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  • 去年の枝折

    去年同様、花見は三度。初めは板宿『Calme』主催で、月見山『南天』の心づくしの弁当が出た。二度目は飲みグループの持ち寄り会、そして自宅での一人花見と、図らずも毎回異なる趣向となった。 暇人には珍しくそれ以外にもお誘いが多く、ために今回は(も?)書名の列挙にとどまる。 ○袁珂『中国神話史』(佐々木猛訳、集広舎)○『ポスト・モンゴル時代の陸と海』(「アジア人物史」第6巻、集英社)○アイヌ民族博物館・児島恭子『アイヌ文化の基礎知識 増補・改訂版』(草風館)○慶應義塾大学附属研究所斯道文庫『訂正新版 図説 書誌学』(勉誠社)○佐々木浩『祇園さゝ木一門会 師弟セッション』(クリエテ関西)○トマス・アク…

  • 歯ぁ抜いたろか

    歯を抜かれた。当人としてはついに、という感じ。左下の親知らず(半分横倒しになって出ている)が度々うずいていたのをほったらかしていたところ、昨年末にはどうしようもなくなって、口腔外科に紹介された。 親知らずの一本前の臼歯の根もイカれてるので二本とも抜かねばならない。食事には影響しないとのことだが、親知らず以外を抜かれるのははじめてなので、なんだか手術前から一遍に老け込んで総入れ歯の爺さんになった気分だった。 聞いていたとおり、麻酔注射が痛い。膿んで腫れてるとこにぶっすり刺すんだから、そりゃ痛いわな。しかしこれでもまだ二合目三合目というとこで、カチャカチャ器具が歯に当たったあと、めりめりと脳天に痛…

  • 脳みそ吸うたろか

    『Ronronnement』の前田シェフから「ベキャスが入手できそうです」と一報有り。ベキャス、すなわち山鴫にお目にかかるのは実に八年ぶりとなる。フランスでも年々狩猟が厳しくなってきており、スコットランドからの輸入が主となっているそう。それくらい貴重な食材を取り置きしてもらえるのは有難い限り。八年前の狂乱ぶり(拙ブログ「年の瀬に怒る」参照)を覚えてくれていたらしい。 綿密なる相談の上、個体の大きさから熟成期間を割り出して、そこからさらに五日ほど寝かせるように依頼。「○○さん、ヘンタイなのを思い出しました」とはシェフの賛辞である。 当日は新快速で近江は栗東へ。前の店(今も営業している)の草津から…

  • 狐の一人舞

    令和四年は全面中止となったのだから、数年来の習慣というには当たらない。当たらないがしかし、昨年のえんぶりがじつに愉しかったため(拙ブログ「岡目の一目~えんぶり復活(3)」参照)、仕事の都合で行けなくなったのには(予算も休みも組んでいたのに!)、ほとんど呆然とした。いくら身過ぎ世過ぎのためとはいえ余りに没義道な仕打ちではないか。 と歯噛みしかけて、いやいや長者山新羅神社の祭礼であるえんぶり、怨み言は神への非礼と思い返す。参上叶わぬならば遠く神戸で神を称え豊饒を祈ぎ奉るに如かず。すなわち、YouTubeで早速公開された動画を大音量で流しつつ、一人居間にて摺り、歌う。まるで「蘭陵王」における内田百閒…

  • 戦前の旅

    今回は二冊収穫がありました。 ★市河晴子『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』(高遠弘美編、素粒社)・・・跳ね踊るような文章がいい。戦前(しかも満州事変後)でもこんな闊達な旅行出来てたんだなあ。発掘してくれた編者に感謝。★岡田温司『キリストと性 西洋美術の想像力と多様性』(岩波新書)・・・女陰としてのキリストの傷口(!)など、かなりコアなテーマが盛り沢山。岡田さんの本としてはかなり推測に基づく記述が多いが、これはやむを得ない。それにしてもヨハネとイエス、やっぱりあやしかったんだ! ○マリオ・プラーツ『パリの二つの相貌』(碩学の旅1、伊藤博明他訳、ありな書房)○バリー・ウッド『捏造と欺瞞の世界史』上下…

  • 祖母・正司歌江のこと

    行き来が絶えて、もう三十年近くにはなるだろうか。逝去のこともYahoo!ニュースで知ったくらいだから。ともあれ由縁ある者のひとりとして、思い出せることを書き付けておく。 若い頃に出来た娘が当方の母親で、その後に別の男性と結婚したから、要するに私生児ということになる。母の父、つまり当方にとっての母方の祖父は晩年でも身内ながら色気ある人だった。まあ、若気の過ちというところか。歌江の口からはこの祖父の話がたまさか出て来た。「おにいちゃん」と呼び、懐かしそうな口調だった。 母は十数年、千里古江台の歌江の家に家政婦として通っていた。そのつながりがあって、当方も小学生の頃には「おばあちゃん」が少なくともそ…

  • 彼の『神学大全』~双魚書房通信(19) 鹿島茂『書評家人生』

    書評本を読むのは人生の一大悦楽だが、無論本に善し悪しはある。でも見分けるのは簡単。風呂場に持ち込む気になるかどうか。これはその気にならない方がいい書評本なのである。スマホでもメモ帳でもいいけど、どんどん読みたい本が出て来て情報を控えておくのに、バスタブくらい不便な場所はないから。 我らが鹿島茂はどちらに属するか、実はこれがヤヤコシイことになっている。まあ聞いてくださいな。 いそいそと机に向かい、当方の場合は書籍管理のアプリを立ち上げ、舌なめずりしながらー大抵はバーボンかシェリーをちびちびやりながらー、面白そうな本をチェック、豊饒な収穫に酔いしれる。 さて、そこから数週間?場合によっては数日(幾…

  • 甲辰

    本年もよろしくお願いします。 吉例狂歌二首 甲辰元旦 朝日さす富士の高嶺に千歳ふる松のきのえだつる来鳴くらむ 梁山泊元旦 たくましき背なは九紋のりうりうと仁義を辰るをとこ一匹

  • 軽薄さについて

    コロ助の騒動も傍目に見て過ごしたような感じだったが、やっぱり三年近く足枷つけられてたら習い性になるもんですな。最近すっかり家居が日常に(日本語おかしいか)なってしまった。 無論この間に引越で眺望絶佳・交通絶望の地に移ってきた、ということはある。顧みればしかし、これまで住んだのは神戸市バスで言えば2系統・7系統とかくれもない「山際路線」沿線であって(今は11系統)、殊更不便になったわけではない。ま、トシのせいなんですがね、気分良く酔って帰ってるつもりでも、坂道ですっころんで前歯を欠いたりマンションの階段でずっこけて額を(とぶら提げていた一升瓶も)割ったり、なんだか我と我が身が厭になって引きこもっ…

  • Via Dolorosa

    いくら温暖化で遅くなってるとはいえ師走の紅葉狩りはぞっとしないから、今にも降り出しそうな曇天ながら家を出る。 まずはご近所の禅昌寺。特に紅葉で名高いという訳ではないけど、ともかく人が少ない(というかいつ来ても誰もおらん)のが有難い。少し外れただけで深山幽谷の趣を味わえる板宿はケッタイな町である。 次の須磨寺に向かう途中、ふとまだ参詣してないと気づいて板宿八幡の方へ。飛松の伝承なぞは上方にはいくらでもあるから格別に由緒あるお宮とは言えないだろうし、社域も取り立てていうほどの風情はない。でも、ホントに住宅街の真ん中をうねうね縫うように歩いて登る順路はなかなかよろしい。 さて、板宿から須磨寺へは、途…

  • 中年という愉しみ

    酒後の事故や、体調崩すのが増えたこともさりながら、何の気なしに久々に読み返した本に感銘を受け、以て我が身の秋を知る。いやまあ、「ついにアラフォー」「四捨五入すれば五十路だわい」と騒いではいたけれど、秋のあはれ同様、身に染み出すところが肝腎。 その本とは、グレアム・グリーン『事件の核心』と『池波正太郎の銀座日記〔全〕』。いずれも新潮文庫。とはつまり、文庫オリジナルの『銀座日記』ならともかく、グリーンは全集版でもその文庫化であるハヤカワepi版でもない、伊藤整訳(実際の訳は永松定)の古いもの(奥付を見ると昭和四十年の第七刷)。こうも読みづらい版面(そう、文庫程度に難渋してしまう眼の衰えもあるのだっ…

  • 秋の蟷螂

    山近いのでいろんな虫がやってくる。最近はむやみにカマキリの姿をよく見る。一度に三四匹見つかることもある。交尾中のところも目撃した。雄はなるほど聞く所に違わず、事後ぼりぼりむさぼり喰われてるのであった。喰われてること自体より、人間の目にはひしとした抱擁の姿勢のまま囓られてるのがヒト・オス・オッサンにはじつにあわれであった。 宦官のごと逆光の秋蟷螂 碧村 ◎ハロルド・ブルーム『影響の解剖』(有泉学宙他訳、小鳥遊書房)……老来いよいよ意気軒昂なブルーム節。むかし筒井康隆さんが、小林秀雄の本について「ただいいわいいわとのたうちまわってればいいのだ」と要約していたのをふと思い出す、そんな雰囲気。クサいと…

  • マスゴミを論じて牢獄におよぶ

    強きを扶け弱きを痛めつけるのがマスコミの本分ではあるけれど、先の霊感商法といい、ま近くは芸能界の性加害といい、じつにひどい。鉄面皮ぶりやらしたり顔のご託宣やら下劣な攻撃口調など、まるでヤフコメ程度ではないか。まあ、益体もないことは天下周知(同僚は「現代の床屋政談である」と警抜な評言をくだした)のヤフコメのほうがまだしも害毒は少ないかもしれない。悪臭は害毒ともいえるが。 なんて柄にもなく世相評判に及んだのは、 ★ドラウジオ・ヴァレーラ『カランヂル駅』(伊藤秋仁訳、春風社) が滅法面白かったから。ブラジル最大の刑務所につとめるお医者さんが見聞きしたことを書いている。なんだか話がつながらないようです…

