズ」-映画.comGertrud-IMDb「ゲアトルーズ」

  • 「ヒトラーのための虐殺会議」

    多くのユダヤ人の運命が、まったくの赤の他人により地理的にも意識の上でも遠いところで決められていくというコントラストが強烈。ナチスのユダヤ人「処理」案が合理的なようで歪んでいる。土台無法なことをしようとしているのだから当然。それにしてもイスラエルが現在パレスチナに対して行っている無法蛮行を思わずにいられず、後でどうするんだと思う。冒頭から気に入らない相手を下座に置くというセコい真似をしている。記録係?だけが唯一の女性で、それもひどく影が薄い。それをあえてかどうか強調しないのも「存在しない」存在の描き方としてはニュートラルなもの。-YouTube「ヒトラーのための虐殺会議」-公式サイト「ヒトラーのための虐殺会議」-映画.comDieWannseekonferenz-IMDb「ヒトラーのための虐殺会議」

  • 「ウェンディ&ルーシー」

    終始ミシェル・ウィリアムズが着たきり雀で、キュロットというより半ズボンみたいな服装で通している(意味は同じだけれど、キュロットというほど可愛くない)。ナマ脚に余裕のなさがむき出しに出ている。一見一応こざっぱりはしているのだが着替えはないと見える。日本でも今や外観だけ見ていると貧困に陥っているのかどうかわからないというが、それに近い。お話とすると、ボロのHONDA車に乗ってやってきたヒロインのウェンディがなつかれた犬のルーシーが目を離した隙に行方不明になって、見つけた時には壊れた車の修理に5000ドルとボラれるもので、一緒にはいられなくなるというシンプルなもの。アメリカでは車をなくしたら1930年代の大不況時代のホーボーみたいに貨車にタダ乗りして回らないといけないらしい。今どき公衆電話用のコインを警備員に借...「ウェンディ&ルーシー」

  • 「ファースト・カウ」

    冒頭でかなり大きな船が川を上っていくので時代設定がどのあたりなのかわからなかったが、やがて19世紀の開拓期のアメリカらしいのがわかってくる。ビーバーの毛皮や貝殻が物々交換で貨幣代わりになっていた頃の話で、雄鹿の毛皮buckがそのまま通貨ドルの意味になった例を連想した。主役二人の会話にアメリカ以外も入ってくるところで、ロシアが版図を広げていく過程は毛皮を採りながら森に進出していく過程でもあったという話も連想した。前半で野生のキノコを採るシーンがあって、毒キノコではなかろうなとひやひやした。ずいぶん死んだ例もあったのではないか。ドーナツを作るミルクを絞る牛は金持ちの持ち物と、持つ者持たざる者の断絶があるわけで、金持ち役のトビー・ジョーンズはヒッチコックの役などもやっていたイギリス人くさい役者。主役二人のうち一...「ファースト・カウ」

  • 「ウィッシュ」

    魔法使いが人々のwish=望み、願いを預かり、かなえようとしていたらしいのが次第に独占し我が物にしようとする。少なくとも後半の魔法使い=王は人々の望み、欲望を「管理」する存在としてあるわけで、冒頭は昔話風に絵本で語り始めるのが終わりは腐敗して権力に酔い、あるべき座から脱線暴走してしまう。同じ本で始まり終わるのに、冒頭とラストがズレているのが異色。夢の王国としてのディズニーアニメのモデルとして見てもいいし、民主主義のアナロジーにも見えてくる。主題歌をまるまる予告編やテレビスポットで流していたのは、「アナと雪の女王」の手法の再現か。併映のオリジナル短編映画「ワンス・アポン・ア・スタジオ-100年の思い出」では2Dと3Dのキャラクターが混在して違和感がないのだが、「ウィッシュ」のエンドタイトルではその100年間...「ウィッシュ」

  • 「ミカエル」

    サイレント映画で白黒だから一見派手ではないが、ずいぶん壮麗なセットだなと思った。芸術家(彫刻家)が主人公だからということもあるだろうが、背景とは裏腹におそらく通常ならばミューズとして扱われるだろうキャラクターに向けられる眼差しのリアルさ。主演のベンヤミン・クリステンセンは監督でもあるという。「野いちご」で監督のヴィクトル・シューストレムを主演に起用したベルイマンみたい。-YouTube「ミカエル」-映画.comMichael-IMDb「ミカエル」

