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斉東野人の斉東野語 「コトノハとりっく」 https://blog.goo.ne.jp/123qweaz

愚人(=斉東野人)による愚論愚説(=斉東野語)。

愚人(=斉東野人)による愚論愚説(=斉東野語)。コトノハ(言葉)に潜むトリックを覗(のぞ)いてみました。

斉東野人
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2016/12/29

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  • 断想片々(57)【マルハラ】

    すっかり市民権を得たパワハラ(パワーハラスメント)やセクハラ(セクシャルハラスメント)といった「ハラ」付きコトバ。モラハラ(モラルハラスメント)やマタハラ(マタニティーハラスメント)なども加わって、今や数にして10語は下らないようだ。変わったところではマルハラ(「。」=マルハラスメント)というのもある。マルハラの場合は使われる場が限定しがちで、主にスマホのメール。コトバを交わし合う人間関係も限られ、上司や年長者が、部下や若い人に発したメールの場合が多い。なぜ「ハラ」か。文の末尾に句読点の句点であるマル(「。」)を付けると、発した目上の人が受け取った目下の人に対して「文章は、このように書くべし」と、ハラスメントしているように受け取られるため、であるらしい。若者たちは文末に「。」でなく「!」や「?」を使うこと...断想片々(57)【マルハラ】

  • 断想片々(56)【「ドミノ理論」の変質?】

    ウクライナ戦争も2月24日で開始から2年が過ぎた。ウクライナの民間犠牲者は1万5百人を超え(2月24日付け読売新聞朝刊)、兵士の戦死者は3万人を超えて(26日付け)、ウクライナ側の劣勢は鮮明になっている。メディアが繰り返し伝えるように、旗色逆転の主な理由はNATO側、とりわけ米国からの武器弾薬の供給が滞っているためだ。そんな情勢の変化を印象付けるのは、米大統領候補へ名乗りを上げているトランプ氏が「軍事費を負担しないNATOの国へは、ロシアに『どうぞ自由に攻め入ってくれ』とに言いたい」と公言していること。半世紀前のベトナム戦争と、当時アメリカで盛んに唱えられた「ドミノ理論」というコトバを思い出す。さま変わりそれにしてもベトナム戦争からもう半世紀も経つのかと書いていて驚く。ならば、この言葉を取り巻く環境が変わ...断想片々(56)【「ドミノ理論」の変質?】

  • 95 【夢】

    夢幻(ゆめまぼろし)の如くなり人が自らの来し方を振り返るとき<人間五十年下天(げてん)のうちを比ぶれば夢幻の如くなりひとたび生を享(う)け、滅せぬもののあるべきか>には強い説得力がある。「人間」は「じんかん」と読み「世間、世の中」の意味(三省堂「新明解国語辞典」)。織田信長が愛唱したと伝えられ、起源は幸若舞(こうわかまい)の『平敦盛』にさかのぼる。去年新緑の候、思いがけずも届いた大学先輩の訃報と追悼文集には、題名に『夢』とあった。都市開発にかけた生涯を写真とともに紹介し、趣味の自作俳句が添えられていた。一生が簡潔に伝わる、けれんみの無い文集だが、こうして振り返れば人の一生など<夢幻の如くなり>だろう。めでたくもあり、むなしくもあり。<夢>は吉凶の両面で多用される、日本人の好むコトバかもしれない。あらざらむ...95【夢】

  • 断想片々(55)【墜落と不時着水】

    米軍輸送機「CV22オスプレイ」が11月29日、鹿児島県の久島沖に墜落した。木原防衛相は翌30日、在日米軍のリッキー・ラップ司令官に直接「安全が確認されるまでオスプレイの運航を停止してほしい」と申し入れたが、その後も米海兵隊所属の「MV22オスプレイ」や米海軍所属の「CMV22オスプレイ」が沖縄県普天間飛行場で離着陸を繰り返した(12月2日付け読売新聞朝刊13S版)。オスプレイ事故にナーバスな日本側と、アメリカ本土からは遠い日本での事故のせいもあり無頓着な(?)米側。両国の対応が興味深かった。不時着水?目を引いたコトバの一つに「不時着水」があった。「墜落したのではなく不時着だった。機体を立て直そうとパイロットたちは最後まで操作に懸命だったのだから、墜落ではない」コトバの元々の出所は知らないが、事故直後のメ...断想片々(55)【墜落と不時着水】

  • 断想片々(54)【汚染処理水への疑問】

    科学音痴の筆者が言うのもナンなのだが、福島第一原発汚染水の排水問題がイマイチ理解できない。政府は24日から汚染水の海洋放出を開始した。汚染処理水のトリチウム濃度を国の排出基準(1リットル当たり6万ベクトル)の40分の1まで薄め、沖合1キロの海底トンネルから放出する--というのが政府計画。ここで言う「排出基準」とは、平時のもの(基準)のはず。これまでの経緯からして、政府が非常時の汚染処理水の排水基準値を検討したことなど、ありえないからだ。ちょっと考えてみよう。汚染水の生成過程が違う点。平時の基準条件と非常時のそれとでは異なる。であれば、基準値の設定の仕方や基準も異ならなければオカシイのではないか。平時に用いられる基準値を、非常時の基準値として使用(流用?借用?)する。排出規模や排出方法、排出期間と集中度を考...断想片々(54)【汚染処理水への疑問】

  • 断想片々(53)【ビッグモーター社と損保の癒着】

    毎日新聞や読売新聞などが3日の朝刊で、ビッグモーター社の乱暴きわまりないクルマ販売を報じた。千葉県で、客のクルマの窓ガラスにセールスマンが顔をべったり付け、「お前なんか客じゃねえ!」「この野郎」と、威嚇の暴言を吐いたという。客を客と思わぬ、けしからぬ態度。会社の体質が透けて見えた。クルマよりゴルフボールが大事?「たいへん、けしからん。ゴルフボールでクルマを叩くとは!ゴルファーに失礼だよ」板金修理の個所を拡大し、修理代金を水増ししていることが明るみに出ると、ビックモーターの社長氏は、こうコメントした。顧客の大切なクルマより、自分の趣味のゴルフの方が関心事であるらしい。聞いた人は唖(あ)然としたろう。何という勘違い!この経営感覚!あきれる。焦点は損保会社との癒着問題ゴルフボールや工具での傷付けから、街路樹の伐...断想片々(53)【ビッグモーター社と損保の癒着】

  • 断想片々(52)【トレンドマイクロ社の安全マーク】

    有料セキュリティーソフト「ウイルスバスター」(トレンドマイクロ社)をインストールしている筆者のパソコンには、クリック可能な項目ごとに緑色の「安全マーク」が付くようになった。「Gooブログ」であれば、読みたい項目にカーソルを近づけると、先回りして項目の先頭で「安全マーク」(緑色のチェックマーク)が光る。ネット上に虚偽情報があふれ、ネット詐欺も多いご時世だから便利そうだが、イマイチ使いにくい。使いにくさの理由理由の第一は、パソコン画面が「安全マーク」ばかりになっていること。目に付くのは「安全マーク」の方だけで「危険マーク」(「警戒マーク」?)は見たことがない。項目の大半が「安全」になるのは予想されたこと。ならば赤い「危険マーク」を光らせた方が目立つし、注意喚起になると思うが・・。理由の第二は、何のチェックかが...断想片々(52)【トレンドマイクロ社の安全マーク】

  • 94 【まっくろくろすけ、&「バナナ320本」】

    まっくろくろすけ小3になる孫娘の、ちーちゃん。まだ保育園に通っていた頃、実家へ来るたび物置へ入りたがった。六畳間ほどの薄暗い「イナバの物置」。ちーちゃんがすることは一つ、地団駄を踏むこと。小さな足で床を踏み鳴らした後で、ぐるりと天井を見上げる。何事も起こらない。ホッとするが、何だか残念そうな様子でもある。まっくろくろすけが、その日も出て来なかったからだ。今でもくろすけに会いたいのか、時々ジイジを薄暗い物置へ誘う。独りで行くのは不安なのかもしれない。まっくろくろすけ。本名(?)ススワタリ。映画『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』に登場する。チョー有名人、いや有名な妖精だから、説明は不要だろうい。『となりのトトロ』には他にも猫バス、トトロなどの妖精が登場する。いかにも子供に好かれそうなキャラクターばかり。...94【まっくろくろすけ、&「バナナ320本」】

  • 断想片々(52)【ザンネンな詐欺師たち】

    2か月近く前になるだろうか。マイカーの任意保険を掛けているZ社から、顧客リストが外部流失した旨の詫(わ)び状が届いた。迷惑料のつもりか500円の金券が添えられている。ネット販売が売り物の損保会社だから、顧客のメールアドレスなど流失データ類は、フィッシング詐欺をたくらむ者にとっても好餌(こうじ)だったろう。連日のフィッシング詐欺メールかくて2、3日すると連日のように、我がパソコンへ詐欺メールが届くようになった。銀行、JRビューカード、アマゾンのプライム会員資格(?)、コンビニのカード等々。どれも決まって「再確認が必要です。確認しないと会員資格が制限されます」なので、仕組んだ詐欺犯は同一人物であると、容易に想像出来た。しかし、である。詐欺師が再確認を迫るのは、そもそも当方が持たない銀行口座やコンビニ・カード、...断想片々(52)【ザンネンな詐欺師たち】

  • 断想片々(51)【漁師サンの記者会見】

    岸田首相が標的になったテロ事件。繰り返し流される襲撃時のテレビ映像で、ひときわ目を引いたのは赤いベスト姿の漁師男性だった。犯人をヘッドロックで押さえつけた勇敢な行為。よく見れば犯人はこの時、まだ鉄パイプ爆弾を抱えていた。筆者としては漁師さんの談話や、どういう人かといった部分を真っ先に読みたいところ、知りたいところだった。ところが某日刊紙がこの部分を報じたのは18日付けの朝刊社会面。事件発生が15日、当の漁師が「記者会見で」語ったのが16日、紙上で報じたのが18日。速報性がイノチの日刊新聞としては、スローモーに過ぎはしないか。記者会見を設定したことも、各メディアが競争意識を捨てて歩調を合わせ、安易に流れているようで、なじめない。まあ、この新聞社のために弁じれば、新聞休刊日のため17日付け朝刊が発行出来なかっ...断想片々(51)【漁師サンの記者会見】

  • 断想片々(50)【オールド・リベラリストの憂鬱】

    「十年一昔」と言うけれど・・「一昔(ひとむかし)」の意味は<もう昔だと感じられる程度の過去。普通、10年前をいう。もとは一七年・二一年・三三年などを意味したこともあった。「十年一昔」>(『広辞苑』第七版)。とはいえコトバの意味が変化する時間幅(スパン)として考えるなら、10年は短すぎるようにも思える。それほどコトバの意味は早く変わる。一例は「リベラル」というコトバ。一部メディアに限るかもしれないが、政治学用語としての「リベラル」が、いつの間にか「左派」と同義ないし近似の関係で使われるようになっている。<立憲、「中道回帰」で目指す政権奪還の道リベラル派にくすぶる反発>(3月18日付け朝日新聞デジタル版見出し)時代を遡(さかのぼ)らずとも「リベラル」は「liberal」である。「liberalism」は「自由...断想片々(50)【オールド・リベラリストの憂鬱】

  • 断想片々(49) 【気球と悪夢】

    米中の非難合戦になっていた「謎の気球」騒動も、やっと一段落したかに見える。おかしな話だった。首をかしげたのは、もっぱら「民間の気球」や「アメリカ側が気球を飛ばした」「気象観測のため」といった中国側の言い分。回収した気球を調べればすぐ分かってしまうのに--。偵察気球と偵察衛星現代は宇宙戦争の時代。ウィキペディアで「偵察衛星」あるいは「スパイ衛星」を検索すると、詳細かつ明快な説明が出て来る。今や偵察衛星の存在は秘密でも何でもない。まして「気球」となると何時代が昔の話にさえ感じる。宇宙から送信される衛星写真で地上の自転車が明瞭に見えると話題になったのは、もう20年以上も昔のこと。現在のテレビニュースには毎日のように北朝鮮のミサイル発射場の衛星写真が紹介される。機器も技術も日進月歩の現代、地球上で起きるすべてが宇...断想片々(49)【気球と悪夢】

