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ぱこぺら 映画批評 https://pakopera.blog.fc2.com/

映画の批評・考察など。できるだけこれまであまり言及されてこなかった美点を持つ映画を取り上げます

ぱこぺら
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2017/07/07

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  • 『ゴジラ -1』ゴジラの出てくるドラマ映画

    監督:山崎 貴 2023年 日本 人間ドラマのパートを飛ばしたら、とても面白く見られそうだ。戦中、戦後の情景は自然だし、人物以外の設定や描写もリアルで、もちろんゴジラもいい。特に定番通りの構図から脱却して、カメラワークで怖さを出す演出が出色の出来だ。欲を言えばゴジラと放射線の関係、皮膚の再生能力、放射線ビームの着弾点で核爆発が起こるメカニズムなどを語ってくれれば……感性面だけでなく理屈も備えていたら、もっ...

  • 『シン・ウルトラマン』 ユーモラスで楽しい空想特撮映画

    監督:樋口真嗣 脚本/総監修:庵野秀明 2022年 楽しい空想特撮映画だ。庵野秀明・樋口真嗣のコンビでは前作の『シン・ゴジラ』も面白かったし、これで日本の娯楽映画全体の水準がアップしてくれればいいのだが……勿論そんな甘い期待は抱かない方がいいだろう。 『シン・ウルトラマン』は『シン・ゴジラ』と違ってそこまでリアリティには拘らず、ドラマを排除したドキュメンタリータッチでもない。結構オーソドックスな作りで、...

  • 『ルパン三世 カリオストロの城』 アニメーションであることの魅力

    監督:宮崎駿 1979年 公式には宮崎駿の初監督映画。そしておそらく、宮崎の最大の魅力であるアニメならでは虚構性を堪能させてくれる最後の作品でもある。 『パンダコパンダ』ではパンダが日本語をしゃべり、動物園に通勤し、TVアニメ『未来少年コナン』では少年が直角に壁を上り、数十メートルの高さから裸足で飛び降りる。そしてこの『ルパン3世 カリオストロの城』ではフィアットが崖を駆け上って森を突っきり、ルパンは塔の...

  • 『天気の子』 新海誠らしい魅力は健在だが…

    監督:新海誠 2019年 前作『君の名は。』と比較するとなぜか作品の出来が格段に落ちているが、日本固有の文化や、人と空を結び付けた世界観など、新海誠らしい魅力もある。 彼岸に向かって伸びていく迎え火の煙 現代にも生きている古代の巫女的存在という設定は面白いし、初盆を迎えた古い日本家屋とそこに住む人々のシーンはとても美しい。『君の名は。』で彗星によって結び付けられていた天と人とは、ここでは天気の巫女...

  • 映画タイトル50音順 記事一覧

    映画についての雑文 英BBC発表の最も偉大な外国語映画100本 キネトスコープと現代の映画鑑賞 数字 『2001年宇宙の旅』 知性と飛躍の映画 『3-4x10月』 北野武第二の処女作にして一つの到達点 あ行 『アイズ ワイド シャット』 ある事柄についてのシンプルな映画 『愛より愛へ』他愛なさを称賛させずにおかない 『赤い影』 意図と表現の乖離 『赤西蠣太』 洗練された技巧 『アニー・ホール』 軽薄さと真摯さのバランス...

  • 『黒い罠』 穏当になった表現と深まった内容

    監督:オーソン・ウェルズ 1958年 アメリカ 40年代のウェルズ作品に比べるとかなりオーソドックスな作りになっている。撮影への執着だけは相変わらず濃密だが、シナリオ、演出、編集などはどこを取っても彼特有の鮮烈さ、過剰さが希薄だ。サスペンス映画を何本も撮って少し慣れ、もしくは飽きが生じてきたのだろうか。しかし、オーソドックスとは言ってもあくまでオーソン・ウェルズにしては、という意味であって、作品にとって...

  • 『それから』 映画の表現

    監督:森田芳光 1985年 優れた映画表現の映画だ。モノローグで登場人物の思考や感情を明かしてしまうような、文芸映画にありがちな手法は決して採らないし、小説が地の文で確定的に語る心理描写も、完全に観客の自由な鑑賞能力に任される。終盤「三千代が倒れた」ことも平岡の口から語られるのみで、その直後に健在そうに見える美千代のショットが置かれる。その映像は事実を表すものとしてここに置かれているのだろうか? 三千...

  • 『カンバセーション…盗聴…』コッポラの不遇な傑作

    監督:フランシス・コッポラ 1974年 アメリカ 70年代、コッポラ絶頂期の傑作だ。あまり知られていないのはアメリカでヒットしなかったせいだろう。元々アメリカでヒットするような企画ではないし、大ヒット作『ゴッドファーザー』とその『パート2』に挟まれて尚更目立たなくなってしまっている。しかしその出来は『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』などに優るとも劣らない。とくにバランスという点では厳格な構成を持つ『...

  • 『ブラックホーク・ダウン』戦争映画の現実

    監督 リドリー・スコット 2001年 アメリカ 映画における戦場のリアリズムは『地獄の黙示録』がそれを高いレベルで達成して以来、『プライベート・ライアン』のオマハビーチでの臨場感に溢れた20分間を経て、この『ブラックホーク・ダウン』ではついに全編を貫くまでになった。ここには人間の心を動かすドラマも、起伏に富んだ豊かな物語もない。只々リアルな出来事とその時間推移のみがある。その意味では究極の戦争映画だ。 ...

  • 『テネット』大衆文化の最前線

    監督:クリストファー・ノーラン 2020年 アメリカ クリストファー・ノーランは時間を存在的にあるいは空間的に捉える視点や映画の難解さを、エンターテインメントとして大衆化させた監督だ。 長い間、娯楽映画では難解さが忌避されてきたのだが90年代にデヴィッド・リンチがそれを娯楽映画に導入し、難解だからこそ考察したり解釈したりする楽しみがあるということを広く一般の観客に認識させた。それまで難解さは一部の芸術作...

