chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
arrow_drop_down
  • 汽水域

    やっと人間に近づいたと思う。これまでの僕は化け物だった。 大事にできなかった人たち、守るべきだった自分の時間と心、そういうものが全くちらつかないといえば嘘になるが、今はご飯とあたたかい布団があれば幸せを知覚できる。人と比べずにひとりで満たされる。 老後の不安は残念ながら拭いきれないし、これからも何者にもなれなかった者の人生が続いていくわけだが、それでよいと思えるようになった。むしろ昔は、愛されなかった自分を認めることができずに、解決不可能な問題に拘泥していたかったのだと思う。 残念ながらこれからも、あんなに欲しかった無償の愛を得ることはないし、目標を立てて情熱的に生きることもないだろう。そんな…

  • 海のおまわりさん

    広い海の中で、さかなたちは平和に暮らしていました。 この海を守るのは大きなサメのおまわりさんです。法を守るさかなは守られ、無闇に他のさかなを傷つける者は裁かれておまわりさんの餌にされるのでした。 ところがある日、サメのおまわりさんが倒れてしまいました。 さかなたちは慌てて岩陰に集まり、話し合いました。 「どうしよう、もっと大きな魚がきたら誰が守ってくれるの。 それに、罪魚たちが解き放たれてしまう。こわくてたまらないわ。」 マンボウが言いました。 「ああもう耐えられない!僕はえさと引き換えにアジの群れのもとへ人間を導きましたでも他は何もしていませんお腹が空いてただけなんだどうかみんな一切を忘れて…

  • LORDS of CHAOS Fucking Pure

    LORDS of CHAOS 2回目鑑賞しました。 みんなPureということは間違いありません。 演出 史実 Varg 文化の包摂 教育 日記 「本物」とは何か、「邪悪」とは何かについてここ数日ずっと考え続けています。 ※以下ネタバレあります。

  • LORDS of CHAOS

    監督がBathoryのDr.、日本語字幕監修は本人たちと交流のあったSighの川嶋氏、音楽がSigur Rósということでかなり楽しみにしてました。Euronymous役、ホームアローンの主役の実弟Rory Culkinなんですが目鼻立ちがはっきりした端正な顔にはコープスペイントがよく似合う。期待を裏切らず素晴らしい映画でした。カメラワークも音楽も衣装もよかった。 カテゴライズするのであれば青春ドキュメンタリー、アイデンティティ形成の話かと思います。 個人的には故人のドキュメンタリー"風"映画や伝記は実像を聖化しているにも関わらず、史実と錯覚させる要素があるので少し危険だと思っています。本当に…

  • RIVERDALEの究極違和感

    ネタバレしません。 Netflixオリジナルドラマです。 恋愛、セックス、学校生活、家族との関係。悩み多き青春の日々を送るアーチーとその友人たちを待ち受けるのは、一見平和な町に潜む、暗くて深い闇の世界。 情念やドロドロを描くというより、ある青年の死をきっかけにパンドラの箱が開き、小さな街を平和に保っていた隠し事の結界が切れていくというストーリーです。 まだシーズン1を見終わっていないのですが、はじめからなんとなく違和感があったんですよ。5話まで見て分かりました。高校生なのに落ち着き方が大人のそれだからです。 それも登場人物の全員が。 挑戦や挫折、儘ならない痛みを経験して消化した者の対応ばかり。…

  • Excuse Me

    いのち煌めく春になると消滅したくなるのは、わたしが生き物でないことの証でしょうか。 手首のあたたかい鮮血をぼうっと見ている時間がすきです。ヒリつく皮膚は心みたいでだいきらいです。しかし、わたしを救うものなど他にないのです。仕方がないのでわたしはわたしを刹那的に殺すことで救ってやっています。 生命に似て非なるものというとウイルスがあります。 バクテリアはれっきとした生命で、環境が良ければ1匹から続々と増え、2日あれば地球を埋め尽くしてしまいます。地球が征服される前にバクテリアを破壊してきたのはバクテリオファージというウイルスです。 バクテリオファージというのは、バクテリアに感染するウイルスで、環…

  • 聖痕

    他者と分かり合える悦楽を知らない儘でいた方が幸福だと感じます。 高い基準を持っていても、満たすことができなければ欠乏感の所以にしかなりませんから。 19歳で終わっておくべき命をこうしてずるずると生き永らえてしまいましたが、延ばした生命の責任は俺がとるしかありません。 何度も緊急事態宣言が発令されます。 ごめんね弱くて。夕景を見てください今宵の月はあの日の月に似ているね、スーパーで手を繋いで陳腐な幸福を喜んだあの日に似ているね、誰も知らない何も知らない俺たちのあのやさしいやわらかい日常、君の瘡蓋を拾い集めては泣いています。 桜は散るからこそ愛されるじゃないですか、俺はなかなか死なないから愛されま…

  • Void

    ふざけるなよお前、お前というのは、お前のことを言っています。 君だけだよも永遠に好きだよも嘘、俺より背が高くて髪の長い手近な男に惹かれて勝手に消えてった、手を尽くして良かった、お前を信じて手を尽くして良かった、お前と最高になりたくて最高になれそうな手段をとった、それでも俺のことを選んでくれなかった、それなら仕方ないなあと思えるからです。俺だけが最高。互いの恋愛経験の有無など一つも関係ないそれは誠実さと覚悟の問題だからだよ。 俺はずっと怒ってるよお前が自分にただ甘くて俺にだけ厳しく、邪魔になった俺を突き放すためだけに俺を愛してなかったと言い放ったから。君は君を守るために本心に嘘をついていたから。…