  • 「屋根裏のラジャー」

    イマジナリーって、「シャイニング」みたいに子供が空想上の友だちを持つことなのだけれど、本体が意識を失って空想のはずのイマジナリーが独自に生きて活動するとなると、あれ?と思う。忘れられると消えてしまうという枷はあるにせよ、どこまで行けば消えるのかよくわからない。最高度のアニメーション技術を生かしたイメージの奔流は魅力的だけれども、制限がないというのも逆にタガがはめられたみたいで自由さが逆に足を引っ張ってしまう。「はてしない物語」を映画化した「ネバーエンディングストーリー」みたいに、空想の大切さを説く映画化で空想を具体的なイメージにする段階でどこかに齟齬が出てしまうと思わざるを得ない。イギリスを舞台にしているらしいのだが、あちこちに出てくる書き文字が日本語というのはディズニーアニメなどでわざわざ英語を日本語に...「屋根裏のラジャー」

  • 「死霊のはらわた ライジング」

    一作目で森の中で蔦が絡まって体の自由を奪ったのに対応してエレベーターの中でワイヤが絡まるというのが律儀というか。変なポーズになるのは笑かすつもりかな。森が舞台だったオリジナルに対して、今回はマンションが舞台。ドアの外を覗く魚眼レンズを通して人物が右往左往するシーンなどが微妙に可笑しい。ドアを叩くのを真下から撮ったカットとか、エレベーターから血の奔流が噴き出すのは「シャイニング」だろう。クライマックスで血をやたらと撒き散らすのはお約束。-YouTube「死霊のはらわたライジング」-公式サイト「死霊のはらわたライジング」-映画.comEvilDeadRise-IMDb「死霊のはらわたライジング」

  • 「ティル」

    考えてみると、ティル事件の犯人たちはほとんど直接には描かれていない。犯人に限ったことではなく、白人一般の差別意識と暴力性こそが問題であり、ヒロインに侮辱的な言動を働く保安官や誰がとばしたのかわからないヤジなど特定されない広がりのある背景を感じさせる。ヒロインは息子に白人に応答する時はイエス、サーという具合にサーをつけろと教えたと法廷で証言し、自身白人の判事に対して実践する。彼女は差別がひどいミシシッピとそれほどでもないシカゴの両方の生活を経験しているが、息子はシカゴだけという差が不幸につながった。白人家庭ではテレビを見ているのが横移動して黒人家庭ではラジオになり、さらに移動するとヒロインの家ではテレビを見ているという具合につながれる。ヒロインが比較的裕福なのがわかる。惨殺された息子の遺体が物陰に隠れていた...「ティル」

  • 「映画 窓ぎわのトットちゃん」

    「アンクル・トムの小屋」のタイトルで覚えた小説が「アンクル・トムズ・ケビン」になっていたのであれと思って調べたら、戦前に出版されたのは1927年と1933年で共に「トムズ・ケビン」でした。アンクル・トムというと1954年の公民権運動以後では白人におべっかを使う黒人という意味になっているわけで、小児マヒと呼ばれたポリオの男の子に相当手荒く接すること共々,後になってみると無意識に差別的ともとれる扱いをしていることそのものは避けないで描くといったスタンスなのかと、やや戸惑いながら見ていた。トットちゃんがパンダのぬいぐるみを持っていてエンドタイトルもそれで締めくくられるのだが、今みたいにパンダがポピュラーになったのは1970年の日中国交回復からで、この映画が始まる翌年の1941年に国民党のトップ蒋介石の妻・宋美齢...「映画窓ぎわのトットちゃん」