  • 92 【オリジネーター・プロファイル】

    「フェイク」発信元は個人の時代へ?トランプ前大統領とともに世に出た観がある「フェイク」や「フェイクニュース」といったコトバ。ホワイトハウスを去った後もコトバは消えず、ウクライナ戦争や新型コロナ禍に場を変えて、より広く人の口の端(は)に上るようになった。トランプ前大統領の頃は、米CNNなど大手メディアの流す情報が標的だった。しかし現在の日本で標的になっているのは、ネット上にあふれる個人発信の虚偽情報である。発信元が大手メディアから小メディアないし個人レベルにすり替わった。コトバそのものが変質している。チェック機関OPの発足耳慣れない「オリジネーター・プロファイル(OP)」という語。originatorは「創作人」「発起人」の意味。profileは、ご存じ「プロフィール」、つまり「横顔、輪郭、人物寸描」だ。2...92【オリジネーター・プロファイル】

  • 断想片々(48) 【言い間違い】

    「支払いは電子レンジで・・」近所のスーパーのレジで、カードを出しながら、すぐ言い間違いに気づいた。自分の顔が赤らんだのも分かった。「・・・」レジ係の女性はチラリと当方を見たが、最初は表情を変えない。本当は必死で笑いを堪(こら)えていたのかもしれない。40代半ばだろうか。「いや、その、電子マネーで・・」言い直した。「はい、電子マネーですよね。言い間違えるお客さん、多いんですよ!」柔和な目で筆者を見て、それから、やっぱり「ぷッ」と吹き出した。明るく言ってくれると、かえって救われる。(しかし、あんな重いものが、貨幣の替わりになるはずもない・・)。そう思った途端、こちらも声を出して笑ってしまった。何人かの客が驚いたように振り向いた。「レジ」で「電子マネー」だから「電子レンジ」になったのかな。へッ、へッ、へッ。やっ...断想片々(48)【言い間違い】

  • 断想片々(47) 【痛い親指、甘い柿】

    庭の柿の実が熟れた。さっそく捥(も)ぎ、ナイフで皮を剝(む)こうとして、左手親指先の指紋のある部分、いわゆる「指の腹」を切ってしまった。包帯を巻くものの、傷が深いらしく血が止まらない。困ったことに、というかアタリマエというか、止まらなければ何もできない。ここは「年齢の割に血液サラサラか・・」と都合良く解釈して、ゴロンと横になる。果報は寝て・・いや、止血は寝て待つことにした。とはいえ気になる。見ると、もう包帯に血が滲んでいない。寝転んだために血が止まったらしい。鼻血や生傷の絶えなかった子供の頃のチエを思い出した。<出血が多い時は、傷口を心臓の位置より高くする>。横になったので傷口が心臓の高さになった、ということだろうか。もっとも、問題は、ここからだった。触覚機能の代名詞たる指先には神経が集中しているのか、と...断想片々(47)【痛い親指、甘い柿】

  • 断想片々(46) 【楽天スマホのデータ利用額】

    楽天スマホ使用の理由筆者はスマホをほとんど使わない。大半の連絡は加入電話で済ませ、スマホを使うのは2人の娘や友人など、ごく親しい人とのやり取りに限っている。それも、たいていは無料通話のラインを利用してのこと(ひかりWiFi接続)だ。使っている楽天スマホでは、会話及びデータの使用量合計が月間3GBに満たない場合、月ごとの使用(利用)量は一律980円で済む。筆者の利・使用量は月に0・3GB前後なので、規定量の10分1ほど。安さが楽天スマホ使用の理由である。3通りの異なる使用量ある時、時間だけはたっぷりある高齢者の特権(?)を生かすべく、データ利・使用用量の詳細を確認してみた。まず「my楽天モバイル」をクリックし、ここの「ホーム」をクリックすると、「12月のデータ利用量」として「0.06GB」と表示されていた(...断想片々(46)【楽天スマホのデータ利用額】

  • 断想片々(45) 【出産一時金の増額負担分は、高齢者のサイフから】

    高齢者は、ますます厳しく出産育児と、75歳以上の後期高齢者とに、如何なる関係ありや?厚労省は2024年4月から増額予定の出産育児一時金について、増額分の7%を後期高齢者の負担とする制度改正に乗り出すという(11日付け読売新聞朝刊、13S版)。同じ厚労省の予算内とはいえ、ズボン前部の綻(ほころ)びを、さらに擦(す)り減った尻の布を切り取って縢(かが)る(=補強のために縫う)ものだ、とは言えまいか。飛び跳ねるように上昇した消費者物価と、下がる一方の年金支給額。<年金支給額は物価変動に合わせて上下させる>の原則もどこへやら、実際は、物価変動は年金支給額を下げる口実に使われても、上げる理由には使われない。賦課方式と積立方式お年寄りたちは今、極めて従順になった(ようにも見える)。背景の一つに、年金制度をめぐる若者世...断想片々(45)【出産一時金の増額負担分は、高齢者のサイフから】

  • 断想片々(44) 【中身のないニュース】

    ニュースには中身のないものや薄いもの、不確かなものも多い。例えば9日付け読売新聞朝刊国際面(13S版)に載った3段の囲み記事だ。見出しは「『露、米選挙に干渉してきた』」「『プーチンの料理人』実業家プリゴジン氏」。米国内は中間選挙のさなかであり、トランプ氏の次回大統領選出馬が取り沙汰されていたから、格好のニュースネタだったのだろう。このプリゴジン氏、最近はSNSで敵方ウクライナ・ゼレンスキー大統領の力量を褒(ほ)め上げるなど話題の人である。前回米大統領選でもロシアがトランプ候補側に付いて選挙干渉したとの話が出たから、ふたたび「米選挙にロシアが干渉した」だけでは二番煎じ。その点「プーチンの料理人のプリゴジン氏も」は、新しい要素だ。問題は中身しかし、要はそれだけのこと。読者が知りたいのは選挙干渉の具体的な中身の...断想片々(44)【中身のないニュース】

  • 断想片々(43) 【ドイツ・ショルツ首相訪中】

    中国の「核兵器の使用、脅しに反対」<習氏、核使用に「反対」異例のロシアけん制、独首相会談>(5日付け共同通信)<独中会談、習氏「核兵器使用反対」>(5日付け産経新聞)ドイツのショルツ首相が4日、北京で習近平国家主席と会談した。この席で習氏はウクライナ情勢について「国際社会は核兵器の使用や脅しに対して、共同で反対すべきだ」と強調した。「発言内容は中国外務省発表による」との但し書き付きだから、中国側も積極的にPRしたい発言部分だったのだろう。名指しは避けたものの、ロシアとNATO双方への発言であることは確かだ。とりわけロシアへのけん制とも受け取れる。ウクライナ侵略戦争の勃発以来、中国が終始ロシア寄りの発言を繰り返してきた点を考えれば、若干ながら明快な軌道修正である。読売新聞は触れずウクライナ侵略戦争を長い歴史...断想片々(43)【ドイツ・ショルツ首相訪中】

  • 91 【続・小さな戦争】

    玉川上水緑道筆者のウオーキング・コースが、東京都の西に伸びる玉川上水緑道であることは、以前にも書いた(19【すっごくチョー全然&とても】)。玉川上水路は、江戸時代に多摩川から江戸の町まで、上水道水を導水するために掘られた。筆者は雨でもない限り週に2、3回、1回に1時間半ほど歩く。主に椎名誠さんの小説『岳物語』の舞台となった小平市のあたりだが、武蔵野の面影が色濃く残り、木陰の道は夏でも涼しい。カブトムシやクワガタ目当ての子供たちで賑わった夏が終わり、今は少々厄介なモノがウオーカーたちの注目を集めている。オオスズメバチだ。自然のままが魅力のルートだから、まあ、こんな危険も時には仕方がないのだが--。うごめくオオスズメバチ9月も末のこと。歩いていると古木の根元、地上1メートルほどの所に「オオスズメバチに、ご注意...91【続・小さな戦争】

  • 90 【小さな戦争】

    ハチの巣と格闘旧盆前から旧盆にかけて、我が家の北側玄関先と南側ベランダで、相次いでハチの巣が見つかった。最初に気づいたのは1階ベランダに置いたベンチのあたり。背に黄色の縞模様のある体長2センチほどのハチが、頻繁にやって来てはベンチの背後に消えた。「ははァー、裏にハチの巣があるな!」すぐに気づいた。毎年のようにベランダに巣を作るからだ。たいていは庇(ひさし)の下の奥あたり。もともとミツバチは巣を壊されるなど攻撃されない限り、ヒトを襲わない大人しい昆虫だが、週に何度か保育園帰りの孫たちを預かるので、孫が刺されては困る。これまでもハチの巣は見つけ次第取り除いて来た。特に今夏のように低い位置だと、子供の手でも届きやすい。わずかな危険でも除いておくのがジイジの役目というものだ。というわけで、ハチたちがどこかへ飛び去...90【小さな戦争】

  • 断想片々(42) 【セミの鳴かない8月】

    米大リーグ大谷翔平選手の試合中継をBS1で観ようと、朝の4時半に起きた。ひと月前なら明るむはずの空が、この時刻では、まだまだ暗い。テレビのスイッチを入れると、天気予報の番組中で、きれいなお姉さんが涼しげな声で「東京の気温は唯今30.8度です」と、やっていた。最低気温25度以上で「熱帯夜」だから、熱帯夜のまま夜が明けそうだ。筆者は寝る前にエアコンのスイッチを切る。寝冷えで風邪をひいたことが何度かあるからだ。しかし、こんな夜ではたまらない。おまけに何という湿度の高さか。梅雨は明けたのか今年の東京は本当に梅雨が明けたのだろうか。いまだ梅雨の末期を思わせる蒸し暑さで、豪雨と雷雨が列島各地を暴れ回っている。例年なら<梅雨明け10日>の言葉どおり、天候の安定する通夜明け直後の10日ほどは、登山客など夏場のレジャーの集...断想片々(42)【セミの鳴かない8月】

  • 89 【「政治テロ」と世論誘導】

    予想通りの与党大勝に終わった第26回参議院選挙。ウクライナ侵略戦争を目(ま)の当たりにしてきた有権者が、軍備強化と憲法改正の必要へと傾くタイミングで、さらに投票日直前に安倍元首相が銃撃を受けて死亡した。政権与党にとれば追い風が二度吹いた形だろう。特に二度目の風には与党寄りメディアの援軍も加わり、事件の政治性を強調しつつ「卑劣な言論封殺許されぬ」や「民主主義への挑戦」と声高に叫んだ。安倍氏を民主主義の守護者とする一大キャンペーンには、票を政権与党側へ誘導させる効果があった。安倍氏への”同情票”が、氏の持論だった軍備強化と憲法改正の推進勢力へと流れ、一定の加勢要因となった。「政治テロ」だったのか?「テロリズム」について『デジタル大辞泉』(小学館)は「政治目的を達成するために、暗殺・暴行・粛清・破壊活動など直接...89【「政治テロ」と世論誘導】

  • 断想片々(41) 【骨細(ほねぼそ)の・・】

    政府は7日、「新しい資本主義の実行計画」と「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を閣議決定した。例によって抽象的なコトバのオンパレードで、具体的に何をしたいのかが見えて来ない。ことに政権発足時から注目していた「分配」のトーンは、急に小さくなった。「骨太」とは、容易には変わらぬことの例えのコトバではなかったのか。「投資」頼み?「成長と分配の好循環」の項目には「資産所得倍増プラン」の文字が踊る。「資産」に「所得」が、くっついていた。所得を増やして資産を倍増させる、というより、資産運用で所得を倍増させる、という意味合いが強いようだ。要はNISA(少額投資非課税制度)や個人型確定拠出年金(イデコ)など、個人投資の活発化策。しかしこれでは、お金のある人はさらに豊かになっても、投資資金のない人は打つ手なしだろ...断想片々(41)【骨細(ほねぼそ)の・・】

  • 断想片々(40) 【殺すな!】

    大儀と口実「敵はウクライナのネオナチ」と叫んで他国の領土を侵(おか)し、街を破壊し、他国民の生命と財産を奪う。「ネオナチとの戦闘」の大義名分は口実(こうじつ)と同義。ロシアの真の目的は、自国防衛のために隣国をNATOとの緩衝(かんしょう)地帯にとどめることにある。大義名分とは、手前勝手な動機を隠すためのコトバ。ふり返れば「大東亜共栄圏構想」もベトナム戦争の「ドミノ理論」も、イラク侵攻時の「生物化学兵器所持」も、みな然(しか)りだった。他国の主権を無視して大国が侵攻する構図は、もちろんウクライナが初めてではない。「殺すな!」テレビニュースで日本の高名な女性シャンソン歌手が「(ウクライナ戦争でもロシアばかりが悪いと決め付けず)もう少し見極めたい」とコメントしていた。、米国もベトナム戦争では一般の民家を焼き払い、病院...断想片々(40)【殺すな!】