  • 夏涸れ

    楽しい会はあったけれど、一体に九月は食べものの端境期という感じ。なにかネタを待ってるうちに月が終わってしまいそうなので、取りあえず読んだ本だけあげておきます。 ○ジャネット・ウィンターソン『フランキスシュタイン』(木原善彦訳、河出書房新社)○西﨑憲編『看板描きと水晶の魚』(筑摩書房)○エリザベス・トラウト『オリーヴ・キタリッジの生活』(小川高義訳、早川書房)……あちこちにちらと顔を出す主人公(?)の数学教師、いいなあ。がさつでざっっかけなくて、でも不思議と好感持てる。こういう連作はなんだか新鮮。○松浦寿輝『香港陥落』(講談社)……小説ははじめてになるのかな。語りはさすがに達者。ただ、シェイクス…

  • ジャレド・ダイアモンドに逆らって~双魚書房通信(24) ローラン・ビネ『文明交錯』

    以前ビネの作風を冗談まじりに「伝奇小説」と形容したことがある(当ブログ「鳥獣の王」2020.12.14)。新作を読んで、もう少しこれに注が必要と思った。 前言撤回というのではない。どころか、今回も話の結構は奔放を極め、というか荒唐無稽の域に達している。なにせ、あのインカ、ピサロなるごろつきによってあえなく征服されたまぼろしの帝国の皇帝アタワルパが、いいですか、こともあろうに(と言いたくなる)スペイン、当時の区分でいうところの神聖ローマ帝国をのっとってしまう(!)という筋書なのだから。そう、これはつまり十六世紀版ローラン・ビネ版の『高い城の男』なのである。 だから荒唐無稽。我が江戸の読本・合巻(…

  • 悪の文楽

    改めて人間国宝認定おめでとうございます、吉田玉男さま。 夏の文楽公演は二度に分けて見物。十年前と違い、二部続けてはとても無理。腰が痛くなって見物どころではない(もっとも十年前だって楽ではなかった)。そのぶん前後の時間に多少余裕はあるのだけど、この猛烈な(災害級というんですか)×××のなか、ましてたださえ××苦しい大阪の街中を歩くのはどうにも気ぶっせいで、いつものうどん屋・割烹・鮨やもよしとする。※目から耳から散々流し込まれて皆様閉口でしょうから、一部伏せ字と致しております。 まずは第三部の『夏祭浪花鑑』。米朝師匠が、いかにも懐かしそうな口調で「昔は浪花の俠客の芝居をようやってましたな」とおっし…

  • この豊饒なる小世界

    バルコニーがたいへんなことになっている。90平米の部屋に対してその半分ほどもあって、ルーフバルコニーの方はピクニック(?)したり、プールを出したり、こたつに火鉢を出したり(気違い沙汰)して堪能しているが、今回はそちらではない。生き物係からの報告である。 めだか鉢に入れる水草、毎年アナカリスやホテイソウ、フロッグピットでは面白くない。今季はやや値は張るけど侘び草を投入。アクアリウムに興味ない方に注しておきますと、これは数種の水草を寄せ植えした商品で(@AQUA DESIGN AMANO)、ある程度育成されているから育てやすく、土も付いているのでそのまま水槽にほうりこめる。要はチートモードの水草な…

  • 酔仙歌仙

    小説家丸谷才一は玩亭という俳号を持つ。句集もたしかふたつ出しているが、それよりも連句の方で名高い。ふるくは夷齋石川淳・流火安東次男、晩年は大岡信・乙三岡野弘彦といった人たちと一座している。鯨馬が宗匠役で巻いた歌仙記録を差し上げたところ、礼状が届いたというはなしは一度書いた(「精励恪勤」)。その末尾にいわく、「でもやはり歌仙は一堂に会してなさるのが本筋ですよ」。新型ウイルス騒動よりずっと以前のことだからリモートを意識していたわけではないけど、互いの多忙を言い訳にして、文音(手紙などで付句をやり取りする方式)でばかり巻いていたのは、やっぱり「本筋」ではなかったなあ、と反省する。 というのは、先日神…

  • 雨にうたるるめだか鉢

    気象庁の「梅雨入り宣言」とは、例年の梅雨の時期・一週間程度雨が降る・当日も雨という基準で出されるのだそうな。そんなふわっとした「基準」ならいっそ出さなくても誰も困らないと思うのだが。宣言あろうがなかろうが、週間天気予報見れば雨かどうか分かるわけだし。 ○戸川隆介編纂『中国料理食語大辞典』(如月出版)○ロジェ・グルニエ『パリはわが町』(宮下志朗訳、みすず書房)……断章による自叙伝(作家と街との)。杉本秀太郎『洛中生息』と並ぶべし。○筒井ともみ『舌の記憶』(新潮文庫)……文体が合わなかった。○谷田博幸『図説ヴィクトリア朝百貨事典』(ふくろうの本、河出書房新社)……ディケンズなど読む時に重宝する一冊…

  • 断食気分

    週に一、二度断食をしている。といっても短くて十六時間、長くても丸一日程度だから正確にはプチ断食。健康を気遣ってではなく、偶々食事を抜いたあと体が軽く感じたので続けているだけのこと。ネットで方法は調べた。一日くらいならそこまで危険も無いみたいだから、適当にルールを組み合わせている。休日はともかく、仕事でばたばたしているときに水分だけはキビしいから蜂蜜入りの紅茶(某大量販売スーパーで売ってるような、安物のティーバッグが丁度よい)は飲むとか、アルコールは《対象外》とするとか(ただしこれも安物の缶チューハイのみ)。 実は体の軽さや減量効果は副次的なもので、何より断食明けの食事、つまり字義通りのブレイク…

  • 花づかれ

    桜より断然梅派だったのだけれど、この三年の騒動を経て花のうつくしさがしみいるように思えてきた。無論こちらが断固たる中年になったせいもある。ともあれ、加賀金沢は別格としても、花隈城・須磨浦公園、そして妙法寺川と今季はかなりまめに出かけた。近場ばかりだが、別に名所に行きたいわけではなくただ花をながめくらしたいだけなので、これでいいのである。 うらうら晴天の花隈城、暮れゆく海を背景の須磨浦公園、妙法寺川の夜桜と趣が異なっていたのも嬉しかった。花隈城では『いたぎ家』心づくしの花見弁当、妙法寺川では高速神戸『立ち飲み しゅう』のあつあつ関東煮(川沿いの夜桜見物は寒いのだ)。来年はどのように花を見ているん…

  • 加賀花尽くし

    閲してみると、最後の金沢は騒動が始まるまえなのだった。つまりはそこから青森県にぞっこん惚れ込んで通い詰めだったわけですな。無論金沢に飽きるなどあり得るはずもなく、ただただ北陸新幹線開通で東京方面および外国の観光客で雑踏するのが煩わしかった。 金沢を好きになった大きな動機である、当地出身の小説家・泉鏡花が生誕百五十年を迎える年にふたたび遊ぶことになったのも何かの縁かもしれない。一泊ながら、久闊を叙すことが出来たというか旧交を温めたというか焼けぼっくいに火が付いたというか、ともかく楽しんできました。 といっても今回は神戸は北区鈴蘭台の『ビストロ ピエール』ご一家及び店の客による「大人の遠足」のため…

  • 昼と夜との花相撲

    誕生祝いのメッセージを寄せて下さった皆様に、この場を借りて心から御礼申し上げます。 ○アンドレイ・プラトーノフ『チェヴェングール』(工藤順他訳、作品社)……小説(長篇)、今回はこいつが尤物。ロシア革命後の、にもかかわらず帝政ロシアの風格たっぷりの民衆の群像がすごい。○パブロ・トリンチャ『バッサ・モデネーゼの悪魔たち』(栗原俊秀訳、共和国)……絵に描いたような極貧・穀潰し親父の家庭に育った男の子が保護される。そしてその男の子ダリオは、親や親戚のみならず、神父や学校の教師を性的虐待・悪魔崇拝の廉で次々と告発してゆく。何十人という人間が告訴され、有罪判決を受け、無論家庭は崩壊した。だが戦慄すべき真実…

  • 松坂のダンナ~双魚書房通信(19) 菱岡憲司『大才子 小津久足』

    戯作者山東京伝が京屋傳蔵としてたばこを商い、国学者本居宣長は内科・小児科の医師を以て日常の業としたことはよく知られている。生活の資を得るためであることは言うまでもない。ただその場合、あきんど・職業人としての顔はいわば身過ぎ世過ぎの表看板であるのか、むしろその反対にがちがちの封建社会にあってしょせん舞文弄筆はかりそめのわざくれと見るべきなのか。 この問いに対し、能うかぎり具体に即き、多面的に観察して答えようとしたのが『大才子 小津久足』である。小津久足(一八〇四~一八五八)なる人物とは・・・つまりこの一冊(本文じつに四百二十頁)まるごとの内容となるのだから、ここで要約して御覧に入れるわけには参り…

  • 岡目の一目~えんぶり復活(3)

    土曜は朝から陸奥湊へ。東十日市組の門付けがある、えびす舞は就いて見るべし。と教えてくださったのは言うまでもなく二ツ森さん。中心街から小一時間ほど歩き陸奥湊駅前には六時半頃到着。普段から早起きなのでちっとも苦にならない。 まずは腹ごしらえ。今回は『みなと食堂』ではなく、新装なった駅前の市場内で朝食とする。焼き鯖とほうれん草おひたし、それに飯と汁の食事に、缶ビールのアテとしてホヤの塩辛・にしんの酢〆、鯖の冷燻という取り合わせ。食欲は充たされたけど、以前あったもっきり酒がなくなっていたのを憾みとする。 ゆっくりビールを呑んでいるうちに、二ツ森さん、それに師匠の友人である写真家の松本さん(東京在住)も…

  • 神の庭~えんぶり復活(2)

    ホテルの朝食時間を待ってると間に合わないから、コンビニおむすびとカップ味噌汁、それに『達』の唐揚げでそそくさと済ませ、長者山へ急ぐ。三回すっころびかける。浮き足だっている。 参道脇でじっと待つ。三年前に比べいかにも南部らしい寒さが清々しく快い。 待機している組銘々が奏するお囃子が鳥居の先から響いてくる。おや、目の前が霞んできたのは何故でしょう。 野蛮なる明治政府による禁止(門付けの「猥雑」なる故を以てと聞く)(役人のアタマの中の方がよほど陋劣鄙猥である)を経て、新羅神社の神事として復活したわけだから、本殿への奉納摺りが最も格式高いのは言うまでもない。観光客も敬意を表し、靴底から這い上る冷えを堪…