  • 『バタリアン』A級のシナリオでB級に徹した快作

    監督・脚本 ダン・オバノン 1985年 アメリカ 字幕によるとこの映画で描かれる出来事はすべて実話だし、登場人物も実名ということだ… 優れたコメディにはタブーや固定観念を突き破る力があるということを実証したB級映画の傑作だ。 終盤、自然な展開で最初の地下室に戻り、カプセルの蓋を締めるとそこに電話が現れ、その後万事休すと思われた瞬間、今度は軍の電話番号が目に飛び込んくる。序盤に示されていた伏線だ。このスマ...

  • 『アメリカングラフティ』青春の彷徨

    監督 ジョージ・ルーカス 1973年 アメリカ 郷愁という感情は子供には理解できないと言ったのは誰だったか、おそらくこの映画を見れば認識を改めるのではないだろうか。学生時代を過ごしたことのある人は勿論、作中の人々と同世代の人やこれから学生時代を過ごす人が見てもこの映画の持つノスタルジックな魅力は安々と理解するだろう。 映画自体も明確に現在から顧みられる過去という構造を作っていて、冒頭の「1962年」の字幕...

  • 『THX-1138』現実そのもののような描写と出口のない閉塞感

    監督 ジョージ・ルーカス 1971年 アメリカ 個性的で非常に完成度の高いSF映画。あまり語られないのは娯楽性に乏しいせいだろうか…。現実とは著しく異なる世界を描きながらその世界を説明せず、キャラクターの喜怒哀楽は乏しく、ドラマも平板で…そんな映画は苦手だという人には確かに面白くない映画かもしれない。こう考えると、残念ながら一般的な観客の大部分がここに当てはまってしまいそうだ。しかし、説明より表現を好む人...

  • 『スペシャル・アクターズ』 前作との違いは何 ?

    監督 上田慎一郎 2019年 例えば『カメラを止めるな!』の前半部の調子を最初から最後まで通した映画を一本作ってみたらどうなるだろう? そう。勿論とんでもない駄作になるに決まっている。しかし、なぜかその分かりきったことをやってみた、というのがこの映画『スペシャル・アクターズ』らしい。『カメラを止めるな!』では前半部が駄作だからこそ前半と同じ描写や展開に新たな意味付けをしていく後半部の面白さが倍増したの...

  • 『上海から来た女』描写と物語の傑作

    監督:オーソン・ウェルズ 1947年 アメリカ 美しい描写の映画であり、サスペンス、ミステリーの傑作だ。 我々観客は例えば『市民ケーン』を真剣な意図の籠もった映画で、『上海から来た女』は娯楽を意図したサスペンス映画で…と半ば自動的にカテゴライズしてしまうが、作り手であるオーソン・ウェルズにとっては『市民ケーン』と『上海から来た女』に質的な違いはないらしい。彼は『市民ケーン』で全ての被写体にピントを合わ...

  • 『恐怖への旅』導入部と本編でまったく別の映画のよう

    監督 オーソン・ウェルズ ノーマン・フォスター 1943年 アメリカ 冒頭、カメラが通りから2階の窓に寄っていき、中を覗き込むと太った男が蓄音機を回し、出かける準備をしている。レコードの針が跳び、歌が何度も同じフレーズを繰り返す。その間も男は髪をとき、ピストルを準備し…やがて扉を締めて出ていく。このファーストシーンの描写の密度がものすごい。いきなりクライマックスのような充実度だ。我々観客の視点は外から内...

  • 『ストレンジャー』多種多様な技巧が詰め込まれた映画

    監督 オーソン・ウェルズ 1946年 アメリカ 頻出する時計の描写はやがて時計塔に集約されクライマックスを迎える オーソン・ウェルズ監督作だが『市民ケーン』や『偉大なるアンバーソン』からは一変、今回は映画会社の要請にピッタリ合った単純なサスペンス映画だ。開き直ったような極端な変身ぶりだが、驚くほど分かりやすく、面白い映画に仕上がっている。これまでと方向性は違ってもその洗練された技巧には全く変わ...

  • 『禁断の惑星』 斬新で親しみやすいSF映画

    監督:フレッド・M・ウィルコックス 脚本:シリル・ヒューム 1956年 アメリカ SFの面白さとB級映画の楽しさを兼ね備えた名作。 初っ端からMGMのライオンに重ねてキーンと宇宙空間を表す電子音が鳴り、空飛ぶ円盤がピコピコと音を発して飛んでいく。そこに大衆SF雑誌風のタイトル『FORBIDDEN PLANET』が堂々たる効果音を伴って現れる。ケレン味たっぷりで、古めかしくも魅力溢れるオープニングだ。 23世紀の超光速宇宙船はUFOの...

  • 『メトロポリス』一大仮構世界と二人のマリア

    監督 フリッツ・ラング 1927年 ドイツ 映画史に残る傑作であり、SF映画の古典。ドイツ表現主義の頂点という言い方もあるかもしれない。 公開時300分以上とされるオリジナル版は失われ、以降、再編集されたアメリカ版を元に徐々に復元されていき現在では150分の完全復元版と銘打たれたバージョンがある。ヨザファートやグロート、労働者11811ことゲオルギーたちそれぞれの物語、ヨシワラのエピソード、発明家ロトワングのキャラ...

  • 『インターステラー』 SFとドラマの両立

    監督:クリストファー・ノーラン 2014年 アメリカ・イギリス 2000年代以降に作られたSF映画としては出色の出来だ。宇宙船でワームホームを抜けたりブラックホールから帰還したりと、現代の技術では到底実現不可能な大胆なフィクションを含んでいるのにストーリー展開、描写ともに高いレベルでリアリティを維持し、緊迫感を失わない。 時空を越えて届けられる幽霊からのメッセージは作中で唯一時間を超越するとされる重力ででき...

