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はさみの世界・出張版 https://blog.goo.ne.jp/800137

三国志・蜀漢中心の創作小説のサイト。令和に入り、牧知花名義で「奇想三国志 英華伝」の連載をスタートしました。どうぞごゆっくりお楽しみください(^^♪

「奇想三国志 英華伝」という、趙雲と孔明の活躍を中心にした創作小説を連載しています。2024年3月より、赤壁を描く「赤壁に龍は踊る」を月・水・金に連載です。 続編も制作中。そのほか、旧来の「はさみのなかま」名義での作品も掲載しているブログです。

牧知花
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2015/02/03

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  • 赤壁に龍は踊る 一章 その18 兄弟の再会

    ※「亮よ、久しいな、元気そうで何よりだ」と、諸葛瑾は面長の顔をほころばせた。面長で背のひょろりとした、実直そうな男。それが、諸葛瑾《しょかつきん》、あざなを子瑜《しゆ》であった。趙雲が見るかぎり、この兄弟は風貌があまり似ていない。背の高いところと、人品のよさそうなところは似ているが。「来てくださるとは思っておりませんでした」「何を言うか、おまえがわざわざこの地にやって来たのだ。兄たるわたしが会わずにいられようか」「うれしゅうございます、今日はゆっくり語り合おうではありませぬか」孔明の屈託のない笑顔を見て、諸葛瑾の連れてきたお供の二人のほうが感激して、「よろしゅうございました、よろしゅうございました」と、なぜかおいおいと泣いている。お供の名は宋章《そうしょう》と羅仙《らせん》といって、丸くて大きいのが宋章で...赤壁に龍は踊る一章その18兄弟の再会

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その17 思いがけない来客

    ※開戦の決定を受け、まさに柴桑《さいそう》は沸騰した。開戦か、降伏か。どちらかになるかを息をつめて見守っていたひとびとも、ひとたび開戦と決まると行動は早かった。家臣たちはあらたに役職をあたえられ、曹操軍にそなえるべく、それぞれの陣地移動をはじめた。物資を売る商人たちも大きく動き出し、陸路も水路もさまざまな物資で満ちた。だれもが曹操に対抗するのだという意志で燃えているように見える。上は都督から下は奴婢まで、曹操に一丸となって戦う態勢となりつつあるようだ。この豊かな江東の土地を、曹操の好きにさせてたまるか、という気概が満ち満ちている。降伏派の中心にいたひとびとさえ、もう文句のひとつも言わなくなったとか。机とおなじ運命になってはたまらないと思ったのもあるだろうが、江東を包み込む闘争心に圧倒されたというのが本当の...赤壁に龍は踊る一章その17思いがけない来客

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その16 敵対の予感

    ※周瑜が柴桑《さいそう》城へ到着すると、魯粛が待ち受けていた。かれの満面の笑みを見て、周瑜は互いにことばを交わさぬうちから、『開戦か』と判断した。どうやら、夏口からやってきた劉備の軍師は、なかなかの口達者らしい。「決まったのか」確認のため、端的にたずねると、魯粛は大きくうなずいた。「決まりました。いま、孫将軍が開戦を宣言なさるところです」「そうか、わたしは間に合ったのだな」「間に合うも何も……もちろん、公瑾どのを待っての宣言となりましょう。貴殿がいらっしゃらなければ、わが軍は回りませぬ」魯粛のほうをちらりと見れば、かれがお追従《ついしょう》ではなく、本気で言っているのが見て取れた。顔が笑っていない。「ところで、劉豫洲の軍師という人物は、どうだ」「孔明どのですかい、噂にたがわぬ傑物ですよ」「どのように」「弁...赤壁に龍は踊る一章その16敵対の予感

  • 奇想三国志 英華伝 設定集 胡済(偉度)

    胡済に関しては、今後の展開の軽微なネタバレがあります。作品を前知識なく楽しみたいという方は、大変申し訳ありませんが、引き返していただくことを推奨いたします……※名・来歴・年齢※胡済(偉度)荊州の義陽《ぎよう》出身物語の来歴については「奇想三国志英華伝臥龍的陣」を参照いただきたい。かれはオリジナルキャラクターではなく、「蜀書董和《とうわ》伝」に出てくる「孔明が自ら、気が合った人物として名を挙げた四人のうちのひとり(ほかは崔州平、徐庶、董和)」である。劉琦の学友で、劉表の一族と関係が深いというのはオリジナル設定。史実では、いつごろからかは分からないが、孔明の主簿として働き、董和の子・董允《とういん》や費褘《ひい》とも親交があった。孔明の死後は中典軍として軍を率いて戦い、最終的には右驃騎《うひょうき》将軍にまで...奇想三国志英華伝設定集胡済(偉度)

  • ふたつのお知らせ+近況報告 2024年4月

    ふたつのお知らせがあります。1、4月14日に「奇想三国志英華伝人物設定」に「胡済」を追加します!2、当ブログに掲載しております「雲と為り雨と為り」を近々、削除いたします。1に関しては、記述通りです。が、胡済はネタバレが満載なので、予備知識なく作品を楽しみたい方は回れ右をしていただくことになります……申し訳ない!2に関しては、旧来のシリーズですと、「赤壁編」のあとに「雲と為り雨と為り」が来る仕様になっていました。しかし、新しい「英華伝」では、「赤壁に龍は踊る」のあとにはこの話につながっていきません。最近まで、これのリメイクになるかな?と思って残しておいたのですが、「赤壁に龍は踊る」を作っていくうちに、「こりゃ、ここにはいかないな」と確信しました。なので(すみません、ややこしい書き方かな?)、みなさまの混乱を...ふたつのお知らせ+近況報告2024年4月

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その15 周瑜の思惑

    ※拳《こぶし》の手当てをしてもらったあと、孫権と対面した。孫権と、そのそばには孫策から後を託されたといって張り切っている張昭がいる。周瑜はそのとき、両者にどう言葉をかけたのか、よくおぼえていない。これから江東を守り抜くため、互いに力を合わせて弟君を盛り立てていきましょうということを張昭に言ったのだろう。張昭は満足した顔をしていたが、しかし孫権は突然の事態に頭が追い付いていないようで、まだうつろな顔をしていた。孫権とひさびさに顔を合わせて、周瑜はざんねんなことに、かれはあくまで伯符(孫策)の弟であって、伯符本人ではないなと思ってしまった。かつて初めて舒《じょ》にて孫策と会ったとき、そのはつらつとした明るさと、見る者を陶然とさせるほどの美しさを見て、周瑜は、この大地に、はじめて仲間を見つけたと思った。周瑜は育...赤壁に龍は踊る一章その15周瑜の思惑

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その14 小覇王の想い出 その3

    「于吉《うきつ》とは……たしか世を騒がしている道士だったな」于吉仙人と呼ばれ、民から厚い支持を受けている道士の名が、于吉という。かれは瑯琊《ろうや》出身だが、江東に流れてきており、精舎をたてて符や聖水などをつかって、民の病気をなおしていた。その求心力は孫策も無視できないもので、常日頃からおもしろくなく思っていたという。黄蓋は苦々しく言う。「伯符さまが城門の楼のうえで会合をひらいていたとき、たまたまなのか、わざとなのか、于吉が門の下を通り過ぎたのです。人々はそれを見ると、伯符さまそっちのけで于吉を拝みだしました。さすがに宴会係がこれを止めようとしたのですが、それでも誰も言うことを聞かず……これを由々しきことだと思われた伯符さまは、于吉を捕えてしまわれたのです」「瑯琊の于吉は、太平道の祖ではないかという話も聞...赤壁に龍は踊る一章その14小覇王の想い出その3

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その13 小覇王の想い出 その2

    やがて、周瑜は孫策の遺体が仮埋葬された長江のほとりの街、丹徒《たんと》に到着した。春という季節もあり、すでに遺体が傷み始めていたということで、かれの死に顔を見ることはできなかった。白い喪服を着て、大きく哭礼《こくれい》をつづけている人々を見て、周瑜は呆然と立ち尽くした。つねにきびきびと動き回り、いかなるときでもおのれを見失わない周瑜にとって、孫策の死がほんとうのことなのだと実感することは、まだできなかった。孫策の妻の大喬が髪を振り乱して泣いている。母親もまた、立ち上がれないほどに取り乱し、侍女たちに支えられながら、子の名を何度も呼んで泣いていた。弟の孫権は、背中を丸めて座り込み、うつむいて声もたてない。泣いているのか、それすらもわからなかった。家臣たちもそれぞれ嘆き悲しんでいたが、そのうち黄蓋《こうがい》...赤壁に龍は踊る一章その13小覇王の想い出その2

  • 奇想三国志 英華伝 設定集 陳到(叔至)

    ※名・来歴・年齢※陳到《ちんとう》(あざなを叔至《しゅくし》)。豫洲の汝南《じょなん》出身。正史三国志においては、趙雲と並び称された人物として名が挙がるのみで、詳しい事績は全く不明。そこで奇想三国志では「趙雲の副将」ということにした。袁紹軍に参加していたが、官渡の戦いのどさくさに、趙雲より直々にスカウトされて、劉備の家臣となった。以来、趙雲の陰にひっそりと存在し、その活動を支えている。武芸の腕もたつが、事務能力も高い。地味だが、オールマイティーな男である。とぼけたところもあるが、人当たりは悪くない。家にこわーいお嫁さんがいるが、この嫁と娘たちを守ることを陳到は第一義にしており、出世して妻を変えるとか、妾を増やす、なんてことは欠片も考えていない。ちなみに、この、こわーいお嫁さんは、過去に書いた作品では「田豊...奇想三国志英華伝設定集陳到(叔至)

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その12 小覇王の想い出 その1

    ※鄱陽湖《はようこ》のほとりに滞在する周瑜のもとに急使がやってきたのは、孔明が孫権の説得に成功してからすぐであった。周瑜としては、孫権が開戦を決めたことにおどろきはなかった。いまは亡き小覇王・孫策が血みどろの努力を重ねて得た土地。その苦労をしっている孫権が、よそ者たる曹操に無傷で明け渡すはずがないと確信していたのだ。柴桑《さいそう》に向かうため、身なりを整える。その出立の準備は、同行している妻の小喬がやってくれた。三十路に入ってもなお、人の目を奪うほどのみずみずしい美しさをそなえている小喬は、無言で周瑜のからだを飾り立てていく。それに周瑜も無言でこたえながら、そういえば、曹操は、わが妻と義姉を狙っているという下世話な噂があったなと思い出していた。曹操が好色な男だというのは江東の地にも聞こえていて、その魔の...赤壁に龍は踊る一章その12小覇王の想い出その1

  • 4月6日の土曜日に「設定集」を更新しまーす!

    4月6日の土曜日に、「設定集」を追加します。今回は「陳到(叔至)」の差し替えです。原稿をまるっと書き換えましたので、ご覧いただけたならさいわいです(^^♪いくらか読みやすくなっているかなー?お時間ありましたら、土曜日に遊びにいらしてくださいませvでもって、ちょっぴり近況報告。「赤壁に龍は踊る」の二章目を書いている途中です。書き始めたら早いので、サクサク書いていますが……間違った方向にサクサク行っていないか?自戒しつつ書いています。書くことは決まっているので、ほんとうに手を付けたら早いんですよ、われながら。でも面白くなっているかどうかは、これまたなかなか自分ではわからないという。なるべく客観性をもって、書くようにしています。まあ、間違った方向に行ってしまったとしても、戻ればいいだけの話なんですが……読んでく...4月6日の土曜日に「設定集」を更新しまーす!

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その11 響いた太鼓

    「曹操は百万の兵を率いてやってきたのだぞ。それなのに、平然としておられるものか。第一、その曹操に敗れて江夏に逃げ込んだのは、どこのどいつだ」「それは決まっております、われらが劉豫洲は、斉の壮士・田横のごとく義を守る者。しかも漢王室の末裔であり、なおかつ優れた力量をもっておられる英才です。いまでこそ敗走した身ではありますが、やがて水が海へ流れていくように、天下もまたわが君のもとへ流れてくることでしょう。仮にこれがうまくかなかったときは、天命というもの。そうとわかっているのに、なにゆえ曹操ごときを恐れ、これに仕えられましょうか」「曹操ごとき、か。口では何とでもいえよう。それでは、劉豫洲は漢王室に殉じる覚悟というわけだな」「もちろん。孫将軍にはもはや関係のない話かもしれませぬが、われらはあくまで漢王室復興を目指...赤壁に龍は踊る一章その11響いた太鼓

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その10 孫権との対面

    ※『見られているな』というのが趙雲の第一印象だ。孫権のいるという奥堂につづく長い廊下をいくあいだも、だれかに見られている気配を感じた。黄蓋はひとことも余計なことをしゃべらず、もくもくと孔明と趙雲を先導する。趙雲はあたりに目を光らせながら、異変が起こらないよう気を配っていた。それというのも、孫権が自分たちを捕縛しないという保証は、まだないからである。さきほどの家臣たちの様子からするに、降伏派のほうが弁の立つ連中がおおく、優勢のようだった。それに押されて、孫権が降伏にこころを傾け、劉備の使者としての自分たちを捕縛し、曹操に引き渡さないともかぎらない。それを避けるため、すでに魯粛に頼んで小舟を用意し、胡済をそこに待機させている。逃げる手はずは整えてある。だが、問題はこの城内から出られるか、であった。こちらを見張...赤壁に龍は踊る一章その10孫権との対面

  • 4月1日月曜日に活動再開します!