  • 「枯れ葉」

    カウリスマキぶしと言おうか、淡々としてぶっきらぼうでいながら妙におかしみをにじませるタッチは健在。前半のウクライナ侵攻みたいに社会的な危機を間接的にせよ描くのは珍しい。女は肉体労働者、男はアルコール依存症とさむざむとした画面と設定で、ビデオや配信も見ないでもっぱら映画館で映画を見ている(テレビも出てきたかどうか)のは監督の趣味嗜好もあるのだろうけれど、貼られているポスターがゴダールの「軽蔑」「気狂いピエロ」デヴィッド・リーンの「逢引き」など古い名作揃い。フィンランドには、今どきああいうプログラム組む映画館あるのかな。あんまりデジタルデバイスが出てこないので、いつの時代の設定だろうと思っていたら辛うじてスマートフォンが出てくる。フィルムで撮影されたというが、上映はDCPにせよざらっとした質感は出ている。-Y...「枯れ葉」

  • 「暴走車 ランナウェイ・カー」

    最近公開された「バッド・ディ・ドライブ」のオリジナル、2015年製作のスペイン映画。自家用車の運転席のシートに爆弾が仕掛けられるという基本的な設定は当然同じだが、リメイクでは子供が兄と妹だったのが、このオリジナルでは姉と弟と逆になっている。リメイクの方が細かいところでブラッシュアップされているのは確かで、スマートフォンの縦横な使いこなし方も、カネの受け渡しも、犯人の隠し方もひとひねり工夫されている。こちらでは早い段階で子供がケガしてその後かなり父親が感情的になる。妻との関係も良好。リメイクでは離婚寸前だった。いろいろ複雑にしているにも関わらず、リメイクの上映時間は91分、こちらは101分。韓国やドイツでもリメイクされているらしい。それだけセントラル・アイデアの単純明快さが魅力で、アレンジのしがいがあるとい...「暴走車ランナウェイ・カー」

  • 「エクソシスト 信じる者」

    「チューブラ・ベルズ」を随所に流したり、ある程度成長した女の子がおねしょしたり、極めつけはエレン・バーステインの登場と、「エクソシスト」第一作を完全に想起させるように作ってあるわけだが、道具立てを揃えるまでに手間取りすぎてなかなか怖くならない。女の子がおねしょして父親が風呂に入れ、扉を閉めてしばらくして見に行くと風呂に黒い水が溜まっている、おかしいのは水が濁っていたらまず娘が溺れてないかバスタブに腕を突っ込んで確かめないか。そうしないのは芝居のつけかたが不適切ということになる。悪魔を祓われる女の子がふたり、背中合わせに縛られている図というのは珍しく、考えてみると二人いっぺんというのはいいのかと思う。仲良しか知らないが、別の人間ですからね。神父が日和りかけるというのもなんだかまわりくどい。-YouTube「...「エクソシスト信じる者」

  • 「怪物の木こり」

    サイコパスvs.連続殺人鬼という図式は、本来加害者側のサイコパスが被害者寄りになるという点で興味を引くが、脳にチップが埋め込まれて云々という作りものっぽい設定がジャマしてそういう対立がだんだんボヤけてくる。殺し場も通りいっぺんで、およそ三池崇史にしてはパワー不足。何より終盤、畳みかけなければいけないところでだらだら間延びした説明台詞が続くのにうんざりした。マスクを被っているのは誰かという興味は、はぐらかしを含めて間断なくつながっている。-YouTube「怪物の木こり」-公式サイト「怪物の木こり」-映画.com「怪物の木こり」-IMDb「怪物の木こり」

  • 「市子」

    市子という女が失踪し、婚約者が過去を探っていくというのが大筋なのだが、画面の隅にかつてのサービスサイズの写真のプリントの隅に入っていたような時刻が入り、それが遡っていくことで場面自体が過去に戻っていくことが示される。写真のプリントみたいな字体にしてあるのも、今ではそれ自体が失われたこと=広い意味の喪失感の表現を狙ったのではないか。宮部みゆきの某作品みたいな話だが、必ずしもミステリの体裁はとっていない。見ていて足元が揺らぐような感覚がある。-YouTube「市子」-公式サイト「市子」-映画.com「市子」-IMDb「市子」