  • 『ゼロ・グラビティ』体験するための映画

    監督:アルフォンソ・キュアロン 2013年 アメリカ・イギリス この映画は見る媒体によって極端に印象が変わる。映画館の大きなスクリーンで見ると、壮大な宇宙空間を疑似体験させてくれる実に楽しい映画だし、スマホの小さな画面で見ると細部の欠点ばかりが目につく駄作になる。テレビで見てもどちらかというとスマホよりの印象になるだろう。 宇宙の広大さや無重力の環境をリアルに体感させてくれるのがこの映画の一番の持ち味...

  • 『メッセージ』存在としての時間

    監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 2016年 アメリカ フラッシュフォワードで描かれる未来の思い出 この映画はアメリカ製の娯楽映画だ。つまり、かなり広範な層が見る映画ということで、なかなか語るのが難しい。この映画の提示する時間観に初めて触れるなら新鮮で感動的なはずだし、もっとも一般的な層を想像してみても「普通に面白い」という感想があったり、「ちょっと難解」という人もいそうな感じだ。ハードなSF小説を娯楽映画...

  • 『俺もお前も』内容より表現が主張する

    監督/脚本:成瀬巳喜男 出演:横山エンタツ・花菱アチャコ 1946年 サラリーマンの悲哀をコミカルに描いた喜劇映画。当時の人気漫才師エンタツ・アチャコが主演している。彼らの演じる青野と大木の二人のサラリーマンが社長から気に入られつつも見下され、道化のように扱われ続けるが、最後にあまりの侮辱に怒って、ついに社長と対決する、といったストーリーだ。彼らの息子世代はプロレタリア劇の練習をしたり、メーデーの歌を歌っ...

  • 『カルト』痛快で楽しい?ホラー映画

    監督/脚本:白石晃士 出演:三浦涼介・あびる優・岩佐真悠子・入来茉里 2013年 体裁はホラーだが、少し怖くてしかしそれ以上に楽しい、予想外に面白いエンターテインメント映画に仕上がっている。必ずしも恵まれてはいなかっただろう環境にも、真正面から内容の面白さで勝負しようとする痛快作だ。見るからに低い予算にはフェイク・ドキュメンタリーという手法で対抗し、演出もその設定に合わせたリアリティを作り出す。 この映画の...

  • 『理由』シリアスを装った遊び心

    監督:大林宣彦 脚本:大林宣彦・石森史郎 原作:宮部みゆき 2004年 一家惨殺事件が起こり、捜査の進展に伴ってその一家が全員他人で構成されたニセ家族だったことが分かってきて……といった物語が展開する。 ニセ家族を中心に多種多様な家族像を描いていて、ストーリーとしては「家族とは何か?」といった主題が浮かび上がってくる。しかし実際に見てみると、語られる内容より語り方の特異さの方が、よほどこの映画を特徴づけてい...

  • 『七人の侍』価値観の衝突を描いた娯楽活劇

    監督:黒澤明 脚本:黒澤明・橋本忍・小国英雄 出演:志村喬・三船敏郎・宮口精二 1954年『七人の侍』は映画史上の傑作であると同時に、一般の観客にも時代を越えて愛され続けてきた稀有な映画だ。農民が村を守るために侍を雇い、野武士たちと戦うという単純なプロットの中に多くのモチーフが展開される。暗く深刻な状況から始まり、活劇の楽しさ、生きることに伴う悲しみや苦しみ、価値観の異なる人々の葛藤、荒々しい歓喜と暴力、そ...

  • 『生きる』濃密な描写と斬新な構成

    監督:黒澤明 脚本:黒澤明・小国英雄・橋本忍 出演:志村喬・小田切みき 1952年 この映画の主人公、渡辺勘治は世界を救ったり、何らかの偉業を成し遂げたりはしない。どこにでもありそうな小さな公園を一つ作るだけだ。末期癌の宣告を受けた市役所職員が一念発起して公園を作る、という物語は、非常にスケールが小さく、陰鬱な印象を与えもする。しかし『生きる』はそんな題材からは想像もつかないほど壮大で豪華な、そして楽しめる...

  • 『羅生門』映画としての評価

    監督:黒澤明 脚本:黒澤明・橋本忍 出演:志村喬・千秋実・森雅之・京マチ子・三船敏郎 1950年 この映画は1950年においては斬新過ぎたのか、当時の記事を見るとかなり不評だった事が分かる。評価面ではキネマ旬報の年間ベストテンで5位に留まっているし、興行成績では10位以内にも入っていない。一方、海外ではベネチア映画祭での金獅子賞をはじめ、米アカデミー賞やゴールデングローブ賞の外国語映画賞など、多数の映画賞を受賞して...

  • 『ドリーの冒険』明晰な表現が際立つグリフィスのデビュー作

    監督 D.W.グリフィス 1908年 アメリカ 12分 サイレント映画 映画の父と呼ばれているD.W.グリフィスのデビュー作。大衆音楽がビートルズ登場の後先で分けられたり、哲学史がカント以前・以後で分けられたりするように、映画の世界ではグリフィスがその画期を作っている。今日我々が日常生活の中で何気なく「映画」という時なども、一般的にはグリフィス以降の映画を思い浮かべているわけだが、この『ドリーの冒険』はどちらか...

  • 『大列車強盗』動きと虚構性

    監督 エドウィン・S・ポーター 1903年 アメリカ 13分45秒 サイレント映画 アメリカ映画史上初の大ヒット作だ。 ならず者たちの列車強盗から死まで、その顛末が描かれる。ストーリーが単純な出来事の羅列でできているのは従来通りだが、駅員の捕縛、列車への侵入、走る列車上での格闘、客車の切り離し等々と、当時としては非常に詳細に描かれて、かなり物語らしくなってきている。 列車強盗や銃撃戦という内容は実生活ではな...

  • 『アメリカ消防士の生活』発展途上の映画技法

    監督 エドウィン・S・ポーター 1903年 アメリカ 6分50秒 サイレント映画 実はこの映画は1970年代にオリジナル版が発見されるまで、カットバックを駆使した再編集版の方がオリジナルと見做され、過大に評価されてきたという歴史がある。 今日、オリジナル版を見てみると、残念ながらジェームズ・ウィリアムソンの『火事だ!』の陳腐な模倣作品と言うしかなさそうな感じだ………。『火事だ!』は被写体、演技、撮影・編集と、すべ...

