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ファンタジー小説『カラビヤートシリーズ』 https://karabiyaat.takikawar.com

仮想アラビア世界「カラビヤート」を舞台としたファンタジー小説。

仮想アラビア世界「カラビヤート」を舞台としたファンタジー小説。 ※ この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

カラビヤートシリーズ
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2018/12/10

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  • 『アルハイラト・ジャンビア』最終章

    歩くだけ歩いてふと我に返ったバラザフの眼前に見覚えのある瑞々しき黄色が広がっていた。 「ここは……リヤドか」 菜の花の黄色はあの日と同じ美しさで、バラザフを迎えた。 「ああ……。やはりリヤドの菜の花は美しい」 遠くから訪れた風が、花の淡い香りとともにバラザフの頬をやさしく撫でる。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第11章_3

    レイス軍の先頭が川を渡り終え、今度こそバラザフの部隊を包囲したと確信したとき、 「待て、油のにおいが――」 流れのせき止められた川は、再び炎の壁と化し、押し出してきたレイス軍の歩兵の大半が一瞬で焼死した。 フートは今回で引退を決めていて、アサシン軍団を指揮に現場に立った。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第11章_2

    暑さが酷くなってきた。 ファリドは、諸将にカイロ征伐を通達した。そして、自身も領土に帰って、戦いの準備を配下に忙しく指示した。レイス軍にシルバ軍の情報は入らないのに、逆の情報はすぐに流れる。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第11章_1

    「ベイ侯が従わないのはカマール様さらには聖皇に対する反逆の意があるからであろう」 と詰問する内容の手紙がファリドからザランに送られたがザランも負けていない。 「馬鹿を言うな。このザランにカマール様への謀反の心があるはずがない。他人よりも己の心を明日の朝、井戸にでも川にでも行って洗ってくるがいい」

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第10章_3

    今のファリドは執政の座を得るためには何でもするという感じだ。 「やはり志(アマル)を持っていない人間は力を持ったときに出てくる色合いが汚すぎる。俺もアルハイラト・ジャンビアと呼ばれ、策略で鳴らしたきた口だが、あそこまで汚いやり方はできない」 すでにこの時ファリドの魔手はさらに南へも伸び始めていた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第10章_2

    「飄々として捉えどころがないが、何故か憎めない奴だ」 アミルの気のおけない雰囲気に、バラザフはいつの間にか、存念を全て話してしまったという感じだが、後にはすっきりとした気持ちが心中に残って、ほんの少し残っていた茶シャイ を飲み干した。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第10章_1

    「ムザフは、賢くてその上、実直だな。ハーシム・エルエトレビーとは、着物の表地と裏地のようだ」 ハーシムは知謀に切れ味はあるものの人当たりはよくない。一方ムザフは穏和で人を生かす知謀を持つ。アミルはこの二者の才知の在り方どちらも好んで傍に置いた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第9章_5

    レイス軍の中にも昔日を知る者は多い。そうでなくとも赤い水牛の強さは伝説にまでなって知れ渡っている。たとえ模倣であっても、将兵の旧い戦いの記憶が赤いムザフの部隊を赤い水牛に見せるのだった。 隊長格に目をやれば、赤に身を包んだ美麗な若者が熱くも爽快な気炎を放っている。敵味方問わず戦場は盛り上がった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第9章_4

    仮想アラビア世界「カラビヤート」を舞台としたファンタジー小説。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第9章_3

    リヤド周辺の諸族もバラザフをアジャール家遺臣の盟主に仰いだ。それらに抱えられていたアサシンの生き残りも雇用した。 かねてよりバラザフは、アサシン軍団の新制を目論んでいたが、新しく軍団を形作る構成要素として彼等は重要な手札となった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第9章_2

    三ヶ月後――。 ハイレディンが死んだ。 この報はカラビヤード全土を震撼させた。驚愕を表に現した数多の中にバラザフの顔もあった。 「ハイレディンの奴、俺にあれだけ大きな顔をしておいてあっさり死んでしまったのか」 ハイレディンは休養中に、家来のバシア・シドラという武官に急襲されて炎に包まれて世を去った。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第9章_1

    バラザフの人格が一変した。無論、主家滅亡が原因である。シルバ家の家来の者達にもそれがわかった。 ――シルバ家を拡大するのだ。 元々、バラザフの中にそうした積水のように溜まって力を秘蔵したものがあった。それが頼みとするのは自分の知謀のみ、という形で表出してきたのであった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第8章_4

