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  • 読んでいる人は少ない。でも多くの人に読んでもらいたい名作。/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著 『チボー家の人々(12)』『チボー家の人々(13)』

    ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(12)エピローグⅠ』『チボー家の人々(13)エピローグⅡ』(山内義雄訳) 『チボー家の人々』第12巻と第13巻「エピローグ」は、第一次世界大戦終結を目前とした1918年5月から始まる。「イペリット・ガス」という名の毒ガスにやられたアントワーヌは南フランスの療養所で過ごしているが、発声障害や呼吸障害が出て容体が思わしくない。そこへ、彼とジャックの育ての親「ヴェーズおばさん」が亡くなったという知らせがくる。葬式に出るため、アントワーヌは久々にパリに向かうのである。 12.エピローグⅠ 13.エピローグⅡ『チボー家の人々』第12巻と第13巻の内容をま…

  • 「死が身の回りから遠ざかっている今だからこそ、この本を読んでもらいたい。」 ロジェ・マルタン・デュ・ガール著 『チボー家の人々(11)一九一四年夏Ⅳ』

    ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(11)一九一四年夏Ⅳ』(山内義雄訳) 「一九一四年夏」の最終巻だ。なぜ戦争は起こるのか、なぜあらゆる反戦勢力は敗れたのか。初めは戦争反対だった大多数の国民が、「自分の国は自分で守れ!」と、ナショナリズムの嵐が巻きこまれていったのはなぜなのか。この本を読めば当時の疑似体験ができる。一度ドミノが倒れてしまったら、あとは引き返せないのだ。 11. 一九一四年夏Ⅳ『チボー家の人々』第11巻のあらすじを紹介する。 1914年8月1日。フランスでついに総動員令が発動された。8月2日日曜日をもって動員発令第1日目とする。外国人は8月2日までにフランスを退去し…

  • 「普通の人々が、どのように戦争に引き込まれていったのか。そのリアルさに震える」/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(10)一九一四年夏Ⅲ』

    ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(10)一九一四年夏Ⅲ』(山内義雄訳) フランス国民の大多数は戦争反対だった。誰しも戦場で殺し合いなんてしたくなかった。ところがいつの間にかずるずると戦争に引き込まれ、「領土保全のためなら仕方ない」または「正当防衛のためなら仕方がない」と考えるようになる。最後の砦だったインターナショナルの闘士たちも次々と寝返っていく。 普通の人々はこのように戦争に巻き込まれていくのかと、読者自らが追体験できる。正直言って怖い。 10. 一九一四年夏Ⅲ『チボー家の人々』第10巻のあらすじを紹介する。 ジャックはメネストレルの指令でベルリンに向かっていた。オーストリ…

  • 「第一次世界大戦はどうしても避けられなかったのか?」/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(9)一九一四年夏Ⅱ』

    ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(9)一九一四年夏Ⅱ』(山内義雄訳) この本を読むと、どうしてもこう問いかけずにはいられない。第一次世界大戦はどうしても避けられなかったのだろうか。避けられたとすれば、どのような手立てがあったのだろうか。『チボー家の人々』は常に民衆目線で当時の様子が書かれている。彼らは「戦争なんて起きるわけないじゃないか」とかなり楽観的だった。戦争なんて他人事だった。おまけにフランス人の多くは戦争を望んでいなかった。 そんな彼らがいつの間にか戦争に巻き込まれてしまう。巻き込まれてしまったら出られない。「戦うのは国民の義務だ」と気持ちを切り替えるしかない。戦争を望…

  • 「なぜ第一次世界大戦は起きたのか。当時のヨーロッパの雰囲気がわかるノーベル賞受賞作品」/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(8)一九一四年夏Ⅰ』

    ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(8)一九一四年夏Ⅰ』(山内義雄訳) 『チボー家の人々』の「一九一四年夏」シリーズは、1937年にノーベル文学賞が与えられた作品だ。これを読むと、民衆目線でとらえた第一次世界大戦前前夜の雰囲気がわかる。「オーストリアとセルビア?勝手に喧嘩してろ」と、まるで他人事のようにのんびり構えていた一般市民がとても多かったことがわかる。そして気が付いたときには、自分たちが巻き込まれているのだ。 1914年6月28日サラエボで、オーストリア次期皇帝フランツ・フェルディナントがセルビア人青年に暗殺された事件。この事件がなぜ、どのようにして人類史上初の世界大戦へと…

  • 「死ぬのはこんなにも大変なことなのか?」/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著 『チボー家の人々(7)ー父の死ー』

    ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(7)ー父の死ー』(山内義雄訳) 人は誰でも死ぬ。死ぬときは安らかに眠るように死んでいきたいものだが、思い通りにいくとは限らない。チボー氏の最期は苦痛に満ちた地獄絵そのものとなってしまう。周囲の人間は「はやく終わって!」と祈るばかりだ。これは本音だろう。ところが人はなかなか死ねないのだ。 7.父の死『チボー家の人々』第7巻のあらすじを紹介する。チボー氏は尿毒症の発作に襲われ、耐えがたい激痛に七転八倒する。ヴェカール司祭は死の恐怖を和らげようと穏やかに話をするが、チボー氏の頭の中は「生きていたい!」という思いしかない。利己主義と虚栄心の中に生きてい…

  • 「人は、すべての過去に結びつけられている。」/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著 『チボー家の人々(6)ーラ・ソレリーナー』(山内義雄訳)

    ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(6)ーラ・ソレリーナー』(山内義雄訳) 行方不明のジャックは、「ラ・ソレリーナ」(イタリア語で「妹」)という小説を変名で雑誌に発表していた。その雑誌からアントワーヌはジャックがスイスのローザンヌにいることをつきとめる。ジャックが行方不明になってからすでに3年の月日がたっていた。アントワーヌ32歳、ジャック23歳だ。 6.ラ・ソレリーナ『チボー家の人々』第6巻のあらすじを紹介する。チボー家の大黒柱チボー氏は、癌のために激痛に苦しめられ、次第に気弱になっていく。権力と名誉と金を手に入れ傲慢だった以前の面影はなく、今では家政婦のおばさんに、子供のよう…

  • 「人間の行動や意思決定で、自ら選び取っているものは案外少ない」/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著 『チボー家の人々(5)ー診察ー』(山内義雄訳)

    ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(5)ー診察ー』(山内義雄訳) 時は1913年。第4巻から3年の月日がたった。 32歳になったアントワーヌは医師として充実した日々を過ごしていた。第5巻はそんなアントワーヌのある一日を描写したものとなっている。アントワーヌの自宅兼診療所には、診察を求めて次々と患者が訪れる。この巻に弟のジャックは登場しない。彼は難関エコル・ノルマルに優秀な成績で合格したにもかかわらず、学校には行かず、そのまま行方不明となってしまった。なぜ再び家出をしてしまったのか。その理由はまだ明らかにされていない。 5.診察『チボー家の人々』第5巻のあらすじを紹介する。上記のと…

