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米米米 こどもべやのうさぎ 米米米 https://blog.goo.ne.jp/usagiusagiusagiusagi/

ストーカーに苦しみながらも明るく前向きな女の子のお話です。一緒に考え悩み笑っていただければ幸いです。

褒めると気を好くして図に乗るタイプなので お叱りのレスはご遠慮願います。 社交辞令・お世辞・甘言は大好物です。 甘やかして太らせてからお召し上がり下さい。

いちたすには
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2009/04/15

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  • ◙知諌誇戸 其の捨◙

    「ほら見て。何も無い壁に突然に爪痕」無量塔(むらた)の唾がモニターに飛ぶ。「逆に、肉眼では見えなかったのに蜃気楼みたいな何かが動いてる」モニターの唾を指で拭きながら指摘。「此処も注目。未来ちゃんとカメラの間を何かが通って画像が乱れた」何度も早戻し再生を繰り返すプロデューサー。「他のカメラにもはっきり映ってる。解析すれば立体処理で形態も判明する。凄いぞ。馬鹿相手の胡散臭い心霊番組には辟易してたんだが、此の映像があればガチで不可解現象を検証する報道番組が遣れる」ガチャガチャと必要を越えて興奮を表現するボタン操作。「CGとか合成とかインチキなのが分かってるのに其れっぽく曖昧に煽ってた自分にサヨナラだ。此れからは池上彰先生とかオリラジ中田のあっちゃんと並んで、事実科学に基づき誰に恥じる事の無い番組を胸張って作るのだ」血...◙知諌誇戸其の捨◙

  • ◙知諌誇戸 其の捨◙

    「ほら見て。何も無い壁に突然に爪痕」無量塔(むらた)の唾がモニターに飛ぶ。「逆に、肉眼では見えなかったのに蜃気楼みたいな何かが動いてる」モニターの唾を指で拭きながら指摘。「此処も注目。未来ちゃんとカメラの間を何かが通って画像が乱れた」何度も早戻し再生を繰り返すプロデューサー。「他のカメラにもはっきり映ってる。解析すれば立体処理で形態も判明する。凄いぞ。馬鹿相手の胡散臭い心霊番組には辟易してたんだが、此の映像があればガチで不可解現象を検証する報道番組が遣れる」ガチャガチャと必要を越えて興奮を表現するボタン操作。「CGとか合成とかインチキなのが分かってるのに其れっぽく曖昧に煽ってた自分にサヨナラだ。此れからは池上彰先生とかオリラジ中田のあっちゃんと並んで、事実科学に基づき誰に恥じる事の無い番組を胸張って作るのだ」血...◙知諌誇戸其の捨◙

  • ◙知諌誇戸 其の玖◙

    「話長(なげ)ぇし意味分かんねぇし」七海が知諌誇戸の話を遮った。「霊障が再発したのってアンタが来てから急にだし、なんなら前より激しいし」見えない何かが七海達を中心に円を描き彷徨っている。時折、生臭い息を吹き掛けながら。「出来るものならやってますよ。出来ないレベルのやばたんだから、正直に打ち明けてるんです」野太い吐息が、見えない何かの図体(ずうたい)の大きさを想像させる。「逆切れすんなし。インチキせいばつしの癖に。アンタが変的厘(へんてこりん)な恰好で家ん中歩き回ったから、幽霊が面白がって寄って来たんじゃないの?アンタが軽尺酷零(ちんちくりん)な呪文唱えたから幽霊がイラついたんじゃないの?アンタが妙竹林(みょうちくりん)な石翳すから幽霊がそんなの効かねえよって暴れてるんじゃないの?」四方に怯え八方を警戒する未来も...◙知諌誇戸其の玖◙

  • ◙知諌誇戸 其の捌◙

    「だから私は、やばたにえんを避けて来ました。見つけたら踵を返し襲われない様に距離を保って来ました。しかし或る時、やばたんの行動にあるパターンを発見したんです。非捕食者を襲う時以外は、目的地がある事に気付いたんです」三人の周囲を彷徨(うろつ)く、人でないモノの気配。その動きには質量があり、気の所為ではない。「何処を目指しているんだろう。巣でもあるのだろうか。危うきに近付くは愚か者のする事。しかし私は、人を襲わないやばたんの一匹を追跡してしまった。逃げるばかりでなく攻撃できる弱点でもあれば、怯えて暮らさずとも良くなるから」時折荒くなる息遣いに、生臭い風が頬を撫でる。風上に振り向くも姿は見えず、石を翳すと慌てて遠退く。「やばたにえんが惹かれて集う其の場所は一箇所ではありませんでした。日本各所に点在するやばたん誘引聖地...◙知諌誇戸其の捌◙

  • ◙知諌誇戸 其の柒◙

    「ね?」掌を叩き煤を払う。「ね?じゃねーし。其の、御萩みたいなのって、生きてたの?死んだの?何所から出したのよ」家が未だ揺れていた。「出したんじゃなくて、捕らえたんですよ。元々貴方の家に巣食ってたやばたにえんのひとつです。小さいのなら傾注で斃せるって処を見せたんです」蜻蛉(とんぼ)を採る要領でそっと手を伸ばし摘まんだ指先で、今度はピザSサイズの黒い粘土が鱏((えい)か鮃(ひらめ)の様にびったんびったん暴れた。「ふう。やばかった。貴方方、今までよく無事だったね。此れは本家でないと手に負えないわ」先程翳した白い石を粘土に押し付けると、お手玉同様に黒煙を噴き出しながら藻掻(もが)き苦しみ炭となり砕けて散った。「本家って?小父さんは分家なの?てか詐欺?役に立たない人なの?」未来を押し退け七海が迫る。「んまあ、子供って残...◙知諌誇戸其の柒◙

  • ◙知諌誇戸 其の陸◙

    床を壁を天井を、あらゆる所を叩く音で家が揺れる。「本物でも偽物でも何でも良いから兎に角早くやっつけて。その為に来たんでしょアンタ」頭を抱えて蹲り金切り声で叫ぶ未来。「けいちゅうしろ。もっと一生懸命けいちゅうってのをしろっての。でないとウチ等死ぬ」座布団を甲羅にして部屋の隅で丸くなる七海。振動で散らばるポッキーを追って走り回る結衣。「無理無理。ちっさいのなら此の石で退治できるけど大おっきいのは無理。此処を出ましょう殺される前に」家全体が軋む中、音の移動に合わせて石を盾に後退し続けた知諌誇戸は、縁側から裸足で庭に転げ落ちた。「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」人ではない何かが叫びながら庭に出る。知諌誇戸は未来と七海を後ろに庇いながら、悲鳴に向けて石を翳し日向へと避難した。...◙知諌誇戸其の陸◙

  • ◙知諌誇戸 其の伍◙

    「見えない私は目で捜すことは出来ない。でも音で判る。居るか居ないか。居るなら何処か。其処に居るのが何者なのか」掻く音は叩く音になり足音になり台所を出た。知諌誇戸は姉妹を背に庇い、廊下を後退。「もし私の目が見えていたら視覚に頼り正に文字通り見過ごしていたでしょう。しかし私は清祓司(せいばつし)。私の目に掛かれば。いや、耳に掛かれば」袴に烏帽子法衣(えぼしほうえ)を纏っていれば説得力もあっただろうが、今の知諌誇戸は肌着股引(ももひき)で汗だくの親父。「あれっ?なんだ?違う!危ないぞ!下がって!傾注!傾注!」まっすぐ向かって来た足音が知諌誇戸達の目の前で足踏み。「駄目だ。此れは危険だ。思ってたのと大分違う。追い返すで精一杯だ。私の手には負えない奴だ」黒板を爪で曳く様な不快な音が笑い声のように響き渡り、圧されて知諌誇戸...◙知諌誇戸其の伍◙

  • ◙知諌誇戸 其の肆◙

    「聞こえますか?此の小さい打撃音が。拍指(かしわし)と名付けました。親指で張力を掛けた中指を掌に打ち付ける指パッチンとは違い、親指と人差し指で拍手(はくしゅ)をイメージして鳴らします。開手(ひらて)の様に掌に空間を設けて反響させられないので、音は指の接触のみ。繊細で極小な微音です。私は此の柏指が、どれ位の時間で返ってくるのか、どんな音になって返ってくるのかを聴き分け、周りに誰が居るのか、何があるのか、其れはどれ位の距離にありどれ位の大きさなのか、目で見るよりも判る様になったんです」手を伸ばし索敵するように柏指を打ち、歩き回る。「私は弱視故(ゆえ)に特殊な能力を2つ、手にいれました。1つは、今見せた反射音で物の存在を知る能力で此れは訓練の賜物です。が、もう1つの特殊能力は」ゆっくりキッチンへ入って行く。「判ります...◙知諌誇戸其の肆◙

  • ◙知諌誇戸 其の参◙

    「なんか嫌(や)だ。なんか解んないけど物凄く嫌だ。俺も大概チャラい奴相手にしてきたけど、何々(なんなん)だろ此の無限に湧いてくる不快感?後に何(なん)も残る気がしない不毛感?キャラで煙(けむ)に巻いて、嘘混ぜ込んだ屁理屈で誤魔化そうとしてるっぽさ?何か知らんが兎に角嫌い」駄々子(だだこ)の様に喚き散らす無量塔(むらた)だが、見てる皆も思う事は一緒だった。子供の様な老婆に市販の塩を高値で買わされた後だけに、余計胡散臭く見えたのだろう。アウェイな空気が色濃く舞う。「お気遣いなくお構いなく。何時もの事なので慣れてますんで」知諌誇戸(ちいさこべ)は、先程まで恭(うやうや)しく翳していた扇で汗を飛ばし、懐からミッフィーの刺繍の入った今治フェイスタオルを出して額を拭った。「気にしてませんって言ったらウソになりますけど。あっ...◙知諌誇戸其の参◙

  • ◙知諌誇戸 其の弐◙

    「参ろうぞ。感(いざ)災厄(さいやく)渦巻く穢(けが)れの巣へ」癇に障る高音で捲し立てながら指を鳴らし拍子を取り、局の人間を掻き分け機材を跨ぎずんずん進む。「居(お)ろう居(お)ろう。災い起こす厄共、吹き溜まりて感候(いざそうろう)」リビングを抜け縁側を廻りダイニングからキッチンに辿り着く。「程(ほど)な穢れの厄を数見付けし。あ、ひい、ふう、みい」ステンレスの流し台を扇で叩きながら何かを数える。「よぉ、いつ、むぅ、と。あい判り申した。あっあっあっ。あ此れ笑い声ですので御心配無く」大きな振りで扇を閉じ、此れまでの芝居掛かった摺り足と打って変わった親父臭い足取りでどたどたとリビングに戻る。「いやあ胡散臭いと思ったでしょ。良いんですよ隠しても判るそう思ってる顏してるから。顏は正直だ。まあ、こんな恰好であんな声あげてり...◙知諌誇戸其の弐◙

  • 🔲姉妹仲違 其の捌🔲

    尻尾を巻いて退散した有限会社カゴシマン消霊と入れ違いに、浄衣(じょうえ)姿の男が朝陽(あさひ)を背に負い正門に立ち開(はだ)かった。ボリュームを最大にしたスマホから出囃子として神楽歌(かぐらうた)を流し、勿体ぶった足取りで玄関を目指すキャラの濃い男。「善よき哉かな。善よき哉かな」蚊も落ちんばかりの不可聴音ギリギリの高音を発しながら許可も得ずにずんすん敷地に侵入してくる。濃(こ)き袴に立烏帽子(たてえぼし)、壊色(えしき)とされる不浄の鈍色に染め上げられた無紋の法衣(ほうえ)を纏い、白塗りの面(つら)に剃った眉を薄墨で擦(なぞ)った引眉、紅(べに)を注(さ)した唇(くち)から覗く歯は鉄漿水(おはぐろみず)で染められぬらぬらと黒く光っていた。広げた形が其れに見える蝙蝠(こうもり)扇を勢い良く広げ、墨で認められた霊験...🔲姉妹仲違其の捌🔲

  • 🔲姉妹仲違 其の柒🔲

    「御神(みかん)ちゃん、如何(どう)いう事なの此の数値」最年長の法人代表が、丸まる虫に夢中な最年少に問う。勿論答えが返って来る事は無い。一度は興味を失ったダンゴムシだが、逃げ惑う様が幼女の琴線に触れる。四方に散るダンゴムシの再度捕獲に奔走する結衣と衣斐女。「此れは、ご依頼頂いたご家庭には漏れなくお配りさせて頂いている、次回すぐ利用できるクーポン券であります。今回お役に立てなかったのにお渡しするのは心苦しいのですが、もしまた霊的障害が起きました際には、割引させて頂きますのでご笑納ください」がっくり肩を落とし籠氏万は、クーポン券を入れたくしゃくしゃの封筒をテーブルに置くと、重い足取りで機材を引き摺り帰っていった。握り拳を震わせ見送るプロデューサー。「っだぁぁぁぁ!」カゴシマン消霊が片付け忘れて行った機材を乱暴に蹴り...🔲姉妹仲違其の柒🔲