    「シルバ家独立は父や兄達の悲願であった。それを俺が果たした、お前達はそう考えろと言うのだな」 メスト達の想いをバラザフは受け取った。 主家の滅亡によって実現した独立は何とも寒々しいものがある。 アジャール家が滅亡して、シルバ家は対外的な垣根を失い、直接風雨に晒される。独立するとはそういう事である。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第8章_3

    ファヌアルクトは猪突な性格が良い方向に伸びて、実直な好青年に成長していた。バラザフは恩師であるエドゥアルド・アジャールが大好きだった。そのエドゥアルドの遺児であるファヌアルクトに、バラザフは少し年の離れた弟のような情愛が湧いて、彼の行く末にも期待していた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第8章_2

    カーラム暦1001年秋、ザラン・ベイにカトゥマルの妹が嫁いだ。バラザフもアジャール側の随員としてこの婚礼の儀に加わっていた。ここでザランと彼の参謀のナギーブ・ハルブと初めて顔を合わせた。 この時、バラザフ・シルバ、二十三歳、ザラン・ベイ、二十四歳。ナギーブ・ハルブはまだ十九歳である。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第8章_1

    ――カーラム暦1000年サラディン・ベイ死亡。死因は心臓麻痺。 ベイ家の当主サラディン・ベイが死んだ。サラディンの死は心臓麻痺によるものと世間には広まった。サラディンの死が、カイロの城邑をミスル地方の擾乱に直結するであろう事を、この時に誰もが予想した。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第7章_6

    ハリティ隊、オワイラン隊の最後の奮戦をバラザフの配下のフートが見ていた。彼等の最期を見届けるためと、この戦い方を主人のために覚えるためである。 バラザフは配下の機転に感謝した。そして、このハリティ、オワイランの最後の教練は、バラザフの戦術の型となってゆく。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第7章_5

    「兵士諸君、最後の教練だ。寡兵での戦い方というものを教える」 追撃部隊の先頭の兵力を少し削り少し切り結んですぐに後ろに下がる。ハリティ隊が下がるとすぐにオワイラン隊が出て敵の戦力を齧り取ってゆく。だがハリティ隊、オワイラン隊も一人また一人と敵の刃に倒れ、最後には全てが大軍の波に飲み込まれていった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第7章_4

    三重に用意した陥穽、その最前列の穴と土塁の後ろに火砲(ザッラーカ)兵を一万五千人並ばせている。フサイン軍の一万、そしてレイス軍の五千である。 ハイレディンはこの戦いに自分の命運を賭けて挑んでいる。ムアッリムの裏切りという虚報で、アジャール軍を遠くから糸を引くように操っている。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第7章_3

    バスラはシャットゥルアラブ川の右岸にある港湾都市である。穀物や棗椰子などの輸出港でもあり、都市内に整備された運河が、バスラの産業製品である棗椰子の品質向上にも役立っている。 「この城邑は北に川が流れているから向こう側から攻撃するには無理がある。南の運河沿いに布陣してじっくり攻めるしかないな」

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第7章_2

    アジャリアの死。父エルザフの死。敬愛した二人の、続いた二つの大きな死は、バラザフの心に大きな衝撃を与えた。 「アジャリア様は限りある命を生き切ると言っていた。その中で何を成すかが大事であるとも。死を意識して尊き命を巧く運んでいかなくてはな」 あの時のアジャリアの言葉の意味がわかり始めていた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第7章_1

    昔のバラザフとカトゥマルであるならば、歯に衣着せる事なく考えを言い合えた。せめて自分が一歳でも年長であるならば、衷心を以って諫言する事も出来たろうにとバラザフは思う。 「アジャリア様が作ろうとしてアジャール家は、こんなものではなかったはずだ」 早くも巨星が堕ちた弱りがアジャール家に見え始めていた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第6章_6

    「わかっていたとも。わしは初めからわかっていた。だが、知らないふりをしてきた。お前達のわしへの思いやりを受け取らなければ無粋だからなぁ……」 アジャリアの顔には満面の笑みが浮かんでいる。 「ああ……。風が、すずしい……」 一点の濁り無き幸福感がアジャリアを包んでいた――。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第6章_5

    バラザフはアジャリアに微笑んでいた。静かに、穏やかな動作でアジャリアのもとを辞するその笑顔からは涙が一筋だけ流れていた。 冬の日和は柔らかくアジャリアを包んでいた。遠ざかってから振り返るバラザフには、アジャリアの日和を楽しむ姿が、童子 のように無邪気に、そして、小さく見えた――。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第6章_4