    タイトルどおり、4月1日の月曜日から活動再開します!ただ、状況に変化がないので、毎日更新はむずかしいです;ごめんなさい~。ちょっと余裕をもっておかないと、また状況が悪くなった時に、動けなくなってしまうので……とりあえず様子を見て、月・水・金で動こうと思っています。いつもの朝10時前後の更新となります。どうぞご了承くださいませ。近況報告では、4月に入れば状況がわかると書きましたが、昨日、思いもかけず早くに状況がわかりました。結論から言うと、問題の膠着状態が長引きそうです。いますぐ、動かないといけないとか、そういうことはなさそうなので、自分の日常に戻ろうと思います。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした……(T_T)2日以降の動きによっては、また変化があるかもしれません。ですが、なるべく自分のことをしていこ...4月1日月曜日に活動再開します!

  • どうしたものか…… 2024年3月の近況報告

    ご無沙汰しております、牧知花です。待っていてくださっているみなさま、申し訳ありません!でもって、サイトのウェブ拍手を押してくださったみなさまも、どうもありがとうございました。ああ、ブログやサイトを見てくださっているのだなと、ホッとするやら、申し訳ないやら(T_T)結論から言いますと、まだ動ける状態にはなっていません;今回は、「生きてます」という報告となります。でもって、「続ける意思はあります」という報告でもあります……ほんとですよー;ほんっとうに、どうしたらいいのかわからない状況に、一家全員でハマっていまして、下手すると長期戦になりそうなのです。右往左往という言葉がぴったりな、わが家。とはいえ、です。だからといって、自分が犠牲になりすぎるのもいけないなと、ちょっと思い始めています。くわしくは書けないのです...どうしたものか……2024年3月の近況報告

  • しばらくお休みのお知らせ

    たくさん悩んだのですが、お休みすることにいたしました。楽しみにしてくださったみなさま、申し訳ありません……休みの期間はどれだけになるか、わかりません。ここ一週間の我が家は青天の霹靂つづきで、もう自分の世界に入って作業するなんてことはとてもできない状況です。くわしく書くことが出来ないのが歯がゆい……両親は、日常を保っていたほうがいい、と言ってくれているのですが、そう思っていても、頭は全く働かない状況。これからどうなるのか、考えれば考えるほど、いいシナリオが浮かばないのです。もちろん、わたしよりつらい状況の方にいても、創作をつづけて、みなさんを楽しませることのできるプロのような方もいらっしゃるかもしれません。わたし自身、出来たら創作をつづけたほうがいいんだろうと思うのですが、体が付いてこない。無理したらマズい...しばらくお休みのお知らせ

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その9 舌戦 その2

    すると、その隣にいた棒切れのような細長い顔の男が叫んだ。「率直にお尋ねする。曹操とは?」「漢室の賊臣なり」細長い顔の男は、小ばかにしたように鼻を鳴らした。「よくもまあ、いい切れるものよ。漢の命運は尽きているのは童子でもわかること。一方の曹丞相は天下の三分の二をすでに治め、良民もかれに付き従っておる。そんな曹丞相を賊呼ばわりするということは、名だたる帝王たちや武王も秦王も高祖も、みな賊となってしまおうぞ」おどけてみせる細長い顔の男の態度に、それまで穏やかな笑みを浮かべていた孔明は、急に顔をこわばらせると、これまでより声高に言った。「その無駄口を叩く口は閉ざされていたほうがよろしかろう。貴殿の言は父母も君主もない人間のことば。そもそも、曹操は漢室の碌を食みながら、邪悪な本質をあらわにし、天下の簒奪を試みている...赤壁に龍は踊る一章その9舌戦その2

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その8 舌戦 その1

    急に空気がぴりっとしたのを受け、初老の男はこほん、と軽く咳をしてから言った。「わが名は張昭《ちょうしょう》、あざなを子布《しふ》という」「おお、ご高名はかねがね耳にしております」孔明は軽く礼を取る。張昭は慇懃に、うむ、と答えてから語りだした。「遠路はるばるいらした劉豫洲の使者に向けていうことばではないかもしれぬが、聞いてほしい。われらと同盟を組みたいと劉豫洲はおっしゃっているが、それはつまり、手を組んで曹操軍と戦おうということであろう?しかしその肝心の劉豫洲は、劉表の死後、荊州を取ることもできず、新野も追われ、みじめな逃亡を余儀なくされた。そも、荊州を取らなかったのは何ゆえか」「それは愚問ですな。わが君はもとの州牧である劉表どのとは同じ宗室ですぞ」「宗室か。つまり同族だからと言いたいのかね。ところで貴殿は...赤壁に龍は踊る一章その8舌戦その1

  • 奇想三国志 英華伝 設定集 趙雲(子龍)

    来歴はみなさまご存じのとおり。「奇想三国志英華伝」では、十代で公孫瓚に仕えたことにしている。年齢は、だいたい孔明より五歳くらい年上。※容姿※男らしく凛々しい容姿にめぐまれている。体格はいかにもしなやかそうで、角ばったところはすくない。張郃などは官渡で見た趙雲の後ろ姿を何年もおぼえていたほどで、背中で語れるタイプらしい。背丈は八尺(約180cmくらい)で、孔明とほとんど同じくらい。つねにあたりを警戒する癖がついているせいか、表情は険しいことが多いが、親しい者……とくに孔明にはさまざまな顔を見せているようす。ふだんは無口。なので逆に口をひらくと人が耳を傾けてくれる。核心をついたことを口にすることが多いが、声が若いのと、もともとの誠実な口調ゆえに、あまり相手に威圧感を与えずにすんでいる。めったなことでは自分から...奇想三国志英華伝設定集趙雲(子龍)

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その7 舌戦はじまる

    ※魯粛の先導で柴桑城内へ向かう。城のまえには、馬だの馬車だの鹿車だのがずらりと並んでいて、ありとあらゆる身分の家臣たちがこの城内につどっていることが知れた。主人を待つ従者や御者たちの顔もまた、弛緩しておらず緊張しているように見えるのは、おれが緊張しているせいかな、と趙雲は思う。孔明はあいかわらず涼しい顔だ。客館には、胡済が待機している。変事があった場合は、用意した小舟に移動し、二人を待つよう指示を出しておいた。さすがの胡済も、この指示にはぶうぶういうことはなく、おとなしくわかりましたと答えてくれた。やがて城内に入ると、がやがやと大広間を中心に声が聞こえてきた。どうやら雑談しているなどと言う穏やかなはなしではなく、喧々諤々《けんけんがくがく》の議論が交わされているようだった。見れば、それぞれ五十名ほどの正装...赤壁に龍は踊る一章その7舌戦はじまる

  • 3月7日木曜日に「設定集」を動かします(^^♪&「赤壁編」の進捗状況ほか

    明日の3月7日、木曜日に、「設定集」を動かします。具体的には、「趙雲(子龍)」の項目を新しい原稿に差し替えます。すでに公開している原稿より、あたらしい原稿のほうが読みやすくなるのではないかと思います。どうぞお時間ありましたら、チェックしてみてくださいね♪それと、「赤壁編」の進捗状況です。おかげさまで、昨晩に一章目の下書きをかきあげることが出来ました!あとは肉付けして、推敲していけばできあがり(^^♪それもこれも、みなさまが閲覧してくださっているおかげ!とっても張り合いになっているのですよー。やっぱりたくさんの方に見てもらうと、緊張感もテンションもちがいますね。本日より、休まず二章目の制作にとりかかります。一章目は趙雲目線での進行でしたが、二章目からは孔明目線で進行させるかな、と思っています。二人の視線を交...3月7日木曜日に「設定集」を動かします(^^♪&「赤壁編」の進捗状況ほか

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その6 打ち合わせ その2

    趙雲は周瑜と胡済が会った……あるいは再会した場合の「まずさ」について、素早く頭を回転させた。まず、胡済が刺客として江東に派遣されたことがある場合で、周瑜がそれを知ってる状態が、いちばんまずい。孔明が、かつて自分の命を狙った人物を連れてきたと思われてしまう。それでは喧嘩を売りますよと思っているのだと、勝手に受け止められてしまってもおかしくない。胡済だけが周瑜を知っていて、向こうが胡済を知らない、というのが一番穏便だ。胡済はおもしろくないだろうが、ここは我慢してもらうほかない。どちらかわからない以上、二人を対面させる機会はないほうがよさそうだ。「偉度と周公瑾を会わせるのはまずいな」趙雲が言うと、孔明もわが意を得たりという風に深くうなずいた。「周公瑾がまだ鄱陽湖《はようこ》にいるというのは幸いだ。明日、いきなり...赤壁に龍は踊る一章その6打ち合わせその2

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その5 打ち合わせ

    ※ともかくゆっくり休んでくれと魯粛は言い残し、夕暮れに客館から去っていった。あとのもてなしは、館の主人がしてくれて、三人はひさびさに温かい食事にありつけた。食事のあとは、明日へのかんたんな打ち合わせをし、それから解散となった。趙雲もあてがわれた部屋へもどる。どこからか、楽器こそ言い当てられないが、練習をしてるのだとおぼしき楽の音が聞こえてきた。客館のあるじに聞くと、近くで女楽(芸妓)が練習しているのだという。たびたび音を外すその音楽を聴きながら、そう言えば、周瑜という男は楽団が演奏しているとき、ちょっとでも誰かが音を外すと、その外した者のほうを振り返るのだったと、趙雲は思い出していた。周瑜はけっこう細かい男らしい。その話には、『江東の美周郎は音楽も解する、優雅で知的な貴公子』という意味合いが含まれているこ...赤壁に龍は踊る一章その5打ち合わせ

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その4 不審な胡済

    ほどなく、客館の主人が気を利かせて、茶とあんずの干したものを卓のうえにだしてくれた。みな、ありがたくそれを口にする。旅の疲れに茶の渋みと、あんずの甘味はほどよく沁みた。「ところで、孫将軍のところにはどなたが集まっておられるのです?噂の美周郎どのはすでにいらしているのですか?」あんずをぺろりと平らげた胡済の問いに、魯粛は、おや、というふうに答えた。「あんたは美周郎どのを知っているのかい、ご期待に沿えなくて申し訳ないが、公瑾どのはまだ鄱陽においでだ。水軍の調練で忙しいから、あとから柴桑にいらっしゃるだろう」「そうですか」「そう。それと、だ」魯粛は居住まいを正して、孔明をまっすぐ見た。「船の中でも打ち合わせで言った通り、孔明どのはざんねんながら歓迎されないだろう。いま、孫将軍のまわりでは降伏派が優勢なのだ」「な...赤壁に龍は踊る一章その4不審な胡済

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その3 客館に到着

    「客館とやらは、まだ遠いのですか、くたびれてしまいました」ぼやきはじめたのは、胡済《こさい》、あざなを偉度《いど》である。趙雲がものめずらしさに、あたりをきょろきょろしているのに対し、胡済は十五という年に似合わず落ち着いていた。むしろお上《のぼ》りさんのようになっている趙雲に、「何が珍しいのやら、主騎なら軍師どのだけ見ていればよいものを」などと嫌みを言ってくるほどだ。あいかわらず、はりねずみのようなやつ、と趙雲はすこしむっとするも、相手が加冠しているとはいえ、まだまだ中身は子供であるから、本気で怒りはしない。「客館はもうすぐだよ。おれたちが帰って来たことは先に伝えてあるから、すぐに休めるようになっているはずだ」「段取りのよいことで」「まあな、そういうのは得意なのさ」魯粛は胡済の嫌みに近い言葉も気にせず、陽...赤壁に龍は踊る一章その3客館に到着