  • Valid

    生き地獄は自分の手で終わらせたし、呪いは自力で解いた。凡庸な人生ではあったが、現実を見る力は、1つを選び取るために殺めた運命の数だけ強くなった。先人が遺#sた言葉にこういったものがある。 「 、 。」 確かにこの格言は誰の耳にも心地よく、正しく響く。しかし、私はそうは思わない。人生においてこれは真理ではなかったかr. 中学生の頃、日記に[(こんな人生はいらない」と記した。それでも、いつ4a絶対に死ぬのだから、もう一度同じ人生を繰り返したくなるよ)に色々な選択を重ね%&きたつもり'dあっ&. 孤独を抱きし#$て強,0生きてきた。誰が隣n2いようt8、私lta孤独をwj手放すeigrはなかat.t…

  • 優しい夢を見たくって

    朝のコーヒーは欠かさない。 注がれたお酒は口に含んだまま、見えないところに吐き出している。 愛される弊害に辟易としてLINEブロック、わたしの恋は死にました。ぷくぷく太って変なところに肉がついた、都市開発なければ何も起こらない街、しけた道路、夕闇、不審者、なにも起こらなくていい気持ち悪いままよくわかんないまま謎の肺炎で死ぬのかな。ハッピーエンドになれなかった愛ばかり、私の気持ちはどこに逃せばいいのかな。 僕が女性だったらこんな感じのブログばかり書くだろう。日々研鑽することもないのだから留めておきたいのは取り留めない気持ちだけだ。

  • 鉛筆をしゃぶる

    もうとっくのとうに気など狂っていたと思う。 真っ当に生きていた兄はヒーローに仕立て上げられ危険に晒され、僕は全世界に家から出るなと言われ大人しく言うことを聞いている。 好きだったアイドルを好きじゃなくなってしまった時、彼女の何を好きだったのかと考える。 人間に本質などというものがあるのだろうか。ある性質が「変化しなかったコア」であったとを知るのは死際である。 自分は何をどう勘違いして好きでいたのか、何の幻想を重ねてしまったのか。 それが、言語化もできないくらいプリミティブな部分だとすれば彼女自身の変化/俺の加齢による好みの変化だと言えるが。 もう良いことも悪いことも、なにも起きなくていいです。…

  • ぶっ叩かれそうなんだけど別に

    自分にはもう何もなく、今後何かを手にいれることも、ほぼほぼないと思う。 世間は疫病で大騒ぎしている中、2011年から浪人し続け、全てから目を背けているおれが何者かになれるわけがないのだ。 行先定まらぬ流浪の感性を、狂いながら改めながら保ち続けている。 1浪目、かろうじて世間と感性がカスッたため推しと逢えた。彼女は結婚して卒業した。もうアイドルではない、人妻だ。彼女をほんとうに幸せにできるのは旦那だけで、生涯を託すと誓えど、一生貴方だけと叫べど、文字通り何もかも捧げても俺は何にもならないなれない。 せいぜい彼女の住民税だ。 君達はこんな命に何を思う? 自粛するまでもないこの隠遁生活に、流行病に罹…

  • リスクテイキング・クソ・ジジイ<SOLID>

    押しなべて死にたい。 もう何回目の受験生なのかもわからないし僕にはこれしかないのだろうか?親のすねももう尽き果てて、年齢という概念を殺すしかなくなかった亡霊。 クラスの女を量産型とかいってバカにしながら性欲だけはしっかりあって、彼女たちの愛想がいいとそれはそれで嬉しいみたいな童貞たちと「僕は絶対にちがう」と思いながらも、僕はあいつらと変わりません。あいつらは女の幻想に、僕は受験にいつまでもすがっているだけ。時間はどうしてこんな風に過ぎてしまうのでしょう。 嫁が欲しい?お前が手に入れられるのはダッチワイフが関の山だよ。 僕も映えてなきゃ生きてる意味ないのかな。 兄の天パは時間とともに解決したのに…

  • 風に揺れる

    いままでは 先月恋人と別れてからというもの一晩を過ごしてみたがひどくつまらなかった。しけたポテトチップスより最悪だったし排水溝みたいな口臭がした。 もし好きな人ができて、だんだん排水溝みたいな口臭がするようになって、お腹が出てきて傲慢になって何もかも当たり前だなんて思う人になったらどうしよう。 そんな人が出てきてから心配をすればいいか。冷めてしまった自分がひどくても、一生愛せなくても仕方ない。 会社は相変わらずタンポポの分別しかやることがなく、自分も「ふつうのひと」「へんなひと」「その他」という分別をされているのではないかと思う。 隣に住んでいていた人が引っ越していってしまった。話したことも特…