  • 「暴力で女を支配する男と、ダメ男ぶりで女を支配する男」/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(4)ー美しい季節Ⅱー』(山内義雄訳)

    ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(4)ー美しい季節Ⅱー』(山内義雄訳) 4.美しい季節Ⅱ『チボー家の人々』第4巻のあらすじを紹介する。チボー家の長男アントワーヌは29歳。彼は、父親の秘書シャール氏の娘(血縁関係はないが)に人生初の大手術を施し、命を救うことができた。たまたまアントワーヌの手術の助手を務めたことがラシェルはユダヤ系の美女で26歳だ。この手術が縁で、ふたりは恋に落ちる。ラシェルは、アントワーヌが今まで見たことのない世界に住む女性だった。 ラシェルの半生はかなり特殊だ。彼女には実際のモデルがいるのだろうか?彼女は天涯孤独といっていい身の上だ。オペラ座で衣装係をしていた…

  • 「恋はそれぞれ、その当事者に似る」/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(3)ー美しい季節Ⅰー』

    ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(3)ー美しい季節Ⅰー』 「恋はそれぞれ、その当事者に似る」は、巻末の店村新次氏の解説による。ジャックとアントワーヌがふたり暮らしをするようになってから5年がたった。ジャック20歳、アントワーヌ29歳。「ふたり暮らし」といっても、どうやらふたりは父親と同じ建物に住んでいるらしいのだ。チボー氏は上の階、ジャックとアントワーヌは下の階だ。チボー氏は地元の名士で金持ちなので、ものすごい豪邸に住んでいるのかと思いきや・・・いや、パリに住んでいること自体がすでに金持ちの証しなのかもしれない。 3.美しい季節Ⅰ『チボー家の人々』第3巻のあらすじを紹介する。少…

  • 「ハラハラドキドキの展開。少年園の<特別室>に入れられたジャックに何が起こったのか?」/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(2)ー少年園ー』(山内義雄訳)

    ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(2)ー少年園ー』(山内義雄訳) 第2巻はまるでサスペンスだ。感化院の<特別室>に入れられたジャックの様子がおかしい。いったい何が起こっているのか?兄のアントワーヌは感化院にジャックの様子を探りに行くシーンは、ハラハラドキドキさせられる。施設は清潔だし、園長は愛想がよくて親切だ。ジャックの体にも虐待のあとは見られない。しかし、園長のことばの端々ににじみ出る施設の様子や、ジャックの不自然な受け答えから、徐々に施設の実態が明らかになってくる。「アントワーヌよ、頼むから気付いてくれ!ジャックをここから早く救ってやってくれ!」と祈る気持ちにさせられる。ま…

  • 「『大人たちの束縛から逃げ出せ!やつらに何がわかる!』 二人の少年の家出事件から物語は始まる」/ロジェ・マルタン・デュ・ガール著 『チボー家の人々(1)ー灰色のノートー』(山内義雄訳)

    ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(1)ー灰色のノートー』(山内義雄訳/白水Uブックス) 面白い。面白すぎて止まらない。この本はチボー家の次男、ジャック・チボーをめぐる群像劇だ。しかしほとんどの本屋には置いていないので、日本ではほとんど読まれていないのではないだろうか。そこで、1冊ごとにあらすじを記すことにした。「こんな話だったのか」と少しでも興味を持ってもらえるとうれしい。 1.灰色のノート 『チボー家の人々』は、カトリック系の中学校に通うジャック(14歳)とダニエル(14歳)の家出事件から始まる。ふたりの家出の二日前、ビノ神父はジャックの机から「灰色のノート」を発見した。この…

  • ソポクレス著『オイディプス王』(藤沢令夫訳/岩波文庫)

    ソポクレス著『オイディプス王』(藤沢令夫訳/岩波文庫) 「青木の世界史B実況中継」に感化されて読んだ本だ。「実況中継」の表記では「ソフォクレス」になっている。脚本形式だが、非常に読みやすかった。描写が生々しくてグロテスクで迫力がある。 テバイの王ライオスは「やがて生まれてくる自分の子供に、殺されるだろう」というお告げを受ける。これを恐れたライオスは、妃イスカオテとの間に一子が生まれると、羊飼いをしていた下僕にこの子を手渡し、山奥で葬り去るように命じる。しかし、この子を哀れに思った下僕は、コリントスで同じく羊飼いをしていた男にこの子を手渡す。羊飼いが「自分の故郷の、遠い他国へ連れ去る」ことを願っ…

  • ダーウィン著『種の起源』(上・下)(渡辺政隆訳/光文社古典新訳文庫)

    ダーウィン著『種の起源』(上・下)(渡辺政隆訳/光文社古典新訳文庫) 「人間の祖先は猿だった。猿が進化して人間になったのだ」という説をぶち上げて、世界中の人たちから非難された人。それがダーウィンのイメージだった。 ところが『種の起源』には、そんな記述はこれっぽっちも出てこない。進化論に賛成だの反対だの言っている人たちの中で『種の起源』を読んだ人はどれだけいるのだろう。 ダーウィンがさまざまな観察と考察から導き出した仮説は面白い。すべての動物と植物は、ある一種類の原型に由来しているというのだ。 「動物はせいぜい四種類か五種類の祖先に由来しており、植物はそれと同じかそれよりも少ない数の祖先に由来し…

  • ショーペンハウアー著『読書について』(鈴木芳子訳/光文社古典新訳文庫)

    ショーペンハウアー著『読書について』(鈴木芳子訳/光文社古典新訳文庫) この本にはガツンとくる、あまりにも有名な部分がある。 読書するとは、自分でものを考えずに、代わりに他人に考えてもらうことだ。他人の心の運びをなぞっているだけだ。(P138-139) こう言われるとぐうの音もでない。まさしくその通りだ。本をたくさん読めば、自分が賢くなったような気になる。しかし、本は、読めば読むほど馬鹿になるともいえる。自分の頭で考えることを忘れてしまい、他人の意見を自分で考えたことのように錯覚してしまうことがあるからだ。では、どうすればいいのか。ショーペンハウアーは思想体系を身につけることの重要性を強調する…

  • 井筒俊彦『イスラーム文化ーその根底にあるものー』(岩波文庫)

    井筒俊彦「イスラーム文化ーその根底にあるものー」(岩波文庫) 井筒先生の解説は本当にわかりやすい。イスラームについて知りたかったら、この本は超おすすめだ。イスラーム教はキリスト教徒よく似ているといわれる。しかしこの本を読んで強く感じたのは、このふたつ、実は全く性格の異なる宗教ではないだろうかということだ。 1.「悪はどこから来るのか?」をやはりイスラームも考えていた。イスラーム教では、キリスト教のように人間を神の子などと考えることはしない。神と人間の関係は「主人と奴隷」の関係だという。何をされようが、ただひたすら神の思いのまま。人間が主体的に努力して救済に至ろうという考えは成立しない。イスラー…