  • 赤壁に龍は踊る 一章 その2 柴桑の街へ

    ※柴桑《さいそう》への道中は、魯粛がのべつまくなしに江東の地の解説をしてくれることもあり、退屈するということはなかった。とくに趙雲は、これまで荊州から東南へ行ったことがなかったので、見るもの聞くもの、すべてがあたらしい。道中に目にするいかにも神仙がいそうな奇岩や、剣山をひっくりかえしたような山々は見ていて面白かった。刈り入れの終わった田圃《たんぼ》には落穂ひろいをしている女たちのほか、野鳥がにぎやかにさえずっていて、あぜには子供らが遊ぶ声がひびく。集落のまわりには冬支度をはじめている柴を背負った男たちの姿がある。かれらは遠くにいてその表情を見ることはできなかったが、おそらくだれもが穏やかな顔をしているだろう。まず思ったのは、江東は噂通り、豊かな土地だな、ということだった。未開の地と馬鹿にする中原の人間もい...赤壁に龍は踊る一章その2柴桑の街へ

  • 赤壁に龍は踊る 一章 長江を流れ下りて

    ながくつづいた長江を下る旅は終わった。脚の裏が大地についたとたん、趙雲の口から思わず安堵のため息が出た。船に揺られっぱなしの旅であった。夏口から船に乗った趙雲と孔明らは、長江をくだり、豫章郡《よしょうぐん》柴桑県《さいそうけん》へたどりついたのだ。そこに討虜《とうりょ》将軍・孫権が滞在しているからである。趙雲の船酔いは、この船旅があと三日続いていたらと思うと、さすがに勘弁してほしいと弱音を吐きたくなるものだった。曹操より先んじて動かねばならないという焦りもあるから船は急いでいて、それがまた揺れを加速させていたからだ。魯粛も孔明も、趙雲とおなじ北の人間だというのに、ケロッとしていて船酔いの気配すらなさそうである。かれらは暇さえあれば上陸後の打ち合わせをしていた。もうひとり、孔明が無理やり江夏からつれてきた少...赤壁に龍は踊る一章長江を流れ下りて

  • 3月1日より「赤壁に龍は踊る」連載開始でーす(^^♪

    あらためてですが、番外編まで読んでくださった方、どうもありがとうございましたー(*^▽^*)3月1日より「赤壁に龍は踊る」開始です!どうぞよろしくお願いいたします!(^^)!なんて書きながら、まだ一章目も書き終わっていないという突貫工事!大丈夫なのか?自分でもちょっと心配ではありますが……(^▽^;)なんとかなるでしょう、たぶん;このところ、「赤壁に龍は踊る」ばっかり書いていて、短編や設定集を動かせていないので、心苦しいかぎり。オリジナルの長編もほとんど手を付けられず……余裕って大切だなあと思います。あ、遊んでいるわけじゃないのですよ、なんかいつの間にか時間が消えている……フルタイムで働いて創作している方も多いなかで、弱音を吐いたら笑われそうですねー;うまく時間を捻出して、どんどん創作を進めていきたいです...3月1日より「赤壁に龍は踊る」連載開始でーす(^^♪

  • 番外編 甘寧の物語 その8

    ※すっかり勝ち戦の勢いに乗っている孫権の軍のなかで、甘寧ひとりが、喜びに乗り切れずにいた。黄祖の勢力が滅びることに、感傷的になっていたのではない。自分を孫呉に導いてくれた恩人である、蘇飛《そひ》のことが心配でならなかったのだ。前線に出ていなければよいがと心配する甘寧であるが、ふと、孫権のほうを見ると、側仕《そばづか》えのものが、うやうやしく、ふたつの空箱を差し出している。なんの箱かと首をひねっていると、こんな声が聞こえてきた。「われらの勝利は、ほぼ決まったも同然。あとは、この箱に、黄祖めと、蘇飛の首をおさめることができたなら、最高の勝利というべきでしょう」これを聞いて、甘寧は沈み込んだ。蘇飛を助けたいと思う。しかし孫権にとっては、黄祖は親の仇。そして、蘇飛は、その仇に与する男なのである。落ち込んでいる甘寧...番外編甘寧の物語その8

  • 番外編 甘寧の物語 その7

    ※甘寧はもともと黄祖の元にいたので、出陣の際にも、そう怯えることはなかった。恐れ入ったのは、周瑜の度胸のよさである。周瑜は黄祖に軍を向けるのも、これが最後だと、はっきりわかっているようであった。山越の民を平定したことが、その自信になっているのだろうかと、甘寧は考えた。すると、周瑜は、声をたてて、じつにさわやかに笑いながら、「それもたしかにあるが、もうひとつ、勝利はまちがいないと確信できることがある。興覇どのには、分からなかったかもしれぬが、山越の叛徒どもの勢いが、以前とくらべて落ちていたのだ。なぜだかわかるかね」と、たずねてきた。さあて、これは俺の答えられる問いだろうな、と思い、甘寧は頭を働かせた。「孫将軍のご威光に、とうとう心服した。それしかあるまい」答えると、周瑜はまた、愉快そうに笑った。笑うと、ひど...番外編甘寧の物語その7

  • 番外編 甘寧の物語 その6

    甘寧は、はじめに送った孫権あての書状のなかに、おのれの思いのたけと、そして、これからの天下の趨勢《すうせい》がどうなるかの予測を、あますところなく綴っていた。その予測を読んで、呂蒙は、これは只者ではないと判断したのである。呂蒙は甘寧の見識の高さを買って、孫権へとりなす役目を買ってくれることになった。それだけではない。呂蒙から甘寧のことを聞いた周瑜が、甘寧につよい興味をおぼえて、同じく、推薦の役目を買ってくれることになったという。周瑜、字を公瑾。孫権の実兄孫策の義兄弟で、孫家を公私共に支えている傑物である。その人物が後ろについたことで、甘寧の孫家への仕官は、まちがいのないものとなった。甘寧は、呂蒙、つづいて周瑜と接見し、それから孫権に紹介された。とんとんとうまい具合にすべてが順調にすすみ、あっという間に江東...番外編甘寧の物語その6

  • 番外編 甘寧の物語 その5

    ※そんな甘寧を見かねた蘇飛《そひ》が、あるとき、こっそりと甘寧を自邸に呼び寄せた。月見をしようというのが表向きの理由であったが、ほんとうは、そうではない。蘇飛は、甘寧を身近に呼び寄せると、ささやいた。「興覇どの、あなたは、もうお若くないでしょう」なにを言い出したのだろうと思いながらも、甘寧はたしかにそうだ、と答えた。「人の寿命は、あっという間に尽きるもの。いまのこの世の中で、高い志を持ちながらも、運に恵まれず、埋もれたまま死んでいった者たちの、なんと多いことか。ときに、あなたは禰正平《でいせいへい》という人物をご存知か」その名を知らないものは、この夏口には存在しないのではないかというほどに、禰衡《でいこう》、字を正平《せいへい》は、有名人であった。もとは曹操に仕えていたのだが、言動が放埓にすぎたために嫌わ...番外編甘寧の物語その5

  • 番外編 甘寧の物語 その4

    ※しかし、夏口での三年間は、甘寧にとって、無駄な年月にはならなかった。黄祖は問題のある人物ではあった。だが、熟練のつわもので、戦上手であることには変わりがない。黄祖のあつかう水練になれた兵卒たちをあずけられ、将としてはたらくことになった甘寧は、そこで、はじめて、正規の軍隊における水軍の動かし方、というものを学んだ。それまで、故郷の臨江にて、海賊まがいのことをしたこともあった。しかし、本物の水軍は、やはりすべての規模がちがっていた。気心のしれた子分たちを動かすのと、兵卒たちに号令をかけるのとは、使う能力がちがう。甘寧は必死に兵法の勉強をし、将とはなんぞやと、おのれの頭で考えつづけた。そうこうしていくうち、やくざ者の雰囲気は薄れ、かれにはどっしりとした落ち着きが備わり始めた。当然のことながら、周囲の扱い方も変...番外編甘寧の物語その4

  • 番外編 甘寧の物語 その3

    南陽は、蜀の地から見れば、ずいぶんと太陽の明るい土地であった。過ごしやすいこともあったが、劉表の治世がうまくいっていることもあり、甘寧がその才覚を見せる場面はおとずれなかった。州境でもめ事があっても、甘寧の出番はない。なぜこうも不遇なのか。甘寧は、しばらくもんもんと過ごした。子分たちは、『親分は主君に恵まれないお方だ』と、同情した。かれらにしても、田舎者あつかいされるのは我慢がならなかった。さらには、劉表が復興させようとしていた儒教中心の古めかしい気風に、肌があわなかったのである。そうしているあいだ、天下は動いた。偽帝は横死《おうし》し、その親戚である袁紹も、官渡の戦いにおいて曹操にまさかの敗北を喫した。遺された袁紹の息子たちは、曹操という強敵をまえに互いに食い合いをはじめる愚かさ。甘寧は、乱暴もので、短...番外編甘寧の物語その3

  • 番外編 甘寧の物語 その2

    ※希望に満ちた甘寧の、仕官への道は、しょっぱな挫けた。益州をおさめる劉璋のもとへ向かったはいいが、かれはおとなしい男で、武辺者の才覚をみきわめる目を持っていなかった。なんとか仕官はできたものの、それは低位の会計係の役目であった。がっかりしなかったといったら、嘘になる。それでも、基本的には真面目な性格だから、最初はおとなしく、けんめいに仕事をした。一緒についてきた子分たちは、『親分がこんなに静かに仕事に励むとは』とびっくりしていた。つまらなくも思ったが、一方で甘寧に面倒を見てもらえていたので、文句はなかった。かれらはそれぞれ食客として豪族の屋敷などに分散して暮らしながらも、なにかあれば甘寧のために集った。そんな生活は、しかし、何年も保たない。こつこつと会計係をつづけたあと、昇進の通達がやってきた。蜀郡の丞(...番外編甘寧の物語その2

  • 番外編 甘寧の物語 その1

    甘寧《かんねい》は、字を興覇《こうは》といって、もともとは、益州のちょうど南東部に位置する、江水のほとりに栄えた巴郡臨江《りんこう》の人物である。北方を吹き荒れる暴虐の嵐に揉まれることのすくない土地に生まれ育ちながらも、甘寧の気性はたいへんに荒く、短気で、武を好む気質であった。ちょうど街道沿いに臨江があったこともあって、街はゆたかで、甘寧がのぞめば、たいがいのものは手に入った。ただし、手に入るものは、甘寧が汗水たらして稼いだ金で得たものではない。甘寧の手にするものは、たいがいが恐喝まがいの行為で得たものだった。さもなくば、甘寧とその一党の威勢をおそれた土地の権力者が、上納金のようにして、一党にあたえたものである。甘寧は、若いころから無頼のやからと徒党をくんで、臨江の周辺を我が物顔で闊歩《かっぽ》していた。...番外編甘寧の物語その1

  • 地這う龍 あとがき

    終わりました、「地這う龍」!いちど作るのを挫折したこの話を再生できたのは、みなさまの応援のおかげです。読んでくださった方、応援してくださった方、感想やブックマークを付けてくださった方、ほんとうにどうもありがとうございました(^^♪大変難産な作品でした。「長坂の戦い」のエピソードは三国志演義のなかでもトップクラスの人気エピソードなのに、わたしが書くと、なにかがちがう……この「なにか」が自分の味なのか、はたまた勘違いのタネなのか、自分ではまだわかりません。数年後に読み返して、ジタバタする羽目になったら、また直すつもりでいます。「臥龍的陣」の時もそうでしたが、今回もできうるかぎりのことをしました。いま、これ以上のものを作れと言われても、ほんとうにできません。自分では赤壁編につなげられたのだから、よかったことにし...地這う龍あとがき

  • 地這う龍 五章 その8 東へ

    ※漢水《かんすい》のわたしで、あれほどの恐怖を味わっていたのが嘘のように、船に乗ったひとびとは、穏やかな航路をたのしんでいた。曹操軍はまだ荊州の水軍を把握しきれていないようすで、追ってこない。趙雲は、なみだで腫れた顔を冷まして、真水で顔を洗い、それから劉備の元へ向かった。途中、なつかしい顔と再会した。夏に樊城《はんじょう》で別れた切りになっていた、胡済《こさい》である。地味な衣をまとっているが、その目もさめるような美貌は変わっていなかった。「生きていらしたのですね、よかったです」と、なかなか可愛らしいことをいうな、こいつも成長したなと思っていると、中身はまったく変わっておらず、つづけた。「あなたがたが心配だったようで、軍師は連日徹夜ですよ。倒れるんじゃないかとひやひやしていましたが、今日でそれもおしまい。...地這う龍五章その8東へ