  • 🔲姉妹仲違 其の陸🔲

    空気を読めない籠氏万は、不機嫌なテレビクルーに気付くことなく台所に入り、上機嫌でセンサーが作動するかをチェックした。手を翳すとモニターには正常に異常を関知した知らせとしての反応を映し出した。しかし昨夜の結果を再生すると、瞬きすら憚ってモニターを見詰めるも波形は微動だにせず、グラフは早回ししても逆再生してもまるで其れは静止画像。「おかしいですねぇ。昨日は確かにお台所に反応があったんでありますが」嫌な汗を拭きながら機材を叩いたり揺すったりして再起動を試みる有限会社カゴシマン消霊の社長。昭和のテレビ調整のノリである。が、特に不具合は見つからない。「行程としましては、本日は、確認出来た侵入口や移動経路に最適な罠を仕掛けて障害を捕縛し、翌朝、霊障の消沈を確認した後、報奨金額の交渉する予定だったのでありますが」行程も予定も...🔲姉妹仲違其の陸🔲

  • 🔲姉妹仲違 其の伍🔲

    夏休みの自由研究レベルのセンサーを、鼻歌を唄い乍ら設置していく月見里。止まらない籠氏万の解説。何となく全員で聴き始めた為、何となく席を立ち辛い面々。カットが掛からないので撮り続けているカメラマン。カメラが止まらないので付き合っている音声。編集すれば良かろうと回しっぱを指示した手前、其の場を離れられないプロデューサー。偶々(たまたま)一番前に正座してしまったので立ち上がれない百鬼長姉次姉。皆の後ろに付いて廻っていた結衣は最後列に居た為、難を逃れた。早い段階で会場を離れ、縁側に戻って衣斐女とポッキーの残りを賞味する。抑々(そもそも)衣斐女は説明を受ける必要がなかった。行く先々で同じ文言を講じる籠氏万蔓を見て来たのだろう。二人、縁側から降りて床下を覗き、ダンゴムシを捕まえて遊ぶ。食べ尽くしたポッキーの空き箱はすぐダン...🔲姉妹仲違其の伍🔲

  • 🔲姉妹仲違 其の肆🔲

    「何故、此の様な吐露をするのか。其れは、我々が決してインチキゴーストバスターズなどではないことを先ず布告したかったからであります。既に知らされている消息を手翳しで読み取った振りをしたり、事前に調べた情報をアクリル球を覗いて見えた見えたと騒いだりする詐欺業者や如何様師ではない、と言うことを宣誓したかったのであります。我々は、社会通念上妥当とされる対価で、科学では未だ解明されていない不可思議的被災を沈静いたします。当然に料金が発生しますが、必ず納得いただける請求であることを自負しております」針金の先端がキッチンに向いた瞬間、吾主莉の抱えた機械が耳障りな警告音を鳴り響かせた。「はい早速出ました此れは必然です知っているから反応したのではありません。貴方のお家の不可思議的災害の発生源がお台所であると言う揺るぎない事実を、...🔲姉妹仲違其の肆🔲

  • 🔲姉妹仲違 其の参🔲

    翌朝一番。定数を決めずに募集を掛けたうちの二組目が到着。一組目は呼んでないのに来た招かれざる人だったが。「どぉもどぉも。いやぁ遠かった遠かった。バス停からお宅までが未舗装路で20分なら先に言っといてくださいよぉ。砂利道でカートのタイヤ、みぃんな逝かれちゃったであります」密度が濃く一本一本も太く黒々と茂る幅広眉毛に、剃ったばかりなのに既に青田の様な口周り、髪も腕もマジックテープの様な剛毛に覆われた低姿勢の小男を筆頭に、鰯の群れの様に皆同じ動作で作業する、薄汚い白衣に身を包んだ栄養が足りて無さそうな社員達。に混じって、何故か独り小さな女の子。大きさが揃わないジュラルミンやポリカーボネートのケースを縛ったハンディカートやスマートキャリィを引き摺っての登場。「さぁさテキパキ動いてくださいよぉ。鈴子(りんご)くんはセンサ...🔲姉妹仲違其の参🔲

  • 🔲姉妹仲違 其の弐🔲

    「まあ。確かに。言われてみれば。霊の存在は。否定はしませんでした。ね」アイコスをガシガシ噛みながらプロデューサーは忙しなく歩き回った。「しかも、行成(いきな)り報酬を請求して来るパターンは初めてですよ。抑(そもそ)も現金を要求されたは事が今まで無かった。もしかしたら今回は本当に心霊を認めたのかも。まさか金に困っての迎合とか?そうか成り済ましの詐欺って可能性もありますか。何れにしても番組的には盛り上がりますね」興奮を隠せず手にした台本で意味なくあちこち叩いて歩く。「盛り上がるのは其方(そちら)の勝手ですけど、霊障を解消するって約束は、忘れないで・く・だ・さ・い・ね?」次女は丸めた台本を奪いプロデューサーの頭をポコポコ叩いた。「勿論ですよ。オシロさんがパチモンだったとしても其れは飽くまで余興です。後半必ず科学的に解...🔲姉妹仲違其の弐🔲

  • 🔲姉妹仲違 其の壱🔲

    「うわぁ。10万詐欺(さぎ)られた。てかお姉ちゃん、なんで払うの?てかお姉ちゃん、アレ誰?」次女は平倒(へた)り込み肩を落とした。「ママ入院してパパ居なくなって、お金は幾らあっても足りないから、少しでも足しになるならって密着取材オーケーしたのに」落ちて来るのが牡丹餅なら受け留められる規模の大口を開けて泣面(べそ)掻く。「まあまあまあまあ落ち着いて。アレの襲撃は想定内です」一番取り乱していた肩掛けカーディガンのプロデューサーが執成(とりな)す。「おい誰かコーヒー。今からちゃんと説明しますから、ね」招かれざるオシロの来訪に、段取りが狂ったスタッフ達は右往左往するだけの烏合の衆。「アレはオシロさんと言って、2年程前に降って涌いた此の業界じゃ有名な迷惑一家なんですよ」カーディガン男は、アイコスを口に咥え眉を顰めた。「一...🔲姉妹仲違其の壱🔲

  • 🔶白様襲来 其の弐🔶

    「霊が出るから来たんでしょ。此れまでのは、貴方達(あんたたち)がトリックやフェイクって解った上で霊だ超常だって騙してるからお灸据えたのよ。其れと結衣(ゆい)ちゃん、私は巫女(みこ)じゃなくてまこ(馬娘)。だから結衣ちゃんとはちょっと違うのよ」オシロと呼ばれた老女は、結衣に手を預けてスニーカーを脱いだ。「さ、案内して、お台所よ。お台所に案内してちょーだい。禍(わざわい)が澱(よど)むのは何時も水回りだから」結衣は、広い三和土(たたき)に脱ぎ捨てられた靴々を蹴り散らかし、オシロのスニーカーだけを丁寧に揃えた。南向きの玄関から北側の台所まで貫通する廊下は、暗く機材でごった返している。九尺四枚建(きゅうしゃくよんまいだて)の玄関引き戸を左右に開け放ち、その正面を狙ったモーション検知カメラが鎮座。廊下にもポールが立てられ...🔶白様襲来其の弐🔶

  • 🔶白様襲来 其の壱🔶

    「あれ?あれって、結衣(ゆい)じゃなくね?片っぽあれ結衣だよ。結衣テメ今日テレビ来るから達(だち)連れて来んなって言っといたべ」長女は掌(てのひら)で日差しを遮りながら、近付く二人の素性に目を凝らした。「うわわわ。オシロさん来た。今度はお婆ちゃんのオシロさん来た」此処で初めてベースボールキャップに肩掛けカーディガンの男が口を開いた。「え?誰?お婆ちゃん?結衣の同級生と違うの?」次女は口からポッキーを落とし、裸足で三和土(たたき)に駆け降りる。「お今日(こーんにち)わ。来てあげたわよ」結衣と手を繋いで現れたのは、背格好は結衣と同じ小学一年生だが見た目年齢は九十超えた老女だった。「あ~居るわね禍膠(こび)り着いてるわよ此の家には。良かったわね蔓延)(はびこ)る前に私に会えて。蔓延(まんえん)してからだったら一千万円...🔶白様襲来其の壱🔶

  • ▣姉妹登壇 其の弐▣

    「プリベル知らんの?プリンスオブペルシャの略だし。タミーナ王女だし。アンタ去年ハロウィンでやってたし」盆地の集落は四方を囲む山々に阻まれ、夜が明けるのは遅く日が暮れるのは早い。「あれってペルシャの民族衣装なん?知らんで着てたわ。ちょっとエロいからモテるかなーってノリで」最寄りの駅までバスで半時間、家からバス停までも都会ならタクシーを呼ぶ距離。其のバスも一時間に一本で日に五本、台風の季節は鉄砲水が道路を横切るので数日運休。「知っとけし。てかアレ、アタシが貰ったし。なんならアタシもう着てるし」等高線に添って山を一周する国道に貼り付く人家は、お隣さんでも味噌汁が冷める距離。「女装家も酷かったけど、霊能者でーすって入って来た、アンガールズの田中じゃない方に似てた奴とかも、酷かったねー。幽霊退治に来たのに幽霊見えたって大...▣姉妹登壇其の弐▣

  • ▣姉妹罹災 其の壱▣

    「バラエティードキュメント?ドキュバラ引っ繰り返しただけで、やらせ問題はスルーってか」長女はポッキーを一本咥え、寄り目で枝毛をチェックした。「ライスカレーとカレーライスくらいしか違わんし」お通じが悪くなったのは上司が無能だからだと辞表を叩きつけ、返す刀で家事を分担しない同棲相手から合鍵を毟(むし)り取ったものの、折半していた家賃光熱費の全額負担がキツくなり実家に帰巣し居座った暴れ馬の姉。「さあ、どーだろ。意外とウ〇コ味のカレーとカレー味のウ〇コくらい違うかもよ?」次女は上り框(かまち)を踵で蹴りながら長女のポッキーに手を伸ばした。「どっちか食べなかったら殺すって言われたら、やっぱカレーかな。ウ〇コ味っても、ウ〇コ食ったことないから知らんし」染髪不問という校則に惹かれて受験した高校がメイク禁止であることを入学式で...▣姉妹罹災其の壱▣

  • ❏村人陳情 其の肆❏

    ポニーテールの項を見送りながら、二人は股間を押え前屈んだ。「堪んねえなあ、おい。漂うフ、フ、フエロモンが、ピンク色に漂うとる」「なあなあ。キャバクラ奢ってくんなましょい。余計な事あ喋んねがらよお」店員は配られていた割引チケットを振り翳して戻ってきた。「はい此れチケット。此れで10%引きになりますからね。なあに?やらしい顏。もしかして此の後そういうお店行く話、してたんですか?エッチ」もう完全に掌で転がされてる二人のデレデレは止まらない。「姉ちゃん仕事終わんの何時よ?」「寿司食いたくねが?寿司。奢るし」此の間違った距離の詰め方がモテない原因に他ならない。「残念でした私カレシ居まあす。3名様お帰りでえす」軽く遇われレジへと誘導。足腰立たない村民は摑まり立ちでよろめきながら店外へ。「お客さん達って。ご出身、何方(どちら...❏村人陳情其の肆❏

  • ❏村人陳情 其の肆❏

    ポニーテールの項を見送りながら、二人は股間を押え前屈んだ。「堪んねえなあ、おい。漂うフ、フ、フエロモンが、ピンク色に漂うとる」「なあなあ。キャバクラ奢ってくんなましょい。余計な事(あ)喋んねけよ」店員は配られていた割引チケットを振り翳して戻ってきた。「はい此れチケット。此れで10%引きになりますからね。なあに?やらしい顏。もしかして此の後そういうお店行く話、してたんですか?エッチ」もう完全に掌で転がされてる二人のデレデレは止まらない。「姉ちゃん仕事終わんの何時よ?」「寿司食いたくねが?寿司。奢るし」此の間違った距離の詰め方がモテない原因に他ならない。「残念でした私カレシ居まあす。3名様お帰りでえす」軽く遇われレジへと誘導。足腰立たない村民は摑まり立ちでよろめきながら店外へ。「お客さん達って。ご出身、何方(どちら...❏村人陳情其の肆❏

