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2011/01/21

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  • ハラカルラ 第55回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第50回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第55回水無瀬の話から朱と黒は水無瀬に賛同し、ハラカルラを守ろうとしているということ。朱と黒もハラカルラを想っているのだろう。「ちなみに訊くが青はどうなのか?」水無瀬と雄哉が青の守り人とここを訪れた日があった。歴代にそんなことは無かった。それに三人もの守り人がこの穴に入ることなどなかった。「あ、青とはそんな話はしませんでした。先日初めてお会いしただけで、どんな方かも分かりませんでしたので。でもとても良い方のようでしたから、ちょっと機を逸してしまったかなという感じはもっていますが」それに長に何も相談しないまま話していいはずはない。「吾からの助言としては青には...ハラカルラ第55回

  • ハラカルラ 第54回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第50回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第54回それにしてもこの白烏、こうして話してみると、もしかしたら黒烏より話がしやすいのかもしれない。「つかぬことをお伺いしますが」「鳴海は質問が多い」「あ・・・」勘違いだったのだろうか。へそを曲げてしまっただろうか。「何をそんなに気にしておるのか」「色々と・・・」「水さえ宥めておればいいだけの話だろうが」「まぁ、そうなんですけど」「まぁいい。そんな鳴海も魚は受け入れたのだろうからな、なんだ言うてみぃ」有難うございます、と言って疑問を投げかけた。それは最初の青門の出来事以降にハラカルラを荒らした者が居たのかどうかということだった。唐突の質問に白烏が一瞬、水無...ハラカルラ第54回

  • ハラカルラ 第53回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第50回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第53回「・・・何年、何十年と研究を重ねてきたと思っているのかっ」それが何だというのだ。「どれだけの金をつぎ込み、大学に通わせ大学院に行かせ研究をさせ。村にも研究施設を建てた。それを全て棒に振れというのか!」研究施設といっても村の金で建てたのだ、ご立派なものではなくプレハブを建て、手が出せる程度の研究機器を揃えたくらいのものである。だがそれでも村にとっては大出費になる。「白門の、ハラカルラを金で計るでない」二枚貝を使って終貝がないかを見ると次に質の悪いものが入っていないかを見、そして今は今日烏から教えられたハラカルラに歪みが出ていないかを見ている。その道具...ハラカルラ第53回

  • ハラカルラ 第52回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第50回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第52回雄哉がピロティで朱門の穴を出たところに座っている。そこへ青門の守り人が穴から姿を現した。「お早うございます、わざわざすみません」「いや・・・話って」雄哉に腰を上げる様子が見られない。青門の守り人が歩を出す。五歩六歩と雄哉に近づいていく。「お話があるのは俺じゃなくて」雄哉が青門の守り人を指さしたかと思われたが、その指をほんの少し横にずらした。どういうことだと顔をしかめた青門の守り人がゆっくりと振り返る。「く、黒門」水無瀬は黒烏の文句を後頭部に受けながら、烏たちの居る穴に入って待機をしていた。そして雄哉の声で見つからないように出てきたということである。...ハラカルラ第52回

  • ハラカルラ 第51回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第50回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第51回「くっそ、見えないなぁ」水鏡の前で白烏と雄哉が向かい合って座っているが、雄哉に答えたのは黒烏である。「仕方が無かろう、本来ならこちらに来る穴さえくぐれなかったのじゃからな」「もっとパワー注入してくれたらよかったのに」「甘えるでないわ。才能が無ければ努力と根性で補え」「ちぇっ」水無瀬は前に教えられ損ねた終貝である二枚貝で、死んでしまった貝のありかを見つけるやり方を教えられ、これまたすぐに習得でき、もう一組の二枚貝と同じようにこまめに見るようにと言われた。黒烏と雄哉の会話を聞いていてふと考え付いたことがある。「ねぇ、烏さん。俺の力を雄哉に分けるってこと...ハラカルラ第51回

  • ハラカルラ 第50回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第40回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第50回朱門の提案は、白門と対峙するに朱門だけ黒門だけというのは、時間という不要なリスクが出て来てしまう。互いに手を組まないかというものだった。ハラカルラのために動くのだ、互いが張り合っていても時間がかかるだけ。一日でも早く白門を止めなければならない。考える様子を見せている黒門の長。もう一押しである。「そちらも守り人が居なく困っているだろう」黒門の長が何のことだと少し下がっていた顔を上げる。「白門のことが解決した暁には、この戸田君を黒門に迎え入れるのはどうか」「どういうことだ」「こちらとしても手放したくはないのだが、それ以上早急に白門を止めたいということ。...ハラカルラ第50回

  • ハラカルラ 第49回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第40回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第49回農地沿いの道路にワハハおじさんが車を停止させると三人が車を降りた。続いていた二台目の助手席からもおっさんが降り、後部座席からは長と雄哉が車を降りる。他の車からも三人が降りてきて運転手が町中のパーキングに車を走らせて行く。この道路にはバスも走っているだろうから、交通の妨げをするわけにはいかない。「ここか」山を見ている長の隣に立ったキリが説明をする。「あの山の中腹です。裾の村が煩そうなんで車では入りずらいんです。少々歩かねばなりませんが」「ああ、かまわん。まだ大爺の歳にはなってないからな」山の手前に見える農地にはまだ稲の苗も見えない。あと少しすれば農地...ハラカルラ第49回

  • ハラカルラ 第48回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第40回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第48回畑仕事をしながらおっさんたちが話している。「長の話じゃ、朱門のしたことを許してくれたということだが、結局この先をどうするか水無瀬君はまだ決めていないようだ。っていうか、長に何も言わなかったらしい」「そうか・・・」「まぁそうだろう、朱門に居なくてはならない理由なんてないし、元の生活に戻るに戻れないってとこもあるからな」「あの戸田君ってのは?」「戸田君も戻れないだろう、水無瀬君と一緒に逃げたんだから。それに白門の考えていた話を知っているんだ、白門から追われるだろう」「ああ、あの話な、とんでもないことを考えやがって」「若い者たちはその話を知っているのか?...ハラカルラ第48回

  • ハラカルラ 第47回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第40回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第47回雄哉から目を転じて助手席を見る。俯いているライの僅かな横顔が見える。「・・・ライ、起きてる?」「うん」「・・・ライが謝ることなんてない。でもライはごめんって言ってくれた。それを受け取らないって言っちゃいけないと思うんだ。だから、ライが謝ってくれたことは受け取る」シキミが頬を緩ませる。「・・・言ってはない。書いただけ。だから・・・ごめん」「うん、ちゃんと聞いた。でもさっきも言ったけどライが謝ることじゃない。謝んなきゃなんないのは俺の方だ」短絡過ぎた。後悔してももう戻れないと思っていた。それなのに手を差し伸べてくれた。「何も考えず言い過ぎた、それに言葉...ハラカルラ第47回

  • ハラカルラ 第46回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第40回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第46回なんとか渓流を渡り切った水無瀬の尻と胸辺りに縄が巻かれ、縄を持ちながら走って登れと言われた。え?っと思う間もなく縄が前に引っ張られる。このまま足を止めていると完全にこけてしまう。必死で足を動かす。後ろには新緑がついている。遅れて渓流を渡って来た雄哉も同じように縄を巻かれ後ろには稲也がついた。その横をシキミが走り抜ける。「うそ、早っ」ライとナギ、他六人で岩から縄をほどいていく。それを持って岩を飛び越え渓流を渡る。同時に山側でも木に括られていた縄がほどかれていく。証拠品は置いていくわけにはいかない。「くっそ重てぇなぁ」水無瀬と雄哉の身体を巻き付けた縄を...ハラカルラ第46回

  • ハラカルラ 第45回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第40回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第45回新緑が後方の足音に耳を澄ませながら辺りも見ずに走る。目はナギだけを見ている。あと少しでナギの下に着くというときにナギの手がストップと合図を出し、もう一方の手で方向を示した。示した方向から敵が来ているということである。やはり水無瀬達の足に付き合ってしまっていては思いのほか遅れを取る。新緑の足が止まり後ろに手でストップをかけ家の陰に身を隠す、後ろを見ることは無い。ライと稲也が水無瀬と雄哉を見ているのだから、その二人の心配は無用である。怒号が聞こえてきた。「勝手な事すんじゃねー!」ガギっという音が響く。新緑が首をひねる。忍刀で打ち合っている音ではない、そ...ハラカルラ第45回

  • ハラカルラ 第44回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第40回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第44回「おい、畦を車が走ってくる!」村では見張りに立っていた者が大声で叫び出し、見回っていた者たちが集まって来た。「水無瀬を移動させろ!隠せ!」『水無瀬君移動、隠す』すぐに新緑がラインを入れる。『了解』「行きます」ライが誰よりも早く地を蹴り、その後をシキミや他の者たちが続く。渓流側でもキリを先頭にモニターのあった家に足を急がせている。ライは焦っていた。水無瀬を確認した後、シキミに願い出ていたがそれが通らなかったからである。『また場所を移動させられてはまた一からとなります。このまま見させていて下さい、お願いします!』だがそれは通すことの出来ない話。一人残す...ハラカルラ第44回