  • 88 【ウクライナ国旗と映画『ひまわり』 &ウクライナ国歌】

    ヒマワリはロシアの国花ウクライナ侵略戦争や北京冬季五輪で、目にする機会が増えたウクライナ国旗。麦畑と麦秋(ばくしゅう=麦の収穫期である初夏のこと)の青空とを、上下二分して図案化したものたが、最近は下半分の黄色を「ヒマワリ畑」とする説もあるようだ。今回の戦争に際して映画『ひまわり』(1970年公開)の上映会が日本各地で催されているが、「ヒマワリ畑」説の出所は、この映画からの連想かもしれない。ネット上には、ウクライナ国花をヒマワリと誤解した書き込みも目立つ。しかし正しくは、ヒマワリはロシアの国花である。主にサンフラワー油(ヒマワリ油)採集を目的に栽培され、生産量の世界一位、二位をウクライナとロシアが競う。ちなみにウクライナの国花は山桜の一種であるスミミザクラと、ヨーロッパで庭木として人気の高いセイヨウカンボク。ロシ...88【ウクライナ国旗と映画『ひまわり』&ウクライナ国歌】

  • 断想片々(39) 【プーチンの墓穴が見えた】

    ウクライナ侵略戦争で軍事的優位に立つロシアは、国際社会からは孤立の一途。ウクライナを制圧し終えたとしても、その先のロシア国家運営は困難を極めそうだ。プーチンの行く手に待ち受けるのは、どう考えても<破滅>の二文字のみである。なぜ、バレるウソばかりロシア側が挙げる侵攻の理由に「東部親ロ派住民に対する、ウクライナ側からのジェノサイド(集団虐殺)」というのがあった。原子力発電所攻撃では「ウクライナの原子爆弾製造を止めさせる」を理由にした、ジェノサイドはそれ以前から、つまり侵攻開始時から口にしていた理由付けだった。侵攻以前から東部の親ロ派住民は武装組織を作り、独立を唱えてウクライナ軍と衝突していた。武装組織兵の死傷を指して「ジェノサイド」と主張するなら、ロシア側の言語感覚自体がどうかしている。この件でオランダ・ハーグの国...断想片々(39)【プーチンの墓穴が見えた】

  • 断想片々(38) 【SNS時代のプロパガンダ戦】

    ひたすらウソっぽいロシア軍によるウクライナ侵攻は、南東部ザポリージャ原子力発電所への攻撃と制圧(4日)で、さらに深刻化した。東西冷戦時代とは明らかに様相が異なる。プーチン側の発するコトバすべてが、ひたすらウソっぽく聞こえる点だ。なぜか。証拠動画の拡散ザポリージャ原電への攻撃ではロシア国防省が自軍からの砲撃を否定し、「銃撃戦になったが、こちらから砲撃はしていない」と発表した。砲撃は大口径砲、つまり戦車砲やロケット砲などによる攻撃を指す。4日の国連安全保障理事会緊急会合でロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使は「ウクライナ側の破壊工作集団か放火したもの」と反論した。ロシア側が放ったのは自動小銃の銃弾のみ、と言いたいのだろう。だが日本のテレビニュースでは、原電施設へ向けて飛弾するライブカメラ映像が、繰り返し流れている。...断想片々(38)【SNS時代のプロパガンダ戦】

  • 断想片々(37) 【続・悩ましい記事】

    小泉純一郎氏ら5人の元首相が福島原発事故で「多くの子供たちが甲状腺がんになった」とする書簡をECへ送ったことに対し、自民党の政調審議会は8日、「差別や偏見を助長する」との非難を決議した(2月9日付け読売新聞朝刊13S版4面)。5日付け記事の続報。非難決議の根拠として「福島県の専門家部会や国連科学委員会は『事故当時18歳以下だった住民の甲状腺がんは、放射線の影響とは考えられない』としている」との見解があるようだ。2011年3月11日の福島原発事故から、ほぼ11年。「福島県の専門家部会」がどの時点で、つまり何年に発表した見解なのかは、この記事からでは不明。見解を裏付ける材料はデータ数、分析技術とも最新のものほど信頼度が増すはずだから、肝心の点が明記されていないのでは、主張としての説得力に欠ける。やはり数字の裏付けを...断想片々(37)【続・悩ましい記事】

  • 断想片々(36) 【悩ましい記事】

    小泉純一郎氏ら5人の首相経験者が、福島原電事故で「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいる」とする書簡を、欧州連合(EU)の執行機関あてに送った。これに対し政府は「誤った情報」と強く批判しているという(2月5日付け読売新聞朝刊13S版4面)。分かりにくい記事だ。なぜEUへ?5人は小泉氏(自民)のほか菅直人(旧民主)、細川護熙(旧日本新党)、鳩山由紀夫(旧民主)、村山富市(旧社会)の”超党派”各氏。まず、なぜ経済同盟のEUへ送ったのかが、記事からでは分からない。まして現在のEUはウクライナ問題で大忙しのはずで、タイミング的にもどうか。政権側からは「誤った情報を広めている」(西銘復興相、高市自民党政調会長)といった強い批判が出ているらしい。補強取材は必須補強取材の必要は「なぜ書簡をEUへ送ったか」以外にもある。福...断想片々(36)【悩ましい記事】

  • 87 【唱歌「故郷」】

    一、兎(うさぎ)追いし彼(か)の山小鮒(こぶな)釣りし彼の川夢は今もめぐりて忘れがたき故郷(ふるさと)(作詞・高野辰之、作曲・岡野貞一)ダークダックスの「ゲタさん」こと喜早哲さん(故人)には、まざまざと思い出す舞台がある。1951年(昭和26年)のダーク結成以来、公演また公演の毎日だったが、あれほど感動したステージは、そう多くはない。1977年1月から2月にかけての、南米コンサート旅行でのこと。ブラジル、アルゼンチン、チリ、ペルー。会場には日系市民が詰めかけ、何十年かぶりに聴く日本語の歌に涙した。聴衆の心が一つになり、ピークになるのは、どの会場でも唱歌『故郷(ふるさと)』だった。「特にブラジルの首都ブラジリアでの公演が印象的でした」。遠くを見るように喜早さんが言う。移民として南米各国を転々としたが、皆がみな成功...87【唱歌「故郷」】

  • 断想片々(35) 【「前のめり」と「後ずさり」】

    「後手後手」と「先手先手」オミクロン株の国内初感染が確認されてから、12月30日で1か月が過ぎた。国民は第6波の兆しに身構えつつ新年を迎えたが、ここへ来て岸田首相の積極策に対して「前のめり」との政治批判が出ているというから驚く。確かに「後手後手」の菅内閣が退陣した10月初めから、国内の新規感染者数は目立って減った。そこで12月初めに厚労省幹部が帰国者への水際対策緩和を提案すると、岸田首相は「批判は、岸田がすべて責任を負う」と一蹴した。当然だろう。ここでテを緩めては、後手に回り続けた菅内閣と少しも変わらない。事実、世界に目を転ずれば、欧米を先頭に各国とも警戒態勢を一層強めている。「前のめり」と「後ずさり」就任時に岸田首相は「新型コロナ禍対策には、最悪の事態を想定して取り組む」と言明した。菅首相の「仮定の話には答え...断想片々(35)【「前のめり」と「後ずさり」】

  • 断想片々(34) 【さまざまな1年】

    <お空のママへ仲山凛バァバァ高い所に行こうだってママがいるお空に近いよ「ヤッホーりんもうすぐ5才だよ」ママ聞こえたかな(栃木県下野市・愛泉幼稚園年中)>*読売新聞12月29日付け朝刊生活欄「こどもの詩」から転載。さまざまなことが起きた1年。周りの人の知らぬ間に落ちた、おさな子の涙も--。断想片々(34)【さまざまな1年】

  • 断想片々(33) 【シジイとジイジ】

    Wさんのブログを読んでいて、自分のことを「ジジイ」と書いている個所で、思わず笑ってしまった。「そうか、Wさんは独身だから、お孫さんから『ジイジ』と呼ばれることはないのだナ」と気づいた。孫からは「ジイジ」や「バアバ」、孫の存在を考えなければ「ジジイ」ヤ「ババア」。「イ」ヤ「ア」の位置が一つ違えば、語感はこんなに違う。何年か前、上の娘が何かの拍子に筆者を「ジジイ」と呼んだ。小学校で教師をしている上の娘は、2人の息子(筆者には孫)の言葉遣いにウルサく、2人が保育園児の頃から「ジイジじゃなくて、オジイチャンと呼びなさい」と教えていた。だから「ジジイ」と呼ばれた筆者は、かえって新鮮な語感が楽しく、怒るより笑ってしまった。言い間違えに気づいた娘は弁解せず、ただ顔を赤らめていた。幼児は誰でもそうだろうが、上の娘は幼児の頃、よ...断想片々(33)【シジイとジイジ】

  • 86 【世界観政党と世界観国家・下】

    政党と世界観政党には主義主張に基づいた政治目標や方向性がある。「世界観」の語義を広く解釈すれば、どの政党も「世界観政党」なのである。しかし自由や民主主義を党是とする中道政党が「世界観政党」と呼ばれることはない。自由主義それ自体が「世界観」のカテゴリーに含まれるにもかかわらず、である。各政党が「政治目標」として設計図上に引く線は、精密なものから大雑把なものまで、さまざまだ。とりわけ線が濃く明瞭、かつ緻(ち)密な図を持つのは、宗教政党と共産主義政党である。ともに文献が豊富で、主張は体系的に整理され、アッピールしやすい。なぜか、これらの政党が「世界観政党」と呼ばれる。『現代日本の革新思想』で論じられているのも、社会主義政党やマルクス・レーニン主義政党である。「イデオロギー政党」とされることも多い。完全に近付けば「イデ...86【世界観政党と世界観国家・下】

  • 85 【世界観政党と世界観国家・上】

    世界観とイデオロギー「世界観」の意味は「世界を全体として意味づける見方。人生論よりも包括的」(『広辞苑}』第7版)だ。「包括的」とは「一つに合わせて、くくること」(同辞書)。コトバとしての「世界観」は、ドイツ観念論哲学のカントが、1790年の著『判断力批判』で使ったのが最初とされる。現代でも哲学のほか宗教学や文学、政治学、社会学などで広く使われ、意味も少しずつ異なるようだ。しかし、こう説明すると、かえって分かりにくくなる。ここでは字面(じづら)どおり「世界をどう観るか」の意味と理解しておきたい。さて、政治や思想の次元で考えると、似たコトバに「イデオロギー」がある。こちらの初出は19世紀初め、フランスの哲学者デステュット・ド・トラシ著の『イデオロジー要論』という本だった(有斐閣『社会学小辞典』より)。ナポレオンが...85【世界観政党と世界観国家・上】

  • 断想片々(32) 【消えた殺人未遂事件と「陰謀論」】

    「お父さんチの近所で昨日、殺人事件があったらしいネ。大丈夫?」夏もまだ盛りの先月半ば、同じ市内に住む娘から電話をもらった。テレビのニュースで知り、心配して掛けて来たという。「コロシ?さあ、気が付かなかったナ。夕方頃だって?消防車のサイレンなら聞いたけど、パトカーや救急車のサイレンは聞かなかったナ」答えて電話を切り、新聞の朝刊にもう一度目を通した。社会面から地域版、そして第3社会面へ。ない。まさか1面に載るはずはないと思いながら、一応確かめた。やはり、なし。夕刊の配達を待ち、こちらも隅から隅まで目を通した。そんな記事はなかった。夕食後パソコンに向かい、キーワードを入れて検索してみた。あった。警視庁小金井署が、自営業男性(41)を包丁で刺した親族男性(76)を、殺人未遂の現行犯で逮捕していた。事件取材に強い産経新聞...断想片々(32)【消えた殺人未遂事件と「陰謀論」】

  • 断想片々(31) 【2020五輪の総括記事】

    盛夏の五輪も無事(?)終わって、各紙が総括記事を掲載している。例によって賛否両論だ。この時期に”賛”の見方が優位になるのは、選手たちのガンバリの余韻が残るからである。しかし開催そのものへの賛否からして真っ二つに割れ、1964年も東京五輪の時のような、国民の一体感や盛り上がりは感じ取れなかった。酷暑の「有明テニスの森」で行われたテニス男子シングルスでは「これでは死ぬかもしれない。私が死んだら責任をとれるのか?」の声も聞かれた(ロシア、メドベージェフ選手)。「コロナ禍克服の五輪」どころか開催中の感染者数は過去最多を更新し続け、「フクシマ復興の五輪」の掛け声も、いつの間にかどこかへ消えてしまった。1964年の東京オリンピックの時、筆者は高校2年生だった。サッカーの盛んな浦和市内の高校だったので、チケットが手に入りやす...断想片々(31)【2020五輪の総括記事】