  • ❏村人陳情 其の参❏

    十二時を過ぎた大衆酒場は、平日という事もあってだろう席に客は疎らだった。「金、金は有るんかの?巫女買わせるにも金は有るんかの?」「高麗塚偉(こまつかい)は銭持っとるぞな。嫁いだ娘が送ってきた写真に、グランドピアノが写っとったに」身を乗り出して目を剥く村民2人。「高麗塚偉なら有るじゃろの。あそこはチヨダのお膝元じゃけ」刃丈太は遠くの席の空き皿を片付ける店員の生脚を眺めて目を細めた。「此(こ)ん話(はなしゃ)あ、三人だけの秘密ぞ?守れや?なんせ人身売買じゃげの。しかもチヨダに盾突く事になっかも、だ」酔いが回った刃丈太が、村民2人の首を掴み引き寄せた。「得た銭(じぇじぇ)こは、誰の情報が役に立っだとしても、平等に三等分にす」二人は箸で醤油皿を小さく叩いた。「先(まんず)ば乾杯じゃ。緘口の誓いと分配の契りぞ」「観光が近...❏村人陳情其の参❏

  • ❏村人陳情 其の弐❏

    「時によ、あのチビは今何処に居(お)るんかの」何時の間にやら炒飯と焼きそばとお好み焼きは、隅に押し遣られ冷めていた。「誰(た)ぞ?チビて」耳に全神経を集中させながら刃(は)丈(たけ)太(だ)は外方(そっぽ)を向いて素っ呆けた。「白(しら)切んなや。百鬼(なきり)の夫婦の仇ば討った、あの細(こんま)いのことばい」「隠しても無駄すて。アレを殲滅したんが一花だって事(こた)あ、村人なら皆(みんんんな)知っとおと」二人は品書きから目を離さない。「さあ。そうだったかの。一花が倒れとったが御柱(みはしら)の傍じゃったけ、そんな噂が立ったんじゃなかろうも」焼き鳥を手に取り口に運ばず弄ぶ刃丈太。「そおゆう惚(とぼ)けは良(え)えて。あのチビの行方が一山になるちゅう話ば持って来たんじゃけ、知っとおなら勿体振らんとさっさと言いやあ...❏村人陳情其の弐❏

  • ◪村人陳情 其の壱◪

    廃村になってから1年が過ぎた頃。不満を溜め吐け口を求めて元村人が二人、無心と謀議を持ち掛けに刃丈太(はたけだ)邸を訪れた。村を出た者達は、襲われる心配こそ無くなったが、外界の価値観に翻弄される生活に疲弊していた。労働党の独裁により経済が崩壊した分断国家から亡命した難民の様に、主義の異なる社会に馴染めず苦しむ。読み書きが出来ない男衆(おとこし)は履歴書が書けず日雇い土方を抜けられない。電卓に触れた事も無い者にレジなど打てる筈もなく派遣に登録しても求人は無い。容姿に自信があっても人心掌握の話術に疎い娘子(むすめご)の接客業は続かない。其々が得意としたり興味があった職種に就いてはみたが、勤しんだ経験の無い御国者が暮らしていける程に稼げる訳もなく、結局は一般では耳にすることはない『慰労恩賞』だけが頼りの生活。しかし其の...◪村人陳情其の壱◪

  • ☒寿樹通夜 其の弐☒

    <divstyle="text-align:left"><spanstyle="color:black;"><spanstyle="font-size:16px;">「犠牲が出た今なら」刃丈太(はたけだ)は徳利を乱暴に振り、残った酒を猪口(ちょこ)に注ぎ切った。「しかも二人で、内一人が巫女で、も一人も馬な今なら。流石のチヨダも首を縦に振らざるえんじゃろ」猪口に滴る徳利の酒が表面張力で盛り上がる。「してもよ。もう何代も働いた事さ無(ね)ぇ俺等がよ、町さ降ってもやってけるもんかの」「刃丈太さん処とこだばさあ、息子さが町の役場で働いでっがら馴染みも早かろけども」「俺なんざ五画以上の漢字、読めねし書けねだど?何の仕事が務まるだが」「そら私(わ)も一緒さ。掛け算九九、三の段以上は言えねす。誰が雇うね此んなんを」愚図る村民...☒寿樹通夜其の弐☒

  • ☒寿樹通夜 其の壱☒

    「だーかーらー儂(わしゃあ)ずっと言うてきたがじゃ」既に酒が廻り赤ら顔で目の座った刃丈太刃丈太(はたけだ)は、飲み干した猪口を卓袱台に叩きつけた。「止めれ。通夜の席でする話では無(ね)」皆が目を合わせるのを避けて俯く中、遠くの席から誰かが諫める。夫婦揃って虚血性心疾患で急死した、寿樹(よしき)の両親の通夜振舞いの席。「じゃあ何時(いつ)、議(ぎ)するが?儂は誰ぞ亡くなる度に進言して来ただに。全員殺されてからじゃ、議も出来んのじゃい」翌日に葬儀を控える喪主は親族ではない隣家の刃丈太。寿樹の親族は亡くなった両親だけだった。「今度こそ限界だがじゃ。百鬼(なきり)ん家(ち)が夫婦で獲られたで、もう巫女の現役は三人揃わんし馬も全滅。寿樹が娶れる歳までは待てねし、物集女(もずめ)ん処のちっこい娘(のん)も、判別付くのは1年...☒寿樹通夜其の壱☒

  • ❖一花遭遇 其の参❖

    蜘蛛は圧されながら顏を一花に向けた。十六の眼に一花が映る。山の入り口で赤土道(あかつちみち)を外れ、一花は薄原(すすきはら)の中へと分け入った。行く手を阻む笹竹を掃いながら、一花は蜘蛛を押し続けた。陽が暮れかけた秋の山間。裸足の脚や手や顔に葉の縁の鋸歯(きょし)が当たり、肌に赤く血が滲む。其れでも一花は押し続けた。押すを止めたら蜘蛛が報復に出るだろうから。休む事は許されなかった。「徐々(そろそろ)案配(あんばい)かな。どら、御前を戴く事とするよ。太陽日(たいようじつ)の内に巫女を二人も喰らえるとは、口福(こうふく)極まれり」蜘蛛は八本の脚を振り上げると地に刺し踏み留まる。更なる抵抗に小さな女の子の気力は尽き、張り詰めた緊張の糸がぷつりと切れた。「三柱(みはしら)揃わずとも気迫で討てると奢ったか。刀など添え物に過...❖一花遭遇其の参❖

  • ❖一花遭遇 其の弐❖

    無量の蜘蛛は、斬っても突いても弱る気配は一向に無かった。其れでも諦めず石刀を軛(くびき)に持ち替え満身の力を込める一花(いちか)。しかし肘まで埋まる程に減り込ませても、払う事は疎(おろ)か両親から引き離す事すら叶わない。咬まれた二人の手足は力無く下がり、首も有らぬ方向に折れている。もう限界だ。一花の髪が逆立ち靡(なび)く。「出てって。よっちゃん家(ち)から。出てってって」自棄(やけ)となり自暴(じぼう)を起こした一花は石刀を捨て、蜘蛛を素手で押し始めた。六畳間を狭しと占拠する魁偉(かいい)な蜘蛛に、未就学児が紅葉の様な掌(てのひら)で挑む。すると。人より大きい節足動物を前に竦まず立ち向かい、内蔵噴き出す腹部に触れてでも排除しようという小さな女の子が奇跡を起こした。身の丈十二尺(じゅうにしゃく)を超す蜘蛛は自然界...❖一花遭遇其の弐❖

  • ❖一花遭遇 其の壱❖

    「貴方(あなた)は誰?此処(ここ)でいったい何をしてるの?」幼い一花(いちか)が目を凝らす先で、著大(ちょだい)な違客(いきゃく)が応接間を占拠していた。誰とは問うたが人では無い。人も通わぬ獣道の果てに、寄り添う様に建つ萱葺(かやぶき)家屋(かおく)の内のひとつ。築百年は優に越す。渋(しぶ)墨(すみ)が塗られた梁と煤(すす)けで黝(くろず)んだ漆喰壁の奥座敷は、障子戸から漏れる薄明りだけを頼りだ。「其処(そこ)に居るのは、よっちゃんのパパとママでしょ?」返事は無く、何かを吸い出す音だけが不気味に響く。都会の狭小住宅からは想像が付かない部屋数を誇るが、進む過疎化に人の出入りは無くなり、応接と銘打ちながらも倉庫宜しく塵(ちり)が山と積もっていた。知ったる勝手を良い事に幼馴染(おさななじみ)を捜して障子を開け放ち廻っ...❖一花遭遇其の壱❖

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢052■

    目的は到達なのか行進なのか。其々の個性の披露に全神経を集中するが故に、一同はなかなか居間迄辿り着かなかった。リオのカーニバルには及ばないが狐の嫁入り行列よりは派手。夜さ来い祭りの体の面々。呆気に取られる百鬼(なきり)姉妹の前を通り過ぎ、スリーピースの男がソファーに腰掛けると、其の他大勢は後ろに整列した。最大都市にルイビルを擁するアメリカ合衆国の中東部にある州から世界初のフランチャイズビジネスを創始しトレードマークとして各店舗前に立つ人形に似た男が促(うばなが)すと、其れを合図に汚れた白衣の顰(しか)めっ面の男が口を開く。「お初にお目に掛かります、私(わたくし)、超自然現象解明駆逐機構のエンジニア、工(たくみ)丁(さとる)と申す者。私共(わたくしども)は、日常生活に支障を来(きた)す異常数値的現象を物理的に鎮静化...■彼は誰れ時に魔と再逢052■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢051■

    「3人目はぁ、其れっぽい浄衣姿に其れっぽい能書きで其れっぽい現象を見せてはくれましたがぁ、幽霊ったら映像には一切映らずぅ。全ては集団催眠だったのか。只今、鋭意検証中の怪しい盲目の清祓司(せいばぁつしぃ)、狩厄(かるやくぅ)知諌誇戸(ちぃぃぃさこべぇ)栖(すぅぐぅぅるぅぅ)」興奮し出した地方新人アナは、大股でミニスカートを託し上げ、レニーハート宜しく巻き舌で選手を紹介。眉間には込めた力で刻まれた深い皺、見据える視線は左右其々(それぞれ)で定まらず、引き攣った唇で口紅が移った前歯は4本だけ真っ赤っ赤。「いいんだぁ?好き勝手やっても。ふぅぅ」耳に息を吹きかけられて腰砕けるプロデューサー無量塔(むらた)。ADとも何かしらの関係を予感させる距離感だ。「オープニングだって言ってるのに、ここ数日の撮影の裏側全部バラしちゃって...■彼は誰れ時に魔と再逢051■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢050■

    「さぁあぁ腐ってても仕方ないです。再開しましょぉか。カメラさん、オーケー?音声さん、どぉですか?もろもろ宜しかったらお願いしまぁーす」無量塔(むらた)の指示を待たずに女子アナが勝手にキューを出した。「はぁい御影山TV(みかげさんてぃーびー)新人アナウンサーの雨宮(あまみや)成実(なるみ)っでぇす。鳥海(なるみ)って苗字の人と結婚すると鳥海成美(なるみなるみ)になっちゃう成美ちゃんだよーキャハ。其れは其れとしてぇ。今回私(アーシ)は、心霊現象に苛まれ家族が不幸に見舞われている、というご家庭にお邪魔していまぁす。お母さまが謎の病に伏し、看病に疲れたお父様は書置きも無く失踪。残された姉妹を幽霊が襲う。第一弾では、実績のある霊能力者を番組が召喚して幽霊に挑みました。しかぁし、一時(いっとき)は治まったかに見えた心霊現象...■彼は誰れ時に魔と再逢050■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢049■

    煙の原因は隙間から入った埃が原因だった。グリスアップされた歯車が塵を噛み、抵抗により発熱していた。砂塵を巻き上げる突風や原因不明の漏電により、機材は皆疲弊していた。過酷なロケにも耐え得る仕様のプロ機材が、軒並みトラブルを起こし悲鳴を上げる。音声のマイクも入り込んだ湿気が雑音を拾う。照明も新品の電球が次々と切れて予備球も底をついた。他も突然ヒューズが飛んだり、キャプタイヤが異臭を放ったり、不具合には暇がなかった。しかたなく、総点検して仕切り直す為に一旦休憩、昼食を摂ることに。都合良く早めに届いていた仕出し弁当を皆に配るAD。「此処も寒暖差が激しい高地ではあるけど、もっと過酷な環境なんて幾らでもあったよな。こんな急に全部の機材が壊れるなんて。何かの力が働いたとしか思えない」白飯と濃い味の煮しめと交合に口に運びながら...■彼は誰れ時に魔と再逢049■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢048■

    「はぁーい。第二弾からご覧の皆さま、初めましてぇ。第一弾からご覧の皆さま、もぉ、初めましてでしたねぇ。私(アーシ)はぁ、第一弾には出てませんでしたー」登場から既に濃かったメイクを更に塗り込んだ鼻息荒い新人女子アナ。「いやいやいやいや。御前じゃない。てか御前メイク濃い」無量塔(むらた)に押し退けられるアナの後ろで、気が付けば既にメイクばっちりでスタンバイの次女。「七海(ななみ)さんも濃過ぎです。不自然極まりない。落としてください其のメイク」次女は突き付けられた人差指に気圧されてハウス。「じゃあ、台本(ほん)通りにお姉さんの自己紹介から」長女も何時の間にやら着替えを済ませており、用意していたプリペルなエロチェニ姿になっていた。もう注意する気力も失せ、無量塔は頭を抱え姉と目を合わさずキューを出した。目を閉じ大きく息を...■彼は誰れ時に魔と再逢048■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢047■