  • 作者未詳『虫めづる姫君 堤中納言物語』(蜂飼耳訳/光文社古典新訳文庫)

    作者未詳『虫めづる姫君 堤中納言物語』(蜂飼耳訳/光文社古典新訳文庫) 平安貴族はいかにもヒマそうだ。書物もなかなか手に入らない時代だ。いったい何をして暮らしているのか?ところが、いかにもヒマそうな平安貴族の物語はとても面白かった。 「堤中納言物語」は十編の物語と一編の断章からなる物語集だ。表題の「虫めづる姫君」は特に印象的な作品だ。主人公は化粧っ気のまったくない風変わりなお姫様。着物の着方も変。眉毛は手入れをしていないからぼうぼうに生えている。お歯黒はしていないから歯は真っ白。虫が大好きで、特に毛虫がお気に入り。色気のないお姫様に大輔という侍女がいろいろ文句を言うと、お姫様はぴしゃりと言う。…

  • 書物と真剣に格闘するということ。/アウグスティヌス著『告白Ⅲ』(山田晶訳/中公文庫)

    アウグスティヌス著『告白Ⅲ』(山田晶訳/中公文庫) 最終巻「告白Ⅲ」は哲学的な要素が入ってきて、突然難しくなる。私の読解力(および基礎知識)では理解できないところも多い。それでも懸命に読んでみた。 それにしても、1600年前によくも「時間とは何か」という問いをたてられたものだと驚嘆する。 1.神は天地を創造すると同時に、時間も創造した「神は天地を創造する以前は、何をしていたのか?」という問いに対して、アウグスティヌスは「何もしていなかった」と答える。そんな答えでいいのか?と心配になるほどあっさりしているが、そこには時間に対する考えがある。 「天地の存在する以前には時間も存在しなかったとすると、…

  • この世に悪は実在しない。あるのは「善の欠如」である。/アウグスティヌス著『告白Ⅱ』(山田晶訳/中公文庫)

    アウグスティヌス著『告白Ⅱ』(山田晶訳/中公文庫) アウグスティヌスは北アフリカのタガステに生まれた。カルタゴに遊学し、マニ教に入信。その後、修辞学をカルタゴやローマで教え、そして修辞学教授としてミラノへと渡った。ミラノで出会った司教アンブロシウスの影響で、カトリックの教えに目覚めていく。 1.マニ教のカトリック教会への攻撃に対して反論したアウグスティヌス マニ教は「神がこの世を創造したのなら、この世の悪を創造したのも神なのか?」と、カトリック教会を非難した。この疑問に対するアウグスティヌスの答えはこうだ。 「悪なるものは、つきつめていけば完全な無になってしまうような、善の欠如にほかならない」…

  • 「最大の教父」は「最大のとんでもない悪童」だった/アウグスティヌス著『告白Ⅰ』(山田晶訳/中公文庫)

    アウグスティヌス著『告白Ⅰ』(山田晶訳/中公文庫) アウグスティヌスは、古代ローマカトリック教会の教義を確立するために力をつくした「最大の教父」といわれる。全3巻。かなり読み応えがあった。読書日記は1冊ずつアップする。山田晶氏のあとがきは何度読んでも心が震える。それも最後に書くつもりだ。 一分冊目には、「最大の教父」様の子供の頃の悪童ぶりが余すことなく書かれている。大丈夫なのだろうかとはらはらするような告白だ。子供時代から、アウグスティヌスのやんちゃはたいしたものだった。 「遊び好きで、くだらない見せ物を見たがり、芝居のまねをして落ち着かず、数えきれないうそをつき、家庭教師、学校の先生、両親を…

  • 藤岡換太郎著『フォッサマグナー日本列島を分断する巨大地溝の正体ー』(ブルーバックス)/地質学は壮大なミステリーだ!

    藤岡換太郎著『フォッサマグナー日本列島を分断する巨大地溝の正体ー』(ブルーバックス) 「フォッサマグナ」とは、本州の中央部の、火山が南北に並んで本州を横断している「巨大な地溝」のことだ。西側の境界線は新潟県糸魚川から静岡県までの「糸魚川ー静岡構造線」。一方、東側の境界線は不明だ。巨大な溝の東西は約1~3憶年前の古い地層だが、フォッサマグナの内部は約2000万年前の新しい地層になっている。しかも溝の深さは6000m以上なのだ。いったいこの巨大な溝はどうやってできたのか? 実はフォッサマグナがどのようにできたのか、まだ明らかにはなっていない。深さが6000m以上だと伝えられているが、実は底まで掘り…

  • 姫野桂著『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)/本当に困っているなら当事者同士で分かち合おう。

    姫野桂著『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書) 「発達障害グレーゾーン」とは、専門医から発達障害だと正式に診断されたわけではないが、定型発達(健常者)とも言い切れない層のことをいう。障害者手帳をもらったり薬を服用したりするほど重い症状が出ているわけではないのだが、周囲から「空気が読めない」と言われたり「仕事上のミスが多い」など、明らかに人とは違っているので日々生きづらさを感じている。「グレーゾーン」の多くは「発達障害だと診断された方がどれほど楽か」と感じているようだ。はっきりとした病名がついていた方が「自分はこれができない」と割り切って生きられるからだ。 一方、「グレーゾーン」の人たちで悩みを…

  • ハンス・ロスリング著『ファクトフルネス』/世界を認識するための豊富な具体例が面白い。

    ハンス・ロスリング著『ファクトフルネスー10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣ー』(日経BP社) 『ファクトフルネス』は「世界が分断され大半の人が惨めで困窮した生活を送っている」という思い込みを捨て、事実に基づいて世界を認識しようという本だ。著者のハンス・ロスリングはスウェーデンで「国境なき医師団」を立ち上げた医師であり、公衆衛生のスペシャリストでもある。 著者は世界を認識する方法として、世界70億の人口を、1日当たりの所得で4つのレベルに分けて見ることを提案する。 レベル1(1日1ドル)はぬかるみにたまった泥水を数時間かけて運び、粥を調理するような最貧困レベルだ。レベル2…

  • 「外国人労働者・移民・難民に対する漠然とした不安を抱く前に、この本を読もう」/内藤正典著『外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?』(集英社)