  • イヴは静かに更けて~えんぶり復活(1)

    一介の観光客ですらこんなに舞い上がってるのだから、地元の方々の喜びはどれほどか。えんぶり自体を見たかったのは言うまでもないとして、 愛する八戸の元気な様子に接することこそが結局今回最大の目的だったかもしれない。 八戸駅前、オンコ(イチイ)の周りは一面真っ白。こうでなくちゃと『中華 達』へ向かう途中もホクホク顔。大盛りで有名な店で、昼の時分どきは近隣の勤め人・学生ですぐいっぱいになる。 中華飯と唐揚げを注文し、ビールを飲みながら待っていると、相席の若い会社員の「マーボー飯の大」が届く。目立たぬように視線を遣ってビールを噴きそうになった。洗面器に盛ったほうが良さそうな量ではないかいな。いやしかし中…

  • 時次郎気分

    なんで更新しなくなったのか考えてみた。(1)中年の鬱(2)同じような内容が増えてきた(行事食とかね)(3)FB、Instagramなどで既に記事をあげている しかしよく考えれば、(1')中年のあとは初老・老年と鬱期が続くのだから(痴呆になったら天国やもしれぬ)(2')そもそも行事食は繰り返しに価値がある。続けてるという報告もそれとして大事(3')多分こんな極楽蜻蛉ブログをお読みくださる方はSNSとの重複を気になさらないはず と開き直ってやっていきます。 てわけで、今年の節分記事。といっても、五日が初午だったのでまとめて行事食。 *大福茶……昆布・へぎ梅(小梅漬がないので)・山椒(湯がいて冷凍し…

  • 卯年は卯酒で

    皆様に謹んで新年のお慶びを申し上げます。本年も、兎のように飛んで跳ねて・・・とは参りませんが、亀とすら競争する気のてんでない暢気者とのお付き合いを願わしう存じます。 では吉例腰折れ三首。 癸卯福来ねとかへす手みずの音うかれ耳に長くもひゞくもち月 兎噺三題かちかちと時計をよそに茶をすゝり昼寝する身に卯きことぞなき 海辺にて呑みていなば後の勘定白なみとがま口の中おほくにもなし 年ごとにお節を「リストラ」していって、今年は雑煮の他、なまこと煮〆と田作りだけとなった。「飽きずに呑めて、味が変わらないもの」という基準。鯖の生ずしは無論呑めるのだが、年末はあほほど高くなるし、浸かりすぎて堅くもなってしまう…

  • 歳末御礼

    公私ともに、心身ともに散々な一年でしたが明くる年もなんとか続けて参ります。 御高読まことに有難う存じます。皆様良いお年をお迎えください。 ○『キリスト教文化事典』(丸善出版)○アダム・フェルナー、クリス・メインズ『世界を変えた150の哲学の本』(創元社)○磯部久生『赤間茶屋「あ三五」そば歳時記』(花乱社)……蕎麦の実(剥き蕎麦?)はけっこう和え物の具に使えるのですな。やってみよう。○仲正昌樹『ニーチェ入門講義』(作品社)○平田聡・嶋田珠巳『時間はなぜあるのか?』(ミネルヴァ書房)○君塚直隆『イギリスの歴史』(河出書房新社)……暢達で読ませる。とくに素人にはなんともややこしい中世史を綺麗に語って…

  • 白飯天国

    元々メシはあんまり食べないところに、すっかり麦飯になじんでしまって(軽くて香ばしくていいもんですよ)、コメを買ったのは一年ぶりとなる。去年の今頃漬けた沢庵を取り出すのに合わせたのである。からくて堅くてクサいうちの沢庵漬には麦飯よりやっぱりぴかぴかの銀シャリが合う。 今回は宮﨑産ヒノヒカリ。無農薬の合鴨農法……というのは実はあまり気にしていなくて、それよりはざかけ・天日干しという点で選んだ。なにせ消費量が少ないから、長く味の変わらないことが大切。電気乾燥はすぐまずくなるように思う。もちろん玄米で買って炊くたびに精米する。 白飯にあうオカズを並べて鱈腹食ってやる!と意気込んで市場に行ったのですが、…

  • 竹に虎

    せめて一月に一度は更新するつもりだったけれど。 アレルギー性鼻炎から、急性副鼻腔炎。耳は言うに及ばず、目の奥、頬・顎、首筋とアタマの右半分のあちこちが痛く、大きな音や強い光がキツい。この間かかった耳鼻咽喉科、特に名は秘すが初めは竹数筑庵先生、次は山井養仙先生ともこちらの不審・不信を煽るような診療ぶりで、最後には「これはコロナかもしれぬ」なぞと言わて内科に回され、吹きさらしの椅子で一時間近く待たされたあげく、鼻に綿棒を突っ込まれ、そこから今まで出てもなかった鼻水が出始めた始末。もちろんどの医院でもしっかりカネはふんだくられる。陰謀論は知的賤民の道楽とばかり思い込んでいたが、食いものにされたとしか…

  • 序文について

    zoomで事前許諾も不要と知り、神戸大学国語国文学会のシンポジウムに参加してみた。『近世俗文芸の作者の〝姿勢〟[ポーズ]―序文を手掛かりとして』という。参加といっても、休みではなかったからデータ整理の作業を行いつつ議論を拝聴しただけ。この一文にしたって、ぼやっと繰り広げた連想を辿り返しただけのこと。なにか有用な議論を提起しようというわけではございません。あしからず。 序文を手がかりに、というのが興味深い。現代の本、しかもフィクションで序文が付くことは滅多にないだろう。著者の遺稿に他者が成り立ちを説明する、というような例外的な形態くらいなものではないか。逆に大概序文を持つ本もある。学術書ですね。…

  • 夏との和解

    あれだけ苦手だった暑さが多少許せるようになった。というより、冷房が堪える年齢になったのだ。あと一つ、高台の山際に引越したので、夏の盛りでも玄関と窓を開けていれば(雨さえ降っていなければ)、けっこうしのぎやすいという事情にもよる。えらく叙情的な題ですが、要は早くバルコニーにプール持ち出してひとりBBQしたいなあ、ということです。 さて、生り月ということばはないけれど、そう言いたくなるくらい今回は豊作。 ○鷲見洋一『編集者ディドロ 仲間と歩く『百科全書』の森』(平凡社)……895ページもあるが一度も難渋せずに読み了えた。自慢ではなくて、フランス十八世紀の事情に暗くても十二分に面白く読める快著です。…

  • 衰亡記

    トシとってだいぶアタマ悪くなったせいだろう、ここ一、二年で本を読む速度が著しく落ちた。久々の更新でこれだけしか高が上がらないことに慄然とする。また新書・選書の類が多いことにも我ながら辟易する。あれは「手っ取り早く情報を」という安手な感じがイヤ、だった。けれど「手っ取り早くカロリーを」という牛丼やの類がまあまあ食べられるようになってきているのと同じように、新書でも読んでコクのあるものが多くなってきているように思う。逆に単行本の味わいがしゃぶしゃぶしてきている。なら安い新書の方を買うわな。 ○橋本治『草薙の剣』(新潮社)○米澤穂信『米澤屋書店』(文藝春秋)○アントワーヌ・コンパニョン『寝るまえ5分…

  • サバトからワルプルギスへ

    大好きな町に三泊四日なんて瞬きの間のようなもの。新店開拓は今度二週間くらい滞在するときに回して(それでも足りるかしら)、ひたすら馴染みの店で食べる。よってこの日の夜は楢館向かいの『鮨 瑞穂』。 鯨頬肉(豪壮)や時知らずの粕漬け(しっとり)などで呑む。しかしやっぱりこの季節だとホヤである。もちろん新物を無論目の前で剥いてもらい、言うまでもなく酢もレモンも添えずに食べる。口の中に大海があるようで、ある意味鯨と堂々張り合うだけの強さがある。鮨は槍烏賊・海胆(面白いことを聞いた。当然八戸産なのだが、漁師によって、並べ方が全く違うのだそう。実際、二つを見せてもらうと素人玄人みたいに丁寧さの差が明らか)・…

  • 朝飯天国

    太平楽・極楽とんぼが身上の本ブログ、旅日記もそろりそろりと参ります。御見物様にはお茶煙草鮨弁当などお使いになってゆるーっと御覧下さい。口上左様っ。 初日Casa del Ciboの後はゆりの木通りの『酒BARつなぐ』へ。当方が愛読する八戸ブロガーさん達のことや、無論日本酒の話などを肴に呑む。鰺ヶ沢の尾崎酒造『安東水軍』が良かった。品評会金賞なのだが、熟成させて品格が出ている。山田錦・吟醸香のあのタイプはもういいんではないかな。と個人的には思うけど、アテに合わせるんではなくこうしたバーで飲むならまだ需要はあるのかもしれない。 浅酌で店を出たにも関わらず、平日のせいか中心街は人通り少なし。鯨馬もさ…

  • 北の河豚 果樹園の野菜

    十三日町でバスを降りると、ニュースで見たとおり三春屋にシャッターが降りていて、「長年のご愛顧」云々の貼り紙が。当方、長年ではないけれど、八戸に来るたびに買い物を愉しんでいた。まあ、鯖ずし・ジュノハート・糠塚胡瓜・南部味噌などいわゆるデパチカにしか用はなかったのだが(『らーめんふぁくとりー のすけ』にも用があったな)。おっとりした雰囲気がなつかしい。 チーノという向かいの商業ビルの閉鎖・取り壊しも決まっている。三春屋も合わせて、この騒動がとどめを刺したのは確かにしても、八戸の町(中心街)を再生させてゆくか、という潜在的な課題が予想より幾分はやく露呈したわけだろう。 うーむ、半年ぶりの八戸旅行での…