  • 春がおわるのもさみしい

    会社に向かう電車は永遠みたいに感じる。 狭いオフィスに着いたらいつもと同じようにExcelをひらいて、数字を打ち込み適当ににこにこすると、どういうわけだか月末に給与が発生する。 そうやって暮らしてきたけれど、部署がかわった。 会社が新事業に取り組むらしく、わたしは「タンポポの分別」を行う部署に配置転換された。セイヨウタンポポとニホンタンポポを分別するのが仕事だけれど、一番難しいのは交雑種だ。 「その他」に分別しなければならない。 この部署にきて1日目は、上司も何が何だか分からないようで質問をしてもあまり意味がなかった。 生きるってことがずっと、よくわからないまま風の匂いがかわる。

  • 塞ぎこんで憂鬱

    この間まで付き合っていた恋人が好きだったというホラーを見た。 OLが毎日ポケットに紙を入れられるイタズラを受ける。数字がカウントダウンされていくというものだ。相手は誰なのかわからない。 OLは「こんなこと、もうやめてください」と紙にかいて自分のポケットにいれる。 それに対する返事は、グラビアの小さな切り抜きに「インラン」と書かれたメモであった。 そこまで見て、わたしは「淫乱」に烈しい嫌悪感を持っていないことに気付いた。私はいじめられたことがある。そのとき、だいたいの陰口に慣れてしまったので傷つくこともなくなった。 カウントダウンはこわいもの。 それはテスト前でも貯金でも命でも同じこと。ちなみに…

  • 宴のあと

    例の、他部署の恰好いい男の子は入院しているらしい。かなり長いので手術でもしているのだろうか。 「彼は柔術をやっているからねぇ!加藤さんみたいな細くて若い女の子は寝技に持ち込まれたらひとたまりもないよ!」と部長が 下品に笑う。 いまのこの時間のぶんだけ、おかね、くれないかな。 私の考えまで野卑になってしまうな。そんな気持ちを誤魔化そうとして、へらへら笑いながらアボカドディップを食べていた。アボカドはほとんどが脂質だという。 アボカドのあぶらについて集中して、自分の笑い方に心をくばって終わる時間まで待っていた。 居酒屋を出て、少し熱くなったひたいを夜風で冷やす。 交差点がゆがんで見える。ああ、こん…

  • Rape me

    はい。さくら舞い散る春、咲かない花は散ることすらできないと言いますが皆さんどうお過ごしでしょうか。 長い長い前置きとともにこんにちは。新入生たちの希望の春、僕にとっては死の匂いが充満している。 これね学食のごはんなんですけれども。国際交流を掲げる我が校の謎メニュー。490円也。 ポテトでごまかそうという意志を感じる。 こじらせた童貞の気持ちを引きずりながら肉体だけ立派になり、飲んでもないビール腹を手に入れて、どこにも行けない何にもなれない気持ちだけ持て余してるんだけど、別に僕は僕になりたいのであって何かになりたいわけじゃない。 たとえばほら結婚したとして幸せなんて何も確定していないでしょう。配…

  • 離宮のがらくた

    新元号が「零話」なのだという。ふざけているのではないか。 0話。 オープニングにすらなっていない。私はひとりで怒る。恋人は、「ま、いいんじゃない」と気のない返事をする。 冷めたコーヒーみたいな関係だと思う。 今日は有給をとってふたりでシーシャを吸いに行った。 私はミルクティー、恋人はミント・ライム・レモンのフレーバーを選んだ。 「水煙」と書くとなんだか奥ゆかしくて、とても好きだ。趣味を「シーシャだ」と言うと「意外だ」とかなんとか騒がれたのでそれ以降は言わないことにしている。 水煙といえば、うるさいことを言われないかもしれない。 せっかくの水煙がまずくなってしまうので会社の話はしなかった。きらい…

  • lithium

    見てくれよこの高更新頻度。これを勉強にあてることができたら受験生を何年もやらずに済んだろうか。 生きていても愛されなければ、死んでもきっと愛されない。ビルから飛び降りたら、死骸はiPhoneで撮影されて拡散されるだけだ。電車に飛び込めば「死に際に迷惑かけんなよな」と誰かの舌打ちとつぶやきになるだろう。 死んだ瞬間に愛され始めることも気持ちが悪い。僕はいつか死ぬ。死んだら全てを赦されたいだとか思ってしまう。 誰かに承認されることが全てではないし、自分にとっての「良き人生」は自分が認めることが出来た人生だ。なんにせよ下らないな。

  • 令和

    世間の、新元号を祝すムードに気圧されて寝ていたら周回遅れになっていました。今年も受験するのだと思います。 真面目に仕事を続けてきた30歳になる兄と、僕の血がつながっていることにぞっとする。現実逃避の積み重ね。迷いなく希望を持てる人間になりたかった。 積み重ねなかったことを積み重ねてすっからかんのこの人生が、だれかを救うわけがない。 今さら僕なんかが音楽をやったところで、今さら僕なんかが絵を描いたところで、今さら僕なんかが勉強をしたところで、そういう根性で生きてきて、今さら僕なんかが人生をやる意味なんてあるの? たぶんないよーーーーーん!!!!^^^^^^^オエ

  • タルタルソースはさくら色

    今日はとてつもなく暇だった。窓際の人間ができることなどあまりない。 ティッシュが窓風にゆれていた。 隣の部署のひとたちは、「今度の席替えでエアコンの風が一番当たる位置はどこか」について話し合っている。 違う部の女の子たちは、「新人がポーチを4つも持って会社にきている」ということで盛んに悪口を言っていた。 彼女たちの会話のなか、私はどこにもいなかった。壁際のポスターの方がまだ、あの会話に参画しているのではないか。 社食のエビフライが少しもたれる。 他部署のあのひとはどこへ行ってしまったのだろうか。噂通り、入院しているのだとしたらとても悲しい。 嘘と秘密で世界はまわっているのだ。 エイプリルフール…