  • 断想片々(30) 【トランプ氏と「言論の自由」】

    トランプ米国前大統領が7日、フェイスブックとツイッター、グーグルの3社(3法人)および経営者を相手取り、氏のSNS利用停止解除を求めて、フロリダ州の連邦地裁へ提訴したという。記者会見でトランプ氏は「憲法で保障された『言論の自由』を、恥ずべき検閲で侵害された」と主張した。3社は1月の連邦議会占拠事件の後、トランプ氏が支持者たちを扇動したとして彼のアカウントを停止している。3社は民間メディアであり、当然ながらメディア機関としての立場や方針(社論)を大切にする。社論を持つこと自体が「言論の自由」である。連邦議会占拠を呼び掛ける前大統領のツイートを自社の方針に則(のっと)って掲載拒否したことも穏当な判断だった。このような行為を「検閲」とは呼ばない。「検閲」とは、公権力を行使してチェックすることだ。3社のような巨大ITメ...断想片々(30)【トランプ氏と「言論の自由」】

  • 断想片々(29) 【被買収側「全員不起訴」の不可解】

    2019年参院選の河井克行・元法相による買収事件で、買収された側の地元政治家100人が不起訴となる見通しだという。7月6日付け読売新聞朝刊が東京地検の方針として、抜きネタ(独材)で報じた。100人の中には100万円単位の現金を受け取り、公選法違反(被買収)に問われた地元政治家もいた。同紙は「こうした高額の被買収者も不起訴となるのは極めて異例」とも書いている。それは、そうだろう。河井氏と妻・案里氏に対する裁判の過程で、300万円を受け取った元国会議員秘書や200万円を受領した元県会議長、150万円を提供された広島県東部の元首長らの買収行為の方は認定され(犯罪行為があったと認められ)、河井夫妻有罪判決の根拠とされた。それでいて被買収側を不起訴としたのでは整合性に欠ける。記事では被買収側不起訴の理由として「衆院議員と...断想片々(29)【被買収側「全員不起訴」の不可解】

  • 断想片々(28) 【接種「完了」とは?】

    新型コロナワクチンの「高齢者接種を7月末までに完了する」は、菅首相がもっか力こぶを入れている政治目標である。ところが「完了」の意味が定義されていないという理由で、混乱をきたしている地方自治体もあるとか。読売新聞が6月1日付け朝刊多摩版で伝えていた。都下・東大和市に住む女性(76)の場合数日間挑戦し続けた予約電話がやっと繋がり、指定された1回目接種日は「8月15日」。東大和市は「7月末までに接種を完了する」と説明していたので、女性さんは不審に思い、多摩地域を担当する読売新聞立川支局へ電話を掛けて来た。さっそく記者が東大和市役所に取材してみると、同市内の高齢者は約2万4千人で、市の試算では、7月末までに2回の接種を済ませられる高齢者は68%にとどまる、とのこと。市の担当者は「68%なら(7月末を)完了と見てもよいの...断想片々(28)【接種「完了」とは?】

  • 84 【ザンネンな日】

    スーパーへの道すがら独り暮らしの身なので、週に2度ほど近くのスーパーへ出掛ける。たいていは自転車で。正午少し前くらいの時間帯が多い。<食パンとバター、牛乳、豚肉と豆腐、何か刺身類を適当に。タンパク質ばかりだナ。ええと、それに納豆、長ネギ、キュウリ、トマト、リンゴ。そうそう、カリントウも。あとは葡萄酒か・・>歳をとるとモノ忘れが多くなる。自宅へ帰り着いた途端に、買い忘れた品々に気づく、なあーんてのは毎度のこと。そこでスーパーへの道すがら、その日買うべき品をブツブツつぶやいては確認する。最低限必要なものばかりで、実際に買う品々は倍の量だ。この時間帯にスーパーへ行く人は多いようで、客には当方と同じく70歳を超えたぐらいの人の姿も目立つ。スーパーに近づくにつれ幾台かの、帰りの自転車とすれ違う。ある日のこと、やはり自転車...84【ザンネンな日】

  • 83 【古代朝廷のフェイク作戦・下】

    蝦夷は強き人の代名詞「蝦夷」は都にあっても強き人の代名詞で、自分の名にこの字を使う人が少なからずいた。代表的なところでは絶対権力者として君臨したのち中大兄皇子(天智天皇)や中臣鎌足(藤原鎌足)との政争に敗れて、自害した蘇我蝦夷(そがのえみし)がいる。名の「蝦夷」は死後に諡号(しごう、おくりな)として侮蔑の意味から強制的に改名させられた、との説もある。時代が下がると、左大弁の要職ののち桓武天皇のもとで参議を務めた佐伯今毛人(さえきのいまえみし)がいた。この人は侮蔑の諡号を贈られる理由がなく、在世中も「今毛人」を名乗っていたようだ。筆者としては蘇我蝦夷の「蝦夷」も、強き人の意を込めて在世中から自ら名乗っていたと考えたい。歴史書の中には「夷」の字を分解して「大きな弓を持つ民」と解説している例がある。「夷」という字を根...83【古代朝廷のフェイク作戦・下】

  • 82 【古代朝廷のフェイク作戦・中】

    あえて侮蔑的な表現時に集団同士の争いごとが起こるのは農耕民の社会も同じはずである。「不利と見れば退却」するのも農耕民と遊牧民に違いはあるまい。逃走も戦術のうちであって、卑怯云々といった次元の問題ではない。農耕社会では上下を問わず「個人的利益」に無関心かと問えば、「然り」と答える農耕民は皆無だろう。「礼儀とか道義とかを知らない」も同様で、古今東西どの社会にも程度の差こそあれ礼儀や道義をわきまえた人もいれば、わきまえない人もいる。草原の民は穀物を作らず、衣や食は動物に依存する。低温寒冷の地で身体を酷使する毎日では、肉や乳製品が効率的な活力源となり、皮革や毛織は防寒性にすぐれた服になる。広大な草原で激しく馬を駆る日常だから、目一杯に体を酷使して働く若者が食の面でも優先され、あまり働けない老人は二の次になっても仕方がな...82【古代朝廷のフェイク作戦・中】

  • 81 【古代朝廷のフェイク作戦・上】

    貶(おとし)められた蝦夷(えみし)『日本書紀』によれば第12代天皇の景行(けいこう)天皇は、紀元71年に即位し、同130年に106歳で崩御した。同書の景行天皇紀に蝦夷(えみし)の生活ぶりを描いた、次のような一節がある。蝦夷(みえし)とは古代東北に暮らしていた人たちを指し、蝦夷(えぞ)とは意味するところが異なる。〈其(か)の東の夷(ひな)は識性(たましい)暴(あら)び強(こわ)し。凌犯(しのぎおかすこと)を宗(むね)とす。村に長(おさ)なく邑(むら)に首(おびと)なし。各境を貪りて並びに相盗略(あいかす)む。亦(また)山に邪(あ)しき神あり。郊(のら)に姦鬼あり。ちまたに遮り径を塞ぐ。多(おおい)に人を苦びしむ。其の東の夷の中に、蝦夷は是尤(はなはだ)強し。男女交わり居りて父子別なし。冬は穴に宿(ね)、夏は樔(す...81【古代朝廷のフェイク作戦・上】

  • 80 【唱歌「冬の星座」】

    冬の夜。木枯らしが咆哮(ほうこう)をやめ、いっときの静寂が訪れた。大気はするどく冴(さ)え返り、星々が満点にひしめく。赤、オレンジ、黄、白、青‥‥。星により色が異なる理由は、星もまた生命体であり、残されたそれぞれの寿命に応じて光り方を変えるためだという。星たちの生命の永遠と、数億光年の無辺。それが永遠でも無辺でもないことを、自体は光さえ発しない地球という小さな星の、ちっぽけなヒトが知っている。星が一段と鮮明に見える季節が冬だ。多くの人が冬の夜空を見上げては星たちの「永遠」を思う。やや年配なら『冬の星座』を口ずさみながら。一、木枯らしとだえて冴ゆる空より地上にふり敷(し)く奇(くす)しき光よものみな憩える静寂(しじま)の中にきらめき揺れつつ星座はめぐる(訳詞・堀内敬三、作曲・ヘイス)堀内敬三は1923年9月、6年...80【唱歌「冬の星座」】

  • 79 【楽しみは体に毒なことばかり】

    究極のヒートショック浴記者だった頃、夕刊旅行欄の取材で、長野県最北東部の栄(さかえ)村を訪れた。新潟県に接する日本有数の豪雪地帯で、新潟県津南(つなん)町とともに秋山郷(あきやまごう)と呼ばれる。山好きなら新潟県最高峰、苗場(なえば)山の西麓と言えば、およその見当はつくかもしれない。読書好きであれば『北越雪譜』で知られる江戸期の文人、鈴木牧之(ぼくし)の、もう一つの名著『秋山紀行』の舞台として、ご存じの方も多いだろう。目当ては切明(きりあけ)温泉だった。記憶の糸をたどりながら古いスクラップブックから掲載記事を探す。あった。日付けは「1996年11月28日」。メーン写真は、雪景色の中津川の河原に寝そべる男性2人(筆者にあらず)。主見出しに「野天風呂四方に広がる銀世界」、脇見出しに「対岸で猿が枝揺らし」。記事の一部...79【楽しみは体に毒なことばかり】

  • 断想片々(27) 【政治は「仮定」してこそ】

    テレビ朝日の「報道ステーション」で、菅首相が1都3県の緊急事態宣言に関して「仮定の質問には答えられない」と言ったことが、話題になっている。「(沈静化のめどの)1か月が経っても今一つだったら、対象の拡大は?」との質問に答えてのこと。官房長官時代の菅氏は「仮定の質問には答えられない」が口癖だったから、あるいは、つい口をついてコトバが出たのかもしれない。「対象地域の拡大および自粛・制限方法の追加策は、当然もっか検討中です。詳細はまだ決まっていないので、いずれ早いうちに明らかにします」くらいは言ったら良いものを、「仮定の質問には答えられない」では、国民の期待を一身に担う首相の言辞として、あまりに素っ気なさ過ぎる。それにしても政権の長たる者が、なぜ「仮定の質問には答えられない」のだろう。外交や防衛、裁判・捜査中の案件等の...断想片々(27)【政治は「仮定」してこそ】

  • 断想片々(26) 【イマドキの記者会見】

    1都3県に緊急事態宣言を発令した菅首相。記者会見のテレビ中継(7日)を見て「またか・・」と落胆した国民も多かったのではないか。例によって首相は事前通告された質問に対して、返答原稿を読み上げるだけ。記者は記者で、突っ込んだ再質問をすることもなかった。シュクシュクと、タンタンと。こんな会見なら質問項目と返答をプリントして各社に配れば用が足りる。テレワーク時代にふさわしい会見、になるだろう。それにしても記者の側もまた、ラクな仕事をしているものだ。一般には知られてないが、本来、記者会見を主催するのは記者クラブ側である。首相会見であれば内閣記者会が主催する。ところが最近の会見では、官邸側の女性が司会進行役を務め、冒頭で「限られた会見時間なので、再質問はしないでください」とまで断わっている。記者側は官邸サイドの言いなり、と...断想片々(26)【イマドキの記者会見】

  • 断想片々(25) 【ブレない政治?】

    菅首相の政治モットーの一つは「ブレない政治」なのだそうだ。なるほど「政治姿勢」や「信念」に揺るぎがない、ということであれば立派である。しかし、さして称賛に値(あたい)しない程度の「政治姿勢」や「信念」だとしたら、どうだろう。他人の意見に耳を傾けず、都合の良い意見だけを聞いて自分の考えを通す、つまり固執する--。単なる「頑固」「愚直」ということに、ならないか。学術会議問題、コロナ禍対策に共通するもの学術会議の会員任命拒否で浮き彫りになったのは、異なる意見や批判的な意見を排除する政治姿勢であった。GoToトラベル問題では「分科会の専門家から、人の移動では感染しにくいと聞いている」や「(分科会の専門家の意見では)深刻な事態には至っていない」を繰り返し、責任を特定の専門家になすつけつつ、停止時期を延ばしに延ばしてきた。...断想片々(25)【ブレない政治?】