    領収証は渡せないという幻中(まもなか)に従い、現金を手渡す動画を保存した。興奮するとお姉言葉になる除霊師は、戻りのタクシー代を無量塔(むらた)に集る。町からタクシーが来るまでの待ち時間に、自分のタイプのADとチェキを撮った荒神(こうじん)は満足げに帰って行った。悪霊駆除ドキュメンタリー特番第二弾の長い二日目が終わった。無量塔はスタッフを集め、夜遅くまで此れまでの全ての映像の検証を行っていたが、翌朝の顔色から窺うに撮れ多寡には不満がある様だった。お祓いと称して市販の塩を売り付けたお婆ちゃんに、小学生の秘密基地レベルの工作機器で何も計測出来ずに女児を置き去りにして帰ったカゴシマン一党。其れっぽい井出達(いでたち)で尺を稼いでくれたが、集団催眠だかで天変地異を見せただけで除霊は出来なかった清祓司(せいばつし)。そして...■彼は誰れ時に魔と再逢047■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢045■

    「私は悪徳除霊師ではありませんから、弱みに付け込み謝礼を釣り上げる様な卑しい真似はいたしません。最初に約束した10万円。其れだけ頂けば結構です」姉妹は顏を見合わせ頷いた。「では。契約成立。お望み通り。悪霊を除霊して進ぜましょ」男は嫌味な程に深々と頭(こうべ)を垂(た)れる。「聴け悪しき霊どもよ。最後の通告を無視した報いを受けよ。愚かな者等に道はひとつ」動いたり止まったりする調理器具。不可解に閉じたり開いたりを繰り返す戸棚。誰も触れていないのに動き回る椅子やテーブル。お辞儀をしたままの男は微動だにしない。霊を除くに必要な熟成時間なのか、能力が拮抗して水入り待ちなのか、はたまた除霊師は悪霊に気圧され失神寸前なのか。騒乱と静寂が居並ぶ中で、次々と割れていく食器と動き回る家具家電。「獣霊(けだものれい)には制裁を!」呼...■彼は誰れ時に魔と再逢045■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢045■

    「私は悪徳除霊師ではありませんから、弱みに付け込み謝礼を釣り上げる様な卑しい真似はいたしません。最初に約束した10万円。其れだけ頂けば結構です」姉妹は顏を見合わせ頷いた。「では。契約成立。お望み通り。悪霊を除霊して進ぜましょ」男は嫌味な程に深々と頭(こうべ)を垂(た)れる。「聴け悪しき霊どもよ。最後の通告を無視した報いを受けよ。愚かな者等に道はひとつ」動いたり止まったりする調理器具。不可解に閉じたり開いたりを繰り返す戸棚。誰も触れていないのに動き回る椅子やテーブル。お辞儀をしたままの男は微動だにしない。霊を除くに必要な熟成時間なのか、能力が拮抗して水入り待ちなのか、はたまた除霊師は悪霊に気圧され失神寸前なのか。騒乱と静寂が居並ぶ中で、次々と割れていく食器と動き回る家具家電。「獣霊(けだものれい)には制裁を!」呼...■彼は誰れ時に魔と再逢045■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢044■

    「苦しめ苦しめ―。己の悪戯(いたずら)がどれ程此の屋(このや)の住人(すみびと)を苦しめてきたか。同じ苦しみを躰(からだ)で知―るーがーよーいー」家電のコードから、電気ショートが発生したのか火花が散り炎が上がる。プラグやスイッチからも、トラッキング現象の様な噴き出す火柱。キッチンのあちこちで火災が起き、盛(さか)る炎に煙が巻き上がった。「まだ抗うか往生際の悪い。今詫びれば見逃してやると言っているのに、固執して此処で果てるか獣霊(けだものれー)め。しかし其れも又一興(いっきょー)」爆発により家の柱が軋み、梁に積もった砂埃(すなぼこり)が降る。「本物だよ七海。本物の埃が落ちてきてる。あの征伐士(せいばつし)は、録画も録音も出来なかったけど、此の除霊師は本物のゴミ落としてるから本物だよ」床に積もった土塊(つちくれ)を...■彼は誰れ時に魔と再逢044■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢043■

    実際に30万円を払うのは無量塔(むらた)で、負担するのはテレビ局だが。「待ちますよ待てますよ待てるんです何故なら私は本物だから。偽物は鍍金が剥がれる前に金だけ持って逃げたいので待てません。私は本物だから勿論待てますが、待つだけではなく除霊の行程も全て隠さず撮影を許可しましょう私の仕事が10万円の対価として相応しいか見極めていただく為にも」Aラインの黒いスプリングコートを脱いで椅子に掛ける。「私が本物であることを証明するのに必要なのは、誰の目にも明らかな具体的な成果。成果とは、家族が安穏と暮らしていけると言う今後此の家での一切の霊的現象の途絶。途絶を確認いただくにはまず悪霊の目視です」ブイサインを自分に向け左右の目を指す。其の爪はマニキュアが塗られ光沢の無いブラック。肌蹴た黒いカジュアルワイシャツのポケットから黒...■彼は誰れ時に魔と再逢043■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢042■

    登場こそセンセーショナルで自己紹介もエモーショナルだが、何処か、金だけ受け取り何も解決せずに思わせ振りに退散した狩厄(かるやく)を想起させる胡散臭い除霊師荒神(こうじん)。「さて。下世話な話は早く済ませましょう。こういう処で揉めるのは悪霊に付け入られる隙を与えるだけですからね。悪霊は、もうロックオンしました。此の家の悪霊は、特に此の家や此の家に住む者に恨みを持つ人格霊(じんかくれい)ではなく、怖がる様を面白がって悪さしている獣霊(けだものれい)です。なので、害獣の駆除消毒レベルで解決します。金額にして、そう、10万程も頂ければ結構です」大きく吸う息に合わせて煙草の先がチリチリと燃え短くなっていく。「ほうらビンゴ。やっぱり請求してきた然も金額ジャスト10万」「流行ってるのか?10万請求するってのが。だとしたら社会...■彼は誰れ時に魔と再逢042■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢041■

    「私が来たからにはもう年貢は納め時だぞ悪霊め。御前は既に我が手中。私の能力を見切れなかったが己の悲劇。既に除霊は成ったも同然」男は、キッチンの棚全てを閉めて周る。男は動かしたテーブルを戻し椅子を仕舞い、食洗器やレンジやオーブンなど全ての扉を閉じて回った。「申し遅れました。私、除霊師をしております幻中(まもなか)荒神(こうじん)と申す者です」何も無い掌を電灯に翳し振り下ろすと其の指には角が丸く虹色に輝く怪しい名刺が挟まれていた。「除霊師とは、霊媒師の中でも特に『人に害を成す霊を取り除く力』を持った者を指します。霊と交信する能力を持ち、霊を召喚し我が身に憑依させる力を備え、天から霊を除する御役目を賜わった者、其れが我等除霊師なのです」人差し指で円を描くと指の先に火が灯った。「除霊其れは悪霊との対決。字面(じづら)か...■彼は誰れ時に魔と再逢041■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢040■

    「皆さん不思議に思うでしょー。何故(なにゆえ)、玄関ではなく忽然と客間から現れたのか。あ、靴はちゃんと玄関で脱いで来ましたよー。如何(どう)して、此の再募集を知ったのか。あ、事前仕込みの業界人ではありませんからー」誰の許可も取らずにずかずかと無量塔(むらた)と並んでフレームインする細身の男。「此れが、私の能力なのです。人知れず現れる。秘(ひ)さるる情報を知り得る。そして」左の掌を右の人差し指で指す。「此の手です。此の手が悪霊を除霊する。此の家の悪霊、私が除霊して差し上げる」胸ポケットから出した紙飛行機が吹き掛けられた息に乗って軽ふわりと浮かび、無量塔の鼻先を掠めてキッチンへ飛んでいった。「撮ってますかー?いいですかー?今から悪霊をお見せしますよー?テレビ番組市場初カメラで撮れる悪霊でーす」男は紙飛行機を追ってキ...■彼は誰れ時に魔と再逢040■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢039■

    「そのご家庭は、我々が介在した所為で尚激しい不可思議現象に苛まれることになりました。母親は原因不明で治療方法が判らない病魔に侵され、療養を兼ねて越した先で父親が失踪。姉妹が暮らす此の家では、夜な夜な何者かが徘徊。鋭利な調理器具が飛んで来たり、髪を引き回されたり、原因を解明しなければ平穏な生活は送れない処にまで来てしまいました。此れは本当に心霊現象なのかもしれない。其処で今回は第二弾として、此のご家庭の今の現象を見た上で、私なら解決できる、と言う方を、テレビを通して公募しました」歩き回る無量塔(むらた)を複数のカメラが追う。「これはドキュメントです」一番近いカメラを指差してポーズを決める無量塔。「そして、リベンジです」脚色を加えず事実に基づくことを宣言した無量塔スポットが当たる。「アーシの出番はぁ?」出番を削る処...■彼は誰れ時に魔と再逢039■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢038■

    「なんか普通に居付いてる子が居るんですけど」七海は、懐中電灯をライトサーベルに見立てて降り回す子供の首根っこを捕まえた。「あれ?此の子、鹿児島達と帰ったんじゃなかったの?」未来は、首を決められても未だチャンバラに興じようと暴れる子供の唇を上に引っ張った。「いや。ゴミみたいな機材は忘れてったんだか棄ててったんだか知らんが、幾つか置いてったけど、此の子はバスに乗る処まで確認したぞ。おいちょっと確認しろ」無量塔(むらた)の指示で、有限会社カゴシマン消霊の敗走シーンが再生される。地味で不潔な白衣の社員に紛れ、小さい女の子が自分の腰程の高さのバスのタラップを攀じ登っているのが写っている。走り去るバスの窓から結衣(ゆい)に手を振る衣斐女(えひめ)の姿も記録されている。間違いなく、衣斐女はカゴシマン一党と村を去った。なのに何...■彼は誰れ時に魔と再逢038■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢037■

    「何か見えた奴」無量塔(むらた)の問う声に、皆、下を向いた。結論、何も映っていなかった。何もない廊下を指差し怯え、何も通らない道を皆して開けたのだ。「じゃあ」再度、問う無量塔。「何かしらの気配を感じた奴」挙手を促す無量塔の袖を雨宮が掴む。皆が続き、全員の手が挙がった。「人は感じる、カメラでは撮れない、何か。か」無量塔は無い顎鬚(あごひげ)を撫でながら呟いた。「何(なん)だったんですかぁ?今のアレ」擦り寄り囁く女子アナ。「其れを此れから解明するんだよ」縋る女子アナを抱き寄せる。皆は2人が付き合っている事を再確認。そして気付かない振り見ない振り。「とりあえず」此処まで黙っていた未来(みき)が一歩前へ。「皆(みんな)見たんですよね。アタシたち家族だけじゃない、此処に居る全員が」未来の後ろには裾を掴む七海(ななみ)が。...■彼は誰れ時に魔と再逢037■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢036■

    黒い雲丹(うに)から生えた針が中程から折り曲げ其の先端が床を捉えた。無数の針に支えられ、蟹(かに)の様に移動を開始する。黒い靄(もや)の様なものを軌跡に残しながら、ゆらりゆらりと廊下をリビングに向けて歩いてくる。キッチンを見ると沢山の同じ何かが後に続いていた。其れに気が付いたのは、女子アナだけだった。「ムラさぁん…気持ち悪いぃ。何(なん)かがいっぱい居るぅ。いっぱいが、ザワザワ言いながら」女子アナが其れを理解するのには知識が足りず、説明するにも情報が少な過ぎた。節足動物(せっそくどうぶつ)にも見えるが、全種の8割を占める種には当て嵌まらない造詣。動きはミミズ・ゴカイ・イソメなどの環形動物(かんけいどうぶつ)にも似てはいるが微妙に異なる。シルエットだけで言えばザトウムシやウミグモなどの夾角類(きょうかくるい)が適...■彼は誰れ時に魔と再逢036■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢035■