  • 絶望仮面浪人生日誌

    日記じゃない。これは仕事だから日誌。こんなタイトルをつけてしまえる自分の感性にぞっとする。こうして絶望仮面浪人生と名付けることで僕は絶望仮面浪人生になるのだから。 アフィリエイト長者スーパーセレブ太郎にだってなれるはずで、「大成功アフィリエイト成功の秘訣!」って記事だって書けるはずだよ。インターネットの中では。ある選択を拒否する、という選択を採り続けることで生まれてしまった人生をどう慈しめばいいのか。 一歩も前進することができなかった死骸が人生そのものだとしたらもう本当に最悪だ。やるべきこととやりたいことの区別もつかずに適当な言い訳を自分の人生のレールに敷く。しっかり歩いてここまで来てしまった…

  • 銀塊

    夏になるまでに、身体に埋め込んだプレートを抜くらしい。案外、不自由なかった。医者のいう事を聞いて大人しくしていたため、経過も順調なのだそう。 次は目の手術である。 全身麻酔をして結膜からメスを入れて目の周りの靭帯を切除し、糸で縛る。30分程度で終わるそうで、比較的症例数も多いメジャーな手術だそうだ。 手術は気持ちが大事なのだという。僕もそう思う。それどころか、意志や心の在り方で何もかも変わってきてしまうというのは真理であり、人生に通底している。僕はゆるやかに死んでいくことに非常に適しているし、そちらへ歩みを進めている。 先生も手術する気概がないであろう。 けだるい梅雨のような気持がしばらく続い…

  • かすんだ空気にすみれの花束を

    最近、休憩室が改装した。窓側の席は、よく行く喫茶店と同じ陽の入り方をするから好きだった。 おしゃれな空間にはなったけれど、席の配置は変わってしまった。 早めにお弁当を食べ終えて本を取り出す。2日かけても読めなかったが、今日はなんだか頭に入る気がする。 この間体調を崩して早退してから、なんとなく先輩と気まずい。 係長の腕時計は秒針がうるさいのだ。たぶん、それがいけない。 私のせいじゃない。 正社員のひとたちが揃って社食に向かう時間、少しだけ空腹を耐える。 なんとなく一緒にいる人たちと、心からは打ち解けらないので時間をずらす。私はこの仕事をいつかやめる。 仕事の関係はいつか終わるものだと「ATOM…

  • 無能なふりがうまくては

    木曜日はなんだかけむりみたいに儚くてあっという間に過ぎていく。 実家に帰ると、結婚はまだかと聞かれるようになってしばらくたつ。親としては、結婚までしてようやく肩の荷がおりるのだろう。それに私の退屈でつまらない毎日も見飽きたのだろう。 そうとは分かっているけれどやはりプレッシャーで、週末に帰ることなどなくなってしまった。ごめんね。 インターンの学生さんに江國香織の「すみれの花の砂糖漬け」という本をお勧めしてもらった。 私に似合うのだと言ってくれた。代わりに「日々のあわ」を教えた。 ダークファンタジーに近いところはあるけれど、すっと読めると思う。おしゃれな彼女に似合うかしら。私なんかと話していて、…

  • 白菫色の祝福を

    姉に生まれた子の名前が「響」に決まった。ひびき、というそうだ。今年で4歳になる4月生まれのお姉ちゃんは「さくら」という。 ひいちゃん、か、きょうちゃんと呼ぶことになるのだろうな。春らしいふたりだ。 花粉症の私に春はつらすぎる。あの人を思い出す。 自分の記憶の中に、決定的に愛した人などいなくて、水色のビー玉みたいな男の子がひとり、ころんと記憶に転がっている。ときどきつついて思い出す。そのくらいだ。 たぶんこんな毎日を繰り返して死ぬのだと思うし、それでいいのだと思う。

  • ダージリンとシナモンシュガー

    毎朝けだるい。 毎朝、有給を使うか迷うけれど、結局ひとのめを気にしてつかわない。こういうところがだめなのだと思う。 思いきってしまえばいいのに、それでもいつも思い切りどころを間違う。 通ったことはないけれど、大学生になったらこんな気持ちなのだろうと思った。家に帰ってリップヴァンウィンクルの花嫁という映画を見た。 岩井俊二作品は、昔付き合っていた恋人がとても嫌がっていたけれど私は好きだ。 冷めた紅茶がよく似合う感じが嫌なのだそうだ。私は冷めた紅茶も好きだったのだけれど。

  • hurt

    こんにちは!気付けば2月も半ばですが、年がら年中死にたいです。 世はバレンタインということで、モテない僕のような奴や僕のような奴の死骸がどんどん累積していくね。チョコレートを売りつけたい人たちの商法で死にたくなったりしてしまうなんておかしくないですか。バレンタインの何が面白いの? 僕は全然面白くないです。 くすぶり尽くしたルサンチマンの火種で自分が燃え尽きてしまいそうだよ。自分の見ている景色、アスファルト、ボロボロのスニーカー、きったねえパーカー。誰がチョコレートをくれるものか。誰もくれやしないよ。 自分が自分を選べばいいと思っていたけれど、今の僕のことなんか絶対に選びたくない。デリバリーピザ…