  • 「隣人X 疑惑の彼女」

    惑星難民Xが何くわぬ顔をして普通の人に紛れて生きているらしいという疑惑から話が始まるわけだが、週刊誌の臨時雇い林遣都の担当になった女二人のどこに一体そういう疑惑がかけられる余地があるのかさっぱりわからない。上野樹里が36歳になっても結婚しないとか、ファン・ペイチャが台湾人で日本語が不自由とか一般的なレベルの差別を受けてはいるのだが、普通の意味での移民難民あるいは疎外された人間の話ならともかく、惑星難民といったデカい話にするにはムリがある。「エイリアン・ネイション」みたいなエイリアンを移民になぞらえたアナロジーなのかと思ったが、アナロジーというにはあまりに真っ正直に移民そのものだ。しかも上野樹里の方には両親まで出てきますからね。宇宙人?は人をコピーするという設定だと思ったが、それはどうなったのだろう。宇宙人...「隣人X疑惑の彼女」

  • 「バッド・デイ・ドライブ」

    リーアム・ニーソンの証券会社のトップが車の運転席の下に爆弾を仕掛けられ、こういう時に限って普段反抗している娘と息子が後部座席に座ってしまい、そこに謎の犯人からの脅迫電話がかかってくる。単純だが強力なシチュエーションとそれに変化をつける小技のバランスが良く、車が走ったり止まったりのメリハリも効いている。リーアムが息子と娘を守ろうとするパパぶりと証券会社のトップという手を汚す立場の両面を陰影をつけすぎずに演じる。さすがに御年70歳を過ぎてフィジカルなアクションはムリだが、座りっぱなしのアップ主体でこなせるシナリオを選ぶ選球眼は確か。後で考えると出来すぎじゃないかと思えるところもあるのだが、91分というコンパクトな尺を勢いで押し切るところが頼もしい。スタントに何十人もの名前が並ぶのも昔のアクション映画風。スペイ...「バッド・デイ・ドライブ」

  • 「ミステリと言う勿れ」

    崖っぷちを走る車をフォローしながら崖から飛び出して墜落炎上するのを捉えたつかみはOK。おそらくVFXだろう黒煙と炎もよくできている。それから「犬神家の一族」ばりの旧家の室内の広大さ(特に奥行き)を生かした画作りに目を見張る。クレーンかドローンか、とにかく大ぶりにカメラを動かした外景の描き方もいい。犬神家と違って死人は冒頭にまとめて描いているからそれほど血生臭くはならない。中盤から終盤にかけて伏線とその回収がいささかうるさくなってきてテンポが落ちる。ゲストスターが出てきてからは特にそう。-YouTube「ミステリと言う勿れ」-公式サイト「ミステリと言う勿れ」-映画.com「ミステリと言う勿れ」-IMDb「ミステリと言う勿れ」

  • 「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」

    大阪の都構想だとか万博だとか、果ては日本大阪化計画と称して日本全体の侵略を企てて白い粉をばらまいたりミサイルに見立てた通天閣を発射したりするのだから、関西三府県、特に大阪を敵役に仕立てているわけなのだが、問題になりそうなぎりぎりのところで躱している。あくまで茶番劇の分を守るバランス感覚ととるかツッコミ不足ととるかは微妙。偏見か知らないが、関西の方が京都と大阪と兵庫(芦屋というべきか)と並び立っているからややこしそう。前作もそうだったけれど、現在の埼玉から回想?形式にカッコに入れた体裁にする必要あったのか疑問。内容にさほど有機的なつながりがあるでなし、大宮vs浦和の綱引きってそれこそどうでもいい話。東京に対する埼玉が大阪に対する滋賀にそのまま対応するのかどうか、統計があるわけではないが東京の場合はもう少し地...「翔んで埼玉琵琶湖より愛をこめて」

  • 「シチリア・サマー」

    イタリアがサッカーW杯で優勝した年だから1982年の話ということになるか。相手チームの西ドイツが統一されるのが1990年。半世紀足らず前のシチリアというのがああも封建的だったのか、ゲイというだけで文字通り殴る蹴るの乱暴狼藉を働かれる。冒頭、祖父と父、孫の三代がウサギを狩るところから始まるのだが、銃を振りかざすところからしてマチズモがびっちり充満していて母娘の女二人が割り込む余地もない。ひなびた田舎の風景なのだけれど、その分封建的ということになるか。銃の発射と大詰めでの花火の打ち上げをひっかけている。サッカーを中継しているテレビを屋外に持ち出して一家で見ている図が印象的。-YouTube「シチリア・サマー」-公式サイト「シチリア・サマー」-映画.comStranizzad'Amuri-IMDb「シチリア・サマー」