    「面白可笑しくだなんて其れは誤解です。飽くまでも、不可思議現象の解消までを記録するドキュメントです。其の過程で、インチキ霊媒師の正体を暴くこともあるでしょうし、ご家族の杞憂だったって場合も、あると言う、だけ、で」目が泳ぐとは正に此の事。狼狽(うろた)え捲る無量塔(むjらた)に肩の力が抜けた七海は大きく長い溜息を吐(つ)いた。「いいよもう。ウチらの勘違いでも被害妄想でも虚言癖でも、約束したお金さえ貰えるなら。信じてないなってのは、結構最初のうちから思ってたし。兎に角ウチにはお金が無い。パパ居ないから収入無いしママ入院してて治療費掛かるんだから。嘘吐き家族って後ろ指刺されても、米買う金は必要だからね」皆、互いの目を見ず、重苦しい空気に場が沈む。七海の溜息がスタッフの間を連鎖していく。腰に手を当て天井を仰ぐ者、目を閉...■彼は誰れ時に魔と再逢035■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢034■

    平日の昼飯時に帯で放送される主婦層をターゲットとしたドラマさながら、存分に渦巻く無量塔と女子アナの愛憎劇。日は疾うに暮れ、晩御飯を支給されていない外注スタッフが恨みがましくプロデューサーを睨む。「未だ、御名刺お渡ししてなかったぁですね。アーシこぉゆう者でぇす宜しくお願いいたしますぅ」名も無き地方局アナが肩書を示して名乗りを挙げた。七海が突き付けられたのは、四隅が丸く整形され虹色に輝くピンクの越前和紙の上に文字が盛り上がっている、地方局の予算ではとても作成できない六本木のキャバ嬢レベルの名刺だった。分光性塗料に因る様々な色の変化を褒めて欲しい女子アナは、受け取ろうとする七海の手を逃れヒラヒラと角度を変えて見せる。「ふーん。アンタ雨宮成実(あまみやなるみ)って言うんだ?まあよくある名前かな」剣の達人が飛ぶ蠅の行く先...■彼は誰れ時に魔と再逢034■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢033■

    目からビームを発射しそうな剣幕の七海。「結局は面白可笑しい絵が撮れればウチらの事なんかどうなろうが知ったこっちゃないんだよ。お化けが出ますって顏まで晒しちゃったウチらはどうなるのよ。お化けは気の所為でした。アタシたちは、自意識過剰で被害妄想で悲劇のヒロイン気取ったミュンヒハウゼン症候群姉妹だって噂されるのよ」肩を掴む七海の指が勢い余って無量塔を吊り上げる。「いやいやそんな事はないですよ。ただね、企画ってのは生物なんです。流れで当初の思惑とは異なる結末を迎える事も儘あるんです演出通りには行かない事の方が多いんです。状況に因っては引っ繰り返ったりご破算になったりもするんです。でも。どっちに転んでも視聴率は取らなくてはならない取れる様に誘導しなくてはならない。それがテレビと言うものなんです」爪先立って緩和するも既にカ...■彼は誰れ時に魔と再逢033■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢032■

    「あのぉ。私(アーシ)、ちょっとついてけてないんですが。何がチャラでぇ、何が仕切り直し?なんでしょか」腰を中心にねっとり傾きながら地方局アナがキー局プロデューサーに絡み付く。2人がデキているのは一目瞭然。「黙って聴いてろ。まだ現状を把握し直してる状態だ。どうするかは其れから考える」八つ当たりの矛先が向かうのは、何時の世でも其の場で一番弱い者。目を吊り上げる現場最高責任者の苛立ちに怯え、コロコロ転がる赤ペンを見詰めて硬直する。「前回は、不可思議現象に怯える家々全てを解決し切ったとして高視聴率をマークした。勿論、調べてみたら欠陥建築による軋む音だったり、近隣住人の嫌がらせだったり、インチキ霊能者の自演詐欺だった、なんてのまであった。が兎に角、原因は様々でも不可思議現象は収まった。其れは全ての家で。だが番組放送後、不...■彼は誰れ時に魔と再逢032■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢031■

    居間のソファの周りには狩厄(かるやく)知諌誇戸(ちいさこべ)栖(すぐる)がファンデーションを拭って丸めたティッシュが無造作に転がっていた。その一つ一つをバーベキュー用のトングで拾い集めながら無量塔(むらた)は文句を垂れ続けた。「5年前は、キレる妹さんを宥めるお姉さんって絵だったのに。今はまるで真逆だ。妹キレキレのキレ捲りだし、お姉さんヨレヨレの遣られっぱ」ぶつくさ言いながら落ちてるティッシュを追って玄関に向かうプロデューサー。「抑々(そもそも)未来(みき)さんの事は、5年前も『ちゃん』付けで呼んでたんだし、今回も打ち合わせの時から『ちゃん』付けだったんだし、なんで今更本人以外から文句言われなきゃならんのさ」愚痴は留まることを知らない。と、正門に、タクシーが停まった。オープニングを仕切るアナウンサーの到着予定時間...■彼は誰れ時に魔と再逢031■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢030■

    高(たっか)いお塩を買っちゃいました。役立たずのゴーストバスターズから10万円の手付金を返して貰うのも忘れました何(なーん)の成果も挙げてないのに。そんで今度は似非(えせ)征伐士(せいばつし)の催眠術にも掛かっちゃって敵わないって逃げってたのに泥棒に追い銭で10万円払っちゃいましたおバカさんでございますわよ。すいませんね便秘を仕事の所為だと八つ当たりして退職はするわ、そのヒス引き摺って朝のゴミ捨てに協力してくれないってだけで同棲相手を追い出すわ。全部(ぜーんぶ)自分の我儘なのに一人じゃ家賃払いきれなくなって実家に出戻り一部屋(ひとへや)占拠しては姉妹に狭い思いをさせてる、最高に頼りにならなくて最低に迷惑掛けている長女でございますよ。悪うございましたねあーあっと」言葉は三杯食わされたのを認めて謝罪しているが、目は...■彼は誰れ時に魔と再逢030■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢029■

    「じゃあ本物だね。だって火事も嵐も本当だと思ったんでしょ?少なくとも、本物の催眠術師ではあったんだね」胡坐(あぐら)でチョコフレークを口に運ぶ、牢名主の様な七海(ななみ)。「嫌味は止めて。火事も嵐も見せたのは知諌誇戸(ちいさこべ)じゃなくて霊。本物だから、知諌誇戸を恐れた霊が騙術(まやかし)で追い払おうとしたんじゃない」未来は七海が抱えるチョコフレークの箱を奪い、逆さにして口に流し込んだ。「へー?騙術で追い返そうとされたから本物に違いないと?しっかりしてよお姉ちゃん。騙術で追い返されてんでしょ?だったら本物でも霊より弱いってことじゃん」獲られた箱を奪い返すが空だったので姉目掛けて投げ棄てる七海。「知諌誇戸でも倒せない程の大物の厄(やく)だったから、知諌誇戸は辞退したのよ。征伐士(せいばつし)だからって無敵じゃあ...■彼は誰れ時に魔と再逢029■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢028■

    「お姉ちゃん。どうしたの?」未来(みき)を追った七海(ななみ)が、裏庭で姉を発見。スライディングで駆け寄り、全身を弄り痕跡を捜す。「お姉ちゃんしっかりして。何かされたの?」呆けて答えられない未来を七海は揺さぶり続けた。加えられる力に抗うことなく右に左に傾く姉。「お姉ちゃん。こっちを見て!」七海の声に弾かれて未来はやっと我を取り戻し、弾かれた様に立ち上がって叫んだ。「大変。火事よ!」裸足で連れ出された未来は、裸足で家に駆け戻る。「七海119番に電話して。誰か。キッチンが火事です。消火器を」勝手口から髪振り乱して台所に雪崩れ込む。未来の叫び声にスタッフが消火器を引っ掴み集合。ホースを外しレバーを握り安全栓に指を掛ける。しかしノズルは火元を求めて彷徨った。誰も火の手を確認できなかったからだ。発火からまだ僅かな時間しか...■彼は誰れ時に魔と再逢028■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢027■

    「ふっざけんなし。アンタが其の石出してからじゃん何かがこっちに向かって来出したんわ」吹き上げる風に乗り泥水となった雨が未来を襲う。泥だらけで白目しか見えない顔の未来は知諌誇戸(ちいさこべ)の胸倉を掴み壁に押し付けた。「アンタが軽尺酷零(ちんちくりん)な恰好で家ん中歩き回ったから、幽霊が寄って来たんじゃないの?アンタが変的厘(へんてこりん)な呪文唱えたから幽霊がイラついたんじゃないの?アンタが妙竹林(みょうちくりん)な石翳すから幽霊がそんなの効かねえよって暴れてるんじゃないの?アンタ征伐師(せいばつし)なんでしょ?征伐(せいばつ)してよ」叫ぶ未来の口の中は吹き込む泥土で鉄漿宛らに真っ黒だった。「清祓司(せいばつし)も商売ですから端金(はしたがね)では命までは賭けられませんし、狩厄(かるやく)と言えど無敵ではなく万...■彼は誰れ時に魔と再逢027■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢026■

    何かが雑木を踏みしめ近付いてくる。知諌誇戸(ちいさこべ)は未来(みき)の手を取り裏庭へと走った。庭木に隠れ身を潜めて何かを待つ。何かの姿は見えないが足元には其の大きさを示す影があった。振り返ると陽が当たらず苔生した庭の隅が呼吸をするように隆起している。2人は木陰から飛び出し南側の庭に戻った。「私は、ひとつ嘘を吐きました」肩で息をしながら知諌誇戸は辺りを警戒した。「特殊な能力を2つ持っていると言いましたが、あれは嘘です。拍指で厄の所在を知る力は本当ですが」未来を背に庇いながら黒い石を四方に翳す。「退治する力が在るのは私ではなく此の石なんです」寄ってくる何かの気配は石に反応して一時だが遠退いた。「指を鳴らした反射音で対象物の材質や距離を測れる私は、人が見ると変哲のない物でも本質を聴き抜けられることが、あるんです」石...■彼は誰れ時に魔と再逢026■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢025■

    床を踏み鳴らす音が再び迫ってくる。知諌誇戸は懐から握り飯程の黒い石を取り出し、震える手で音のする方角に突き出した。が、踏み鳴らす音は更に激しくなり、体に痺れを感じる程の膨張波が未来を突き抜けた。「きゃあ」未来が吹き飛ばされて廊下を滑ってゆく。「あ、やばい。此れは本物だ。厄とか言ってる場合じゃないぞ。此れは本物の異生物だ」四つん這いで後退しながらも石だけは翳し続ける。しかし振動は治まらない。「なに?なんなのよ?其の、異星物って。宇宙人?最悪の者ってなによ。全部分かんないんですけど」室内に稲光が走り落雷の大音響が衝撃波となって未来を襲った。「異生物ってのは今暴れ回ってる幽霊のことです。国が命名したもので、私は無認可なので勝手に災厄(さいやく)の獣(もの)と呼んでるんですが」壁を這う放電からきな臭い煙が立ち昇る。床か...■彼は誰れ時に魔と再逢025■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢024■

    「私が弱視故(ゆえ)に手にした特殊な能力は2つ。1つは、今見せた反射音で獣(もの)存在を知る能力で此れは訓練の賜物です。が、もう1つの特殊能力は」拍指(かしわし)を打ちながら、ゆっくりキッチンへ向かう。「判りますか?この音の違いが。傾注(けいちゅう)!」反応したかの様に、キッチンの床に何かが落ちた。「何処に居るのか所在さえ掴めれば、厄(やく)を<rb清祓>(せいばつ)できる能力です」声を潜め、七海(ななみ)に囁く。「は?は?役ってなに?征伐?はぁ?」パニックの七海(ななみ)は「は」を連発。その間も知諌誇戸(ちいさこべ)はあらゆる方向に指(ゆび)を打ち、反射から厄を探索する。「傾注!間違いない。台所です。台所に向けた時だけほら音が籠る」知諌誇戸の見えない目がキッチンを睨む。「ビックリした。大声出すなし。何が居(お...■彼は誰れ時に魔と再逢024■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢023■

    「なんか嫌(や)だ。なんか解んないけど物凄く。俺も大概チャラい奴相手ににしてきたけど、なんなんだろ此の湧いてくる不快感?後になにも残る気がしない不毛感?キャラで煙(けむ)に巻いて、都合の良い解釈で誤魔化そうとしてるっぽさ?なんか知らんが兎に角嫌い」駄々子(だだこ)の様に喚き散らす無量塔(むらた)だが、見てる皆も思う事は一緒だった。子供の様な老婆に市販の塩を高値で買わされた後だけに、余計胡散臭く見えたのだろう。アウェイな空気が色濃く漂う。「お気遣いなくお構いなく。何時ものことで慣れてますから」先程まで恭(うやうや)しく翳していた扇で汗を飛ばし、懐からミッフィーの刺繍の入った今治フェイスタオルを出して額を拭った。「気にしてませんって言ったらウソになりますけど。はぁっはぁっはぁっ。あ此れ、笑い声ですさっき言いましたっ...■彼は誰れ時に魔と再逢023■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢022■