  • ハラカルラ 第43回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第40回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第43回八時を越した。既に村の外は月明かりだけになっていることだろう。現時点で黒門の動きはまだない。『山側渓流側、可能であるなら数人入って水無瀬君の位置を特定してほしい。正面側は村の見張りが立っていて簡単に入り込めそうにありません』『了解』と、山側、渓流側からラインに返事が入った。「かなり警戒してますね」正面側から見て村の連中が何人もうろうろとしている。「黒門の件があったからな、当分この状態は続くだろう」「無暗に村のどこかから入るのも危ないかもしれません、一旦引いてあっちの連絡を待ちますか?」必ず正面から入らなくてはならないわけではない。村は木々に囲われて...ハラカルラ第43回

  • ハラカルラ 第42回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第40回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第42回「渓流側が先に着く。そんな青ざめた顔してんなよ、ナギがお前の気持ちに共鳴したらどうすんだ。渓流の中、足滑らしたりするかもしれないだろ」双子に限らず三つ子にしてもそうだが、離れていても互いの気持ちが通じるということが間々ある。二卵性とはいえライとナギも双子であるし、ナギの気持ちを察知することは常ではないにしてもライとて経験がある。「・・・分かってる」「おっしゃー、ライ、とばしてやる!体ほぐしとけ!」若い者五人が乗った車のアクセルが踏まれ、シキミの運転する車をぶち抜いて走る。運転しているのは茸一郎である、前回も来ているので道は覚えている。「あんのバカヤ...ハラカルラ第42回

  • ハラカルラ 第41回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第40回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第41回夕飯を済ませたが、雄哉がそっぽを向いて座っている。話しかけてくるなということだろう。戸の外から声がかかってきた。「雄哉、ちょっと」広瀬の声である。雄哉が部屋を出て行くと外に出たようで玄関の戸が閉まる音がした。「監視が居なくなっていいのかよ」だからと言ってここから出ても、きっと玄関の外に誰か立っているのだろう、黒門の時のことを考えるとそうとしか考えられない。黒門の在り方は全てにおいてというところで賛成できたものではなかったが、この白門は最低だ。たしかに人間というものは魚介を生でも煮ても焼いても食べ、エキスにもしている。サプリとして気軽に飲んでもいる。...ハラカルラ第41回

  • ハラカルラ 第40回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第30回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第40回ワハハおじさんの運転の元、助手席でモヤがジッパーを開け中のメモを出す。「どんな返事だと思う?」「その言い方って何ですか?え?〇か×かじゃなかったんですか?」後部座席から新緑が訊く。「モヤさん、気を持たせるようなことを言わないでくださいよ、どうだったんですか?」これも後部座席からである。後部座席の二人が前屈みになり助手席を見ている。ワハハおじさんのハンドルを握る手に力が入る。挟み込んだやり方が失敗したのだろうか、いや、そうであったのならば部屋の中に落ちたはずであって、あんな風に外側に見えるような位置に残ってはいなかったはず。「くっ、悪い悪い。メモに残...ハラカルラ第40回

  • ハラカルラ 第39回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第30回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第39回ワハハおじさんに続いてモヤと新緑が話す。「俺も新緑も見回りと思われる男連れしか見かけなかった。家の明かりもどこも灯っていなかったな」ということは、ワハハおじさんたちの担当した場所に怪しい場所は一か所だけということになる。それはモニターの置かれていた家。モヤから目配せを受け次にキリたちが話す。キリが泉水に目配せをする。「こちらもナギと二人で回りましたが、見回りと思われるおっさん連れ一組を見ただけです。その二人がモヤさんたちの方に行ったので、多分同じ二人連れを見たのではないでしょうか」「村の中のあちこちを見回りが歩いているのか。家の明かりはどうだった」...ハラカルラ第39回

  • ハラカルラ 第38回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第30回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第38回キリが河原に上がった。泉水とナギがそれに続く。「ここは?」「下見した渓流釣りの場所だ、方向的にまだこの先になるがそろそろ人家があるかもしれない。普通の村ならなんてことはないが、もし黒門が関係している村なら気をつけなくちゃならん。下手に河原の砂利一つ音を立てても渓流の音と聞き分けるかもしれん」「分かりました」二人の声が重なる。「よし、では進む」山の上まで来た。そこから渓流を挟んだ向こう側が見える。「ぽつぽつ明かりが見えますね。ここから見える範囲で五軒ってとこですか」「あそこが今回の村ってことですよね?」「ああ、間違いない」「どうします?ここから慎重に...ハラカルラ第38回

  • ハラカルラ 第37回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第30回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第37回「ほぅー」煉炭から渡された地図を片手にワハハおじさんが目の前の景色を目にしている。「あの山の裾野か」今回も相棒はモヤである。そしてもう一台の運転手は前回とは別人であるが、相棒は前回と同じくキリである。今回も前回同様、互いに別行動をとっている。「黒門の村のように山の中に入らなくてもよさそうですね。けど・・・やはり村ですかね」黒門の村は山の裾野の村を通り越して山の中腹辺りにあった。だが白門は山の裾野の村。裾野であるが故、町とそんなに離れていなく、村と町との区切りと言えばこの道路になる。道路の町側の反対には田んぼが広がっていて、その先、山の裾野に白門の村...ハラカルラ第37回

  • ハラカルラ 第36回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第30回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第36回「やぁ、俺をお呼びかな?」雄哉が広世を連れてきた。広世が水無瀬の前に座り、当の雄哉は水無瀬の後ろで少し離れた所に座っていて部屋から出る様子はない。「俺はいつまでここに縛られなきゃいけないんですか」「うーん、いつまでってことは無いんだけどね、取り敢えず君が落ち着いてくれるまでってとこかな?」「落ち着くも何も、俺、暴れもしてないし逃げようともしてませんよね。大体、どうしてここに縛られているかも分からない」「ああ、言い方が悪かったかな。それじゃあ言い方を変えよう。君が俺たちを受け入れてくれるようになれば、ってことで理解してもらえるかな?」「理解?理解も何...ハラカルラ第36回

  • ハラカルラ 第35回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第30回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第35回「なー、水無ちゃん、いい加減に機嫌治してよー」「別に悪くしてない」広世はもうここに居ない。結局、水無瀬にしてみれば黒門から白門に移ったというだけだった。白門は水無瀬をここから出す気はないらしい。「悪くしてないんだったらどうして俺に背中向けてんの。大体、ずっと着拒してた水無ちゃんが悪いんだろ。ラインの返事も何あれ、実家で親孝行って嘘並べて」“嘘”と言われてしまった。確かに嘘を書いた。嘘をつかれて怒りまくっていた自分なのに、その自分が雄哉に嘘をついていた。何を言い訳してもそれは言い訳にしかならない、身をもって知っている。「ごめん、そこは謝る」“謝る”長...ハラカルラ第35回

  • ハラカルラ 第34回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第30回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第34回ピピピという音が鳴った。「・・・ん」「・・・どしたの?」煉炭の二人が目をこすって工作室の長方形の机でうつ伏せていた顔を上げる。「あ・・・GPSが反応した」煉がレシーバーのマークボタンを押す。「へ・・・。あ、やった!ハラカルラを通過しても作動できたってことだよね」「だよね。でもナギが帰ってからでないと・・・」「うん、言い切れないね」ナギが操作している機械と照らし合わせてみないと、間違いなく作動しているかとは言い切れない。水無瀬からのメモを受け取った煉炭。そのあとに水無瀬にお返事のメモを書いたのだが、その時にUSBスティックに手を加えた。単なる追跡機だ...ハラカルラ第34回

  • ハラカルラ 第33回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第30回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第33回烏たちと話していた時に思い出せなかったことを思い出そうとする。『水無瀬君にも強制はしたくなかった』『あるがままを見て選んでほしかった』その前だ、その前に何と言っていた長は。「うー・・・」頭を掻きむしるがどこにも記憶が残っていない。「うん?あれ?」他のことが頭に浮かんだ。「そう言えば、長・・・ずっと水の世界とかって言ってたのに、あの時ハラカルラって言ってた」それに守り人とも。ずっとその単語は言っていなかったのに。「なんでだ・・・」その単語を知っていた、知っていて使わなかった。「そういえば」水無瀬がライたちの村に向かった時、ワハハおじさんが運転をしてい...ハラカルラ第33回

  • ハラカルラ 第32回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第30回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第32回なにか間違えたことを言っただろうか。「朱の守り人は今もだがもう長く来ておらん。最後に見た時が・・・おい、いくつだったかのぉ?」「ああ、ある日突然来なくなったな。そうさな・・・七十の歳を越したくらいだったか、あれからもう六十年近く経つのではないか?」そうであれば生きていて百三十歳くらい。きっと生きていないだろう。「光霊は来なかったんですか?」「言っておっただろう、光霊は与えられてその後二度の異変のあとに消滅すると」「朱の守り人が来なくなった頃・・・その数年前か、光霊を与えたのちの二度目の異変があった」だから亡くなっても光霊は烏の元に来なかった。だが光...ハラカルラ第32回

  • ハラカルラ 第31回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第30回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第31回「ったく、ナギもうちの煉炭も・・・」ワハハおじさんに出来ることは、身を隠しながら目を皿にして辺りを見張ることだけであった。ナギが水から顔を出した。目の前に机が見える。坂を上がって行き引き出しを見る。引き出しに袋は挟まっていない。そっと引き出しを開けるとジッパー付きの袋が中に納まっている。その上から触ってみると中にUSBスティックが入っているのが手の感触から伝わってくる。水無瀬はジッパー付きの袋に気付いて引き出しを開けた。引き出しの中にUSBスティックがあるのに気付いた。そしてそのUSBスティックをジッパー付きの袋にしまった。ここまでは煉炭の考えた通...ハラカルラ第31回