  • 「ポッド・ジェネレーション」

    子宮を体内からいわばアウトソーシングして独立したポッドとして扱うという着想は一応奇抜だけれど、夫がいつも家にいるので一緒に過ごす時間が長い分、胎児が妻より親和性が高くなるというあたりで想像力が尽きてしまったみたいで、普通の出産とあまり手順が変わらなくなる。妻が自分のお腹を痛めなくても子供を得られるというのは養子だって似たようなものだろうし、ポッドは会社のものだと担当が強調する分、壊していいのかと思ってしまう。つるんとしたポッドと生々しい赤ん坊とのコントラストは一応目を引く。-YouTube「ポッド・ジェネレーション」-公式サイト「ポッド・ジェネレーション」-映画.comThePodGeneration-IMDb「ポッド・ジェネレーション」

  • 「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」

    バカに鬼太郎の背が高いなと思ったらあれは鬼太郎の父親であって(つまり目玉のおやじということになるのだが目玉だけになるのは後の話)鬼太郎が誕生するのはラストもラスト、エンドタイトル後ということになる。誕生にふさわしいというべきか。かなりの程度、旧日本軍の戦争犯罪に踏み込んでいて、血液製剤は731部隊を思わせ、それに製薬業という「犬神家の一族」の家業と亡くなった(が、存在感は失っていない)当主のイメージと旧家的体質を重ねている。(余談になるが櫻井よしこは今はドがつく右翼だが前はミドリ十字を追求していた、なんでああなったのか)それから鬼太郎の相棒になる水木というキャラクターは水木しげるの「総員玉砕せよ!」の生き残りで、自分勝手な上官を激しく面罵する。ああいう具合に罵倒できたらよかったのにという心残りも入っている...「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」

  • 「ベネデッタ」

    キリストが冒頭からしきりと真偽とりまぜて登場して、それが冒瀆的な表現なのかどうなのかバーホーヴェン氏簡単にシッポをつかませない。十字架にかけられたキリストの腰の布をとると性器がなくてつるんとしているのにびっくり。ベネデッタにキリストがとりついたように見える時と悪魔がついたようになる時と両方。同じ修道院を舞台にしているせいもあってケン・ラッセルの「肉体の悪魔」を思わせる。エロとグロが表に出ているのも一緒。シャーロット・ランプリングだと「愛の嵐」、ランベール・ウィルソンだと「悪霊」のイメージをそれぞれ応用したようなキャスティング。-YouTube「ベネデッタ」-公式サイト「ベネデッタ」-映画.comBenedetta-IMDb「ベネデッタ」

  • 「ナポレオン」

    戦闘シーンの数珠つなぎの間にナポレオンの政治的な立ち回りと妻ジョセフィーヌの奔放な振る舞いが描かれるわけだが、2時間38分という長尺の割にダイジェスト的な印象が強い。4時間を超すというアップルでの配信版を待てということかな。マリー・アントワネットなどギロチンにかけられて終わり。ロベスピエールやタレーランの出番もごく短い。冒頭、ナポレオンが勇ましく馬を駆って走り出したと思ったら大砲の弾が馬の首に命中して転倒、わずかな運の差で生死が決まったのを端的に見せる。ジャック=ルイ・ダヴィッドによる有名なナポレオンの戴冠式の絵画を再現したシーンが出てくるが、裏ではこういう手順で行われていたのですといったタネ明かし的な興味がある。それにしても86歳にしてこうもスケールの大きな戦闘シーンを、ほぼ実写(に見える)でこなすリド...「ナポレオン」

