ときは幻だけを残して移ろいゆく空はどこまでも碧く澄みわたり茶褐色の変身にいそしむケヤキはきめ細やかな秋の陽光に照射され幽玄の光輝を放っている遠くの広場には薄桃色に光る可憐なコスモスが秋風にやさしくなびきつややかにかおる木槿の赤い花芯のむこうに秋の短い夕陽がしずかに傾いてゆくやがて遊び疲れた子供の影がさみしい日暮れの小道に遠ざかりしんしん深まりゆくしずかな宵闇が濡れた夜気にとけてゆくわたしは透明な静謐のなかに流れゆくやすらかなときの鼓動を聴きながら命の永らえたことに安堵の酒杯をあげる杯を重ねるたびに熱く熟れた酒は五臓六腑の奥深く凛と沁みわたり寂滅の刹那にわたしを迎えに来る光の船の影が蛍火のようにおぼろに明滅するそうして秋の夜長の奥底に芳醇な霊気がただよいときは幻だけを残して移ろいゆくときは幻だけを残して移ろいゆく