  • ハラカルラ 第30回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第20回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第30回ライたちのことを考えるとまた腹が立ってくるに違いない。いま烏と話していて少しは気が紛れた。別のことを考えよう。「別のことってなぁ・・・」頭に何か思い浮かべようとするが、すぐにさっきのライの顔が思い浮かぶ。キツネ面の下の表情は目だけで想像がつく。(ちょっとキツかったかな)いや、何を言ってるんだ、騙していたのは向こうの方で・・・。「あー、また考えてる・・・」烏は一年前と言っていた。二十年前は無理としても一年前なら記憶が抜けているところがあるかもしれないが、それでもいくらかは思い出せる。そちらに考えをシフトしよう。「一年前っていったら・・・」すぐに矢島と...ハラカルラ第30回

  • ハラカルラ 第29回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第20回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第29回ナギと練炭の二人が戻ってくるとまだ口論は続いていた。もう深夜を過ぎあと何時間かで明け方近くになろうとしているのに。人垣を押しのけてナギが中に入って行く。その後ろを煉炭がついて行こうとして首根っこを取られた。「あんたたち、こんな所で何してん?寝てるんやなかったんか?」「ひぇ・・・」「母ちゃん・・・」ナギがワハハおじさんの横に立つ。「煉炭がしたことがあります、長たちに話していいですか」真っ直ぐに前を向き長を見ながら言っているが、その声は横に立つワハハおじさんにしか聞こえていない。「煉炭が?」腕を組んだまま、こちらもまた長や爺に顔を向けている。「水無瀬と...ハラカルラ第29回

  • ハラカルラ 第28回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第20回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第28回顔を元の位置、腕に顎を乗せる。先に見える木々や山々に目を転じる。木々は山々は、水無瀬に何も言ってこない。それでもいい。それがあるべき姿なのだから。(力を抜いて・・・)脱力して肩の力を抜く。あるがままだけを見る。(あ・・・)水無瀬の目にハラカルラが見える。重なって見えていた木々も山も徐々に見えなくなっていく。魚たちが泳いでいる。藻が水にたゆたっている。(そうだった、気を抜いたり力を抜いたりしてボォッとした時に見えてたんだった)よく見ると水無瀬のアパートで見ていた風景と少し違う。岩が違うと言っていいだろうか。村から黒の穴に行く時は岩を目印にしていた。戻...ハラカルラ第28回

  • ハラカルラ 第27回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第20回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第27回「今回は俺がいましたが、その前の三度目の時にはここはどうしていたんですか?」「向こうで鳴海がしていたことが目に入ったように、水が落ち着いていくのが見えておったからな、誰なとが宥めておったのだろう」「でも烏さんたちの居ない間にここで誰も見かけませんでしたけど」「入って来ようとした時に鳴海が居ったからだろう」「守り人のやる気も昔と比べて薄れてきておるしな。来んかったのかもしれんし、それは分からん」白烏が水鏡に羽を伸ばしくるくると回しながら言った。「まぁ矢島はようやってくれておったからな。多分以前は全て矢島だろうて」矢島の名前が出た。矢島の方に話を持って...ハラカルラ第27回

  • ハラカルラ 第26回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第20回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第26回「そんなことって、兄心だろうが」まだ頭頂部を押さえ涙目になって言うが、それは禁句だろと思う水無瀬がこの兄妹喧嘩に口を出すつもりはない。ナギが踵を返し台所に戻って行った。まだ腹を立てているのだろう、盆をテーブルに投げた音が聞こえ、その盆がグワングワンと回っている音が聞こえる。「大丈夫か?」水無瀬がまだ突っ伏しているライを覗き込む。「絶対タンコブできる」「冷やした方がいいな」水無瀬が立ち上がろうとした時、不気味な音がした。ジョキンと。え?っと思ったのも一瞬。ライの後ろにナギが立っていて片手にハサミ、もう一方には切られたライの毛の束が握られている。「ええ...ハラカルラ第26回

  • ハラカルラ 第25回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第20回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第25回今日も布団が敷かれていた。朝起きた時、勝手に押入れを開けるのは失礼かと思い部屋の隅に畳んでおいたが、その布団が敷かれていた。エアコンもつけられている。昨日と同じようにリモコンと枕をどけると、布団の上にゴロンと寝転ぶ。「俺は烏に何を訊こうと思ってんだ?」矢島のことだということは決まっている。だが矢島の何を訊こうと思っているのか。烏は水見という人のことを、どこの門の人間かということを覚えていなかった。「言ったのは白烏だけど多分黒烏もそうだろうし」水見がどこの者か黒烏に訊いたが質問オーバーと言われた。水がざわつくなどと言っていたが、あれはきっと記憶が薄い...ハラカルラ第25回

  • ハラカルラ 第24回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第20回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第24回水見という人間の居た門がどこの門だったのか分かれば、何某かのヒントになったのかもしれない。「なぁ、長が水の世界を荒す者に警告を促してるって言ってたけど、ライたちの村の人が荒らすようなことはしないよな、だったら誰に警告してるんだ?」前を向いていたライが少し顔を下げて口角を上げた。(ん?なんだ?)顔を上げたライが言う。「村から入ってすぐに居るのは俺らの村の者。俺らは足を伸ばす。遠くに村の者以外が居るって聞いてるからな。早い話、朱、青、白の人間。その色を聞くと思うところも出てくるけど、どこまで何に関わっているのかは知らない」ライが水無瀬を見る。「日本地図...ハラカルラ第24回

  • ハラカルラ 第23回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第20回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第23回翌朝、やはり一番最後に起きてきた水無瀬が初めて会ったライたちの父親と顔を合わせた。見た目は逞しい身体を持ち、顔は・・・岩だった。性格も岩のようで、ワハハおじさんのように柔軟性は感じなかった。良く言えば生真面目、悪く言えば冗談がきかない、そのまま言えば、座っているのを見ただけで背筋が伸びてしまう。「夕べはお留守の間にお世話になりました」(そちらの首脳会議は如何でしたか?)「ゆっくりできたか」「はい、お陰様で」(盛り上がりました?)「ライから聞いたが、今日もあちらに行くらしいが?」「はい、ちょっと気になることがありまして」(夕べのお酒は残ってないようで...ハラカルラ第23回

  • ハラカルラ 第22回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第20回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第22回適当にと言われてもコップを持ったままベッドに座れるはずもなく、ましてや勉強机にも座りがたい。ミニテーブルにコップを置きライの正面に座った。「ご自由につまんで。他にもまだある」ベッドの下からコンビニ袋を出すとひっくり返した。バラバラとチョコやお菓子の箱や袋が出てきた。「いや、いい」しっかりと夕飯を食べたのだ、腹は減っていない。それにこれから甘いココアを飲むのだ。「そぉ?」ざざっと、散らばった菓子の箱や袋をひとかためにする。「まっ、食いたくなったらどれでも食って」「うん。さんきゅ」それから無言の時間がどれだけ続いただろうか。ライがポテトチップスを食べる...ハラカルラ第22回

  • ハラカルラ 第21回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第10回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第21回ガシガシと髪を拭きながらボディバッグを手に取る。拭いていたタオルを首にかけ、ボディバッグを開けてスマホを取り出す。着信の音量はミュートにしていた。長に連れられライの家に来た途端、疲れただろうと丁度ナギが風呂から上がって来たところだからと、そのまま風呂に入るよう勧められ、スマホチェックはほぼ丸二日していない。見てみると着信ランプが点滅している。電源ボタンを押しロック画面からホーム画面に変える。ラインの着信が5となっていて電話にも着信が7となっている。「雄哉かな」電話の画面を開くと大学で同じ講義を受けていた友達からの連絡だった。留守録に数人からの打ち上...ハラカルラ第21回

  • ハラカルラ 第20回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第10回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第20回狛犬の振りをした獅子のところまで来た。さすがにライはもう笑っていなく、プラスティックのキツネ面は顔から外し、持つのが面倒臭いのだろうか頭の横に付けている。「お獅子の話は聞いた?」「うん」ライが足を止め水無瀬が獅子の台座に肘をつく。「ふーん、烏は何考えてんだろ」その疑問に答えたくはなく、光霊を入れられたということだけで判断がつくだろうとは思うが、ライはライなりに水無瀬の思いを優先に考えてくれているのかもしれない。「烏も長も獅子って言ってたけど、煉炭もライと一緒でお獅子って言ってたな」「敬愛の気持ちを込めて、ってとこかな」「敬愛?」「長から聞かなかった...ハラカルラ第20回

  • ハラカルラ 第19回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第10回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第19回阿吽といえば狛犬じゃないか。「あの、それってもしかして・・・石で出来た・・・狛、犬・・・?」「おお、たしか黒がそう言っとったではないか」「ああ、そういえば昔々に言っておったか」(あの狛犬がシシ・・・獅子。石の狛犬、あ、いや、獅子。その獅子が動、く?)そういえばと思い返す。煉炭のどちらかが飛ぶと言っていた。凄いとも、力もあって早いとも。「あ、あの、それなら見ました。見ましたけど・・・あれが動く?」「素知らぬ顔をして座っておるがな、わしらの下知が飛べばすぐに動く。それだけでは無い、ハラカルラに害を与える者が入ってこんようあそこで見張っておる」「・・・」...ハラカルラ第19回