    「参ろうぞ。感(いざ)物の怪(もののけ)溜りし巣窟(そうくつ)へ」人差し指と親指を鳴らし拍子を取りながら。局の人間を押し退け機材を押し遣りずんずん進む。「居(お)ろう居(ろ)ろう、災い起こす厄共(やくども)が吹き溜まりて感候(いざそうろう)」リビングを抜け縁側を廻り食堂から台所に辿り着いた処でぴたりと止まった。「程(ほど)な穢(けが)れの厄を数見付けし。ひい、ふう、みい」キッチンの水回りを扇で叩きながら何かを数えていく。「よぉ、いつ、むぅ。あい判り申した。はぁっはぁっはぁっ。あ此れ、笑い声です」大きな振りで扇を閉じ、此れまでの芝居掛かった摺り足と打って変わった親父臭い足取りでどたどたと居間に戻る。「いやいやいや胡散臭いと思ったでしょ。良いんですよそう思ってる顏してる。顏は正直だ。こんな恰好であんな奇声あげてりゃ...■彼は誰れ時に魔と再逢022■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢021■

    「此れは、ご依頼頂いたご家庭には漏れなくお配りさせて頂いている、次回すぐ利用できるクーポン券であります。今回お役に立てなかったのにお渡しするのは心苦しいのですが、もしまた霊的現象が起きました際には、割引させて頂きますのでご笑納ください」がっくり肩を落とし籠氏万は、クーポン券と前金を入れたくしゃくしゃの封筒をテーブルに置くと、重い足取りで機材を引き摺り去っていった。「俺は最初っから嫌な予感がしてたんだよ。なんだよ此の缶空(かんから)は。中国製の偽ゲーム機かよってくらい中スカスカじゃねーかよ」カゴシマン消霊が片付け忘れて行った機材を乱暴に蹴り飛ばす無量塔(むらた)。蓋が開き、中から小さな基盤と小学校の工作で使いそうな電池ボックスが転がり出る。結果、撮影初日に参上したのは、招かれざるオシロ婆さんと有言空振りして退散し...■彼は誰れ時に魔と再逢021■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢020■

    「おかしいですねぇ。昨日は確かにお台所に反応があったんでありますぅ」嫌な汗を拭きながら機材を叩いたり揺すったりして再起動を試みる有限会社カゴシマン消霊の社長。昭和のテレビ調整のノリである。が、特に此れと言った不具合は見つからない。「次の行程としましてはぁ、特定された幽霊を物理的に撃退し報奨金額の交渉する予定だったのでありますがぁ」行程も予定も幽霊の証明が成されてない。幽霊が存在するのか判らないのだ。存在を主張するもセンサーに反応がないのだから説得力は皆無である。此のままでは、何もない家で何も起こらなかったという何だかわからないドキュメンタリーでお蔵入り。怪奇現象は、住人の勘違いか思い込みか狂言だったことに。籠氏万は焦った。前金は受け取っている。何もないのなら返金だ。当然、此処までの経費は自腹になる。収支は赤字、...■彼は誰れ時に魔と再逢020■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢019■

    抑々(そもそも)連れてきたのは籠氏万(かごしまん)なのだから、衣斐女は説明を受ける必要がなかった。行く先々で同じ文言を並べる籠氏万蔓を見て来たのだろう。飽きて縁側から降りて床下を覗き、ダンゴムシを捕まえて遊ぶ。食べ尽くしたポッキーの空き箱はすぐダンゴムシで一杯になった。意義があるのは集める処までで、貯まったものには興味を失くす世代の衣斐女(えひめ)と結衣。そして子供は残酷だ。箱の中で丸まったり広がったりするダンゴムシ達を、節分の福豆宜しく庭の中程にぶちまける。皐月であっても陽が昇ればダンゴムシは堪らない。何とか翌朝までに庭隅の木陰まで逃げ戻れる様、祈るばかりだ。一方、長い説明を終えた籠氏万一行は帰り支度を始めていた。結果は記録を観れば済む話なので、一同は予約していたビジネスホテルに引き上げるのだ。計測できると本...■彼は誰れ時に魔と再逢019■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢018■

    「はい出ました此れは必然です知っているから反応したのではありません。貴方のお家の被災の発生源はお台所に居るという揺るぎない事実を、弊社特許出願中の高性能マッシーンが探知して知らせているのであります」西欧独特の色使いで描かれたブリキの菓子缶に穴を開け、曲げた針金を差し込んだだけの簡単な探知機。電気的反応を示すのだから何かしらの機械が内蔵されているのだろうが、外箱には電源を入れる押し釦が一つのみ。其の配線もセロテープで留めただけで、夏休みの自由研究レベルの仕上がりだ。しかし針金はキッチンに向く度に悲鳴のような警報音を響かせた。幽霊を検知した<吾主莉/rb>(あおもり)は、システムキッチンの天板に上がり羽扇子を振り回して踊り狂った。家に上がる時に脱がなかったピンヒールが、調理するステンレスのワークトップを凹ませる。「...■彼は誰れ時に魔と再逢018■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢017■

    翌朝一番。定数を決めずに募集を掛けたうちの二組目が来訪。一番目は呼んでないのに来た招かれざる人だったけど。「どぉもどぉも。いやいやいやいや遠かった。バス停からお宅までが未舗装路で20分なら先言っといてくださいよぉ。砂利でカートのタイヤ、みぃんな逝かれちゃったであります」薄汚い白衣に身を包んだ栄養が足りて無さそうな男たち。に混じって古臭いバブル時代のボディコン女やバスの中でもパンプアップしてたに違いない汗だくのマッチョ。と小さな女の子。様々な大きさのジュラルミンケースを縛ったハンディカートやスマートキャリィを引き摺っての登場だ。「さぁテキパキ動いてくださいよぉ。吾主莉鈴子(あおもりりんこ)くんはセンサーを起動させて発生源を特定してくれたまえ。月見里武々(やまなしぶどう)くんは測定室を確保。衣斐女御神(えひめみかん...■彼は誰れ時に魔と再逢017■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢016■

    「10万詐欺(さぎ)られた。てかお姉ちゃんなんで払うの?てかお姉ちゃん、アレ誰?」次女は廊下にへたり込んだ。「ママ入院してパパ居なくなって、お金は幾らあっても足りないから、少しでも足しになるならって密着オーケーしたのに。あんなんに10万も盗られてたら其れだけでもう赤字じゃん」次女はもうベソ。「まあまあまあまあ落ち着いて。アレの襲来は想定内ですから。おい誰かコーヒー。今からちゃんと説明しますから、ね」招かれざるオシロの来訪に、段取りが狂ったスタッフ達は右往左往するだけの烏合の衆。「アレはオシロ婆さんと言って2年程前に降って涌いた、此の業界じゃ有名な迷惑婆さんなんすよ」カーディガンの男は、アイコスを口に咥え眉を顰め台本を丸めた。「年寄りで足腰弱ってる癖に的確に問題箇所を目指すわ、年寄りで碌に目が見えない癖に瞬時に問...■彼は誰れ時に魔と再逢016■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢015■

    「だからお祓いに来たんでしょ。訳わかんないこと言わないの。其れと結衣ちゃん、わたしは巫女じゃなくて馬娘(まこ)だから。其処は結衣(ゆい)ちゃんと、ちょっと違うのよね」オシロと呼ばれた老女は、結衣に手を預けてスニーカーを脱いだ。「さ、案内して。お台所よ。お台所に案内してちょーだい。禍(まが)が澱(よど)むのは水の近くって決まってるの」広い三和土に脱ぎ放された靴々を蹴り散らかしてオシロのスニーカーを揃える結衣。南向きの玄関から北側の台所まで貫通する廊下は、テレビ局の機材やケーブルでごった返していた。9尺4枚建の玄関引き戸を左右に開け放ち、その正面を狙って定点カメラが鎮座。廊下にもポールが立てられカメラが設置されている。結衣に手を引かせて入った台所で、羽織っていたフォーエバー21のパステルカラーポンチョストールをAD...■彼は誰れ時に魔と再逢015■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢014■

    「あれ?あれって、結衣(ゆい)じゃん。片っぽあれ結衣だよ。結衣友達連れて来んなし。駄目じゃん今日テレビ来るって言ったっしょ」長女は掌で日差しを遮りながら、近付く二人の素性に目を凝らした。「うわわわ。オシロのお婆ちゃん来た。あの人呼んでないのに来た」此処で初めてベースボールキャップに肩掛けカーディガンの男が口を開いた。「え?え?誰?誰?お婆ちゃん?」次女は口からポッキーを落とし、裸足で三和土に駆け降りた。「今日(おこんち)は」結衣と手を繋いで現れたのは、背格好は結衣と同じ小学1年生に見えるが90近い老婆だった。「あ~居るわね居るわいっぱいだわ。禍膠着(こびりつ)いてるわよ此の家には。良かったわね蔓延(はびこ)る前に私に出会えて。蔓延(まんえん)してからなら100万だけど、今ならお得で10万円よ」老婆はぐるり一同を...■彼は誰れ時に魔と再逢014■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢013■

    「プリベル判んない?プリンスオブペルシャの略だし。タミーナ王女だし。アンタ去年ハロウィンで着てたし」盆地の集落は、四方を囲む山々に阻まれ、テレビ電波はおろかWi-Fi電波も届かない。「あれってペルシャの民族衣装なん?知らんで着てたわ。ちょっとエロいからモテるかなーってノリで」最寄りの駅までバスで10分、そのバスも一時間に多くて2本でバス停までも徒歩10分。大雨が降ると山からの鉄砲水が道路を横切るので運休。止んでも泥土で埋まった道路は復旧に数日を要す。「知っとけし。てかアレ、アタシが貰ったし。なんならアタシもう着てるし」等高線に添って山を一周する国道に貼り付く人家は、お隣さんでも味噌汁が冷める距離。街灯が無いし野生の猪が出るので、そもそも夜は味噌汁を持ったら出歩けない。「女装家も酷かったけど、霊能力者でーすって入...■彼は誰れ時に魔と再逢013■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢012■

    「最後に来るのは…」長女はポッキーを一本咥え、寄り目で枝毛をチェックした。「誰かしら、ね」お通じが悪くなったのは上司が無能だからだと辞表を叩きつけ、返す刀で家事を分担しない同棲相手から合鍵を毟り取り、折半していた家賃食費光熱費の全額負担がキツいからと実家に帰巣し居座った暴れ馬の姉。「最後?」次女は上り框(かまち)を踵で蹴りながら長女のポッキーに手を伸ばした。「最初じゃなくて最後?てか未だ誰も来てねえし」染髪不問という校則に惹かれて受験した高校がメイク禁止であることを入学式に知り一日たりとも登校せずに中退した、我儘を身勝手でコーティングした様な唯我独尊主我主義の妹。「そうよ。最後。大切なのは何時も最後。真打は何時も一番最後に登場するの。5年前もさ、結局解決してくれたのは、一番最後に来た人だった」インスタに上げたコ...■彼は誰れ時に魔と再逢012■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢011■

    髪を高く結った若い店員がスマホ片手に駆けてきて、画面に映し出された金額を差し出す。機能的に短いスカートから覗く眩しいばかりの太腿に、刺さらんばかりの視線を向ける村民2人。「お客さん、お店の前で配ってるチケットってお持ちですか?」息が掛からんばかりに頬を寄せてスマホ画面を見せる店員が、誘っていないとは言い切れない距離で囁いた。「無え。そったらチケットだかは受け取って無え」刃丈太は髪に触れようと伸ばした手を慌てて引っ込めた。「そしたら私、外行ってお客さんの分、貰ってきますよ。ちょっと待っててくださいね」健康的な大腿四頭筋は返事を待たずに店の外へと走って行った。大腿二頭筋を見送りながら、2人は股間を押え前屈んだ。「堪ンねえなあおい。漂うフ、フ、フエロモンが、ピンク色に見えるわ」「なあなあ。キャバクラ奢ってくンなましよ...■彼は誰れ時に魔と再逢011■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢010■

    「したら、物集女の娘っ子が、1人でアレを退治したっちゅう事か?」「したら、物集女の娘っ子が、其の物凄い才持ちっちゅう事か?」元村人2人も震える手で箸を持ちお猪口を叩く。「ンだ。状況がそう物語っとる。三方から3人で囲まにゃあ斃せねえアレを、木刀を手にした一花が、御破代と木刀と己で、詰めたっぺよ」辺りにはもう客は居なかった。カウンターの中で洗いものをする音だけが店内に響く。「したら、もう3人集めンでも、物集女ン娘だけ居れば安泰ってか」「したら、物集女ン娘さえ居れば、村さ帰っても大丈夫ってか」顔を見合わせ呆然とする村人。驚く2人を見比べて刃丈太は悦に入った。「したらしたら五月蠅えっぺ。村はもう廃墟になってっし、土地も家屋も相続放棄してっから戻っても住む家は無えっぺよ」糠喜びに項垂れる2人。奥の座敷の電気が消される。暖...■彼は誰れ時に魔と再逢010■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢009■