  • 地這う龍 五章 その7 歓喜と涙と

    空に、大きなはやぶさが飛んでいた。くるくると輪をかきながら、飛んでいる。陳到が叫んだ。「明星《みょうじょう》だっ!」あるじの呼びかけに、はやぶさが、きぃぃぃ、と高らかに鳴いた。と、さきほどはあれほど目を凝らしてもまったく見えなかった船団が、東のほうから、靄を破って、凄まじい勢いでこちらへ近づいてくるのがわかった。「船だあっ!」「軍師たちが戻って来たぞ!」「やった、感謝するぞ、孔明、雲長!」感激のあまりか、劉備がめずらしく感極まった声を出す。それに呼応して、葦原に隠れていた民も、岸辺に飛び出して、船に向かって、おおい、おおいと手を振りはじめた。船がやって来たのが曹操軍にも見えたようである。突撃命令がくだるのを待つばかりだった曹操軍が、船からの攻撃を恐れたのか、動きを止めた。船はあっという間に帆に風をはらみつ...地這う龍五章その7歓喜と涙と

  • 地這う龍 五章 その6 空を見上げて

    ※長阪橋を燃やしたのがまずかったらしく、いったんは罠をおそれて退いた曹操軍は、すぐにまた追撃を再開してきた。橋を燃やすということは、むしろ罠などないのだと曹操が看破したためであろう。その点は、張飛を責められない。張飛は張飛で、せいいっぱい時間を稼いだのだ。相手が曹操でなければ、あるいは、もうすこし展開がちがったのかもしれないが。そんなことをかんがえても詮無《せんな》いなと、趙雲はふたたび馬上のひととなりながら、おもう。残っていた手勢は、しつこく曹操軍に追い散らされつづけているうちに、さらに減っていた。逃げに逃げて、いま、漢水のほとりに追い詰められている。ちょうど趙雲たちの北に、漢水《かんすい》は流れていた。夜明けとともに川面に靄が発生し、おかげで劉備たちは守られている格好だ。足元は、馬にとっては戦いづらい...地這う龍五章その6空を見上げて

  • 地這う龍 五章 その5 孔明の不安

    そういえば、劉琦の愛妾を助けに行った胡済《こさい》の姿が、まだ見えない。気になって、孔明は涙ぐんでいる伊籍《いせき》にたずねる。「胡偉度《こいど》を見かけませんでしたか」「ああ、あれなら、桃姫《とうき》の監禁されている部屋に行ったようです」「戻ってくるのが遅すぎます、なにかあったのかもしれない。その部屋に案内していただけませぬか」孔明が言うと、それまで喜びの笑みを浮かべていた伊籍が、ふっと表情を暗くした。「いけませぬな、偉度は、桃姫を恨んでおりますゆえ」「恨む?なぜです」一瞬、桃姫を胡済も気に入っていて、なのに劉琦のものになってしまった、それで恨んでいる、という空想がよぎったが、つぎの伊籍のことばは、思いもかけないものだった。「偉度は桃姫さえいなければ、劉公子の名誉は汚されなかったはずだと言っておりました...地這う龍五章その5孔明の不安

  • 地這う龍 五章 その4 江夏城へ突撃

    ※鄧幹《とうかん》の使者はすっかり怯え切って、まともに左右の足を前に出すことすらできなかった。それでも、なだめたり、脅したりしながら、江夏城の門の前に立たせる。「か、開門!宴より帰って来たぞ」緊張で声が裏返っている。まずいな、と隠れて様子を見ていた孔明はひやひやしたが、場慣れている関羽たちは涼しい顔である。「門さえ開いてしまえば、こちらのものだ」と、関羽は頼もしいことを言った。門の前には、鄧幹の使者と空っぽになった酒甕《さけがめ》の乗った荷車、舞姫や芸人たちがいる。だが、じつのところ酒甕は空っぽなどではなく、中に兵が潜んでいる。また、芸人に関しては、関羽が選りすぐった決死隊が化けた者に変わっていた。そのなかには、武者姿となった胡済《こさい》の姿もある。門が開いた。鄧幹の使者は、門に入るなり、「お、お助けえ...地這う龍五章その4江夏城へ突撃

  • 地這う龍 五章 その3 江夏の事情

    ※「あなたなら、すぐにわたしだと分かってくださると思っておりました」と、大胆におしろいを取りながら、胡済《こさい》は言った。おしろいを取っても、その地肌の抜けるような白さは相変わらず。山猫のような大きな目と、全体の顔の作りのおさなさと愛らしさとが相まって、胡済はやはり、美少女にしか見えない。だが、喉元を見れば、のどぼとけがあるので、きちんと少年だとわかる。舞姫に扮していたときは、うまく首に布を巻いて、誤魔化していたのである。幕舎の一つを借りますよと胡済はいい、しばらくそこで着替えてから、すぐに地味な衣になって戻って来た。「男か、ほんとうに?」まだ疑いのまなざしを向ける孫乾《そんけん》に、孔明はとりなすように言った。「この者の身元は保証しますよ。義陽の胡済です。あざなは偉度《いど》。わたしがあざなを授けまし...地這う龍五章その3江夏の事情

  • 地這う龍 五章 その2 舞姫、踊る

    しばらくすると、野営にいつもより多めの篝火が焚かれ、鄧幹《とうかん》の使者がもってきた大量の酒甕《さけがめ》の蓋があけられた。酒の酔い香がぷうんとあたりに漂い、それと同時に気の利く芸人たちが、それぞれ楽し気な音楽を奏ではじめた。すると、舞姫たちはあどけない少女の顔を一変させ、蠱惑的な舞を披露しはじめる。篝火のした、長袖をひらひらと宙に舞わせて、音楽にぴたっと合わせて踊るさまは、幻想的ですらあった。それまで、関羽らとともに、ぶうぶう不平を言っていた者たちも、舞姫たちの見事な踊りに、見とれ始めている。鄧幹の使者に言い含められているのか、芸人たちはすかさず将兵たちの間に入って、杯に酒をついでまわりはじめた。孔明のところにも芸人がやって来た。一瞬、毒はないかなと疑ったが、鄧幹の使者の平然とした顔色を見て、大丈夫そ...地這う龍五章その2舞姫、踊る

  • 2024年2月の近況報告 その2

    明日はバレンタインデーですが、ほったらかしになっていたカクヨムを退会することに決めました。長いこと放置していたので、読んでくださっていたほとんどの方は「なろう」か、このブログに移動してくださっているかと思いますが……「地這う龍」も最終章に突入しましたし、そろそろ整理するかなあ、と。突然でスミマセン;もしブックマーク等されている方、いらしたら、「なろう」かこのブログに移動していただけると嬉しいです。カクヨムは、修行の場としては、かなり試練の場でしたねー……でもほかのユーザーさんの作品もいろいろ読めましたし、大変お世話にもなりました。ありがとうございました。退会することないじゃん、というご意見もあるかしらん。いやあ、正直なところ、「なろう」でそこそこPVがあるのに、「カクヨム」だと一桁しかPVがないという状況...2024年2月の近況報告その2

  • 地這う龍 五章 その1 宴を前に

    ※江夏《こうか》にいる孔明は、陳到に託されたはやぶさの明星《みょうじょう》の面倒を見ていた。鄧幹《とうかん》とやらの使者のひとりに、ねずみの干したのはないかと尋ねたが、そんなものはない、干し肉でがまんしてくれ、と言われた。そこで、贅沢だなと思いつつ、明星に干し肉を与えることにした。明星は、こんどこそうまそうに肉をつついている。「いつになったらわが君のところへ戻れるのであろうか」ひとりごとをつぶやきつつ、江夏の河岸に目をやる。江夏の港では、船が波に揺られて浮いていた。船乗りの数もじゅうぶんなようだ。江夏太守である劉琦《りゅうき》さえ動かせれば、いつでも出発することができる。しかし、かれはいま、江夏城の奥底に隠され、なぜか名の知られていない土豪の鄧幹が江夏を仕切っている。事情をよく吟味してみれば、関羽が足止め...地這う龍五章その1宴を前に

  • 地這う龍 四章 その18 張飛の咆哮

    ※地平を埋めつくす曹操の兵。何万人いるのだろうかなあ、と張飛はかんがえる。何万いようと、関係ないのだが。それぞれの大将の名を染め抜いた旗がひるがえり、こちらを威嚇しているのが腹が立つ。兵の中央には天蓋があり、その下に、稀代の姦雄・曹操がいるのはまちがいなかった。やつはおれを見ている。おれもやつを見ている。趙雲が引っ掻き回した戦場は、すでに落ち着いていて、いまは耳に痛いような静寂に包まれていた。曹操の兵は、橋を突破せんと集まって来たのだ。しかし、単騎で橋を守る張飛の姿に怖じて、先に進めなくなっている。おそらく、なにか策があるのではと疑っているのにちがいない。しかし実際に、張飛には策があった。橋の背後の木立に兵をひそませ、縄でもって、木立をしきりに揺らさせていたのだ。そうすることで、伏兵があると、曹操側に疑わ...地這う龍四章その18張飛の咆哮

  • 地這う龍 四章 その17 英雄の帰還

    ※趙雲の行く手に、よく顔の似た、大男二人組があらわれた。「おれは鍾晋《しょうしん》だ」「こっちも鍾紳《しょうしん》だ」似たような声で自己紹介する男たちに行く手を阻まれ、趙雲は小さく舌打ちをした。というのも、これまでがんばってくれた馬が、そろそろ限界にきていることがわかったからだ。あまり長くは戦えない。第一、趙雲自身も疲れ始めていた。張郃《ちょうこう》という気の抜けない相手と長く戦いすぎたせいである。あいつさえいなければ、曹洪《そうこう》の首をとれたものを。そしたら、この惨状に一矢報いることもできただろうに。そう思うとむかむかした。大男たちは二手にわかれて、趙雲を右と左で挟撃しようとする。「もうすこしがんばってくれよ」趙雲は、馬の首を軽く撫でてから、一気に動き出した。鍾晋のほうが槍を突きだし、鍾紳のほうは矛...地這う龍四章その17英雄の帰還

  • 地這う龍 四章 その16 いまは地に這うもの

    趙雲もまた、自分めがけてやってくる武者の姿に気づいたようである。雑兵《ぞうひょう》を片付ける手を止めて、振り返る。その返り血を浴びた顔には、人間らしい表情の揺れはない。「貴殿は、平狄将軍《へいてきしょうぐん》の張郃《ちょうこう》どのであったな」混乱の中心にあってなお、声が震えるわけでもなし。その胆力に、張郃はおもわずごくりと唾をのんだ。「そうだ。常山真定《じょうざんしんてい》の趙子龍、久しいな」「先へ急ぐ。そこをどいてもらおう」「たわけたことを!これより先には進ませぬ!その首、土産に置いていくがよい!」言いざま、張郃はぶぅん、と槍で趙雲を薙ぎ払おうとした。だが、趙雲は難なくそれを避ける。張郃は舌打ちしつつ、槍をかまえ直して、今度は首もとめがけて槍で突く。しかし、趙雲は自身の槍で、その攻撃を払った。だが張郃...地這う龍四章その16いまは地に這うもの

  • 地這う龍 四章 その15 対決ふたたび

    ※張郃《ちょうこう》は、目の前にひろがる無残な光景に、いきどおりをおぼえていた。かれは徹底して武将であったから、将兵が傷つくことには慣れている。だが、いま目の前に転がっている死体の数々は、ほとんどが名もなき民衆だ。老親をかばいともに倒れた親子、けんめいに逃げようとして背中から殺されている男、略奪の憂き目にあったうえで殺された女の姿もあれば、子供を腕にしっかりと抱いたまま、息絶えている母親の姿まであった。これが劉備についていった民の末路なのだ。「やつは悪鬼か、民を盾に自分だけ助かろうとは!」苛立ちをこめつつ、のこされた劉備の兵が立ち向かってくるのを、なんなく屠《ほふ》る。劉備の兵たちもまた、曹操軍をこれ以上進ませまいと、必死の攻撃を繰り出してきた。あわれである。十日以上、ほとんどろくに食べていないような兵と...地這う龍四章その15対決ふたたび