  • 「花腐し」

    シナリオライター志願だった元若者(柄本佑)と一応監督をしている元若者(綾野剛)との対話がメインで、現在のシーンがモノクロ、過去のシーンがカラーという具合にちょっと逆のような描き分けをしている。バターを使ったアナルセックスを描くのに「ラストタンゴ・イン・パリ」のタイトルをセリフで挙げるわけだが、前に荒井晴彦脚本作品としては「ベッド・イン」でもやっていたし、何より実際の「ラスト」の撮影現場でベルトリッチとマーロン・ブランドがマリア・シュナイダーの同意を得ずに性描写にあたったのが最近になってわかって存命中だったベルトリッチが非難にさらされたのはまだ記憶に新しい。細かい話になるが、そういう状況でわざわざ描きますかね。わざわざ入れるまでもないと思うが。ゴールデン街的なセンスは正直、辛気臭い。-YouTube「花腐し...「花腐し」

  • 「正欲」

    正欲と書いて性欲にひっかけているわけね。新垣結衣はアセクシュル(他人に性的な欲望、関心を抱かない人)役がある程度定着してきた感はある。「逃げるは恥だが役に立つ」も近い。相手の磯村勇斗とベッドで手足を絡ませながら肌は接触しないあたり違う意味で刺激的。水に広い意味の官能的な感触を付与して描くのにある程度は成功しているが、タルコフスキーを思い出すまでもなく、不満は残る。磯村健斗がペドフェリアと見なされるのは、モノや人が直接映る映画では作り手の狙い以上が射程に入ってしまう分難しいと思う。誤解と言い張れる余地があまりない。検事役の稲垣吾郎が石頭のようで裏にまわると脆いところをよく表現していた。-YouTube「正欲」

  • 「駒田蒸留所へようこそ」

    何度か転職しているウェブマガジンの記者が初め下調べもしないでウイスキーメーカーを訪れて大恥をかいたのをきっかけになんとか成長していくのと、ウイスキーメーカーの女社長が苦心惨憺しながら会社を立て直していくのが並行して描かれる。ウイスキーの原酒のブレンドにすごい手間暇がかかることをずらっと並んだサンプルの数で見せる。社長が元美大生でBL趣味のスケッチからウイスキーのテイストを思い出すあたりが強引ながらなんとなく納得する。テイスティングルームのソファがかなりぼろぼろで、会社の景気がぱっとしないのを見せる。美術では空の雲のデフォルメの仕方が印象に残る他、長野の実景をおそらく忠実に再現している。家族の再生というのをテーマに押し立てて、初め社長に絡む同年輩の男を元カレかと思わせて(社長は見ての通り↑若くて美人ですから...「駒田蒸留所へようこそ」

  • 「ロスト・フライト」

    ジェラルド・バトラーが現実離れしたタフガイではなく、機長としてのスキルはきっちり身につけているけれど自分では銃をとらない役で、ドンパチはたまたま一緒になった元外人部隊マイク・コルターと少数精鋭の特殊部隊に任せてある。このコルターが敵か味方か、なかなかわからないので相当にハラハラさせる。敵役は凶悪犯揃いだがテロリスト扱いはしていないのは「ダイ・ハード」ばり。大口径狙撃銃が登場して通常の車の装甲を貫通させるのが見もの。ジェラルド・バトラーが最初の方で「誇り高きスコットランド人だ」と自己紹介するのは事実。-YouTube「ロスト・フライト」-公式サイト「ロスト・フライト」-映画.comPlane-IMDb「ロスト・フライト」

  • 「首」

    前にビートたけしが話していた戦国時代の設定のごくラフなプランで、うんとカネかけて人馬の隊列を撮っておいて乗っている男の顔がアップになると志村けんのバカ殿、というのがあった。志村の起用はかなわなくなったが、発想とするとそれに近い。もともと北野武の監督作は女を仲間に入れないホモソーシャルな体質が強いのだが、あからさまにホモセクシュアル(衆道というべきか)に傾いて混同した感じになっている。衣裳は黒澤明の娘の黒澤和子なわけだが(心配)、全体に凄く傾いた(かぶいた)デザインを採用している。信長だけではなく武将たち全般がそう。加瀬亮の信長が怪演で、尾張弁を採用しているのは津本陽「下天は夢か」以来だろうが、森蘭丸から弥助からそれぞれ意外な展開を見せる。一瞬あとには裏切って殺したり殺されたりといった展開がグロいのとバカバ...「首」