  • 断想片々(24) 【不審メール】

    ここ最近、筆者のパソコンに不審メールが2通、真夜中に届いた--。<●●カードをご利用のお客さま・・このたび、ご本人様のご利用かどうかを確認させていただきたいお取引がありましたので、誠に勝手ながら、カードのご利用を一部制限させていただき、ご連絡させていただきました。つきましては、以下へアクセスの上、カードのご利用確認にご協力をお願い致します・・ご回答をいただけない場合、カードのご利用制限が継続されることもございますので、予めご了承下さい>「クレジットカードの本人確認」というメールなど、お初にお目にかかる。カード詐欺だと直感した。1通目が届いたのは、2通目の10日前。間隔がぴたり10日というのがアヤシイし、ともに深夜発信というのもアヤシイ。何より1通目は、筆者が契約していないクレジットカードだった。相手の利用カード...断想片々(24)【不審メール】

  • 断想片々(23) 【「ガースー」とメルケル首相】

    「みなさんこんにちは、ガースーです」菅首相が、11日に流れたインターネット動画配信サイト「ニコニコ生放送」のインタビュー冒頭、軽く笑いながら自己紹介した。地上波のニュースでも放送されたから、観た人は多かったろう。新型コロナウイルスの新規感染者数が全国、東京都とも連日最多を更新する勢いを示し、この日も都内では過去2番目、595人の感染者を数えた。最高権力者の総理大臣が、笑っている場合だったか。説明不足の学術会議問題、後手後手のコロナ禍対策・・。内閣発足当初から何もかも上手く行かず、イメージチェンジを思い立ったのかもしれない。あるいは空気の読めない側近が「総理、もっと笑顔で。配信サイト名も『ニコニコ生放送ですよ」とでもアドバイスしたのか。しかし、である。ボケるにはタイミングが悪すぎるし、無表情な棒読み答弁を見慣れた...断想片々(23)【「ガースー」とメルケル首相】

  • 断想片々(22) 【陰謀と「陰謀論」】

    「陰謀論」というコトバを頻繁に耳にするようになった。1人ないし少数者の考えた筋書き通りに世の中が動いている--とする「陰謀論」。背景にネットへの盛んな匿名投稿があり、根拠の無い、あるいは根拠の薄い「陰謀」でさえ広まりやすい社会構造がある。11月30日付け読売新聞文化/面「論壇誌」欄で、5人の識者の論考を担当記者が紹介していた。米国では「国の機密情報だ」として偽情報をネットで広める「Q」と、これを信じる「Qアノン」という存在を紹介(渡辺靖氏、「文芸春秋」誌)。トランプ大統領支持勢力の1つを形成するという。石戸諭(さとる)氏もやはり「文芸春秋」誌で、「中国『千人計画』が実は軍事研究で、日本学術会議が積極的に関わっている」とするデマ情報について考察した。石戸氏は「日本の安全保障を不安視するなら、研究者が中国を頼らざる...断想片々(22)【陰謀と「陰謀論」】

  • 78 【唱歌「野菊」】

    国民学校初等科3年生用の音楽教科書「初等科音楽・一」は、日米開戦の翌年、1942年(昭和17年)の発行である。前年に国民学校令が公布され、それまでの尋常・高等小学校は国民学校と名称を変えた。教科書はすべて国定となり、音楽も儀式唱歌、つまり祝祭日に歌う『君が代』や『天長節』『紀元節』などを重視する指導になった。軍国主義が頂点に達した観のある時代。『野菊』は、この「初等科音楽・一」で発表された。今も『野菊』に感慨を覚える高齢世代が少なくない。ものみな戦争へと走り出した時代、童謡や唱歌さえ戦意高揚が第一とされた時代にあって、戦争とは無縁の『野菊』にわずかな救いを、すがすがしさを感じ取った人たちである。一、遠い山から吹いて来るこ寒い風にゆれながらけだかくきよくにおう花きれいな野菊うすむらさきよ(作詞・石森延男、作曲・下...78【唱歌「野菊」】

  • 断想片々(21) 【「学問の自由」と「学問の独立」】

    早稲田大学の校歌『都の西北』は、明治40年に制定された。作詞は相馬御風、作曲は東儀鉄笛。1番の歌詞の中に以下のフレーズがある。<--われらが日ごろの抱負を知るや進取の精神学の独立現世を忘れぬ久遠の理想-->「進取の精神」や「現世を忘れぬ久遠の理想」と並んで「学問の独立」が、大学と学生たちの、3つの「抱負」の1つに据えられている。国の助成を受けない当時の私学の、独立不羈(ふき)の精神を説いたものだが、明治年間すでにこのような考え方が重んじられていたことは、明治人の教育観・学問観の先進性を知るうえで興味深い。「学問の独立」の「独立」とは、さまざまな社会的勢力、とりわけ時の政治権力からの、学問の自由と自主自立を指す。どの時代にあっても為政者は研究者に忖度を、おのれに都合の良い研究を押し付けがちだ。ゆえに「学問の独立」...断想片々(21)【「学問の自由」と「学問の独立」】

  • 断想片々(20) 【10億円と260億円】

    米国大統領選挙報道の陰に隠れた印象ながら、4日の衆院予算委員会の質疑の方も面白かった。とりわけ興味をひかれたのは辻本清美・立憲民主党副代表の、以下のような指摘である。「総理は『学術会議に年間10億円の国費が使われている』と言うが、あのアベノマスクには260億円も使われているンですよ。10億円の26倍、26年分も、ですよ」。女性議員らしく金銭感覚が鋭い。特に学術会議の問題が明るみに出てからは、すっかり忘れられた観の、あのアベノマスク。国民の多くがそっぽを向き、元首相自身もいつの間にか使わなくなってしまった。260億円はドブに捨てたも同然である。菅首相は「10億円」の国費投入を任命拒否の理由づけの一つとして繰り返すが、辻本議員の指摘の通り、アベノマスクに使った国費の26分の1に過ぎない。アベノマスクの件では、納入業...断想片々(20)【10億円と260億円】

  • 断想片々(19) 【ていねいな説明】

    残念ながら日本の新しい首相は、期待されたほど有能な人物ではないようだ。30日の参院代表質問では学術会議の任命拒否問題を問われて「総合的、俯瞰的に」「推薦通りに任命しなければならないわけではない」を繰り返すだけ。耳にたこが出来るほど聞かされ続けてきたフレーズを繰り返し、新味はゼロ。顔も上げず役人の書いた答弁原稿を読むだけなら、首相など小学生にでも務まる。機転を利かせた即座のやり取りは、この人には無理なのかもしれない。自民党の世耕弘成参院幹事長は「淡々と答える菅首相らしい答弁だった」と評価したらしい(31日付読売新聞朝刊)。何ともユーモラス解説だ。言葉を繰り返すだけなら、力の入れようもあるまい。無内容過ぎて力点の置きようがないほどだから「淡々と」になってしまうのだ。人文・社会科学系候補の狙い撃ち。旧帝大出身者「偏り...断想片々(19)【ていねいな説明】

  • 断想片々(18) 【小学生の社会科「少数“異”見」】

    日本学術会議の新会員任命拒否問題。自民党は10月14日、同会議の今後のあり方を検討するプロジェクトチームを立ち上げた。任命拒否の理由説明が済まないうちに新たな課題を持ち出すのは、国民の目を逸(そ)らすための、使い古された手法(テ)である。もう一つの狙いも見過ごせない。「つべこべ言うなら予算を付けないゾ」という恫喝(どうかつ)だ。対立の根っこは軍事研究の可否である。学術会議は設立時からの大原則たる「戦争目的の科学研究は行わない」を堅守せんとし、政権は中国の軍事的台頭と脅威を背景に軍事研究への道を開こうとする。歴史から得た教訓の尊重か、戦後70年の経過の重視か、がポイント。簡単に結論は出ないだろうが、それだけに対立論者間での真摯な議論が望まれる。そこで気になるのは少数意見を排除すべし、という風潮だ。対立意見を嫌うあ...断想片々(18)【小学生の社会科「少数“異”見」】

  • 断想片々(17) 【総合的、俯瞰的】

    日本学術会議の前会長、山極寿一氏(前京大総長)の元へ、「政府は新会員6人を任命しない」旨の連絡が入ったのは、9月28日だったらしい。10月1日の学術会議総会開催を目前にしてのこと。以来今日まで問題は大きくなるばかり。当然だろう。任命拒否が時の政権の意図次第ということになれば、戦後民主主義の一大理念だった「学問の自由」や「学問の独立」が揺らぐ。簡単にカタがつく問題ではない。任命拒否の理由を政府側は説明せず、「総合的、俯瞰(ふかん)的に判断して」「人事に関することなので、具体的な理由説明は控えたい」と繰り返すのみ。「俯瞰」は<高い所から広く見渡すこと>(三省堂『新明解国語辞典』)の意。類語は「鳥瞰(ちょうかん)」、反対語は「近視眼的」(近視の人に失礼な言い方だが…)。昔は「大局的な見地から」が政治の常套(じょうとう...断想片々(17)【総合的、俯瞰的】

  • 断想片々(16) 【幼児コトバの横行闊歩】

    「2個の評価」アマゾンの通信販売は書籍に限らずよく利用している。書籍だと新刊本以外は街の書店に無い場合が多く、この点、通信販売なら簡単な検索で探し出せるから便利だ。たいていは「送料無料」だから、買いに出かける手間と出費も省ける。書籍を買う際は当該書籍の評価欄を参考にしている。アマゾンでは少し前から、欄の見出しの助数詞に「個」を使うようになった。例えば「2個の評価」のように。以前は「2つの評価」もしくは「2件の評価」の如く、助数詞は「つ」か「件」だった気がする。なぜ「個」に変更したのだろう。正直、がっかりした。知性が問われる書評欄に「2個の評価」は、ふさわしくない。「個」を多用するのは、助数詞の区別に疎(うと)い幼児の特徴だ。「個」の多用は最近の若い人の傾向である。「カレと私は5個違い」や「5個の会社から(就職の...断想片々(16)【幼児コトバの横行闊歩】

  • 断想片々(15) 【クラウドファンディング】

    近頃よく見聞きするコトバである。ウイキペディアによれば、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、「不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うこと」という意味。コンピューターネットワークを経由することからクラウドコンピューティング(cloudcomputing)の「cloud(雲)」と誤記されやすい。大別すると、金銭的リターンのない「寄付型」、金銭的リターンが目的の「投資型」、権利や物品購入の形で支援する「購入型」の3種。国もアベノミクス政策の一環と位置付けて2014年5月の国会で金融商品取引法を改正、後押ししている。最近、全国紙のスポーツ欄で、こんな記事を見かけた。「2000安打達成」が迫ったジャイアンツ坂本勇人選手を応援するため、球団親会社の...断想片々(15)【クラウドファンディング】

  • 77 【東北、縄文時代の豊穣⑥完】

    奈良・曽我遺跡の琥珀(こはく)加工工房琥珀玉の完成品は各地の古墳から出土し、今では科学分析で産地が特定出来るようになった。化学分析法は1970年代に入って確立され、京都府城陽市の長池古墳や奈良県天理市の東大寺十二号墳、桜井市の脇本古墳出土の琥珀玉が、どれも久慈産であることが分かった。80年代になると奈良県斑鳩町の御坊山古墳のほか、茨城県牛掘町(現・潮来市)の観音寺山七号墳や神奈川県秦野市の広畑三号墳など、関東で出土した琥珀玉も久慈の原産であることが判明した。いずれも6世紀から7世紀にかけての遺跡であり、この時期に久慈から持ち込まれた琥珀である可能性が高い。特に奈良県橿原市にある曽我遺跡には玉作遺構群が確認されているので、久慈産の原石や半製品も曽我遺跡の加工工房に持ち込まれ、ここで都風のデザインに加工されていたと...77【東北、縄文時代の豊穣⑥完】

  • 76 【東北、縄文時代の豊穣⑤】

    朝廷を狂喜させた金の産出生活への影響という点では米作に及ばないが、陸奥国での日本最初の産金も、古代東北の豊かさを示すものだろう。『続日本紀』天平21年(749年)2月22日条に、陸奥国からの黄金貢進の記事が初めて載った。聖武天皇の喜びようはひと通りでなく、天皇は年号を天平勝宝元年と改めた。記事の内容は、陸奥国守を務めていた百済王敬福(くだらのこにきしきょうふく)が、この地で採れたとして9百両分の黄金を献じた、というもの。産出した場所は現在の宮城県遠田郡涌谷(わくや)町黄金迫(こがねはざま)だった。1両41グラムで計算すると、9百両は約3・7キロに相当する。これだけの量の砂金を採取するには、相応の年月が必要だ。奈良まで運ぶ手間まで考えると、実際の発見は、9百両献上の2年くらい前までさかのぼると推測される。東大寺・...76【東北、縄文時代の豊穣⑤】