  • 地這う龍 四章 その14 囮

    ※夏侯恩《かこうおん》のむくろのそばに、青釭の剣が落ちていた。趙雲がめずらしそうに、それを手に取ってしげしげとながめていたので、夏侯蘭《かこうらん》は言う。「それは夏侯恩が曹操から下賜された宝剣で、青釭《せいこう》の剣というやつだ。鉄でもなんでも、水のように斬ってしまうといわれている」と言いつつ、無念そうな顔をしてたおれている夏侯恩を見下ろす。「この御仁には、過ぎた宝物だったようだな。子龍、それはおまえが持つがいい」「ちょうど俺の剣が刃こぼれしてきたところだ。ありがたく頂戴するとしよう」そういって、趙雲が鞘ごと宝剣を手に入れていると、麋竺《びじく》がやってきた。「おおい、無事か!」と、夏侯蘭と玉蘭たちを見つけて、麋竺は声をはずませた。「なんと、我が妹をたすけてくれたのは、そなたたちであったか!」「子仲《し...地這う龍四章その14囮

  • 地這う龍 四章 その13 夏侯蘭の奮闘

    夏侯蘭《かこうらん》に迷いはなかった。兵をかき分けると、玉蘭《ぎょくらん》たちと夏侯恩《かこうおん》のあいだに滑り込み、夏侯恩の刃を、みずからの剣の刃で受け止めた。がきん、と凄まじい、耳をつんざく音がする。夏侯恩がおどろきに目を見開く。その目線を受けて、夏侯蘭は、にやりと精一杯の意地で笑って見せた。ぎり、ぎり、ぎり、と青釭《せいこう》の剣とやらの刀身の先が、おのれの刃を削っていく音がする。だが夏侯恩の姿勢が、どこかへっぴり腰なのが幸いした。夏侯蘭は力任せに夏侯恩をはじき返すと、すぐさま剣を持ち直し、夏侯恩とその兵士たちの前に立った。弾かれ、倒れた夏侯恩は、怒りで顔を真っ赤に染めて、叫ぶ。「夏侯蘭、きさまっ、裏切るのか!」「もとより、貴様らに力を貸すつもりはなかったさ!」夏侯蘭に手柄を立てさせてやろうという...地這う龍四章その13夏侯蘭の奮闘

  • 地這う龍 四章 その12 再会

    ※「劉備の女房がいるぞ!」だれかがそう叫んだことで、夏侯恩《かこうおん》の軍兵たちの目の色が変わった。それというのも、夏侯蘭《かこうらん》があまり熱心に先導しなかったことと、戦に慣れていない夏侯恩の要領の悪さのせいで、かれらはほかの軽騎兵たちとはちがい、まったく功績らしい功績をあげられていなかったからだ。劉備の妻を捕獲したとなれば、曹操から褒美がもらえる。しかも、さいわいというべきか、女は背後に男の子をかばっていた。「これが阿斗でしょう」と、夏侯恩のかたわらにいる老兵が夏侯恩に耳打ちをしている。かれらには、阿斗がいくつくらいかという正確な情報が届いていなかった。「はて、さきほど馬で逃げた女は何者だろう?」夏侯恩が首をひねるのを、老兵がまた答えた。「侍女ではありませぬか」「左様か。どちらにしろ、劉備の妻子を...地這う龍四章その12再会

  • 2月の近況報告 2024 その1

    いきなりですが、「奇想三国志英華伝」の赤壁編の制作、非常に行き詰っております……結論からいいますと、「地這う龍」のつづきの原稿がありません。楽しみにしてくださっているすべての皆様に謝罪致します……!ほんとうに、情けない。ごめんなさい!「赤壁編は原稿がほぼ出来ているも同然なので楽勝(ドヤァ)!」といった文章を書いたおぼえがあるし……撤回です。なんて恥ずかしいことを書いてしまったのやら……!え?このブログで「飛鏡、天に輝く」という長編を読んだことがある?あれが赤壁編でしょ?と首をかしげてらっしゃる方、いらっしゃるでしょうか……自分もそうだと先月上旬まで信じていました。ほんとうに、なにも疑いなく、この原稿をちょいと直せばいい、「楽勝だ」と。蓋を開けてみたところ、とんでもなかった!(以下、「飛鏡、天に輝く」のおか...2月の近況報告2024その1

  • 地這う龍 四章 その11 身代わり

    麋夫人《びふじん》は、それでも玉蘭《ぎょくらん》と阿瑯《あろう》をこの地に残すことをためらった。だが、そうこうしているうちに、どんどん廃屋に曹操の兵の気配が近づいてきている。「おそらく水を得ようとしているのでしょう。わたくしたちは、なんとでもなりますわ。さあ、行って!」玉蘭は言うと、馬の腹を手で思い切りたたいた。それを合図に、馬は南へ向かって走り出す。とつぜん動き出した馬に食らいつくのが精いっぱいで、麋夫人は玉蘭たちを振り返ることができなかった。『どうか、ご無事で!』そう祈りながら、手綱を持ち、二の腕で必死に阿斗を抱える。するとなんということだろう、背後から、呪わしい曹操兵の声が聞こえてきた。「だれか馬に乗って逃げるぞ!矢を掛けよ!」「いいえ、待ちなさい!その者に矢を掛けるのは、この劉備の妻がゆるしません...地這う龍四章その11身代わり

  • 地這う龍 四章 その10 思わぬ助け

    『だれなの?味方?』怯えつつ、曹操の兵のほうに注意を戻す。すると、曹操の兵も麋夫人《びふじん》の存在に気づいたらしい。人食い鬼のような顔を土塀の向こうからのぞかせて、怒りの形相のまま、麋夫人と少年のところへやってくる。そのときである。曹操の兵のうしろから、にゅっと白い手が伸びた。あっ、と麋夫人が驚く間もなく、その白い手は曹操の兵の髭だらけの口を覆いつくす。つづいて、もう片方の手が、手際よく、男の首筋に短刀を突きつけていた。口をふさがれたまま、男はなにかを叫んだ。だが、ほどなく首筋からすさまじい出血をすると、膝から崩れ落ち、やがて絶命した。あまりの手際のよい一連の展開に、麋夫人は声を上げることもできず、目を見張るしかない。白い手の持ち主が男の背後からあらわれる。いかにも婀娜《あだ》っぽい雰囲気の、短い筒袖の...地這う龍四章その10思わぬ助け

  • 地這う龍 四章 その9 廃屋の麋夫人

    どこか安全なところへ逃げなければ。脚を励まし、引きずり、麋夫人《びふじん》はあたりを見回す。前方に、廃屋があるのがわかった。かろうじて屋根が残っている、ひどいありさまの廃屋だった。だいぶ昔に家主に捨てられたものらしい。『あそこに隠れよう、だれか迎えにきてくれるかもしれない』夜闇のなかを駆けまわるのはおそろしいことであった。だが、朝になってわかった。目隠しになってくれていた闇が消えることも、またおそろしいことなのだと。敵に見つかるわけにはいかない。自分はどうなってもいい。だが、阿斗は、見つかったら、きっと殺される。それだけは避けなければ。廃屋に入っていくと、さいわい、厨房の傍らに残っていた大甕《おおがめ》のなかに雨水がたまっていた。清く甘い水しか飲んでこなかった麋夫人にとっては冒険だったが、のどがあまりに乾...地這う龍四章その9廃屋の麋夫人

  • 地這う龍 四章 その8 彷徨

    ※張飛は虎髯《とらひげ》を風になぶらせつつ、じっと北の方向をにらみつけていた。長阪橋の中央で、騎馬にのり、敵のやってくるのを待っている。朝もやの向こうから、絶えず悲鳴と剣戟が聞こえてくる。みんな死んじまったかな、と頭のすみでかんがえる。かといって、ひるむ張飛ではなかった。たとえ万の曹操軍が押し寄せてきたとしても、この橋をきっと守り、兄者を守り通して見せる。決意を固めたその姿は、神々しいといっていいほど凛としていて、部下たちも、声をかけそびれるほどだった。と、朝もやを突っ切るようにして、こちらに駆けてくる一団がある。見れば、先頭に立っているのは簡雍《かんよう》で、片腕にひどいけがを負っているようだったが、声は元気だった。「おおい、おおい、益徳っ、わたしだ、簡雍だ」「見ればわかるわい、生きておったか」軽口をた...地這う龍四章その8彷徨

  • 地這う龍 四章 その7 北へ

    「うわっ」敵の雑兵たちが、あっけなく大将が討ち取られたのを見て、悲鳴をあげる。趙雲は突き立てた槍を抜くと、「常山真定《じょうざんしんてい》の趙子龍だ、命の惜しくないやつはかかってこい!」そう叫んで、及び腰になった敵へ突っ込んでいった。こうなるともう独断場である。草を刈るように雑兵たちを狩っていく。雑兵とひとくくりに行っても、相手も人間。味方が突如としてあらわれた男に、すさまじい勢いで斃されていくのを見て、ひとり、またひとりとその場から脱落していった。背中を見せる敵には、麋竺《びじく》が容赦なく、お返しとばかりに矢をかける。ほどなく、あたりは落ち着き、血風と砂塵のほか、味方だけが残った。「子龍よ、助かったぞ」「それはこちらの台詞です、よく奥方様をお守りくださいました」趙雲は破顔し、麋竺とたがいの無事をよろこ...地這う龍四章その7北へ

  • 地這う龍 四章 その6 奮戦開始

    ※趙雲は必死に甘夫人と麋夫人、それから阿斗の姿を探し求めた。その名を呼び続け、北へもどりながら、敵に遭遇すると、それを片っ端から蹴散らした。敵とて舐めてかかってきているわけでもない。だが、夫人たちの無事を祈り、ひたすら前へ進まんとする趙雲にかかれば、かれらは障壁にすらならなかった。趙雲の行くところ、まさに死屍累々。加えて大地には、無残な民のしかばねも転がり、あたりは地獄の光景に変わっていた。汗まみれ、血まみれになりながらさらに先を行くと、どこからか趙雲の声に応じて、呼びかけてくる者がいる。だれなのか。もしかして奥方様か、と耳をすますと、あわれな味方の将兵たちのなかにかばわれるようにして倒れていた男が、「子龍、子龍、わたしだっ」と必死に声をあげているのだった。見れば、簡雍《かんよう》である。かれは肩に刀傷を...地這う龍四章その6奮戦開始

  • 地這う龍 四章 その5 劉備の後悔

    ※劉備は陳到らに守られ、けんめいに馬を南へ走らせていた。孔明の作ってくれた地図にある、長阪橋を目指しているのである。どどどど、と馬の蹄の音がつづくが、それがもしかしたら追いついてきた曹操軍の蹄の音ではないかと思う時があり、こころがまったく休まらない。そのうえ、頭の中は、自分を責めることばと、恐怖とでいっぱいである。『こんなことになるのなら、孔明の言うことをもっとよく聞くべきであった!』激しい後悔が胸の中で渦巻いている。唇からは、すまない、すまないという謝罪の言葉を自然と口にしていた。やがて、白々と夜が明けてきた。いまのところ、曹操の軍兵が自分に追いすがってくる気配はない。おそらく、あわれな難民たちが盾になってくれているのだ。曹操軍も、かれらを蹴散らしているがために、なかなか自分に追いつけないでいる。『なん...地這う龍四章その5劉備の後悔

  • 地這う龍 四章 その4 趙雲、見失う

    ※西へ傾きかけた太陽は、ほどなく血に染まった大地を暗く隠していった。視界が悪くなろうと、曹操軍の前進と殺戮が止む気配はない。趙雲はここに孔明がいなくて良かったと、頭の隅で思っていた。もし同行していたら、また虐殺の場に居合わせることになっていただろう。友のこころにあらたな傷がつかずにすんでよかったと、心から思っていた。やがて、難民の行列の後方から、おおぜいの傷ついた人々が押し寄せてきた。それを追うようにして、曹操軍の軽騎兵が迫ってくる。視界が悪すぎた。月の細い光か、あるいは馬車に随行する兵の持つ松明だけが頼りである。どれほど曹操軍に近づかれているのか、音と気配を頼りにする以外にない。距離感がつかめないのだ。甘夫人《かんふじん》と麋夫人《びふじん》を乗せた馬車を警護していた趙雲に、後方を守っていた将が叫んだ。...地這う龍四章その4趙雲、見失う