  • 土地の精霊

    文楽四月公演第二部は『摂州合邦辻』。無論見せ場は合邦庵室なのだが、その前の万代池の段も良かった。「仏法最初」四天王寺という聖俗綯い交ぜの霊場の雰囲気、具体的には合邦の説法の猥雑さと零落の貴公子の嘆きとが一場のなかに自然と共存できる不可思議さがこの浄瑠璃にはどうしても必要なのだ(一時期あの辺りに住んでたことがあり、あの雰囲気は実感としてもよく分かる)。 民衆の混沌たる信心も生の悲惨も何もかも受け止めてくれる場があればこそ、玉手御前の死も浄化されて見られるものとなる。だから、この段の最後が「仏法最初の天王寺、西門通り一筋に、玉手の水や合邦が辻と、古跡をとゞめけり」と閻魔堂の縁起を説いて締めくくられ…

  • メランコリーの解剖

    頭に霞がかかったようで気分も沈みがちなのは、第一に花粉症、次に八戸三春屋閉店のせいだけど(ホントに地下の食品売り場は良かった!)、海彼の干戈のうわさに因るところも少なしとせず。ふっと思い出したのが、林達夫の一文。「『旅順陥落』ーある読書の思い出」という。日露戦争には進歩的立ち位置にある日本のブルジョワジーによる反動主義的ブルジョワジー(つまりロシアの専制政治ということです)粉砕という側面があるとレーニンは指摘した。しかしその「後継者」を自認するスターリンはあろうことか、日本との戦争(これはもちろん第二次世界大戦)に当たって「赤軍兵士」の恨みを今やはらす時が来た(!)とアジっている。この臆面もな…

  • 儺をやらふ

    なんと三ヶ月ぶりです。年末年始は文字通りに酔生夢死、続いて八戸えんぶり中止を知って意気消沈しておりました。なんとか鬼を払って気分を励ますべく、今年は追儺の料理をしっかり作りました。 【其の壱】これはひとひねりした方。*福茶……昆布、山椒、梅干に湯を注いで飲む。煎茶という手もあるけれど、吸物代わりだから湯で。煎り大豆もよい(黒豆だとより香ばしい)。酒のあと、酔い覚ましにもうってつけです。間に合わなければ宿酔のときでも。*塩鰯……昔は安い時期に買い込んで塩漬けしておいた鰯を節分に焼いたものだそう(上野修三さんの本で知った)。油焼けで腹は割れ赤っぽくなったから赤鰯。今のスーパーで売ってるのはそこまで…

  • 嵐のあと

    九月には八戸でも、地区を限ってのことだが独自の時短要請が出ていた。今回は三泊。週末を挟んだ旅だったが、はじめて訪れたとき(たった三年前!)と比べても中心街の人通りの減少は歴然としている。余所者ながらにつらい眺め。とはいえ旅行客に出来ることは経済を回す蟷螂の一斧となるくらい。つまりは精一杯飲み歩きました。以下覚え書き風に。 ★番町『Pot d'Etan』。ランチとはいっても、夕景まで満腹が続く充実のコース仕立てだった。【アミューズ】黒オリーブのペーストを詰めたポテト、ポロネギのタルト【前菜】レンズ豆サラダ、姫林檎の中にパンデピスを詰めたもの、蝦夷鹿サラダ、豚足と香茸のテリーヌ※鹿が官能的。テリー…

  • わにとワクチン、お岩さま~九月雑纂

    ★たまたま週に二度、動物園に行った。一度目は王子動物園。二度目は天王寺。どうしても比べてしまうのだが、大きさで劣るのは仕方ないけど、我が王子動物園、もう少し展示に清新で動物も元気が出るような工夫が出来ないものか。天王寺は真上を高速道路、真横にJRと極端な悪条件の立地にもかかわらずこせつかなく見えるようにかなり計算が行き届いているように思う(ただし悲惨なところは悲惨である)。 ☆はじめてシネマ歌舞伎なるものを見た。当然劇場は神戸国際松竹。串田和美演出の舞台『四谷怪談』を映画用に編集したものらしい。七之助のお袖が可憐。国生時代の橋之助の声も良かった。もっと古い時代のアーカイヴをどんどん流していただ…

  • 行く夏とは言わない

    夏井いつき先生の『俳句ポスト』がリニューアルしてからもひとつ戦果がふるわない・・・・・・。 ○林家染丸『上方らくご歳時記』(燃焼社)○澤田瑞穂『中国史談集』(早稲田大学出版部)○ジェス・ウォルター『美しき廃墟』(児玉晃二訳、岩波書店)○野口冨士男『巷の空』(田畑書店)○ガーズィー・ビン・ムハンマド王子『現代人のためのイスラーム入門』(小杉泰訳、中央公論新社)○バーバラ・H・ローゼンワイン『怒りの人類史』(高里ひろ訳、青土社)○チゴズィエ・オビオマ『小さきものたちのオーケストラ』(粟飯原文子訳、早川書房)○ローズ・マコーリー『その他もろもろ』(赤尾秀子訳、作品社)○シュテファン・ツヴァイク『聖伝…

  • 子鳩とブラックジャック

    雲が垂れ込めるなか、上京の『仁修樓』へ。松坂木綿の縞物を着ていたが、店に入る頃には汗みずくになっていた。 一年ぶりということもあって、こちらからは「うんと。」とお願いしていた。その「うんと。」コース《紫美》は以下の如し。 (1)甜醤鰻魚捲(2)什錦花拼盤(3)燕窩木瓜盅(4)石岐烤乳鴿(5)XO炒鮮鮑(6)妙品三宝鴿(7)海胆冷拌麺(8)美味甜点心 ※(1)骨切りした鰻を、葱・山椒・生姜を揉み込んだ水に二日浸ける(臭み抜き&身をやわらかくする)。引き上げた身を巻いて揚げる。香料を入れて煮詰めた醤油だれ。鰻を揚げているくせになんとも軽やか。ひと品めから目が覚めるような鮮やかな味。横に、鰻の中骨も…

  • 蝉とフナムシとわたし~宇和島再訪(2)~

    二日目は日振島の日崎海水浴場(こちらには名前がある)で泳ぐ予定をしていた。高速船の乗り場に行ってみると、ちらほら客の姿はあるものの、釣り竿を携えたおとっつぁんか、明らかに帰省途中の人ばかり。今日は日曜日で、晴れてて、海水浴場も閉鎖されてなくて、んでもって日振島に渡る便てこれ入れて3便しかないはず。ああ、朝から移動もめんどくさいから前日キャンプしてそのまま泳ぎに行くのだな「普通」の客は、と無理矢理自分を納得させて乗り込む。 あくまでも穏やかな海を走ること一時間弱、案の如く帰省客は別の港で下船、そして海水浴場がある明海(あこ)港で降り立ったのは鯨馬ひとり。海水浴客は置くとしても、漁港で日曜なればも…

  • おぼれてもひとり~宇和島再訪(1)~

    「ああこの町にはもう一回来るな」と思いそしてブログに書いてから(「四国二分の一周② 宇和島~夢の街~」参照)、十年後の再訪は悠長に過ぎると見るべきか、それとも志操堅固にして有言実行(?)と見るべきか。 ともあれ新幹線・特急「しおかぜ」「宇和海」を乗り継いで五時間。時分どきなれば、『ほづみ亭』で昼食。鯛めしやふくめんにはあまり食指が動かず、じゃこ天や「ほご」の煮ざかな(メバルかな。ぷりっとしてて旨い)で心ゆくまでビールを呑む。 午後はお城や和霊神社を廻るつもりだったが、店を出ると南国らしい強烈、というより猛烈な陽差し・・・これは水に浸からねばなるまい。 と思い立ってホテルでママチャリを借り、観光…

  • うにときうりの祭~八戸旅日記(3)~

    三年前(もう八戸に惚れ込んで三年にもなるのだ)、はじめて種差海岸に行った時は七月にも関わらず吹き付ける冷たい霧にこれがやませかと感銘を受けたのだが、今回はそれ以上だった。海を向いて一分も経たず眼鏡がべたべたになるほど、霧の流れがきつく、また濃い。三十メートルも離れれば白い闇のなか。海も大荒れに荒れていて、音がすごい。 なめらかに広がる芝生とその上を奔る霧と向こうに荒れ狂う波と。たしかにこれは日本の他のどこでも見られはしない風景で、『波光食堂』が開店するまでの一時間半はあっという間に過ぎていた。 ここは八戸の複数の知り合いが「海胆の店」と教えてくれたところ。やませですっかり体が冷えてしまったが、…

  • 湊高台の一夜~青森・八戸旅日記(2)

    朝から細心にチューンアップしてお腹が鳴るほどである。いざ『Casa del Cibo』。 この日のコースの内容以下の如し。 ◎トピナンブールのビスコッティに挟んだペリゴール産フォアグラのテリーナ・・・「トピナンブール」は菊芋のこと。ペリゴール産だから、あぶらは綺麗で、でもやっぱりフォアグラだから濃厚で、これから始まるぞよ、といやが上にも気分が盛り上がる。◎八戸産ヒラメの椎茸〆カルパッチョ仕立て・・・つまりアレです、昆布〆の昆布を乾燥椎茸に変えたわけです。すごいなこの発想。昆布では香りがつよくなりすぎるので椎茸、そして椎茸もたとえば和食で使うような干し椎茸を粉にしてまぶしたりはしないところ、むし…

  • 森とみずうみのまつり~青森・八戸旅日記(1)

    久々に青森市で一泊。ホテルに荷物を預けてすぐに橋本の『鮨処 すずめ』へ。ここははじめて。「はじめにアテで呑みます、その後でおすしを」。 《アテ》○烏賊の鉄砲煮○栄螺壺焼き・・・きちんと鮨やの壺焼きになっている。○造り・・・鰯の酢〆・大間の鮪(赤身)・イシナギ。イシナギは初めて食べた。旨味が強い白身。○鯉の吸物○牡蠣・・・味噌と卵黄でグラタン仕立て。○水蛸の唐揚げ・・・明石の真蛸を食べつけている人間は正直「水蛸ねえ」と思ってしまうが、ほろほろして、いいものである。《すし》○鮃○帆立○牡丹海老○白身二種(失念)○〆鯖(牡丹海老の頭の吸物)○大間の鮪二種(赤身、中とろ)○槍烏賊○鮃エンガワ○海胆・・…