  • 75 【東北、縄文時代の豊穣④】

    続縄文文化とはところで、耳慣れない続縄文文化とは、どういうものか。北海道のアイヌ社会では、銅鉄の金属器が使用されるようになった後も、狩猟や漁労の採集生活が続いた。金属器の使用は縄文文化が終わったことを意味するが、といってコメを生産しているわけではないから、弥生時代に分類することも適切ではない。桜井清彦氏によると「適当な名称がないので、縄文文化に続く文化というところで続縄文文化となり、その時代に用いられた土器が続縄文土器と称せられた」(『アイヌ秘史』、角川新書)のである。「続縄文」の命名は山内清男博士による。北海道を中心に紀元前3世紀から紀元後7世紀頃までの土器が盛んに出土した。本州弥生時代にあたる前半期のものとして西南部の恵山(えさん)式土器、東北部の宇津内式土器や下田ノ沢土器が、また古墳時代に当たる後半期のも...75【東北、縄文時代の豊穣④】

  • 74 【東北、縄文時代の豊穣③】

    先進地・北東北青森県田舎館村の垂柳(たれやなぎ)遺跡では、弥生式土器の発掘・出土で大きな反響を呼んだ。伊東氏が11個の田舎館式土器を基に論文「東北地方の弥生式土器」を発表したのは、同遺跡を発掘調査する前の昭和25五年。氏が田舎館式土器について書いた最初の論文だった。当然ながら学界の反応は手厳しく、「田舎館式には弥生式土器の特徴は認められない」や「弥生式土器からの影響は認めても、稲作の行われていた証拠がないから、弥生式土器と呼ぶことは不適当。続縄文式土器と呼ぶべきである」などと叩かれた。その後、同遺跡から6百面を超える大量の水田跡が発掘されたことは既述した通りで、ここに至って伊東氏の学説も認められた。同じ頃に秋田県の志藤沢(しどのさわ)遺跡で籾痕のある弥生式土器が出土、青森、岩手、秋田の東北北部で広く稲作が行われ...74【東北、縄文時代の豊穣③】

  • 73 【東北、縄文時代の豊穣②】

    落葉広葉樹林の堅果類に秘密日本の森林の特徴は、東日本から北日本にかけて落葉広葉樹林が多く、西日本では常緑広葉樹林が多いことだ。寒暖の移り変わりにより植生分布に変化が生じるが、全体の傾向としては暖かな土地で常緑樹が多くなり、寒い土地では落葉樹が多くなる。縄文人の主食はトチやクリ、ドングリ、クルミなど澱粉(でんぷん)の豊富な堅果類(けんかるい=種実類)だったと考えられ、それらの多くは北の落葉広葉樹林でよく育った。この樹林帯ではキノコ類やワラビ、ゼンマイ、フキなどの山菜類が豊富で、イノシシやシカ類といった哺乳類もいる。秋はサケが川をさかのぼり、冷水を好むマスやイワナなどの渓流魚も多い。関東や東北では貝塚遺跡が多く発見されるが、海ではアサリやシジミ、カキ、ハマグリといった貝類が豊富にとれた。これに対して西日本の常緑広葉...73【東北、縄文時代の豊穣②】

  • 72 【東北、縄文時代の豊穣①】

    温暖な気候の縄文期縄文時代の豊穣さが温暖な気候に支えられていたことは、たびたび指摘されてきた。具体的にどの程度の温暖さだったのか。二酸化炭素の急激な排出量増加により、地球温暖化の弊害が指摘される近年。こうした人為的な気候変動要因とは別に、地球それ自体が過去約百万年にわたり、約十万年を一周期として寒冷期(氷期)と温暖期(間氷期)を繰り返してきた(日本第四紀学会編『百年・千年・万年後の日本の自然と人類』より。古今書院刊)。現在の温暖期は約1万年前から続き、縄文前・中期の6千5百年前から5千5五百年前にかけて、温暖化のピークに達したと考えられている。その後は一定の周期で、小規模な寒冷と温暖の状態を繰り返した。縄文時代は1万年以上前から約3千年前まで続いた。つまり縄文人は温暖期の始まる以前から日本列島に定着し、温暖期の...72【東北、縄文時代の豊穣①】

  • 断想片々(14) 【なにゆえ「Go To トラベル」が先陣か?】

    7月22日、新型コロナの1日当たり国内感染者数は、過去最多だった4月11日の743人を更新して795人に及んだ。東京都内は238人で、7月9日以来14日連続で1日当たり100人超え。大阪も121人で、初の100人台を数えた。折もおり、政府の観光支援策として「GoToトラベル」事業が22日、スタートした。何が変わったのか?県境を越えてのトラベル自粛が声高に叫ばれたのは、つい先日のこと。現状は、当時と何が変わったのか。22日に安倍首相は「(春と違い)重症者数が少ない」と説明していたが、日ごと伸びる感染者数の棒グラフから予測すれば、やがて感染は若者から高齢者層へ広がり、勢いを増しつつ高齢重症者数が増えることもまた確実である。棒グラフは過去と現在の反映だが、そこから未来を見通すのでなければ意味がない。なにゆえ「トラベル...断想片々(14)【なにゆえ「GoToトラベル」が先陣か?】

  • 71 【唱歌「椰子の実」】

    翼をいっぱいに広げた鷹(たか)が数羽、黒松林の空に浮かぶ。初夏の風は潮の香りを載せて白砂の浜に吹き渡る。やさしい景観の恋路ヶ浜や、延々浜名湖まで力強く続く片浜十三里。愛知県・伊良湖(いらご)岬は、いつの頃からか鳥たちの「渡り」の中継地となり、上空は彼らの道となった。特徴ある地形が、空からも格好の目印になるためだ。<鷹一つ見付けてうれしいらご崎>岬を訪れた芭蕉は「笈の小文(おいのこぶみ)」に上の句を残した。罪を得てこの地に流された弟子、杜国(とこく)を訪ねる旅だった。芭蕉と杜国の関係について、ここでは触れる余裕がないが、「うれし」と子供のような、つまり芭蕉らしくない(?)ストレートな感情表現に首を傾(かし)げた人は、調べてみると良いかもしれない。動機が、もう一つ。師と仰ぐ西行も伊良湖岬で鷹を詠み、歌を「山家集」に...71【唱歌「椰子の実」】

  • 70 【梅雨どきの花】

    アジサイ小学校に入学して初めて覚えた花の名がアジサイ(紫陽花)だった。普通なら幼稚園か何かでサクラやチューリップから覚えるところかもしれないが、筆者は幼稚園へは3日間しか行っていない。何が理由だったかは忘れたが、4日目の朝に「もう行きたくない」と母に告げると、母は「おやッ、これが本当の3日坊主だねエ」と笑い、叱られることはなかった。アジサイは、2軒置いたフジタさん宅の玄関前に咲いていた。1年坊主にしては大き過ぎる傘の向こうに、雨に濡れる青紫の花々を見ながら、小学校へ通った。ピンクや白い花の記憶はなく、青や紫色ばかり。梅雨どきの暗い空の下で雨に打たれる、鮮やかな色彩の花々が、今でも目に焼き付いている。語源に「あず=集まる」と「さい=藍色」が一つになった、との説がある。「あずさい」という古名もあるようだ。また、開花...70【梅雨どきの花】

  • 断想片々(13) 【フィジカルディスタンス】

    コロナ禍のもと、いくつかのカタカナ言葉が登場した<断想片々(10)参照>が、ここへ来てまた一つ「フィジカルディスタンス」の語を耳にするようになった。「ソーシャルディスタンス」の言い替え用語としてWHOも推奨しているらしい。確かにソーシャルディスタンスでは「社会と距離を置く」、つまり「孤立する」の意味に誤解されかねないから、人同士の心のつながりが必要なこの時期には、ふさわしくないだろう。言い替え語の「フィジカル」には「物理的な」や「身体的な」の意味があり、こちらの方が誤解の余地は少ないかもしれない。なお違和感22日夕方のNHKニュースを見ていたら、アナウンサーが早速この語を「身体的距離」と日本語に訳して使っていた。カタカナ言葉のまま使わない点には「さすが!」と思ったが、どうも、しっくり来ない。まず「身体的」の語感...断想片々(13)【フィジカルディスタンス】

  • 断想片々(12) 【「新型コロナウイルス感染者数」と陽性率】

    毎日発表される「新型コロナ感染者」の数字。政府専門家会議の当初予測より、減少テンポが緩慢らしい。専門家たちは、もっと急角度で感染者数が減少するものと予測していたとか。そもそも、それほど信頼の置ける数字だったのか。分母なき分数発表される数字に不完全さを覚える理由は、分母無き分数であること。つまり「何人検査して(分母)、何人が陽性(分子)だったか」で考えると、「何人検査して」の部分が無い。同じ10人の陽性者数でも、検査した人が100人だったか、20人かで、陽性率に5倍の違いが出る。陽性率は重要な指標だ。検査人数なら即座に出る数字のはずだが、なぜ発表しないのか、なぜメディアは発表を求めないのか。理解に苦しむ。感染者数のみでも意味があるのは、検査希望者が容易に検査出来る場合である。ドライブスルー検査で容易かつ短時間で検...断想片々(12)【「新型コロナウイルス感染者数」と陽性率】

  • 69 【コロナ禍スケッチ、&砂川闘争】

    鳥は啼(な)かない新型コロナウイルス禍のせいばかりではないのだろうが、今年の春は何かヘンだ。筆者の家は東京の西郊外、東京都の地図を広げると真ん中あたりに位置するが、毎年今頃になると、さらに西の奥多摩の山から下りて来たウグイスが、神社の杜(もり)や農家の屋敷林の、芽吹いたばかりの木々の間で啼き始める。最初は「ホー、ホケキョ」でなく「ホッ、ホッ、キョ」や「ホキョ、ホキョ」などと覚束ないが、数日経つと「ホー、ホケキョ」と立派に(?)啼くようになる。変化のほどを聴き分けることが、毎春のちょっとした楽しみなのだが、今年はまだあの声を耳にしていない。やはり暖かくなると群れでやって来るオナガも、1月末に1度姿を見せたきり。その時は「今年は早いナ。暖冬の影響かナ」とも思ったが、今は20度を超える陽気の日もあるというのに、さっぱ...69【コロナ禍スケッチ、&砂川闘争】

  • 断想片々(11) 【「新型コロナウィルス」?】

    今更という気もするが、今回の感染症の名称は「新型コロナウィルス」のままで良いのだろうか。この言い方が定着する以前は「武漢ウイルス」、また最近ではトランプ大統領の「チャイナ・ウイルス」の語も耳にした。確かに地名入りの名称の方がイメージしやすく、後々まで印象が残りやすい。WHOによる正式名は「コロナウイルス病2019」(=Coronavirsdisease2019)ほかに国際ウイルス分類委員会が「SARSコロナウイルス-2」と命名している。WHOが暫定的に「2019新型コロナウイルス」(2019novelcoronavirus。略称は、2019-nCoV)と呼んでいた時期もある(以上ウィキペディア「2019新型コロナウイルス」の項より)。日本での「新型コロナウイルス」という名称は、WHOの暫定名称を厚労省が引き続き...断想片々(11)【「新型コロナウィルス」?】

  • 断想片々(10) 【新型コロナウイルス禍とカタカナ言葉】

    河野防衛相の苦言「もう少し分かりやすく日本語で言えばいいと思う。年配の方をはじめ、よく分からないという声は聞く」河野太郎防衛大臣が自身のツィッターや記者会見で、こう苦言を呈したという(24日TBSNEWSデジタル版)。「クラスター」「オーバーシュート」「ロックダウン」「パンデミック」--。政府の専門家会議や厚労省あたりが”流出源”のようだが、新聞やテレビなどの各メディアは言い換えることなく、これらのカタカナ言葉をそのまま垂れ流している。筆者も以前から気になっていた。日頃のタカ派的な言動、というか直言はともかくとして、今回はよくぞ言ってくれたと思う。むしろメディアの側から、このような指摘があって然るべきだった。媒体には、こうした言葉の1つ1つを検証したうえで適切な言い換え語を選び、使う義務がある。防衛相という畑違...断想片々(10)【新型コロナウイルス禍とカタカナ言葉】