  • 君の好きなことが君にしかできないことだよ

    ここで一番大事なのはコピーを片面でするか、両面でするか、モノクロでいいのかカラーなのか、ホチキスを止めるのかどうなのか、何をどこまで真に受けていいのかということだけだ。 模倣的に、模範的に生きることを推奨され、従えば従うほど地位が上がるコレが現実だなんて。 電話をかける。喋る。切る。かける。喋る。切る。かける。かからない。かからない。かからない。電話がかけられない。指がふるえてどうしようもなくなっていく。 私は、私が壊れていく音を一番そばで聞いていた。

  • heart

    今日の夜はハツを食べました!豚のハツをゆでて、にんにく醤油でたべるとおいしいですよ(^^)日本酒が進む進む。 ところでハツの語源はheartsがなまったものだと聞きましたが、果たしてそうでしょうか。僕は、豚の命が、心臓が「果つ」ことで食べ物として顕在化するから「ハツ」なのだと思います。 センター試験が終わりましたね。みなさんどうでしたか? 現役でダダ滑りドン滑り全落ち落ち武者丸だったくせに、図々しくもどこかの大学に居場所を求めて浪人なんてものをして、挙句の果てに合格大学じゃ不満だからと仮面浪人までしましたが今年もダメそうですw 何回逃げ切ったら幸せまでたどり着けますか。もしかしたら、合格しても…

  • 白線の内側

    私は知らない。このビルの7階、この職場の中で私だけが何も知らない。 他部署の恰好いい男の子が来なくなった理由を、派遣社員が知る権利はないのかしら。彼について誰も触れようとしないのはなぜ。 彼の上司は舌打ちが増えた。 ふと顔を上げる。パソコンの画面越しにマーケティング部の先輩がほほ笑む。作り笑いが上手になった自分を、私は好きになれない。 仕事に戻らなくては。インカムをセットし、無機質な画面を見つめる。 テレフォンオペレーターをし始めて3年になる。 毎日リストを渡されて、そのリスト通りに電話をかける。リストは区域ごとに細分化されていて、同じ市外局番で結ばれた仲間たちがきれいに整列している。 電話番…

  • Prism

    気付けば病院で年を越していた。 窓ガラス、結露、凍った池。 ふと思い出したように時折絵を描く。 何もおめでたいことなどないと知る。 どんどん壊れていく肉体と、ぼろぼろと剥がれてしまう精神に何も追い付かなくて、早く全てを終わらせたいという気持ちがふくれあがってきてしまった。 職場のことなど気にならなかった。 虚構の中で職場ごっこをしているだけの人間たち。エクセルに無意味な数値を入力する。統計を知らない上司、ニュアンスで決定されるすべての事柄にこじつけの理屈をはりつける。 何の意味があったのか。 僕が大学で学んだこと、信じた論理に何の意味があったのか。議論とはなんだったのか。答えが出ないものを押し…

  • 白く錆付いた骨

    骨の手術をすることになった。 外科手術を繰り返して思うことは「治す」というより「直す」に近いということだ。故障した一部を取り替えたり、無くしたりしながらやり過ごす。 脛骨と腓骨を骨折した。プレートを体内に入れて、骨の再生を待つらしい。 意外と骨は半年程度で元に戻る。僕はそれまで持つだろうか。 妹が持ってきてくれた花束を活けた。毎日水を替えることができず、すぐに枯らしてしまった。やるせない。 カーテンから差し込む日の光を疎ましく思うようになったのは、いつからだったか。 病院の外には池がある。 水面をうつろう光の反射がキラキラとしていて、急に物悲しくなった。 激しい感情を抱くことも、抱かれることも…

  • So on

    残された時間を慈しんで過ごしたところで何も知らない人間にとやかく言われたりしてしまう。 それが嫌で嫌でたまらなく、何も書き綴りたくなくなってしまうのだ。インターネットに寄稿したほんの少しの文章だけかじって、像を作り上げてはそれについて語られることがとても気持ち悪い。 病であることを告げてからの人の反応は様々だった。哀れむ人、以前と変わらぬように振る舞ってくれる人、言葉を失ってしまう人。僕の趣味が悪いので、そういった人々の反応を見て楽しんでいた。

  • 君にとってのきみでありたかった。

    君は、「きみ」を取っ替え引っ替えして生きていくんだね。「きみ」と付き合っては別れて、何かの残像を追うように。 僕が、君といることができた間は1番でいられたはずだった。誰かが言っていた。「ずっと」「永遠」「愛してる」と言う人間は信用してはいけないと。 君と別れた僕は道端の石ころのようだった。全てを信じたひとりと一緒にいられることが奇跡だったと後になってから知る。目の前を通り過ぎていく事象をただ眺め、時々大きな何かに蹴られたり投げられたりして移動した。 人が変わってしまった時、その人が二度と元のように戻らないのであれば、それは死別と変わらないのだと思う。楽しかった思い出を振り返る人がいないというこ…