  • ハラカルラ 第18回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第10回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第18回水無瀬がすぐに立ち上がり机周辺をチェックする。机の後ろの岩壁も押してみるが隠し扉などないようだ。「何をしておるかー、さっさと来んかー!」烏がバサバサと羽を動かし軽くホバリングをしながら嘴を大きく開けて叫んでいる。「・・・うそん」烏の先導で穴の中に入って行く。穴の入り口は屈まなければ入れなかったが、中に入って数歩歩くと腰を伸ばし立つことが出来た。ここも円柱状の作りで中に入ってすぐは直径一.五メートル弱ほどだったが、立てる所に来ると左右や足元はそのままで、上が突き抜けた形になっていた。「いいか、水の中ではゆっくりと動け、歩け。決して水をざわつかせるでな...ハラカルラ第18回

  • ハラカルラ 第17回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第10回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第17回ライが水の世界に入った。「水無瀬はどこに・・・」キツネ面を付けたライが水無瀬が居なくなっただろう方向をじっと見ると、姿が見えないことを確認し、三百六十度をぐるりと見まわすが岩という障害物が無いわけではない、簡単には見つからないようである。「走るしかないかな・・・」あまり水の中で走ることはしたくない。水の中ではゆっくりとしなければ水がおかしな動きをしてしまう。もう一度、水無瀬が居なくなっただろう方向に身体を向け凝視する。何かが動いた。「うん?水無瀬か?」姿が見えなければ走り回って探すしかないと思ったが、合っているかどうかは分からないにしろ目的先が出来...ハラカルラ第17回

  • ハラカルラ 第16回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第10回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第16回余所見をしている間に二人の位置が変わってしまっている。もうどっちがどっちか分からない。「これが盗聴器を見つけたモノ?」生き物ではなかったようだ。だがこの二人を見ていて誰が機械と発想できるだろうか。どちらかというと、クマのぬいぐるみや小さな仔犬を抱いているような姿が目に浮かぶというのに。「モノじゃない、ピーピー」(いや、どう見ても機械じゃないかよ)「モノなんて言ったらピーピーが可哀そう」どうしてか、ふと、あいつの言ったことを思い出した。『犬は物扱い』警察署で会った時にそう言っていた。犬を物扱いするのはどうかと思うが、機械は物扱いしても良いのではないの...ハラカルラ第16回

  • ハラカルラ 第15回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第10回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第15回「各門には各門の在り方がある、とな。だが朱門はそれに納得がいかなかった。矢島の何代も前から跡を継ぐ者を探しに出る度、後をつけ狙い横取りしようとした。ああ、横取りなどと言う言い方は水無瀬君に悪いな」「いいえ、大丈夫です」それくらい構わない。腹にパンチや膝まで入れられ、背中など長く痛みが残ったほどだ。横取りなどと優しい言葉では済まないくらいである。「そういうことがあって、跡を継ぐ者を探しに出る時には必ず村の者が同行していた」「どうして矢島さんも他の人達も相手に顔が知れていたんですか?」「村の者が面を着けているのを見たか?」「はい」長は見ていないだろうが...ハラカルラ第15回

  • ハラカルラ 第14回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第10回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第14回「矢島との間にあったことは聞いた。矢島の書いたものも見た。それを水無瀬君に伝えるが、いいかね?」長が水無瀬の持っていた紙を卓の上に広げる。「いいかね・・・とは、どういう意味でしょうか?」何が書かれてあるのかは気になるところだが、聞いた以上は責任を取ってずっとここに居ろということなのだろうか。そうであるのならば聞かなくていい、聞きたくない。「まず、言葉の意味が分からないだろう。あとにこちらの言葉に変えて言うが、それでも分からないだろう」分からないことを今から言う、という意味の『いいかね』だったということか。ここまできて駄々をこねても始まらないし、分か...ハラカルラ第14回

  • ハラカルラ 第13回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第10回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第13回ライが水無瀬を戻している間にナギが連絡を取っていた。『そうか、やはり彼で間違いないということだな』「はい。とは言っても長に見てもらわなければ分かりませんが」矢島が書いたことは書いただろうし、矢島がこんな風に書いたものを無暗に渡すはずがない。『頼む』と言ってたそうだが気になるのはその内容である。水無瀬には後継者と言ったがその確証があったわけではない。たしかにこの書かれたものは大きく決定的なものとなるが、矢島が何を考えていたのか分からない。『彼の移動だが・・・』「はい、はい。はい、分りました。ではそのように」通話を終え、窓の外を見るとライが水無瀬の尻を...ハラカルラ第13回

  • ハラカルラ 第12回

    『ハラカルラ』目次『ハラカルラ』第1回から第10回までの目次は以下の『ハラカルラ』リンクページからお願いいたします。『ハラカルラ』リンクページハラカルラ第12回ライがティッシュを鼻に詰めると、そのまま鼻声で話し始める。「水無瀬が、あ、水無瀬でいいだろ?」もういい、どうでも。「ああ」とだけ答える。「こっちもライとナギでいいから」「ああ」だがもう関わるつもりはない。今日限りだ。「水無瀬がもし、矢島と接触していたのなら、って前提なんだけどな。向こうもこっちも」「なら、俺に訊くよりその矢島って人に訊けばいいだろ」「その矢島が死んだ」まさかそんな答が返ってくるとは思ってもみなかった。「・・・それは、ご愁傷さまで」「だから訊くことは出来なくなった。何もかも」何もかも?どういう意味だ。「それで、もし水無瀬が矢島と会って...ハラカルラ第12回

  • ハラカルラ 目次

    『ハラカルラ』目次第1回・第2回・第3回・第4回・第5回・第6回・第7回・第8回・第9回・第10回ハラカルラ目次

  • ハラカルラ 第11回

    ハラカルラ第11回開錠した手を下ろすがキツネ面は窓を開けようとしない。水無瀬がどう出るか窺っているのだろうか。水無瀬が自ら窓を開ける。「かなり疑心暗鬼になってるな」窓を開けるとキツネ面が喋った。(放っとけ、そうならない方がおかしいだろう)「表は見張られている」「え?」「見張られていただけじゃない、盗聴もされていた」思わず振り返って部屋を見る。「今はもう盗聴器はない。安心しろ」「なっ・・・」“な”の次に何を言おうとしていたのだろう、次の言葉が出てこない。「話がある。隣りの部屋に来てくれ」「え・・・」「あくまでもこっちからな」プラスティックキツネ面が何ということもなくベランダを移動した。(うそだろ?俺にそんなことが出来るはずがないだろ!)隣と水無瀬のベランダには高い壁のしきりがある。(え?いや待て、今なんて言...ハラカルラ第11回

  • ハラカルラ 第10回

    ハラカルラ第10回水無瀬だってクナイくらい知っている。現物を見たことは無いがアニメで見た。そのクナイが転がっている。さっきの音はクナイがアスファルトに弾けた音?足音が耳に響いた。顔を上げて見ると数人の男が水無瀬を目がけて走って来ている。「入って来た方に走れ!入口を出た看板の後ろにバイクが隠してある、それに乗っていけ!」「え?」振り向いた。どこから聞こえてきた声だ、誰の姿もない。「早く!」逃がそうとしているのだろうか。ということはキツネ面の仲間ということなのだろうか。それともまた違う団体か。(どうすればいいんだよ・・・)入口くらい迄なら走れることは走れる。どうする・・・。俺はどうすればいい。下げていた顔に誰かの足元が見え顔を上げる。カオナシに似た面をつけた男が目の前に立っている。「逃げられると困るんだよな」...ハラカルラ第10回

  • ハラカルラ 第9回

    ハラカルラ第9回通勤による車の渋滞は丁度緩和されたところなのだろう、特に巻き込まれることもなく進んで行く。間に挟んでいた車が何台か入れ替わった中、水無瀬の乗った車が左にウインカーを出した。幹線道路から外れていくつもりだ。これでついて行けば完全に怪しまれることになってしまう。こちらに気付いて試しているのか、それとも目的地に向かっているのか。「左に曲がった」身体を横に倒して後ろから見ていたナギが言う。「いけるか?」「可能な限り」ヘルメットを外すと手探りでメットホルダーに掛ける。車が曲がり切ったところで端に寄せながらブレーキをゆっくりとかける。スピードが緩むとナギが飛び降りた。何度か横回転しながら立ち上がる。後続車が驚いて急ブレーキを踏んだが、ナギは素知らぬ顔で走り去って行き、ライの運転するバイクがスピードを上...ハラカルラ第9回