  • 『田園に死す』明確な物語、詩と現実

    監督/脚本 寺山修司 1974年 この映画は独創的なイメージに特化していて、一時の軽い娯楽に相応しい映画ではない。言葉も画も音も、何もかもが不気味で意味不明だし、それらが一体となって作り出す世界は混沌そのものだ。おそらく、論理や因果律で物事を理解することに慣れ始めた中高校生がこの映画のもっともよい鑑賞者になれるだろう。 前半、土俗的で不可解な因習の中に生きる人々が象徴的に描き出される。やがて、それがある...

  • 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』人間の心理と宗教の始まり

    監督 ジョージ・ミラー 2015年 オーストラリア・アメリカ この映画はもちろん気取った芸術作品ではないし、娯楽作品としても派手なビジュアルとバイオレンスを売りにした、代わり映えのしないハリウッド映画の一本のように思えるかもしれない。しかし、実際に見てみれば、そんな先入観は即座に吹っ飛んでしまう。 奇抜でありながらも現実感のある作品世界。そこで展開するシンプルなプロットと充実したストーリーは、すべての...

  • 『十字路』狂気に満ちた描写と陳腐な物語

    原作/脚本/監督 衣笠貞之助 1928年 サイレント映画 ストーリーは単純な悲劇で、陳腐と言ってもいいくらいだが、描写が異彩を放っている。主人公の姉弟は常に思い悩んでいて、対照的にそれ以外の人々がなぜか常に大笑いしている。大家、十手を持った男、売春宿を経営している老婆らは皆、所々歯が欠けていて、それを見せつけるようにニンマリと不気味に笑い、矢場の女や彼女を取り巻く男たちは一体何がそんなに面白いのか、常に...

  • 『迷宮物件 FILE538』映画表現そのもののような映画

    監督/脚本:押井守 音楽:川井憲次 1987年 『トワイライトQ』というオリジナルビデオアニメのシリーズ第2話として発表された作品。全編30分で、劇場公開はされていない。しかし、その品質はどこからどう見ても映画そのものだし、内容が独創的でとても面白い。 小汚いおっさんと常に鼻水を垂らしている幼女、そして彼らの生きる奇妙で不思議な世界を描いた作品────こう要約しても間違いではないだろうし、他にも言い方はあるが、...

  • 『サマータイムマシンブルース』優れた物語と貧弱な描写

    監督:本広克行 原作/脚本:上田誠 2005年 アイデアとストーリーが非常に良く出来ている娯楽作品。その面白さは2017年の『カメラを止めるな!』に匹敵すると言っても多分、言い過ぎにはならないだろう。一方、描写面では見どころがない……というより、正直いって、かなり出来がわるい。おそらく、映画としては大げさ過ぎる演出や演技に辟易として、序盤だけで、もう見ていられないという人も多いだろう。しかし、そういう人も中盤...

  • 『冬冬の夏休み』素朴で見事な描写の映画

    監督 侯孝賢 1984年 台湾 卒業生たちが歌う「仰げば尊し」、東京駅にそっくりな建物、国鉄時代のもののように見える駅と列車など、日本人にとっては何もかもがノスタルジックな郷愁に満ちている。中でも、蝉や蛙の声に彩られた緑豊かな田舎の風景は、まるで日本人の考える少年時代の夏の日の象徴そのものだ。人々の服装も60年代頃の日本を連想させるし、おじいさんの家にはちゃんと畳の部屋まであるではないか。 そんな叙情的で...

  • 『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』映画的な映画

    監督 エドワード・ヤン 1991年 台湾 希薄な物語……というべきか、それともあまりにも多彩な物語、というべきか。『牯嶺街少年殺人事件』は様々な人の様々な生の交錯を描き、ささやかな物語性を維持しつつも物語から逃れ、見事に映画となっている。 そのため前半部は観客が内容を理解することが難しい。外国人である我々からすれば「小四」「小公園」などは人名なのか、場所なのか、小学四年生ということなのかも分からないし、...

  • 『瀧の白糸』溝口健二サイレント期の傑作

    監督 溝口健二 出演 入江たか子 1933年 サイレント映画 戦前の溝口作品を知っている人は「サイレント時代こそ溝口のピークである」と言うが、その評価の源を垣間見られるのがこの映画だ。泉鏡花の『義血侠血』が原作で、当時人気絶頂だった入江たか子の入江ぷろだくしょんが制作している。溝口は雇われ監督といったところだが、その企画は最初から彼を念頭に置いていたのか、必然性のない恋愛感情を核にした物語という題材は、...

  • 『魔術師』西洋の映画とキリスト教

    監督 イングマル・ベルイマン 1958年 スウェーデン この映画はキリスト教的な価値観がバックボーンとなっている。ブニュエルやタルコフスキーなどの作品にも見られる傾向だが、この手の映画は日本人からすると、あまり馴染みのない問題意識が反映されていて、今ひとつピンとこないところがあるかもしれない。しかし勿論、映画自体には普遍的な面白さもあり、作品内のキリスト教的要素にも宗教に特有の普遍性が内在している。 ...

  • 『フランティック』両義性に満ちたサスペンス映画

    監督 ロマン・ポランスキー 1988年 アメリカ この映画はアメリカの娯楽映画としては非常に地味な印象で、ポランスキーの経歴の中でもあまり目立たない作品かもしれない。『チャイナタウン』のような重厚さや緻密さはなく『戦場のピアニスト』のような強いモチーフも感じさせない。もしかしたら彼としても前作『パイレーツ』の興行的失敗を踏まえて、得意のサスペンスもので少し名誉を回復しておこうという程度のつもりだったの...

  • 『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』ゴジラ映画として

    監督 マイケル・ドハティ 2019年 アメリカ ゴジラ映画にとって、映画としての評価はあまり重要ではない。一般論として言うなら、ほとんどのゴジラ映画は「荒唐無稽な子供騙し」ということで終わってしまうだろう。しかし、それでもゴジラ映画は大人気であり、1954年以来何十本と作られ続け、アメリカでも何度も映画化されヒットしている。映画としての出来など関係なく、ゴジラ映画として面白いかどうかが全て、という訳だ。 ...