    カトゥマルがアジャリアの陣屋に入ると侍医までもが外に出された。 ――いよいよ重大な話をするに至ったのだ。 とバラザフは察した。 アジャリアは病魔とじりじりした闘いを続けていた。 今は冬である。冷え込みは厳しく砂漠でも雪が降る事がある季節なのだ。そして寒さは日増しにアジャリアの体力を奪っていった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第6章_3

    ウルク――。サマーワの東のワルカ遺跡は、かつてそう呼ばれたユーフラテス川沿いに成立した都市国家であった。神話の時代ともいえる旧年より幾度の興亡を繰り返したウルクは、最後の衰退と共に都市が放棄され、今は城郭が残るのみである。 ファリドはアジャールの軍隊が見当たらず、サマーワに帰還したものだと判断した。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第6章_2

    「いつも俺は囲まれてばかりだから、アジャリアがサマーワに入城した瞬間に今度はこちらが包囲してやろうか」 ファリドはアジャリアが優勢をたのみに隙を見せているのだと思い込んだ。だが、背中を見せて西へ進むヒュドラは腹など満たしてはいなかった。食欲旺盛なヒュドラは巣穴になど戻らずどこかへ消えた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第6章_1

    ナーシリーヤは西から南東にかけてユーフラテス川が流れる。ファリドが守りの態勢に居るのであれば川は護りの味方となるであろう。 だが、敵はあのハイレディンですら恐れたアジャール軍三十万なのである。果たして川という味方もどれほど通用するものか――。苦い思いを身に染みさせてきた弱者の不安がそこにあった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第5章_10

    バラザフとイクティフーズ、それぞれの得物がすれ違いざまにぶつかり火花を散らす。 両者は馬を反転させ、刃を交える事、五合、六合――。だが、息を弾ませながらも両者ともまだ馬上に在った。 「アジャール軍の謀将(アルハイラト) バラザフ・シルバ。その諸刃短剣(ジャンビア) 共々忘れぬぞ!」

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第5章_9

    アジャリア自身は、 ――そろそろ冥府の籍にわしの名が記させる頃だ。 と死期が近い事を悟り始めていた。 「今少し保たせてもらえまいか……」 アジャリアはとにかくエルサレムに行きたかった。エルサレムに上って自身が大宰相(サドラザム)の位に就いて政務を執らねばならぬ。 それまでは――

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第5章_8

    ファリドは――、ポアチャは持っていなかった。だが、怒りに突き動かされ、一人の大乱闘を踏んでいた。周りの備品がどんどん破壊されてゆく。 「あの……ポアチャ、お持ちしましょうか?」 「要らぬわ! アジャリアめ、人をこけにしやがって!」 ファリドに対してのみ通用する侮辱だけに、その効き目は大きかった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第5章_7

    言葉無く立ち尽くすファリドに、バルザーンはただ痛々しい笑みを返すのみである。 ややしばらくして我に返ったファリドの頭に浮かんだのは、 ――篭城! である。そしてすぐにバグダードのハイレディン・フサインに援使を送った。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第5章_6

    行軍途中、ブライダーにさしかかったあたりで、菜の花が咲いている一帯があった。 「砂の黄、黄金の黄と黄にも色々あるが、花の黄はやはり命が感じられてよいな」 砂の大地では命は特に尊い。生命の美しさというものが感じられた時、人はそこから家族へと想いが飛んでゆくようである。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第5章_5

    クウェートに侵入しようとするアジャリアのメフメト軍、サバーハ軍との戦いには終わりが見えない。 「やはり食料を必要以上に持っていくとなると、いかに物資を迅速に運べるかが問題となると思うのだが――」 「インシャラー」 謀将アルハイラトの脳は輸送について考え、そして考え至ったのが、 「道――」 である。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第5章_4

    ――バラザフ・シルバ殿、見事突入を果たしブービヤーンを占拠した模様! アジャリアの本陣にバラザフの戦功を伝える伝令の声が響く。この攻城戦でもバラザフ・シルバの手柄であると軍全体に知らしめるものだった。兜は額の中心に孔雀石の象嵌施されている。エドゥアルドの姿に発展したバラザフは胸を熱くした。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第5章_3