    「数えてみれ。あン時、村に才持ちは何人居った?」刃丈太は3本指を突き立てた。「1人は勤め空け間近の御老体ずら。足腰ふらふらで自力では立つ事も出来ね。も1人も覚醒してすぐに大物を斃した疲労で傾眠状態が続いてたずら」話に合わせて指を1本づつ折っていく。「3人目はアレに毒さ吹き掛けられた脚が壊死起こして歩けねかっただ」3本折り終った拳を村人に突き付ける刃丈太。「3人共、自力では出歩けねえ爺さま寝たきり療養中だな」「ンじゃあ、誰がアレを柱ン処(とこ)まで追いやっただか?」刃丈太は遠くの席の空き皿を片付ける店員の生脚を眺めて目を細める。「他に申告ない才持ちが隠れて居たって事が?」「そうだ。でなければ辻褄が合わねえ。アレが食事半ばに柱に惹き寄せられるか?木刀が宙を舞ってアレを斬るか?オカルトかって話だわ」「人の命吸う大蜘蛛...■彼は誰れ時に魔と再逢009■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢008■

    11時を過ぎた大衆酒場は、平日という事もあってだろう空席が目立ってきた。隣の席には刃丈太(はたけだ)が投げた鉄串が転がった其の侭で、座布団に油染みを広げている。「此ン話あ、此処だけの秘密だぞ?守れや?」酔いが回った刃丈太が、村民2人の首を掴み引き寄せた。「寿樹の親な、あれは、忌(い)に噛まれた時点では未だ生きとっとうと」何の話か解らず口を開けた侭、次の言葉を待つ2人。「通夜もやって葬式も出したが、実あ、昏睡状態で何年かは生きとった言う話ぞ」2人は刃丈太を振り払い、尻で後退(あとずさ)った。「嘘扱け。アレに噛まれて死なンだ奴なんざ、此れまで一遍たりとも見た事が無えぞな」「いや。俺はおかしい思うとったンなら。誰も棺ン中見せて貰おてなかったげな」「死ンどらんかったんかい。なら廃村にすっ事も無かったべ?判断ば、早まった...■彼は誰れ時に魔と再逢008■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢007■

    「ほんに酒が過ぎただなや」「ちっとばっか口が滑っただよ」刃丈太に凄まれた村人が、肩を竦め戯(おど)けて見せる。しかしもう1人は関知せずに店員を呼び、呑み切れなかったら持ち帰れる焼酎を注文していた。「何がちっとばっかだ。口にしていい事か悪い事か、もちっと考えてから喋れや」緊張感が全く無い2人を見比べながら刃丈太は噛んで含めて釘を刺した。「ンで?百鬼ン処のチビがどうしたて?」辺りを警戒しながら踏ん反り返り直し、素知らぬ顔で刃丈太が探りを入れる。「いややや。あのチビの才(さい)は、こっちじゃ珍しかろうて思うてよ。動画とかで配信したら稼げっかなあ、なんて」鉄串に噛み付き一息に抜いた肉を頬張り、再度刃丈太は声を荒げた。「ンなこったろうと思うたわ。御前は緘口と言うもンがまるで分かってねえ。何の対価で恩賞を戴けとると思うとン...■彼は誰れ時に魔と再逢007■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢006■

    不満を溜め吐け口を求めて刃丈太宅を訪れる者は後を絶たなかった。刃丈太は不動産や投資で成功し、大邸宅で暮らしていたからだ。今日もアポなく訪ねて来た2人の元村民を、駅前まで追い戻して居酒屋に押し込んだ。「街あ何でも金が要るで。村さ居た時あ欲しいなんて思わんかった物(もん)も、間近で見ると欲しくなるだ此れが」突き出しも未だなテーブルを前に、乾杯も待たずにもう陳情。「たまにはキャバクラでも奢ってけろ。俺等が貰ってる恩賞じゃあ、動画サンプルしか見れねでよ」お品書きに顔を埋め、刃丈太の目も見ずにもう次のお強請り。「馬鹿扱くでねえ。死ぬまで働かねで暮らしていける恩賞を下さるンぞ?もちっと有り難がれや。チヨダには、金額上げてくれる様、頼んでやるし」骨折って交渉してやった優遇に文句垂れる元仲間を、刃丈太は蛇蝎を見る目で疎んだ。連...■彼は誰れ時に魔と再逢006■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢005■

    「ンだどもよ。代々働いて来なンできた俺等さ、町で暮らすってもよお。さあはてなかなか」「刃丈太さん処(とこ)だばはあ、娘っ子が町に嫁いでっし、息子も町の役場で働いてっし、苦労ねえンだろけどさ」「俺なんざ10画以上の漢字、読めねえし書けねだど?仕事なんかはあ何(なん)も務まンね」料理を突き愚痴るだけの村民に業を煮やした刃丈太は、机を叩いて立ち上がった。取り皿が面子の様に引っ繰り返り、醤油が方々に散る。「分がった分がった。したら、生活が出来ればいンだべな?したら、俺がチヨダにそう掛け合ってやる。其れでどうだ?」暫くの沈黙の後(のち)、皆は手に手に箸を取って皿を茶碗を徳利を小さく叩いた。此の村の、賛同を表す相槌だった。「ンだなや。刃丈太さんが頼んでくれンならチヨダも動くべよ。チヨダに助けてもらうべ。此れまで命懸けで御国...■彼は誰れ時に魔と再逢005■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢004■

    「だーかーらー儂は潮時じゃ言うたんじゃい」既に酒が廻り赤ら顔で目の座った刃丈太蛮治(はたけだばんじ)は飲み干した猪口をテーブルに叩きつけた。「止めれ。通夜の席でする話じゃあねえ」皆が目を合わせるのを避けて俯く中、遠くの席から誰かが諫める。夫婦揃って虚血性心疾患で急死した寿樹の両親の通夜振舞いの席。「じゃあ何時(いつ)議すんじゃ?儂は何遍も進言して来たンぞ。誰(だあれ)も耳貸さんかったけンどよ」翌日に葬儀を控える喪主は親族ではない隣家の刃丈太。寿樹の親族は亡くなった両親だけだった。寿樹は此の葬儀で天涯孤独となったのだ。「もう限界だがね。最近で見込みがあるンは、百鬼(なきり)ン家(ち)と物集女(もずめ)ン処だけじゃろも。百鬼ン家は寿樹で最後じゃし、物集女ン処もちっこい娘で終(しま)いじゃし」受付に広げられた芳名帳に...■彼は誰れ時に魔と再逢004■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢003■

    蜘蛛は圧されながら顏を一花に向けた。六つの眼の焦点が一花に合わさる。山の入り口で道を外れ、一花は藪の中へと分け入った。行く手を阻む笹竹を掃いながら、一花は蜘蛛を押し続けた。陽が暮れかけた山間(やまあい)の寒村。其の外れに位置する寿樹の家が、笹に隠れて見えなくなった。裸足の脚や手や顔に葉の縁の鋸歯が当たり、一花の肌は赤く筋を引き血が滲む。其れでも一花は押し続けた。押すを止めたら蜘蛛が反撃してくるから。「力が落ちて来たな。そろそろ限界か。どら。御前を戴く事とするか。御前を喰らわば我は大きく伸びるであろう」蜘蛛が8本の脚を踏ん張る。小さな女の子の体力が尽きる。「独りで勝てると思い上がったか。刀があるから負かせると過信したか。三位(さんみ)揃えず挑む愚かさを悔いて現世を去(い)ね」其れは偶然なのか。幼いながらも近いうち...■彼は誰れ時に魔と再逢003■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢002■

    一花はもう限界だ。斬っても突いても蜘蛛は体液を噴き出すばかりで一向に弱る気配が無い。どうしても蜘蛛を追い払う事は出来ないのだ。「出てって。よっちゃん家(ち)から。今すぐ出てって」自棄となり自暴の果てに一花は蜘蛛を手で押し始めた。六畳間を狭しと鎮座する大きな蜘蛛を未就学児が紅葉の様な手で押す。人を襲う人より大きな蜘蛛を前に竦まず立ち向かい、気味の悪い腹部に触れてでも排除しようという小さな女の子が奇跡を起こした。全長2メートルを超す蜘蛛は自然界には存在しないので其の目方は計れないが、粗雑に想像しても人の非力で動かせる重量ではないだろう。なのに蜘蛛は減り込む掌に悶えながら暗い廊下を玄関へと押し遣られてゆく。斬られ突かれて内臓を打ち撒けても動じなかった大蜘蛛は、幼児に圧されて家から排除された。「あぁ。御前は其の者だった...■彼は誰れ時に魔と再逢002■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢001■

    「貴方は誰?此処で何をしているの?」幼い一花(いちか)が目を凝らす先は、誰とは問うたが人ではないのは見てとれた。玄関から南北に貫通する廊下の突き当りに位置する客間の暗がり。障子戸から射す僅かばかりの陽に浮かび上がる影は人の動く様ではなかった。築百年を悠に越す古民家は、核家族化した都会からは考えられない部屋数と収納を誇る。建坪や建蔽率だけを聞けば羨ましい限りだが、開口部が多く機密性に劣る田舎家の奥座敷は空気が澱むし北側は昼尚暗く住み難い。広さが仇となり、夏は汗を乾かす風が中まで届かず冬は忍び寄る冷気に悩まされる。縁側から遠く陽が届かないが為、長い間使われていなかった最北の応接間に、陰鬱な気配が渦巻く。絨毯を敷きソファを入れてはいたが、もともとは押入れと床の間のある和の居室。閉め切られ開かずの間と化していた洋風和室...■彼は誰れ時に魔と再逢001■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢004■

    「じゃあ解散だ。文句あんめえな?自由になれる分、不自由も再確認すっことになるが、其れでも全滅するよかは良かっぺさ」刃丈太蛮治(はたけだばんじ)の口利きで、村民は新天地へと散って行く。外界との接触は電波だけな隔絶された村落で生まれ育ち、現金に触ったことがない人間が、誘惑溢れる大都会に解き放たれた。読み書きが得意でない者は人足に。料理が出来る者は厨房に。其々が得意としたり興味があった職種に就いた。しかし労働に勤しんだ経験の無い田舎人がいきなり暮らしていける程に稼げる訳もなく、一般では耳にすることはない生活補助制度に庇護される。化け物に襲われ命を落とす危険は無くなったが、激変する価値観に悩まされる様に。都会は刺激的で、今まで画面や紙面でしか見た事がない物が溢れていた。全ては鼻先で匂いだけを嗅がせてくれるだけで、手に入...■彼は誰れ時に魔と再逢004■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢003■

    「だから俺は潮時じゃあ言うたんじゃ」既に酒が廻り赤ら顔で目の座った刃丈太蛮治(はたけだばんじ)が口火を切った。「止めれ。通夜の席でする話じゃあねえ」遠くの席から誰かが諫める。夫婦揃って虚血性心疾患で急死した寿樹の両親の通夜振舞いの席。「じゃあ何時(いつ)話すんじゃ?俺は何遍も進言して来たンぞ。誰(だあれ)も耳貸さんかったけンどよ」翌日に葬儀を控える喪主は、親族ではない隣家の主人。寿樹の親族は亡くなった両親だけだった。寿樹は此の葬儀で天涯孤独となったのだ。「もう限界だがね。最近で見込みがあんのは、百鬼(なきり)ン家(ち)と物集女(もずめ)ン処だけじゃろも。百鬼ン家は寿樹で最後じゃし、物集女ン処のちっこいのンで終(しま)いじゃし」受付に広げられた芳名帳に記帳された住所は全て村のものだ。坊主の読経は録音、使い回されて...■彼は誰れ時に魔と再逢003■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢002■

    蜘蛛は圧されながら顏を一花に向けた。六つの眼の焦点が一花に合わさる。「未だ其の歳に満たない御前如きが我を如何(どう)にか出来るとでも?笑止。疲れて力尽きた処で御前も喰ってやろう」未舗装の砂利道を横切り、一花は蜘蛛を藪の中へと押し出した。行く手を阻む笹竹を掃いながら、一花は蜘蛛を押し続けた。陽が暮れかけた山間(やまあい)の寒村。其の外れに位置する寿樹の家が、笹に隠れて見えなくなった。裸足の脚や手や顔に葉の縁の鋸歯が当たり、一花の肌は赤く筋を引き血が滴る。其れでも一花は押し続けた。押すを止めたら蜘蛛が反撃してくるから。「力が落ちて来たぞ。そろそろ限界か。どら、御前を戴く事としよう。其の者を喰らわば我は大きく伸びるであろう」蜘蛛が8本の脚を踏ん張る。小さな女の子の体力が尽きる。「独りで勝てると己惚れたか。刀があるから...■彼は誰れ時に魔と再逢002■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢001■