  • 『ELEVATED / エレベイテッド』観客を惑乱する傑作スリラー

    監督 ヴィンチェンゾ・ナタリ 1996年 カナダ 意外性と緊迫感に溢れた傑作短編映画。新人監督の作品としては衝撃的だ。退屈な2時間より充実した20分の方がずっと有意義である、という当たり前のことを知らしめてくれる。案の定、映画界がその才能を放っておくはずもなく、監督のヴィンチェンゾ・ナタリは翌年には『CUBE / キューブ』で長編デビューして日本とフランスを筆頭に世界中で成功を収めている。 ホラーらしく密室と女...

  • 『腰辨頑張れ』成瀬巳喜男、現存最古の監督作

    監督/原作:成瀬巳喜男 1931年 成瀬巳喜男8本目の監督作。現存最古の成瀬作品でもある。今日の目で見ると月並みなストーリーだが、単なるドタバタコメディに留まらず、生きた人間の悲哀を盛り込んだことが当時は高く評価されている。'30年代初頭、日本映画がまだ発展途上にあり、成瀬自身もキャリアをスタートして1年ほどの頃だ。 そして統一された全体としての作品の出来は平凡かもしれないが、細部には魅力も沢山ある。日常の...

  • 『一番美しく』決して出来はよくないが正直で初々しい作品

    1944年 脚本/監督:黒澤明 出演:矢口陽子・入江たか子 矢口陽子演じる渡辺ツルが踏切で自分のミスに気づく瞬間や、調整途中のレンズを横に置いたまま新しいレンズの調整に入ってしまう様子がフラッシュ・バックで挿入される。陳腐ではあっても分かり易い表現で、ストーリーが誰にも誤解の余地のない明瞭さで観客に伝えられる。どうやら黒澤としては前作『姿三四郎』に引き続き、老若男女を対象とした娯楽映画のつもりだったらしい...

  • 『まごころ』人と視点の移動

    監督/脚本:成瀬巳喜男 出演:入江たか子・加藤照子・悦ちゃん 1939年 人の移動を描いた映画だ。常に動き続ける人と視点とがこの映画の大きな魅力となっている。 冒頭から「大日本愛國婦人會」の人々がゾロゾロと列をなして移動していく。カメラがその中の婦人二人を追う。と、橋の上で彼女たちが女の子二人組と行き交う。すると今度は女の子たちを追って視点は逆向きに移動していく。もう、人やカメラの動きに快感が伴っている...

  • 『麗猫伝説』映画の嘘

    監督:大林宣彦 出演:入江たか子・風吹ジュン 1983年に火曜サスペンス劇場の一編として作られたテレビ映画で、1998年に劇場公開された作品。完成度は極めて低いが、虚構性の露わなディティールや短い1ショットの美しさに魅力がある。大林宣彦らしい一作だ。 戦前の大女優で戦後は化け猫女優として知られた入江たか子が出演していて、作品の内容も彼女へのオマージュとなっている。この映画の描く世界では、映画自体は現実の世界...

  • 『可愛い悪魔』美しい仮構の世界

    監督 大林宣彦 1982年 手作り感ある仮構の作品世界と1ショットの特殊で美しいイメージに際立った魅力がある。 日本テレビの「火曜サスペンス劇場」の一作として作られた作品で、映像や音声の品質はテレビドラマそのものだし、大袈裟で不自然な演技、過剰に使用されて煩わしい背景音楽など、弱点も沢山ある。映画としては鑑賞に耐えられないレベルに見えるかもしれない。 しかし、外的条件に左右されない部分……着想や場面設定...

  • 『ファンタスティック・プラネット』独創的なSFアニメ

    監督:ルネ・ラルー 原作:ステファン・ウル 美術:ローラン・トポール 仏・チェコスロバキア 1973年 不思議な世界観が気持ち悪くも魅力的な映画。不気味でシュールな設定、それに形を与えた美術、奇妙でありながら現実的な物語、とにかく何もかもが独創的だ。 映画を見始めるとまず、ペン画のようなタッチを残した手描きの絵がそのまま動くのに驚かされる。どの作品を見ても質感が一様な日本やアメリカのアニメを見慣れた目に...

  • 『ヒューゴの不思議な発明』様々な示唆

    監督 マーティン・スコセッシ 2011年 アメリカ CGとミニチュアやセットを駆使して作られた作品世界、単純で表層的なキャラクターとストーリー、そして3D。作品の構造自体がジョルジュ・メリエスへのオマージュになっている。彼が21世紀に生きていたらこんな映画を撮ったのかもしれないと思わせる。もっとも彼ならもっとあからさまにアンチ・リアリスティックな作り物の世界にしてしまっただろうが。 本国のアメリカでは視覚効...

  • 『金田一耕助の冒険』全編に溢れる虚構性

    監督 大林宣彦 1979年 日本で『月世界旅行』が公開されてから74年が過ぎた頃『金田一耕助の冒険』は公開された。しかし、残念なことに1979年の人々は映画の虚構としての面白さを忘れてしまっていて、この映画はとても不評だったようだ。キネマ旬報のベストテンでは批評家からは無視されてなんと得票0、観客選出でも25位と低迷している。 当時はリアリズム以外は認めないとするような考え方が大勢を占めていたのだろうか? そ...

  • 『グロリア』活劇とリアリズム

    監督:ジョン・カサヴェテス 出演:ジーナ・ローランズ 1980年 アメリカ映画 とにかくグロリアがカッコいい。小さな少年を守ってギャング相手に拳銃をぶっ放し、敵の事務所に単身乗り込んで交渉する。更にそんな彼女を突き動かしているのは無償の善意ときている。正義の味方だ。普通なら白々しい絵空事になってしまうこと請け合いだが、その映画の嘘にジーナ・ローランズの顔と身体、演技が強烈な存在感を与え、ジョン・カサヴェ...