  • ハラカルラ 第8回

    ハラカルラ第8回水無瀬が近づいて行く。「よー、こんなとこで何してんの?」「あれー?水無瀬っち?」だから水無瀬さんと呼べ。バイト先の敬語を知らないやつである。「やっぱ、ハワイじゃなかったんだ」「だから違うって言っただろ。何してんだよこんなとこで」「迷子犬の届け出」「犬?犬なんて飼ってたのか?って、届け出って、あそこ落とし物の係りじゃねーの?」「犬は物扱い。で?水無瀬っちは何でこんなとこに居んの?」「あ、うん、ちょっとな。でも空振りに終わった」「ふーん。ね、俺、昼食べそこなったんだけど水無瀬っちは?」「俺もまだ」「なんか食べに行かねー?」幕の内弁当を買おうとは思っていた。だが食べに出るとなるとそれ以上になる可能性はあるが、こいつをボディーガードにしても良いのではなかろうか。ボディーガードになるかどうかは分から...ハラカルラ第8回

  • ハラカルラ 第7回

    ハラカルラ第7回「どうして連絡がなかった」後ろと横には何人もの爺(じい)が座り、そして中年以降の男たちが囲うように土間に立っている。その中、目の前には一人が背を丸め胡坐をかき、もう一人が背筋を伸ばし端座している。それぞれの傍らにはキツネの面が置かれているが、片方は面が負傷しているようでテープで貼り付けてある。だがそのテープからは簡単に剥がれ落ちるだろう。「あ、えと・・・、ちょいバイクが故障しちゃって・・・」「単車が故障したとて、敵に攫われたと連絡くらいは出来ただろう」「いやー・・・それがぁ・・・」言いにくくはしているが、水無瀬が敵に攫われたことにさほど責任を感じていないのか、小さくなることもなく胡坐の中でヘラッとしている。そんな中、隣で端座していたもう一人が口を開く。「申し訳ありませんでした。簡潔に言いま...ハラカルラ第7回

  • ハラカルラ 第6回

    ハラカルラ第6回「ど、どうなってるんだよ・・・」呆気にとられるがここでじっとしているわけにはいかない。ドアを開けようとインナーハンドルを引くがドアが開けられない。シートを移動して反対も試してみるがこちらも開けられない。「くそっ!チャイルドロックかよ!」チャイルドロックがかかっていれば、内からは開けられず外からしか開けられない。「前から出るしかないのか」子供ならまだしも、自分の身体の大きさを考えるとかなり無理があるが、今はそれしか方法がない。フロントシートに右半身を滑り込ませた時、カチャリとリアのドアが開けられた。「え?」水無瀬がまるでカエルのような姿勢でドアを見る。「しっ」合わせの襟を着た見たこともない中年男が口の前で人差し指を立てている。「助ける。このまま奴らに見つからないように逃げる。早く」早くと言わ...ハラカルラ第6回

  • ハラカルラ 第5回

    ハラカルラ第5回スピーカーからスマホの着信音が聞こえてきた。「はいはーい」電話のようだ。「え?まだそんなとこかよ」『なに贅沢言ってんだ』「いや、もうそろそろかなと思ってジャケット着たとこだったし」『大体、なんで俺が男を迎えに行かなくちゃなんないんだよ』「うーん・・・主催者だから?」『言ってろ!ジャケット着たんなら駅に向かって来いよ』「いや、それがねー、そうはいかないんだわ」『なんだよー、それって』「だからー・・・ね、お願い。文句言わないから迎えに来てハート」『なんだよそのハートって』「絵文字」スマホの向こうから厭味ったらしい溜息が聞こえてきた。スピーカーから流れてくるのはあくまでも水無瀬の声だけだが、どこかに出かけるにあたり迎えを要請していたようである。「用心はしていたってことか」「学生の一人や二人、十人...ハラカルラ第5回

  • ハラカルラ 第4回

    ハラカルラ第4回上目遣いだった目を半分伏せ、小さく頷いてみせている。間違いなくあのことの話しらしい。「えと・・・分かり合っている者同士で暮らせばいいんじゃないかな。他の人には分かってもらえないし・・・」そりゃそうだ。たとえ雄哉であろうとそう簡単には信じてはくれないだろう。「俺についてくれば分からないことが分かる、そう言ったのはこういうこと。まぁ、まだまだ詳しく話せるけどな。でもそれはついて来てからのことだ」思わず反対隣を見た。おじさんがニヤリと笑っている。「前に言ったように衣食住にも困らん。バイト、きつかっただろ。大学ももう殆ど行かなくていいんだろ?あとは卒論くらいだろ」何を言っている、どうして知っている、どこまで何を知っているというのか。「ここまで来て中退ってのもなんだしな、卒論さえ提出すればいい話なん...ハラカルラ第4回

  • ハラカルラ 第3回

    ハラカルラ第3回部屋の電気は点けっぱなしで、その部屋と玄関との境は硝子戸。薄明りにはなるが、靴を履くには十分な明かりであったため玄関の電気は点けていなかった。慣れた位置に手を持っていき玄関の明かりのスイッチを入れ、半畳ほどの三和土に目をやる。すると見慣れない白色のUSBメモリースティックが落ちているではないか。拾い上げ目の前にかざすが、誰かのUSBスティックを預かった覚えもなく、やはり見慣れないUSBスティック。少なくとも自分のものではない。「雄哉のかなぁ?」この部屋に遊びに来るのは雄哉くらいなものである。「にしても、最近は来てないし」もしUSBスティックを失くしていたのなら、とっくに訊いてきただろう。内容を見て持ち主が分かるのなら見てみようかとも思うが、見られて困るものなら見られたと知っていい気はしない...ハラカルラ第3回

  • ハラカルラ 第2回

    ハラカルラ第2回クシュン。後ろから伸びてきた腕が水無瀬の腕に絡みついてきた。この感触は確かめなくても誰かはすぐに分かる。「よっ、水無ちゃん風邪?」腕を絡めてきた相手が水無瀬の顔の前にひょっこりと顔を突き出してくる。「って、ナニその顔!?」目の下にはクマが出来、目が潤み、鼻の頭が赤くなっているだろうことは想像できる。あれから寝られなかった。あれやこれやと解決できないことが頭の中を駆け巡り、気付けば小学生の声が聞こえてきた。小学生の登校時間となっていた。それからウトウトとしだして、いつしか天板に顔をあずけたまま寝たようだった。ほんの一、二時間だろうか、その間に見事に鼻風邪をひいたようだ。「寝不足の働き過ぎの、寝たから鼻風邪」「いや、それってどっか矛盾してね?」「してないからここに居る」「してるって。寝不足の寝...ハラカルラ第2回

  • ハラカルラ 第1回

    ハラカルラ第1回何かが聞こえた何の音だろう顔を巡らせるキラキラと光るモノが見えるあの音は何処から聞こえてきたのだろうかキラキラからだろうかそれともずっと続く広いどこかからだろうか悲しい声が聞こえるゆらゆらゆら「どうしたの?」遥か彼方を指さす。目の前に水平線が広がっている。もう陽が落ちている。見たこともない満天の星空。「綺麗なお星さまね」~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「んじゃ、お疲れー」今日のコンビニバイトが終わった。店内はまだ温かい。羽織ったダウンジャケットのジッパーはまだ上げていない。こんな深夜の時間帯なのに数人の客が本の立ち読みをしている。もう二十分近くになるのではないだろうか。だがそんなことも珍しい話ではない。「ほーい、お疲れ。あ、水無瀬(みなせ)っ...ハラカルラ第1回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ を書き終えて

    今回も全207回と、前章となる虚空の辰刻(こくうのとき)全216回に続く長編となりました。長くお読みいただき有難うございました。”虚空の辰刻を書き終えて”で『書き終えて暫くすると番外として続きを書きたいと思い、書き始めていたのですが、到底番外にはならず完全に続きという形になりました』こう書いていました通りとても書きたかったのですが、あまりにも長くなり過ぎ「もうお願い、早く結婚して」と懇願しながら書いていました。アップをするに読み返していると婚姻の儀から、特に最後の三回は駆け足になってしまっている感がとてもあったのですが、付け足すことも出来ずそのままのアップとなりました。次回からは先に書き出していたものが完全にストップしてしまい、次に書き出したものをアップしていきたいと思います。(今頑張って書いていますが、...辰刻の雫~蒼い月~を書き終えて