  • 断想片々(9) 【濃厚接触】

    「ママはパパと濃厚接触したの?」幼な児がお母さんに尋ねる、という笑い話があるとか。ただし今回ばかりは笑えない。新型コロナウイルス禍のような、世の中を揺さぶる大きな出来事には、必ず耳新しいコトバがクローズアップされる。「濃厚接触」然り。医学用語としては以前からあったコトバかもしれない。他にもテレワーク(情報通信技術により場所と時間に制約されない働き方)、パンデミック(特定感染症の世界的流行)、クラスター感染(集団感染)・・。みな然りだ。手洗いと満員電車ひと頃はどのテレビでも、ニュースや特集で、万全な手洗いの方法を紹介していた。おかげで手の洗い方は十分過ぎるほど分かったが、全般的にはなお情報不足の観が否めず、分からないことばかりだ。例えば満員の通勤電車。都心へ通勤する娘夫婦によれば、JRも地下鉄も時差通勤のおかげで...断想片々(9)【濃厚接触】

  • 断想片々(8) 【「各国の新型コロナウイルス感染者数」が語るもの】

    政府は2月25日、新型コロナウイルス感染症対策の基本方針を発表した。ここ1、2週間が流行と対策成否の「瀬戸際」だという。未知なる新型ゆえに国民の不安は募るばかりだが、政府がウイルス検査に消極的であることも不安に拍車をかける一因になっている。日本国内の感染者数は、本当にかくも少ないのか。韓国内の感染者急増読売新聞が27日午後10時半現在でまとめた各国感染者数は、7万8千497人(死亡2744人)の中国本土を筆頭に、2位が1766人(同13人)の韓国、3位がクルーズ船を含め919人(同8人)の日本となっている。特に韓国は急増ぶりが目を引く。実は韓国では迅速かつ手厚い検査態勢をとっていた。矛盾しているように聞こえるかもしれないが、これが急増の理由だ。同国では2015年のMERS禍で186人(死亡38人)の感染者を出し...断想片々(8)【「各国の新型コロナウイルス感染者数」が語るもの】

  • 断想片々(7) 【隣国の鉄杭騒動】

    話題の本『反日種族主義』(李栄薫・編著、文芸春秋刊)に、韓国で起きた「鉄杭騒動」についての記述がある。当時の日本でも一部報じられたようだが、大半の日本人は知らないと思われるので、紹介してみる。「植民地期に日帝は朝鮮の地から人材が出るのを防ぐため、全国の名山にわざと鉄杭を打ち風水侵略をした--」風水思想の盛んな韓国では、戦後このような話が口承されてきた。非科学的な言い伝えも民間にはよくあるが、韓国では金泳三政権が1995年に「光復50周年記念力点推進事業」として国家規模で取り上げ、大々的な鉄杭撤去運動を展開した。運動期間の6か月間に除去された鉄杭は439本に上り、うち18本が「日帝の手で打ち込まれた」と認定された。認定された1本である慶尚北道亀尾市の金鳥山の鉄杭について、鑑定にあたった韓国の風水専門家は「金鳥山で...断想片々(7)【隣国の鉄杭騒動】

  • 断想片々(6) 【カルロス・ゴーンの嘘】

    一般論と具体論逃亡先のレバノンで記者会見(8日)を開いたゴーン被告。「日産幹部と日本政府が仕組んだクーデターだった。日本政府高官の名前も出して証拠を明らかにする」という前宣伝だったが、高官名は出さず具体性にも乏しく、抽象的な一般論に終始した。役員報酬を過少申告した有価証券報告書虚偽記載容疑や、保有法人に多額の金銭を還流させた特別背任容疑といった肝心な点には、反論はおろか触れることもなかった。事情に疎(うと)い欧米のメディアには好評だったようだが、これまでの報道内容を知る日本国民には空疎な限り。菅官房長官、森法務大臣とも「抽象的で根拠のない話ばかり」と口をそろえたが、あの会見では他にコメントしようもあるまい。嘘と誇張10日付け読売新聞朝刊(13S版)は、会見主張の事実誤認を挙げている。まず「日本の有罪率は99・4...断想片々(6)【カルロス・ゴーンの嘘】

  • 68 【唱歌「冬景色」】

    一、狭霧(さぎり)消ゆる湊江(みなとえ)の舟に白し朝の霜ただ水鳥の声はしていまだ覚めず岸の家(作詞・作曲者不詳)「私が好きなのは『朧(おぼろ)月夜』と‥‥『冬景色』です」上皇后様(当時は皇后陛下)からそうお聞きして、国語学者の金田一春彦さん(故人)はポンとひざを打ちたかったという。金田一さんも詞の美しい、この二つの唱歌が大好きだった。1993年、場所は静岡県下田の御用邸。近くの別荘に滞在していた金田一さんは、その日、宮内庁係官から「よろしければ、こちらにお越しになりませんか」との誘いを受けた。「好きな歌は『海』です。歌うといつも沼津の海を思い出します」。上皇様(当時は天皇陛下)は別の御用邸がある静岡県沼津を思い浮かべるように答えられた。「答えられた」というのは、金田一さんはどの人に会っても「あなたの好きな童謡、...68【唱歌「冬景色」】

  • 断想片々(5) 【「桜名簿」アナログ処理の滑稽】

    今春「桜を見る会」出席者名簿を、5月9日には内閣府がシュレッダー廃棄していた問題。保存期間「1年未満」が決まりらしいが、何も1月余で廃棄することもなかろうにと、ひどく可笑(おか)しかった。いたずらが発覚し、あわてて痕跡を隠す幼児のようだ。安倍首相の国会答弁も、聞いていて力が抜ける、というかニヤニヤしてしまう。「出席者名は個人情報だから、明らかにできない」と。個々人のプライバシーではなく、あくまで名前のみの話だ。桜咲く陽光の下、首相や各界著名人が多数参集し、メディアのカメラマンが飛び回る行事、これ以上はない晴れやかな行事だ。招待状に「出席」の丸印を付けて返送した者が、名を公表されて困る理由など、あろうはずもない。困るなら「欠席」とすれば良いだろう。言いたくはないが「桜を見る会」には、参加したくとも参加できない国民...断想片々(5)【「桜名簿」アナログ処理の滑稽】

  • 67 【消されたメッセージ】

    「とてつもないテロ行為」とローマ教皇教皇としての来日は38年ぶりになるという。フランシスコ・ローマ教皇が11月24日に被爆地の長崎と広島を訪れ、核兵器廃絶を訴えた。若い頃に日本での布教を熱望したというだけあって、発せられた核兵器及び大量破壊兵器廃絶への訴えは、82歳とは思えないほど情熱に満ちていた。訪日の目的はただ一つ、核兵器廃絶の訴えにあったようだ。「核兵器による威嚇に頼りながら、平和を提案できるのか?」世界唯一の被爆国であり、なお核抑止力と「核の傘」に守られていると信じる日本の国民に、教皇は問い掛けた。日本政府は核兵器禁止条約の批准に対して「現実を十分に踏まえた条約ではなく、核兵器保有国からも非保有国からも支持を得られていない」(25日、菅義偉官房長官の会見から)と否定的な立場をとっている。教皇の問い掛けに...67【消されたメッセージ】

  • 66 【秋の好日の詐欺電話】

    「あなたのカードが盗まれました」「もしもし、●●サンのお宅ですか?」秋の好日、午後3時過ぎ。受話器を取ると、50年配らしき男の声が流れてきた。人の好さそうな、朴訥とした話し方。また例の電話セールスらしい。「どちらサンですか?」「え?」一瞬、返答に窮したようだ。何だ、まだ新米か‥‥。「どちらサン?」「ええ、こちら警察署生活安全課の▼▼と申します」所轄警察署の名を上げた。警察なら返答をためらう理由はないはずだが……。「はいはい」筆者が記者としてサツ回りをしていた頃は「防犯課」と称していた部署が、今は「生活安全課」になっているらしい。「●●サンは、タカハシハジメという名前に心当たりは、ありませんか?」「いや、知らない」「そうですか‥‥タカハシハジメというんですがねえ」しつこい。後で考えれば、急がず時間をかけて繰り返し...66【秋の好日の詐欺電話】

  • 断想片々(4) 【身の丈? 身のほど?】

    世を騒がせている萩生田文科大臣の「身の丈」発言。最初はコトバの使い方の問題かと思いきや、日が経つにつれ英語民間試験導入時の経緯や問題点が掘り起こされ、がぜん議論はカマビスシくなった。こんなことでもなければ行政の内実は国民の目や耳に届かないから、結果的には良かったかもしれない。発言の元をたどれば「(英語民間試験の受験生は)それぞれが自分の身の丈に合わせて頑張ってほしい」ということ。広辞苑(7版)によれば「身の丈、身の長(たけ)」は<①身の高さ。せたけ。しんちょう②その人や組織の実際の力量>の意。似たコトバに「身のほど(程)」があり、こちらの意味は<自分の身分・地位・能力などの程度。分際。また、身分相応>だ。広辞苑は「身の丈」の使用例に「身の丈に合った暮らし」を挙げて好意的、というか少なくとも評価抜き・中立的な印象...断想片々(4)【身の丈?身のほど?】

  • 断想片々(3) 【チコちゃんに電話セールスを叱ってもらおう】

    ケータイを持つようになってから、自宅の固定電話の使用頻度がめっきり減った。当方がケータイを常時持ち歩くことを知る知人や家族は、先ずケータイに掛けて来る。固定電話が鳴るのは半数以上がセールスの電話だ。「もしもし、●●さんのお宅ですか?」「どちら様でしょう?」「ゴルフ会員権を扱っている✖✖ゴルフと申します」「あのね、順序が逆でしょう。見ず知らずの家へ電話するなら、先ず自分から名乗るのがマナーでしょう。街で知らない人に声を掛けるとき、先に『あなたは、どなたですか?』と尋ねるのですか?仕事で名刺交換するとき、自分が名刺を出す前に、相手に名刺を要求するのですか?」先方は「小うるさい男だ」と思っているだろう。たいていは「街で知らない人に--」以下は言わず、こちらで電話を切ってしまう。「街で--」の先は、親切心がわいたときだ...断想片々(3)【チコちゃんに電話セールスを叱ってもらおう】

  • 65 【 唱歌「故郷の空」】

    堂々たる体躯で精力的に創作九州旅行の汽車の中。隣り合わせた男は大和田建樹(たけき)が東京の人と知って、しきりに話し掛けてきた。両国の回向院(えこういん)がどうの、四十八手うんぬん、つり出しはなんとか‥‥。「いや、相撲のことは、よくわかりません」それまで受け流していた建樹は、たまらず答えた。途端に男の目が丸くなった。「え?じゃあ旦那は、相撲の親方ではなかったんですかい?」建樹の堂々とした体躯(たいく)の理由を、男は誤解したらしい。建樹は無言で男を見、苦笑した。相撲取りと間違えられることが初めてでなかったからだ。若き日の建樹のエピソード。学生時代、三晩の徹夜はしばしば。42歳で日記に「五晩くらいの徹夜なら今も平気」と書いた。頑強な体と旺盛な創作活動とは、大和田建樹を知るキーワードである。一、夕空晴れて秋風吹き月影落...65【唱歌「故郷の空」】

  • 64 【唱歌「旅愁」】

    一、更(ふ)けゆく秋の夜旅の空のわびしきおもひにひとりなやむ恋しやふるさとなつかし父母夢路にたどるは故郷(さと)の家路林芙美子の小説『放浪記』は唱歌「旅愁(りょしゅう)」で始まる。自らを「古里を持たない宿命的な放浪者」と呼んだ彼女が、母親と各地を転々とした幼い日々を、歌詞にダブらせて回想する場面だ。学校でこの歌を習いながら「ふるさと」はとても良い所に違いない、と想像する。だがすぐに悲しい事実に気づく。--同級生の誰もが小学校のある、この土地こそが古里だった。なのに自分だけが違う--。もの心ついた時から旅ばかりの身に古里と呼べる地はなかった。「なつかし父母」が待っているわけでもない。つのる、わびしさ。「幼い私の人生にも暴風雨が吹きつけてきた」。そうとまで幼心に感じたという。林芙美子など多くの人に愛唱された「旅愁」...64【唱歌「旅愁」】