  • 水無月盡

    六月も終わりと気付いて慌てる。こうやって人は死に近づいてゆく。明日からは青森。 ○竹村牧男『唯識・華厳・空海・西田』(青土社)○ジーナ・レイ・ラ・サーヴァ『野生のごちそう』(棚橋志行訳、亜紀書房)○ジョージ・サルマナザール『フォルモサ 台湾と日本の地理歴史』(原田範行訳、平凡社ライブラリー)・・・男の読み物は旅行記と博物図鑑に極まると喝破したのは種村季弘大人。双方兼ねた本書なぞはさしずめ最強の一冊というところか。思えば『ガリヴァー』は言うに及ばず、マンデヴィル『東方旅行記』などこういう〈綺想〉の旅行記は昔から好物だった。エーコの小説では『バウドリーノ』を最も好むのもそのせいか。○金井美恵子『〈…

  • 魚菜記

    ようやく水槽を立ち上げることが出来た。生体はアフリカンランプアイをメインに、透明系のカラシンとミナミヌマエビ。水草は、百二十センチに二十種類で、大概のアクアリストが憫笑されそうな、とりとめのない水景だが、もともとこちらが雑草が生い茂る原っぱを理想としているので、これで、いいのである。 バルコニーでも色んなハーブやら野菜の苗が根付きつつある。ただなにせ本当に前後左右何もないマンションなので、思った以上に風が強く、一度胡瓜の茎を折ってしまったのはむごいことをした、と反省。 外に飲みに行けないからやむなく熱帯魚やらハーブやらの世話にかまけてる・・・わけでもなくて、うーむ。俺は元々飲みに行かなくても良…

  • パン屋へ三里 豆腐屋へ二里

    板宿暮らしにだいぶん馴染んできた。前のマンションは一人住まいを始めて最も長くいたところだったから、引っ越しして一月半でここまで来たのは随分早い。と思ったが、自分が馴染めそうな町を選んで移ったのだから、まあ当たり前ともいえる。 馴染めそうと感じた一番の理由は無論(と強調したい)、飲み食いする店が多いこと。大資本のチェーンも当然あるのだが、小体な個人経営のところが多いので気に入った。三宮みたいに、食べログやミシュランに載って大流行り(してすぐ廃れるまたは味が落ちる)ということもなく、いつも地元の客でそこそこ繁盛してるという按配がよろしい。 雨の昼下がりにお湯割りをすする店、じっくり旬の肴を味わう店…

  • 三月盡

    宿替えのばたばたはまだまだ続いており、今回も三月終わりと気付いて慌てて書名を記すのみ。 ○母利司朗編『和食文芸入門』(臨川書店)○マーティン・ライアンズ『本の歴史文化図鑑』(三芳康義訳、柊風舎)○ロデリック・ケイヴ/サラ・アヤド『世界を変えた100の本の歴史図鑑』(大山晶訳、原書房)○フェルナンド・バエス『書物の破壊の世界史』(八重樫克彦訳、紀伊國屋書店出版部)○ロバート・リデル『カヴァフィス 詩と生涯』(茂木政敏・中井久夫訳、みすず書房)○『ニッポンの名茶碗100原寸大図鑑』(小学館)○東雅夫編『ゴシック文学入門』(ちくま文庫)○谷川渥『文豪たちの西洋美術』(河出書房新社)○三浦功一郎『はじ…

  • 春落ち着かぬころにもあるかな

    新居への移転から始めたブログであるのだから、退去のことはやはり書いておくべきだろう。 売却から転居に至った経緯については憮然とさせられることいささかならず(借金で夜逃げしたわけではありません)。まあ、しかし自分の持ち物に我と処分を下した訳だから、これ以上はふれない。 モノを蒐める性分ではないのに、十年住んだらそれなりに増えるもの。購入希望の声を聞いてから実際の引越まで一月と少しあったけれど、すぐに業者を決めて荷造りを始めた。独り身で仕事をしながら一三〇箱ぶんの本と家財道具を整理しようとすれば、毎日少しずつハコを作っていくほかない。帰宅してシャワーを浴び、サントリーの角をぐびぐびやって(ハイボー…

  • えんぶり感傷旅行(3)~東奔西走~

    月をまたいだのではどうも間が抜ける気がするので、残りの三日をまとめて記す。 【某日】 ○昼 十三日町『Porta Otto』へ。ランチが有名で人気なのも分かる。肉・魚・野菜で十二、三種類はある前菜の盛り合わせにパスタ(鱈と菠薐草のトマトソース)、食後のコーヒーで千円です。前菜でゆっくり白ワインを啜っていたかったがなにせ次から次へと客が入ってくるので、グラス一杯で席を立つ。今度は夜に来よう・・・ああ、でもその前にやはり『Casa del cibo』に行きたい。。。 午後は是川縄文館へ向かう。青森県の国宝は三点で、全部ウチにあるというのが八戸市民の誇り。なかんづく合掌土偶には、元々縄文文化(一万年…

  • えんぶり感傷紀行(2)~まぼろしの囃子~

    朝食もそこそこに長者山新羅神社へ。奉納摺りが中止なのは分かっちゃいるけど、せめて同じ場所で昨年のあの記憶をたどりたかった。 まずは無事八戸に着いた御礼を、と思うが賽銭箱がいつもの場所にない。訊ねるにも神職は女性と話している。聞くでもなしに聞いていると「いつ始まるか」「途中からは本殿の中で」との声が切れ切れに。 胸あやしくとどろいて、お詣りしたあと周囲を見回してみるに、「親方」(えんぶり組の先導者)のなりをした人影が。えーっ。どーゆーこと!?と混乱しながらも社前の広場に戻れば、なんとまあ紛れもないえんぶりの一組が。それでもまだ狐につままれたようなまま突っ立っておりますと、うん、たしかに目の前で囃…

  • えんぶり感傷旅行(1)~艱難辛苦は神の声~

    粉雪の店 一皿に北海の海あり。 極楽とんぼにも程がある。今回ばかりは痛感した。騒動で乗るはずの飛行機が減便対象になったくらいならともかく、そもそも本来の目的だったえんぶりも完全中止となった上、地震で新幹線が動かなくなった時点でなにかしら手を打っておくべきだったのだ(旅行自体を取りやめるという選択肢はない)。まして台風並みの爆弾低気圧の影響で、北陸から北の在来線が軒並み影響を受けているとは、前日からの報道。にも関わらず「取りあえず仙台に出ればなんとかなるだろう」との甘ちゃん根性は大概にせい。 と、朝の仙台駅でひとしきり自分に毒づいたことでした。ともかくまったく電車が動かないのである。スマホの画面…

  • 冬ごもり

    色々あって気が滅入っているが、それでも本は読まねばならぬ。というか、本こそ間違いない慰め。○マーカス・デュ・ソートイ『レンブラントの身震い』(富永星訳、新潮社)…『素数の音楽』著者によるAIをめぐるサイエンス・ノンフィクション。チェスと囲碁・絵画・音楽・数学・文学(特に小説)でAIはどこまで人間に迫り、あるいは越えられるか。もちろん答えは出ないのだが、AIの仕組みが丁寧に説明されていて有用。それにしても、この分野の翻訳、質が上がったなあ。○ロラン・バルト『ミシュレ』(藤本治訳)…藤原書店が出している『フランス史』シリーズとももう10年の付き合いになる。ある程度ミシュレの著作に親昵したうえで、全…

  • 辛丑(かのとうし) ご挨拶

    吉例の腰折を三首。 辛丑元旦梅が香の童子前追ふ都路のあちが天神東風がかんじん鐘の音憂しと聞きしは昔にて角の女房にぎゅうとしぼらる大道で柔弱謙下と寢し朝の最上善は一杯の水 どうぞ今年もよろしくお願いします。

  • 鳥獣の王

    今季のジビエは2回。対照的な出し方で、両方とも愉しみました。自分の心覚え代わりに記しておく。 【T.N】 ○鹿と雲丹とキャビアのタルト ○穴熊と猪のテッリーナ 洋梨 タレッジョ ○山鶉 トリュフ 栗のトルテッリ ○雉子 ポルチーニ タヤリン ○洗い熊のストラコット ○カラマンシーのグラニテ ○雷鳥 真鴨 尾長鴨 ○モンテ・ビアンコとほうじ茶のジェラート ※雷鳥、真鴨、尾長鴨は全部出たのである。真鴨=真、尾長鴨=行、雷鳥=草という味わいの違いが妙。ワインはペアリングでお願いしていたのだが、雷鳥は「スコットランドの国鳥ですし」と、なんとスコッチ(バランタイン)を出すという洒落た合わせ方。 【Ron…

  • 二百七十字の八戸

    鮨大沢昼の酒八仙試飲がわんこ酒状態鬼門青魚祭魚屋烏賊運び込む蜘蛛の糸女将さんやっぱり美人はっちで菊見て下田イオン尾形の馬刺しに桜鍋割烹丹念大将闊達大間鮪流石八戸天ぷら初体験KIMU家の大将ともようやく会えた酒BARツナグは元蔵人酒蔵事情が面白い郷土史頂くmamoさん感謝日曜朝は館鼻岸壁朝市豊饒混沌小宇宙狂喜乱舞で食べまくる茸に干物買いたかったブロンズグリルでハンバーガーついでに番丁庵の昼酒肴酒蕎麦なべて佳し八戸公園遠かりきされども紅葉燦然とサカナヨロコブ烏賊ワタルイベはお定まりらぷらざ鯨汁もお定まり思いは既に二月のえんぶりに飛んでいる 以下は覚え書きというまで。 ○佐藤優『「日本」論 東西の革…