  • 「デシベル」

    爆弾が爆発しても至近距離にいる人が死なないどころか突き飛ばされた程度のダメージで済んでしまうのには目が点になった。それも何度もですよ。何ですか、これ。潜水艦の艦長が陸に上がったところを狙われ、そうなったのには深海での魚雷攻撃にまつわる謎が伏せてあるというお話の仕掛けなのだが、どうも持って回った印象が強い。爆弾が爆発するかしないかでハラハラさせるシンプルな構造でなんでいけないのだろう。いい加減なところを挙げていったらきりがないが、プールの客が爆弾が解除されたと思ったらすぐ集まってくるノー天気さで、まだ爆弾残ってるか知れないではないか。韓国映画でもこんないい加減な脚本があるのだな、と逆に勉強になりました。-YouTube「デシベル」-公式サイト「デシベル」-映画.comDecibel-IMDb「デシベル」

  • 2023年11月に読んだ本

    11月の読書メーター読んだ本の数:20読んだページ数:4237ナイス数:0マスターズ・オブ・ライト[完全版]読了日:11月01日著者:ネストール・アルメンドロス,ジョン・アロンゾ,ジョン・ベイリー,ビル・バトラー,マイケル・チャップマン,ウィリアム・フレイカー,コンラッド・ホール,ラズロ・コヴァックス,オーウェン・ロイズマン,ヴィットリオ・ストラーロ,マリオ・トッシ,ハスケル・ウェクスラー,ビリー・ウイリアムズ,ゴードン・ウイリス,ヴィルモス・スィグモンド街場の天皇論(文春文庫)読了日:11月02日著者:内田樹ダンス・ダンス・ダンス(上)(講談社文庫)読了日:11月02日著者:村上春樹ダンス・ダンス・ダンス(下)(講談社文庫)読了日:11月02日著者:村上春樹男性中心企業の終焉(文春新書1383)読了日:...2023年11月に読んだ本

  • 「法廷遊戯」

    法廷でゲロはいたり卒倒したりかなりノイズィな描写が混じるのが可笑しかった。杉咲花がずうっと黙っているかと思うといきなりまくし立てるあたりのメリハリのつけ方。ただし肝腎のクライマックスの隠れていて見えないところで何をやっていたのかという謎解きがどうもややこしくて要領を得ない。-YouTube「法廷遊戯」-公式サイト「法廷遊戯」-映画.com「法廷遊戯」

  • 「リアリティ」

    FBI側の公式の記録をセリフとして採用しているというのがひとつのポイントになっているのだが、特に初めのうち通常のセリフ運びからかなり外れている。どういうことなのかと思ったらロシアがトランプへの投票を助けるためにヒラリーの罪状を捏造したデータをヒロインが持ち出したというくだりが抜けているかららしい。リアリティというのはヒロインの実名で、出来すぎみたいだが実名にこだわった分描写が偏ったとも思える。ロシアがアメリカの大統領選挙に介入したのだからFBIとしては忸怩たる思いだったろうし、その分ヒロインにやや甘く見える。後ろ手錠をかける場面も流して撮っているみたい。-YouTube「リアリティ」-公式サイト「リアリティ」-映画.comReality-IMDb「リアリティ」

  • 「マーベルズ」

    なんだか焦点が定まってない話だなあ。場所がやたらとあちこちに飛ぶし、主役の三人が位置を瞬時に交代させたりするのもチカチカする。ネコがタコの触手のような内臓を吐き出すシーンは半ば笑わせようとしている分キモチ悪い。ブリー・ローソンのスタイルの良さとエラの張り方が目立つ。ヴィランが忘れた頃に登場するのも間が抜けている。監督の言によると上映時間を短くまとめるのを目標にしたらしいが、かえってそれでダレたみたい。-YouTube「マーベルズ」-公式サイト「マーベルズ」-映画.comTheMarvels-IMDb「マーベルズ」

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