    内藤正典著『外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?』(集英社) ぽんたの独断レビュー 実にタイムリーな本が出た。 2018年日本政府が50万人もの外国人労働者を受け入れる方針(あとで約35万人に下方修正)を発表したときに、「うわっ、大丈夫かな」と思った人は少なくないはずだ。「日本は少子高齢化で人手不足だ。だから海外から働いてくれる人を受け入れなければ衰退していくであろう」ということは頭ではわかる。その一方で「そんなに大勢の外国人が押し寄せてきたら治安はどうなるのか?マナーは守ってくれるのか?」という漠然とした不安もある。私たちはどのようなことを覚悟し、どのような準備をすればいいのだろうか。 …

  • 新天地アメリカにおける初期ピューリタニズムのグロテスクさ。/ホーンソン著『緋文字』(小川高義訳)

    ホーンソン著『緋文字』(小川高義訳/光文社古典新訳文庫) ざっくりとした内容 *17世紀ボストン。三カ月の赤ん坊を胸に抱いた一人の美しい女性が、刑台の上で衆人環視の場に立たされた。彼女の名はヘスター・プリン。不倫をしたうえに不義の子をなした罪で監獄に入れられた彼女は、決して子供の父親の名を明かそうとしない。彼女の胸にあったのは、上質な赤い布を素材にして、絢爛たる金糸の縫い取りを施した「A」の文字だ。この緋文字が胸にある限り、彼女は通常の人間関係の外に置かれることになっていた。 *さらし者にされたヘスター・プリンを遠くから見ていた二人の男がいた。一人は若き教区牧師であるアーサー・ディムズデール。…

  • 忘れたい過去も苦い思い出も、自分自身の一部として存在している。/村上春樹著『ノルウェイの森』(下巻)

    村上春樹著『ノルウェイの森』(下巻)(講談社文庫) ざっくりとした内容 *直子の療養所から帰ってきた「僕」は、現実世界に戻って来れない不思議な感覚を覚えていた。そんな「僕」を現実世界に引き戻してくれたのは緑だった。ある日曜日、緑に誘われて「僕」は入院中の緑の父親の元へ訪れることとなる。ぐったりとベッドに横たわり口も満足にきけない緑の父親はもう長くないようだった。そんな父親と「僕」は一時心を通わせる。 *「僕」の寮に住む先輩、永沢は外務省に難なく合格する。東大に入ることも女の子を引っかけて寝ることも彼にとってはただのゲームにしか過ぎない。ある日、永沢の就職祝いという名目で「僕」は食事会に誘われる…

  • 自分の中のさまざまなものが失われていくこと。それは死と同意義である。/村上春樹著『ノルウェイの森』(上巻)

    村上春樹著『ノルウェイの森』(上巻)(講談社文庫) ざっくりとした内容 *ハンブルク空港に着陸しようとしている飛行機のスピーカーからBGM「ノルウェイの森」が流れるところから話は始まる。この曲は現在37歳の「僕」に自分が失ってきた多くのものを呼び起こさせる曲なのだ。いつの間にか薄れてしまう死者の記憶は僕の心の奥底を揺り動かす。「起きろ、起きて理解しろ、どうして俺がまだここにいるのかというその理由を」。だから僕はそれを理解するために文章を書くのだ。 *1966年春。「僕」が直子に会ったのは高校二年生の春だった。直子はキズキの恋人であり、キズキは「僕」の親友であり、三人はいつも一緒にいた。しかし5…

  • 佐藤優著『人をつくる読書術』(青春新書インテリジェンス)

    佐藤優著『人をつくる読書術』(青春新書インテリジェンス) 世の中には「本を読む人」と「本を読まない人」がいる。そして「本を読む人」にしか得られないものがある。本書は何をどのように読むか、さらになぜ読まなければならないか体系的にわかりやすく書かれている。 「何」を読むべきかに関して、筆者は古典の重要性を説く。古典はそのテキストを読んでいるギャラリーが一定数いるため、批評がある程度積み重ねられ、読み方のスタンダードがはっきりしているからだ。なかでもおすすめは小説だという。なぜなら、物事を一つの視点や価値観からとらえるのではなく、つねに重層的、複眼的な視点でとらえることができるからだ。例えば、ドスト…

  • 他者とのつながりを失った「僕」が救済される物語/村上春樹著『羊をめぐる冒険』(下)(講談社文庫)

    自分の存在は他者という鏡を通して確かめることができる。他人がいるからこそ、自分がいる。ところが他者との関わりが全く失われてしまったとき、人は自分自身の存在を確かめることはできない。 主人公の「僕」は自分自身を映し出す鏡をすべて失ってしまった。妻を失い、故郷を失い、仕事も失い、友も失った。他者とのつながりを失ってしまった時、自分の存在はどこでどうやって確かめたらいいのだろう。 『羊をめぐる冒険』は自分の存在を見失ってしまった「僕」が救済される物語だ。だからこそ、この小説はまぎれもなく「僕」の物語であり、まぎれもなく青春小説なのだ。 村上春樹著『羊をめぐる冒険』(下)(講談社文庫) ざっくりとした…

  • 謎が謎を呼ぶ物語。どのピースがどこにはまるのだろうか。/村上春樹著『羊をめぐる冒険』(上)(講談社文庫)

    『羊をめぐる冒険』は、『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』に続く「青春三部作」の完結編だ。謎だらけの小説なので、謎をあらかた書き出しておいた。どのピースがどこにはまるのだろうか。ドキドキしながら読んでいる。 村上春樹著『羊をめぐる冒険』(上)(講談社文庫) ざっくりとした内容 *1978年9月。「僕」が友人と経営する翻訳会社は順調に業績を伸ばし、三年前からPR誌や広告関係にも手を広げていた。ある日翻訳会社に謎の男がやってくる。男の要求は「僕」が手掛けた生命保険PR誌の発行を即刻中止せよ、というものだった。PR誌に載っている写真は平凡な風景写真だ。北海道の草原と雲と木と、そして羊。いったい…

  • 「竜馬の運命を変えた男・勝海舟との出会い」司馬遼太郎著『竜馬がゆく』(3)(文春文庫)

    福沢諭吉著『福翁自伝』に出てくる勝海舟はあまりカッコ良くない。福沢諭吉は勝海舟と咸臨丸でアメリカ渡航を共にした。咸臨丸の艦長は木村摂津守だが、実質的艦長は勝海舟だった。が、船にめっぽう弱い勝はこんな書かれ方をしている。 「勝麟太郎という人は艦長木村の次にいて指揮官であるが、至極船に弱い人で、航海中は病人同様、自分の部屋の外に出ることはできなかった」(岩波文庫『福翁自伝』P135) 咸臨丸が到着するとアメリカは歓迎の祝砲を打ってきた。こちらも応砲をすべきだろうか。ところが勝は「応砲して失敗したら恥ずかしいからダメ!」と頑固に言い張った。結局、運用方の佐々木という男が「じゃあ、俺が打ってやる」と水…