  • 贔屓誕生

    ○ジャコモ・レオパルディ『断想集』(國司航佑訳、ルリユール叢書、幻戯書房)・・・イタリアの国民的詩人(『カントー』は脇功訳あり、名古屋大学出版会)の断章風エッセー。厭世観と同時に「本当の詐欺師は決してだまされる相手をみくびらない」など妙に老成した箴言が混じるところが面白い。愉しんだのですが、この叢書が凄い!ウージェーヌ・シューの『パリの秘密』(五巻!)、ユゴーの『笑う男』他、スタール夫人とか(シブイ!)、ネルシアのポルノグラフィとか、そして何よりかねて贔屓のシリル・コナリーの『不安な墓場』など、なんとも野心的なラインナップである。うーん、これは光文社古典新訳文庫以来の快挙ではないか。応援します…

  • この不都合なる世界~双魚書房通信(18) スティーヴン・グリーンブラット『暴君 シェイクスピアの政治学』~

    グリーンブラットは贔屓の学者。新歴史主義の驍将としては『ルネサンスの自己成型』(高田茂樹訳、みすず書房)、シェイクスピア研究の本領発揮の『煉獄のハムレット』(未訳)といったところか。といってもがちがちの学者先生ではなくて、近くはピュリッツァー賞をとった『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』(河野純治訳、柏書房)など、ルクレティウスの写本発掘というマニアックな話材でぐいぐい読ませる。 才人がこの薄い一冊で語ったのは「なぜ国全体が暴君の手に落ちてしまうなどということがありえるのか?」という問題。もちろんシェイクスピアがどう取っ組んだかを叙していくわけだが、執筆の動機は巻末の「謝辞」(向こうの著者…

  • ウォーかく戦えり

    今月は誰がなんと言おうとウォーの『つわものども』(小山太一訳、白水社)。これは第二次世界大戦を舞台にした「名誉の剣」三部作の一作目。訳者あとがきを見て驚いたのだが、ウォーの邦訳は、『ヘレナ』のような愚作も含め、すべて読んでいたのだった。優雅にして滑稽、辛辣なのは戦前の作風に同じ。思えば『ブライズヘッド』はウォーが唯一失敗も厭わず書いて「しまった」作ではあった(この失敗を、鯨馬は鍾愛している)。ただしこの滑稽や辛辣を諷刺・批判といったあまり上等ではない精神の構えに還元してはならないので、題材が題材だけに、“平生”が平生であり続けられなくなる、あるいは歴史が事実の重みに耐えかねてきしみをたてる、そ…

  • 素人包丁・月見の巻

    一気に秋らしくなったので、今年の名月はそれらしく眺められたのではないでしょうか。もっとも、せまじきものは宮仕え、当日はあり合わせで酒を暖めた程度。その代わりに、二日遅れの月見料理、中秋の懐石ごっこで一人愉しんだ。 以下膳組の手控え。 【飯・汁・向】ひと月ぶりくらいに飯を炊いたので少し固め。こちらの方が好みではあるが、懐石の一文字はやはり所謂「びちゃ飯」でないと感じが出ない。汁は小芋六方・おくら・塩蕨、吸い口はへぎ柚。南部の玉味噌。向は鱧皮と胡瓜もみ。三杯酢の酢には酸橘をしぼって。 【椀盛】小鯛一塩・焼き茄子(白茄子の皮を剥いて)・干し椎茸・三度豆・生麩(胡麻)。吸い口は柚輪切り。 【焼物】鶉の…

  • ナは長月のナ

    めっきり連句興行も少なくなった。消閑の手すさびに最近は俳句を作る。近作ふたつ。 野分してすぢりもぢりとこの列島 碧村 野分の朝叛徒等處刑せられたり ○花村萬月『帝国』(講談社) ○小沼丹『不思議なシマ氏』(幻戯書房)・・・たまにはこういう膝カックン的な小説、いいなあ。 ○フレデリック・ルノワール『スピノザ よく生きるための哲学』(田島葉子訳、ポプラ社) ○フレデリック・マルテル『ソドム バチカン教皇庁最大の秘密』(吉田晴美訳、河出書房新社)・・・これでもかこれでもかというハリセン調。たまにはこういう扇情本、いいなあ。 ○堂本正樹『回想 回転扉の三島由紀夫』(文春新書) ○木村妙子『三木竹二 兄…

  • 余は如何にして死体となりし乎

    夏は怪談。というのも実はよく分からない結びつきながら、伝統は重んじるたちだから連休中はそれ関連のものばかり読んでいた。いくら名手・傑作揃いといっても、岡本綺堂あるいは内田百閒(その他色々)ばかりではやっぱり飽きてくるから、こういう時はアンソロジーに限る。東雅夫さんが選んだ「文豪ノ怪談ジュニア・セレクション」など、これがほんとにジュニア向けか、という充実の編輯ぶりです。ただ名作選の限界で、どうしても作品の顔ぶれがどこかで見た感じになってくる。そうなるとかえって『青蛙堂鬼談』や『冥途』に戻りたくなるから不思議なものだ。 で、怪談にも飽きるとゾンビ本・ゾンビ映画に切り替える。似てるって?私見によれば…

  • うつせみ

    最近は取りつかれたみたいに八戸ばかり。で、なんとなく青森の方はあっさりとした付き合いという感じだったが、今回は二軒もいい店に出会えた。一泊で二軒というのはかなりの打率ではないでしょうか。 一軒目は古川の市場近くにある立ち飲み屋『十七番』。これは夜ふらつきながら見つけた。しかも開店してまだ二日目。こういう発見の仕方が堪らない。メニュー豊富で何よりお昼からやってるのが嬉しい。次は向かいにある本店(?)の『JustinCoffee』からニボリタン(煮干し入りナポリタン)の出前取ろうっと。 二軒目はイタリア料理の『AlCentro』。青森の名店であり、今更ことごとしく出会いというのは当方が鈍だっただけ…

  • うににまみれるうりに淫する~コロナに抗して孤独旅②~

    前日の夜においたしなかった(ちょっとだけした)功徳で、朝早くから目覚める。これ幸いと市バスに飛び乗って陸奥湊駅へ。陸奥湊の朝といえば『みなと食堂』。あまりに有名すぎる店なので実は今まで敬して遠ざけていた。店前に行列が出来ているのも気ぶっせいでしてね。この日も行列があればやめておくつもりだった。 朝食その① 平目漬け丼・・・いちばんの名物。飯の上に切り身がびっしり。真ん中には卵黄。魚の色はうっすら染まっているくらいなのに、口にするとしっかり味が付いているのが不思議。半分はそのままで、もう半分は卵黄をまぶしながらかき込む。よくぞ瑞穂の国に生まれける。朝食その② 生海胆丼・・・朝飯のお代わり、それも…

  • 我火星人なりせば~コロナに抗して孤独旅①~

    えんぶり以来、ということは半年も経っていないのだけど、合間の大騒動を考えると随分久々という感じがする。 八戸駅からそのまま鮫駅まで乗り、バスで小舟渡まで。種差海岸で「いちばん海に近い食堂」として有名な『海席料理処 小舟渡』で昼食という心づもり。 近いどころか、海の上に突き出したという造りで、失礼ながら漁師小屋に毛の生えたような建物がよくうつる。まさに目の前の岩に波がくだけるのを見ながら何はともあれビールをぐいっとやる快感は言うまでもない。今朝はあまり上がらなかったとのことで、お目当ての生海胆丼は注文できず。代わりに定食を頼んだのですが、これは定食というよりコースですな。まず出ましたものを書き連…

  • 四国水族館に行ってきた

    六時過ぎに家を出て、開館前に着いたはずだが、なんじゃこの長蛇の列は。当然館内も大混雑で、こりゃいつクラスターが出てもおかしくないわなと少々ビビりつつ回った・・・からという訳ではないが、もひとつ食い足りない。「○○の景」という展示(しかもサカナの説明は一切無し)がしゃらくさいし、中途半端な大きさの水槽が多く、仰ぎ見る愉しみやのぞき込む愉しみがあまり味わえない。何を目指しておるのか。 とまあ、ワルクチを並べ立てたくなるのですが、曲がりなりにも神戸から半日で行ける場所に折角新しい水族館が出来たのですから、屋外と屋内を自由に行き来できる開放感と、なんといっても瀬戸内の海景を背にした抜群の眺めとをここで…

  • 壺中天

    某日 京都は北大路、『仁修樓』再訪。これだけの味を堪能出来るのなら、新快速で一時間(+地下鉄十五分+タクシー十分)はちっとも面倒だと思わない。 「紫美」と名の付いたこの日の献立以下の如し。 *凍冬瓜盆……蒸した冬瓜をくりぬいたところに、蟹身と鱶鰭を詰めている。見た目といい味といい水無月の京のひと品めはこうでなきゃ、という一品。でも日本料理ではないのだから、冬瓜も周りのジュレも一口目は涼やかな印象ながら、旨味の底が深い。*冷製前菜……①トマトと玉蜀黍を胡麻味噌ダレで和えたもの、②くらげ、③野菜甘酢。中華の前菜として尋常な顔ぶれ。つまり、上岡さんが「他との違いを見てくれ」と気合いを込めているという…

  • 日没閉門

    ある会合でご一緒した方が陽性と判明。ブログ子も二週間の自宅待機を余儀なくされた。さすがに夕景になっても呑みに出る訳にもゆかず、気分としては蟄居謹慎仰せ付けられた感じ。 テレワークをしていると、職場ではなんだかんだと体を動かしていたことに気づく。運動不足およびストレス解消のために、昼の休憩時には近所を散策。ま、客観的には徘徊というべきでしょうが。爛漫の花の下に人がいないのはやっぱり異様な光景で、もし世界破滅モノの小説書くならこの光景から始めるのもいいな、と考える。 夜の時間は読書して過ごす。ゲームしたり、映画を見たりする気がほとんど起きなかったのは我ながら意外。 ○桐山昇・栗原浩英『新版東南アジ…

  • 双魚書房通信~奇人VS学究 川平敏文『徒然草』

    『徒然草』と聞くと誰でもげんなりする。教科書古文の代表作だからである。著者は「そうでもないんですよ」と横に立って言う。その口調が、大上段にふりかぶる感じでもやたらと力んでる感じでもないのが好もしい。 川平さんは本来は近世文学の専家。江戸時代の人々がどうこの書を読んできたかを研究してきた。文部科学省検定済みの読み方、とはつまり現代、というよりは戦後日本の古典文学観を相対化するのにもってこいの立ち位置である。返す刀で(という比喩は変か)、近世の人々がどんな眼鏡をかけていたかも浮き上がるという仕組み。一粒で二度美味しいとはこのことである。 篤実な学究だけあって、ふしぶしにほぉという知見がある。たとえ…