  • 『チャイナタウン』観客の感性を全ての点で上回るミステリー映画の傑作

    監督:ロマン・ポランスキー 脚本:ロバート・タウン 1974年 アメリカ映画 観客が理解するより先に展開していく物語、リアルで充実した描写、一見何気ない場面の連続でありつつ後にそのすべてが意味を持ってくる緊密な編集など、構成要素のどれもが優れていて、非常に完成度の高い映画だ。勿論、決して紳士には見えないジャック・ニコルソンや大柄でいかにも海千山千のジョン・ヒューストン、儚げで退廃的なフェイ・ダナウェイな...

  • 『吸血鬼』(1967) 曖昧なリアリズム

    監督 ロマン・ポランスキー 出演 シャロン・テート 1967年 アメリカ・イギリス ホラーでありコメディでもある映画。オーソドックスな吸血鬼映画の筋や設定をそのままなぞりつつも、中身はドタバタコメディだ。 面白い描写があり、コメディ部分もそれなり楽しいのだが、作品としては平凡な出来に留まっているように見える。描写はリアリズムにもロマンティシズムにも振り切れないまま、作品の性質はシリアスとコメディの間を彷...

  • 『ローズマリーの赤ちゃん』コミカルで怖ろしい恐怖映画

    監督 ロマン・ポランスキー 1968年 アメリカ映画 一人の女性が日常生活の中で徐々にサタニストたちに包囲されていき、悪魔の子を身籠らされる──という非常に怖い映画なのだが、なぜかホラーらしからぬ、おしゃれで楽しいコメディ映画のような要素も紛れ込んでいたりする。 ニューヨークの街とダコタ・ハウスを捉えた映像、崩した筆記体のクレジット、ミア・ファローのスキャットなどで構成されたオープニングは、洒落た恋愛映...

  • 『ジキル博士とハイド氏』優れた人物設定と多様な描写

    監督:ルーベン・マムーリアン 脚本:パーシー・ヒース/サミュエル・ホッフェンシュタイン 出演:フレデリック・マーチ 原作:ロバート・ルイス・スティーヴンソン 1932年 アメリカ映画 公開時、もっとも注目され評価されたのは同一人物によるジキルとハイドの演技、特撮を使った変身描写などだったようだが、今日ではそれらが最も古びた要素になってしまっている。真正面からアップで捉えた懸命な顔の演技は少しコミカルに見え...

  • 『狂へる悪魔』描写には魅力もあるが…

    監督:ジョン・S・ロバートソン 出演:ジョン・バリモア 原作:ロバート・ルイス・スティーヴンソン 1920年 アメリカ映画 スティーブンソンの『ジキル博士とハイド氏』の映画化作品。原作小説は1886年の出版で、発表当初から評判がよく、翌年にはアメリカで舞台化されている。映画は1908年以来、今日まで数え切れないほど作られ続けていて、ある英文学者によるとざっと70本はあるそうだ。その中で比較的評価の高いのがフレドリッ...

  • 『ワイルド・アット・ハート』映画を笑うための映画

    監督/脚本 デヴィッド・リンチ 1990年 アメリカ映画 タフな男のワイルドな生き様を描いた痛快アクション・バイオレンス巨編であり、感動の純愛ラブストーリーだ。が、そのあまりにストレート過ぎる表現はその種の映画のバカバカしさを観客に否応なく自覚させて爆笑を引き起こしてしまう。つまり、これはコメディ映画でもあり、B級映画のでたらめな表現を大真面目に模倣し、おしゃれなフィルムノワール(フランス語でこう呼ぶと...

  • 『マルホランド・ドライブ』解釈と意味作用

    監督 デヴィッド・リンチ 2001年 アメリカ映画 この映画は様々な謎が提示されミステリーのように展開していくが、謎そのものは決して解き明かされない。つまり推理モノのように最後にすべてのピースが当てはまり全体の絵が完成されることでスッキリしたいという人には向いていない。しかし、それとは別の、もっと幻惑的な面白さを与えてくれる。 もしかしたらデヴィッド・リンチはミステリー作品に物足りなさを感じたことがあ...

  • 『残菊物語』描写と偶有性

    監督 溝口健二 1939年 二人の馴れ初めは右向きの移動撮影、追い出された お徳は左向きのパンで去っていく。 シーン内での時間・空間の連続性の維持が徹底されていて、その完成度が異常に高い。『浪華悲歌』の頃、要所要所で使われて効果を発揮していた ”場” の演出がほぼ全編に拡大され、緊張感を漲らせている。その張り詰めた空気は観客にも伝わってくるほどで、撮影時の演者とスタッフの緊張はとんでもないものだったろ...

  • 『嫁ぐ日まで』技巧が支える親しみ易さ

    監督/脚本:島津保次郎 出演:原節子・矢口陽子・杉村春子 1940年 平凡な日常を新鮮で魅力的なものに刷新してしまう島津の資質が十二分に発揮された一本。内容、表現ともに新しい試みが見られないのは少し寂しいが、そのかわりに、ホームグラウンドで羽を伸ばした、寛いだ楽しさがある。 内容的には当時の結婚や家族関係が主に描かれる。登場人物は皆、自分の感情や将来設計より家の存続とその中で果たすべき役割を優先して考え...

  • 『愛から愛へ』他愛なさを称賛させずにおかない

    監督 島津保次郎 脚本 大庭秀雄 出演 高杉早苗 1938年 古い映画だが現代においても誰もが気軽に楽しめる良質の娯楽映画だ。 物語は戦前の家制度を背景に階級の違う若い男女のカップルを描く。定石通りに破局や自殺を仄めかす描写を挿入しつつ展開し、観客にドラマティックな悲劇を予感させる。ところが、最後になってそれまでの深刻な展開を台無しにして唐突なハッピーエンドに収束する。もちろん観客は拍子抜けだ。しかし、...