    カフジの城邑(アルムドゥヌ) を押さえたアジャリアは、バラザフにクウェートへの使者を命じた。クウェートは今、主君であるバシャール・サバーハの代わりに、太守を置いてハサン・アルオタイビという者が治めている。クウェートへ向うバラザフの顔からは血の気がひいていた。最悪、捕縛されて殺されるかもしれない。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第5章_2

    アジャリアはカフジ包囲戦の方針を発表した。そして、ここカフジの城邑がメフメト軍のクウェートにおける重要拠点であるとして、此度は落城を要すると命じた。 冬季、気温は夏季と比べてぐっと下がるが、それでも水が凍りつく程の寒さは有り得ず、クウェートは海からの暖かい風を受ける。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第5章_1

    メフメト軍との戦いから帰還してより、バラザフはまたアジャリアの傍で勤務するようになった。アジャール軍はカフジの包囲を調え、夜になってバラザフは現地の案内人を連れて周囲の視察に出かけた。案内人に尋ねると、円錐は砂蟹(カボレヤ) が巣穴を作るときに掘った砂を積んだものなのだという。よく見ると円錐状のそれは確かに積まれた砂で、恐る恐る足で蹴ると簡単に崩れた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第4章_10

    バーレーン要塞からの撤退戦でメフメト軍を退けたアジャール軍に、メフメトのアサシンの首領モハメド・シーフジンが襲いかかった。戦いには勝利したアジャール軍だったが、アサシンにやられた傷は意外にも大きいものだった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第4章_9

    アジャリア本隊を含めた大きく分けて三つの隊が稼動し始めた。粒の大きく有能なアサシンがフートの配下には多い。投げ網捕獲のオクトブートもその一人である。他にはアッシャブート、クッド、アジャリース、マハールという名の知れた者がいた。各々が異能ともいえる特技を持ち、武器の扱い、道具の扱い、移動の足も速く情報を握る頭の回転も速かったので、アサシンの長であるフートも大層頼りにしており、彼らの下にさらに配下のアサシンを与えていた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第4章_8

    ソコルル・メフメトはクウェートのサバーハ家に所属していた軍人である。正確には彼の父がサバーハ家の将だったのだが、ナムルサシャジャリ・アジャールの時代のハラドに攻め入り、逆に討たれた。その機にソコルルはサバーハ家から離れ、メフメト軍に身を寄せた。アジャリア本隊から西のメフメト軍が待ち伏せている地点まで行軍時間は半日、バーレーンからこの地点までは一日と少しである。挟撃の軍容を完成させ、そこから数刻で勝敗を決めねばならなかった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第4章_7

    バーレーン要塞の主力がまだ出撃していないのが分かったアジャリアの安心感は大きい。一方、西に回りこんだ敵部隊の様子も大いに気になる所である。その部隊の数は十三万。ハサーのムスタファ・メフメト、ダンマームのバヤズィト・メフメト、さらにムバッラズの街の太守ソコルル・メフメトなどメフメト軍の諸将が集結している、と偵察は報告した。 アジャリアの横で一緒に報告を聞いていたバラザフは、自分の背筋が冷たくなるのをはっきり自覚した。あれだけメフメト軍を叩いたのに、まだこれだけの戦力が残っている。主力が来ないまでも十三万を相手にするだけでも下手を打つとこちらがやられる。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第4章_6

    突如アジャリアから全軍命令が発せられた。 アジャリアについて軍略を学び、模倣して、バラザフの中でアジャリアの思考の型が出来上がりつつあった。アジャリアであれば、サラディンと同じ轍を踏むまいとするはずではないか。アジャール兵達は追いすがる敵に対して後退攻撃し、あるいは後ろ手に武器を振って、よく逃げ切った。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第4章_5

    ついにバーレーン要塞をアジャール軍が包囲し始めた。二十万の兵が海を渡り、あるいは手前の沿岸で包囲の陣を整えている。アジャリアはまたクウェート攻略に出たいと思っている。――アジャール軍恐るべし。そういう感情を今の内に植えつけておけば、次のクウェート攻略でメフメト軍が横槍を入れてくる事はまずないだろう、というのがアジャリアの目論見なのである。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第4章_4

    オクトブートと呼ばれるアサシンが疾走する者を一人発見した。オクトブートにとっては捕捉は即ち捕獲を意味する。その目で捕捉して網から逃れた者はいまだ居ない。オクトブートの網は完全に獲物を捕らえた。が、網を引き締めて手繰り寄せようと引いた彼に手には、網の中の獲物の重さが全く感じられなかった。シーフジンにしてもシルバアサシンにしても、バラザフが彼らを同門と表現したように、世人の働きとは隔絶された異能の世界に生きる人外なのである。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第4章_3