  • Future

    明日の夜、手術がある。以前の僕は、「あなたはアフリカの子供達に比べてはるかに恵まれているのだから感謝して生きなさい」と言われて、日々の小さな憂鬱を殺さなくて済むように病気になりたかった。 病気になれば皆が優しくしてくれると思った。僕は感情に嘘をつかなくて済むと思った。今こうして実際に自分の生と向き合ってみると、別に悲しむための資格など要らないと思う。僕はどう生きていても自分のことを抱きしめてかまわないのだと思う。僕だけではなく貴方も。それよりもっとずるいことがこの世には沢山ある。 僕は億万長者で家庭円満の人が自殺したとしても、その人を贅沢だとは思わない。貧困で孤独である人が幸せそうにしていたと…

  • 乾酪壊死

    「とねり」「呉」「かりんとう」「剥離」「かたくりこ」などの言葉の響きが好きだ。ちなみに、きなこねじりも好きだ。 ら行と、か行・た行の組み合わせは、コロンとした感じがしてなんだか可愛らしく思う。 本を読むか、絵を描くか、この日記を書いてばかり。最近知ったことは外科手術のあと腫れるのは当然のことだとわかった。麻酔がきれたあとの鈍痛にも慣れてきた。 自分が手術など受けずにいられる身体を持っていたら、いまの思考の代わりに何を考えているだろうか。流動食は不味い。食の楽しみは意外と自分の中で大きかったのかもしれない。夜が更けていくにつれて、目覚めたら他の生き物になっていたいなと思ってしまう小さな妄想癖が直…

  • Michel Nostradamus

    1999年、夏、ノストラダムスの予言通りに人類は滅亡した。あらゆる花が一面に浮かぶ湖と、僕だけを残して。 世界の終わりに救世主など現れないことなど分かりきっていたが、「最期の日くらいは、完璧にしたいの」と常日頃から言っていた彼女くらいは救われても良かっただろうに。それは僕のエゴだけれど。 彼女は高校の同級生で、教室の端で本を読む少女だった。おとなしい第一印象を与える彼女は、話してみるといわゆる「ノリの良い」女の子であった。 環境汚染と食品添加物の弊害で誰もがひとつくらいは病気を抱えていたが、彼女のそれは脳を蝕むものだった。僕に勧めてくれる本も、小説から絵本へ移り変わっていった。 可哀想なことに…

  • 狂おしく滅ぶ愛を

    日記を書く手がふるえて、書き残すことをあきらめた。文字がぶれただけタイピングのありがたみを感じる。自分がだんだんと弱ってきていることは知っていたが、静観と諦念というのが最も正確だろう。年の割にぶれない感情が、自分らしいなと思う。 一年前の自分に知らせたら、何て言うのだろう。昨年の僕は、自分のおわりが近づいていることを、それでも切実に生きることができないことを知らなかった。まだ実家のネコを撫でて、サボテンに水をやって、料理を楽しんでいた。問いただしても何も出てこないだろう。今でさえそうなのだから。 ここにきて知ったことがいくつかある。ライトのぶら下がる天井は映画でよく見るワンシーンそのもので、麻…

  • a priori

    わたしなんかは、いつも、そうだ。 憎さを増しては、世話をして、とてもばかばかしい。寄りかかるのは、この肩にしなさい。他の人には、迷惑かけないように。失うものばかりが目新しくて情けなくなってしまうね。アルコールでぼやけた世界はこんなにも美しいのに。 キウイの色味がきみを騙す。失うことができない何かに怯える。全然空いてもいない腹が、愛情を受け取れる瞬間は今しかないとよじれて脳はふるえるのだ。 その全てを忌み嫌われるとしても、だ。可笑しくてとても抱きしめたくなってしまう。 あほらしい。 失えばよい、まくらなみちを行け。瞬きもせず、後ろを振り返らず、真っ暗な道を、ひたすら、ゆけ。 失ってゆけ、なにもか…

  • 母譲り

    先ほど親知らずを抜いたせいで血の味がする。一人暮らしが一週間やっていける程度の流動食を買い込んだ。食い込むビニール袋が痛い。 部屋の鍵を開け、リビングに入ると黒髪の女子高生が壁にもたれかかってすうすうと寝ていた。一瞬当惑したものの、思い出した。昨晩駅前をうろついていた家出少女を部屋に入れたのだった。名前は確かコトリといった。 「ただいま」と小さくつぶやく。 「お兄ちゃん・・・」 声からして寝ぼけているのだろう。俺のことをそう呼んでいた弟を思い出した。弟は幼いころ交通事故で他界していたが、久々に兄であったことを意識して胸が小さく疼いてしまった。なるべく顔に出ないように振る舞う。コトリは眠そうに目…

  • It’s all OK

    電球が切れそうなことに気付き、目障りなので電気を消した。氷が溶けて、カランと鳴った。 暗闇のなかで考える。人生にセーブポイントを設定できるなら、どこに戻ろうか。「戻るべき時代」は明確だけど、そうしたいとは全く思わないのは、今が最高だから。あるいはずっと最低か。戻るべき時代に戻ったとしても、同じようにしか生きられないだろう。 大学時代、好きになってしまった女の子には彼氏がいた。少しでもマシになりたいという健気な気持ちが、冴えない僕に買ってあげた服や靴が急につまらないものに思えて全部捨てた。絶対に割り込めないことが肌で分かるほど、あなたと彼は完璧だった。 好きな人に好きと言われたら、どんなに嬉しい…