  • 地這う龍 四章 その3 悲劇のはじまり

    ※秋だというのに太陽はカンカンと照り続けた。日差しを照り返す大地のうえで、乏しい水と食料を分け合いながら、必死に劉備一行は江陵《こうりょう》へ向かっていた。趙雲は、陳到とともに劉備たち一族を守っている。趙雲のそばには、小さめの馬に乗った張著《ちょうちょ》がいて、少年ながら、周りの様子に気を配っていた。孔明が去ってから三日。さすがに、まだ戻ってくる気配はない。江夏までの旅程、それから交渉に使う時間、戻ってくるまでの旅程。それらを計算しても、果たして孔明は間に合うのか。曹操が襄陽《じょうよう》でぐずぐずしているのを祈るばかりである。「子龍さま、あの男がいます」張著がとつぜん群衆のなかの一点を指さした。見れば、いつかの夜、迷子をめぐって口論になった大男である。かれは一人ではなく、背中に、どこから拾ってきたのかと...地這う龍四章その3悲劇のはじまり

  • 地這う龍 四章 その2 江夏の美姫たち

    「一体、何をされているのです、船はどうしました!」怒りで声が震えるが、かまっていられなかった。こうしているあいだにも、劉備たちが曹操に追いつかれてしまっているかもしれないのだ。温雅な孔明が、眉を逆立てて怒鳴りつけんばかりの剣幕なのを見てか、孫乾《そんけん》はしろどもどろになりながら答える。「申し訳ない、面倒が起こってしまってな、わしらでは、にっちもさっちも行かなくなっておったのだ」「面倒とは?劉公子には面会はできたのですか?」「それが、江夏《こうか》に来てから、一度もお会いできておらぬのだ」と、関羽が赤い顔に憔悴した表情を浮かべて言った。「御病気が重くなったとか理由をつけられてしまい、われらは側近に阻まれ、門前払いよ。なんとか粘って、毎日、わし自ら城の門をたたくのだが、相手は一向に姿をあらわさぬ」血の気が...地這う龍四章その2江夏の美姫たち

  • 地這う龍 四章 その1 孔明、急ぐ

    江陵《こうりょう》への隊列からはなれた孔明は、わずかな手勢とともに、めちゃくちゃに馬を走らせた。これほどに馬を急がせるのは、叔父の諸葛玄らとともに豫章《よしょう》が落城したさい、賞金稼ぎどもから逃げたとき以来だった。あのときは、かわせた。今度はどうか。孔明が恐れているのは、曹操からの追撃者がやってくることではない。いくら曹操でも、まだ自分という人間を深く知っているとは思っていない。孔明が恐れているのは、ただひたすら劉備が討ち取られてしまうこと、その一点のみであった。なんとしても急いで劉琦の元へいき、船とともに戻らねばならない。馬は孔明の緊張がうつったのか、けんめいに地を駆けていく。がくがく揺れるし、尻は痛くなるし、小虫が正面から何匹も飛び込んでくるし、目は乾くしで、ろくなことはない。だがそれも、劉備たちの...地這う龍四章その1孔明、急ぐ

  • 地這う龍 三章 その20 孔明、江夏へ

    ※それから数日経っても、関羽は戻ってこなかった。しだいに人々のあいだに疲れが濃く見え始め、なかには離脱する者まであらわれはじめた。土地の豪族たちが同情的だったこともあり、その私兵に襲われることがなかったのが、唯一の幸いだった。難民たちは砂ぼこりにまみれ、少なくなってきた食料をちびちびと口にし、泣き言を言いたくなるのをぐっと我慢している。趙雲は部下たちとともに、かれらを励まし、江陵《こうりょう》へ向かわせたが、その歩みは早くなるどころか、疲れのためにどんどん遅くなっていた。それまで、愚痴の一つもいわず、どころかみなに張りのある声で励ましをつづけていた孔明だったが、あまりに事態が切迫してきているために、とうとう劉備の前に進み出た。「わが君、関羽と孫乾たちになにか起こったにちがいありませぬ。わたくしが江夏《こう...地這う龍三章その20孔明、江夏へ

  • 地這う龍 三章 その19 臥龍の来歴

    それを聞いて、趙雲は急に理解した。孔明は新野《しんや》に招聘《しょうへい》されて、すぐに実務を片付け始めた。優秀だから、天才だから、などと周囲は評したし、本人もそうだというふうに振舞っていた。趙雲も、孔明が飛びぬけて優秀だから、どんな仕事もこなせるのかなと思っていた、どうやらちがうようだ。孔明は、世間のもめ事を解決するさいに、じっさいに実務にたずさわっていたのである。つまり、劉備の軍師になる以前から、すでに経験豊富だった。だからこそ、新野での仕事に迷いがなかったのだ。「それと、豪族たちがわたしに協力的なのは、わたし個人の力ではないよ」「どういうことだ」意外に思って孔明のほうに目を向けると、孔明は肩をすくめた。「わたしに『臥龍』という号を授けた、龐徳公《ほうとくこう》の影響がものをいっているのだ。つくづく、...地這う龍三章その19臥龍の来歴

  • 地這う龍 三章 その18 臥龍先生の評判

    ※関羽が江夏《こうか》へむかってから十日ほどたつが、かれが船を連れてくる気配はまったくなかった。当初は楽観的だった人々も、だんだんじりじりしてきているのが、趙雲にもわかる。難民たちのなかで、いさかいが増えているのだ。食糧や水をめぐるものだったり、歩き方が悪いだのと言ったくだらない原因のもの、赤ん坊がうるさいといったことまで、喧嘩の原因はさまざまだった。それらをこまごまと仲裁しつつ、一方で、難民たちに先行して、行く先の土地の豪族と交渉し、休む場所と水を提供してもらうための交渉をした。孔明がこまかく記載していた、井戸と水脈のありかの地図が、たいへんものを言った。おかげで、時間をあまりかけずに、難民たちは水を得ることができたのである。もちろん、交渉が平易に進まないときもあった。だが、それでも孔明が出てくると、豪...地這う龍三章その18臥龍先生の評判

  • 地這う龍 三章 その17 夏侯蘭、巻き込まれる

    荀攸《じゅんゆう》はすぐに夏侯蘭《かこうらん》の前にあらわれた。本人がすぐにあらわれるとはおもっていなかった夏侯蘭は、司馬仲達の人脈にあらためて感心した。荀攸からすれば、早く読みたい手紙らしい。人払いをしたのち、荀攸は夏侯蘭から受け取った手紙を読む。荀攸は体つきのすらりとした、いかにも上品で清潔な印象の男だった。文官をあらわす冠に、趣味の良い飾りをつけている。身にまとう黒い絹の衣裳は、かれの体つきをよけいに細くみせていた。手紙を読むその目は、あまり明るいものではなかった。「そうか、劉表の死の真相が、これでわかった」荀攸はため息とともにそういうと、やっと真正面から夏侯蘭を見た。その目には同情の色が浮かぶ。司馬仲達は、おれのことまで手紙に書いたのかな?不思議に思いつつ、荀攸のことばを待つ。「夏侯蘭どのといった...地這う龍三章その17夏侯蘭、巻き込まれる

  • 地這う龍 三章 その16 夏侯蘭、ふたたび荊州に

    ※街道にそって、ひたすら南へ向かっていた夏侯蘭《かこうらん》は、いよいよ荊州の境に入ったところで、宿のあるじから、おどろくべき情報を手に入れた。「新野城《しんやじょう》はすっかり廃墟のようになっていますよ。劉備さまが、撤退される際に、火をかけたものですから」「なんだと!戦場になったのか」「手前どもも詳しくはわかりませんが、劉備さまと新野の住民が樊城《はんじょう》へ逃げたあと、火の手があがったようです」「そ、そうか」では、曹操軍による新野城の住民の虐殺はなかった。藍玉《らんぎょく》は、阿瑯《あろう》は無事なのだなとおもって、夏侯蘭はホッとした。恩人たちが炎にまかれて死んだかもしれないなどとなったら、今度こそ立ち直れない。宿を早朝に引き払い、さらに南へ向かう途中で、すでに劉備軍が民をひきいて、樊城を出たという...地這う龍三章その16夏侯蘭、ふたたび荊州に

  • 地這う龍 三章 その15 張郃と舞姫

    外に厠《かわや》があるので、そちらに足を向ける。とはいえ、尿意があったわけではない、気分を変えたかったのだ。夜の涼しい風が、ほてったほほに当たって、心地よい。曹操は末端の兵にまで、襄陽《じょうよう》での略奪を禁じていた。そのかわり、今日に限っては、襄陽城の酒蔵を開け、みなに酒をふるまうことを許していた。あちこちから、兵士たちの楽しんでいる声が聞こえてくる。焚《た》かれた篝火のなかで、深呼吸をくりかえし、さて、そろそろ席に帰らないと罰杯を飲まされることになるなと踵《きびす》を返そうとしたときだった。篝火と襄陽城の柱の間の陰にかくれるように、女がいた。こちらに背を向けて、しょんぼりうなだれている。舞姫のひとりだろうか。派手な衣装と、その流行に合わせて複雑に編み込まれた髪で、玄人女だと知れた。さて、だれかに意地...地這う龍三章その15張郃と舞姫

  • 地這う龍 三章 その14 壮行の宴

    ※張郃《ちょうこう》は満足した。曹操が、いよいよ本腰を入れて劉備の追討にうごいたことが、うれしいのである。『こんどこそ、劉備の首をとって見せる。趙子龍ごときに邪魔をされてなるものか』聞いた話では、劉備たち一行は、民を連れているため、いまだ江陵《こうりょう》にたどり着いていないと聞く。追えば、三日もしないうちに追いつくだろうとのことだった。おそらく、劉備たちは水と食料の確保にも汲々《きゅうきゅう》としていて、心身ともにボロボロになっているだろうが……かまうものかと張郃は思う。ついていった民についても同情はまったくしない。判断をまちがえるから、死ぬ運命になるのだ。本気でそう思っている。出発の前日、壮行会がひらかれた。かつては劉表らが使っていた襄陽城《じょうようじょう》の大広間に、いまは曹操とその腹心たちがずら...地這う龍三章その14壮行の宴

  • ブログ開設6000日記念作品 筆の神は見ている

    趙雲がいま、めったにやらない事務仕事をやっているのは、圧倒的人手不足ゆえにほかならない。それが証拠に、すでに交代の太鼓がドンと鳴ったのに、陳到が席を立たないでいる。あの、家族の元へ帰ることだけが至上命題となっているような男が、それを忘れているほど大量の事務仕事があるのだ。まず、文官をたばねている麋竺が風邪をひいたのが原因だった。それがどんどん移っていき、孫乾、簡雍とひろがって、最終的には関羽にまでたどり着いた。関羽が抜けたことで、荊州の州境の見張りが張飛と劉封だけ、というのが心もとないという劉備のひとことにより、孔明が視察もかねて州境に派遣されたことが決定打。たまりにたまった事務仕事を手の空いているすべての読み書きのできる者がやることになり、趙雲と陳到も動員されている、というわけだ。「軍師はいつもほとんど...ブログ開設6000日記念作品筆の神は見ている

  • 地這う龍 三章 その13 燃える張郃

    ※襄陽城《じょうようじょう》に入るには新野《しんや》と樊城《はんじょう》を経過せねばならない。もはや廃墟と化した新野城を横目に、無人の樊城を過ぎ、ようやく曹操軍は襄陽城へ入った。それまでの道中は、張郃《ちょうこう》にとっては苦々しいものだった。曹操は劉備と諸葛亮とやらの手際をほめていたが、こてんぱんにやられたほうとしては、笑ってなどいられない。とくに張郃は、悔しさがまったく晴れず、朝はだれよりも早く起きては、ひとり槍の鍛錬に励むようになっていた。だれに命じられたわけでもない。ただ、無性に、そうしなければと思ってしまうのだ。燃え盛る新野城で見た、趙子龍のぞっとするような凄惨な笑み。あいつを二度と笑わせない。今度はほえ面をかかせてやる!そんな張郃に付き合う副将の劉青《りゅうせい》は毎朝眠そうで、「ほどほどにし...地這う龍三章その13燃える張郃

  • 2024年1月の近況報告

    早いもので、明日の1月18日で、ブログを開設してから、なんと6000日になります!おおよそ16年と4か月が経過したかたち。途中、まったく更新しなかった期間もあったものの、それでもよく完全にほったらかしにしないで続けられたなあとわれながら思っています。閲覧してくださっているみなさまがいるからこそ、つづけられたものです。みなさま、ほんとうにいままでありがとうございました(*^▽^*)これからもよろしくお願いいたします!ブログ開設6000年記念ということで、明日に短編を更新する予定です。新野城での、趙雲と孔明の、のほほんとした(たぶん)エピソード。どうぞおたのしみにー!設定集のほうも原稿を進めています。これも近々、更新できるかと思います。こちらもあらためてお知らせしますね。※こぼれ話1※おすすめまんがの話をひと...2024年1月の近況報告