  • たつぷりと象の屁をひる日永かな

    王子公園に出るついでがあったので、久々に動物園に寄ってみた。コロナ騒動で、屋内閉館のところが多いために入場無料。そこそこ親子連れでにぎわっていたのは慶賀すべきだが(帰りにはどこかのお店で食事していきましょう!)、熊のボーといい、レッサーパンダのガイアといい、老いの衰えのあらわなのに哀れ、いや、「もののあはれ」をおぼえる。 ○村岡晋一『名前の哲学』(講談社選書メチエ)・・・面白かった。古代ギリシャからの「名前」についての学説史の整理のようなつくりだが、名詞、ことに固有名詞がこれほど哲学の”問題児”扱いされてたとは知らなんだ。なかでも著者が専門とするドイツ・ユダヤ系の思想家(ベンヤミン、ローゼンツ…

  • 門々より囃子のこゑ~えんぶり紀行(3)・了~

    定宿の朝飯はせんべい汁も出てすこぶる充実している。普段ならゆっくりしたためるところ、この日はせんべい汁だけ啜って飛び出した。言うまでもなく新羅神社での奉納摺りに駆けつけるためである。 今のうちにえんぶりの基礎知識・用語をまとめておきましょう。 *起源は不明だが、豊作の予祝儀礼として始まったという説が多い。*踊る・舞うと言わず、摺ると言う。地面に擦り付けるような動作が多い。田植えの動作を模したからだという。*門付けの風習が卑賤だとして、明治にはえんぶり自体が禁止される。⇒識者の奔走で、新羅神社の稲荷の神輿渡御に伴う豊年祭という形で復活。つまり元々は特定のお宮に属さない祭礼だったらしい。*地域ごと…

  • 中休み、でも宴~八戸えんぶり紀行(2)~

    【朝】 朝食の後、長者山新羅神社へ。ここは「八戸」えんぶり(八戸以外にもえんぶりの祭りはあります)の口切りとなるお宮。明日の本番前に参拝しておこうと足を向けた。社域までの坂道、亭々たる杉木立に気持ちが清められる。 本殿。まずはまた八戸に来られたことを感謝し、次いで明日の豊年祭が無事行われるよう祈願する。何台か準備のトラックが入っていたとはいえ、拍子抜けするくらい人がいなかった。 山を下りて向かうは三日町の『はっち』。お目当ての「えんぶり手ぬぐい」を買い求め、館内をぶらぶら。町中だけあってそこそこ人が入っている。土産を探す観光客のなかに、テーブルで参考書を広げる高校生の混じっている光景がいい。 …

  • 鬼が笑う門~八戸えんぶり紀行(1)~

    乗り継ぎが綺麗に決まって八戸の中心街に着いたのはちょうど時分どき。目当てにしていた天ぷらやは「土曜のランチはやってないんです」とのこと。まあ三泊するんだから一回くらいはこういうこともあるわな。次回の楽しみとしておきましょう。近くのレストランに入り、刺身定食と烏賊の天ぷらでビールを呑む。 雪は期待していなかったけれど、それにしても温かい。えんぶりの日はどうなることやら。ともあれ荷物をホテルで預けて、小中野にあるギャラリーへ向かった。 『すぐそばふるさと』というサイトがある。地元八戸へのしたたるような愛情が伝わる写真が素晴らしく、あと鯨馬としてはとりわけ文章の好もしいのに興味を惹かれ、インスタグラ…

  • 洛北桃源郷

    京都は北区の『仁修樓』会。待ちに待ったというところ。某年某所での『海月食堂』岩元シェフとのコラボイベント以来の大ファンである。独立して店を構えたら、とはつまり上岡誠さんが自分の心ゆくまで腕がふるえるところではどんな旨いものが出るのかと、思い描いては舌なめずりしていた。 隅々の設計までこだわりぬいたという店に一歩入った瞬間、自分の想像力がいかにも貧困だったと直観する。そして料理が出始めるといよいよその感は強まるのだった。※以下、料理の説明は岩元シェフの記録に大きく拠っています。 ○桂花鵝肝・・・フォアグラに金木犀の香りのソースがかかっている。ほのかにマンゴーの香りも入る。下にしいている、蒸しパン…

  • 聖木酔日

    久々にお客をした。お越し下さったのは木酔会(木曜の昼から呑みましょうという風雅な集まり)の皆様六名。かなり気合い入りました。献立は以下の如し。 (1)お通し(先吸)…蛤汁※酒をたっぷり入れ、調味はせず。蕗の薹を刻んで散らす。これは大阪・谷町の鮨屋『三心』さんの趣向を借りた。(2)菊胡桃和え…菊は南部名産の干し菊(当然のように、青森色をちらちら見せています)。胡桃を擂り鉢でねちねちと音がするまで擂りたおす。白味噌と辛子少々で調味。(3)利休鮑…鮑は酒蒸しして、肝も一緒に角切り。こごみは湯がいて鮑と同じ大きさに。黒胡麻を荒擂りして、煮切り酒と味醂、赤味噌で調味。(4)浅蜊と芹の辛子和え…浅蜊を酒蒸…

  • えびす冷え

    とは題してみたものの、それにしても本当に暖かい冬である。来月、八戸のえんぶり(豊年祈願の祭り)に行くのだが、小雪舞うなかを各組が一斉に摺る(えんぶりでは踊るとは言わない)壮麗な眺めが見られるかどうか、ちょっと不安。まあしかし、雪があってもなくても、愛する八戸にまた行けるだけでジンジンしびれるくらい幸福なのだけど。 ○吉田修一『国宝』(朝日新聞出版)……遅ればせながら。最後の設定があっ。と言わせる。○チェスタトン『求む、有能でない人』(阿部薫訳、国書刊行会)……チェスタトンのこういう小品集はもっと出て欲しい。○東海林さだお『ひとりメシの極意』(朝日新聞出版)……対談相手の太田某(居酒屋の通なのだ…

  • 新年のご挨拶を申し上げます。

    庚子(かのえね)狂歌噴き上ぐるマグマは神火のエネルギー大山鳴動何出でんとす金の柄のうち出の小槌財寳のねずみ算にぞ増えるはつ夢 すっかり更新も滞っていますが、なんとか継続はして参るつもりでおります。 皆様のご多幸をお祈り申し上げます。 双魚庵主人

  • 幻梅

    呉春(別号松村月渓)は江戸時代の絵師。平安の産ながら、しばらく摂州池田に住んでいた。代表作のひとつ『白梅図屏風』は今までかけちがって見ることがかなわなかった。某日、出勤前の時間を使って逸翁美術館に足を向ける。 なんとなく銀泥地の紙に描かれてるように思い込んでいたので、藍色の背景にちょっと驚く。近づいてみると織りの文目が浮き出ている。当初は絹地とされていたが、葛布と鑑定が変わり、今では芭蕉布ではないかと言われている由。ともかく、少し離れてみるとこのテクスチュアが納戸色にちかい藍の調子と相俟って、思い出した夢のなかの夕闇空のよう。 例の光琳の屏風、あの中の白梅はじつに立派な姿を見せているが、華麗さ…

  • 極寒の祭り

    今、大きな「宿題」を抱えているので、旅行記をまとめる余裕はなし。今回も八戸・青森を堪能できたんだけどね。いい店を一軒ずつ発見。次はなんとか八戸えんぶり(寒のさなかに行う豊作祈願の祭り)の時に行きたい。 読書録もメモ書きだけ。○大石和欣『家のイングランド』(名古屋大学出版会)○キャサリン・M・ヴァレンテ『パリンプセスト』(井辻朱美訳、東京創元社)○里中高志『栗本薫と中島梓 世界最長の物語を書いた人』(早川書房)○ビクトル・デル・アルボル『終焉の日』(宮崎真紀訳、東京創元社)○ホルヘ・カリオン『世界の書店を旅する』(野中邦子訳、白水社)○皆川博子『彗星図書館』『辺境図書館』(講談社○泉斜汀『百本杭…

  • 神無月の本

    眼精疲労なのか視力の減退なのか、ともかく本当に冊数がいけなくなった。 ○谷川健一『選民の異神と芸能』(河出書房新社)○川村湊『闇の摩多羅神』(河出書房新社)・・・このところマタラ神なる異様な神が気になって仕方ない。①外来の神である、②念仏修行の護法神でもある、③能楽の起源と関わりがあるらしい、というくらいで謎めいた神格なのである。山本ひろ子『異神』は学生の時に読んで異様な衝撃を受けたのであったが、谷川・川村両著(それに、最近の中沢新一の仕事)を参考にしても、よけいに謎めいた印象は深まるばかり。次は服部幸雄の『宿神論』に取りかかるべし。○本川達雄『生きものとは何か』(筑摩書房)○冨島佑允『この世…

  • 平野ぐらし

    三連休も基本的に家居。来週と再来週はお出かけ・旅行と続くので出控える。 何度か書いたが、出勤の都合で最近はきっちり時間を取って料理することがむつかしい。初日はこの欲求不満を晴らすために、朝から元町・湊川へ買い出しに行き、小半日かけて自分一人だけのために台所でせっせここしらえる。地味な品が多かったので、お客をするのもためらわれたのなり。 この日の素人包丁は秋懐石(風)の趣向。献立は以下の如し。 ○菊と小松菜の和え混ぜ、胡麻酢(酢はほんのり)○栗、木耳、黒枝豆の白和え(栗は甘味、木耳淡口醤油、豆は塩と下味をつけて、和え衣はごく薄味)○鯛の子含め煮、叩きオクラ、青柚○小芋の辛子和え(白味噌と辛子と卵…