    カウシーン・メフメトはメフメト軍の三代目である。片やシーフジンは今でもモハメド・シーフジンなのである。シーフジンは裏の仕事だけでなく、戦争に表立って参加する事もあった。彼らの最大の強みは戦争で死なない事である。足が速い上に、追い詰められると煙のように消える。敵兵が彼らを仕留める事は不可能に近い。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第4章_2

    シーフジン――。このアサシン集団はそう呼ばれている。魔人の剣の意味の通り人外の業が彼らの仕事である。バヤズィトの曽祖父がこの地に勢力を興して以来、シーフジンはその影でメフメト家を支えてきた。このメフメト家の始祖は、シーフジンを大いに活用し、謀略、謀殺の任を担わせて、メフメト軍を肥大させてきた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第4章_1

    たった一晩でダンマームから九頭海蛇アダル) が消えた。多勢のアジャール軍はバヤズィトの夢想の中の存在になってしまったかのようである。自分達が追い返したから居なくなったのではない事だけは確かである。不可解な撤退であった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_19

    ハサーの包囲はナビール・ムフティという家来の部隊に任せて、自身はダンマームへ向けて出発した。アジャリアはダンマームの攻撃もカトゥマルに任せるつもりでいる。太守バヤズィトも戦いの指揮に関しては、腕に覚えがある。だが、アジャリア・アジャールが二十万の大軍で接近していると知らされて、その自信は翳り始めていた。何をされるかわかったものではない。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_18

    アジャリアが想定したとおり、宵闇に城内から偵察兵が出てきた。これがバラザフが手配しておいたアサシンの罠に掛かった。アサシンの長はフート、つまり鯱と呼ばれている。元々、父エルザフに仕えていたが、現在シルバのアサシン団の半数がこのフートと共にバラザフの配下として働いている。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_17

    数年前のサラディンによるバーレーン包囲を想起するムスタファ。だが、ムスタファが眼下に見ているアジャール軍は、その寄せ集めとは全く別の存在で、城壁の上から遠くを見ても、戦意が高い精鋭である事がわかる。――この戦い、危うい。そんな空気が城内に伝播していった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_16

    アジャリアはアルカルジからサルワに転進してくる前に、アキザフ・シルバとその配下に対して、サラディンの奇襲に備えるように指示だけしておいて、子細は任せる事とした。ハサー攻略に際してアジャリアの影武者がいくつも発生してメフメト軍を撹乱しようとしている。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_15

    カトゥマルはカタール半島に入った。ここまで小さな街を二、三手中に収め、今カタール半島付根のサルワの街を押さえている。半島海岸の反対側にドーハが在る。アジャリア本隊も、多勢でその土を踏み固めるようにカトゥマルの跡をなぞった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_14

    カウシーンはダンマームとハサーの城邑アルムドゥヌ)にそれぞれ二男と三男を配している。これらにアジャール軍の侵攻に急ぎ備えるようにと命令した。いずれもバーレーン要塞への緩衝となる重要拠点である。アジャール軍の方では、バラザフが先鋒のカトゥマルの部隊と合流していた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_13

    新たにメフメト軍の統領となったシアサカウシンの頭の中は怒りと混乱で入り乱れた。アジャール軍に裏の裏をかかれたのである。狼狽する我が子と一族を守ろうと、ロック鳥と称されたカウシーン・メフメトは最後の羽ばたきのための力を込めていた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_12

    アジャール軍の進攻を知ったメフメト軍は本当の狙いはクウェートにあると読んだ。それならば裏をかいてやろうとクウェートの南のジュバイルに戦力を傾け始めていた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_11

    緒戦を勝利で飾ったアジャリアは、余力の将兵全てにバーレーン要塞攻撃を命じた。アジャール軍とメフメト軍の戦いは本格的な局面に入った。カーラム暦983年のベイ軍との戦争は熾烈を極めた。それと同じ規模の激戦がメフメト軍との間に起きようとしている。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_10

    戦いの趨勢の決まったジュバイルで、太守が降伏を受け入れるまで時を要せず、アジャール軍はジュバイルの城邑アルムドゥヌ) を押さえ、この領域を手中に収めた。先の投槍作戦に疑問を持った弟のレブザフに教練しながら残務処理に勤しむバラザフであった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_9