  • 見ておいて損はない名作映画100選の7作目。映画:ワイルドバンチ

    「見ておいて損はない名作映画100選」の7作目だ。ネタバレあり。 この映画こそ映画館で見るべき映画かもしれない。メキシコの赤茶けて乾ききった大地、砂埃を立てて駆け回る男たちの汚らしさ、そして大迫力の銃撃戦。映画館の大スクリーンならひとつひとつのシーンがもっと迫ってくるだろう。 ワイルドバンチ(The Wild Bunch/1969/アメリカ)監督:サム・ペキンパー出演:ウィリアム・ホールデン/アーネスト・ボーグナイン/ロバート・ライアン ざっくりとした内容 *20世紀初頭のアメリカ・テキサス州。パイクをリーダーとする中年強盗団は鉄道会社の金庫を襲う。パイクはこれを最後にやくざな仕事を引退するつ…

  • 「テロじゃ世の中変わらない。だったらどうすべきなのか?」司馬遼太郎著『竜馬がゆく』(2)(文春文庫)

    尊王攘夷派(外国は出て行け派)vs佐幕派(とりあえず開国派)の対立が徐々に鮮明になっていく。竜馬は尊王攘夷を唱える過激派にシンパシーが持てない。幕府は倒したい。しかし、佐幕派を殺害するテロの手法で世の中は本当に変わるのだろうか。 竜馬にはまだ具体的な絵は見えてこない。竜馬はどこにゆくのだろうか? 司馬遼太郎著『竜馬がゆく』(2)(文春文庫) ざっくりとした内容 *当時の若者の流行思想は「尊王攘夷」だ。ところが相変わらず竜馬はノンポリだ。親友の武市半平太も「あいつには思想がない!」とイライラしている。そんな竜馬の江戸留学期間は終わり、彼は土佐に帰国することになった。帰国途中、竜馬は朝廷の家臣・水…

  • 生きることは何かを失い続けるだけの日々のことなのか?/村上春樹著『1973年のピンボール』(講談社文庫)

    村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』の続編だ。 時は流れて1973年。主人公の「僕」は大学卒業後、友人と翻訳を扱う会社を立ち上げた。仕事はうまくいっている。一方、親友の「鼠」は大学中退後もずっと地元に残っている。状況は違えど、「僕」と「鼠」は似たような苦しみを抱えている。生きていくことは、何かを失い続けるだけの日々のことなのだろうか。 村上春樹著『1973年のピンボール』(講談社文庫) ざっくりとした内容 *「僕」は、大学一年生の時恋人の直子が自殺するという辛い出来事に遭遇する。彼女を愛していた「僕」はふさぎこみ、大学にも行かず、毎日ゲームセンターに通いつめ、ピンボールに取りつかれたようになる…

  • 明治維新を知りたければまずこの本を読め!/司馬遼太郎著『竜馬がゆく』(1)(文春文庫)

    司馬遼太郎の代表作『竜馬がゆく』を再々読している。今回は読書日記を書くつもりで舐めるように読んでいるせいか、新たな発見がいくつもあった。以前は、竜馬が繊細で複雑な性格の持ち主として描かれていることに気が付かなかった。キャラクターに魅力があるからこそ、この小説は面白いのだろう。 そして、自信を持って言える。明治維新を知りたければまずこの本から読むべし、と。 司馬遼太郎著『竜馬がゆく』(1)(文春文庫) ざっくりとした内容 *坂本竜馬は土佐藩の郷士の家に生まれた。泣き虫の寝小便たれで手のかかる子供だったが、剣術道場に通い出すと徐々に頭角を現してくる。「多少金はかかるが、江戸の千葉道場で修行させて、…

  • 「強い人間なんていない。強い振りができる人間がいるだけさ」/村上春樹著『風の歌を聴け』(講談社文庫)

    村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』を再読。村上春樹の原点だと改めて認識した。 村上春樹著『風の歌を聴け』(講談社文庫) ざっくりとした内容 *「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」 主人公の「僕」が影響を受けた作家・デレク・ハートフィールドの言葉からこの小説は始まる。29歳の「僕」はこの言葉に慰められながら、書くという作業を行っている。世界を言葉にすることはできない絶望を感じつつ。 *回想録は「僕」が生物学を専攻する21歳の大学生だった頃の話を描いている。1970年夏、東京の大学に通う「僕」は、地元で夏休みを過ごした18日間。行きつけのバーでビールを飲み…

  • 「明智光秀『再発見』の物語」司馬遼太郎著『国盗り物語』(4)織田信長<後編>(新潮文庫)

    『国盗り物語』が「サンデー毎日」に連載されたのは、1963年から1966年のことだ。当時、裏切者として悪名高い明智光秀を、歴史や伝統に関する教養が深く、軍事面や民政面でも優れていた武将として「再発見」したことは、相当新しいことだったのではないだろうか。 悪名高いといえば、斎藤道三もその一人だ。「あとがき」によれば、道三の子孫は静岡県に住んでいるらしいが、その家の人々は子孫であることをあらわにしたがらなかったという。『国盗り物語』によって、死後の悪名を着ることになった斎藤道三や明智光秀に対する評価は見直されたはずだ。織田信長も含めて、器の大きさが半端ない。 司馬遼太郎著『国盗り物語』(4)織田信…

  • 「新秩序を追い求めた織田信長vs旧秩序の復活を志向した明智光秀」司馬遼太郎著『国盗り物語』(3)織田信長<前編>(新潮文庫)

    物語後半の主人公は、斎藤道三から、織田信長と明智光秀に移っていく。織田信長は道山の娘・濃姫の婿であり、明智光秀は道三の正妻・小見の方の甥にあたる。道三はこのふたりの才能を高く評価した。「わしは一生のうちずいぶんと男というものを見てきたが、そのなかで大器量の者は、尾張の婿の信長とわが甥(義理の)光秀しかない」と。織田信長と明智光秀の運命は誰もが知っている。よりにもよって、そのふたりを斎藤道三が認めていたなんて仕掛けはあまりにも絶妙すぎる。 司馬遼太郎著『国盗り物語』(3)織田信長<前編>(新潮文庫) ざっくりした内容 *クーデターを起こし、美濃を征服した斎藤道三。だが今まで土岐氏に仕えていた美濃…

  • 「全訳を読めば、清少納言の魅力がわかる!」石田穣二訳注『新版 枕草子』(上・下)

    石田穣二訳注『新版 枕草子』(上・下)角川ソフィア文庫 若いお母さんたちには腹が立つ。あちこち散らかす子どもをほったらかして、おしゃべりに夢中になっている。たいした注意もせず、「そんなことしちゃだめだよ~」とか笑顔で言っているだけ。どうかしてないか? これは私が言っているのではない。『枕草子』147段のざっくりした内容だ。だが、こんな苦情を現代でも耳にしたことはないだろうか。平安時代は歴史上でいえば「古代」に分類されるくらいの大昔だが、平安の世も現代の世も、人間はあまり変わらないという発見が『枕草子』にはある。 「イケメンのお坊さんの説教だったら夢中になって聞くけれど、ブサイクなお坊さんの話は…