  • 地這う龍 三章 その12 江夏への使者

    ※数日後。孔明は江夏《こうか》から戻ってこない使者に見切りをつけ、劉備とともに今後のことを相談し始めた。だれを使者に送るのかで迷っているようすで、夜のたき火のそばで行われたその話し合いは、なかなか終わらない。劉備と孔明のふたりは、ああでもない、こうでもないと意見を戦わせている。そのかたわらで、甘夫人《かんふじん》と麋夫人《びふじん》が、やつれた顔をして座っていた。敷物の上にぺたんと座ったその姿は、髪もほつれ、衣も汚れ、血色もわるい。趙雲は夫人たちの守りとしてかたわらにいたが、やがて、阿斗をあやしていた甘夫人が顔を上げた。「お疲れですか。水でも持って参りましょうか」趙雲は心配になって声をかける。朝から晩まで、ゆっくりした行軍とはいえ、馬車での移動。揺れっぱなしのなかにいては、両夫人ともに、いつ具合が悪くなっ...地這う龍三章その12江夏への使者

  • 地這う龍 三章 その11 苦難の蜜月

    ※「よくありませぬなあ」趙雲の副将・陳到は趙雲のとなりで轡《くつわ》をならべていたが、後方をみやって、ぼやきはじめた。「民の数が増えたように感じます。わが君が劉表の墓参りをしているのを見て、襄陽《じょうよう》の民もいくらかついてきたようですな。それに、思った以上にみなの足が遅い。これでは曹操がその気になれば、あっという間に追いつかれてしまいますぞ」陳到は愚か者ではないので、まわりに民の耳がないことをたしかめてから、ぼやいている。民の行列は、地平の向こうまでつづくように見えた。たしかに、数が増えてしまったようだ。しかも、新野《しんや》から樊城《はんじょう》へ移動したときの元気はなく、みな口数が少ない。襄陽で追い立てられたことで、冷酷な現実が見えてきたのだろう。「たしかに、昨日より民が増えているな」「わが君の...地這う龍三章その11苦難の蜜月

  • 1月16日の更新について

    16日の更新ですが、所用のため午後以降の更新となります。どうぞご了承くださいませーえ?予約投稿がある?そうなんですけれどもねえ、機能を信じてないわけじゃないのですが、やっぱりリアルタイムで動かしたいなー、という欲がありまして……すみません、午後以降に動かしますので、しばらくお待ちくださいましーそうそう、それとブログ開設6000日記念用の短編が出来ました!18日の木曜日に更新します。どうぞ見てやってください(*^-^*)(当面、このブログだけで更新予定です)もちろん、18日は「地這う龍」の連載も休みませんよー。近況報告については、明日か明後日にいたします。こちらも合わせてご覧くださいまし(^^♪ではでは、明日の午後以降にお会いしましょう!牧知花1月16日の更新について

  • 地這う龍 三章 その10 無情の矢の雨

    張允《ちょういん》の甲高いわめき声を合図に、雨あられと矢が降りかかってきた。「いかん!」趙雲は、とっさに劉備の前に立ち、飛んできた矢を盾でかばった。飛んできた矢の何本かが、だん、だんっ、と盾に突き刺さる。一瞬、間が空いた。おそらく張允の兵が矢をつがえなおしているのだろう。兵を立て直さねばとまわりを見れば、将兵たちは手にした盾などで矢を防ぐことができたようすだ。たが、無防備な民は悲惨であった。かれらは大きく悲鳴をあげながら、城門の前から逃げようとしている。荷物は崩れて踏まれ、牛や馬は混乱し、暴れた。親の亡骸をまえに泣く子や、怪我をした家族をけんめいに抱えて逃げようとする者などもあって、冷静な者が落ち着くよう言っても、もはや誰も耳を貸さない。「おのれっ、おなじ荊州の民をなぜ殺すっ!」劉備は、顔を朱にして大音声...地這う龍三章その10無情の矢の雨

  • 地這う龍 三章 その9 襄陽城の門前にて

    ※襄陽《じょうよう》には、普通の旅程の倍の日数をかけて、やっとたどり着いた。民は元気いっぱいだった。守る兵たちも、おなじく士気が高く、馬も飼い葉をたっぷり与えられており、威勢が良い。だが、それでも人数が多すぎた。だれもがけんめいに足を運んだのだが、騎馬なら半分の日数で済む日程が、ほぼ倍になってしまったのだ。しかも大所帯ならではの小さなもめ事も頻発した。趙雲も、その仲裁などに回って神経をとがらせていたため、ふだんの旅よりもずいぶん疲れた。襄陽城が見えてくると、ホッとした。一か月ほどまえに、あの城市を舞台に大立ち回りをした。そのことすらが、夢のように思える。しかし、こてんぱんにされたほうの蔡瑁《さいぼう》からすれば、昨日の悪夢のように感じられる出来事だったろう。大けがを負ってもいるはずで、かれが正常な判断がで...地這う龍三章その9襄陽城の門前にて

  • 地這う龍 三章 その8 あらたな指針

    ※その夜、孔明は大量の紙束をかかえて、劉備の部屋へとやってきた。あいかわらず、その紙束の内容は、趙雲には知らされていない。紙束を孔明は劉備の居室で広げ、熱心に話をはじめた。趙雲は、ふたりが話しこんでいる部屋の外で、じっと話し合いが終わるのを待つ。怪しい奴があたりをうろついている気配もない。夜が更けるにつれ、あたりにどんどん虫の音の大合唱が響くようになってきた。それに紛れて、樊城《はんじょう》城内に寝泊まりする者たちの、いびきが聞こえてくる。趙雲もつられてあくびをしたとき、ようやく両者の話し合いがおわった。「子龍、遅くまですまないな。いま話がおわったよ」孔明に声をかけられ、趙雲は部屋を覗き見る。部屋には、孔明の書いたとおぼしき紙の絵図がひろがっていて、さらに、紙燭《ししょく》のまえに、劉備が満足そうな顔をし...地這う龍三章その8あらたな指針

  • 地這う龍 三章 その7 三兄弟と草鞋

    ※孔明の秘密の作業は、まだつづいていた。邪魔してはいけないので、趙雲は孔明のいる部屋を退出し、劉備の元へ行く。劉備は忙しく立ち働いていた。張飛や関羽といっしょになって、新野《しんや》と樊城《はんじょう》の民のため、炊き出しを手伝ったり、草鞋《わらじ》を編んだり、収穫物を管理するための帳簿を書いたりしている。草鞋を編むことにかけては、劉備の手先の器用さがいかんなく発揮されていた。張飛や関羽のつくる不格好な草鞋を直してやることまでやっているのだ。かれらは楽し気に作業していて、目の下にクマを作りながら一室に籠って懸命に作業している孔明とは対照的だった。趙雲は複雑な思いで、劉備たちをすこしはなれたところから見守っていた。すると、当の劉備が気づいて、たずねてきた。「子龍、軍師はどうしている」「部屋で書き物をつづけて...地這う龍三章その7三兄弟と草鞋

  • 地這う龍 三章 その6 離別

    ※その日のうちに、軟児《なんじ》は孫子礼《そんしれい》と紫紅《しこう》に連れられて樊城《はんじょう》を離れた。軟児は、最初のうちは、父親に会えたとはしゃいでいた。だが、すぐに、大恩人の趙雲と離れなければならない事実に気づいたのだろう。次第にその顔から笑みが消え、口数が少なくなり、涙がちになってきた。趙雲は、なるべく用意できる旅の道具を一式持たせて、軟児とその父母に渡した。両親は恐縮してぺこぺこと頭をさげつづけている。それを見て、軟児は泣きながら、言った。「どうしても長沙《ちょうさ》に行かなくてはいけないの?ここにいてはいけないの?」それは、と趙雲が答えるより先に、孔明がなだめるように言った。「軟児や、子龍はかならずおまえを迎えに行くであろう。それまで良い子にして待っているがいい」「ほんとうですか?」軟児は...地這う龍三章その6離別

  • 地這う龍 三章 その5 父娘の再会

    事件は、紫紅《しこう》が父のお供で襄陽《じょうよう》の市場へ馬を売りにいったときに起こった。彼女が留守をしているあいだに、子礼《しれい》が軟児《なんじ》を壺中《こちゅう》という、貧しい子供に礼儀作法や学問を教えてくれるという塾に預けてしまったのだ。「壺中なんてもの、聴いたことありませんでしたから、びっくりしてしまって。このひとに言って、軟児ちゃんを取り戻すように言ったんです」紫紅のことばを引き継いで、子礼も深いため息をともに言った。「あのときは、ほんとうにどうかしておりました。あの子を手放そうとするなんて……しかし、貧しい暮らしをさせて世に埋もれさせるには惜しい器量の子ですし、毎日きちんと食べられるところで、きちんとした教育を受けられるというのなら、それがいちばん幸せだろうと思ってしまったのです」かれらは...地這う龍三章その5父娘の再会

  • 地這う龍 三章 その4 軟児の父の事情

    「まずは、わたくしの身の上話からさせていただきます」そう言って、軟児の父は、とつとつと語り始めた。もともと荊州の人間ではなく、洛陽《らくよう》の商家の三男坊として生まれた。家は羽振《はぶ》りが良く、黄巾の乱が起こった後も、うまく立ち回って、物資や武器や馬を政府に調達し、大金を稼いだ。「そのころはまだわたくしも、世間知らずの幸せな若者のひとりでした」しょんぼりと子礼が言う。未来のことなどまともに考える必要がないほどに、幸せな青春時代を過ごした。ぼんやりと、家業を継ぐか、兄の手伝いをして各地の商談をまとめる仕事に就くのだろうと思っていた程度。ほどなく、苦労の連続をすることになるだろうとは夢にも思っていなかったという。運命が暗転したのが、かわいがってくれていた父が急死してからだ。老いた父はまだまだ元気であったが...地這う龍三章その4軟児の父の事情

  • 地這う龍 三章 その3 軟児の父、あらわる

    ※晩飯をいっしょにどうかと誘おうと思って、趙雲は、まだ机のまえにかじりついているらしい孔明のもとへ向かう。新野《しんや》の民のことについては、話題にすまいということは、あらかじめ決めていた。じつのところ、新野の民をどうするかの問題については、趙雲自身は、答えをだしかねていた。たしかに、孔明の言うとおりだ。劉備と孔明の主騎である立場からすれば、劉備たち以外にも民を守らなければならないのは困難をきわめる。第一、軍に機動力があったほうがいいに決まっている。だが、一方で、劉備の民への思い入れも知っている。八年ちかく世話をしてきたのだ。深い思い入れができて当然だ。もちろん、それを知っているのは趙雲ばかりではなく、張飛や劉封《りゅうほう》も知っている。だからこそ、新参者である孔明は浮いてしまったのだ。それに、趙雲には...地這う龍三章その3軟児の父、あらわる

  • 地這う龍 三章 その2 孔明の立場

    一方、あの徐州の大虐殺の経験者である孔明のほうは、意外に淡白なところを見せた。「曹操は荊州を手中にいれたのち、江東へも遠征するつもりです。そのため、よほどの抵抗をしないかぎり、いちいち荊州の民を殺して回る手間はしないでしょう。恨みを買えば、それだけ江東に軍を進めた場合、北西から狙われる危険が出てくるのですから。しかし、苛烈なかれの性格からして、抵抗すれば、容赦はしないでしょう。いま、新野《しんや》の民がわれらと別れたほうが、曹操の心証はよい。かれらのためにもなるのです、どうぞご決断を」孔明が迫るのに対し、やり取りを聞いていた張飛と劉封《りゅうほう》が、「兄者は民を守り切るとおっしゃっているのだ、民と兄者のきずなを断ち切ろうとする軍師は冷たい」「そうだ、父上のお気持ちを軍師はわかっておらぬ」と言い出した。劉...地這う龍三章その2孔明の立場

  • 地這う龍 三章 その1 樊城に到着したものの

    ※樊城《はんじょう》の周辺の土地の田畑で、いっせいに収穫作業がおこなわれた。新野《しんや》の民も総出で樊城の民を手伝い、みなでけんめいに汗をかいている。それというのも、曹操軍がやってきた場合、食料を求めて、あたりの田畑から収奪が行われる危険があったためである。それよりは、なじみのある殿様である劉備のため、食料を先に収穫してしまったほうがよい、というのが、みなの一致した意見であった。もちろん、樊城の民からの抵抗がなかったわけではない。かれらからすれば、新野の民が軍勢とともに押し寄せてきたのだ。しかもほとんどが着の身着のままで新野城から出てきたものだったから、樊城の民の世話にならねばだれもが生活が立ち行かない。樊城の民をうまく説得したのが孔明で、民はしぶしぶではあったが、「孔明さまがそうおっしゃるなら」と、新...地這う龍三章その1樊城に到着したものの