  • 『朗らかに歩め』小津の別系譜

    監督 小津安二郎 1930年 冒頭、接岸した大きな船を捉えたカメラがトラックバックしてゆき、手前に並んでいる自動車を次々に入れ込んでいく。なぜか自動車が斜めに並んで停まっているのは、勿論、この美しい構図を作るためだろう。その前を今カメラが通ってきたのと逆方向に群衆が全速力で奥に走っていく。そこから次々とカットを変え、場所を変えて、カメラは走る群衆を捉えていく。カメラと被写体の動き、構図、カット割り、全...

  • 『ある犯罪の物語』特殊な表現とドラマの獲得

    監督 フェルディナン・ゼッカ 1901年 イギリス映画 ある男が強盗殺人をして、警察に捕まり、絞首刑に処せられる。その中に彼の回想シーンが出てくるのだが、その表現方法が現代の映画とは異なっていて、とても面白い。 現在と過去が同時に存在し、 部屋の配置がなぜか反転する不思議な描写 まず、彼と看守らしい人物が独房で寝ている様子が描かれ、その同一フレームの中にもう一つの小さなフレームが突然現れ、影が幕の...

  • 『月世界旅行』虚構の魅力

    ジョルジュ・メリエス 1902年 フランス映画 史上初のSF映画として有名な作品。人の顔をした月に弾丸が突き刺さっている画は、誰もが一度は目にしたことがあるだろう。映画という極めて現実的な表現媒体で、自由奔放な夢物語を具象化したことが画期的だ。リュミエール兄弟が映画の迫真性、リアリズムの魅力を知らしめたのだとしたら、ジョルジュ・メリエスは映画のもう一方の魅力、虚構の面白さを知らしめたのだ。 他にも、当時...

  • 『火事だ!』虚構のリアリズム (英題: Fire!)

    ジェームズ・ウィリアムソン 1901年 イギリス映画 ある建物に火事が起こり、それを見つけた警官が消防署に知らせ、住人の危機と消防隊の活躍があり、最後に住人が無事救出される。 非常に単純だが、複数の異なるシーンを連結することによって起承転結、つまり物語を獲得している。映画が物語を語り始めた時代のオリジナル・ストーリーだ。 ただ、その最初期の物語はあまりに単調すぎて、現代においては退屈な映画と思われるこ...

  • 『逆噴射家族』真正の喜劇

    監督/脚本: 石井聰互 原案/脚本: 小林よしのり 脚本: 神波史男 1984年 非常識で不謹慎極まりない映画。表題は死傷者を出した痛ましい航空機事故のパロディになっていて、夫と妻、親と子が殺し合い、祖父は孫娘を強姦しようとする……無茶苦茶な映画だ。しかし、だからこそ道徳の範囲内に収束してしまう通常のコメディ映画とは比較にならない面白さがある。 既存の良識と価値観に揺さぶりをかけるのが、喜劇の効用の一つだとすれ...

  • 『トーキング・ヘッド』映画のパロディ

    監督 押井 守 1992年 押井守はタルコフスキーが好きだそうだが、実際に彼の撮る映画は、深刻で濃密なタルコフスキーより、どちらかと言うと軽薄で気まぐれな鈴木清順に似ている。好きな映画と作る映画が乖離しているのが面白い。 この映画もリアリティ皆無の不条理劇で、常識的な感性を持った観客にはそっぽを向かれてしまいそうな作風だ。 唐突な歌唱場面。後ろには何故か『月世界旅行』の月 アニメ映画の納期1ヶ月前に監...

  • 『殺しの烙印』特異な感性とキッチュ

    監督 鈴木清順 1967年『殺しの烙印』は一般的にはとんでもない駄作と見做されている一方、一部では熱狂的に支持されてもいる。なぜそんなことになっているかは、実際に見てみれば一目瞭然、とても ”変な” 映画なのだ。作品世界や人物の設定は荒唐無稽で、物語も破綻しているのだが、被写体の造形、フレーミングと構図、照明の作り出す光と影の演出などが非常に魅力的でもある。当時の日活の社長はこの映画を見て「わからない映画...

  • 『ゲームの規則』重厚な内容の軽快な喜劇映画

    監督 ジャン・ルノワール 1939年 フランス映画『ゲームの規則』という表題は非常にアイロニカルだ。この映画は登場人物の言葉と行動がルールを逸脱していく描写を積み重ねていき、それが上流階級の、とか、この映画の、という限定に留まらず、我々観客を含めた全ての人間が生きているところの ”ゲーム” そのものの規則を逆説的に明らかにしていく。 そしてその規則を外れたところにこそ、人間の本性があるのだと語りかける……。...

  • 『戦艦ポチョムキン』群衆シーンと「オデッサの階段」

    監督 セルゲイ・エイゼンシュテイン 1925年 ソビエト映画 モンタージュ理論の実践とその成果によって映画史に確固とした地位を占める映画だ。エイゼンシュタインの編集はショットとショットの繋がりに個々のショットにはない新たな意味を生み出そうとするもので、リアリティを醸成するグリフィスの編集とは好対照となっている。いずれの手法も映画にとって画期的なもので、今日の映画は編集の面でほぼ全て彼らの成果の上に建っ...

  • 『斬、』人間と世界の不調和

    監督 塚本晋也 2018年 全体の状況より個々の被写体の細部に執着する視点に塚本晋也らしい魅力がある。熱せられた橙色の鉄、刀とその擬態音、首を握る手、竹とんぼやてんとう虫など。揺れるカメラが生み出す臨場感、塚本の演じる澤村のキャラクターも魅力的だし、物語は独創的だ。 ただ、この映画は江戸時代の末期を描きつつ、そこに第二次世界大戦後の価値観を持ち込んでしまう。池松壮亮演じる主人公、都筑のキャラクターだ。...

  • キネトスコープと現代の映画鑑賞

    キネトスコープは1891年にエジソンが発明した映画を上映・鑑賞するための装置。 一人で立ったまま上から箱の中を覗き見る形態で、現在の映画に比較すると非常に個人的な鑑賞媒体だ。長時間の鑑賞には無理があるし、そもそも長時間映写できる仕組みでもない。何よりシネマトグラフが初期の観客に与えた現実と見紛うほどの衝撃がない。覗き窓から見る小さな映像は明らかに現実のスケール感を欠いていて、印象としても別の現実を目...