  • 「時代は旧制度をぶち壊す人物を必要とした」司馬遼太郎著『国盗り物語』(2)斎藤道三<後編>(新潮文庫)

    天下取りの野望を抱き、その足掛かりとして美濃を「盗った」斎藤道山編の後編をお送りする。 司馬遼太郎著『国盗り物語』(2)斎藤道三<後編>(新潮文庫) ざっくりした内容 クーデターにより土岐政頼を追放し、自分の思いのままに動かせる土岐頼芸を美濃の新しい守護職に据えた庄九郎(後の斎藤道三)。美濃を「盗る」まであと一歩だ。邪魔な勢力を蹴散らせ! *庄九郎の前に立ちはだかる最大勢力は、追放された殿様・土岐政頼に仕えていた家来たちだ。特に政頼の家老だった長井藤左衛門は、庄九郎を暗殺しようと刺客を送る。庄九郎はそれを逆手に取り、「謀反」の疑いで、藤左衛門たちを徹底的にやっつけてしまう。 *昔の殿様一派が消…

  • 「わしは、国を盗りにゆく」司馬遼太郎著『国盗り物語』(1)斎藤道三<前編>(新潮文庫)

    司馬遼太郎でおすすめは?と聞かれたら、やはり『国盗り物語』(全4巻)をおすすめする。1~2巻は斎藤道三編、3~4巻は織田信長編。何度読んでも圧倒的な面白さだ。 司馬遼太郎著『国盗り物語』(1)斎藤道三<前編>(新潮文庫) ざっくりした内容 1517年。室町末期。妙覚寺の元僧侶だった松波庄九郎は「オレが天下をとる!」という野望に燃えていた。後の斎藤道三である。乞食同然の庄九郎はどうやって天下を取ろうとしたのか? *天下を取るには資金が必要だ。庄九郎は、油問屋である奈良屋の後家さんをたらしこみ、まんまと店の主人におさまってしまう。商売の才覚がある庄九郎はビジネスで大成功。あっという間に大金持ちに。…

  • ボッカッチョ著『デカメロン』<下>(平川祐弘訳/河出文庫)

    『デカメロン』も最終巻となる。下巻は第8目から第10日目が収録されている。これで十日物語の100話をすべて読み切ったことになる。 ボッカッチョ著『デカメロン』<下>(平川祐弘訳/河出文庫) ざっくりとした内容 下巻に入っているのは8日目から10日目までの全30話だ。中でも印象的だった話を3つ挙げたい。 *第10日目第10話 サンルッツォ侯爵の長男グワルティエーリは、「早く結婚しろ!」という周囲の声に対して「結婚すりゃいいんだろ、結婚すりゃ」と、百姓の娘グリゼルダを嫁にもらう。グリゼルダは美しく気立てが良いうえに賢かったので、家臣からも慕われる。グワルティエーリも彼女のことを愛するようになるのだ…

  • 昭和史への興味をかき立ててくれた一冊。/山内昌之・佐藤優著『大日本史』(文春新書)

    山内昌之氏による「まえがき」で初めて知ったことがふたつある。一つ目は、今の高校では世界史が必修科目で日本史が選択科目だということ。二つ目は、2022年度から高校に新必修科目として「歴史総合」という、世界史と日本史を融合させた科目が登場するということだ。ダイナミックで面白そうな科目だ。とはいえ、受験対策としては何をやったらいいんだか大変そうだが。 この本では「世界史と日本史の融合」を意識した近現代史が語られている。中でも最も面白かったのは昭和史だ。昭和史に関しては、戦争だのテロだの暗いイメージがつきまとい興味が持てなかったのだが、この本で考えを改めた。昭和史は面白い。よくも今まで無関心でいられた…

  • ボッカッチョ著『デカメロン』<中>(平川祐弘訳/河出文庫)

    『デカメロン』はペストが蔓延していた14世紀のイタリア・フィレンツェにおいて、10人の若き男女が郊外へ避難し、そこで代わる代わるみんなを楽しませる物語を語っていく話だ。中巻には第4日から第7日までの話が載っている。 ボッカッチョ著『デカメロン』<中>(平川祐弘訳/河出文庫) ざっくりした内容 毎日、お題に沿ってひとりひとりが物語を語る。その中でも印象的なものをひとつ挙げたい。中巻の表紙になっているのはボッティチェリの絵画「ナスタージョ・デリ・オネスティの物語」だ。この絵は『デカメロン』第5日第8話が元ネタになっている。 *ナスタージョは自分よりも位の高い貴族の娘を熱愛するが、娘の方は洟(はな)…

  • 見ておいて損はない名作映画100選の6作目。映画:流れる

    「見ておいて損はない名作映画100選」の6作目は日本映画から。 邦画というとどうしても黒澤明や小津安二郎の名が挙げられるが、名画100選の選者(夫のこと)が「日本映画を代表する名監督といえば、黒澤でもなく小津でもなく、まぎれもなく成瀬巳喜男である」と力説するので、お勧めに従って見ることにした。 私はもともと、この映画の原作である幸田文著『流れる』を読んでいた。しかし、原作よりも映画の方が私ははるかに好きだ。今回のレビューは、原作と映画の違いに焦点を当てながら進めたい。 流れる(1956/日本)監督:成瀬巳喜男出演:田中絹代/山田五十鈴/高峰秀子/杉村春子/岡田茉莉子 ざっくりとした内容 *舞台…

  • 野島博之著『三行で完全にわかる日本史』(集英社)

    野島博之著『三行で完全にわかる日本史』(集英社) 「これさえ読めば日本史のアウトラインはわかる。暗記前にこの一冊を仕上げておけば・・・」という初学者用の本は多い。ところが「あれもこれも」と盛り込みすぎるのか、肝心のアウトラインがぼやけている本も多い。 ところが、この本は輪郭がくっきりしている。三行解説のあとの「もう少しだけ詳しく」という解説の内容も、もともと日本史に興味がある人に楽しめるようになっている。わかりやすいが、レベルが低いわけではない。 ところで、三行ってなんだ?と思われるかもしれないが、本当に三行なのだ。たとえば、「ワシントン会議」の項。三行解説はこうだ。 「ワシントン会議」 第一…