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第207最終回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第200回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第207最終回おムネがどんどん大きくなってきて「うへへへ~」と喜んでいた紫揺に九の月に入った深夜、陣痛がやってきた。すぐに産婆が呼ばれ出産の用意を整えたが、それから丸一日半かかってようやく元気な泣き声を上げる赤子を出産した。お付きたちだろうか、赤子の声が聞こえたのだろう、外では歓声が上がっているようだ、それが遠くに聞こえる。長い時がかかり過ぎた。外では様子を確かめることも出来ず、誰もが不安を消すことが出来なくなっていた時であった。それだけに喜びはひとしおである。紫揺はクタクタになり、...辰刻の雫~蒼い月~第207最終回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第206回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第200回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第206回ようやくマツリと紫揺が向かい合って食をとることとなった。“最高か”と“庭の世話か”がホッと胸を撫で下ろす。「杠戻っちゃったね」あれから杠が六都に戻ると聞いた。「ああ、硯の山が気になっておろうからな」杠から聞いた。ずっと岩石の山と言っていたが、紫揺が硯の山と言っていたことから今では硯の山と呼ぶようになったと。「杠から聞いた。杠が婚姻の儀の間、宮に居られるようにマツリが奔走してくれたって。だから宮に戻ってくるのも遅くなったって」「大したことはしておらん」「杠が居てくれて嬉しかっ...辰刻の雫~蒼い月~第206回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第205回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第200回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第205回マツリが紫揺の座っている寝台に腰を下ろす。「リツソ君に何かあったの?」そうきたか・・・。「まだ会っておらん」「どうして?」「今日までが婚姻の儀、まだリツソには時が必要だ」「そうか・・・」そう言われればそうだ。マツリは馬車の中で逆撫でしかねないと言っていた。完全に婚姻の儀が終わるまでは、それから数日過ぎるまでは何を言っても逆撫ででしかないのだろう。「うん、分かった」紫揺がリツソのことを気にかけているとマツリは知っている。婚姻の儀が終わって話に来てくれたのだろう。進展のない報告...辰刻の雫~蒼い月~第205回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第204回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第200回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第204回明日からマツリが来る。夜伽(よとぎ)に。「・・・嫌だぁ・・・」そのままポテンと卓に伏せた。あと一辰刻(いちしんこく:二時間)と二刻(にこく:一時間)で月の雫の儀の刻となる。回廊からそっと襖が開けられた。ススススと“最高か”と“庭の世話か”が紫揺の部屋に入って行く。すると目の前の卓に紫揺が伏せたまま眠っているではないか。「まぁ、どう致しましょう!」まさか寝ているとは思いもしなかった。「紫さま!お目覚めになって下さいませ!」慌てて紫揺を起こし、もう少しすれば真丈が来るからと、し...辰刻の雫~蒼い月~第204回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第203回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第200回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第203回翌日も声のよく通る文官の進行で言祝ぎが始まった。今日も知っている者は一人もいなかった。衣裳は昨日と同じく一日で二回着替えた。今日も舞台の上で合計三着を着たことになる。今日の最後には可愛らしい赤色が無くなり落ち着いた赤色となり、新しく青系の色が加わっていた。昨日と同じ刻限に杠が訪ねてきて、少しは落ち着いていた紫揺の様子を見ると安心したように部屋を出て行った。「杠殿、お待ちくださいませ」紅香が襖から出てきて杠を止める。「はい」「夕べのことで御座いますが、いったい紫さまに何が御座...辰刻の雫~蒼い月~第203回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第202回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第200回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第202回回廊下を覗こうとした紫揺だったが、紫揺の手首を引っ張ってリツソが止める。あの可愛らしいリツソの力とは思えないほどの力である。「紫揺をお放し下さい」「杠」こんな所を他の誰かに見られるわけにはいかない。大きな声は出せない。「杠か、お前に何を言われることなどない」「己はマツリ様付きで御座います。マツリ様の御内儀様となられる紫揺をお守りするのも己の任で御座います」「たしか・・・シユラが兄と慕っていると聞いたが?」「己も紫揺のことを妹と思っております」「では我の義兄となるということか...辰刻の雫~蒼い月~第202回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第201回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第190回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第201回暫しの時を設けることが出来、頃合良く女官が声をかけてきた。正面の襖が開けられる。大きく開けられた襖の向こうには、いつの間にか立派な馬車二台が正面に停まっていた。紫揺が手を取られ静々と階段を降りる。履き物を履くとすぐに控えていた女官が裾を持つ。一台の馬車に紫揺が乗り込むと、もう一台に領主と秋我、此之葉が乗り込んだ。来た時には地に足をつけていた武官たちが馬上で姿勢を正している中、横を見ると見張番たちが手を振っている。この辺りは自由にして良いようだ。紫揺も手を振り返す。さすがに東...辰刻の雫~蒼い月~第201回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第200回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第190回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第200回翌日、かなり疲れていたのだろう、夕刻まで寝ていた紫揺。生きているのだろうかと、此之葉が何度も紫揺の息を確かめていた。そしてその翌日から紫揺の辺境の旅が始まった。少なくとも二週間後には戻って来なくてはいけない。紫揺とてギリギリまで辺境を回るという浅はかな考えはない。天候も含み、いつ何が起こるか分からないのだから。それを思うとどれだけ頑張っても辺境の全てには回れない。道中、祝いに来てくれていた何人もの民や、間に合わなかったという民と会うことが出来た。誰もがまさか紫揺に会えるとは...辰刻の雫~蒼い月~第200回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第199回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第190回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第199回おおよそ半月後、宮から狼の模様が入った文を携えた早馬があちらこちらに走り、東西南北の領土にはシキが文を携えて飛んだ。最初に飛んだのは東の領土であったが、同じ狼の模様が入っていても内容は違うものである。言わば東の領土の領主は紫揺の父親代理となる。単なる御招待客ではないのだから同じ内容ではない。それに四方直筆の文であった。シキが領主と紫揺、秋我夫妻を前に口上を告げ、恭しく四方からの文と装飾された大きな飾り石、いくつかの高級な反物、本領でしか採れない茶葉を領主に渡す。これは結納で...辰刻の雫~蒼い月~第199回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第198回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第190回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第198回湯に浸かるとしっかりと四人に囲まれ、衣装の着心地から六都であったことを色々と訊かれた。杉山で杉と話したことや怪我をしたことは言わない。怪我をしたことなど言ってしまえばまた泣かれてしまう。湯から上がると着替えを手伝ってもらいながら四方のことを訊く。戻ってきたことを報告しなくてはいけないだろう。そんな事も分かっている“最高か”と“庭の世話か”。すでに四方の従者に訊いている。「まだお仕事をしていらっしゃいますので、手が空かれれば従者殿が呼びに来て下さいます」この辺りは尾能が従者を...辰刻の雫~蒼い月~第198回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第197回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第190回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第197回川の流れる音がする。それも盛大な音。それが段々と近づいてくる。いや、自分から近寄っている。岩の影から二人乗りの馬が姿を現した。「わぁ・・・」見たこともない滝であった。複雑に水の道を描き三段に分かれている。そして最後の最後には五つの滝に分かれている。それもどれも立派な滝。「すごい・・・」粒になった水飛沫が虹を作っている。「降りていい?」馬から。「ああ、待っておれ」先にマツリが下りると手を差し伸べて紫揺を下ろす。「こんな滝見たことない」マツリが適当な出っ張りに手綱を括りつける。...辰刻の雫~蒼い月~第197回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第196回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第190回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第196回翌朝しっかりとマツリを見送り、杠と二人乗りで岩石の山に向かった。馬を下りるとすぐに杠が棚から出してきた硯を持って二人で山に入って行く。作業場があればいいのだろうが、宿所を建てただけで作業場などない。もっとも杉山もそうなのだが。「お早うございます。今日もお邪魔します」「お早うっす!マツリ、マツリ様が許してくれたのか?」「はい。でもこちらには今日で最後になると思います。また道具をお借りします」紫揺の言った“今日で最後”さざ波のようなざわめきが起こったが、素知らぬ顔でノミを取りに...辰刻の雫~蒼い月~第196回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第195回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第190回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第195回宿所に行くとすぐに座卓の上に渡された硯を置き、水と墨を使って磨ってみる。引っかかりは感じないし、底もしっかりと平らにしてあるようで僅かなグラつきもない。砥石とヤスリでよく仕上げている。硯職人から見てどうなのかは分からないが、使い手からとしての文句はない。「良いですね」顔を上げて男を見ると、強張っていた男の顔が緩んでいく。「やっとかー・・・」そう、これで何度目であっただろうか。だがここが第一関門に過ぎないことは分かっている。第二関門は教えてくれた硯職人からの合否である。その第...辰刻の雫~蒼い月~第195回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第194回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第190回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第194回朝餉を終わらせたマツリが早々に杉山に向かって出て行った。「武官所に行くか?」享沙や柳技たちとの接触の時はまだである。「うん」薬草のお礼を言いに行くか、と言ってくれているのだろう。杠が言わなくてもそのつもりだった。だが杠はそのつもりではなかった。紫揺の元気な姿を見せねば、今夜もまたあの嗚咽交じりの嘆きの呪詛を聞かされるからである。武官所では思った以上の歓迎ぶりだった。丁度交代にやって来ていた武官たちが多く居て、泣き出すものまで現れた。「うわぁぁぁー・・・良かった、良かった。崖...辰刻の雫~蒼い月~第194回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第193回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第190回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第193回そろそろとスカートをめくり上げ自分の足を確認する。