  • 夢幻泡影

    カーステレオから、FMラジオをいつもより大きな音量で流す。ファミレスで買ったおもちゃのサングラスをかけて気持ち良さそうに歌う妻を見て幸せに包まれる。最初から諦めて欲しがりもしなかったものだということを思い出し、胸がつまった。「ねえ!お盆ってこれで合ってるんだっけ?」とけらけら笑いながら聞いてきた妻に、僕は「君が全部正解だよ!」と声を張って返す。 洋楽ポップスのミュージックビデオのように大げさに身体をくねらす妻は、両手で天井を押し上げるようにして「オープンカーになれ!」と言う。僕は笑いながら「変身!」と返して窓を全開にする。妻は「できてません!」と叫んだ。僕たちはまるで、夏の暑さに浮かれてしまっ…

  • Invalid

    「2年です」 身体を半分モニターに向けたまま、淡々と医者は告げた。彼はパタパタとうちわを仰ぎ、額の汗をぬぐった。 「2年ですか」 言われて妙に納得し、ちょうどいいとさえ思った。最近越したマンションの契約、それと同時に飼い始めたハムスターの寿命、一定期間勤めれば付与される社内の資格、携帯電話の契約、すべてがあと2年なのであった。 ここで家族なんかがいれば、まだ生きなければとでも思うのかもしれないが、わたしは天涯孤独なのだ。そこそこの給料に文句はなく、長生きにも、温かな家庭にも興味を持っていなかった。 病院の帰りのバスの中で、ベビーカーに乗った幼い子供が泣いていた。日記には今日の日をどんな風に記そ…

  • 魔女の葬式

    わくわくするのはいつだって最初だけだった。 認識が誤っていたことを知るころにはすべてが終わっている。 「ふふ、恥ずかしいなあ」 甘ったるい声を作り、首を少し傾けた。1日に1人だけ客をとると決めて、昼間のアルバイトを辞めた。ファミレスのテーブルを拭くことと、知らない誰かにべたべたと触られて人形になることの間に大差はなかった。 「ゆみちゃん、ゆみちゃん、あっ」 架空のわたしを呼ぶおっさんの手をぎゅっと握ってやる。恋にすらならないこの行為よ。それでも無意味な人生において幾分か価値あることだとは思うのだ。愛してくれるなら数百倍にして返してあげたいよ、男でも女でも。結局こうすること以外に愛の見せ方を知ら…

  • 「お腹いっぱい。あなたの料理で満腹になるのって、心も満たされて最高に幸せ!」 菜穂子は表情豊かな妻だった。付き合っている時から、いい時も悪い時も感情を素直に出していた。生きるために磨かざるをえなかった料理の腕も、思考を挟む余地なく決まった仕事も好きではなかった。そうした俺の根深い憂鬱も、仕事の疲れも、にこにこと頬張る菜穂子を見れば霧散したものだ。 拗ねたときに膨らませた頬が、透き通るような声が、小ぶりな耳の形があんなに愛おしかったのに、死ぬほど憎くなってしまったのはどこでボタンを掛け違えた結果なのか。 「きれいにしようね」 菜穂子の声が聞こえた気がした。一緒に風呂に入ったとき、ふざけて子供扱い…

  • 見ている景色に見覚えがない。私は西新宿で同僚と呑んでいたはずで、あいつは仕事も上手くいかず、帰ったら帰ったで妻に小言を言われることを嘆いていたはずだ。彼は酷く酔っ払っていて、焼き鳥の串を串入れに上手く入れることすらできていなかった。笑って私は宥めていたのだが、退店した記憶がない。 気付けば眼前には透明度の高いブルーが広がっていた。周囲を取り囲む木々の深い緑と、美しいコントラスト。私は泥のついたスーツをはらい、立ち上がって周囲を見回した。同僚の姿はない。 一体どういうことなのか。湖は広大で、凪いでいた。私は毎日の雑事に追われて忘れていたことがあったのではないか、とありきたりな振り返りをしたがそん…

  • うどん打ちの娘

    娘はうどんを打っていた。うどんを叩き延ばすことが、その娘の仕事であった。隣の作業場にいる、うどんこねの息子からうどんのたねを受け取り、毎日毎日ていねいに延ばす。粉まみれの白く小さい手で、力強くていねいに仕事をした。 「はかり」「混ぜ」「こね」「打ち」「きり」「ゆで」「盛り」といった各工程の作業場は横一列に並んでいる。左からきたうどんのたねを受け取り、担当の作業を施しては右に流す。娘のいる「打ち」の隣には「きり」があるが、一続きになった作業場は、一段高くなった細いフローリングの廊下で分断されていた。その廊下を、時折はだかの女が頭をかきながら横切った。彼女の姉であった。 リビングと姉の部屋を結ぶ廊…

  • Calypso

    日常の転換点は不意に訪れる。僕は暗闇の中、ぼんやりと内省を始めた。 ずっと、自分に生まれてしまったことを恨んでいた。他者と違って心身ともにひどく醜く思えてしまうという主観と、身体能力も頭脳もそのベースから劣っているという客観的データが揃って、毎日は抜け殻になった。空っぽな毎日を虚ろな目で俯瞰したりなんかして。いや、目なんてなかったのかもしれない。眼球がおさまるべき場所、ただの巨大な「うろ」だ。 ただ漠然と幸せになりたかっただけなのに何日待ってもどうにもならなかった。大きめの網を投げたら、何かが引っかかるとは限らないんだね。全力で引っ張ってみたけれど、きっと網目も大きかったんだ。そんな日が、何日…