  • 『バレット・バレエ』特異な青春映画

    監督:塚本晋也 出演:真野きりな・中村達也 2000年 編集によって物語と映像と音を融合させた強靭な表現、それが喚起する名指すことのできない情念。塚本晋也の魅力はここでも健在だ。死んだ恋人、夜の街の彷徨、やくざ、町工場と全ての描写が主人公ゴウダの生々しい情念を乗せて拳銃に凝集する。 しかし、この映画はその情念を爆発させることがない。激しく拳銃を求めた情念はやがて変質し、死への憧憬に昇華されてしまう。 ゴ...

  • 『ベティ・ブープ:ベティの笑へ笑へ』現実への哄笑

    監督 デイブ・フライシャー アメリカ映画 1934年 ( 原題『BETTY BOOP HA! HA! HA!』) 同年の日本映画『隣の八重ちゃん』に登場人物がこの映画を見る場面が出てくる。キャラクターが境界を行き来する表現が共通していて、作品にぴったりの引用になっている。また、筒井康隆はこの映画に触発されて『虚航船団』を書いたそうだ。 『ベティ・ブープ』シリーズの一本で7分程の小品。 実写とアニメが合成され、それぞれが表す現実...

  • 『カメラを止めるな!』「ポン!」と視点の映画

    監督/脚本/編集:上田慎一郎 原案:劇団PEACE「GHOST IN THE BOX!」 2018年 この映画は構成が非常に面白い。最初「あぁ、この程度なんだな」と安易な予断を誘い観客を油断させておいて、後半加速度的に魅力を倍増させてその想定を軽々と飛び越えていく。 序盤は題材、ストーリー、演技など何もかもが陳腐極まりないが、時間と空間に嘘がない1シーン1カットの威力で観客の関心を辛うじて繋ぎ止め続ける。 物語に回収されない不...

  • 古い映画のすすめ───英BBC発表の最も偉大な外国語映画100本

    2018年10月29日、英BBCが最も偉大な外国語映画100本を発表している。世界43の国と地域の映画評論家209人が挙げたベストテンをポイント別に集計して順位が付けられているそうだ。 非常にバランスの取れたニュートラルな結果になっていて、映画好きな人の中には常識的で面白みがないという人もいるかもしれないが、これから映画を見ようという人には大いに参考になるリストになっている。 何よりここに挙げられているような作品...

  • 『告白』優れた描写と奇抜なプロット

    監督/脚本:中島哲也 原作:湊 かなえ 出演: 松たか子・橋本愛・木村佳乃 2010年 異常で猟奇的な登場人物とストーリーでできている映画。人間のネガティブな情動を露悪的に描き、観客の皮相な好奇心を刺激する。その種のものを好まない人には向かないだろう。安っぽく興味本位とも言えるし、サービス精神に溢れたエンターテイメントとも言える。 登場人物の設定やプロットは、その奇抜さで観客を引きつけるだろうし、凡庸な娯楽映...

  • 『散歩する侵略者』主題と表現の齟齬

    監督:黒沢清 出演:長澤まさみ・長谷川博己 2017年 概念を奪うというアイデアが興味深い。なのに、この映画はそれを掘り下げてくれない。宇宙人たちは「概念を奪う」と言いながら概念を奪わず、家族への親近感や所有欲、自他の区別、敵意、愛などといった感情や認識能力そのものを奪う。その上なぜか奪い取った愛には自分が影響を受けてしまうらしい。奪い取るのが愛の概念ならそんなことは起こらなかっただろう。 これも矛盾に...

  • 『浪華悲歌 /なにわエレジー』偶有性と女優の演技

    監督:溝口健二 脚本:依田義賢 出演:山田五十鈴 1936年 物語を語る中に一人の女性の様々な側面を描き出したシナリオと、気弱そうに見える女性がタバコを吐き捨てる「不良少女」になるまでを演じた山田五十鈴が、まず最初に気づくこの映画の魅力だ。 山田演じるアヤコは貧しく荒んだ家庭の娘であり、同年代の恋人がいる若い女性だ。一方で豪華なアパートに囲われた愛人であり、男を騙す悪女でもある。伝統的な着物姿からモダン...

  • 『Love Letter』客観描写による主観の表現

    監督/脚本:岩井俊二 出演:中山美穂・豊川悦司・酒井美紀・柏原崇 1995年 郷愁そのもののような映画。光や雪の白さ、甘美な旋律、過去の追想などによって郷愁という感情を映画という形式に落とし込み『ラブレター』と名づけた、といった感じだ。 横たわった中山美穂の顔や雪を払う手など、極端なクローズアップが連続し、街に降りていく彼女を画面の片隅に小さく捉えた長いロングショットがそれに続く。映画は始まりから映像も音楽...

  • 『君の名は。』日本の美意識が反映された清新なアニメ映画

    監督/脚本:新海誠 2016年 心の琴線に触れる映画だ。完成度は低く、作品の綻びは目に見えて大きいのに感情を揺り動かされる。 広大な空を描き続ける描写が人の存在をちっぽけにし、緻密に描かれた作品世界は想起された過去のように美しい。その中で偶然と奇跡によって紡がれる人の物語は甘く、感傷的で、憧憬を掻き立てる。 映画は空の絵から始まる。冒頭、彗星を追う視点が空を描き、その下にある地表を写す。ここからではもち...

  • 『東京の女』優れた表現と空虚な物語

    監督:小津安二郎 出演:岡田嘉子・江川宇礼雄・田中絹代 1933年壁一面の時計が物語上の意味を持たず、あくまで表現としての魅力を発露する。 ほぼテクニックだけで出来ているような映画。内容的には無意味な悲劇だが、語り口が簡潔明瞭で時間も47分間しかないため決して観客を退屈させないし、逆にそのテクニカルな表現の面白さを堪能させてくれる。 二人暮らしの仲のいい姉弟がいて、姉のちか子がタイピストをして生計を立て、弟...

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