  • 断想片々(2) 【「巨大津波を予見できた可能性はなかった」】

    東電福島第一原発事故で業務上過失致死傷に問われた元東電会長ら3人の経営陣に、東京地裁は「3人には、巨大津波の来襲を合理的に予測できた可能性がなく、事故の発生を予見できなかった」として、無罪判決を言い渡した(2019年9月19日)。これに対し検察官役の指定弁護士は9月30日、「判決の確定は著しく正義に反する」と控訴した。国の地震調査研究推進本部は2002年に「三陸沖から房総沖では、マグニチュード8・2前後の津波地震が、30年以内に20%の確率で起きる」とする「長期評価」を公表していた。この数字をもとに東電は08年に「最大15・7メートルの津波が福島第一原発に襲来する」との試算結果を出した。裁判の焦点は、試算結果を把握していた3人の責任を問えるか--。判決では「『長期評価』の信頼性には限界があった」と3人を庇った。...断想片々(2)【「巨大津波を予見できた可能性はなかった」】

  • 断想片々(1) 【旭日旗】

    「海上から昇ぼる朝日は、旭日旗のように光を周囲へ放っているんですよ!」取材で南太平洋のタヒチ島を訪れた時、ポリネシア語の通訳をお願いした現地在住の日本人女性が、そう教えてくれた。30年近く昔のこと。翌朝、ホテルの窓から眺めると、なるほど海面から頭を出した朝日には、仏様に後光が射すように幾条もの光が放たれていた。海無し県に育った筆者としては新発見をしたような気分だった。朝日が幾条にも光を放つデザインは、ウクライナや北マケドニア、チベット亡命政府などの国旗として、また米国アリゾナ州旗やロシア空軍旗その他多くの旗に採用されている。写実的で親しみやすく、朝の元気な息吹を伝える図柄が喜ばれるのだろう。日本の幼児は太陽を描くときに必ず丸の周囲に線を加えるが、皆が同じように描く理由は幼児にも納得しやすいからだ。言うに及ばない...断想片々(1)【旭日旗】

  • 63 【暗号資産(仮想通貨)と石貨】

    「リブラ」への賛否米フェイスブック社が発行計画を進めている暗号資産(仮想通貨)「リブラ」に対し、各国政府や金融機関の間で、懐疑的な意見が強くなっているようだ。当然かもしれない。世界27億人のFB加入者が送金・決済サービスに利用するようになれば、買い物や公共料金の支払い、給与の振り込みなど、金融機関が担ってきた業務や役割も一変する。そんな大事なことを国家とは別の1民間業者(団体)に委ねて良いものか、どうか。万一の時の責任は誰が取るのか、また取り得るのか。リブラは価値の変動幅が少なく、何かと問題視されてきたビットコインに比較して安定感がある。”裏付け資産”のないビットコインに対して、リブラは米ドルやユーロ、円、英ポンドといった法定通貨や公債により保証されているためだ。投機対象にされやすいビットコインには躊躇(ためら...63【暗号資産(仮想通貨)と石貨】

  • 62 【謀略の構図】

    ホルムズ海峡のタンカー攻撃日本向けにタンカー輸送される石油の8割が通過する中東ホルムズ海峡。6月13日に日本とノルウェーのタンカー2隻が何者かに攻撃され、メディアは連日、事件の”闇”を続報している。米国が主張するイラン革命防衛隊説にはイスラエルや英国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦などが同調し、一方、イランは米側が仕組んだ謀略だと唱えている。しかし、どの報道もキメテとなる材料には乏しく、逆にキメテの無さが、さまざまな憶測を呼ぶ原因になっている。日本にとって米国とイランの仲立ちをすべく安倍首相がイラン訪問中の出来事だっただけに、国民の関心も高い。ポイントを整理してみたい。イマイチ説得力を欠く証拠写真中東を守備エリアとする米中央軍は17日、イラン革命防衛隊が日本の被害タンカーから不発爆発物を除去する写真を公開した...62【謀略の構図】

  • 61 【直進車優先の原則】

    事故に涙大型連休明け直後の5月8日、滋賀県大津市内の交差点で、保育園児ら16人が乗用車と軽乗用車との衝突事故に巻き込まれて死傷した。10日間が過ぎても日々なお続報されるニュースに多くの国民が涙したに違いない。2歳児の2人が死亡し、1人が重体のまま(10日現在)。この世に生まれ来てコトバを覚え始め、歩くことを覚え始めた矢先、一瞬にして閉ざされてしまった、あどけない命・・。日々事件も事故も起きるが、幼い命が犠牲になるケースほど暗たんたる気持ちにさせられるものはない。こちらも年齢(とし)のせいか涙もろくなり、心が激しく痛んでいつまでも尾を引く。直進・右折の交差点事故交通事故は交差点内で発生することが多く、特に直進車と右折車の衝突事故が起きやすい。今回の大津の事故のように右折車の運転手が「前をよく見ていなかった」ケース...61【直進車優先の原則】

  • 60 【荒らげる 荒らぐ 荒ぶる】

    孫引きだった新元号「令和」5月からの新しい年号が「令和」と決まった。出典は『万葉集』で作者は大伴旅人、ないしは山上憶良とのことだったが、4月2日付「毎日新聞」朝刊は、中国で6世紀に成立した美文集『文選(もんぜん)』からの引用、つまり”孫引き”だと報じている。作者は1、2世紀の後漢時代に活躍した張衡(ちょうこう)という政治家で、地震計を発明した科学者でもあるという。『万葉集』が「初春令月気淑風和」で『文選』は「仲春令月時和気清」だから、なるほど旅人や憶良のオリジナルだとは言い難い。和魂(にぎみたま)と荒魂(あらみたま)現代人が使うための元号である以上、現代人に分かりやすい表記がベターだ。しかし現代人の感覚だと、「令」の字に「命令」の語を連想する人が大半のようにも思える。美しいという意味なら「令」よりも「玲瓏(れい...60【荒らげる荒らぐ荒ぶる】

  • 59 【朧(おぼろ)月夜】

    春は夕暮れ清少納言は「春はあけぼの」と書いたが、春ならではの風光は夕暮れ時にも色濃く現れ出るように思える。唱歌「朧月夜」を口ずさむと、そんな思いを強くする。一、菜の花畠に入り日薄れ見渡す山の端(は)霞(かすみ)ふかし春風そよふく空を見れば夕月かかりてにほひ淡し(高野辰之作詞、岡野貞一作曲)文化部の記者だった頃、この唱歌の取材で高野辰之の出生地、長野県豊田村(現在は中野市豊田地区)の高野辰之記念館を訪ねる機会があった。60代半ばの館長さんに教えられるまま、歌の原風景になったという、高野辰之の実家から1キロほど離れた菜の花畑を歩いた。まさしく「朧月夜」の世界だった。一方、鳥取市の岡野貞一生家近くにも、かつて一面に菜の花畑が広がる牧場跡があり、こちらにも取材にお邪魔した。近くに「見渡す山の端」を彷彿とさせる久松山(2...59【朧(おぼろ)月夜】

  • 58 【武蔵野、雑木林、ハケ】

    あの夕日生まれた家は東京近郊の農村部に建つ社宅。戦前に急造された2Kの平屋建てで、家の西側は砂利道、その向こうに一面の畑が広がっていた。公園にブランコの遊具も無かった時代、砂利道と畑の境界を細長く仕切る生垣が、頃合いの”木登りゲレンデ”になった。昭和20年代の末、筆者が小学校へ入学する前後の話である。生垣には樹高3メートルほどの落葉樹やサワラの木もあり、子供の木登りには申し分なし。枝に腰掛けながら畑越しに眺めた、冬枯れた雑木林へ沈む夕日が、60年以上経った今でも忘れられない。「あの夕日」。脳裏に刻んだ風景や心象を自分の心のうちだけに呼び覚ますには、言葉を飾らない「あの夕日」がふさわしい。美しい形容詞は、何かを少し変えてしまう。ともかくも、そんな体験のせいか、武蔵野というコトバには人一倍の愛着を覚える。武蔵野国木...58【武蔵野、雑木林、ハケ】

  • 57 【『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』追記】

    議論多い「謎の微笑」最後の最後でヌードルスがアヘン窟に横たわりながら薄気味悪く笑うシーンには、以前から「あの笑いは、どんな意味があるのか?なぜ笑ったのか?」といった議論が多い。「モナリザの微笑」ならぬ「ヌードルスの微笑」。美女の口元からこぼれる微笑ならともかく、ロバート・デ・ニーロがニッと笑っても観客はぞっとしない。最後にマックスと対峙したヌードルスの落ち着き払った印象が重く残る直後だけに、軽薄な笑いが見る人に違和感を生じさせる。ネット上の意見や映評を読むと「最終的に大金を手にしたヌードルスが、嬉しくて笑っている場面」という解釈が、いくつかあった。いちばんラストのシーンであり、最後まで生き残った少年ギャング団の元メンバーはヌードルスが1人(ファット・モーは準メンバーとして)だけ、さらに現にヌードルスは大金を手に...57【『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』追記】

  • 56 【『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』下】

    丁寧な性格描写の意味迫害と差別が日常だった、貧しいユダヤ系移民の子供たち。貧困から抜け出そうとすれば、ギャングとして成り上がるしか方法(テ)のない時代だった。その意志が最も強固だったのが、頭脳明晰な準主役のマックス。少年ギャング当時、浮力と塩の溶解速度を応用した、水中からの麻薬回収方法を考え出し、ギャングに売り込んで大金をせしめた。反面、性格は神経質で、幼いペギーとの”初体験”では外で待つヌードルスらの話し声が気になって「おっ勃(た)た」ない。何気ない青春のヒトコマは、マックスの明晰さと神経質さゆえに結末への伏線にもなっていて、計算された構成だ。青・壮年時代のマックスは葬儀社を隠れ蓑とし、大物ギャングと組んで禁酒法の網をかいくぐり、コックアイらかつての少年ギャング団の面々とともに、いっぱしのギャングにのし上がっ...56【『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』下】

  • 55 【『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』上】

    久しぶりに見た名作10年以上も前にDVDへ録画しておいたアメリカ映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984年)。マカロニ・ウエスタンで知られるセルジオ・レオーネ監督が10年余の歳月をかけた、渾身の遺作映画だ。ふと見たくなりDVDを家中探し回ったが、見つからない。レンタル屋さんで借りるテもあったが、まあ、そのうちに見つかるサと放っておいたところ、某テレビ局が再(再々?それとも再々々?)放映すると知り、さっそく再録画した。次に見れば10回近く見たことになる。何度見ても見るたびに発見があり、飽きることがない。というか、1度や2度見ただけでは、さっぱり理解出来ない部類の映画なのである。映画でも小説でも、見る人読む人それぞれに好みがある。同じギャング映画として『ゴッドファーザー』(1972年)と比較され...55【『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』上】

  • 54 【医師とコミュニケーション能力】

    コミュニケーション能力は不要?東京医科大学に始まった入試不正問題。文科省が12月14日公表した最終報告書によると、国立の神戸大学を含め全国10大学で差別や優遇などの「不適切入試」が行われていたという。多くは女子受験生や浪人生への点数差別のケースだが、卒業生子弟への優遇も多かった。私立医大の情実入試の噂は以前からあったから、これを機にウミを出し切れば、転じて福となすことも可能かもしれない。ところで、こうした時の医大側の謝罪会見は、当局の責任者が立って深々と頭を下げ、通り一遍の言葉を並べて終わりと、相場が決まっている。会見後の印象がみな同じ、ないしは似ている理由は、どの責任者も無用な言質を取られまいと必要最小限のコトバを心掛けるからだろう。そんな中にあって12月10日に順天堂大学の学長氏が会見で釈明していた“理由”...54【医師とコミュニケーション能力】

  • 53 【ゴーンショック】

    遅れて来たコトバ平成最後の「流行語大賞」候補には「そだねー」や「半端ないって」など30語が11月7日にノミネートされたが、ここへ来て「ゴーンショック」が俄然クローズアップされている。もとよりカルロス・ゴーン氏が近年の日本経済に果たした役割は大きく、氏の逮捕だけでも十分なインパクトがある。加えて現在進行形のコトバなので、今後どれほど大きな意味を持つに至るかは未知数。こうした可能性も無視しがたい。輝ける経営者言うまでもなく、かつてのゴーン氏は輝ける経営者だった。詳細は省くが、1999年に日産自動車のCOO(最高執行責任者)に就任するや、同社が抱えていた有利子負債2兆円を2003年までに全額返済し、以後自動車メーカーとしてV字回復を果たした。手法はもっぱらコストカットであり、骨格は2万人超える従業員削減や工場封鎖だか...53【ゴーンショック】

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