結構上まで傷がある。高くまでスカートをたくし上げていたのを今更にして後悔する。マツリが薬草を塗っている足が動かされる。後ろに傷が無いかを確認しているのであろう。最後にはマツリの手で内腿まで薬草を塗られた。そしてその腿にも晒が巻かれる。(これってサイアク恥ずかしい。もっと下でスカートを括っておけばよかった。そうなると走るに邪魔だっただろうけど)手足に晒が巻かれ肘も膝も簡単に曲げられない。手足を突っ張ったお座り状態のぬいぐるみの...辰刻の雫~蒼い月~第193回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第192回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第190回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第192回≪触れよ≫そう言われてもどの杉か分からない。どの杉も立派だ。あの時のように一本大木が目立っているものではない。≪すべては吾(わ)ら≫そう言えば東の領土の大木が言っていた。≪吾らは地に根を生やし、地で繋がっておる≫≪吾らは地で繋がっておる≫≪地のあるところ、吾らは繋がっておる≫と。あたりをキョロキョロと見る。一本の杉に目がとまった。樹皮のデコボコが他の杉より大きい。その杉の前に行くと裾を括りつけていたスカートを解き、パンパンと皺を伸ばす。礼儀のつもりだ。そしてそっと手を触れる...辰刻の雫~蒼い月~第192回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第191回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第190回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第191回武官が走り寄って来る。「や、やはり紫さま、どうして・・・。あ、や、お怪我をされましたでしょうか!」良いことを言ってくれた。そういうことにしよう。「ちょっと足を挫いちゃって」「すぐに山を下り、治療をさせて頂きます!」「あ・・・お気遣いなく」「万が一のことがあっては!」良いことではなかったようだ。面倒臭いことになった。「ホントに大丈夫ですから」半笑いのマツリが紫揺を下ろす。目的の三人が目の先にいる、これ以上歩く必要は無い。「ここにかけていろ」切られた杉の木のあと。まるで丁度良い...辰刻の雫~蒼い月~第191回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第190回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第180回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第190回大門に行くと前回付いてくれた武官が二人待っていた。「紫さま!お咎めがないようにして下さり、有難きこと・・・」「どれだけ感謝を申し上げても足りぬことで御座います」でっかい武官二人で足元に泣きつかれた。えっと、これは元を作った・・・自分の罪か?「あははー・・・」声だけで笑うしかない。前を百藻が歩き後ろから瑞樹が馬を曳いてやって来た。前回乗った馬と同じ月毛の馬である。相変わらずとても綺麗だ。「武官さんには何の責任もありませんから。今回もお願いします」紫揺の言葉に武官二人が立ち上が...辰刻の雫~蒼い月~第190回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第189回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第180回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第189回六都に戻り、翌日飛尾伊に会うと受けてくれた礼を言い、まだしばらくはそのままでいるようにということを伝えた。そして足を官別所に向けると一人一人に向き合い咎を言い渡していった。四方は飾り石の咎の後に決起の咎と言っていたが、二度手間など踏む気はない。決起のことへの追及、断罪も行った。十日の労役は百二十七名中、五十九名が飾り石の窃盗未遂だけの咎ということになり、決起へのことは訳が分かっていなかったようだったが、結果としてどういうことになるのかをよくよく言ってきかせた。五十九名の中に...辰刻の雫~蒼い月~第189回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第188回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第180回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第188回「紫さま、本領はいかがでしたか?やはり宮を出られたのですか?」「はい、マツリとはすれ違いだったけど、楽しかったです」「え?一緒に居られたのではないのですか?」「一緒に居たのは・・・どれくらいだっけ?」「ゆるりとしたのは、今日と・・・あとは時を合算して一日はないか」「え!?何日も本領に行ってらしたのに、それだけですか?」「はい、行った途端すれ違いだったから」「本領でお忙しくされておられるのですか?」「ああ、それもあって母上と姉上が待っておられんということでな、準備を進めていく...辰刻の雫~蒼い月~第188回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第187回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第180回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第187回紫揺が宮を出る前にもう一度、医者部屋を訪ね男達を視た。何の変化も視られなかった。男達に異常が無いことを告げ、その後、客間で着替えている時になりようやく澪引とシキが訪ねてきた。「どれだけマツリが六都のことを言っても、婚姻の儀に関することは進めていきますからね、東の領土に戻ったら領主によくよくお話して頂戴ね」「私も頃合いを見て東に飛ぶわ」「え?あの、シキ様はもう・・・その」何と言っていいのだろうか。「ふふ、本領領主のお手伝いで飛ぶわけではないわ。それはもうお役御免になったけど、...辰刻の雫~蒼い月~第187回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第186回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第180回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第186回アッシー君と化したマツリが回廊を歩く。何故だか昨日と違ってすれ違う誰もが微笑んで回廊の端に寄っている。回廊を歩いているとマツリに先を譲るのは当たり前だ。誰もが端により頭を下げる図は何度も見た。だが今は・・・違う。頭は下げているが・・・その顔が微笑んでいる。「マツリ?何かおかしくない?」「おかしいのは紫の顔色だ」「そうかな?それ程でもないと思うけど」「それ程?そう言うだけで十分だ、自覚があるということではないか。どれだけ無理を重ねた」「ちゃんと休憩は入れてたって」マツリの歩み...辰刻の雫~蒼い月~第186回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第185回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第180回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第185回“色なき風”花やかな色や艶が無い。中国の陰陽五行説により秋の色は白。そこからきていると習った。足元には緑一面が広がっている。もう秋だというのに足首までのびのびと背を伸ばしている。目の前には緑と空色しかない中に一人ぽつんと立っていた。色なき風に髪を揺られる。下を向き左の掌を見た。掌には半透明とまではいかないが、黄色く丸い物が握られている。(なんだろう、いつ手にしたんだろう)顔の高さまで上げる。すると黄色く丸い物の中に少女の姿が見える。(あ・・・コウキ)黄色く丸い物の中に高妃が...辰刻の雫~蒼い月~第185回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第184回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第180回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第184回ゆっくりと下半身を視る。一ケ所以外どこにも異常が無かった。異常というか、気になるものが視えたのは・・・頭の中だけ。「お布団をかけてあげてください」そう言い残すと場所を移動して残りの二人も同じようにして視る。医者はあくまでも布団を剥ぎその後布団をかけるという単純な助手役に終わっていた。三人目を視終ると、一人目の寝台の横に置かれていた椅子に腰かける。「三人はちょっと疲れたかな」三人と言っても、休憩を入れたとしても朝から高妃を入れて四人だ。紫の目で四人も視れば疲れるだろう。「無理...辰刻の雫~蒼い月~第184回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第183回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第180回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第183回宮の回廊を何度も曲がって歩き、小階段を降りると履き物を履く。後ろを歩いていた紅香と世和歌がすぐに紫揺の衣装の裾を持つ。そのまま歩いて門を潜る。それからも歩きもう二度門を潜る。大きな建物の出入り口に武官が四人立っている。「ここで待っておれ」建物の前でマツリに言われ紫揺が建物を見上げる。こんな所に高妃がいるのかと。高妃は“宮”と言っていた。ここが宮となるのかどうかは分からないが、それでもマツリたちの居る宮とはかけ離れたところにあるし、建物が随分と違う。マツリに呼ばれ中に入って行...辰刻の雫~蒼い月~第183回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第182回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第180回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第182回マツリではなく、早馬が着いたと屋舎の様子を見ていた杠の元に文が持って来られた。紫揺を東の領土に送り届け、呉甚と柴咲の話を聞いてすぐに六都に戻ってくるはずだった。そのマツリが日が明けたにもかかわらずなかなか戻って来なかった。そして早馬での文。杠に早馬の文がくるのは四方かマツリ以外にない。何があった?すぐに文を広げるとマツリからであった。呉甚と柴咲のことにも触れられていたが、宮であったことが書かれていた。そして紫揺が倒れたとも。熱が出て夜半には熱が下がりだしたが、今だにふらつき...辰刻の雫~蒼い月~第182回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第181回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第180回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第181回悲しい顔で紫揺が笑った。「シユラ?」「リツソ君が居てくれたからマツリと会えた。リツソ君のお姉さんになってもいい?」どういうことだ。シキの従者と千夜が大きく目を見開いた。「・・・シユラ?」「ずっとずっと、リツソ君のお姉さんでいる。シキ様にはかなわないけど、それでもリツソ君のお姉さんになってもいい?頑張るから」紫揺には兄弟も姉妹もいない。それを知っている。“頑張るから”知らないことを頑張るから・・・己の為に。リツソの目に涙がたまり、すぐにポロポロと流れ落ちる。そんな事に頑張って...辰刻の雫~蒼い月~第181回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第180回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第170回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第180回身体の汗を拭き着替えが終わった。だからと言って汗が止まったわけではない。これから何度もこの繰り返しをしなければいけない。マツリが紫揺の身体を支え座らせると、口に湯呑をあてる。「紫、ゆっくりでよい」マツリが紫揺に白湯を飲ませている。その姿を見られることが嬉しい。いや、紫揺の身体は案じている。だがこの二人が寄り添っている姿を見られることが・・・。「マツリ様はほんに紫さまをご心配されて・・・」「ええ、マツリ様がどれほど紫さまのことを想っておられるか」「これで紫さまがマツリ様に心を...辰刻の雫~蒼い月~第180回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第179回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第170回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第179回『わらわの大事子』初代紫の声が紫揺の頭に響く。『あの者、我が子も同じなり。我らの祖と同じ血を引く者』青の力しか出していないが瞳を見ればわかる。黒い瞳、それは一人で五色を操る者。『五色の力により民に禍つを与うる者、我が祖の責は我らが負わねばならぬ』『はい』だがどうやって?『黄の力、其は天位の力。天位の力にて頭上より五色の力を出させよ。力はわらわの石が預かろう』出させる?