  • 地這う龍 二章 その14 徐庶と劉巴

    ※張郃《ちょうこう》は場が解散すると、すぐさま立ち上がり、徐庶を探した。曹仁の周りには人の輪が出来ていて、それぞれねぎらいの言葉をかけあっている。張遼は、そこからすこし離れたところで、やれやれといったふうに、息をついていた。一方で、荀攸《じゅんゆう》をはじめとする文官たちは、襄陽《じょうよう》へ入るまでの段取りを決めるために忙しくうごきだしている。だが、程昱《ていいく》と徐庶だけは、城の柱のかげで、なにやら話し込んでいた。いや、話し込んでいるというような対等なものではない。程昱は、徐庶にむかって、なにやら小言と嫌みを言っているようだった。そこに割り込むのはさすがに気が引けたので、しばらく、張郃は、自身も陰にかくれて、程昱が行ってしまうのを待っていた。ほどなく、程昱が、「まったく、いつまでも困ったものだ」と...地這う龍二章その14徐庶と劉巴

  • 地這う龍 二章 その13 臥龍を知る

    程昱《ていいく》は厳しい顔をして曹操を見つめていたが、当の曹操は、ゆったりと座にかまえたまま、答えた。「たしかに子孝《しこう》(曹仁)らは、玄徳の策にうまうまと引っかかった。とはいえ、策があるやもしれぬと警告をしなかったわしにもいくらか非があろう。わしも油断をしておったのだ。それゆえ、このたびは処罰はせぬ」「しかし」言いつのろうとする程昱のことばを遮《さえぎ》るように、曹操はくりかえした。「処罰はせぬ」「丞相のご寛大なおことば、痛み入りまする」曹仁が言うのにあわせて、張郃《ちょうこう》らも同じことばを唱和した。従兄の心変わりを恐れて、というよりも、早くこの場をおさめて、みなを救いたいと、曹仁が思っているのが、その大きな丸い背中から、ひしひしと感じ取れた。大将というのも、大変な立場だなと張郃は同情しつつ、曹...地這う龍二章その13臥龍を知る

  • 地這う龍 二章 その12 南陽における覇王・曹操

    ※曹操軍に占拠された南陽《なんよう》の宛《えん》は、表面上では落ち着いていた。曹操軍の規律は厳しく、民に乱暴狼藉をはたらこうとするもの、略奪をしようとするものはすぐさま処罰された。そのため、民はいまのところ安心して過ごすことが出来ている。反乱の兆しもなく、きびしい監視下にあるとはいえ、民はふだんどおりの暮らしを取り戻しつつあった。とはいえ、民たちは知り合いと道ですれちがうと、意味ありげに目配せして、互いにかかえている恐怖や不安を無言のまま交わすのが常になっている。たしかに、民の生活だけをみていると、そこには変わらぬ日常がある。だが、曹操軍の兵があちこちを闊歩《かっぽ》している状況にあることに、変わりはない。市場や城市のはずれなどに目を向けると、曹操軍に抵抗したあわれな荊州の土豪たちの首が、異臭をはなちなが...地這う龍二章その12南陽における覇王・曹操

  • 地這う龍 二章 その11 趙雲の憂慮

    「わが君は、みなをどうされるおつもりかな」思わず趙雲がつぶやくと、孔明は樹に背を預けつつ、答えた。「迷わず、民をともに連れて行くとおっしゃるだろう」そんなことをしたら、みんな死ぬぞ、と言いかけて、口をつぐんだ。あまりに突き放した言葉を言いかけたと、すぐに反省する。だいたい、それを口にすることは、劉備に反抗することになりかねない。そこで、あえて民のことを後回しにした表現で孔明に問う。「仮に南へ逃げる……あるいは、要衝(ようしょう)の江陵(こうりょう)を目指すとして、おまえに曹操軍をしのぐ策はあるのか」だが、孔明はすぐには答えなかった。その気持ちは、趙雲には、痛いほどよくわかった。民のことを思えば、どうしても気が重くなる。仮に民を樊城(はんじょう)まで届け、そしてかれらを置いていったとしても、曹操がかれらを虐...地這う龍二章その11趙雲の憂慮

  • 2024年 新年のごあいさつ

    みなさま、あらためまして、あけましておめでとうございます!!本年がみなさまに幸多い年になりますようにー!さっそくですが、今年の抱負(^^♪今年こそは、gooブログ&小説家になろうで、毎日更新を達成したいですv今年は数字をきちんと計算した計画も立てています。この計画が、計画倒れにならないよう、うまくペースを作っていきたいです。そして、「奇想三国志英華伝」のほか、「うさ・ルート」「春に寄す(仮)」も完成させいたいですねー。設定集も充実させたいし、やることいっぱい!がんばりますvさて、近況をば。「地這う龍」を連載中なのですが、よくよく計算してみたところ、三か月ほどで連載が終わるというのはちがっていました;2月のなかばで連載が終わりそうです……早っ!そのあと、甘寧のエピソードの番外編が入り、赤壁編がはじまるわけで...2024年新年のごあいさつ

  • 地這う龍 二章 その10 ひとときの休息

    孔明は皆の輪から少し離れたところにいて、平素のとおり、民や劉備とその家族の様子に気を配っている。劉備の家族にしても、孔明の策のおかげで樊城《はんじょう》へ逃げ込める目途がたったということで、夫人たちを中心に、明るい顔をして木陰で憩《いこ》っていた。阿斗は生母の甘夫人《かんふじん》の胸の中で、すやすやと眠っている。見張りも万全に配置しているし、曹操の兵が追撃してくることはなかろうと思い、趙雲は自分もまた、手近なところにあった 木陰《こかげ》にぺたりと座り込んだ。さすがに疲れが出始めている。徹夜をしたうえに、激しい戦闘を行ったのだ。まだ頭が興奮しているから、倒れ込むようなことはないが、いま休んでおかないと、劉備たちを守れない。頭上を行くそよ風が木々を揺らす。元気な子供たちが、草むらのバッタを追いかけて遊んでい...地這う龍二章その10ひとときの休息

  • 地這う龍 二章 その9 劉備軍の喜び

    ※趙雲が樊城《はんじょう》へ向かう劉備の一行に合流できたのは、太陽が空の真ん中にきたころであった。ほぼ同着で、さんざんに曹操軍を打ち負かしてきた張飛と関羽も追いついてきた。趙雲の白銀の鎧は煤《すす》けて灰色に変わり、張飛と関羽もそれぞれ跳ね返った泥だらけ。しかし、お互いの顔は、どれも晴れ晴れとしていた。これで時間が稼げる。生きることが出来るのだ。その喜びに、たがいの顔が明るくなっていた。「兄者、兄者っ!味方にほとんど損害なく帰ってこられたぞっ」よほど嬉しいらしく、子供が無邪気に母親に駆け寄るように、張飛は先頭を行く劉備に駆け寄っていく。その様子を見て、家財道具を抱えて樊城を目指している新野の民衆も、わあっと快哉《かいさい》をあげた。ひとびとの万歳の声を浴びつつ、張飛はたずねる。「それもこれも軍師のおかげだ...地這う龍二章その9劉備軍の喜び

  • 地這う龍 二章 その8 初対戦のゆくえ

    趙雲の槍が、ツバメのような速さでひゅんっ、と空を裂き、張郃《ちょうこう》の胴をえぐろうとしてきた。張郃は思い切りのけぞって、刃《やいば》をかわした。馬から転げ落ちそうになるが、なんとか内ももに力を込めて、こらえる。態勢を整えようとした刹那、その視界に、趙雲の胴体が見えた。趙雲は大胆な攻撃をしたがゆえに、胴体ががら空きになったのだ。いまだ!張郃は、すでに激しい打ち合いで痺れがきている手を励ましつつ、趙雲の胴めがけて槍を突き立てた。だが、その渾身の一撃は、がん、という無情な金属音とともに跳ね返された。趙雲は、攻撃を見切っていたようだ。一瞬、間近に見える趙雲の端正な顔が、歪んだように見えた。いや、歪んだのではない。趙雲の表情の正体を知り、張郃はぞくっと背筋をふるわせた。かれは笑っていた。虐殺の喜びに笑っているの...地這う龍二章その8初対戦のゆくえ

  • 地這う龍 二章 その7 趙雲対張郃、初対戦

    たしかに、北の門は火の手が回っていなかった。だからこそ、さぞかし兵が殺到しているかと思いきや、奇妙に静かであった。『なんだ?』前方に、一騎の武者がいる。ただならぬものを感じ、張郃《ちょうこう》は馬を止めた。それに合わせて、兵卒たち、部将たちも足を止めて、その武者を見る。赤毛の馬に乗ったその男は、ちょうど張郃らに背を向けて立っていた。「何をしている!邪魔だっ!」短気な劉青《りゅうせい》が叫んで、男に突っかかろうとしたが、張郃は手ぶりで制止した。おれは、まだ夢をみているのだろうか。背中を向けているその男に、ひどい既視感があった。しなやかそうな体躯の、広い背中の男。官渡の戦いから八年の歳月が過ぎたが、ほとんどかわっていないその背中は、鬼火のような炎のなか、ぼおっと浮かび上がっていた。男の手には槍。穂先は血にまみ...地這う龍二章その7趙雲対張郃、初対戦

  • 地這う龍 二章 その6 不吉な目覚め

    ※夜更けすぎ、だれもが寝静まったころだった。焦げ臭さがあたりに充満し始めてから、張郃《ちょうこう》は目を覚ました。悪態をつきつつ上半身を起こすと、張郃の寝台のそばで休んでいた劉青《りゅうせい》が、あるじが起きたのに気づいて、言った。「小火《ぼや》ではありませぬか。誰かが竈《かまど》の始末をまちがえたのでしょう」「困ったやつらだな」昼間の行軍の疲れもあって、そのまま眠ってしまおうかとも思った張郃だが、そうして迷っているあいだにも、きな臭さは増してくる。だれが小火を起こしたにしろ、叱りつけてやれねばならぬと、張郃は寝台から抜け出した。小火だったらそれでいい。ついでに厠《かわや》にでも行っておけば、朝にすっきり目覚められるだろうと思ったのだ。まさに寝所を出ようとしたとき、劉白《りゅうはく》が飛び込んできた。「儁...地這う龍二章その6不吉な目覚め

  • 地這う龍 二章 その5 張郃の想い

    ※許褚《きょちょ》が劉備の策にかかって、けがを負ったという話を聞いて、曹仁は、先へ進むか、あるいは戻るかと悩みはじめた。そこへ新野城《しんやじょう》へ派遣していた斥候兵《せっこうへい》が戻ってきた。新野が、もぬけの殻になっているというのだ。「逃げられたか」悔しそうに曹仁がうめく。だが、さすがに優秀な曹仁だけあり、切り替えも早かった。張郃《ちょうこう》ら諸将の顔を見回すと、はっきりした声で言った。「いまのありさまで劉備から攻撃されたらかなわぬ。ともかく今日は、新野を押さえることにしよう」「劉備を追撃せずともよいのですか」気の逸《はや》る張郃がたずねると、曹仁は首を横に振った。「まずは負傷兵を手当てするのが先だ。それにわれらには土地勘がない。真っ暗闇のなか劉備を追撃するのは不利だ。これ以上、どんな罠があるかわ...地這う龍二章その5張郃の想い

  • 地這う龍 二章 その4 崖の上の策士

    張郃《ちょうこう》も焦《じ》れてきていた。夕刻には新野城《しんやじょう》に雪崩《なだれ》れ込み、劉備を討ち取ってくれようと意気込んでいたのに、やる気を削《そ》がれたかたちである。おのれのからだを見下ろし、指先を見る。指先の線がはっきり見えなくなるほどに、日が落ちてきた。「おい、そろそろ松明の用意をさせろ」張郃が命じると、劉白《りゅうはく》と劉青《りゅうせい》が、それぞれの部隊長に命令をするため、下がっていった。前方を行く部隊も明かりをともし始めた。と、そのときである。わあっと鬨《とき》の声が上がったかと思うと、地鳴りがはじまった。『なんだ?』仰天していると、つづいて、大きな雷が落ちたようなすさまじい轟音が、あたりに響き渡った。地面が揺れ、前方から砂嵐が押し寄せてくる。「地震か!」馬が高くいななき、たたらを...地這う龍二章その4崖の上の策士

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