    バラザフの投槍作戦によってそれを受けた城壁の盾兵達は身動きが取れなくなっている。後は矢の雨を降らせて敵が参ったところに降服勧告をする手はずである。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_8

    影武者を用いたアジャリア効果は大いに効果があった。敵は戦場にアジャリア・アジャールが出てきているというだけで、その謀略に怯えた。敵の戦意を十分に削いだのを確認しジュバイルを攻囲したバラザフ達は投槍での作戦に移行した。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_7

    ファリド・レイスにアジャール軍のクウェート侵攻の報が入った。傷口を広げたくないファリドを尻目にアジャール軍はクウェートへ進む。ここは前回の撤退で荷隊(カールヴァーン) が奇襲を受けた場所でもあった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_6

    アジャリア自身はハラドから動かない。だが彼は諜報組織の活動によって、カラビヤート内外の情報を網羅出来ていた。アジャリア幻影(タサルール) 計画は、こうした諜報活動とは別の新機軸の計画である。アジャール家を九頭海蛇(アダル) にする。アジャール家の版図が胴であれば、アジャリアは頭である。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_5

    戦場の自身の幻影を幾人にも出現させたいアジャリアは、それらを頭にアジャール軍を九頭海蛇(アダル)に見立てている。バーレーン要塞攻略に備えた間者が二千人、各地に飛び立った。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_4

    ひとまずアジャリアの影武者作戦は成功した。次はそれを増やしたいというアジャリアの望みをかなえるべく、バラザフはシルバ家全体で動くことになる。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_3

    バラザフに見破られたアジャリアはついに自分から正体を現す。そこでアジャリアから腹案を打ち明けられ、バラザフに配下のアサシンと共に次の密命が下った。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_2

    腹に抱える物がありながらクェート進攻を下達するアジャリア。そのアジャリアからバラザフは急な呼び出しを受ける。暗がりの中対峙するアジャリアにバラザフは違和感をおぼえた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第3章_1

    新しい年になってもアジャリアの戦略は全く停滞しない。だが周囲にはアジャール軍包囲網が出来ている。家臣の目に映るアジャリアはそれすらも自身の深謀に入れているようであった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第2章_42

    クウェートからの撤退に際し荷駄の護衛を命じられたバラザフは、自軍のアサシン等と共に無事に任務を果たす。戦後、タロットでの占いで風采の上がらないファリド・レイスに皇帝の札が示され事が信じられなかった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第2章_41

    ファリド・レイスを冷遇しすぎたためにアジャール軍は対外勢力から包囲される。撤退を決めるアジャリアはバラザフ・シルバに荷駄の護衛を命じた。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第2章_40

    盟約に従ってサフワーンを攻撃しているレイス軍を裏切る形で、アジャール軍はハンマール湖を舟で渡りナーシリーヤを攻撃した。結局、アジャリアの口車に乗ったファリド・レイスのクェート出兵は益無き事に終わった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第2章_39

    アジャリアの下に帰ってバラザフはファリドとの調子の調わない会見を報告した。率直にファリドの人物評を述べた後、彼に対する嫌悪感がバラザフの口から出る。大笑したアジャリアはバラザフを下がらせた後また食欲が出るのであった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第2章_38

    アジャリアの使者としてバスラを包囲している最中のファリド・レイスとの会談に臨むバラザフ。バラザフと面会したファリドは、ポアチャをかじりながらバラザフをなめているという風である。この男には若者らしい光が無かった。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第2章_37

    未だバスラの包囲を続けているファリドを、アジャリアは未だに格下としか考えていない。すでにアジャリアの頭の中でレイス軍に対する関係は従属同盟になっているため、その折衝に行かされるバラザフは荷が重い。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第2章_36

    アジャール軍に攻められて度を失ったバシャール・サバーハはクウェートの街を棄てた。自分が乗る馬さえ失った彼はサフワーンの街まで自分の足で逃げなくてはならない。無血でクウェートを奪い取ったアジャリアは領土を独り占めしようとしている。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第2章_35

    ハラドから一部隊がバラザフの部隊に合流しようとしている。レイス軍もアジャリアの同盟相手としてクウェートの北のバスラを包囲した。ファリドの中に武人として自信が芽生え始めている。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第2章_34

    仮想アラビア世界「カラビヤート」を舞台としたファンタジー小説。

  • 『アルハイラト・ジャンビア』第2章_33

    仮想アラビア世界「カラビヤート」を舞台としたファンタジー小説。

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