頭上から?どうすれはいいのか?五色の力は理解。どう理解するかで変わる。よろよろと高妃が立ち上がった。まだ手に...辰刻の雫~蒼い月~第179回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第178回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第170回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第178回杠が馬を曳いてくると、そこに文官と武官がひしめき合っていた。「ど、どうされました?」手綱を手に杠が驚いた顔をした。顔だけではなく心底驚いている。文官より先に武官が口を開く。こういうところ、実力行使の武官が強いのかもしれない。「紫さまがお帰りになると、お聞きいたしましたが」「はい・・・そうですが」だから何なのだ?杠の疑問など知る由もない文官武官が混在する間にどよめきが波のように唸りを上げた。(な、なんだ?)「次はいつ来られるのでしょうか?」は?と言いたくなる。どういう意味だ。...辰刻の雫~蒼い月~第178回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第177回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第170回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第177回雲海に酒を渡したマツリ。「世話になったようで」ほっほ、と笑いながら「何のことでしょうかな?」と、一度断った酒を受け取り、半歩後ろに居た紫揺に目を転じると、紫揺がお辞儀をしてから口を開いた。「マツリへのご助力を頂いたようで有難うございました。それと先日は学び舎での道義を聞かせて頂き、有難うございました」(そのようにきたか。・・・杠は分かっていたということか。我には想像も出来んかったわ)「いやいや、知れたもので御座います。それより、よくお似合いで御座います」杠に無理矢理、市に放...辰刻の雫~蒼い月~第177回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第176回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第170回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第176回刑部舎では呉甚の取り調べがまだ続いていた。「いい加減、諦めたらどうだ」呉甚の前には刑部長が座っている。未然に防げたと言っても事は大きかった。行部長自らである。「なんのことだか」証人が証言したと聞いた。だがそれがなんだ、証拠はどこにもない。高姫もどこかに行ってしまった。部屋の戸が外から開けられた。三人いた刑部文官の一人が立ち上がり、外から入ってきた文官と小声で話している。聞こえたのは「承知した」それだけだった。呉甚に相対していた刑部長に小声で告げる。しっかりと呉甚に聞こえるよ...辰刻の雫~蒼い月~第176回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第175回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第170回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第175回「あれま、どうしたんだい?」水を汲みに外に出ると誰かが座り込んでいた。綺麗ではあるが変わった衣を着ている、それなのに足元を見ると何も履いていない。裸足で長く歩いてきたのだろう、柔らかな足の裏から血が出ている。疲れて座り込んでしまったようだ。「お、空・・・」可愛い顔をして空を見上げている。長い睫毛に囲われた黒く大きな瞳がゆらゆらと揺れ、零れ落ちそうになっている。その瞳にゆっくりと瞼が落ちた。「ちょ、ちょっと。あんたー!」女が家の中に居る亭主を呼んだ。翌朝、早朝から杠と二人乗り...辰刻の雫~蒼い月~第175回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第174回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第170回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第174回こんな時に!呉甚が女を見て顎をしゃくると自分は奥の部屋に隠れる。女が戸を開けると、そこには肩を下げ目の下にクマを作った男が立っていた。「ここに呉甚という者はおられませんか・・・」声が枯れている。女が振り返った。聞き覚えのある声に奥の部屋から顔を出し、女に首を振ってみせる。「あ、居りませんが・・・」「そうですか」より一層肩を下げた男が向きを変えた。女が戸を閉めると呉甚が奥の部屋から出てきた。どうしてあの男が自分を探しているのだろうか。それに高妃を探さねばならない。「この家のど...辰刻の雫~蒼い月~第174回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第173回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第170回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第173回「武官殿は持ち場に戻って下さい。暗くなりましたら気を付けてこの辺りまで出てきて下さい」残り一人を捕らえるだけ。四人と五人で挟み撃ち。暗がりとはいえじっとしてさえいれば岩から体がはみ出していても気付かないだろう。武官達が持ち場に戻っていった。ほどなく一人がともした灯りをもって川岸に置いた。二人で川の方に歩いて行く。「サワガニ寝てるかな?」「そうだな、起こしてしまうな」「あ、そうだ干し肉」ごそごそと懐を探ると食べ残していた干し肉を出してきた。「なんだ?全部食べなかったのか?」「...辰刻の雫~蒼い月~第173回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第172回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第170回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第172回「真上に上げるのではいけないのかですか?」武官達が話しているのを聞いて、ついうっかりいつものように話していたことに気付いて言葉を直す。「真上はあんまり得意でないから」握力がないのは自分でよくわかっている。真上にあげられてしまうと枝を持った途端、自分の体重と下に落ちていく落下の重さも加わり、到底自分の握力では枝をつかんではいられなくなる。それなら斜めに上げてもらって、その推力で体を振り真下へかかる重さをなくす。「あの一番下の枝をつかめるくらいの高さにあげて」「承知しました」紫...辰刻の雫~蒼い月~第172回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第171回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第170回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第171回今日最後になる言葉を発した。「ここに呉甚という者はおられませんか?」居なかった。男がその場に崩れるように座り込んだ。「・・・もう遅い」明日には早朝から六七八都の仲間が動きだす。受け入れが全く出来ない。俯いていた男の目に長靴が映った。ゆるゆると顔を上げる。「明日も続けてもらう」冷たい声が降ってきた。明日から事が動くことは分かっている、男が諦めたのだろう。だが事が動くことと、この男が呉甚を探すことは別問題。この男は呉甚と繋がりを持っているのだろうから。「二都の七坂の者、明日も呉...辰刻の雫~蒼い月~第171回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第170回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第160回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第170回武官所では青翼軍六都武官長が渋い顔を作っていた。「何名動かされますか?」「百二十七名を捕らえる、か」六都武官長宛には、杠の意見を取り入れるようにと書かれていた。武官長が腕を組んで顔を上げたが、その目は閉じられている。これが冬なら悪さをする者も少ないが、運悪く蒸し暑さもなくなって過ごしやすい。「一気にその人数ではありません。明後日、陽が昇り始めてから徐々にです」確かに六都武官長宛の文にもそう書かれていた。武官長がゆっくりと目を開いて顔を戻す。「ご提案で御座いますが、自警の群を...辰刻の雫~蒼い月~第170回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第169回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第160回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第169回武官舎の一室。「まだ見つからんのか!」呉甚は勿論の事、柴咲も。待つことばかりに耐えられず四方が声を荒げる。「柴咲が見つからないということは、あの似面絵で足止めを食っているのでしょう。いったいどこで止まったか・・・」四方の相手をしているのはマツリ。似面絵で足止めを食らっているとすれば二三四都のいずれかになる。足止めがある以上は決起が予定通りにはならないだろうが、何より捕まえなくてはならない。宮で似面絵を描いていた絵師も文官も仮眠室で寝させている。最後に描いた束はいま一都に向か...辰刻の雫~蒼い月~第169回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第168回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第160回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第168回「ああ、マツリ様が第一に考えられたことだ。この六都の学び舎は百の年以上も前に廃れてしまっていて、新しい場所も含めて十二棟の建て替えをされた。子たちに道義を教え、根本からこの六都を作り替えようとされている。幼い子たちには優しい師を、もう口達者でどうにもいかない歳の者には、ガツンと拳を落とす師を六都の外から来てもらった」「六都の外から?」「ああ、ここはまともな者が少ないからな、人の物を盗んだりするのは平気だ。道義なんて教えられる者はまずいない」「へぇー」道義とは道徳のことだろう...辰刻の雫~蒼い月~第168回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第167回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第160回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第167回杠が男の後を追って行くと何もなかったように家に戻って行った。さて、どうする。このまま見張っているか男が寄った家のどれかを見張るか。逡巡は一瞬で終った。男が寄った家の様子は享沙と柳技に任せよう。十二軒もの家に寄っていたのだ、その内の一軒が増えたとて変わるものではないだろう。男はもう家を出ないだろう。だが来る者はあるかもしれない。キレイなお姉さんと別れてまたもや三人で歩きだした。「お姉さん、紫揺のことが気に入ったみたいだったね」「私もお姉さんのおムネ気に入った」「は?」二人が声...辰刻の雫~蒼い月~第167回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第166回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第160回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第166回マツリの部屋に紫揺を寝かせると己の部屋に戻り策を講じる。「あと四日・・・」紫揺が床下に潜り込んだ家の主を何らかの手で捕らえて吐かすより・・・泳がす方を取るか・・・。だが武官所に行った時、応援の武官たちが早朝六都を出ると言っていた。簡単に武官の手を借りることはまず出来ない。・・・六都だけでも何とかしたい。いつ馬鹿者どもからの夜襲があるか分からない。隣りの部屋で眠る紫揺が心配だが、さっと地図を書くと腰を上げた。享沙が朝起きると戸の隙間から文が入れられていたのに気付いた。開いてみ...辰刻の雫~蒼い月~第166回

  • 辰刻の雫 ~蒼い月~ 第165回

    『辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~』目次『辰刻の雫~蒼い月~』第1回から第160回までの目次は以下の『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページからお願いいたします。『辰刻の雫~蒼い月~』リンクページ辰刻の雫(ときのしずく)~蒼い月~第165回右の眉の上を人差し指で押さえていた紫揺。「あ・・・」尻もちをついた紫揺に屈んできた官吏。地下の者たちに囚われていた官吏たちの家族が戻ってきた時、尾能の母を心配してマツリの後を追った。尾能の母に傷は増えていなかった。安堵して・・・すぐに杠に会いたいと思った。一人で走り戻った時、あの時ぶつかった官吏に・・・文官に黒子があった。あの場所は初めて行った場所だった。あれはどこだったのだろうか。門を二つ潜った記憶しかない。「地下に囚われてた家族の人たちが戻ってきたでしょ?馬車で」「ああ...辰刻の雫~蒼い月~第165回

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