  • 見ておいて損はない名作映画100選の5作目。映画:子猫をお願い

    「見ておいて損はない名作映画100選」の5作目は韓国映画だ。 いい映画とは「見る人によってさまざまな解釈が成り立つこと」「見るたびにさまざまな発見があること」だと思う。この映画はまさにそういう映画だ。商業高校で仲良しだった5人組の女子高生たちが、卒業後それぞれの道を歩いていく。しかし順風満帆な社会人生活を送っている人間は誰もいない。淋しくなって連絡を取り合い、酒を飲んでバカ騒ぎをするものの、なにかしっくりこない。無邪気にじゃれあっていた高校時代とは違う。そこがなんとも切ない。 5作目。 子猫をお願い(2001/韓国)監督:チョン・ジェウン出演:ペ・ドゥナ/イ・ヨウォン/オク・ジオン ざっくりと…

  • デフォー著『ロビンソン・クルーソー』<下>(平井正穂著/岩波文庫)

    世界近代文学50選の2作目。ほとんど読まれていないといわれている『ロビンソン・クルーソー』の下巻である。 デフォー著『ロビンソン・クルーソー』<下>(平井正穂著/岩波文庫) ざっくりとした内容 *妻の死をきっかけに、ロビンソン・クルーソーは再び旅に出る。なんと、御年61歳だ。甥が船長を務める貿易船に乗せてもらい、まず向かったのは、かつて35年間住んでいた無人島。今では漂流民のスペイン人とイギリス人が住んでいる。彼らの数も増え、60~70人にもなっていた! *クルーソー一行は喜望峰を経てマダガスカル島に寄港する。ここで大事件発生。船員のひとりが現地の娘を森に連れ込んでレイプしたため、島民たちはこ…

  • 見ておいて損はない名作映画100選の4作目。映画:藍色夏恋

    見ておいて損はない名作映画100選の4作目は台湾映画だ。派手さはないが、じわじわと静かな感動が迫ってくる作品だ。 4作目。 藍色夏恋(2002/台湾・フランス)藍色大門 BLUE GATE CROSSING監督:イー・ツーイェン出演:チェン・ボーリン/グイ・ルンメイ/リャン・シューホイ ざっくりとした内容 *主人公は17歳の女子高生、モン・クーロウ。彼女は親友のリン・ユエチャンから恋の相談を受ける。相手は水泳部のチャン・シーハオだ。モン・クーロウはユエチャンのために「付き合っている子いる?」とチャン・シーハオに話しかけたり、ラブレターを渡したりして骨を折る。そうこうしているうちに、チャン・シー…

  • 世界近代文学50選の2作目。デフォー著『ロビンソン・クルーソー』<上>(平井正穂著/岩波文庫)

    「世界近代文学50選」の2作目だ。 デフォー著『ロビンソン・クルーソー』<上>(平井正穂著/岩波文庫) ざっくりとした内容 *時は17世紀。ロビンソン・クルーソーは「世界中を旅したい!」という放浪癖に取りつかれているものの、貿易商人の船に乗り込んでは痛い目にあってばかりいる。しかし、紆余曲折あってブラジルに渡ってから行った農園経営は順調。しかし、クルーソーの放浪癖はおさまらない。「オレって農民に向いてないかも!?」と思い始めるクルーソーであった! *農園経営の一番の問題点は人手不足だ。「よっし、黒人奴隷を運び込んで、近所の農園経営者と分配しようぜ!!俺がギニアまで行ってくる!!」というわけで、…

  • 見ておいて損はない名作映画100選の3作目。映画:イン・ディス・ワールド

    この映画はかつて映画館で見たことがある。「いい映画だな」という印象は受けたものの、中身はほとんど忘れてしまっていた。だから今回DVDで見直して驚いた。こんなにもいい映画だったか?当時、私は何を見ていたのだろうか。 アフガン難民がブローカーにカネを払い、パキスタンの難民キャンプからロンドンに亡命しようとする物語。今「この世界で」同じようなことがたくさん起きている。 第3作目。マイケル・ウィンターボトムの作品だ。 イン・ディス・ワールド(2002/イギリス)IN THIS WORLD監督:マイケル・ウィンターボトム出演:ジャマール・ウディン・トラビ/エナヤトゥーラ・ジュマディン ざっくりとした内容…

  • 見ておいて損はない名作映画100選の2作目。映画:マイ・ネーム・イズ・ジョー

    「見ておいて損はない名作映画100選」の2作目。せっかく選んでもらったのだが、TSUTAYAでレンタルDVDを扱っていないため、見ることができていない。とりあえず宿題ということで、作品名だけあげておく。 2作目。ケン・ローチの作品だ。 マイ・ネーム・イズ・ジョー(1998/イギリス)MY NAME IS JOE監督:ケン・ローチ出演:ピーター・ミュラン/ルイーズ・グッドール 代表作「ケス」や、パルムドール賞を受賞した「わたしは、ダニエル・ブレイク」に勝ると、夫には太鼓判を押された。縁があって見ることができたら、レビューをあげたい。どんな映画もレンタルショップで見られると思っていたら大間違いだ。…

  • 世界近代文学50選の1作目。ボッカッチョ著『デカメロン』<上>(平川祐弘訳/河出文庫)

    桑原武夫が『文学入門』で選んだ「世界近代文学50選」。読んでおいて損はないということなので、1冊ずつかんたんレビューを挙げていきたい。 ということで、まず1作目だ。 ボッカッチョ著『デカメロン』<上>(平川祐弘訳/河出文庫) ざっくりした内容 *14世紀のイタリア。フィレンツェではペストが猛威をふるっていた。たまたま教会に居合わせた女性7人男性3人は、ペストから身を守るためフィレンツェから避難して郊外の別荘に移ることにした。これが、なかなか優雅な避難生活。彼らは若くてお金持ちなのだ。うらやましい。 *「ゲームをするより、みんなの前で物語をひとつずつ話すことにしない?」この提案により、10人の紳…

  • 見ておいて損はない名作映画100選の1作目。映画:カリフォルニア・ドールズ

    私は、映画というものをほとんど見ていない。だから世の中にどんな素晴らしい映画があるのか知らないのだが、全く知らずにいるのももったいないような気がしてきた。そこで、必ず見ておくべき名作映画100選、というものを映画をライフワークとしている夫にピックアップしてもらうことにした。(なにしろ年間200本以上、しかもすべて映画館で観ているのだから実によく知っている。)その際、映画史上において重要な作品だとか、ナントカ賞を取ったとか、世間的に評価が高いとかいうのはどうでもいい。「これだけは見ておいて損はない!」という、個人的こだわりのある自信作をリクエストした。100って微妙に難しい数字だけど、よろしくお…

  • 李淳馹(リ・スンイル)著『青き闘球部ー東京朝鮮高校ラグビー部の目指すノーサイド』(ポット出版)

