読書を生活のリズムに据えているが、齢を重ねるにつれて冒険はしなくなり、お馴染みの作家の著書ばかりを読むようになる。とはいえ、小説や映画で紹介されていたり、何となく本屋に行ったら視界に飛び込んできたりで、手にすることもたまにはある。この1年で挙げれば「巨匠とマルガリータ」、「わたしの名は赤」、「あなたの人生の物語」、「すべての見えない光」、「アーサー王宮廷のヤンキー」あたりか。俺は今、67歳。父が69歳で亡くなったことを考えても、死に神は間違いなく身近をうろついている。上記に加え、死ぬまでに出合えてよかったと思える小説を読了した。「イギリス人の患者」(マイケル・オンダーチェ著、土屋政雄訳/創元文芸文庫)である。1992年に発表された同作は英語圏で最も権威のあるブッカー賞を受賞し、2018年には半世紀に及ぶ同...「イギリス人の患者」~喪失感と絶望に彩られたラブストーリー