  • 漬け物をかめばしづまる秋の水

    不思議に思うのは、夢がなぜあんなに劇的物語的な内容展開を持つんだろうかということ。日常の風景・人間関係とまったく関係ない話だもんなあ。しかも目覚めてから我と我が構想力に感心したりもするし。根元的な物語乃至虚構欲求があるということか。こういうことを教えてくれる本はないのか。 さて、相変わらず遅番が続いているので、碌な料理も出来ず、今回も読書備忘録のみ。ま、ようやくそれらしくなってきた秋茄子を使ってしば漬け(茗荷をふんだんにまぜる)や辛子漬け(甘みは極力おさえる)を漬けて当人は結構愉しんでおります。 ○深津睦夫『光厳天皇』(評伝選ミネルヴァ書房)・・・光厳院は本朝歴代でもっとも慕わしい帝のひとり。…

  • パンチ&ジュディ

    ここに来てややバテ気味・・・夏痩せではなく、8月29日(ヤキニクの日)から三連チャンの焼肉パーチーによる肉食傷というのでもない。 六月からずっと遅番のシフトが続いており、家事全般・買い出しには精励恪勤なる主夫(兼勤め人)としてはかなりストレスがたまっているのです。十一月末まで保つのだろうか、この調子で。すまじきものは宮仕え。 ○トルクァート・タッソ『詩作論』(村瀬有司訳、イタリアルネサンス文学・哲学コレクション、水声社)・・・おおむねアリストテレスに則った詩論。アリオストの『オルランド』を批判している箇所もある。このシリーズ、ご贔屓のピエトロ・アレティーノの新訳も入るようで楽しみ。○『塚本邦雄…

  • 北へ南へ

    【北篇】 草津のビストロ『ロンロヌマン』さん、と書いたのではいかにも他人行儀の感じがする。前田卓也シェフのファンとしては「前ちゃんの店」という認識。今回も堪能しました。 ○前菜1:野菜三種。①マッシュルームのサラダ・・・キノコは生。チーズとヴィネガーで和え、さらにグリュイエールをふんだんにかけている。なのに味の軽さが「おっ」という感じ。②キャベツのサラダ二種・・・紫の方はヴィネグレット、白い方はクミン風味。どちらも混ぜてあるハムやサラミを噛み当てるとき、じわーっと幸せを感じる。○前菜2:ハムエッグ(!)。ちゃんとメニューにもおすすめ印が付いておる。ハムと卵の上にはサマートリュフをふんだんにあし…

  • 忍び寄るもの

    呑んで帰った時、マンションの階段で転倒、二週間ほど矢吹ジョーないしお岩様のように左目周りが腫れていた。それから一月ほど、激しい雨音に目を覚まし、居間の窓を閉めに行く途中、突然気を失って倒れた(数分意識がなかったようだ)。このときは膝をうった。「人の世の旅路のなかば」という詩句が痛切に身にしみる。 だから、別段流行に乗って糖質制限しはじめたわけではない。元々あんまり興味が無かったけれどもなんとなく食べにゃならんのだろうなあと思い込んでいたところ、「そうでもありませんよ」と各方面から教えられて渡りに船とばかり飛びついた、という次第。 朝・昼(弁当)の飯はぐい呑みに軽く一杯。夕食にはまったく食べない…

  • 本当にメモ

    梅雨入り前の風は本当に気持ちがいい。昼酒呑んで川ばたを歩いて帰る時などは特に。 最近読んだ本。このところ色々弱り気味なので、いつも以上に無愛想なメモとなる。 ○柄谷行人『世界史の実験』(岩波新書) ○山泰幸『江戸の思想闘争』(角川選書) ○村上春樹『若い読者のための短篇小説案内』(文藝春秋)・・・とことん実作者の視点から、というところが面白い。といって技術批評に終始するのではなく、それぞれの作家の核に当たるぬるっとした部分に控えめながら言及しているくだりこそが読みどころ。 ○市川裕『ユダヤ人とユダヤ教』(岩波新書) ○ケイトリン・ドーティ『世界のすごいお葬式』(池田真紀子訳、新潮社) ○鈴木健…

  • 市中の大人(たいじん)~追悼 田辺聖子

    たとえば『道頓堀の雨に別れて以来なり』でもいい。ひとまずは川柳作家・岸本水府の評伝である。「ひとまず」というのは、水府個人の人生の足跡を辿るにとどまらず、大阪そして日本全体の同時代の川柳界の動きをあやまたずとらえ、そこから近代川柳史のみあもとまで時にさかのぼり、合わせて主として戦前の大阪という都市の政治経済社会生活のくまぐまを生き生きと描き取る。近代川柳の詞華集にもなっている。 文庫版では当然ながら上中下、合わせて千六百頁になる。見るだにうんざりする分量。ところが読み始めると、これがいつまでも頁が減らないようにと祈りたくなるくらいに面白い。ひとえに作者の《眼》の冴えによる。全冊どこのくだりを取…

  • 緑陰読書

    即位改元のめでたさはそれとして、なんだあの上皇后という称号は。「言うに事欠いて」という表現はあるけれど、皇太后なり大后なり由緒正しいことばがある以上、「事欠いて」ですらない。鰻丼や鮨食ってんじゃああるまいし、全く何たる呼びざまか。「(「皇太后」という呼称には)過去に権勢を振るったというマイナスイメージがあるから」などという言い訳をしてるようだが、それならば「上皇」はどーなる。代わりに「上天皇」とでもするのか。この言い方のいかにもいかがわしい響きからして、役人や政府関係者の思考が愚劣、少なくとも日本語、とはつまり日本文化の伝統に関しては鈍感極まるものであることが分かる。戦前でなくてよかったねえ、…

  • 酒と桜

    二日連続の花見。どちらも当たり前ながら昼ひなかで、恰度気温が高く、うらうら照る日の下でぼけーっと花を見るような見ないような顔つきで酒を呑むのは格別の味わいでした。 職場からの帰りに通る宇治川沿いは神戸でも割合有名な花どころで、この二日とも人出が多かった。ことに老夫婦が手をとりあってゆっくり歩いているのはまことにめでたい眺めながら、個人的にここの花は夕景以降、それも歩くのではなくバイクで三〇キロほどのスピードで抜けていくのが一等味わい深いと思う。連チャンの花見の翌日は、仕事帰りにこのやり方で独り桜を堪能した。 灯ひとつに花ひともとの世界かな 碧村 ************************…

  • ハイジン同盟

    酒の席でのふとした一言から拙宅で連句を興行することになった。さるにても酒席から始まる物事の多い人生であることよ。 連衆は当然ながら呑み友だちばかり。芭蕉翁の戒め(「俳諧では酒三盃を過ぐすべからず」)に背いて、酒宴の設けも怠らない。というか、歌仙をダシに家呑みをしようという下心少なしとせず。 ともあれ、当日の献立は以下の如し。 ○先付……茶碗蒸し(蛤の出汁に淡口を滴々と。へぎ柚子と三ツ葉を添える) ○造り……①鯖きずし(擂り生姜と大根おろし)、②平目昆布〆(山葵) ※前々日から湊川の市場を覗いて回っていたのだが、いかなご漁の時期と重なっていたせいで魚種が少なく、揃えるのに難儀した。 ○炊合……鯛…

  • 女中的視点

    大阪市立美術館のフェルメール展、早めに御覧になるほうがいいですよ。これからどんどん混んでくること間違いなし。それくらい充実した出品でした。ま、フェルメールの名前が付いてるならどのみち人気が出るんだろうけど。 お目当ては『手紙を書く女と侍女』。ずいぶん前にたしか上野の美術館で見て魅惑されたおぼえがある。今回も他の絵はすっ飛ばして駆けつける。人だかりはしているものの、大阪市立に『真珠の耳飾りの少女』が来た時ほど押し合いへし合いではないからちょっと時間をかければ充分観賞できます。 誰だってまずは画面左に立つ侍女の表情に目が行くだろう。女主人が一心に手紙を書く卓の後ろに控えて、例の如く外光が柔らかく射…

  • 金沢

    白山比咩神社の境内にもほとんど雪は無かった。義理堅く立春に春一番が吹いて気温が異様に上がったせいらしい。一年前は三十数年ぶりとかの大雪で営業を休んで雪かきに追われたのを思うとまるで嘘のよう。 とは『料理旅館和田屋』の仲居さんの話。今回当方が通されたのは一階の部屋で、目の前に池が見えるのだが、そう聞くと鯉の動きも心もち潑剌として見える。暖房もすぐに切ってもらったほどで、床の白椿と千代女の軸(「竹の音丸ける頃やみそさゝゐ」)にわづかに冬の気配を探る、といった按配。 二年ぶりなので、「ジビエ尽くし」のコースを頼んでいた。料理以下の如し。酒は『菊姫』「鶴乃里」。やはり酒はその地で頂くのが一等旨い。 ○…

  • 鳥獣大会

    一月はよう食べに出た。勤務先の事情で、連休が少ない月だったから、溜まったストレスを外食で発散する形となった。と言っても炭水化物に興味はないので、カツ丼大盛り!とか新規ラーメン店発見!なんてことにはならない。熱燗大盛り!とか新規漬け物開発!とかだったら食指が動くのですけれど。 心に残った品々は、 ○和え物二種(玄斎)……ひと品めは八寸のうち。青菜(嫁菜?芹?)を、荏胡麻を擂ったので和えている。香気が何よりの御馳走。ふた品めは河内鴨の皮のところを、牛蒡・人参・キャベツなどと、酢味噌で。童画のような彩りも愉しい。冷酒がすすみました。日本料理の店では、「椀さし」のような《花形》以外のこういう品にこそ料…

  • 雪の城~弘前初見参(2)~

    『たむら』の御主人には岩木山へバスが出ているとも聞いていた。雪の岩木神社も魅力的だったけど、まあいっぺんに見尽くすことはないわな。また来ることは間違いないし。と考えて二日目は朝から市内の散策。 最初はやっぱりお城かな。せっかくだから観光客の少ない、早い時間に見物しよう。 しかしこれは前半は当たっていたが、後半に関しては見込み違いであった。客の少なかったのは確かだが(当方と、老夫婦のみ)、早かろうと昼時であろうと、ずっと客はいないのである。 それもそのはずで、当然のことながら一面の雪。可愛らしい天守が白一色に埋もれ、そこに朝日が射してきらきら輝く眺めは、なんというか実にめでたいものだったけど、な…

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