  • 母さんへ

    僕は高校生になりました。母さんがいなくなってもう10年以上になるのですね。そっちの生活には慣れましたか?もう辛いことはないですか?母さんの悲しい顔をぼんやりと覚えているけれど、そちらには幸せしかないと聞いています。本当に良かった。 こちらも楽しく過ごしています。驚くかもしれないけれど、いま、僕には恋人がいます。 僕ら2人はあまり若いカップルのようにはしゃぐこともなく落ち着いているからか、よく夫婦に見られます。彼女は子供みたいによく笑う無邪気な可愛い人です。彼女は僕だけを、僕は彼女だけを見ているし将来もきっとそう。他の人たちには無い特別な絆で結ばれているみたいです。 今思うと、父さんの広い背中は…

  • 仮面浪人

    在籍大学はセンター試験の時期に期末試験を詰め込んで言った。在籍大学「仮面はわが大学の生徒だ。単位と生き、単位が死ぬ時はともに滅びる」第一志望「仮面を解き放て。あの子は浪人生だぞ!」在籍大学「黙れ第一志望! お前にあの仮面の不幸が癒せるのか!貴様に落とされた浪人が、後悔を逃れるために投げて寄越した窮策が仮面浪人だ。浪人生にもなれず、大学生にもなりきれぬ、哀れで醜い可愛いわが生徒だ。お前に仮面を救えるか!」第一志望「わからぬ。だが合格させる事はできる」在籍大学「どおぉやって合格させるのだ、仮面が純浪と戦うというのか!」第一志望「違う、それでは多浪にさせるだけだ!」在籍大学「小僧、もうお前にできる事…

  • Bonbon de l'enchevêtrement de la mer

    血の気が失せた紫色の爪。冷たい指先がフローリングの溝をなぞる。食欲が無い。君がいなくなってから何もする気が起きないんだ。こみあげる涙が情けないよ。僕はたまらなくなって初めて会ったあの店へ向かった。気持ちが抑えきれず、もつれる足で夢中で走る。ばかだな、今更何を期待しているんだろう。息を切らして店に入る。見渡してもやっぱり君の姿は無かった。僕は諦められずに店員を捕まえて、君を見ていないかと聞いた。薄手の白い服に黒髪の華奢な君。もう一度会いたい。いますぐ会いたい。気圧されたその店員は萎縮しながらも少々お待ちください、と答えてくれた。なにやら店長と話し込んでいる。店長は僕の方をチラチラ見ながら肩をすく…

  • Love / msissicraN

    用はないが大学の図書館へ向かった。静かで知性的な文章に触れて安らいだ。そのせっかくの平穏が急に可笑しく感じられたので、グロテスクな実験音楽で心をざわつかせた。 これでいつも通りの帰り道。 山手線はホームドアが設置されてしまったので飛び込むことが出来ず、残念だ。本当にやる気はないが、妄想をするのが好きなのだ。歩道から車道へ、屋上から地面へ、崖から海へ。そうやって日に幾度か自分を殺しても、誰にも知られない。 脳内であっても、本当は自分を殺したくなんかないんだ。誰か愛してくれる人が現れればこの奇癖も直るかもしれない。 だが、現実は残酷だ。夕焼けが流れていく車窓を睨んだ。 数日後、奇跡はあっけなく起き…

  • ねえ

    確かに僕らはネットがなきゃ関われなかった。でも現代の恋愛ってこんなものかなって思ってたし、特に気にしてはいなかったんだ。でももう自信がないよ。 影響されやすいの、という君は元彼と同じ煙草を吸う。iPodに入ってるのもあいつが好きだったバンドで、その前の彼氏の趣味で古着をやめたんだっけ?友達の口ぐせがうつっちゃった、と笑いながら流行りの髪飾りを外す君。僕は流されない人間だと思っていたのに、君の影響ばっかり受けたよ。君の好きな曲は全部聞いて全部好きになったし、君が起きている時間に生活リズムも合わせたし、君と話すためにパソコンも新しくした。 君が何か喋ると次の瞬間、空間に沢山の文字列が流れる。どうい…

  • こんぶ飴

    出会いは近所のコンビニだった。大人しく座る君と目があう。僕は何気なくスルーしたのだが、「ねえ、足が痺れて動けないの。手を貸して。」という声が聞こえた。 ほんの少し体勢を整える手伝いをしようと思っただけなのに君は僕の懐にすべりこんできた。 「もう家に帰りたくない。おねがい、連れてって。」 急いで会計を済まし、君を見やると「良かった!」と無邪気にニコニコしている。僕は黙って夜道を歩いた。 家についても、夜まで僕らは口を聞かなかった。君に、何かたべる?と聞いたのだが首をふってばかり。仕方なく僕は独りで残り物のカレーを食べていた。「私のことは食べてくれないの?」見かけによらず積極的なんだなあと思いなが…

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、丗さんをフォローしませんか?

ハンドル名
丗さん
ブログタイトル
軒先の憂鬱
フォロー
軒先の憂鬱

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用