    「貴方は誰?此処で何をしているの?」幼い一花(いちか)は目を凝らした。誰とは問うたが、対象は見るからに人ではなかった。核家族化した都会からは考えられない部屋数と収納を誇る築百年の古民家。開口部は多いが奥まった部屋までは陽は届かない。玄関から南北に貫通する廊下の突き当りに位置する客間の暗がりで、其れは妖しく蠢いていた。絨毯を敷きソファを入れてはいたが、もともとは押入れと床の間のある畳の和室。軽自動車くらいある胴体は薄闇に紛れて尚、剛毛に覆われているのが見て取れる。見える側だけでも脚は4本。対称ならば計8本だ。「寿樹(よっちゃん)のパパとママから離れてちょうだい」通(かよ)っていれば年長さんの歳で、幼稚園なら一番お姉さんの一花は、小さな握り拳に力を込めて懇願した。一花の言うパパとママは、近所で幼馴染の百鬼寿樹(なき...■彼は誰れ時に魔と再逢001■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢015■

    「5年前は。キレる妹さんを宥めるお姉さんって絵だったのに、今とは真逆だ。妹キレキレのキレ捲りだし、お姉さんヨレヨレの遣られっぱ」ぶつくさ言いながら玄関に向かうプロデューサー。オープニングを仕切るアナウンサーの到着予定時間だからだ。「抑々(そもそも)未来(みき)さんの事は、5年前も『ちゃん』付けで呼んでたんだし、今回も打ち合わせの時から『ちゃん』付けだったんだし、なんで今更本人以外から文句言われなきゃならんのさ」愚痴は留まることを知らない。と、正門に、タクシーが停まった。運転手の主導で開く後部座席ドアを中から脚でアシストした女子アナがアスファルトの舗装路に仁王立つ。若振る程に歳が往ってる訳でもないのに女性らしさを前面に押し出した、CECILMcBEE(セシルマクビー)のボディラインを綺麗魅せするニットワンピでの登...■彼は誰れ時に魔と再逢015■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢014■

    「はいはいはいはいわかりましたわかりましたアタシはお婆ちゃんに騙されて10万円という高(たっか)いお塩を買わされました。役立たずのゴーストバスターズから10万円の手付金を返して貰うのも忘れてました何(なーん)の成果も挙げてないのに。そんで今度は似非(えせ)征伐士(せいばつし)の催眠術にも掛かっちゃって敵わないって逃げってたのに泥棒に追い銭で10万円払っちゃいましたおバカさんでございますわよ。すいませんね便秘を仕事の所為だと八つ当たりして退職はするわ、そのヒス引き摺って朝のゴミ捨てに協力してくれないってだけで同棲相手を追い出すわ。全部(ぜーんぶ)自分の我儘なのに一人じゃ家賃払いきれなくて実家に出戻り一部屋(ひとへや)占拠しては姉妹に狭い思いをさせてる、最高に頼りにならなくて最低に迷惑掛けている長女でございますよ。...■彼は誰れ時に魔と再逢014■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢013■

    「じゃあ本物だね。だって心霊現象も火事も嵐も本当だと思ったんでしょ?少なくとも、本物の催眠術師ではあったんだね」胡坐(あぐら)でチョコフレークを口に運ぶ、牢名主の様な七海(ななみ)。「嫌味は止めて。火事も嵐も見せたのは知諌誇戸(ちいさこべ)じゃなくて霊。霊が騙術(まやかし)で知諌誇戸(ちいさこべ)を追い払おうとしたのよ」未来(みき)は七海(ななみ)が抱えるチョコフレークの箱を奪い、逆さにして口に流し込んだ。「へー?騙術(まやかし)で追い返そうとされたから本物に違いないと?しっかりしてよお姉ちゃん。騙術(まやかし)で追い返されてんでしょ?だったら本物でも霊より弱いってことじゃん」獲られた箱を奪い返すが空だったので姉目掛けて投げ棄てる七海(ななみ)。「知諌誇戸(ちいさこべ)でも倒せない程の大物の厄(やく)だったから...■彼は誰れ時に魔と再逢013■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢012■

    「お姉ちゃん。どうしたの?」未来(みき)を追って、七海(ななみ)が裏口から飛び出した。「お姉ちゃんしっかりして。何を言われたの?」呆けて答えられない未来(みき)を七海(ななみ)が揺さぶる。「お姉ちゃん。こっちを見て!」七海(ななみ)の声に弾かれて未来(みき)は我を取り戻し、立ち上がって叫んだ。「大変。火事よ!」裸足で連れ出された未来(みき)は、裸足で家に駆け戻る。「七海(ななみ)119番に電話して。誰か。キッチンが火事です。消火器を」勝手口から髪振り乱して台所に雪崩れ込む。未来(みき)の叫び声にスタッフが消火器を引っ掴み集合。ホースを外しレバーを握り安全栓に指を掛ける。しかしノズルは火元を求めて彷徨った。誰も火の手を確認できなかったからだ。発火からまだ僅かな時間しか経っていない。出火場所を速やかに特定し燃焼を早...■彼は誰れ時に魔と再逢012■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢011■

    「あれはヤバい。あれこそは剛(ごう)の厄(やく)です。此れまで無事だったのは何人かの狩厄(かるやく)に護られていたからで、其の人数が減ればバクっと喰われますよ立所(たちどころ)に」突然、耳を劈(つんざ)く摩擦音が、床壁天井を激しく打ち鳴らす音が、意思を伝えようとするかのように轟いた。「きゃああああ」何者かの悲鳴が家じゅうを走り回る。耳を押さえ未来(みき)は廊下に蹲った。「分かんない分かんないかるやくだとかごうのやくだとかばくっとかたちどころとか!」建具が乱暴に開閉する音、家具を引き摺り倒す音、食器類が割れる音が、家全体を軋(きし)ませる。「ヤバい。此れはヤバ過ぎる。此処は危ない兎に角一度此処を出ましょう。説明は外で」知諌誇戸(ちいさこべ)は未来(みき)の手を取り裏庭に走った。陽が当たらず苔生した庭の隅が呼吸をす...■彼は誰れ時に魔と再逢011■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢010■

    「私が弱視故に手に入れた特殊な能力は2つ。1つは、今見せた反射音で物の存在を知る能力で、此れは訓練の賜物ですが、もう1つは」柏指(かしわし)を打ちながら、ゆっくりキッチンへ向かう。「判りますか?この音の違いが。傾注(けいちゅう)!」反応したかの様に、キッチンの床に何かが落ちた。「何処に居るのか所在さえ掴めれば、厄(やく)を清祓(せいばつ)できる能力です」声を潜め、七海(ななみ)に囁く。「は?は?やくってなに?せいばつ?は?」パニックの七海(ななみ)は、「は」の連発。その間も知諌誇戸(ちいさこべ)はあらゆる方向に指(ゆび)を打ち、反射から厄(やく)を探索する。「傾注(けいちゅう)!間違いない。台所です。台所に向けた時だけほら音が籠る」知諌誇戸(ちいさこべ)の見えない目がキッチンを睨む。「ビックリした大声出すなし。...■彼は誰れ時に魔と再逢010■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢009■

    「お気遣いなく。何時ものことですから」先程まで恭(うやうや)しく翳していた扇で汗を飛ばし、懐からミッフィーの刺繍の入った今治フェイスタオルを出して額を拭う。「気にしてませんって言ったらウソになりますけど。はぁっはぁっはぁっ。あ此れ、笑い声です」袴を脱ぎ捨て、立烏帽子(たてえぼし)を帽子掛けに放り、法服を投げ、ステテコ上下になった知諌誇戸(ちいさこべ)。「此れね。楽天で買いました。通販。全部セットで72,000円。お盆の時期は連日依頼が舞い込むから、洗い替えにあと2着あります」舞台演劇で使われる化粧品、三喜(みつよし)のグリースペイントカラーナンバー4のホワイトを、ポンズのコールドクリームで馴染ませる。「其れっぽい恰好しないとね。依頼人が緊張しないんですよ。依頼人がダラけていると、厄(やく)も舐めてくるんで、清祓...■彼は誰れ時に魔と再逢009■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢008■

    「此れは、ご依頼頂いたご家庭には漏れなくお配りさせて頂いている、次回すぐ利用できるクーポン券であります。今回お役に立てなかったのにお渡しするのは心苦しいのですが、もしまた霊的現象が起きました際には、割引させて頂きますのでご笑納ください」がっくり肩を落とし籠氏万(かごしまん)は、クーポン券と前金を入れたくしゃくしゃの封筒をテーブルに置くと、重い足取りで機材を引き摺り去っていった。結果、撮影初日に参上したのは、招かれざるオシロ婆さんと有言空振りして退散した籠氏万(かごしまん)一党の二組だった。翌朝、尻尾を巻いて退散した有限会社カゴシマン消霊と入れ違いに浄衣(じょうえ)姿の男が朝陽(あさひ)を背負い正門に立ち開(はだ)かった。スマホのボリュームを最大にして神楽歌(かぐらうた)を流し、勿体ぶった足取りで玄関を目指す。「...■彼は誰れ時に魔と再逢008■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢007■

    「おかしいですねぇ。昨日は確かにお台所に反応があったんでありますぅ」嫌な汗を拭きながら機材を再起動させたり初期化を試みる有限会社カゴシマン消霊の面々。が、特に此れと言った不具合は見つからない。「次の行程としましてぇ、霊以外の現象、つまり鼠やゴキブリの可能性の排除、物理的な撃退により沈静化し報奨金額の交渉する予定だったのでありますがぁ」行程も予定も霊の証明が成されてない。霊が存在するのか判らない。存在を主張してもセンサーには反応がないのだから裏付けにはなってない。此のままでは、何もない家で何も起こらなかったという何だかわからないドキュメンタリーでお蔵入り。籠氏万(かごしまん)は焦った。前金は受け取っている。何もないのなら返金だ。当然、此処までの経費は自腹になる。収支は赤字、評判もガタ落ち。勿論、此れまでに何もない...■彼は誰れ時に魔と再逢007■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢006■

    「此れは必然です。知っているから反応したのではありません。貴方のお家の問題はお台所にあるという揺るぎない事実を、弊社特許出願中の高性能マッシーンが探知したのであります」霊を検知した吾主莉(あおもり)はテーブルの上に上がり羽扇子を振り回し踊り狂う。針金はキッチンに向く度に悲鳴のような警報が鳴り渡った。「霊の所在は確認出来ました。此れからの作業行程を説明しておきましょう。まず今晩。霊を計測して類別を確認。明朝(みょうちょう)。データから、沈静化に当たって最も適した捕縛方法を弾き出します。明晩(みょうばん)。算出された方法に応じ、必要な罠や薬を仕掛けます。晴れて明後日には霊は捕縛され現象は沈静化、平穏な生活に無事着艦」台所から廊下に掛けてテレビ局が設置したカメラやケーブルの上に更に重ねて、センサーや送信機を設営してい...■彼は誰れ時に魔と再逢006■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢005■

    定数決めずに募集を掛けたうちの二番目が来訪した。一番目は呼んでないのに来た招かれざる人だったけど。「どぉもどぉも。いや遠かった。バス停からお宅までが未舗装路で20分なら先言っといてくださいよぉ。轍(わだち)でカートのタイヤ、みんな逝かれちゃったであります」薄汚い白衣に身を包んだ栄養が足りて無さそうな男たち。に混じって古臭いバブル時代のボディコン女やバスの中でもパンプアップしてたに違いない笑顔のマッチョ。と小さな女の子。様々な大きさのジュラルミンケースを縛ったハンディカートやスマートキャリィを引き摺っている。「さぁテキパキ動いてくださいよ吾主莉(あおもり)鈴子(りんこ)くんは多発地帯の確認。月見里(やまなし)武道(ぶどう)くんは測定室を確保してくれたまえ。衣斐女(えひめ)蜜柑(みかん)ちゃんはぁ、ちょおっと休もう...■彼は誰れ時に魔と再逢005■

  • ■彼は誰れ時に魔と再逢004■

    「10万詐欺(さぎ)られた。てかお姉ちゃんなんで払うの?てかお姉ちゃん、アレ誰?」次女は廊下にへたり込んだ。「ママ入院してパパ居なくなって、お金は幾らあっても足りないから、少しでも足しになるならって出演オーケーしたのに。あんなんに10万も出してたら其れでもう赤字じゃーん」次女はもうベソ。「まあまあまあまあ落ち着いて。アレの襲来は想定内ですから。おい誰かコーヒー。今からちゃんと説明しますから、ね」招かれざるオシロの来訪に、段取りが狂ったスタッフ達は右往左往するだけの烏合の衆。「前回、此処には来ませんでしたが、アレはオシロ婆さんと言って2年程前から降って涌いた此の業界じゃ有名な迷惑婆さんなんですよ」カーディガンの男は、アイコスを口に咥え眉を顰め台本を丸めた。「年寄りで足腰弱ってる癖に的確に問題箇所を目指すわ、年寄り...■彼は誰れ時に魔と再逢004■

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