    李淳馹(リ・スンイル)著『青き闘球部ー東京朝鮮高校ラグビー部の目指すノーサイド』(ポット出版) ざっくりとした内容 *1975年、東京朝鮮高校ラグビー部創設。顧問の先生も含めてラグビー経験者皆無のド素人集団だ。ところがある日、「君たちの練習見てたけど、あまりの下手くそぶりに居ても立っても居られなくて来ちゃった。俺が教えてもいい?」と、突然謎の日本人がやってきた。聞けば、大東文化大学ラグビー部のOBだという。あまり日本人と接点のなかった朝高生たちは「ざわざわざわ」。どうなる、朝高ラグビー部!? *時は流れて、ラグビー部9期生が監督になる。年末になると、監督自ら大型バスを運転して部員たちを花園に連…

  • 「オフサイドの位置」にいることは「良くない行為」である!? 中村敏雄著『オフサイドはなぜ反則か』

    中村敏雄著『オフサイドはなぜ反則か』(平凡社ライブラリー) ざっくりとした内容 *オフサイドがなかったら、すぐにゲームが終わっちゃう!短いゲームなんて言語道断、ゲームは長ければ長いほどいいんだよ。なぜって、フットボールは人々と感情を共有する大事なお祭りなんだから。多民族国家のイギリスには特に、こういうお祭りマジ必要。勝つとか負けるとか、そんなのどうでもいいんだよ! *オフサイドがなかったら、「密集と突進」が少なくなって男らしいプレーが見られなくなっちゃう!だって、「オフサイド」って「チームを離れている」ことでしょ。観客の中に飛び込んでどさくさまぎれにゴールを決めるようなヤツとか論外。怪我人のふ…

  • 時勢に驕った官軍どもに、いじめぬかれた虫けらの性根と力を知らしめよ。 司馬遼太郎著『峠』(下)

    司馬遼太郎著『峠』<下>(新潮文庫) 河井継之助の「長岡藩独立国構想」。それは、勤皇派にも佐幕派にも属せず「長岡国」として独立するという構想だった。徳川慶喜が大政奉還をして新政府に恭順の意を示している今、官軍の最大の目標は会津藩となっている。そのとき長岡藩は官軍にも会津藩にもつかない。どちらにも「待った」をかけ、両者の調停役となろうというのだ。会津藩を平和のうちに恭順させ、官軍にも会津藩の言い分を聞き入れさせる。 徳川家の番頭である譜代大名として筋を通し、官軍との戦いを回避するにはこれしかない。時勢が官軍に味方している。しかし官軍に降伏すれば、長岡藩は会津藩を討つための先鋒をやらされるだろう。…

  • 幕府側にも討幕派にもつかない。河井継之助の「長岡藩独立国構想」の準備がここに始まる。司馬遼太郎著 『峠』(中)

    司馬遼太郎著『峠』<中>(新潮文庫) 諸国遊歴の旅から帰った河井継之助は、自分の殿様(牧野忠恭)の京都所司代職を辞めさせたことで大いに手腕を認められた。継之助はそこから異数の出世をする。外様奉行から郡奉行となり、後に町奉行を兼任。長岡藩の行政すべてを担当するようになる。 継之助は大胆な藩政改革に着手する。幕末の激動の時代を生き抜くには、長岡藩を「独立公国」にするしかない。幕府にも薩長にも組しない独立国だ。それには金がほしい。藩庫を潤沢にして長岡藩の軍隊を欧米における最新式のものに仕立て上げ、行く末は産業も機械化したい。継之助は長岡藩という小さな藩の生き残りをかけて、あらゆる手を尽くそうとした。…

  • 大切なのは、他者に共感する気持ち。さかなクン著『さかなクンの一魚一会~まいにち夢中な人生!~』

    さかなクン著『さかなクンの一魚一会~まいにち夢中な人生!~』(講談社) 本書は、テレビで大活躍中のさかなクンの自叙伝だ。東京海洋大学客員准教授でもある彼が、絶滅が信じられていたクニマスの生存を確認したことは記憶に新しい。さかなクンのお魚イラストを初めて見たときは本当に驚いた。今までみんな同じ顔に見えていた魚が、実は個性と表情が豊かなことに気づかされたからだ。エビスダイの黒目がちなきょろんとした目。海の中を堂々と泳ぎながら笑っているクロマグロ。海や川に住む友人たちに対する心からの敬意と愛情がなければ、こんな絵は描けないだろう。 さかなクンは小さい時から絵が大好きだった。運動はからきしダメ。休み時…

  • 人は立場によって生き、立場によって死ぬ。司馬遼太郎著 『峠』(上)

    司馬遼太郎著『峠』<上>(新潮文庫) 幕末維新の時代に生きた越後長岡藩家老・河井継之助の名を、本書で知ったという人は少なくないはずだ。河井継之助は、幕府がほろびることを誰よりも早く予見していた。 そこで、彼は必死に長岡藩生き残りの方策を模索した。幕府とは無関係に、長岡藩は自主独立の道の体制を取らなければならない。彼はそのために周到な用意をした。『峠』は、河井継之助の長岡藩生き残りに命を懸けた半生を描いた物語だ。 武士の世は終わる。封建社会は崩れる。彼が長州藩や薩摩藩に生まれていたなら、きっと幕府体制を一掃し、新しい統一国家を作るために奔走していただろう。その方がどれほど楽だったか。 だが、継之…

  • 動物の不思議な行動にはそれなりの理由がある。『ソロモンの指環ー動物行動学入門ー』

    コンラート・ローレンツ著/日高敏隆訳『ソロモンの指環ー動物行動学入門ー』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫) この本を読むと、人間には理解しがたい行動でも、動物には動物の理屈があることがわかる。 たとえばイヌだ。イヌにはジャッカルを祖先としているものと、オオカミを祖先としているものがある。ジャッカル系のイヌは誰とでも仲良くなりすぎ、誰が綱を引っ張ってもよろこんでついていってしまう。しかしオオカミ系のイヌは、一生涯主人を変えることがない。一度忠誠を誓った相手以外には、誰にもなつかないのだ。なにかの事情で飼い主がオオカミ系のイヌを手放したとしよう。すると、彼は心理的平衡を失ってしまい、問題行動を繰り…

  • 教養ある日本人の必読書「世界近代小説50選」

    桑原武夫著『文学入門』(岩波新書) 「古典」「名著」を読みたいが、何を読んだらいいかわからない。そんなふうに悩んでいたある日、部屋を掃除していたらこの本が出てきた。大学時代に買ったきりで開いたことすらなかったのだが、開いてみると、なんと巻末に一番欲しい情報が載っているではないか。 教養ある日本人の必読書「世界近代小説50選」。この本に出会ったのも何かの縁だと思い、まずは桑原先生が選んだ50をすべて読むことにした。 国民の文学教養における「共通なもの」の必要はいうまでもない。そして、普遍を通過せぬ独自性というものはありえない。その意味で、読書の基準化ということは、今の日本に最も大切なことと考え、…

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